仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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舞台設定、早速たくさんの応募ありがとうございます。


?+1ー10 浮上した男

 知ってる?

 鏡の中には、こことは違う世界があるの。

 全てが逆さまで、いつも音が響いて、それ以外はとっても静かな世界。

 まるで、全てが静止したような……。

 死の世界。

 それが、私のいる世界。

 そしてこの世界に入る方法は数千回に一回、鏡が割れた瞬間。

 扉が開く。

 そして、そのとても低い確率を当てて、彼は私の前に現れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 ライダーになって四日目。

 まだ四日しか経っていないのかという思いを胸に通学路を歩く。

 学校までは徒歩15分。

 基本的に一人で通学しているのだが、今日は違った。

 大通りの交差点で美玲先輩と出会ったのである。

 

「おはようございます。怪我は大丈夫ですか?」

「おはよう。怪我ならもう平気よ。昨日はプリントをありがとう」

 

 昨日はプリントを美玲先輩に届けに行ったのである。そこで何かあったような気もするが……なにも起きてはいない。思春期が盛り上がるような話題のことなんてなにも起こらなかったのである。

 

「おっす燐! 咲洲先輩もおはようございます!」

 

 背後から急に肩を組んできたのは友人の勝村。

 相変わらず元気、快活だなぁ。

 

「そういや燐。今日も女装……」

「ばっ! その話は極秘だろ!」

 

 勝村の口を塞ぐ。

 この話は極秘ということになっているし美玲先輩に僕が女装していることを知られたくはない。

 

「……女装?」

「あ、あー! んんっ! 美玲先輩は昨日休んだから知りませんよね! 実は文化祭で男装女装コンテストっていうイベントが行われることが決まったんですよ」

「ふぅん……そう。で、燐が女装するの?」

 

 思わず、ずっこけた。

 なんでこの人は分かってしまったのだろうか。

 しかし……。

 

「ぼ、僕なわけないじゃないですか……。女装なんてしても、ねぇ?」

 

「そ、そうそう! それにほら、うちのクラス、男の娘枠はもういるんでそいつになるんじゃないすかね? ははは……」

 

「そう? 化粧とかすればいけそうな顔してるけど」

 

 乃愛さんと同じことを言われた……。

 

「まあ、違うと言うなら違うということにしておきましょう」

 

 ……絶対に、信じてない。

 信じてないぞ、あの顔は。

 とっても分かりにくいけれど、信じてないって顔をしている。

 女装姿、楽しみね。みたいなものも含んだ顔をしているぞ!

 ……なんて会話をしながら歩いていたらもう学校に着いてしまった。時が過ぎるのは早いものだ。

 昇降口で美玲先輩と別れて勝村と一緒に自分達の教室へ。

 さて、今日も一日がんばるぞ。

 

 

 

 

 

 

 教室に入ると、射澄が早速話しかけてきたのだが……。なにやら、意味ありげな笑みを浮かべている。

 嫌な予感しかしない。

 

「おはよう美玲。体調はどうかな?」

「……問題ないわ。それより、本題に入ったらどう?」

「ふふ、君のそういうところは好きだよ。実は文化祭で男装女装コンテストが開催されることになったんだけど……」

 

 私の思っていた本題と違った。

 しかしなにやら重要そうな話なので聞くことにする。

 

「さっき聞いたわ。それがなに?」

「美玲。クラスの代表として、男装してね」

「……は?」

 

 脳が、理解を拒んだ。

 

「だから、美玲が2ーDの男装代表だって言ってるんだよ」

「なんで」

「美玲は美人系だし背も高いからいいだろうと言ったらクラスのみんなが、じゃあそれで! となったんだよ。クラスの総意だよ、美玲。昨日休んだ自身を呪うんだね」

 

 ……射澄!

 いや、クラスの奴等め。

 個人の意思を尊重しないというのか、民主主義はどこへいった。

 

「まあ、美玲が昨日休まずに来ていたとしてもこうなっていたと思うけどね。ところで、制服はどうする?」

「制服?」

「だから、男装用の制服だよ。誰かに借りなきゃいけないんだけど……」

 

 そこで言葉を区切った射澄は私の耳に口を寄せた。

 

「愛しの後輩君から借りるかい?」

「ばっ!? そんなこと出来るわけないでしょう!?」

 

 思わず大声を出してしまい、周囲の視線を集めてしまった。

 だけど燐から制服を借りるなんて……。

 

「あ、美玲ちゃ~ん。おはよ~。男装、頑張ってね~」

 

 ……文化祭実行委員の花島さんがいつも通りのゆるさでそう話しかけてきた。

 出るとは一言も言っていないのに……。

 というか欠席していた人物にやらせればいいみたいなことにならないように話し合いを進行するのが彼女の仕事のはずなのに、流されていないだろうか。

 

「ここだけの話なんだけど、このコンテストは総合と男装、女装でそれぞれ一位を決めるらしい。それで男装、女装で一位になった同士でランウェイを歩くなんてこともする予定だそうだよ」

「そこら辺の女装した男と一緒に歩く趣味はないわ」

 

 まあ、そうだろうねと射澄は肩を竦める。

 さて、私がやりたくないと声を上げればきっと現状を打破出来るはず。流石に本人の知らないところで決められたものなのでもう一回決め直そうという展開に持っていくことは容易い。

 まずは文化祭実行委員の花島さんに話を……。

 

「美玲ちゃ~ん。お客さ~ん」

 

 花島さんに話しかけようと思ったら逆に話しかけられた。

 私にお客さん?

 教室の扉の前にいる花島さんの元へ行くと、廊下に立っていたのは金髪で、左目を前髪で隠すようにしている彼女は……北津喜。

 テニス部のエースが私に何の用だというのか。

 

「すまないね呼び出して。少し内密に話がしたいから来てくれないか?」

「……何の用?」

 

 私には、彼女から呼び出される理由が分からなかった。

 新聞部の活動で去年、取材したことがあった程度の仲である彼女が内密に話したいこと……。

 まさか、彼女もライダー?

 

「……新聞部のことで、少々」

 

 新聞部?

 思わず拍子抜けしてしまった。

 勝手に警戒したこちらが悪いのだが、それにしても本当に用件が分からない。

 ……取り敢えず、彼女に着いていくしかないようだ。

 

 

 

 

 彼女について歩いていくとやって来たのは屋上……。

 確か立ち入り禁止のはずなのだけど、構わず北さんは屋上へと侵入した。

 しょうがないので私も朝から校則を破ることにする。

 少々、夏の日差しを残した太陽光が眩しい。

 あまり長居はしたくない場所だ。

 

「それで、新聞部のことで用って言うのは?」

 

 単刀直入に聞き出す。

 朝のHRの時間だってあるのだから手っ取り早く終わらせたい。

 

「ああ……。実は昨日、新聞部の子と出会ったのだが……雷に打たれたとは正にこのことを言うのだろう。私は、一目で恋に堕ちてしまったんだ。御剣燐という少女にッ!」

「……は?」

 

 は?

 駄目だ、今朝は私の脳が理解を拒むような情報が多すぎる。

 一日学校を休んだくらいでこんなにも目まぐるしく状況や環境というものは変わるだろうか?

 とりあえず、落ち着け。

 冷静に状況を整理しよう。

 

・北さんは昨日、燐に出会った。

・そして一目惚れした。

・御剣燐という少女に。

 

 ……少女?

 いや、確かに中性的な顔付きだけど少女と見間違うほどじゃない。

 まだあどけないというか幼いというか、男の子といったような顔をしている。

 それが燐である。

 取り敢えず、推測してみる。

 

・北さんが出会ったのは燐ではないという可能性。

 例えば、燐の名を騙る女子生徒がいた。

 しかし、動機が分からないのでこれは無さそう。

 仮にこの学校に「ミツルギ リン」という女子生徒がいたとしても新聞部の「ミツルギ リン」は燐一人なのでこれもない。

 というわけで次の可能性。

 

・北さんが出会ったのは燐本人であるという可能性。

 前述した通り、燐はまだ男らしいというほどの顔付きや身体付きはしていない。このことで北さんが誤解してしまったということもあるかもしれない。しかし、基本的に制服で過ごすのだから制服で男子だと一発で分かるはず……。

 いや、まて。

 燐が男子の制服ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 普段ならそんなことは絶対にありえないだろうが、それを可能とする事がある。

 それは、男装女装コンテスト。

 恐らく燐は1ーAの代表として女装するのだろう。

 女装すると決まって、試しに女子の制服を着させられていたらどうだろうか。

 女装した状態で、燐は北さんと接触してしまった。

 そして、北さんは女装した燐に一目惚れして……ん?ということは北さんはそっちの人なのか……。いや、今はそれはいい。

 他人の趣味嗜好には口を出さないことにしているのだ。

 話が逸れたが、これが一番あり得る線だ。

 

「……その子、容姿はどんな感じだったかしら?」

「長く、艶のある綺麗な黒髪で目はぱっちりとしていて、あの目で見られたら……お、思い出しただけで胸が苦しい……」

 

 長くて綺麗な黒髪……。

 恐らく、ウィッグを被っていたのだろう。

 あとメイクもしていたかもしれない。

 それなら北さんを一目惚れさせるほどの美少女が出来上がるかもしれない。

 ……それにしても、そんなに可愛いのか。燐の女装は。

 この時、さっきの射澄の言っていたことを思い出した。

 男装、女装それぞれの一位がランウェイを歩く……。

 北さんを一目惚れさせるほどの女装をする燐ならもしかしたら女装部門で優勝するかもしれない。

 そうだと、したら……。

 

「お願いだ咲洲さん! 私にあの子を紹介してくれないだろうかッ!!!」

 

 私にすがり付く北さん。

 そこまでなのか……。

 もし、燐が優勝したらどこぞの誰とも知らない男装した女子生徒と一緒にランウェイを歩いて……。

 

「あの二人お似合いじゃない?」

「相性良さそう」

「ユー達、もう付き合っちゃいなよ」

 

 みたいな妙な雰囲気が場内を包んで、意識しあった二人はそのまま……。

 こんなことが、許されてたまるものか。

 燐は、私のものだ。

 燐の隣は、私の場所だ。

 だから……。

 

「ごめんなさい。それは出来ないわ」

「……どうしてだい?」

「あの子は、私のものよ」

 

 きっぱりと、言い放った。

 燐は渡さないという確固たる意志を私は彼女に示した。

 

「……そう、か」

 

 恋はここで破れてしまったという表情をする北さん。

 この失恋を糧に強くなってほしい……などと勝者の余裕に耽っていると、北さんは驚くようなことを言い出した。

 

「つまり君は私の同志、ということかな?」

「は?」

 

 今日、何度目か分からない「は?」が出た。

 この人は一体何を言っているのだろう……。

 

「やはり燐ちゃんの魅力は私だけに留まらず、氷の女の異名を持つ君までも夢中にさせていたとは! あぁ……独占しようとするなんて間違っている! 燐ちゃんの魅力はもっと学校に、いや世間に、いや世界に知らしめなければならないッ! というわけで燐ちゃんファンクラブの同士としてこれからよろしくッ! それじゃあ、HRの時間だから失礼するよ!」

「え、ちょ、えぇ……」

 

 ……まるで、嵐のようだ。

 そして、人の話を聞かないタイプ。

 私の苦手なタイプである。

 ひとまず、彼女のことは置いて……私はあることを決意した。

 

 

 

「あ、美玲ちゃん。北さんとのお話どうだった?」

「えぇ、少しね。それより、男装の話なんだけれど……」

「うん? あ、やっぱり勝手に決められて嫌だよね。もう一回話し合お……」

「いえ、そうじゃないの」

「? どうかしたの?」

「私が出るわ。そして、2ーD(男装のみ)を優勝させる」

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み。

 お弁当を早めに食べて、片付ける。

 そして、教室から出ようとして呼び止められる。

 

「美也~。どこ行くの~?」

「図書室!」

 

 そう、ゆっくり友達と話ながら食べたいお弁当を頑張って早食いして向かう先は図書室。

 まだ昼休みが始まってそんなに経っていないので図書室には生徒の姿は少ない。

 しかし、そんな図書室に目当ての人物はいた。

 図書室の番人こと、神前射澄さんである。

 その異名の通り、今も読書の真っ最中。

 本人にとって楽しい読書の時間を邪魔するようだけど、話しかける。

 

「こんにちは、先輩」

「……お団子君か。何の用?」

 

 お団子君って……。

 多分、髪型でつけたあだ名だな?

 まあいいや。

 この人は変人だから変なあだ名をつけるのだろう。

 それよりも本題だ本題。

 

「いえ、折角同盟を結んだので何かあった時に協力し合えるように図書室にいようかと思いまして」

「なるほど、確かにいい考えかもね。取り敢えず、そこ座ったら」

 

 座るように促されたので、隣に座る。

 何を読んでいるのか気になったけれど、射澄さんは本を閉じてしまい内容は分からなかった。

 

「それで、それだけじゃないでしょ? ここに来た理由は」

「……はい」

 

 流石、頭がいい人は察しもいい。

 自分から話題を切り出すよりは精神的にも楽なので甘えることにする。

 

「あの、私。この戦いを止めたいと思ってるんです」

「うん。それで?」

「それで、その……協力してもらえないかなって」

 

 私の言葉を聞くと、射澄さんは低く唸った。

 そして、少しの間を置いて口を開いた。

 

「協力っていうと、どう協力したらいいのかな?」

「それは……一緒に戦いはやめましょうって他の人を説得したりとか……」

「なるほど、つまりは『戦いを止めよう党、影守美也。影守美也でございます。みなさん、戦いはやめましょう』……みたいに君のウグイス嬢にでもなればいいのかい?」

「そうじゃ……そうじゃ、ないですけど……」

 

 あながち、間違ってもいなかった。

 とにかく言葉で説得しようというやり方なら、選挙カーのウグイス嬢と似たようなものだろう。

 

「君は、どうやって戦いを止める気?」

「それは、相手は同じ人間なんですから話せばきっと分かると思うんです。だから説得して……」

「それで果たして応じるかな?」

 

 ……それは、困難だろう。

 だけど、戦うよりはいいはずだ。

 

「私が思うに、一番手っ取り早い方法は他のライダーを倒して君が最後の一人になること。そうすれば戦いは終わるよ」

 

 茶化したような言い方で、射澄さんは言った。

 

「それじゃあ意味がありません! 第一それは戦いを止めるじゃなくて戦いを終わらせるって言うんです!」

「図書室ではお静かに。……誰が聞いているとも分からないからね。もちろん今のは冗談のつもりで言ったんだけど、戦いを止める方法はまだあるよ」

 

 今度は真面目な声音だった。

 顔も真剣そうで、信用出来そうだった。

 

「よく、子供が親からゲームを終わらせるように言うけど、なかなか子供はゲームを終わらせないなんてことあるよね?」

「まあ、そうですね。よく聞く話だとは思いますけど……それがどうしたっていうんですか?」

「それでだ、言い付けを守らずゲームをする子供に対して親はどうすると思う?」

「叱ると思います」

「うんうん叱るだろうね。……それでも止めなかったら?」

 

 それでも止めなかったら……。

 うーん……。

 正直な話、ゲームをしてこなかったので分からない。

 これまで剣道一筋だったし、ゲームで怒られるという経験がない。

 それを読み取ったのか射澄さんは結論を話し始めた。

 

「それでもゲームを止めなかったらね、親はゲームの電源を抜くという暴挙に出るんだ。そうすれば、ゲームは強制終了だろう?」

 

 なるほど。

 強制的にゲームを終わらせるのか……。

 

「ともすればだよ。君がやるべきはライダーバトルというゲームを止めない子供を叱るのではなく、強制的にライダーバトルそのものを終わらせるということ。つまり、この場合でいうゲーム機……ミラーワールドそのものを閉じること。だと私は思うよ」

 

 ……目から鱗とはこのことかと理解した。

 私にはミラーワールドそのものをどうにかしようという考えがなかった。

 だけど、どうすればミラーワールドを閉じるなんてことが出来るのだろう?

 

「まあ、ミラーワールド。鏡の世界なんて大層なものだ、閉じるとかじゃなく、最早世界を壊すって考えた方がいいかもね」

「世界を、壊す……」

「ライダーバトルなんかに参加するくらいだ。大半の連中がこのゲームにすがっていると見ていいだろう。そんなところにゲームそのものを強制終了させる。なんて知られたらライダー総出で襲いかかってくるかもしれないね。……それでも、やるかい?」

 

 射澄さんは私を試した。

 大多数を敵に回してでも、自分のやるべきことを貫けるのかと。

 

「やります。私はこれ以上……この戦いで失くなる命を出したくないんです」

 

 射澄さんを真っ直ぐ見つめて言った。

 これ以上、彼女のような犠牲を出したくない。

 死んだら、誰かが悲しむ。

 私は、誰も悲しませたくない。

 

「本気だね。私も、ミラーワールドというものに興味があった。あんな異界がどうして存在するのか? あれはなんなのか? 興味は尽きない……。私の知り合いにその手のオカルトに詳しい人物がいる。放課後、会いに行ってみる?」

 

 早速、話が動いてしまった。

 そのことがすごく嬉しくて、私は感情が込み上げてきて……。

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

 場所も憚らず、大きな声を出してしまった。

 場所も憚らず。

 

「ふふ、元気だね。それはそうとして……図書室では、お静かに」

 

 ……私は、顔が熱くなった。

 

 

 

 

 

 今日も女装特訓を終えて、部活で図書委員への取材を敢行。射澄さんがいるかなと思ったけれど珍しく帰ったらしい。

 取材自体は図書委員長に行ってつつがなく終了した。

 そして昨日約束した通り、鏡華さんの家でライダーのことについて話し合う。

 美玲先輩は用事があるらしく来なかった。

 射澄さんと美也さんもなにやら用事があるとか。

 というわけで二人きりなのだが、別に変なことはない。話す内容もライダーのことについて。

 特に……黒ツルギのことである。

 

「黒ツルギは強いんですよね。燐君よりも……」

「うん。僕よりも、というか他のライダーとは格が違うと思う」

 

 出された麦茶に手をつける。

 正直、黒ツルギと戦った時のことを思い出すと今でも生きた心地がしない。

 

「兄さんは、そういう荒事とは縁遠い人でした。身体もあまり強くなかったので毎年風邪をひくぐらいです」

「だけど鏡華さんは黒ツルギをお兄さんだと思っている。そうでしょ?」

「……はい。だけど、本当のところは分からないんです。ただ、兄さんのようなというか、兄さんを感じるというか……」

 

 前も言っていたとおり、確証はないということだろう。

 申し訳なさそうにする彼女を落ち着かせて、話を戻す。

 

「まあ、お兄さんかどうかは僕が確認するとして…お兄さんのこと、教えて?お兄さんのこと知ってれば本当に黒ツルギがお兄さんかどうか確認出来るでしょ?」

「そう、ですね。じゃあ、兄さんの部屋を案内します。そこで話しましょう」

 

 鏡華さんにお兄さんの部屋を案内されて、部屋に入ると……本だらけであった。

 壁一面本棚に覆われて、本棚だけでは足りず床に積み重ねられた本達が摩天楼……というとまるでビル街のようだが、僕が親指ほど小さくなれば間違いなく摩天楼のように見えるだろう。

 

「難しい本ばかり」

 

 なんたら理論だとか英語で書かれた本などなど。鏡華さんのお兄さんは頭が良かったんだろう。

 

「兄さんはとても頭が良かったんです。勉強が大好きで私もよく勉強を見てもらっていました」

 

 懐かしむような顔で話す鏡華さん。左手で埃がかった本の表紙を撫でて……。

 その顔から、お兄さんのことが好きなんだなということが伝わってくる。

 うちの妹とは大違いというのは話が逸れるのでやめる。

 

「ん? これ……」

 

 床に積み重なった本の中で、ここにある本達とは毛色の違う本があった。

 タイトルは……「異界への行き方」? 

 なんだか、とても胡散臭いが他にも積み重なった本を見ていけばやけにオカルトチックな内容の本ばかり。

 科学的な本ばかりだったというのに、一体どういう風の吹き回しでこんな本を読むようになったのか。

 頭を回しながら本を捲っていると二つ折りにされたメモ用紙が床に落ちた。

 

「なんだこれ?」

 

 メモを拾って、開いて見るとそこには書きなぐられた文字でこう書かれていた。

 

『鏡の中の世界 ミラーワールド』

 

「ミラーワールド……。まさか、ライダーバトルに兄さんが関係して……」

「まだ関係してたとは限らないよ。ミラーワールドを見つけて、単に謎を究明しようとしていたのかも……」

 

 だとしても……。

 普通の人にはミラーワールドは認識出来ない。

 デッキを持たない限りは無理……いや、違う。

 ここにいるじゃないか、デッキを持たなくてもミラーワールドを認識出来る人物が。

 鏡華さん……。

 鏡華さんのお兄さんなら鏡華さんのようにミラーワールドを認識出来る……かもしれない。

 そういえば、ずっと鏡華さんのお兄さん、鏡華さんのお兄さんって言ってるな。

 名前をまだ知らないんだった。

 聞いたって問題はないはずだ。

 

「そういえば、鏡華さんのお兄さんの名前は?」

「え? 兄の名前ですか?」

 

 あれ?教えていませんでしたっけ?といったリアクションを取る鏡華さん。

 結構、鏡華さんも抜けてるところあるよな。

 

「まだ聞いてなかったからね。脳内じゃずっと鏡華さんのお兄さん、鏡華さんのお兄さんって呼んでたし」

「そ、そうでしたか! すいません、てっきりもう教えていたものだと思って……」

 

 焦る鏡華さん。

 胸に手をおいて、ほっと息をついてリラックスしてから僕に兄の名前を教えた。

 

「士郎。私の兄の名前は宮原士郎です」

 

 

 

 

 

 

 射澄さんの案内でやって来たのは聖山図書館。市内で一番大きな図書館でカフェや本屋なんかも併設されているため勉強に利用したり暇潰しで利用する人も多い場所である。

 図書室の番人なら図書館だって好物だろう。

 背の高い本棚と本棚の間を通り、図書館の端に来るとなにやら本を積み上げて読み耽っている女性が。

 大きな丸眼鏡をかけた、茶髪を適当に結っている女性。

 

「彼女だよ」

 

 隣の射澄さんが呟いた。

 なるほど、雰囲気は射澄さんに似ている。

 聖山図書館版射澄さんと言ったところか。

 

「こんばんは、涙さん」

 

 読者に耽る彼女に臆することなく話しかける射澄さん。

 そして、話しかけられた当人はうんともすんとも言わない。

 読書に集中し過ぎて、聞こえていないのだろうか?

 

「向かいに座れってさ」

「えっ」

 

 彼女はなんにも言わなかったはずだ。

 もしかして……本好き同士テレパシーで会話しているとか?

 謎のまま、射澄さんにならって彼女の向かい側に座る。

 相変わらず彼女は本に目を向けたままだ。

 しかし、射澄さんは気にせず話しかける。

 

「私の後輩が鏡について知りたいらしいんです。鏡に関しての話題って、なにかあります?」

 

 当然、返事は帰ってくるはずもなく……。

 

「古来より鏡は神聖なものとして崇められてきたわ。三種の神器の八咫之鏡なんかが有名。それに、風水では良い気も悪い気も跳ね返す最強のアイテムだったりする」

 

 本から目を離さずに答えた。

 それも早口で。

 ……なんなの、この人。

 

「最近噂の鏡の中の騎士の話はどう考える?」

 

 再び質問。

 そして、彼女は答える。

 

「比較的新しい話だけど、鏡の中の世界は物語の中ではよく登場するもの。特に鏡の国のアリスなんかが一番有名ね。それがもしフィクションではなく現実のものだとすれば、見てみたいものだけど」

 

 そこまで言って、彼女は本から目を離した。

 こうして正面から見ると意外と若く、二十代前半だと思われる。

 

「それにしても、鏡の中ってその都市伝説以外にもなにか話題なの? 前にも私に鏡について聞きに来た人がいたけど」

 

 私達以外にも聞きにきた人がいたなんて。

 想像もしていなかった。

 

「へぇ。それも10代の女子かい?」

 

 射澄さんの質問は恐らく、自分達と同じようなことを考えているライダーが来たのではという推測からだろう。

 しかし、彼女は首を横に振った。

 

「来たのは男。歳は私と同じくらい。私の話題についていける数少ない人物だから覚えているわ」

「……一応、名前を教えてもらってもいいかな」

「名前は、宮原士郎。痩せっぽちの、神経質そうな男だったよ」

「宮原、士郎……」

 

 別々の場所で、ひとつの名前が繋がった。

 浮かび上がった新たな謎。

 そして……。

 

 聖山高校 二階東階段。

 

 女子生徒が一人、階段を降りていた。

 夕闇に沈む校舎、早く帰ろうと階段を下りる。

 そんな彼女を映す、踊り場に設置された鏡が奇妙な音を発しながら、鏡面が揺らめいた。

 そして、鏡の中から巨大な触手のようなものが現れ女子生徒の背中を勢いよく突き飛ばした。

 

「きゃあぁぁぁ!!!」

 

 突然の出来事に何も出来なかった女子生徒は階段を転げ落ちていき、廊下に蹲った。

 

「おい! 君、大丈夫か!? 誰か! 誰かいないか!」

 

 悲鳴を聞いて駆け付けた中年の男性教諭が女子生徒の応急処置をする。続々と人が集まり、女子生徒は担架に乗せられ保健室へと運ばれていった。

 そして、その様子を鏡の中から覗く一人の赤い騎士……。

 ひとしきり見物すると、踵を返して去るライダー。

 静かに歩くライダーであったが、まるで堪えきれないとでもいう風に笑い声が漏れ、遂には堪えることなどせずに大声で笑い始め……。

 ミラーワールドに、少女の笑い声が木霊した。




次回 仮面ライダーツルギ

「お母さん、演劇部のスターだったのよッ!」

「またその話?」

「文化祭の劇の主役らしい」

「兄さんはそんな人じゃありません!」

願いが、叫びをあげている────。

ADVENTCARD ARCHIVE
SWORD VENT(仮面ライダーグリム)
グランリッパー 2000AP

仮面ライダーグリムが契約するワニ型モンスター=グランゲーターの上顎と下顎を模したチェーンソーの双剣。
リーチは短いが軽量で取り回しに優れるためグリムが主に使用する武装。
チェーンソーのためもちろん刃は稼動し、敵を斬り、粉砕する。

目に映るもの全てを噛み砕かん。
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