仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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「ただいまー」

 

 言いながら玄関を開けるとキッチンの方から「おかえり~」という母さんの声が。

 そしてこの匂いは、カレーか。夏野菜カレーがいいなぁなんて思いながら靴を脱ごうとしたが、父さんの靴があるのを見つけたので今日一番遅く帰ってきた僕が鍵をかけて戸締まりよし。

 廊下を歩いてキッチンに向かえば、リビングでは美香がテレビのバラエティーをソファで寝ながら見ている。まったく腹出して……もう少し女の子らしくいれないものなのか。

 

「遅かったな」

「ちょっと、部活でね」

 

 カレーを頬張る父さんの言葉にそう返した。

 流石にライダーのことは言えない。まあ、言っても信じてもらえそうにないが。

 

「お弁当出して、着替えて手洗ってきなさい」

「はーい」

 

 母さんに言われた通りにいつも通り、弁当箱をシンクに出して水に浸けておく。

 あとは部屋に戻って着替えて、手を洗って……。

 

「いただきます」

 

 ようやく、夕飯にありつける。

 辛すぎず、それでいて箸……じゃない。スプーンが進むような味付けが舌を刺激する。

 毎日美味しいご飯をありがとうございますという感謝の気持ちを胸にカレーに舌鼓を打っていると母さんが話しかけてきた。

 

「もう文化祭の準備で大忙しでしょう? あー懐かしいわねぇ。お母さん、演劇部のスターだったのよッ!」

 

 漫画だったら大袈裟な擬音がつきそうな勢いで母さんが言い放ったが、その話は……。

 

「またその話? もう何回聞かされてると思ってるの」

 

 僕がつっこむ前に、リビングでテレビを見ていた美香がツッコミを入れた。

 

「なによ。事実なんだからいいでしょ?」

 

 開き直る母さん。

 しかし。

 

「なに言ってるんだ。お前がいた頃のスターと言えば藤上今日子だろう」

 

 父さんまで母さんにツッコミを入れた。

 しかし、今の言葉は気になる。

 今まで母さんは自称スターだったけれど、まさか父さんの口から本当のスターの名前が出るなんて。

 

「え!? じゃあお母さんずっと嘘言ってたわけ!?」

「え、いや、ほら、今日子さんがいなくなってからのという意味で……ね? お父さん?」

 

 父さんに伺いをたてる母さん。

 しかし…。

 

「お前、万年脇役だったろう。とてもスターとは言えんな」

「主役でもなかったの!?それでスターとか言ってたんだ……。うわぁ……」

 

 衝撃の事実が暴露される母さん。

 そういえば、かつて演劇部のスターだったって話はこれまで父さんの前ではしていなかったはず。  

 ……なるほど。大方、当時のことを知る父さんがいたら嘘がバレるから父さんの前では言わなかったんだな。

 しかし、流石に父さんと美香からツッコミやら罵倒やらを受ける母さんが少々可哀想なので息子一人ぐらいは庇ってあげるか。

 

「まあまあ。脇役も大事だよ、主役という華を咲かせるための大事な土なんだから」

「そうよ! 主役一人だけでは舞台は出来ないんだから! みんなで作っていくものなのよ! もう流石、私の息子。分かってるわ~。お父さんや美香と違って優しいんだから」

「嘘をついた、お前が悪い」

「そうだそうだ!」

 

 むう、これでもやめないか。

 こういう時は話題を変えるのに尽きる。

 

「それより、そのキョウコさんって?」

「え? 知らないの? 聖高の生徒なのに?」

 

 まるで知ってて当然のことを知らないの?とでも言いたげな母さんだが…。

 今の口ぶりだと聖山高校の人間なら知ってるべき人物のようだ。

 しかし学校に関する事ならいろんな情報が入ってくる新聞部に所属してる僕が知らないなんて……。いや、知らないことはたくさんあるけれど。

 

「知らないのも無理はないだろう。亡くなったのは燐がまだ小学校に入ったばかりの頃じゃなかったか?」

「そうねぇ、それくらいだったわね。なら仕方ないか。今日子さんは演劇部の先輩よ。とっても綺麗で、お芝居が本当に上手かったわ。みんな憧れの先輩で、高校卒業したらすぐにスカウトされて一気に女優として人気になったんだけど……すぐに辞めちゃってね。燐が小学校に入ったくらいの頃に火事で亡くなったのよ」

 

 へえ……。

 まさか、聖高のOGにそんな人がいただなんて。

  

「うわぁ! すっごい美人じゃん! 見てよこれ!」

 

 美香がスマホで検索した画像を見せてくるが、すごい、美人だった。整っているという言葉がこんなに似合う人はいないだろう。

 しかし、どうにも僕には薄気味悪く感じた。

 整い過ぎているせいだろうか?まるで人形のような……。

 それでいて、どこかで見たことあるような顔だ。

 

「ああ、そうか」

 

 それに気付いた瞬間、思わず声が出た。

 そうだ、この顔は左右対称なのだ。

 いや、人間の顔は左右対称と言えばそうなのだが完璧な左右対称ではない。

 人間の美醜はこの左右対称さも重要な部分なのだが、藤上今日子は完璧な左右対称と言ってもいいのではないだろうか?

 まるで、鏡に映したような……。

 鏡……。いや、少々敏感になりすぎているようだ。

 まあ、世の中にはこれくらいの美人がいたっていいはず。

 

「あ、そういえば今日子さんで思い出したんだけどね。校長室の前におっきな鏡、あるでしょ?」

 

 校長室の前には確かに大きな鏡がある。

 いつだかの卒業生達が送ったものだとかなんとか。

 結構古そうな見た目だったけど、母さんが生徒だった頃からあったのか……。

 

「ああ、あるけど。それがどうかしたの?」

「文化祭の最終日、文化祭の閉会式をやってる時にあの鏡の前にいた二人は結ばれるのよ! 知ってた?」

 

 いや、知らない。

 それにしたって……。

 

「そんな迷信、今時信じないでしょ」

 

 また美香に先を越された。

 うん。今時流行りそうにない迷信だとは思う。

 

「はぁ……。これだから最近の子は。それに迷信じゃなくて本当なんだから」

「? 本当ってどういうこと?」

「だから、実際にそれで結ばれた人がいるのよ」

「どこに」

「ここに」

 

 ……は?

 

「もう察しが悪いわね~。お母さんとお父さんのことよ」

 

「「ええぇぇぇぇぇ!?!?!」」

 

 美香と一緒に驚いた。

 驚きのあまり、脳が回らない。

 いや、そんな……。

 母さんならやりそうだけど、堅物の父さんがそんな迷信に踊らされて…。

 

「言っておくが、俺は知らなかったぞ。母さんに無理矢理連れ出されたんだ」

「お母さん、お父さんを騙して……」

「あのね美香。あなたも女なら分かるでしょうけど、恋はね、攻めて攻めて攻めまくるものなのよ」

 

 だけど迷信……。

 まあ、嘘から出たまことというやつか。

 それにしても。

 

「今日子さんで思い出したんだけどって言ってたけど、さっきの話のどこにも今日子さん出てきてないよ」

「ああ、その噂を教えてくれたのが今日子さんだったのよ」

 

 なるほど、そういうことか。

 

「なあ、前から気になっていたんだが、それは本当に噂話だったのか?」

「もうお父さんったら。いくら私達が噂通りに結ばれたからって……」

 

 照れる母さん。

 母さんは父さん大好きなのである。

 夫婦仲がいいことは良きことである。

 

「いや、そうじゃなくてな。本当にそんな噂話があったのか? 俺はそんな話さっぱり聞かなかったぞ」

「そういえば、さっきも知らないって父さん言ってたね」

「ああ。母さんと付き合い始めてから初めて聞いたんだ」

「お父さん、剣道一筋だったからね。興味なければ聞くこともなかったんでしょ」

「新聞部の友達だっていたからそういう話があったら聞かされていてもおかしくないんだがなぁ」

 

 うーん……。

 こうなると考えられるのは……。

 

「あんまりメジャーな話じゃなかったとか?」

「確かに……私も今日子さんから教えてもらうまで知らなかったし。みんな噂を知ってたら他にも何人かやってそうだし……」

「単純に信じて実行したのがお母さんだけだったっていう可能性もあるけどね」

「美香? お母さんのこと馬鹿にしてない?」

「してないよ~……あ! 私、課題やらなきゃ。部屋にいるね~」

「こら! 美香、待ちなさい!」

 

 リビングから出ていった美香を母さんは追いかけていった。

 相変わらず騒がしいなぁなんて思いながら味噌汁を飲む……。 

 

「熱っ!!!」

 

 あちち……。別に猫舌ってわけじゃないけど熱すぎだって母さん。いっつも熱くし過ぎるんだからもう。

 そしてこの味噌汁をどうして父さんは涼しい顔で飲めるのか。

 とにかく舌を冷やすために水を飲もうとキッチンへと早足で向かう。急いでコップを棚から取り出して水を注いで飲むと自然と「あぁ……」という声が出た。

 我ながらおっさん臭いな、美香のことを言えないぞ。

 反省反省とテーブルに戻るとリビングのソファに置いたスマホが震えている。

 どうやら、アプリの通話のようだが……。 

 画面を見れば、部長である。

 どうしたというのだろうか?

 

「もしもし。部長、なにかあったんですか?」

『燐! ヤバいぞ、事件だよ事件! マジもんの!』

 

 電話越しの声の大きさに思わず驚いて、スマホを耳から離した。

 しかしすぐに通話に戻る。

 

「事件、ですか……?」

 

『おう、演劇部の三年が階段から転げ落ちたんだってよ。全治二ヶ月。しかもその三年なんだが……文化祭の劇の主役らしい』

 

 それは…なんとも不運な……。

 ん?

 ちょっと待て。

 階段から転げ落ちたなら事故ではないだろうか?

 事件というなら被害者と加害者がいるはずだし……。

 

「部長。事件って言い方はつまり……」

『察しがいいな。俺のダチからの情報なんだけどよ、その三年は病院に運ばれてすぐに意識を取り戻したらしいんだが……誰かに突き飛ばされたって言ってるらしい』

 

 なるほど。 

 それは確かに事件と言えるが…。

 

『燐、お前に演劇部は任せてたが少し保留しろ。文化祭一ヶ月前に主役が大怪我なんて、演劇部からすれば文化祭に出展出来るかどうかの死活問題だ。取材なんてしてる場合じゃない』

「そうですね。演劇部への取材は明日の予定でしたけどそんな場合じゃないでしょうし……」

『ああ、頼んだぞ』

 

 それじゃあという言葉を最後に通話は終わった。

 それにしても…誰かに突き飛ばされた、か……。

 

「何かあったのか?」

 

 父さんが味噌汁のおかわりをよそいながら訊ねた。

 

「うん……。演劇部の人が階段から落ちて全治二ヶ月だって」

「ほう」

 

 相槌を打った父さんはその場で立ちながら味噌汁を啜った。

 相変わらず、並々と盛るから少しの揺れで味噌汁が溢れてしまいそうだ。

 

「しかもその人、文化祭でやる劇の主役だったからこのままじゃ文化祭間に合わないかもってことで部長が取材はストップだって」

「お前が演劇部の取材に行く予定だったのか?」

「うん、そうだけど」

「新聞部的にはむしろスクープじゃないのか?」

 

 出た。

 新聞部のことを誤解してる人だ。

 

「あのね、うちの部はそういう普通の新聞みたいなことはしないの! 楽しい話題とかそういうのを取り上げるのであって、こういう本当の事件とかはやらないって決まりになってるんだから」

 

 俺達は学校新聞を書いているのであって、マスコミではない。

 というのが部長の言葉。

 そして、新聞部のモットーである。

 

「なるほどな。学生の領分はしっかり守っているようで安心した。そういうのに首を突っ込むとろくな目に合わないのは分かるだろう?」

 

 父さんの言う通りである。

 こういう話題に学生が食い付くのはよくない。

 事件なら警察が介入するだろうし、僕らは何もせずいつも通りの日常を送ればいいのだ。

 というわけで僕もいつも通りの日常を送るために夕食を再開しよう。

 味噌汁も、ちょうどよく冷めた頃合いだろう。

 

 

 

 

 

 昼休みに、美玲先輩達と図書室で昨日あったことを話した。

 鏡華さんのお兄さん、宮原士郎についてだ。

 そして驚くべきことに射澄さんと美也さんも昨日、宮原士郎という名前に辿り着いたらしい。

 

「とにかく、分かったことは宮原さんのお兄さん。宮原士郎がミラーワールドのことを調べていたということね」

 

「そう、ですね……。けど、なんで兄さんが…」

 

 うーむ……。

 謎は深まるばかりで議論は進まない。

 しかし、ここで美玲先輩が一石を投じた。

 

「宮原士郎が全ての黒幕。ということは考えられないかしら」

「……美玲先輩。それは、どういうことですか?」

「言った通りよ。宮原士郎がライダーバトルを仕組んだ。そして、私達を戦わせている」

 

 それは流石に……と反論しようとする前に、鏡華さんが勢いよく立ち上がった。

 

「兄さんはそんな人じゃありません!」

 

 鏡華さんの叫びが、図書室に響いた。

 

「図書室では、お静かに」

「すいません……」

 

 射澄さんに咎められた鏡華さんが、俯きながら力が抜けたように席に座った。

 気持ちは分かる。

 自分の家族が、殺し合いを主導しているなんて言われても納得出来るはずがない。

 

「美玲も、家族を目の前にしてそういうことを言うもんじゃない」

 

 喧嘩両成敗といった風に美玲先輩も咎める射澄さん。

 しかし、美玲先輩はそういうことを気にするタイプではない。

 

「いずれにせよ、あなたのお兄さんがミラーワールドに関係している。それに、あなたとアリスの関係性も気になるところよ」

「……それは、確かに気になるところだけど」

 

 美也さんが鏡華さんの顔を覗き込みながら言った。

 鏡華さんとアリスは瓜二つどころか鏡に映った鏡華さんなのではないかと思うほど似ている。

 いや、まったくもって同じだ。

 ミラーワールドにはモンスター以外、生物は存在しないというのにアリスだけはミラーワールドに存在している人物。

 いや、人であるかも怪しい。

 彼女もまたモンスターなのかもしれない。

 そして、モンスターだとしたら何故鏡華さんの姿を象ったのか。

 謎が謎を呼んでいる。

 もっと情報を集めないとなにも判断出来ないだろう。

 

「……とにかく、まだまだ情報は集めないといけないということだ」

「そうですね……。じゃあ五人で頑張りましょう!」

 

 美也さんがえいえいおー!と気合いを入れるが…。

 

「勝手に数に入れないでもらえるかしら」

「え……。なんでですか! 御剣君の仲間じゃないんですか!」

「私は燐とは戦わない。それだけよ。私はあなた達みたいに戦いを止めようだなんて思っていないから、仲間扱いしないで。それじゃあ」

「美玲先輩!」

 

 美玲先輩は振り向くことなく図書室から去ってしまった。そうだった、美玲先輩は願いのために戦っているんだった。

 なら、戦いを止めようとするならいずれぶつかる時が来てしまうのだろう。

 美玲先輩は僕と戦うつもりはないと言っていたけれど、本当に戦わずに済むのだろうか。

 僕は、美玲先輩と戦えるのだろうか。

 美玲先輩に取り残された図書室で独り、そんな考えを頭で巡らせていた。

 

 

 

 

 放課後。

 部室に顔だけ出して、悩む。

 いや、悩む必要はないのだろうけど悩んでしまうのだ。

 何故なら、やることがないからである。

 他の部への取材は来週の予定だし、生徒会の分の記事は昨夜のうちに書き上げて推敲も終わり部長へ提出済み。

 課題も特にないので、本当にやることがないのである。

 部室に顔を出しはしたが、部長も特に回せる仕事がないとのことで暇である。

 ちなみに、そういう部長も暇そうである。

 

「今日はどこにも行かないんですか?」

 

 僕の前の席に座っていた鏡華さんが訊ねてきた。

 

「うん。なにもやることないからね」

「そうですか……。じゃあ、女装特訓の続きを……!」

「やりません」

「そうですか……」

 

 シュンとする鏡華さん。

 鏡華さんはどうにも僕の女装を楽しんでいるようなのだ。

 言っておくがいくら鏡華さんとはいえ、頼まれてもプライベートで女装はしないぞ。

 するなら、最低限に留めたいのだ。

 

「しっかし、演劇部も大変だな。よりによって主役が大怪我だ。早速、主役になれなかった奴がやったとか噂がたってやがる」

「まあ、そう思われてもしょうがないですよね。演劇部の人なら主役やりたい人が多いでしょうし。それに、女子が多いところですからね……」

「ああ、そうだな……」

 

 こういうと色々と顰蹙を買いそうだが、女子が集まるとドロドロするというかなんというか。

 女の嫉妬は恐ろしいというか……。

 実際、演劇部の水面下で行われている派閥争いがどうのこうのという話を前に聞いたことがある。

 恐ろしや、恐ろしや……と、脳内で身震いしているとなにやら廊下からものすごい足音が。

 走ってこちらに近付いてきているようだが……。

 そして足音が最も近付いてきた瞬間。ガラッと勢いよく地学室、つまり我等が部室の扉が開かれた。

 

「ここ!? 新聞部の部室はッ!?」

 

 思わぬ大声に耳を塞いだ。

 彼女は、演劇部の脚本家兼演出家兼監督兼部長の大河内靖子。

 慌てた様子だがどうしたのだろうか?

 大河内さんは僕を見つけると、ずんずんと大股で近付いてきた。

 

「いた! 新聞部一年生の……名前はいいや。なんで取材に来ないの!? 今日の予定だったでしょう!?」

 

 バンっと机を叩きながら僕に詰め寄る大河内さん。

 顔が、近い。

 

「いや、そうでしたけど……。昨日あんなことあってすぐに伺うのもどうかと思って……」

「なにを言ってるの!こんな時だからこそ来てほしいんじゃない! とにかく来て!」

「ちょっ!? そんな引っ張らないでください!制服が千切れます! ちょ! ぶ、部長! 鏡華さん! 助け……」

 

 僕の抵抗虚しく大河内さんに引き摺られ、連れ去られてしまった。

 僕の声は……届いただろうか…?

 

「御剣君!」

「燐! くっそ……俺はこのあと予定があるから……。鏡華さん!」

「……はい! 私が、御剣君を助けます!」

 

 

 

 

 

 

 

 演劇部の部室である視聴覚室に連れ込まれた僕は、大河内さんのありがたい話を長々と聞かされていた。

 おかしい。部室から連れ出されて五分程度しか経っていないのにもう校長先生の話並の長さを感じる。

 それはひとえに大河内さんの早口かつ情報量の多い話のせいなのだが。

 そのせいで僕はものすごくうんざりとしているのだ。

 しかし、ここで救いの手が現れた。

 

「大丈夫ですか! 御剣君!」

「鏡華さん!」

 

 鏡華さんが助けに来てくれた!

 これで僕は解放される。

 しかし、大河内さんは鏡華さんを一度見て、すぐに顔を僕に戻し語り始めた。

 

「というわけで主役が怪我をしてしまうというアクシデントにも関わらずなんとか頑張ってますよということをみんなに伝えてほしいんだよね。こういった事件すらも利用して劇というのは完成していく…。不完全故に完璧ッ! 素晴らしい……素晴らしいぞぉ!!!」

 

 一人で盛り上がる大河内さん。

 しかし、僕は色々と言いたいことがあった。

 

「あの、それは逆効果だと思います」

「……なんだって?」

「怪我をした人をダシにするような記事なんて出したら炎上しますよ。三年生は文化祭で引退ですよね。それに、怪我をしたのは主役を演じる人。余計に火に油を注いでしまいます。演劇部の評判だって悪くなりますよ?」

 

 やめといた方がいいですよ? というのは普通の人なら伝わるはず。

 そう、伝わるはずなのだ。

 普通の人なら。

 しかし、この学校には変な人が集まりやすい。

 

「そんなもの関係ないね。私の作った演劇を見れば、みんな忘れるよ。君が書いた記事のことなんてさ」

 

 こいつ……!

 いや、落ち着け。

 冷静に、冷静に……。

 

「ちょっと待ってください! そんな言い方ないと思います!」

「鏡華さん!?」

 

 キレた。

 僕ではなく、鏡華さんが。

 

「なんだ君。まだいたの?」

「まだいました! そんなことより、御剣君に謝ってください!」

「ああもう鏡華さん! 僕は別に怒ってないから! だから落ち着いて!」

 

 怒る鏡華さんを宥める。

 こんなに怒りっぽかったっけ鏡華さん?

 

「なんで御剣君は怒らないんですか! むしろ一番怒るべきなんですよ!」

 

 怒りの矛先が僕に向いた。

 もうなにがなにやら……。

 

「部長、石田先生が呼んでたよ」

 

 突然、声が響いた。

 視聴覚室の入口を見れば、赤毛が目を引くショートボブの女子生徒がいた。

 

「……ふん」

 

 大河内さんは僕と鏡華さんを一度睨み付けると視聴覚室を去っていった。

 ……嫌われたな。

 まあいいや。

 別に関わり合いになるのは今回ぐらいのものだ。

 それに向こうは三年生。

 あと半年もすれば卒業だ。

 

「見ない顔だね。君は?」

 

 後味悪さを噛み締めていると赤毛の女子生徒が話しかけてきた。

 君は?と聞かれたので名乗る。

 

「新聞部一年の御剣燐です」

「新聞部仮入部中の宮原鏡華です」

「御剣君と宮原さんね。私は演劇部の久遠綾姫(くどうあやめ)。クラスは3ーB。よろしくねっ!」

「よろしくです」

「部長、くせ強いでしょ? 人間性は最悪なんだけど、才能はピカイチだから誰も文句言えないのよね~。ところで新聞部ってことは取材だよね? 真衣のこと聞きにきたの?」

 

 マイ……?

 あ、怪我した生徒の名前がマイさんだったか。

 

「いえ、今日は無理矢理部長さんに連れて来られて……」

「あ~……。ごめんね。うちの部長、本当に人としては最低だから。気にせずにいて?」

「ありがとうございます。……あの、取材とかじゃないんですけど、そのマイさんって容態はどうなんですか?」

「あんまりよくないみたいね~。意識はわりとすぐ戻ったみたいだけど、右足がひどいみたい。それに、誰かに突き飛ばされたって……。まあ、突き飛ばされた時に駆けつけた人は誰もいなかったって言ってるみたいだし気のせいかもね」

 

 ……ほう。

 それは初耳だ。

 突き飛ばされた、という話は聞いていたけど、その場に誰もいなかったというのは新情報だ。

 まあ、逃げたということも考えられるけど。

 頭の中で考えていると、大河内さんが帰ってきた。

 なにやら、納得いってないといったような顔をしている。

 

「靖子、話ってなんだったの?」

「代役の話だよ。主役は加藤でいくことになった」

「そう。ま、順当だね」

 

 なにやら、話が始まってしまったようなので部外者である僕達は退出しよう。

 

「失礼しました」

 

 一礼していくが大河内さんは一瞥することなく、なにやら考え始めたようだ。

 久遠さんは手を小さく振ってくれたけど……。

 あー、なんか疲れた。

 

「とりあえず、部室に帰ろっか」

「そうですね」

 

 鏡華さんと二人、廊下を歩く。  

 ……そういえば、まだお礼を言ってなかった。

 

「ありがとね、助けに来てくれて」

「いえ! むしろ私の方が暴走しちゃって……」

 

 確かに、鏡華さんの方が熱くなっていた。

 なんとも意外な姿だったので印象に残っている。

 

「…なんだか、あの人を見てたら怒りが沸いてきて。おかしいですよね?」

「いや、僕も内心怒ってたし。おかしくないよ」

「そうですか……それはよかったです」

 

 そう言って、にっこりと微笑んだ鏡華さん。

 しかし、あの音が響いたことでその笑顔は消えてしまった。

 

「御剣君……!」

「うん!近いよ……!」

 

 本当は駄目だけど…走る。

 音が一番強いところを探して……。

 

「うわっ!?」

 

 曲がり角を曲がった瞬間、人とぶつかりそうになった。

 そして、その人物というのは美玲先輩で…。

 

「燐……」

「美玲先輩……。すいません、大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫よ。それより早くモンスターを探さないと」

 

 そうだった。

 音は未だに止まない。

 まだモンスターは相手に狙いを定めているだけで、狩りを実行には移していない。

 なんとしても未然に防ぐんだ……!

 

「美玲先輩! この辺りです!」

「そうみたいね……」

 

 走り回ってやって来た昇降口前。

 ここが一番音が強い……。

 どこだ、どこにいる…?

 周りには映るものが多い。

 玄関扉のガラスや階段の踊り場に設置されてる鏡……。

 ……踊り場の鏡?

 その可能性に気付いた瞬間、振り返って階段を見れば女子生徒が一人階段を降りてきていて……。

 

「きゃぁぁぁぁ!!!」

 

 何かに突き飛ばされたように、女子生徒が落下した。

 突き飛ばした時の勢いが強すぎたのか女子生徒は宙を舞う。

 一秒が、一分に引き延ばされたような感覚だった。

 なんとかして、あの女子生徒を助けようと思って……。僕は、女子生徒の下敷きになった。

 

「痛た……大丈夫ですか! あの!」

 

 女子生徒は気絶したのか意識はない。

 呼吸はあるので大丈夫だと思うが…。

 

「御剣君! 大丈夫ですか!」

「僕は大丈夫」

「燐、彼女を保健室に運びなさい。モンスターは私が追うわ」

「分かりました! ……気を付けて」

「ええ。モンスターの相手なら大丈夫よ」

 

 気絶した女子生徒を背負って走る。

 モンスターは美玲先輩に任せればいいけど……。

 この学校にはライダーが多い。

 射澄さんや美也さんが来てくれればいいが、他のライダーが来たら戦闘になってしまうかもしれない。

 いや、なる。

 だから早くこの人を運んで合流しないと……!

 

 

 

 

 

 

 燐が行ったのを見送って、踊り場の鏡に向かってデッキを突き出す。

 腕を胸の前で交差させ、鳥が翼を広げるイメージで腕を広げ……。

 

「変身」

 

 鎧の虚像が舞い、私に重なることで変身は完了。

 左手首を一度掴んでから鏡の中へと入門する。

 ライドシューターを駆り、ミラーワールドに到着すれば校舎は崩れていて……。

 

『ブオォォォォォン!!!!!』

 

 とても、巨大な咆哮だった。

 そして、とても巨大な姿だった。

 その姿はまるで太古の昔に地上を闊歩していたマンモスのようで……。

 仮面の下で、唇を舐めた。

 これを倒せば、ガナーウイングにとってもいい餌となる。

 しばらく餌を与えていなかったからガナーウイングもそろそろ怒り出す頃合いだろう。

 契約モンスターに契約不履行と見なされて食い殺されるなんて間抜けな最期にはなりたくない。

 この獲物は……。

 

【SHOOT VENT】

 

「逃がさない───」




キャラ原案
久遠綾姫 kaiyuu1000000%様
ご協力ありがとうございます。

次回 仮面ライダーツルギ

「瀬那~どこ行くのー?」

「あれ? また会ったね」

「……この前のライダーね」

「あれ?また会ったね」

「ふん……あれが殺し合いだと? お遊戯会の間違いじゃないのか?」

願いが、叫びをあげている────。


ADVENTCARD ARCHIVE
ADVENT(仮面ライダーアイズ)
ガナーウイング 4000AP

咲洲美玲=仮面ライダーアイズと契約している青い鷹型のモンスター。
背中に備わる二門の砲は高速飛行している最中でも命中するほどの精密さを持つ。
アイズの背に合体し、飛行能力を与える。

蒼穹より生まれ、蒼穹を翔る青き翼。
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