仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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お待たせしました!
そして……ライダー募集第2弾開催中です!
詳しくは活動報告へ!!!


?+1ー15 揺らぐもの

「……君は、頂点に立つことが夢だったのか?」

 

 暗い生徒会室。

 この部屋の主たる生徒会長の席に座りこちらに背を向ける『鐵宮武』が、デッキを弄びながら私に語りかける。

 だが、私は彼の問いに答えなかった。

 

「ふむ……無視とは、感心しないな。だが、沈黙は肯定と見なすとも言う。ということはつまり、そういうことなのだろう」

 

 この不遜で、余裕ある態度が私は気に入らなかった。

 なにより、奴の言っていることが全くもってその通りなことが腹立たしい。

 

「佐竹副会長。私は別に君の願いを否定するつもりはないんだ。むしろ、君と私の願いは同じ。志しを同じくする者だ」

「え……」

「私はいずれこの国の頂点に立つ男だ。こんな学校の生徒会長だけに収まる男ではない。そして君の言うライダーバトルにおいてもそうだ。願いを叶えるために最後の一人となるまで戦う。望むところだ。生き残り、叶えてみせようじゃないか。()()()()()()()

 

 私と、君の、願い……?

 

「どういう、こと……?」

 

 訊ねると、鐵宮は立ち上がり力強さを感じる足取りで私へと近づき、私の背後へと立った。

 

「そのままの意味さ。君の願いと私の願いは同じ。ならば、君の分も叶えてあげようじゃないか。……私と共に来い、佐竹副会長」

 

 私の分も、願いを叶えるだと?

 ふざけるな!そんなこと出来るわけがない!

 願いを叶えることが出来るのは一人のみ。

 そもそも、頂点というものは二人も立てないものだ。

 それを、こいつは分かっているのか?

 

「……どうやら、戦いの時間のようだ。この話、考えていてくれたまえ。悪い話ではないがね。危険な戦いは私が行う。君は……情報収集でもしてくれればいい。それでは」

 

 そう言い残し、生徒会室を後にした鐵宮。

 読めない。

 奴の考えが読めない。

 何故、私の願いを叶えるなどと……。

 一人取り残された生徒会室。

 私は、疑問に囲まれ立ち尽くした。

 

 

 

 

 校舎を歩く。

 休日であるが、文化祭まであと三週間ほどに迫った校舎は部活動に励む生徒達で溢れかえっている。

 私の姿を見た生徒達は道を開け、尊敬の眼差しを向ける。

 だが、足りない。

 もっと、もっとだ。私はもっと敬わなければならない。

 こんな学校の生徒会長なんてちんけなものに納まる器ではない。もっと高く、更に強く。

 それこそが、私。

 あの女も利用してこの戦いも利用して。私はこの世界に君臨してみせよう。

 

 鏡へと向かう。

 赤紫色のデッキを鏡へかざし、巻かれたベルトのバックルへとデッキを装填する。

 

「変身」

 

 纏われる、頑健、荘厳な鎧。 

 

【仮面ライダー吼帝】

 

 紫のマントを翻し、異世界へと進軍する。

 震えよ、王の進軍だ───。

 

 

 

 

「こんにちは~!!! ライダーの皆さん! みんなのアイドル! アリスですよ~!!!」

 

 ミラーワールドから聞こえた声。

 思わず反応してしまい、劇の練習を止めてしまった。

 

「ごめんなさい。ちょっと体調が悪くて……」

「大丈夫ですか久遠先輩? 保健室で休んだ方が……」

「うん……。ごめんね? ちょっと休めば大丈夫だと思うから」

 

 そう言って、他の人にも頭を下げて視聴覚室から出た。

 向かう先は保健室などではなく、もちろんミラーワールド。この辺りは校舎でも辺鄙な場所なので生徒はあまり寄り付かない。昇降口から最も遠く、かつ三階の一番端。校舎の最果てとも呼ばれるほどなのだ。そんな場所ではどこでも変身出来る。

 適当に近くの空き教室に入り、デッキを構えた。

 

「変身」

 

 現れる、紅き双角の騎士。

 

【仮面ライダーヘリオス】

 

 暴虐の騎士。

 一連の演劇部員の事故は彼女の仕業によるものだった。

 一度、首を回して息を漏らすと軽い足取りでミラーワールドへと入門した。

 

「は? なにこの数。キモ」

 

 ミラーワールドへ着いて早々、そんな言葉をヘリオスは呟いた。

 三階の窓から飛び降り、ひとまず自身のモンスターの餌とするべくソードベントで召喚した双剣を手に駆け出す。

 ただ斬るだけでモンスターは死んでいく。

 次々と空へ浮き上がるモンスターだったものの光。

 それを餌にするダイナエレファスが次々とその長い鼻で光を掴み捕食していく。

 

「あはは! 大漁大漁!」

 

 双剣を振り回しモンスターを虐殺していくヘリオス。

 正に、暴虐の嵐。

 その勢力を強め、止まることを知らないように思えた。

 しかし、紅い嵐の前に巨大な壁が立ち塞がった。

 

 

 

 

 

 ミラーワールドでは白い人型のモンスター【シアゴースト】の大群が蠢いていた。

 聖山高校の校庭を、いや、町内を埋め尽くすほどの群れ。

 そして、その中央では仮面ライダーヘリオスがシアゴースト相手に暴れ回っている。

 

「雑魚ばかりだな。数を食えば腹の足しにはなるか。なあ、レオキマイラ?」

 

 屋上から地上を俯瞰した吼帝。

 契約モンスター『レオキマイラ』の赤紫の体毛を撫で、ふっと微笑む。

 だが、仮面の下には冷たい、特別目下のことに興味のない鐵宮の瞳があった。

 

「さて、ライダーと戦うのは初めてだが……。見たところ大したことはないな」

 

 ヘリオスをそう評してから、一歩足を進め……自由落下。

 地面のアスファルトを砕き堂々と着地した。

 その音を耳にしたシアゴースト達が一斉に吼帝へと視線を向ける。

 

「モンスター風情が……この私の前に立つな!」

 

 シアゴーストに向け一喝。

 迫るシアゴーストを拳で払いのけ、爆散させていく。

 

「ハッ! 豆腐を殴っているような感覚だ!」

 

 次々とシアゴーストを屠る吼帝。

 凄まじい勢いで群れの中央へと侵攻していく王は一直線に紅い嵐……ヘリオスのもとへ向かう。

 そして、出会う───。

 

「……なに、あんた?」

「仮面ライダー、吼帝」

「その声、あんた男? どうなってんのよ。ライダーバトルは女しかいないって言ってた嘘だったの? 昨日の奴も男だったし。マジ意味分かんない」

「ほう? 私以外にも男がいたか。まあいい。いずれ見えるだろうが今はお前だ。喜べ女。お前は私が屠る最初のライダーだ」

 

 静かに指を差す吼帝。

 邪魔をする者はいない。

 吼帝の威圧感にシアゴーストすら恐れをなしたのである。

 そして、その指の先にあるのは獲物。ヘリオスである。

 

「ふざけるな……!」

 

 吼帝の言葉に憤るヘリオス。

 モンスターそっちのけで吼帝めがけて駆け出し、双剣を振り下ろす。

 だが……。

 

「ガッ……!?」

 

 ヘリオスは地面を転がっていた。

 脳内を驚愕と、痛みが乱雑に駆け回る。

 思考回路は混乱状態に陥っていた。

 

(いま、何をされた……? 奴のカードの効果か? いや、奴はデッキからカードを抜いた素振りも見せなかった……)

 

 そして、再び驚愕する。

 吼帝は、右腕を突きだしていた。

 私は、ただ殴られただけだった……。

 その事実が受け入れがたく、地面を殴りつけてから再び吼帝へと向かう。

 

「何度やっても、同じことだ」

 

 嘲笑を浮かべ、ヘリオスを待ち構える吼帝。

 振り下ろされる剣。

 それを右腕の装甲で防ぐ吼帝は機械のように正確かつ、達人の如くキレのある俊敏さであった。

 

「がら空きッ!!!」

 

 左手に持つ双剣で隙だらけの胴を狙う。

 しかし、剣よりも速い拳がヘリオスの顔面を襲った。

 

「ぐあっ!?」

 

 まるで、弾丸のような左拳。

 よろめいたヘリオスをマシンガンの如き拳の連射が襲う。

 

「フッ! ハッ! ハアッ!!!」

 

 最後に、強力な右ストレートが繰り出される。

 避ける術のないヘリオスの顔面に強力な一撃が刻まれていく。

 

「あああああ!!!!!!」

 

 大きな火花を上げながら、ヘリオスは宙を舞った。

 まだ吼帝の攻撃は止まらない。

 自由落下していくヘリオスに向かって飛び蹴りを繰り出したのだ。

 

「ハアアアアッ!!!」

 

 蹴り飛ばされたヘリオスはモンスターを巻き添えにしながら吹き飛ばされていく。

 そして、倒れたヘリオスに向かい悠々と歩いていく吼帝。

 モンスターの群れの中にぽっかりと開いた大きな道は、まさに王の道。

 彼、吼帝が歩くのに相応しかった。

 

「……くそ、野郎が」

「他愛ない。この程度なのか? ライダーというものは。これでは一瞬のうちに私の夢は叶いそうだ」

 

 倒れたヘリオスの胸を踏みつけ、躙る。

 立ち上がろうにも力の入らないヘリオスはされるがまま苦痛に呻いた。

 

「さて、ここでお前は終わりだ。この学校の者だったんだろうが私と出会ったのが運の尽きと思ってくれよ」

 

 最早、死に体のヘリオスは蹴り転がし、マウントを取った吼帝はその仮面を砕かんと拳を握り締める。

 だが、吼帝はあることを思い出した。

 佐竹日奈子からデッキを奪い取り尋問していた時のこと。

 とあるルールのことを。

 

『メモリアカード……。願いが記録されたカードよ。それを破られたら願いが反転して、その願いが叶うことは二度とない、らしいわ……』

 

「見てみたいものだな、願いの反転というものを」

 

 その言葉を聞いたヘリオスは咄嗟に反撃を試みる。

 だが、もはや彼女にそんな力もなく。また、吼帝がそれを許すはずがなかった。

 吼帝の手がヘリオスの首を掴み上げる。

 そして、ヘリオスの紅いデッキへと手を伸ばし……。

 

「やめ……やめて……」

「なんだ? 途端に雌らしい声を出すようになったな。今更媚びても無駄だぞ雌」

 

 デッキからカードを引き抜く。

 露になるヘリオス【久遠綾姫】のメモリアカード(願い)

 

Violence(暴力)

 

「野蛮な奴だな君は。私の世界に君は必要ない」

 

 ヘリオスを見下ろし、カードへと指をかける。

 

「待っ……待って! お願いだから! 私、あんたのためになんでもするから!」

「くどい」

 

 なんの躊躇いもなく吼帝はメモリアカードを破り捨てた。地面に落ちたカードは風に吹かれ、どこかへ飛んでいき、消滅した。

 

「さて、どうなる?」

 

 メモリアカードを失ったライダーがどうなるかと愉しみにしていた吼帝。

 だが、そこにいたはずのヘリオスの姿はなかった。

 

「……なんだ、どうなるかは見せてはくれないのか。つまらん」

 

 それだけ言い残して、吼帝は去って行った。

 この近辺にいたモンスター『シアゴースト』を全て平らげ、今しがたヘリオスの契約モンスターであったダイナエレファスも仕留めた『レオキマイラ』を侍らせ、ミラーワールドを後にした。

 

 

 そして、一連の出来事を目撃している者がいた。

 仮面ライダー甲賀。

 黒峰樹である。

 クリアーベントを用いて透明化し、一部始終を目撃していた彼女は吼帝の存在に危機感を覚えた。

 

(あれは……流石にヤバいよね。あの赤いライダーには悪いけど様子見に徹して正解だった。乱入してたら私もやられていただろうし……)

 

 思案して、ある結論に辿り着く。

 そしてこの結論を抱えて、ミラーワールドを去った。

 この考えは、自分だけでは実行など出来ない。

 ならば、どうする?と逡巡しながら。

 

 

 

 

「ぜあああッ!!!」

「はあああッ!!!」

 

 モンスターの群れへと斬り込んでいくツルギとグリム。

 白刃を舞わせ、次々と爆炎の華を咲かせていく。

 さながら、彼岸花───。

 

「美玲。前衛は一年生組に任せて私達はまとめて薙ぎ払おう」

「そうね。一体一体相手にしてたらキリがない」

 

 美玲と射澄はそれぞれカードを切る。

 

【SHOOT VENT】

 

【STRIKE VENT】

 

 アイズは弓を手にし矢を番え、ヴァールは籠手を右腕に装着する。

 腰を低く落とし、構えるヴァール。

 

「はぁぁぁ……はあッ!!!」

 

 右腕を突きだし、放つ水流。

 水であるが、圧縮された水は速く、鋭い。

 水流はモンスターを貫通し、果てしない。

 

 アイズは矢を引き絞る。

 背後には契約モンスターである『ガナーウイング』が口に炎を滾らせている。

 そして、放つ。

 青い炎を纏った矢はやがて火の鳥のように大きな翼を広げ、シアゴースト達を焼き焦がしながら翔ぶ。

 

 

 

「流石に斬っていくのは効率悪いか……」

 

 やり方を変えようとグリムはカードを引いた。

 これまで使ってこなかったカードである。というのも使いどころが無かったのだが、今この状況こそあのカードを使うのに相応しいと判断したのだ。

 契約モンスターを模した、鰐の頭部のような籠手にカードを装填する。

 

【TIDAL VENT】

 

 電子音がカードを読み上げると同時に、グリムの足下から水が湧き出てくる。

 水と言っても、濁った茶色い水である。

 それこそ、獰猛な獣が身を潜め獲物を狩るのに絶好な水……。

 そんな水が膝下ほどの深さで周囲に拡がっていく。

 そして立つ、水柱。

 重力に従い落ちていく水滴達。

 水柱の中心にいたのは、巨大なワニ型モンスター『グランゲーター』

 一度に大量のシアゴーストを捕食し、噛み砕く。

 これが初撃。

 食べ終えると、再び暗い水底へと潜航。

 次の獲物達を水底から選定し、狩る。

 

「うちの子、大食らいだから! まだまだいけるよ!」

 

 水飛沫を上げながら、シアゴーストを切り裂いたグリムが叫ぶ。

 それに呼応するようにグランゲーターも咆哮。

 大気は震え、シアゴースト達も震え上がった。

 

 

 

 自分のデッキはこういう大群をまとめて倒せるようなカードを持っていない。

 あるのは剣が三枚、ドラグスラッシャーとあとファイナルベントのみ。

 なんてデッキだと今更ながらに思う。

 しかし文句を言ってもデッキは変えられないので出来ることをやっていくしかない。

 ドラグスラッシャーを頼りに戦ってきたがここは数を減らしていきたい。

 ならば、太刀よりも……。

 

【SWORD VENT】

 

 天から召喚されし、白き大剣。

 

【ドラグバスターソード】

 

 地面に突き刺さった剣を引き抜き、両手で構え、駆ける。

 水飛沫を上げながらモンスターの群れへと突撃。

 この水は、使える。思い切り水を蹴りあげモンスターを怯ませる。モンスターはこのどでかい大剣ばかりを気にして、足を見ていなかった。

 そして、この隙に薙ぎ払う。

 横薙ぎに振るった大剣はその重さを持ってしてモンスターを斬り砕いていく。まとめて薙ぎ払うのに大剣は有効だ。

 しかし、大剣は振りが大きく隙が出来てしまう。

 背後から飛び掛かってくるモンスター。僕はそれに気付いていたが大剣を振るったばかりでどうしようも出来ない。

 だが、どうもしなくていいのである。

 頼れる相棒がいるのだから。

 

 飛び掛かるモンスターを、空からドラグスラッシャーが舞い降りてその翼で切り裂いた。

 

「ナイス!」

 

 褒めるとドラグスラッシャーは再び空へと高く飛び立ち滑空。

 地上のモンスター達を次々と翼で切り裂いていく。

 

「負けてられないな……!?」

 

 ここで気が付いた。

 もう、タイムリミットが近付いていることに。

 身体が、消滅しかかっているのだ。

 

「まだこんなに残っているのに……」

「一回ミラーワールドから出て、また変身して戻ってくれば!」

 

 近くにいた美也さんが提案した。

 そうだ。

 一度出て、また戻ってくれば……。

 

「それを何回続ける? この数、さっきから倒してるはずなのに次々と湧いて出てきてキリがない。こっちの体力がもたないよ。ジリ貧だね」

 

 射澄さんが冷たく、残酷な真実を説いた。

 僕達は何も出来ないのか……?

 

「アリス……あいつは何のためにこんなことを……」

 

 美玲先輩の問いは虚に消えていく。

 誰も答えを持っていないからだ。

 

 ────ふと、身に覚えのない(忘れてはならない)記憶が再生された。

 灰色の世界にいるのは、歳上の男性。顔は見えない。

 そして、僕。

 これは僕だ。

 

『君が人類の守護者。『仮面ライダー』だ』

 

『戦ってくれ……戦えない俺の代わりに……■■を……』

 

『■■を救ってくれ……』

 

 身に覚えはない。

 だけど、この声に従う……いや、違う。

 僕は僕の願いのために……駆け出していた。

 

「燐! 何をッ!?」

 

「うおおおお!!!!!!」

 

 スラッシュバイザーでモンスター達を切り裂く。

 モンスターの群れの中を駆けて、剣が舞う。

 

【FINAL VENT】

 

「ハアァァァッ!!!!!」

 

 駆ける勢いそのままに跳躍。

 ドラグスラッシャーの放つ斬撃をその身に宿し、自身を剣として放つ【スラッシュライダーキック】を見舞った。

 まだ、止まれない。

 止まってはならない。

 

「ぜやぁぁぁ!!!」

 

 スラッシュバイザーを引き抜いて、モンスター達を散らしていく。

 

「燐! 消滅が始まってるのよ! 早くミラーワールドから出ないと……燐! 燐ッ!!!」

 

 手を止めるな。

 剣を振れ、敵を斬れ。

 人類を守護れ。

 それが、『仮面ライダー』という名に与えられた使命なのだから────。

 

 一歩、足を踏み出そうとして足が動かなかった。

 僕という存在の消滅が進行していた。

 いや、大丈夫だ。

 まだ手は動く。

 足の止まった僕にモンスターが群がる。

 とにかく、手を動かせ。

 動かすんだ。

 僕はまだ、戦え……。

 

 

 

 

 

 そして、僕の意識は白く染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 目を開ければ、真上には細長い青空があった。

 見慣れない景色であった。

 私は……。

 さっきまで、ミラーワールドで戦っていて……!

 その事を思い出した瞬間、全身に痛みが走った。

 こんなことになるなら、思い出さなければ良かったのに。

 身体を起き上がらせることも億劫な程に、痛みが鬱陶しい。

 それに、メモリアを破られてしまったことを思い出して腹立たしい。

 メモリアを破られたら願いが反転する……。

 暴力の反転とはなんだ?

 よくよく考えればライダーバトルに参加出来なくなっただけで、別に大したデメリットはないのではないだろうか?

 

「あれ~? どうしたの君? こんなところで寝っ転んじゃって~」

「そんなとこより俺と一緒にベッドで寝ない? なんつって。ギャハハ!」

 

 下品な男達の、下品な笑いがいやに響く。

 なんだ、こいつら。

 こいつらの相手なんてしてる暇はない。

 さっさと立ち去ろう……。

 

「おいおい無視すんなよ……!」

 

 酷く、男は苛立っていた。

 さっきまであんな冗談を飛ばしていたのに。

 ただ無視しただけでそこまで怒りを沸かせるものだろうか?

 

「なんだろうなぁ……お前見てるとイライラしてくるんだよ……!」

「はあ? なにその言いがかり」

 

 そう言った瞬間、頬を殴られた。

 

「ってーな!? こんの……!?」

 

 殴りかえそうとして、異変を感じた。

 腕が、身体が、言うことを聞かない。

 身体が……動かない。

 

「なんだよそんな殴られてえのか!!!」

 

 再び、男の拳が頬を打った。

 尻もちをついた私に男は覆い被さってきて……。

 殴られる。

 ひたすらに、殴られる。

 抵抗しようにも身体が動かなかった。

 なんで。

 なんで。

 なんでなんでなんでなんでなんで。

 そして、気付いた。

 メモリアカードを失ったことで、私の願いが反転してしまった……。

 もう、私は……私は……。

 

 ただ、肉が打ち付けられる音が響く。

 血が飛び散る。

 殴られる者の血と、殴りつける者の血が合わさって四方に飛び跳ねる。

 

 久遠綾姫。

 メモリアカードの破損により、脱落────。

 

 

 

 

 

 

 

 ひどく、遠いようでつい最近だったような気がする。

 ある噂の絶えない廃墟に潜入したのだ。

 春休みも終わりに近く、寒さも少しずつ和らいできたような時期。

 一人で、ずっと気になっていたお化け屋敷と呼ばれる洋館へと足を踏み入れた。

 そこで、出会った。

 一人の少女と……。

 白いワンピースを着た濡羽色の長い髪と、憂いを帯びた大きな瞳を持った……。

 

 ()()()()()()()()()────。

 

「君、は……」

 

 大きな姿見の中にいる少女へと話しかけると、少女は顔を上げた。

 僕の姿を見た少女は大きな瞳を更に見開き驚いているようだった。

 

「私が、見えるの……?」

 

 少女の問いに僕は首を縦に振った。

 とても、信じられないようなことが起こっている。

 僕は、鏡の向こう側の人間と会話をしている……!

 

「あぁ、えっと……僕は燐。御剣燐。新宿御苑の御に剣道の剣で御剣で燐はえっと……原子のリンの漢字表記で……って言われても出てこないよね。あはは……」

 

 我ながらなんてお粗末な自己紹介だろう。

 なんだよ新宿御苑の御って……。

 

「私は……私は────」

 

 

 

 

 彼から取り上げていた記憶を再生する。

 記憶の中の私はとても弱く、駄目な少女だ。

 だけど、今の私は違う。

 今の私は強くて、美しくて、どんなものでも手に入れることが出来る。

 なんだって出来る。

 だって、私は私だから。

 この世界の主とすら言えるのだから。

 なのに……。

 なのに……。

 

「どうして、どうしてそんなになって……。消滅しかけてるのに戦うんですか!? 消滅しちゃったら死んじゃうんですよ!!! また……また……」

 

 また、私に死を見せつけるの?

 嫌だ、嫌だ。

 彼の死なんて見たくない。

 この遊びは終わりだ。

 これは駄目だ。

 彼の中にある忌まわしい『仮面ライダー』の魂が彼を死へと誘うのだ。

 だから、これは終わり。

 ついと伸ばした右腕。

 開かれた右手を、握りしめて……。

 

『終わらせるの?』

 

「ええ。もう皆さん充分楽しんだでしょうから」

 

『私はまだ楽しめてないわよ?』

 

「あなたが楽しむ必要なんて……」

 

『ねえ、何に執着しているの?』

 

「あなたには関係ありません。黙って力を私に授ける。あなたはそれだけの存在なのでしょう?」

 

『そうだったわね。じゃあ、また寝ていましょう。起きたらまた面白いことしましょうね?』

 

 奴との会話に時間を取られた。

 そのせいで、彼は正に消滅しようとしていた。

 彼を助けられるのはもう私しかいない。

 私の持つ権限を使うしかない。

 右手を握りしめる。

 それだけで、彼を救うことが出来るのだ。

 そう……彼のためなら……。

 ミラーワールドに溢れかえっていたモンスター達が消滅する。

 ライダーの皆さんは強制退出。

 最後に、このイベントの終了を告げるアナウンスを添える。

 

「はーい! 皆さんご参加ありがとうございました! ミラーワールドから強制退出されてびっくりしましたか? イベントはこれで終了でーす! 少しは強くなれました? 強くなって、もっともーっと派手に殺し合ってくださいね! それじゃあ皆さんまたいずれ~」  

 

 元気いっぱいに明るくアナウンス。

 これで終わり。

 終わりったら終わり……。 

 

「終わりじゃないでしょう? もっと、もっと命を……願いを集めないと……」

 

「っ……! はあ……はあ……。あれ、私……」

 

 私は……。

 私は……。

 

「私は……アリス。()()()()()()()()()()()

 

 虚空を見据えるその瞳には光はなく、人形のよう。

 そして、少女の背後から白い腕が優しく抱き締めて……。




次回 仮面ライダーツルギ

「……おい、御剣」

「馬鹿なの? ねえ馬鹿なの?」

「家庭科室。今日の部活の準備を少しね」

「……あの赤いライダー、倒されたって」

願いが、叫びをあげている────。


ADVENTCARD ARCHIVE
ADVENT (仮面ライダー吼帝)
レオキマイラ 6000AP

鐵宮武=仮面ライダー吼帝と契約し力を与える紫の体躯の獅子型モンスター。
獅子型ではあるが尻尾は蛇で頭には山羊のような角が生えている。
口から紫の火球を放ち攻撃する。
ミラーワールド最強のモンスターを自負しており、強いモンスターと戦っていた。

我こそが、最強の王。
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