泣いている。
誰かが泣いている。
誰だ……。
誰が泣いている……。
何故泣いている?
誰が泣かせた?
「うっ……ううん……あれ?」
目を覚ますと知らない天井だったとは、物語ではよく使われることだが、まさか現実に自分がそんなことを思うとは全くの想定外だった。
なにやら、夢を見ていた気がしたが……。
とりあえず身体が起こして……。
「燐!」
「か、母さん? なんでいる……」
「もう起きて大丈夫なの? 身体痛いところとかない? 食欲ある? お母さんが分かる? 好きな女優さんの名前言える?」
「ちょ! 何々なんなの!? というかここ……病院? なんで病院!?」
見れば周囲には自分と同じように病床についている人達が……うるさくしてすいません……。
というか。
「なんで病院にいるのさ?」
「覚えてないの? 倒れたのよ、美玲ちゃん達とのデート中に」
倒れたって……。
えーと……僕は確か……。
そうだ!僕はミラーワールドでモンスターの大群と戦って……。それで、どうなったんだろう。
こうして無事ということは無事ということで……って、何を言ってるんだ僕は。
「もうびっくりしちゃったわよ~。私もお父さんも倒れたことなんて一回もないから何かすごい病気なんじゃないかって心配で……」
「いや、お前は一回倒れただろう」
そう言いながら病室に入ってきたのは父さんだった。
けど、今日は確か仕事に行くって……。
「子供が倒れたのに仕事する親がどこにいる」
……そういうこと言われると照れる。
「それより、母さんが一回倒れたって本当?」
「ああ。若い時に遊園地のお化け屋敷でビックリしてな。父さんがおんぶしてお化け屋敷を回ってだな……」
「それはビックリして倒れたってだけで病気じゃないからノーカン!」
母さん……。
「それより、今日一日は検査入院だそうだ。まあ、これといって異常はないから大丈夫だろうと先生も言っていたしゆっくり休んでおけ」
別になんともないのに……。
けどお医者さんが言うなら仕方ない。
とりあえずゆっくり休んでおこう。
月曜日。
昨日無事に退院して今日も元気に登校。
「本当に大丈夫? 無理しちゃ駄目よ?」
「大丈夫だよ。ピンピンしてるからさ。それじゃあ行ってきまーす」
「いってらっしゃい……。本当に大丈夫かしら……」
いつも通りの通学路を歩き、学校へ向かう。
まだ少し暑さが残っているがあとしばらくすればもう秋の風になるだろう。
大通りの交差点まで来れば何人かの聖高の生徒が信号待ちをしていて、その中に美玲先輩を見つけた。
「美玲先輩おはようございます」
元気良く挨拶すると美玲先輩は目を見開いて僕を見ると、「こっちに来なさい」と僕の腕を掴んで何処かへと連れ出して……。
やって来たのはまだ開店前の近くのドラッグストアの駐車場。
こんなところで何をしようというのか。
そして美玲先輩の口から思ってもみなかった言葉が飛び出した。
「馬鹿なの? ねえ馬鹿なの?」
急に、馬鹿なの?と言われた僕の心情を察してほしい。
「僕の何処が馬鹿なんですか」
「決まってるでしょう。あの時、消滅しかかっていたのにモンスターの群れに突っ込んでいって……。急にミラーワールドから締め出されなかったら今頃あなたここにいないのよ! 分かる!?」
珍しく、声を荒げる美玲先輩。
そうか、あのままだったら僕は消滅して死んでいたのか……。
それでも。
例え、この身が朽ちようとも。
人命を守る。
『それが
誰かの言葉が蘇る。
自身に刻まれた言葉を呼び覚ます。
仮面ライダーとは本来、あのような危機にこそ立ち上がるものだと。
今の仮面ライダーの在り方は歪んでいる。
歪めたのは、アリス────。
けれど、それは本当に?
「燐? 大丈夫?」
「え……」
ふと、現実に引き戻された。
今、僕は何を考えていたんだっけ……。
「とにかく、今日も無理をしないことね」
「あ、はい……。そういえば、僕を病院に連れていってくれたのって……」
「燐がミラーワールドから戻ってきて倒れたから、救急車呼んだのよ」
ありがとうございますとお礼を言って、ふと気になってスマホで時間を確認すると……。
「やっば! 遅刻しちゃいますよ!」
「あら、そうなの」
「そうなのじゃないですよー! 急いで学校に行かないと!」
学校へ行こうとした矢先、美玲先輩に引き留められた。
こんなことしてる場合じゃないですよ!
「それもそうね。行きましょう」
そう言って僕を置いて歩き出す美玲先輩。
早く行くわよ?なんて言っているがそもそも美玲先輩が僕を呼び止めたのが遅刻しそうな理由だよな……?
まあ、細かいことはいいか。
美玲先輩のあとを追って、僕も学校へと向かった。
授業は特に問題なく……というと少々語弊がある。
数学と物理の時間は憂鬱だった。
食らいつくので精一杯なので困ること困ること……。
二年生の文理選択は迷うことなく文系を選ぶ。
例え何があろうと文系を選ぶ。
絶対に。
「そうでしたか。私は少し迷ってます。文系も理系もどちらも面白そうなので」
弁当を食べながら鏡華さんとそんな学生らしい会話を弾ませている。
「成績上位者は言うことが違うよ……」
冗談めかして言ったが本心である。
せめてあと少し理系科目に対する理解度みたいなものが高ければこんなに苦労することないのに……。
っと、そろそろ行かないと。
「ごちそうさまでしたっと。よし、定例会議に行くか~」
定例会議とは例の図書室で行っている会議のこと。
勝手に定例会議なんて言い方をしているが……うん。何も間違っていないから大丈夫だろう。
鏡華さんもお弁当を片付けて一緒に図書室に向かう。
ライダーではない鏡華さんではあるが、アリスのことやお兄さんのこともあるので会議には参加する。
本人も関わるなと言われても関わります!なんて啖呵を切ったのでやる気充分。
さて、それじゃあ一緒に図書室へ。
「……おい、御剣」
教室を出ようとしたら、木村から声をかけられた。
木村はバスケ部で背が高い。
中学の時から期待の新星と言われていたルーキー。
今度の新人戦にもレギュラーだとかなんとか。
明るい性格で人気者だが、今の彼は少々イライラしてるというかなんというか……。
「な、なに?」
「ちょっと話があるんだ。時間あるか」
訊ねているようで、僕に言うことを聞くよう強制している。
「鏡華さん先に行ってて。少し、お話してから行くから」
「あ、はい。分かりました……」
先に鏡華さんを図書室に行かせ、木村と二人向かい合う。
周囲からは何やら鏡華さんを巡っての戦いか?なんて声がひそひそと聞こえてきた。
……そういうことか。
「ここじゃ場所が悪い。ついてこい」
ついてこいと言われてついていったらバスケ部の皆さんお揃いでリンチにされるなんてことはないだろうか……。
いや、そこまではないだろう。
男同士腹を割って話合おうじゃないかうん。
そんなこんなで今日の昼休みは色々と大変なことになりそうだ……。
図書室に向かう途中、見知った方と出会いました。
「日下部さん。こんにちは」
「ああ、宮原さん。こんにちは」
この人は日下部伊織さん。
二年生ですが、年齢は18歳。
いろいろと事情があって留年されてしまったとのことですが楽しく学校生活を送っていらっしゃるようです。
「これからどこかに行くの?」
「はい。図書室の方に。日下部さんは?」
「私は家庭科室に。今日の部活の準備を少しね」
日下部さんは調理部に所属していて、よく料理のレシピなんかを教えてもらったりして結構仲が良いのです。
「そういえば、この間教えてもらったぶり大根とっても美味しかったです!」
「そう? なら良かった。また何か教えてほしかったら言ってね」
「ありがとうございます。あ、すいませんお時間取らせてしまって……」
「いいよ。別に大した用でもないからさ」
もう一度お礼を言って、日下部さんと別れてから図書室へと向かう。
もう皆さん集まってる頃合でしょうから急がないといけません。
廊下を走るのはいけないので走らない程度の早足で図書室へ向かって。
「遅れてすいません……あれ? まだ美也さんも来ていないんですか?」
いつもの図書室の奥の席にいたのは咲洲さんと神前さんだけでした。
「そうなんだよ。まあ、別に強制参加ではないからいいのだけれど。本人の都合というのもあるだろうし」
「それより、燐は? 一緒に来なかったの?」
「御剣君はその、同じクラスの木村君から話があるとのことで……」
御剣君の事情を説明すると咲洲さんは呼んでこようかしらと呟いた。
しかし大事なお話のようでしたので邪魔するのはよろしくないかと……。
「ごめんなさい遅れました!」
この元気のいい声は、美也さん。
ですがここは図書室ですので……。ああ、案の定神前さんに怒られてしまいました。
しかし、そんなことより話をまず聞いてと息を整えながら美也さんは言いました。余程大事な用件なのでしょう。
そして、呼吸を整えた美也さんは深刻な面持ちである事実を語ったのです。
「……あの赤いライダー、倒されたって」
今日は4限が体育だったので着替えとかで時間を取られてしまった。
急げ急げとお弁当を平らげて図書室に向かっている最中、声をかけられた。
声の主は、黒峰樹……。
「何か、用?」
少しだけ、敵意の混ざった声になってしまった。
きっとこの間戦ったせい……だけではないと思う。
彼女は、私だから……。
鏡合わせの私だから……。
「そんな怖い顔しないでよ。別に今日は戦おうと思って来たわけじゃない」
声だけでなく今の私は顔も怖いらしい。
顔にそういうのを出さないようにしないと……。
それにしても、 本当に何の用なのだろう?
「あなた達が追ってる赤いライダーなら倒されたよ」
「え……」
「私、見たのよ。赤いライダーが紫のライダーに倒されるところを。メモリアを破られて、何処かに消えてしまったわ」
メモリアを、破られて……。
ちょっと待って。
「なんでそのことを私に……。ううん。なんで私達が追ってるって……」
「戦いは情報戦ってね。私、これでも色々知ってるんだ~。あなた達が知らないライダーとかも含めてね」
樹さんはどうやら本気のようだ。
あの目に偽りはない。
「それで、なんであなたに教えたかだけど、もういないライダーのことなんて気にしても徒労じゃない。倒された敵よりまだいる敵のことについて考えたらっていう親切心」
「へぇ……。親切なんだね。けどもしかしたら私達は次はあなたを狙うかもしれないでしょ」
「ぷっ、なにそれ。戦いを止めるために戦うとか言ってたあなたが私を襲う? 冗談言わないでよ」
……確かに、彼女の言う通りだ。
私から彼女に戦いを仕掛けるなんてことは出来ない。
「まあ、負けた奴のことなんて気にせずやらないと、次やられるのは自分かもしれないんだから。お互い気を付けましょう?」
そう言うと、話はそれだけと樹さんは去っていった。
……とにかく、報告しないと。
ここに来るまでにあったことを報告すると美玲さんと射澄さんは考え込んだ。
「分からないな。どうして私達にわざわざヘリオスが倒されたことを教える? もう既にいないライダーを追わせていれば動きやすいだろうに」
「ヘリオスが本当に倒されたかどうか、信じるに足るとも思えないけれど……」
「さっき、美玲の言っていた話が本当なら信じるに足るんだろうけどね」
美玲さんの言っていた話?
一体、私が来る前にどんな会話をしていたのだろう。
「あの、美玲さんの話って?」
「演劇部の知り合いから聞いたのだけれど、三年の久遠綾姫が大怪我したらしいわ」
「大怪我なら、他の演劇部の人みたいにヘリオスにやられたんじゃ……」
「その大怪我の内容が問題なんだよ」
大怪我の内容?
「……怪我の理由は第三者による暴行、らしいわ。怪我の状態から見てね。それも全身」
暴行……。
それも、全身だなんて……。
「ひどいです……そんな……」
暗い声で鏡華ちゃんが呟いた。
心優しい彼女なら他者の痛みにも寄り添うのだろうが……。
「まあ、仮に彼女がヘリオスなら自業自得だろうけどね。大方、その紫のライダーっていうのにボコボコにされたんだろう。それでメモリアを破られてライダーとしての資格を失った」
現実主義者の射澄さんはそういうことを言う。
しかし、射澄さんがそういうということは、その三年生がヘリオスの可能性が極めて高いということだろう。
「メモリアを破られたらライダーの資格を失うだけじゃない。願いが反転して願いが叶うこともなくなってしまう。だからきっと、私達の想像以上の惨いことになっていたと思うわ……」
深刻な面持ちで美玲さんはそう語った。
メモリアを失くしたらどうなるかはアリスから聞かされている。
メモリアを破損したら、そのメモリアに記された願いは今後叶うことは出来なくなる。
そして、願いが反転してしまう。
「……美玲。その顔は見たのかい? メモリアを破られたライダーがどうなるのか」
「ええ……。まだ、ライダーになったばかりの頃にね……」
表情から、とても惨いということは察せられた。
他者の命を犠牲にしてでも叶えたい願いが叶う可能性はゼロになり、その願いが反転して襲いかかってくるなど、この戦いに参加している多くの人からすればそれはただ負けるよりも恐ろしいことだろう。
「どうして、アリスはそんな酷いことを……」
それは誰もが思っていることだろう。
なぜ、アリスはこんな戦いを仕組んだのか。
なんのために願いを叶えるというのか。
私達にはアリスの目的が全く分からない。
「もうこんな時間か」
射澄さんが図書室の時計を見てそんなことを言ったので釣られて見ると、昼休みの終わりが近付いていた。
「あまり有意義な話し合いにはならなかったわね。燐も来なかったし……」
話し合いが有意義でなかったことより御剣君が来なかったことに腹を立てているような美玲さん。
やっぱりこの人……。
ふふん。
結構可愛いところあるんだな。
「まあ、ライダーである前に私達は学生だからね。色々あるのさ学生には。それじゃあどうする? 放課後に再集合かい?」
「放課後は部活があるし、少し残らなきゃいけないのよ。だから集まるなんてしてたら夜になるわね」
「私も新聞部に仮入部中なので……。あ、あと御剣君も部活とかでちょっと……」
鏡華ちゃんまでそんな……。
「えー。じゃあ射澄さんは?」
「私は大丈夫だよ。ヘリオス対策の必要がないのであれば、宮原士郎について調べようじゃないか」
宮原士郎。
それは、鏡華ちゃんのお兄さんで……。
「すいませんよろしくお願いします。鍵を渡しておくので自由に入ってください。兄の部屋は二階に上がって廊下を左に真っ直ぐ行って突き当たり右の部屋です」
一応、鏡華ちゃんも調べてはいるようだけれど資料の数が多くて部屋のもの全てを探すとなると大変らしい。
それを私達二人、それも一人は本の虫。図書室の番人なんて言われる人がいるのだ。多分役に立つだろう。
「それじゃあ、また。何かあったら連絡するよ」
鏡華ちゃんから鍵を受け取った射澄さんがそう言って昼休みは解散。
宮原士郎のことを調べて何か分かればいいのだけれど……。
校舎裏というのは色々なことが起こる場所である。
しかしそれは創作物の中だけで実際に自分自身に何かそういったイベントが発生するとは思ってもみなかった。
木村の後ろをついて歩いてやって来たが、とりあえずここには僕達しかいないらしい。
しかしここから出あえ出あえと周りを囲まれてしまうかもしれない。
とりあえず何が何やら色々と分からないことが多いので警戒しておく。
一応だが、木村に関して都合の悪い記事を書いたとかそんなことは一切ない。
無意識のうちに何か木村の腸を煮えくりかえすようなことをしていたら話は別だが……。
「……その、話ってなに?」
一応、これから定例会議なので早めに済ませたいと思って僕から切り出した。
すると木村は僕に一歩近付いてきて……。
デカイなぁ……。
その身長を分けてほしいと思う。
なんて暢気に考えている場合ではなく。
「……どうしたら、いい?」
「え?」
「どうしたらいいと思う?」
「いや、だから何を……」
そう聞くと木村はすうと息を吸うと目の前の人に話すには必要十分以上の声量で話した。
「どうしたら宮原とそんな気軽に話せるんだ!!!」
思わず、耳を塞いだ。
運動部はやっぱり大きな声が出るなぁ……。
いやいやそんなことより相手の話したことだ。
「え、えーと? 鏡華さんと気軽に? 話す?」
「ああ」
「そんなの普通に話せばいいじゃないか」
「それが出来たらこんな相談してない!」
それもそうだ。
いや、しかしなぁ。
「別に鏡華さんだって普通の人なんだから普通に話せばいいんだよ。そんなどこかの国の王族とか偉い人とかってわけじゃないんだし」
「それは、そうなんだが……。じゃあ聞くが、御剣は片思いしてる相手に気軽に話しかけられるか?」
それは、うーん。
「まあ、緊張するかなぁ」
「だろう! つまりはそういうことだ」
なるほどなるほど。
「つまり木村。君は僕に恋のキューピッドになってほしいんだな?」
そういうとギクッ!といった感じに身体が強張った木村。
彼も大概分かりやすい人間である。
「な、なあ頼むよ! お願いだ! この通り!」
木村は僕に向かって手を合わせる。
そんな頼まれたって、ねえ?
実は夏休み前に鏡華さんから聞いたのだ。
「恋愛、ですか? そうですね……。今はまだお付き合いとかそういったことは考えていません」
この言葉を聞いた瞬間が最初の失恋。
しかしそれでもと諦めきれずにいたところもあったがあの黒ツルギへの反応を見て二度目の失恋。
そこからはまあそんなに鏡華さんに対して恋心だとか憧れみたいなものは失くなって普通の友達みたいな感じになっていったんだよな。
まあ、そんなもんか。
というわけで木村。
悪いけど今の鏡華さんは黒ツルギにご執心なので諦めて。なんて風には言えずに……。
「あ、あ~……。鏡華さん、恋愛には興味ないって言ってたな~……」
「なに!? 本当か!?」
嘘なんてついていない。本当である。
色々言っていないだけで。
「御剣! お前も宮原さんのこと狙ってるから出任せ言ってるんじゃないだろうなぁ!?」
「本当だよ本当! 夏休み前に、この時期って付き合い始める人多いよねって話になってその時聞いたんだよ」
聖山新聞の記事を読んでの話だったけれど、下心があったのは歪めない。
我ながら小さい男である。
「それより、なんで今になってこんな事言い出したんだよ? それに、僕に頼るようなことする必要もないだろうし」
「……実は、サッカー部のキャプテンの太田さんが文化祭前に宮原に告るって。それならその前に告ろうって思って……」
ほう。
サッカー部キャプテンが鏡華さんのファンというのは部長から聞いて知っていたけど遂に来たか……。
文化祭の前にもカップルが増えるとも聞いたので恐らく文化祭一緒に回ろうぜ的なそういうあれだろう。
あのそこらのアイドル顔負けのルックスを持ってる太田さんだからもしかしたらチャンスがあるかもと思ってしまうが……。
「キャアアア!!!」
唐突に悲鳴が響いた。
それも、近い。
悲鳴が聞こえた方向に向かって駆け出すと……いた!
ちょうど校舎の角のところ、古い倉庫の手前である。
倒れた女子生徒と、それに近づく頭に角を生やした人型のモンスター。
走った勢いでジャンプしてモンスターに蹴りを入れるとモンスターは驚いて校舎の窓ガラスに逃げていった。
モンスターを追う前にまずはこの人を……。
「おい御剣! ……利奈!?」
倒れていた女子生徒は同じクラスの利奈さんだった。
木村は利奈さんに必死に呼び掛けるが目覚めない。
呼吸はしているから大丈夫だと思うが……。
そういえば、木村と利奈さんって小学校からの付き合いって言ってたっけ……。
「木村、利奈さんを保健室に連れて行って」
「ああ……。けど、お前はどうするんだよ」
「走って逃げていく人影を見た。今から追えばまだ間に合うかもしれない」
「……分かった。あんま無茶すんじゃねえぞ」
「ああ!」
利奈さんを担いで走っていく木村を見届けて、窓ガラスに向かってデッキを付きだし、居合のように腕を回す。
「変身!」
デッキをバックルへ装填しツルギへと変身する。
昼休みは残り少ないが、モンスターを野放しには出来ない。
しかし、いつもの耳鳴りはしなかったが……。
それは恐らく、モンスターの狩りが一瞬だったからであろう。
モンスターは待ち伏せ型の狩りをするものが多い。
その待っている時の気配があの音としてデッキを持っているのには聞こえるが、獲物を見つけてから襲うまでが早い場合はこの音が鳴らない時がある。
こういう手合はこちらが気付けないので厄介だ。
あと、音が鳴る場合と言えばモンスターが大物で存在感が強いもの。
ドラグスラッシャーなんかもその部類だが、強いモンスターが近付いている場合なんかも鳴る。
……なんで、こんなことに詳しいのだろう?
まだライダーになって一週間程だというのに……。
いや、考えている場合ではない。
今はモンスターとの戦いに集中である。
ミラーワールドに到着すると、さっきのモンスターは家の屋根を跳び跳ねて移動していた。
それも結構な速さで。
あれに追い付くには骨が折れる。
なので、楽をする。
【ADVENT】
『グオォォォォォ!!!!!』
吼えるドラグスラッシャーの背に飛び乗りモンスターを追跡する。
相手は人型という利点を生かしてちょこまかと逃げ回り、細い路地なんかを活用してくる。
まるでパルクールのようだ。
そういえばあの頭の角は鹿のように見えたので相手は鹿のようなモンスターなのだろう。
だから軽やかに駆け回る。
だが、この先に見えるのは『赤橋』だ。
赤橋は聖山市を流れる一級河川の凪川に架けられた、中央市街地と住宅街を結ぶ橋。
赤橋自体は正式名称でないが赤い橋なのでみんな赤橋と呼ぶ……閑話休題。
とにかく、橋だ。
橋ということは、ここから先は開けた場所になる。
奴のちょこまかとした逃げ方は出来なくなるということだ。
そして、モンスターは案の定橋に出て……。
「今だ、ドラグスラッシャー!」
『ガアァァァァ!!!!』
一気に下降するドラグスラッシャー。
ものすごいスピードと風圧であるが気にせずカードを切る。
【SWORD VENT】
このスピードにも関わらず、剣は追い付いた。
それも、大剣。
ドラグバスターソード。
「ぜあぁぁぁぁぁ!!!!!」
ドラグバスターソードとドラグスラッシャーの翼によるすれ違い様での斬撃により、モンスターは三つに裂かれた。
橋のど真ん中に着地して、ドラグスラッシャーが食事する様子を見届ける。
あのモンスターだったものを食べたドラグスラッシャーは僕の元に舞い降りると褒めろと言っているように胸を張った。
……こいつ、やっぱり他のモンスターとは違うよなぁ。
まあ、いいけど。
首を撫でると目を閉じて気持ち良さそうにしている。
まあ、契約とかそういうんじゃなくてどこかペットのようで僕はいいけど。
そんな風に思っていると、急にドラグスラッシャーが低く唸り始め、姿勢を低くして戦闘態勢に入った。
なんだ、どうしたとドラグスラッシャーが睨む先を見ると……橋の先に、ライダーがいる。
ライダーの視力によって把握したそのライダーは水色の鎧、といっても防御力は低いであろう軽装。
手には槍を携え、何よりその契約モンスターであろう水色の馬。いや、あの角が生えている姿から幻想の生物を連想させる。
ユニコーン────。
伝説の獣に騎乗した騎士がいる。
そして、その騎士は手綱を振るうとユニコーンを走らせこちらに向かってきたのだった。
ドアを開けて教室へと入る。
自分なんかが入るような教室ではない。
しかし、ここに用があるのだ。
「あいつらにあの赤いライダーのこと教えてきたよ。で、次はなにすればいいの」
「ご苦労。あとはまた色々と情報を集めておいてくれたまえ」
「はいはい」
この教室、生徒会室の主である生徒会長。鐵宮に報告し指示を受ける。
あとはもう昼休みも終わりが近いので自分の教室に帰ろうとすると呼び止められた。
まだ何か用があるのか。
「それにしても、まさか私の配下になりたいと言ってくる者がいたとはね。安心したまえ。私が願いを叶えた暁には君の腕を治すことの出来る最高の医者を用意しよう」
「……それ、もう何回も聞いたんだけど」
「そうだったかな? まあともかく今後ともよろしく。そして佐竹副会長。君も黒峰君に負けないように働きたまえよ。でないと、君の願いは叶わないぞ」
「……ええ、分かっています」
そのあと小さく舌打ちしたのが私には聞こえた。
鐵宮には聞こえていたか分からないが聞こえていてもおかしくないだろう。あの男なら。
まさか、あの品行方正な副会長さんが実はこんなだったとは思いもしなかった。
そのことに笑いそうになりながら生徒会室を出て、教室へと戻るその道すがら考える。
この状況は、面白い。
まだあの男の計画の全てを知らされているわけではないが、いま受けている指示から察するに何か大きな事をしようとしているのは確かである。
ひとまずはこの男の指示に従っていよう。
いま一番強いライダーは自分の知る限りこの男だ。
そして、強いだけでなく家の力もある。
ならば、私の腕を治せる医者を用意出来るかもしれない。
奴に従う条件として掲示し奴はそれを飲んだ。
仮にライダーバトルで叶わなくとも、可能性はある。
そのためには、鐵宮を勝たせるか若しくは……。
「アタシが勝つか……」
まだ、どうなるか分からない。
分からないからこそ、自分の身の振り方を考える。
確実に自分の願いを叶えるためのルートを模索する。
だって、絶対に。
この願いを、叶えたいのだから────。
次回 仮面ライダーツルギ
「前よりかは、勘を取り戻したようだな」
「……私も行く」
「天才JKマジシャンふっかーつ!!!」
「仮面ライダーだから。仮面ライダーだから、戦うんだ」
願いが、叫びをあげている────。
ADVENTCARD ARCHIVE
ADVENT(仮面ライダー甲賀)
ステルスニーカー 4000AP
黒峰樹=仮面ライダー甲賀と契約するカエル型モンスター。
深緑の身体のカエル怪人といった風貌で、ピンク色の長い舌と背中に背負った巨大な手裏剣で戦う。
火力は低いが機動力に優れ、宵闇に潜み仕掛ける奇襲の脅威には目を見張るものがある。
闇の中で蠢く気配を感じた時にはもう命はない。
キャラクター原案
日下部伊織 クラストロ様
告知(11/8追記)
ついに仮面ライダーツルギのスピンオフが始動!
第1弾はスティンガーとジャグラー二人と激闘を繰り広げた仮面ライダーレイダー/喜多村遊の物語
闘争を愛し闘争に愛された少女、喜多村遊。仮面ライダーレイダー誕生の物語が明かされる!
仮面ライダーツルギ・スピンオフ/ドキュメント・レイダー(作者マフ30様)
https://syosetu.org/novel/241588/
ぜひ、御一読ください。