仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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?+1ー17 綱渡り

 聖山市中央市街地へと通じる赤橋は深夜、早朝でない限りは交通量も多く、自動車の駆動音が響いている場所である。

 しかしここはミラーワールド。

 鏡の中の世界では、現実世界で動き回る物は反映されない。

 故に、橋上にあるのは純白の騎士と飛竜。

 そして、その騎士に向かって一角獣を駆り、勇ましく突撃する空色の騎士のみである。

 独特な環境音以外が響くことは稀なミラーワールドに小気味よい蹄の音が響き渡っていた。

 

 

 

 猛烈な勢いで迫る、突如現れたライダー。

 当然だが、速い。

 直線を駆けるだけであればライダー共通のマシン。ライドシューターよりも断然速い。

 しかし、直線ならば避けるのは容易い。

 左右どちらかに逃げれば良いだけである、が……。

 何か、嫌な予感がする。 

 ただ突撃してくるだけではない脅威が何かあるはずだ。

 機動力に勝る相手の前に自分がいま持つ大剣は枷でしかない。

 これはとりあえずお役ごめんと柄から手を離す……。

 

「ッ!?」

 

 離そうと弱めた右手に再び力を込めて、大剣を目の前に突き立てた。

 すると、大剣の刃に何かが命中する音が響き、火花が散る。

 銃弾。

 あのユニコーンのモンスターの肩にあるやけに機械的な物。あれが火を噴いたのだ。

 間一髪、大剣を盾代わりに出来たが銃弾の雨は止まない。

 連射に優れるが精度には欠けるようで弾は橋のあちこちに穴を空けていく。

 そのせいで下手に動けない。動いたら狙ってもいなかった弾に当たってしまうかもしれない。

 ドラグスラッシャーも銃弾を回避するために空へと上がってしまった。

 

 そして、銃弾の雨が上がると今度はとても重い一撃が大剣を打った。

 一角獣の前肢が僕を大剣ごと踏みつけようともの凄い力強さで圧してくる。

 なんとか堪えようと大剣に身体を密着させて抵抗する。

 

「くっ……そぉぉぉ!!!」

 

 気合いを入れるがどうにもならない。

 パワーでは圧倒的にモンスターの方が上なのだから。

 しかし、僕にだって頼りになる相棒はいるのだ。

 

「ドラグスラッシャー!」

 

『ゴオォォォォ!!!』

 

 僕の叫びに応じてドラグスラッシャーは上空から急降下し、鋭い爪を持つ後肢をライダーに向けて急降下。

 空色のライダーは鎧と同じ空色の馬上槍でドラグスラッシャーの一撃を受け止めるが相手は一角獣に騎乗した状態である。

 地面に足をつけていれば踏ん張りが効いただろうがそうはいかずに落馬してしまった。

 すると一角獣も主がやられてはまずいと僕への攻撃を中断してドラグスラッシャーへと標的を変えて襲いかかる。

 幻想の獣同士の戦いが繰り広げられる。

 そして、ライダー同士の戦いもまた繰り広げられる……。

 

「やめてください。僕はライダーと殺し合うつもりなんてありません」

 

 槍を構えるライダーにそう言うが、お構い無しと鋭い刺突が繰り出された。

 なんでこう、話を聞いてくれないのか。

 いや、理由は分かっている。

 願いがあるからだ。

 誰にも譲れない願いがあるから、戦いを止めろという言葉に耳を貸さない。

 戦いを止めてしまうということは、願いを諦めるということ。  

 そんな簡単に諦められる程度の願いなら、ライダーバトルなんてものに参加などしないのだから。

 

 だったら、どうする?

 

 そんなの決まっている。

 

 戦うしかない。

 

 戦え……戦え……!

 

 鋭い槍の一撃を、独楽のように避けながら腰に差しているスラッシュバイザーを抜刀。

 柄の先で槍を持つ手を打つと衝撃と痛みから相手は槍を手離してしまった。

 

「しまっ……!?」

 

 ここに来て、ようやく仮面に隠された肉声を聞くことが出来た。

 やはり、少女のものである。

 武器を失くした少女はすかさず、僕と同じように腰に差しているバイザーを抜こうとするがもう遅い。

 手首を返して、刃を首元に向ける。

 

「戦いを、止めてください。僕はあなたを殺すつもりなんてありませんから」

「……」

 

 少女は無言だった。

 だが、バイザーに掛けた手をゆっくりと下ろして……降参と手を上げた。

 思っていたよりは、物分かりのいい人で安心である。

 が、ここからまた何か仕掛けてくるかもしれないので油断は出来ない。

 

「なんで、殺さないの? 殺し合いでしょ、これ」

 

 当然の疑問を投げかける少女。

 そう、ライダーは殺し合いをするものだから。

 

 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。

 

 ライダーは……『仮面ライダー』は、このような欲望にまみれた存在ではなかったはずだ。

 

 ならば、『仮面ライダー』とは……。

 

 

 

 

「少しは強くなったか?」

 

 低く、ドスが利いて、それでいてどこか妖艶さを感じる男の声が響いた。

 このミラーワールドにいる僕以外の男といえば……。

 

「お前!」

 

 自身の似姿。

 白の対極、黒がそこにいた。

 黒い、ツルギ……。

 

「来い。相手をしてやる」 

 

 太刀をゆらりと構える黒ツルギ。

 他のライダーと戦いたくはないが、こいつは別だ。

 こいつとは、戦わなくてはならない。

 

【SWORD VENT】

 

 飛来した太刀を手にし、鋒を黒ツルギに向けて構える。霞の構えと呼ばれるこれは、僕が得意とする構え。

 黒ツルギも僕も動かない。

 互いに相手の動きを読みあっている。

 脳内ではもう何度も奴と斬り結んでいる。

 最善手を探り、手繰り寄せ、奴と斬り合う……!

 

「ちょっと、なんなの。状況がよく分からないんだけど……」

「あなたは逃げてください。あいつはそこらのライダーとは違……!?」

 

 空色のライダーに少々意識を向けたのが良くなかった。

 あいつを前にしているというのに。

 気が付いた時には既に目の前に黒ツルギが迫っていた。

 

「他の奴に気を配っている場合か?」

「ッ!!!」

 

 仮面の下の顔は嗤っているに違いない。

 そう思えるほどに奴の声は愉しそうであった。

 そして奴は放つのだろう。神速にも達する刃を……。

 

「……ほう」

 

 居合が放たれる瞬間、僕は咄嗟に黒ツルギが剣を持つ右手を抑えていた。

 手を抑えられれば、居合は放てない。

 そして、左手に持ち替えていた太刀で斬りかかるが黒ツルギは後ろに飛び退いて間合いから外れてしまったが……今の、感覚は……。

 

「呆けるな」

 

 再び距離を詰め、斬りかかりながら黒ツルギはそう忠告してくる。

 つばぜり合い、互いに一度距離を取って再び斬り結ぶ。

 白い刃と黒い刃がかち合い、火花が散る。

 頭で考えては駄目だ。

 身体でついていけ。

 奴の動きを追え。

 上回れ。

 斬れ!斬れ!斬れ!

 

「ふっ……」

 

 軽やかに回避する黒ツルギをひたすらに追い続け、刃を振るう。

 しかし、一太刀も浴びせることが出来ない。

 今の僕では、黒ツルギに届かない……!

 

「前よりかは、勘を取り戻したようだ。だが、まだ遠く及ばない」

 

 黒ツルギが攻めに転じることを本能で理解した。

 奴の苛烈な攻撃を凌ぐのは厳しい。

 ならば、守るのではなくこちらも更なる攻めを……。

 

 互いに、踏み込んだ瞬間だった。

 

 橋が、揺れた。

 

 鉄で作られた橋がギチギチと嫌な音をたてながら揺れて……揺れを起こした者が現れた。

 

「なんだ、こいつ……!」

「大きい……」

 

 それを見上げて、圧倒される。

 なんて、巨体なのだろう。

 この赤橋全てに巻きついてもまだ余りあるのではないかというほどに巨大な百足……。

 巨大な顎と節をギチギチと鳴らしながら僕達を威嚇して……。

 

「まだこんな大物が残っていたのか。いや、産んだのか?まあいい。モンスターは倒すだけだ」

 

 一人小声で呟いた黒ツルギは太刀を構えて大百足に向かって駆け出して行って……。

 

「……僕も行かなきゃ」

 

 モンスターは人を襲う。

 こんな大型のモンスターが人を捕食するために現実世界に現れたら想像もつかない被害が出る。

 そうなる前に倒さなくては……!

 

「ねえ、ちょっと」

 

 駆け出す寸前、空色の騎士が声をかけてきた。

 

「あれと、戦う気なの?」

 

 声色から、勝てるわけがないという思いを感じた。

 確かに、あれだけ巨大なモンスターとの戦いは決死の覚悟なしでは出来ないだろう。

 それでも……。

 

()()()()()()()()()()()()()()()だから、戦うんだ」

 

「え……」

 

 きっと、意味は分からないだろう。

 それでも、僕は……。

 

「はあっ!!!」

 

 太刀を握りしめ、大百足に向かって駆ける。

 手近なところの胴体を斬りつけるが刃のような脚が阻む。しかし、斬りあいとなればツルギに敵うものはそうはいない!

 

 脚の節へと狙いを定め、地面を蹴り弾丸の如く翔ぶ。

 すれ違い様に切り裂き脚の一本を落とすが相手は百足。脚の一本や二本では止まらない。

 重力に従い落下するが落下地点は跳躍したのと同じ場所ではない。

 百足の胴体。

 これだけの巨体だ、足場となるには充分である。

 百足の上に着地すると黒ツルギも僕と同じ戦法を選んだようで胴体を斬りつけているが……。

 

「やっぱり効果は薄いか……」

 

 切り裂いても切り裂いても、百足はけろっとしている。蟻が象に噛みついた程度にしか思っていないのだろう。

 どこか、弱点がないか……。

 

「うわぁ!?」

 

 突然、大百足が巨体を激しく蠢かせたことでバランスを崩し、僕は宙を舞った。

 重力には逆らえず、ただ落ちていくのみ。

 変身しているから死にはしないだろうが、大ダメージは確実だろう。

 なんとかして、少しでも受けるダメージを減らさなければならない。

 だが、ここで思わぬ助けが入った。

 

「捕まって!」

 

 空色の騎士がユニコーンを駆り、僕に手を伸ばしていた。迷いなくその手を掴み、ユニコーンの背に飛び乗る。

 そして、ユニコーンは凪川の河川敷に着地したので僕は背から降りてお礼を言った。

 

「ありがとう!」

「どういたしまして。……けど、どうするの? あれを倒すなんてやっぱり……」

 

 無理に近いだろう。

 僕が答えに窮すると、なんと黒ツルギが空から舞い降りてきた。

 あの大百足から飛び降りてきたのだろう。

 

「少し力を貸せ」

 

 黒ツルギは着地して早々、ぶっきらぼうにそう頼んできた。

 

「力を貸せって……なにをすればいいのさ?」

「あの大百足を橋から落とす。それだけだ」

 

 それだけって……。

 

「……お前なら出来る」

 

 そう言って黒ツルギは再び大百足に向かっていった。

 ……僕になら、出来る?

 何故、黒ツルギはそんなことを……。

 だが、僕に出来るというのなら。

 奴を橋から落とす。

 ああ、やってやろう。

 ミラーワールドにいられる時間も迫っている。

 素早く終わらせてやる!

 

「……私も行く」

 

 空色の騎士が協力を申し出た。

 人手が増えるのはいいことだが……。

 

「ライダーがどうのとか言ってる場合じゃなさそうだし。それに……私も、仮面ライダーだから」

 

 仮面ライダーだから。

 その言葉が何故だかとても嬉しくて、仮面の下は無意識に笑顔となっていた。

 今なら、いける。

 そう確信が持てた。

 

「行こう! えっと……」

「ピアース。ライダーとしての名前はピアース」

「ありがとう。僕はツルギ……行こう、ピアースさん」

 

 空色のライダー、ピアースさんは力強く頷いてくれた。

 僕の声に反応したドラグスラッシャーも舞い降りる。

 ドラグスラッシャーの背に乗り、空へと飛び立ち大百足を見下ろす。

 ピアースさんも契約モンスターに騎乗し馬上槍を構えて突撃している。

 さて、この大百足を橋から落とすには……。

 

 脚の一本を斬ったところで奴には大したダメージを与えられない。

 ならば、脚ではなく……。

 

『ギチ……ギチ……』

 

「頭なら、流石に怯むだろ!ドラグスラッシャー!」

 

『ガァァァァ!!!』

 

 ドラグスラッシャーを駆り大百足の頭部へ向かう。

 それに気付いた大百足は口から紫色の毒々しい光球を放ち迎撃してくる。

 それを太刀で払う。

 

「太刀がッ!?」

 

 光球を払いのけた太刀が煙を立て、刃が溶けていく。

 武器が……。

 どうする?残っているカードはドラグダガーとファイナルベントのみ。

 悪戯にファイナルベントを使っても効果がなければ意味がない。

 こうなったらバイザーで戦うしか……。

 

「あれは……」

 

 大百足に巻き付かれた橋の上、胴と胴の間から見えた太陽光に反射したもの。

 あれは、ドラグバスターソード!

 橋に捨てたんだった。

 あれを取れれば!

 

「ドラグスラッシャー降りて!」

 

 降下し、トンネルのようになった橋の中を飛んでいく。

 飛ぶにはギリギリの高さ。

 地面もスレスレ、天井もスレスレ。

 何かのアトラクションのようだが一歩間違えば大怪我。最悪、死。

 失敗は許されない。

 

 そして、掴んだ。

 肩を持っていかれそうになるがなんとか引っ張りあげドラグスラッシャーの背に大剣を載せる。

 大百足のトンネルを抜けるとピアースさんが大百足の身体の上をユニコーンで駆けながら槍で攻撃を仕掛けている。

 

「ピアースさん! 頭に攻撃だ!」

 

 僕の声に頷いたピアースさんはユニコーンを加速させ、大百足の頭へと向かう。

 その途中、切り札を切ったようだ。

 

【FINAL VENT】

 

 ユニコーンの肩に備わったバルカン砲が火を噴く。

 放たれた弾丸達が大百足の身体を傷つけていき、ピアースさんはユニコーンの背を蹴り宙へと舞い上がった。

 そして、蹴りの姿勢を取り加速する。

 上からはピアースさんのキック。下からはユニコーンが迫る。

 上下から大百足を襲う衝撃。

 

『ギギギ……!』

 

 長い胴体を激しくのたうつ大百足。

 効いている!

 やっぱり頭への攻撃は有効のようだ。

 僕も続く。

 大ダメージを与えれば、逃げるために橋から離れるはずだ。

 

「行くよ! ドラグスラッシャー!」

 

『グァァァァァァ!!!!!』

 

 天翔る白き飛竜。

 大百足の頭上を通りすがると同時にドラグバスターソードを投げ落とし、自分もそれに続く。

 重力を味方に大剣を足裏につけキックする。

 そこへ更にドラグスラッシャーの放った斬撃を纏い、威力を増し、加速していく。

 そして……。

 

『!?!!!?!!!?!!』

 

 ドラグバスターソードの鋒が大百足の脳天に突き刺さった。

 普通ならこれで死ぬんだろうが、未だにのたうち回る体力があるとは……。

 しかし、当初の予定は達成しているので充分なのだろう。大百足は橋から離れて凪川を上流の方へ逃走していく。

 ……その様子を眺める黒ツルギ。

 川の中央に立つ彼はデッキからカードを一枚引き抜いて、剣型のバイザーへと装填した。

 

【FINAL VENT】

 

 低く、くぐもった電子音声。

 大百足に、最期の刻を告げる────。

 

 勢いよく立つ水柱。

 凪川という名の通り、いつもは静かな川面であるが次々と水柱が立ち上がっていく。

 いや、ただの水柱ではない。

 水飛沫が落ちていき、それの正体が現れる。

 

「剣……?いや、違う」

 

 刃。

 あれは刃である。

 次々と刃が川面から現れて、大百足の身体を串刺しにしていく。

 逃げようともがくが、その凶刃からは逃れられない。

 出来の悪い昆虫標本のようにその場に留められた大百足。

 これだけでも充分だろうと思うが、黒ツルギは追い討ちをかける。

 空から現れる、黒いドラグスラッシャー……。

 姿だけでなく、モンスターまで似ているとは……。

 

「ふっ……はぁぁぁぁ……」

 

 黒いドラグスラッシャーを背に、宙を浮遊する黒ツルギ。

 その場でキックの姿勢を取ると、黒いドラグスラッシャーが放った斬撃を纏って加速する。

 

「はあぁぁぁぁぁ!!!」

 

 黒ツルギのキックが大百足の頭部を穿った。

 巨大な爆炎が上がると、連鎖していくように大百足の身体が次々と爆発しその巨体は跡形もなく消え去った。

 空に、これまでで一番大きなモンスターの魂が昇天していく。

 それを黒いドラグスラッシャーが捕食して、その様子を見届けた黒ツルギは何処へともなく去っていこうとして……。

 

「待っ……」

 

 待てと手を伸ばすと、身体の消滅が始まっていた。

 もうこれ以上はミラーワールドにはいられない。

 黒ツルギと話すのはまた今度にしないといけない。

 また無理したら美玲先輩に怒られるし……。

 とりあえず、手近なところから現実世界へと戻ろう。

 

 

 

 ひとまず、現実世界に戻ってきたのだが……。

 どうしよう。

 もう授業始まってる……。

 とても密度の濃い10分を過ごしたのですごい疲れた。それに学校からも離れてしまったし、歩くのが億劫だ。

 どうしたものか……。

 サボるか。

 たまにはいいだろう、サボったって。

 なんかこう青春って感じするし(?)

 

「ねえ、君」

 

 声を掛けられたので振り返ると聖高の制服を着た女子生徒がいて……。

 あれ、この人……。

 

「もしかして、ピアースさん?」

「うん。仮面ライダーピアース。日下部伊織」

 

 日下部さん……。

 やっぱり聖高にまだライダーがいたか。

 あと何人いることやら。

 そんなことより。

 

「さっきはありがとうございました。モンスター退治に付き合ってくれて」

「気にしないで。私も色々思うところはあったから……。それより、こんなところで立ち話もなんだし家に来ない?近いから」

 

 確かに、こんな時間にこんなところに高校生がいるのは不自然だし何より疲れたのでゆっくりしたい。

 お言葉に甘えてしまおう。

 

 

 

 

 

 伊織さんの家は凪川沿いの住宅地にあった。

 近いという言葉は本当で五分も歩かなかったので助かった。疲れてたからね。

 ご両親は働いてるからこの時間は不在で気にせず寛いでくれと言われたので更にお言葉に甘えてソファに深く背もたれる。

 あぁ……寝てしまいそう……。

 

「ねえ、君。名前は?」

 

 へ?

 名前?

 

「あ、まだ名乗ってなかったでしたっけ? 僕は御剣燐です。仮面ライダーとしてはツルギって名前でやってます」

「そう。名前通り、剣を使ってたものね」

 

 あはは……。

 ソードベントばっかり三枚も持ってるから仕方ないのだ……。

 

「それじゃあ燐君。色々聞きたいんだけど、いい?」

「色々、ですか?」

「ライダーのことで、ね。君は色々知ってそうだし丁度良さそうだと思って」

 

 ライダーのこと……。

 

「けど僕もライダーになって一週間ぐらいしか経ってないですし……」

「そうなの? 結構戦い慣れてるようだったからライダー歴は長いと思ってた」

 

 ……戦い慣れなんて、してるはずがない。

 してるはずがないのに、慣れている。

 分かってしまう。

 自分がどう動けばいいのか。

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 そんなことばかり頭に浮かんできてしまう。

 

「君の言う仮面ライダーと、アリスの言う仮面ライダー。同じ言葉なのに、全然違って聞こえた」

「え……」

「君がどんな意味で仮面ライダーって言葉を使ってるかはまだちょっと分からないけれど、アリスの言う仮面ライダーとはまた別なんだと思う。私は、君の言う仮面ライダーの方が好きだな。だから、あのモンスターを倒すのに協力したんだと思う」

 

 仮面ライダーの、意味……。

 

「だからこそ、分からない。なんでそんな君が、あんな風に……楽しそうに戦えるのか」

 

 ……僕が、楽しそうに戦っている?

 

「どういう、意味ですか……?」

「そのままの意味。あの黒いのと戦ってた時、なんだか楽しそうだった。私と戦ってた時もそうだったけど、あいつと戦ってる時の方が楽しんでた」

 

 ッ……。

 僕は……戦いを楽しんでなんて……。

 人を守るためにライダーに……。

 人を守るために……?

  

 なんで、人を守るために戦っている?

 

 なんで、人を守ろうと思った?

 

 人を守る守るばっかり言って、なんで人を守ろうとしているのかが分からない。

 前に、美也さんにも同じようなことを言われたけれど、僕は一体……。

 

「……すいません。僕、帰ります」

「え、ちょっと……!」

 

 伊織さんの家から飛び出して、宛もなく歩く。

 おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい。

 自分で、自分が分からない。

 自分は普通の高校生だったはずだ。

 特別なことなんて一切なかったはずだ。

 戦いを楽しむなんて僕には出来ないはずだ。

 それなのに、どうして……。

 

 歩き疲れて、河川敷に座り込んだ。

 デッキを見つめて、考えを纏めようにも全てがぐちゃぐちゃに絡まっていく。

 

『それに……。アンタ、戦ってる時楽しそうにしてたじゃない』

 

 数日前のヘリオスの言葉が蘇る。

 その時も違うと否定して……。

 

「おっ! デッキ持ってるってことは君、ライダーでしょ」

 

 唐突に声を掛けられて振り向き立ち上がると、そこには長い銀髪をボサボサにした同年代くらいの女子。しかし、彼女には見覚えがあった。

 

「ん? 君は前に私を助けてくれた子だね。また会うとは奇遇だね~」

「そう、ですけど……」

 

 彼女は夏休み中に面識があった不良さん。

 不良と言ってもそんなに悪い奴って感じではないけれど。色々あって彼女の逃走劇に一役買ったのはこれといって印象深い思い出のない夏休みの中でインパクト強めの体験であった。

 

「まさか恩人と再会したらライダーだったとは、なんて出来すぎじゃない?」

「……そうですね。じゃあ、恩を返すと思って帰ってくれませんか? 僕はライダーと戦いたくなんて……ッ!?」

 

 本当に、一瞬の出来事だった。

 右ストレート。

 拳が、放たれていた。

 

「ふぅん。今の避けるのはなかなかいないよ。やっぱり君、強いんでしょ」

「僕は、強くなんか……」

「あの時の恩は必ず返すって、言ったじゃん? 返させてくれないかなぁ?」

「返すって、どうやって……」

「決まってるじゃん! やるんだよ」

 

 緑色のデッキをちらつかせ、笑みを浮かべる少女。

 戦うことが恩を返すことってどういうことだよ……。

 

「君はさぁ、多分、わたしと同じタイプなんだよ。わたしと同じで闘うことが大好きな人間」

「僕は闘うことが好きなんかじゃ……!」

「だから闘って発散しようよ、そのもやもやを。わたしも数日ばかし動けなくてさ~溜まってるんだよね。恩に免じて君を殺しはしない。君がわたしを殺すのは有りだけどね」

 

 少女は反論する僕のことなんてお構い無しに、笑顔でそう語った。

 そして、ポケットから何か取り出すとおもむろに僕に見せつけた。

 それは、鏡の破片。

 手鏡サイズの歪な円形。

 

「これさ、便利なんだよね。どこでも変身出来るから。よっと!」

 

 少女は鏡を宙に放り投げると、落下してくる鏡にデッキを映し、ベルトを呼び出して……。

 

「変身!」

 

 鏡が地面につくと同時に、少女はメタリックグリーンのゴツいライダーへと変身した。

 こいつとは、確か先週少しやりあった……。

 

「ほら、君も変身しなよ」

「だから僕は闘うなんて……」

「そう。じゃあヤル気出させてあげるッ!」

 

 再び振るわれる拳。

 生身の拳なら当たってもまだ大丈夫だが、ライダーのものともなれば話は別だ。彼女の鋭いパンチを生身で喰らったら間違いなく致命傷となる……!

 

「ほらほら! 君も変身しないと危ないよ!」

「くそ……!」

 

 殴りかかってくるライダー。

 だがここは斜面である。

 いくらライダーとはいえ……。

 

「逃げてもジリ貧だよ! ほいっ!」

 

 今だっ!

 避けると同時に足をかける。

 すると見事にバランスを崩して……。

 

「え、あっ、ちょー!?」

 

 ごろごろどっしゃん。

 わあ、思ってたよりも勢いよく転げていったな。

 まさか川まで一直線とは。

 鎧が丸っこくて転がりやすいのか。

 

「ムフー! ちょっと君! 真面目に戦ってよー!」

「生身に襲いかかってくるそっちが悪いんでしょうが!」

「よぅし、じゃあ本気で行くよ……!」

 

 ドン!とライダーが地面を蹴ると真っ直ぐ僕に向かって飛来し一瞬で目の前に現れた。

 やば……。

 

「ちょっと痛いかもだけど我慢してよ?」

 

 ライダーは僕に掴みかかるとそのまま投げ飛ばして今度は僕が河川敷を転がった。

 身体中に草や土が付くがそんなことよりも痛みの方ばかりに気がいって仕方ない。

 

「くそ……」

「ほら、変身しないと酷い目に合うばっかりだぞ?」

 

 あなたが酷いことしなきゃいいだけだろう!というツッコミは心の中に留めた。言っても多分、聞き入れてはくれない。

 ならば、どうする?

 ライダーの力があれば逃げた僕に追いつくのは容易いだろう。

 人目につく場所に行く?

 近くは民家だ、逃げ込めば助かるかも……だけど、そんなの気にせずあいつが追ってきたら?

 僕以外の人間にも危害が及ぶ可能性も考慮しなければならない。

 なら、なら……。

 

『戦って、黙らせればいい』

 

 酷く、恐ろしい考えが脳裏に浮かんだ。

 戦いを止めるために戦うというのか?

 

『そう。勝てばいい。あなたが勝てばその戦いは終わる』

 

 そう、だけど……。

 

『いつまでも逃げるの?』

 

 逃げてるわけでは……。

 

『逃げてるだけじゃ、終わらないよ』

 

 終わらない。

 そう、終わらない。

 逃げてるだけでは……。

 

 だから、いいよね。

 

 この戦いを止めるためだから、仕方ない。

 彼女を満足させるためにも仕方ない。

 僕や彼女のようなタイプは勝ち負けは気にしない。

 ただ、戦いたいだけなのだから────。

 

 デッキを光る川面に向けて、ベルトを巻き付けた。

 

「変身」

 

 幾重にも重なる虚像が実像となり、純白の騎士となる。

 

「ようやく、やる気になった……!」

 

 彼女は拳を構え、僕は剣を構え。

 駆け出し、拳と刃がぶつかり合い、川面へと……ミラーワールドへと、飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天才JKマジシャンふっかーつ!!!」

「うるさい」

「いたっ! 何するのさー! 病み上がりの人間をはたくなんてー!」

 

 聖山駅裏の公園。

 人が多い駅のすぐそばというのにこの公園にはアタシとバカの二人しかいない。

 おかげでうるさいのが余計にうるさい。

 

「いやーそれにしてもあんな大怪我したのにこんなすぐ治るもんなんだね。人体ってすごいな~。これが人体の神秘ってやつ?」

「バカ、人体の神秘なんかじゃない。普通あんな大怪我して二、三日で治るか普通」

 

 あの三つ巴のライダーバトルのあと、流石に大怪我を負ったアタシ達はこの数日間療養ということで茜の家に引き籠っていた。

 おかげでこうして傷も治り、腹を空かせたモンスターのためにモンスターを狩りに出たのだ。

 

「それじゃあなんでこんな早く怪我が治ったのさ?」

 

 当然の疑問だろう。

 まあ、これを知っているのはあまりいないので知らなくても当然なのだが。

 

「デッキのおかげ」

「デッキのおかげ?」

「そ。アリスが言ってたんだ、デッキ持ってれば怪我が早く治るって」

 

 これはアタシがライダーになりたての頃、この間みたいなバトルをして大怪我した時にアリスが現れて「内緒ですよ?」なんて言いながら教えてきたのだ。

 あと、怪我を治すだけでなく生身でミラーワールドにいられる時間が延びたりだとかの効果もあるとか。

 

「けどなんで怪我を治すなんて機能ついてるの? あのアリスがそんな親切設計するとは思えないんだけどなぁ」

「理由は知らない。大方、怪我をとっとと治してたくさんやり合えってことでしょ」

「あーその説有力」

 

 さて、いつまでも油売ってないでモンスター探しでもするか……。

 

「あ、近くのワック寄っていい?新作の五角チョコパイ食べたい」

「ダメだ。道草食ってる暇なんてアタシらには……」

「瀬那の分も買ってくるから」

「……すぐ戻ってこいよ」

 

 了解!と元気良く走っていくバカを見送り、ベンチに座り込んだ。

 まったく……調子を狂わされる……。

 ふと、目の前の道を歩く一人の女子高生が目に入った。

 制服は聖高のもの。

 他の特徴としてはバカみたいに胸がでかい。

 それだけで男の視線を釘付けに出来そうなものなのだが、アタシがあの女を気になったのは別の理由。

 

「うん……うん……そうだね……ふふ……」

 

 独り言……?

 それにしては、誰かと話している風だ。

 いや、単に電話してるだけかもしれない。

 最近はスマホを耳元に当てなくても電話出来るしその類いか。

 ……いや、何かおかしい。

 嫌な予感がする。

 そして、勘は当たった。

 その少女と、目が合ってしまった。

 

「うん……そうだね、瑠美。この人はなんだか愛してくれそうな気がする……」

 

 おかしい。

 目が合っているのに、アタシのことは見ていない気もする。

 目が合ったというより、捕らえられた。

 そんな気分。

 あの女の目は常人がする目ではない。

 色欲に溺れているような……。

 自分の母親を思い出すような……そんな、嫌な目……!

 

「ねえ、あなたは私のこと……ううん。()()のこと、()()()()()()?」

 

 黒いデッキを見せつける女。

 こいつは……ヤバい。

 喜多村より、いや、あれとは別のベクトルだ。

 あいつのことは理解出来る。

 だけどこいつは分からない。

 まるで分からない。

 デッキを見せつけてきたということはアタシがライダーだと知っている?

 しかしアタシはこいつを知らない。

 どこかで変身するところを見られた?

 いや、そんなことはどうでもいい。

 こいつとやり合うのは……まずい。

 

「……意味わかんない。アタシ、そういう趣味ないから。他を当たりな」

 

 デッキのことには触れず、何も知らないと言い張る。

 しかし、この女は急に笑い出して下を向くと、左目を隠すように伸ばしていた前髪が今度は右目を覆っていた。

 

「アヒャ、アヒャヒャ! ねえ麗美! この娘しらばっくれてる! ツンデレってやつかな! ツンツンしてるけどちゃんとアタシのこと愛してくれるんでしょ! アヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」

 

 姦しく笑う。

 さっきまでとはまるで雰囲気が違う。

 そしてまた俯くと今度は右目が私を見つめて……。

 

「そうだよ瑠美。間違いないよ。この人は私達を愛してくれるよ。ふふふ……。だって、感じたでしょ? 久しぶりに。たっぷり私達のこと愛してくれて、愛を返せそうだって」

 

 再び、左目が私を見つめる。

 

「そうだね麗美! いっぱい! いっぱい! 愛してもらおう! アヒャヒャ!!!」

 

 なんだ、こいつ……。

 目の前にいるのは一人のはずなのに、二人いるかのように思う。

 いや、本当に二人いるのではないか?

 だけど、そんなことがあり得るのか……?

 

「ねえ、早く愛して? 久しぶりにこんなに愛してくれそうな人を見つけて私もうどうにかなりそうなの」

「アタシももう我慢出来ないの! ちょうだい! 愛をちょうだい!」

 

 気持ち悪い……!

 こいつと会話なんて無理だ!

 アタシにはこいつが同じ人間とは思えない!

 

「ダメ、逃がさない」

「ッ!? くそっ!?」

 

 近くのオフィスビルの窓から伸びる糸がアタシを捕らえる。そして、ミラーワールドへと引き摺り込まれて……。

 

 

 

 

「行ったね瑠美」

「行ったね麗美」

 

 (アタシ)達を愛してくれる人を(アタシ)達の契約しているモンスターがミラーワールドへと連れていってくれた。

 あぁ……早く、愛が欲しい……!

 

「それじゃあ、行こうか瑠美」

「アヒャ……イケるんだね麗美」

 

 デッキを鏡に映し、変身する。

 

「変身」

 

 黒い騎士へと変貌を遂げると更に興奮が高まる。

 これは(アタシ)達が愛され、愛するための装束。

 愛の営みのための正装。

 さあ、愛のためにいこう……。




次回 仮面ライダーツルギ

「そうだね瑠美! 今のはとっても痛くて愛を感じたよ!」

「楽しいね! 戦うことは! 楽しいね!」

「瀬那。知り合い?」

「僕、は……」

願いが、叫びをあげている────。


ADVENTCARD ARCHIVE
ADVENT(仮面ライダーピアース)
ユニコブースター 4000AP

日下部伊織=仮面ライダーピアースと契約しているユニコーン型モンスター。
白馬が水色の鎧を纏ったかのような美しい姿。
機動力に優れ、そこから生み出されるパワー、突破力もまた強力。
前脚の付け根にはバルカン砲が備わり、遠距離にも対応している。

麗しく、美しいものがか弱いわけがない。



キャラクター原案紹介
氷梨麗美・瑠美  黒井福様

特報!

「さあ、今度こそ君もわたしと思いっきり殴り合ってくれるかな」

ツルギの世界で激闘を繰り広げるライダー達……

「うんそうでしょ、痛いでしょ! それだけアタシがあんたの事を愛してるって証よ!!」

「何で……どうしてなの……あたしの夢は、もう……ッ!!」

少女達の物語が描かれる────

仮面ライダーツルギ・スピンオフ!

仮面ライダーレイダー/喜多村遊の物語

仮面ライダーツルギ・スピンオフ/ドキュメント・レイダー
https://syosetu.org/novel/241588/(マフ30様作)

仮面ライダーウィドゥ/氷梨麗美・瑠美の物語

仮面ライダーツルギ・ANOTHER RIDERS
https://syosetu.org/novel/242584/(黒井福様作)

仮面ライダー甲賀/黒峰樹の物語

仮面ライダーツルギ・外伝 ~甲賀、見参~
https://syosetu.org/novel/242795/(ロンギヌス様作)

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