仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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 バシャバシャと勢いよく水飛沫をあげながら川を走るツルギとレイダー。

 ツルギは太刀を、レイダーは巨腕を構え、間合いと攻め込むタイミングを計りながら駆ける。

 互いに近接戦闘を得意とし、他のライダー達とは一線を画す実力を持つ者同士の対決。

 太刀という武器を用いるツルギの方が有利に思われたが、白刃を掻い潜り懐へと飛び込むレイダーの拳がツルギを押していた。

 

 これでは、駄目だ。

 攻め方を変えなくてはならない。

 迫る拳を避けながらレイダーの背後を取り、後ろ蹴りで蹴飛ばしカードを使う隙を作る。

 

【SWORD VENT】

 

 新たな剣を召喚する。

 太刀はその場に突き刺し、空から飛んできたコンバットナイフ型の武器『ドラグダガー』を掴み取った。

 二振り召喚されるうちの一振りを右腰のハードポイントに装着しもう一振りを右手で構える。

 

「おっ! 今度は短いので来るのかい? いいよ、さあ来い!」

 

 両腕を上げてどこからでも来いと挑発するレイダー。

 次の瞬間、仮面の下で遊は目を見開くこととなる。

 

「ッ!?」

 

 一瞬でレイダーに肉薄する。

 突然目の前に現れたのでレイダーも驚き、後退しようと地面を蹴るが既にこちらの距離である。

 狙うは……間接。

 装甲に覆われていない箇所。

 急所。

 レイダーの装甲は厚く、防御に優れる。

 そんな硬いところを攻撃したって仕方ない。

 効率良く奴を倒すには、防御の薄い場所を的確に攻撃していくのが良い。

 そして、この間合いでは彼女お得意のパンチも放てない。

 ほぼ密着しているような状態でレイダーを斬りつけていく。

 

「ッ……! 君、結構やらしい戦い方してくるね!」

 

 やらしい?

 単に最適な戦い方をしているだけだ。

 

「少しはこっちにも殴らせろッ!」

 

 いつまでもやられているわけにはいかないと、レイダーは勢い良く肩をぶつけてきた。

 よろけたところにレイダーの豪腕が迫るが、半身を反らして回避すると同時に殴りかかってきた腕を脇で絞め上げて拘束する。

 そして、身動きの取れないレイダーを斬り裂いていく。

 

「ふっ……ははは!」

 

 急に笑いだしたレイダー。

 何を、笑っている。

 自身の生命が危ういというのに。

 何故、笑う。

 

「楽しいね! 戦うことは! 楽しいね!」

 

 ……楽しい?

 楽しければ、人は笑う。

 そうか、楽しいのか。

 戦うことは、楽しいことなのか。

 この胸に抱いた感情は楽しいというもの……。

 それは、本当に?

 本当にこれは楽しいという感情?

 いや、もっと違う。

 そもそも、感情とはなんだ?

 

「おりゃっ!!!」

 

 少々考え事をしている間に隙が生まれてしまいレイダーの左拳が胸を打った。

 よろけながら後退るとレイダーはこの機を逃さないと迫る。

 最初の数撃こそ回避、防御は出来たが先程の一撃が予想以上に効いている。

 徐々にレイダーの拳のラッシュに対応しきれなくなり、強力な一撃を食らい水面に倒れた。

 

「まさか、これで終わりじゃないよね?」

 

 レイダーが煽る。

 しかし、その通りだ。

 この程度では終わらない。

 終われない。

 だって、自分はまだ……。

 

 ()()()()()()()()()()────。

 

 

 

 

 

 誰もいない河川敷にひとつの影が現れるとそこからアリスが浮上した。

 そしてツルギとレイダーの戦いを眺め、睨み付けると二人のところまで駆け出そうするが突然、首元に黒い刃が現れた。

 

「戦いの邪魔をするのか? ライダーバトルなんてものを始めた奴が」 

 

 黒いツルギがアリスの行く手を阻む。

 

「あなた……! 邪魔をしないでください!」

 

 振り向き、黒ツルギにそう声を荒げるアリス。

 しかし黒ツルギは動じることはない。

 太刀を下ろした黒ツルギは数歩前に出るとアリスに語りかけた。

 

「そんなに奴が穢れることが嫌か?」

「……穢れきった貴方に話すことは何もありません」

「はっ。穢れたのは誰のせいだ?ええ?()()()?」

 

 その言葉が引き金となった。

 アリスの影が伸びるとそこから黒い人の形を模したものが三体現れ……。

 やがてその黒い影は黒い鎧を纏い、騎士(ライダー)となった。

 

「ほんと、そうですよね……。だからぁ、ぐれちゃった悪い子にはお仕置きが必要ですね……! 行きなさい、フレア、メッサー、ヘリオス」

 

 黒ツルギを睨み付けると三体のライダーだったもの達が迫る。

 二体の影がそれぞれ銃を放ち、もう一体が黒ツルギへと斬りかかる。

 それを容易く回避して、斬りかかってきたライダーの胴に一撃を与えると黒ツルギはアリスへと太刀を投げつけた。 

 しかし、太刀は空を切り地面へと突き刺さる。

 

「逃げたか……。まあいい。見ているがいいさ、お前を切り裂く(ツルギ)が鍛えられていくところをな」

 

 そして黒ツルギは三体の影を斬らんと腰のバイザーを抜いて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 即座に立ち上がるとついさっき突き立てておいた太刀を抜き、駆ける。

 レイダーは拳を握りしめ、カウンターで合わせようとしているのだろう。

 だが、それこそが狙い。

 

「ッ……!?」

 

 レイダーの太ももに、ドラグダガーが突き刺さる。

 血が滴り落ちて、川に流されていく。

 驚いているのも無理はない。

 レイダーは太刀にばかり気を取られていた。

 それもそうだろう、ドラグダガーよりも長大で分かりやすく脅威度の高い太刀に注意を向けるのは当然だ。

 だからドラグダガーに注意がいかない。

 ドラグダガーだって左手に構えていたのだ。

 それを投擲し、足を奪った。

 だが、それだけで倒れるような奴ではないだろう。

 だからこそ、これは奴を仕留めるほんの一手に過ぎない。 

 この手に握りしめた太刀がただの囮なはずがない。

 上段からの一撃。

 レイダーは両腕を交差させてガードするが、足に力が入らず徐々に膝を折っていき……。そんなレイダーを蹴り飛ばす。

 思いきり尻餅をついたレイダーの首をはねようと太刀を振るって……。

 

『人類を守るのが、仮面ライダーだ』

 

 ある記憶が、呼び覚まされた。

 僕に仮面ライダーの在り方を授けた、ある人の言葉が……。

 あ、れ……?

 

「僕、は……」

 

 太刀を握っていた手から力が抜ける。

 手だけではなく、身体から力が抜けていって僕はその場に膝をついた。

 流れる川の冷たさが、スーツ越しに伝わる。

 僕は何をしようとした?

 彼女を殺そうとした。

 何故殺そうとした?

 分からない。

 ただ、殺せと。

 殺せと命じられるがままに。

 心に冷たいものが突き刺さる。

 身体中から熱を奪っていく。

 

 そんな、どうして、僕は……。

 人を殺そうとなんて……。

 

「……どうしたの? あそこまでやっておいてトドメを刺さないの? 急に怖くなった? 人を殺すことが」

 

 当たり前だ。

 人を殺すなんてことは出来ない。

 だって、()()()()()()()()()()()()()

 人を殺すことは出来ない……出来るはずがない……。

 

「はあ……よっこいしょっと」

 

 そう声が聞こえたので見るとレイダーが立ち上がって、ドラグダガーの突き刺さった足を引き摺りながら近寄ってきた。

 僕の目の前に来ると立ち止まり、レイダーはドラグダガーを思いきり引き抜いた。

 赤い血が、白い鎧を濡らす。

 これは、僕がつけた傷から出たもの……。

 

「僕の、せいで……」

 

 なんでこんな、人を傷つけるようなことを僕は……。

 項垂れる。

 川の流れはいつもと変わらない穏やかなもの。

 そんなものを見ても、僕の心はざわついたままで……。

 急に、レイダーは僕の鎧を掴むと無理矢理立たせた。

 まだ、戦いは終わっていない。

 このまま、彼女に殴り殺されるのだろうか。

 それは、嫌だな……。

 

「……ホントに、人が変わったみたい。わたしはさっきの君と戦いたいんだけどなぁ」

「そんなこと、言われても……」

「また殴ればさっきみたいになったりする?」

 

 もはや、彼女との会話は無理だろう。

 戦うことしか考えていない彼女と戦いを止めたい僕とでは……。

 

「はあ……。仕方ない。ちょっと、失礼するよ」

「ガッ……!!?!?」

 

 鳩尾を強烈な一撃が襲った。

 そこで、僕の記憶は途切れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ミラーワールドに連れ込まれたアタシはなんとか変身して蜘蛛のモンスターの相手をしていた。

 これまで戦ったことのある蜘蛛型のモンスターの中では小ぶりで戦闘力も低めに見える。が……。

 ビルから現れるライドシューター。

 さっきのあのヤバい女が変身したライダーだろう。

 ライドシューターのキャノピーが上がり、その騎士の姿が現れる。

 しかし、そいつは騎士という風貌ではなかった。

 女物の喪服のような、そんな姿。

 黒いボロボロのヴェールが仮面を隠し、スカートまでボロボロ。

 趣味の悪い映画にでも出てきそうだと内心愚痴った。

 

「ふふふ……それがあなたの姿なのね。その姿でいっぱい私達を愛してくれるのね」

 

 やはり、気持ち悪い。

 こいつは人の話になど耳を貸さないのだろう。

 こいつにコミュニケーションなど通用しない。

 全て、あいつは自己完結してしまうのだから。

 

「さあ、早く愛して!!!」

 

 腕を広げて、無防備な姿を見せる黒いライダー。

 このまま殴るか?

 いや、何か嫌な予感がする。

 こいつ真っ当にやり合うのはヤバい……!

 

「ねえ、愛してくれないの?」

「アヒャ! どうしたの! 恥ずかしいの!」

「そうだね瑠美。きっと恥ずかしいんだよ」

「そっか……じゃあ、アタシ達から先に愛してあげる!」

 

 デッキからカードを引き抜き、さっきの蜘蛛のモンスターを象った右肩のバイザーに装填する。

 

【STRIKE VENT】

 

 空から蜘蛛の脚を模した手甲型の武器が両手に装備された。

 長い爪のようなそれは黒いライダーにやけに似合っていて、趣味の悪い映画に出てきそうな感じを更に強める。

 とにかく、相手は攻撃を仕掛けようとしてくる。

 ならばこちらもストライクベントで……。

 いや、被弾覚悟で戦っていいような相手ではなさそうだ。あまりやらない戦法ではあるがここは……。

 

【GUARD VENT】

 

 盾を召喚し、レイピアでもあるクインバイザーを右手に構える。

 そして、爪による攻撃を盾で凌ぎレイピアによるカウンターの突きを胸部に当てる。

 

「アッ……!」

 

 自分や他のライダー達と違って鎧らしい鎧はなく防御が薄そうだと思っていたがその読みは正しく一突きで苦しそうに胸を抑えている。

 呼吸も激しく、肩で息をしているような状態で……。

 

「……アヒャ」

 

 悪寒がした。

 あいつは、違う。

 ダメージが大きいことで苦しんでいるのではない。

 あいつは……。

 

「アヒャ、アヒャヒャ! やっぱりやっぱりやっぱり! 貴女はアタシ達を愛してくれる人ね! もっと愛してちょうだい!!!」

 

 こいつは、なんなんだ……。

 これまで出会ってきたライダー達とはまるで違う。

 

 異常者────。

 

 そんな言葉が頭を過った。

 少なくとも、こんな戦いに参加している時点でアタシ達だって普通ではないと思っていた。

 けれどこいつは違う。

 根っからの異常者なのだ。

 普通、攻撃されて()()()()()()なんて思わない。

 攻撃、暴力というものはおそよ愛なんてものから最も遠いもののひとつだろう。

 例外としてみれば、親が子供を叱りつけるために頬をはたくとか拳骨するとか。これらは愛があるからこそ成り立つものだ。

 しかし、奴は違う。

 全ての暴力、攻撃、痛みを自分への愛だと思い込む。

 だから、自己完結しているのだ。

 

「ねえ、麗美! やっぱりこの人がいいよ! もっとアタシ達のこと愛してくれるわきっと!」

「そうだね瑠美! 今のはとっても痛くて愛を感じたよ!」

 

 そしてこいつのこの一人芝居。

 レミとルミという二人を演じているのか?

 それともよく創作物の中で見る二重人格?

 だとしても二重人格なんて現実に存在するのか?

 いや、こいつのことなんてどうでもいい。

 暴力を愛だと言おうが、死んでしまえば意味はないのだ。

 ─────殺せ。

 

【STRIKE VENT】

 

 右手に蜂の腹のような格闘武装を装備して無防備な相手に殴りかかる。

 暴力を愛だと言うこいつはきっとたくさんの愛を受けているとか想像しているのだろう。

 とにかく殴る、殴る、殴る。

 そして、殴り飛ばす。

 

「アヒャヒャ!!! いいよいいよ! もっと! もっと!」

「いいよ……とびきりのやつで愛してやるよ……」

 

 ファイナルベントのカードを手にしながらそんなことを言う。

 我ながら、乗せられてしまっている気がしてならないがさっさとこいつを倒すのがいいだろう。

 

「……こんなに愛してもらったんだから、私達も愛してあげないといけないよね。ねえ瑠美?」

「そうだね! いっぱい愛してあげなくちゃね!」

 

 直感でヤバいと判断してすぐにファイナルベントのカードを装填する。

 だが、一歩遅かった。

 

【CAPTURE VENT】

 

 電子音が響くと、どこからか飛んできた白い糸によって身動きが取れなくなってしまった。

 

「アヒャ……たっぷり愛してあげる」

「たくさん愛してあげる」

「『私(アタシ)達の愛を受け取って!!!』」

 

 指を蠢かせながら近づく奴は正に獲物を捕らえた蜘蛛のようだった。

 くそ、全身を縛られてカードを使うことも出来ない……!

 

「アヒャ……!」

 

 目の前に迫った黒いライダーはゆっくりと手を掲げ、長い爪による攻撃を食らわそうとして……。

 

【SWING VENT】

 

「っ!?」

 

 黒いライダーの腕に巻き付いた白い鞭。

 

「これは……」

「お待たせ瀬那!」

 

 あのバカ、いいタイミングで……。

 

「なに? あなたもアタシを愛してくれるの?」

「えっ、なにこいつ……」

 

 あいつもやはり引いている。

 いや、引かない人間がいないはずがない。

 そしてあのバカはもう気持ち悪いと鞭を思い切り引っ張って黒いライダーを投げ飛ばした。

 ビルの壁に叩き付けられた黒いライダーは流石にダメージが大きかったのかそのまま地面に座り込んだ。

 

「まったく~少し目を離すとすぐこうなんだから。やっぱり私がついてないとダメだね!」

「うっさい。それにアタシは戦うつもりはなかった。あんなヤバいのと」

 

 まったくとんだヤバい奴だった。

 ああいう変態とはいくらライダー同士とはいえ戦うのも嫌だ。

 

「それじゃあその糸をほどいてさっさと逃げよ。私も変態さんの相手はしたくないし」

「ああ、頼む……」

 

 体に巻き付いた糸を取ろうとバカが糸に触れる。

 だが、触れただけでそこから動かない。

 

「おい、早くしろ。でないと変態が目を覚ますかもしれないだろ」

「ねえ、瀬那」

「なんだよ」

「取れなくなっちゃった」

「は?」

「だから、その……。私もこの糸に捕まっちゃった。てへ♪」

 

 ……。

 

「てへ、じゃないだろこのバカ! いいからなんとかしろ!」

「なんとかって無理だよ! もう取れないもんこれ!」

 

 頑張って糸を引き剥がそうとするバカ。

 しかし、糸の粘着性は高く取れる気配はない。

 そして更に事態は悪化する。

 

「アヒャヒャ! お仲間さんも絡まっちゃった! それじゃあ二人まとめて愛してあげる!」

 

 気絶から目覚めた変態がゆっくり、ねっとりと近づいてくる。

 くそ、何とかしないと二人まとめて死ぬ……!

 

「ひっ……。ヤバいよ瀬那ヤバいよ! このままじゃ私達二人共お嫁に行けなくなっちゃうよ!」

「冗談言ってる場合か!」

 

 くっ……もう手は何もないか……。

 そう諦めた瞬間だった。

 何かが顔の横を通りすぎ、風を切った。

 そして、迫っていた変態に何かが直撃して膝をつかせて……。

 あれは……矢?

 アタシの知るなかで弓矢を使うライダーは一人しかいない。

 そいつは……。

 

「またお仲間さん……?」

 

 変態が胸を抑えながら攻撃してきたライダーに訊ねる。

 そして、聞きなれた声がアタシの後ろから響いた。

 

「違うわ。ただの通りすがりよ」

 

 やっぱり、あいつ。

 青い弓使いのライダー。

 

 仮面ライダーアイズ────。

 

 アイズは弓を携えながらアタシ達の前に立った。

 なんで、こいつがアタシ達を庇うような真似を……。

 

「瀬那。知り合い?」

「まあ……何度か戦ったことはあるけど」

「一応言っておくけど、貴女達を助けたわけではないから。いつでも倒せる貴女達より向こうを優先しただけよ」

 

 抑揚のない声でそう言い放つアイズ。

 やはり、こいつとは気が合いそうにない。

 それはバカも同じなようで「むう」と頬を膨らませたような声が聞こえた。 

 

「アヒャ! すごい! こんなに愛してくれる人達が集まってくれたのは初めて!!!」

「嬉しいね瑠美!」

「嬉しいね麗美!」

 

 また一人芝居をはじめた変態。

 それを見たアイズが声をかけてきた。

 

「……なに、あれ」

「知らない。ずっとあの調子のヤバい奴なんだ」

「変態だよ変態!」

「なるほどね……」

 

 理解したと言わんばかりに会話を中断したアイズは矢を番える。 

 あいつ相手には遠距離から攻撃するのが恐らく有効。

 接近戦ではあいつの変態性を近くで感じなくてはいけないため精神的にもキツイ。

 遠くから仕留めるのが一番だろう。

 爪を構えて疾走する変態にアイズは矢を放った。

 避ける素振りを見せない変態に矢は直撃してダメージを与えたかに見えたが変態の奴は気にせず接近してくるではないか。

 これには堪らないとアイズはすぐに二の矢、三の矢を放つがまったく奴に効いている様子がない。

 さっき奴を殴った時に感じたが、奴は痛みを喜ぶ。

 むしろ、攻撃を与えることは逆効果の可能性が高い。

 

「アヒャ!!! そんな遠くからじゃなくてもっと近くで愛しあいましょう! アヒャヒャヒャ!!!」

「チッ……」

 

 変態の接近を許したアイズ。

 迫る爪の攻撃を弓で防御して押し返し、弓の刃で変態を斬りつけた。

 だが、それは……。

 

「いいわ、いいわ! もっと、もっとアタシ達を愛して!!!」

 

 やはり、こいつ……!

 

「なんなの……想像以上の変態じゃない!」

 

 流石のアイズも声を荒げる。 

 それもそうだろう。

 今までいなかったタイプのライダーだ。 

 こんなに狂っている相手、そうそういない。

 

「アヒャ!!! こんなに愛をもらえるなんて……その事実だけでイッちゃいそう!!!」

「すごい愛を感じる……! 嬉しい! 嬉しい! 嬉しい!」

「麗美。ちゃんと受けた分の愛を返さないとね」

「うん。愛を返してまた受け取って、また返して受け取って……いっぱい愛し合おうね瑠美」

 

 そして、変態の猛攻が始まる。

 爪による一撃を的確に対処していくアイズ。

 しかし、今度は自分達の攻撃の番だととにかく攻め続ける変態に徐々に押されている。

 正直、あいつが勝とうが死のうがアタシには関係ない。

 だけど……。

 

「クインビージョ!!!」

 

 自身の契約モンスターの名を叫ぶ。

 ちゃんと契約を守り、信頼を得ることが出来ればカードを使わなくともモンスターは契約相手の助太刀に現れる。

 だが、クインビージョは気紛れなタイプだ。

 餌はかなり与えているが、元の性格がそんななので来るか来ないか半々といったところ。

 今日は……どうやら、来てくれたようだ。

 大きな羽音を響かせて、女王が現れる。

 

「悪いけど、この糸なんとかしてくれない?」

 

 そう頼むとクインビージョの胴体。

 ドレスのようになっているが、その実態はクインビージョの配下であるビージョの巣である。

 巣から大量のビージョが現れ、糸にまとわりついていくと……。

 

「瀬那これなにするとこ……熱っ!? ちょっ熱い! 熱いって! これじゃ茹でダコになっちゃうよ!」

「うるさい我慢しろ。それに茹でじゃなくて焼きだ!」

「あっ、そうか~……じゃなくてやっぱり無理これ熱い! あーつーいー!」

 

 バカの声を我慢していると……きたな。

 糸の締め付ける力が弱くなってきた。

 これぐらいなら自力で……。

 

「らぁ!!!」

 

 絶たれた糸が地面に落ちると消えていく。

 まあ、ざっとこんなもん。

 さっさとクインビージョを呼べばよかった。

 

「助かったのはいいけどなにしたのさ?」

「ビージョが振動して起こした熱で糸を焼き切った。それだけ」

「へ~……器用なんだね瀬那と違って」

「うっさい」

「いたっ!?」

 

 バカの頭を叩いて戦線に戻る。

 とりあえず、あの変態はここで潰す。

 あんなヤバいのと長いお付き合いなんてのはまっぴらごめんだ。

 

「らぁぁぁぁ!!!」

 

 アイズへの攻撃に夢中な変態に殴りかかる。

 不意打ちには反応出来なかったようで拳が奴の顔面を捉えた。

 

「……」

「勘違いするな。別にあんたを助けたわけじゃ……」

「元から勘違いなんてしてないわ」

「なっ!」

 

 やはり、こいつも好きにはなれない。

 そもそも、ライダーで好きな奴なんてのもいないが。

 

「ふふふ……三人で私達を愛してくれるのね……楽しみ……」

 

 やはり、気持ち悪い。

 生理的に無理。

 理解不能。

 だが、アリスが狙ってライダーにしそうな奴ではある。

 

「はっ! 私の鞭がお前を愛してやるぜ!」

 

 またバカがバカなことを言っている。

 さて、三人相手にも怯まず逃げる素振りを見せないが流石に三人でボコれば……。

 駆け出そうとすると、アイズが制止した。

 そして、奴にある質問を投げかけたのだ。

 

「ねえ、貴女の言う愛って何かしら?」

 

 奴とコミュニケーションを取ろうだなんて無茶だ。

 宇宙人とコミュニケーションを取る方がまだ簡単そうだと思わせてくる相手だぞ。

 そう思ったのだが、意外にも奴は乗ってきた。

 

「暴力。痛み。それが愛。だからこうして貴女達から私達は愛をもらって、その愛を貴女達に返すの!」

 

 ……とんだ野郎だ。

 暴力、痛みが愛だなんてどうしたらそんな認識になる。

 暴力なんて愛から最も遠いものではないか。

 親が子供を叱るのに拳骨するだとかビンタするだとかは愛故にであるが、アタシ達は相手を殺すために暴力を振るう。

 そこに一切の愛なんてものは存在しない────。

 

「なるほどね……。それじゃあ、貴女の願いも愛ってところかしら?」

「そう! アタシと麗美の願い、それは愛! たくさんの愛を受けてたくさんの愛を返す! それがアタシ達の願い!!!」

「……そう。じゃあ、私から良いことを教えてあげるわ」

「良いこと? なぁに? 教えて!」

「ええ、誰も教えてあげないでしょうから私が教えてあげるわ。()()()()()()()()()()()()()。それだけよ」

「……は?」

「だって、そうじゃない。暴力から得る愛も暴力で与える愛なんて存在しないもの」

 

 アイズの言葉に、奴は固まった。

 こいつ、揺さぶっている。

 あの変態を精神的に打ち負かそうとしている。

 

「貴女、恋はしたことある?」

「恋!?」

「バカ、黙ってろ」

 

 また、唐突に話題を切り替えた。

 だが、これも恐らく奴を揺さぶるためのもの。

 しばらく、口を挟まないでおこう。

 

「その様子じゃ、したことはないようね。いや、愛に恋してるといったところかしら? だとしたらそれも間違いよ。愛に恋したところで愛は貴女に何も返さないわ。だって、愛そのものは何かを愛するなんてこと出来ないもの」

「……さい」

「推測だけれど貴女、両親から虐待でもされてたんじゃない? それで自分は他の幸せな家族のように両親から愛されてるんだと思いたくて暴力が愛なんて言ってる。だから貴女はありもしない思い込みの愛なんてものを求めて、自分は周りと同じだと思って他人に押し付ける。違う?」

 

 まるで、見てきたようなことを言う。

 本当に、その通りなんじゃないかと思うぐらい。

 そして、当の本人は……。

 

「『うるさいッ!!!!!!』」

 

 激昂。

 これまでとはまるで違う様子で襲いかかってくる黒いライダー。

 だが、これまでの攻撃と比べると単調で精細さに欠いている。

 そんな攻撃に当たるようなアイズでもない。

 危なげなく避け続けるアイズは奴の胴を横薙ぎに切り裂いた。

 大きな火花が散り、地面を転がる奴はもう虫の息であった。

 

「終わりね」

 

 カードを手にし、左腕のボウガンのようなバイザーへと装填しようとするアイズ。

 だが、その寸前で黒いライダーは契約モンスターに連れられて逃走。

 仕留めることは叶わなかった。

 つまり、奴との因縁が続くということで……。

 

「はあ……面倒なのと縁が出来た……」

「そんなことよりも早くミラーワールドから出ないと! 瀬那もう消滅始まってる!」

 

 確かに、少しずつであるが身体が粒子へと変換されはじめている。

 もう長居は出来ない、が……。

 

「……」

 

 アイズを一瞥すると、奴は何も言わずにミラーワールドから去って行った。

 まあ、殺し合いをする仲だ。

 馴れ合うものではない。

 もう用はないし、ミラーワールドから出よう。

 それに、向こうにはバカの買ってきた五角チョコパイが待っている。

 

 

 

 

 

「あー!!! 五角チョコパイがー!!!」

 

 公園にバカの声が響きわたる。

 正直、アタシも叫びそうになった。

 

「カァー」

 

 公園のベンチに置かれていた五角チョコパイが、カラスの餌となっていた。

 

「そんなぁ……愛しの五角チョコパイが……」

 

 力なく膝をついたバカ。

 愛しの、か……。

 

「あいつ、『貴女の願いも』って言ってたな……」

 

『なるほどね……。それじゃあ、貴女の願いも愛ってところかしら?』

 

 アイズの言葉を思い出す。

 貴女の願いも。

 なんて言い方をするということはつまり、あいつの願いも……。

 いや、他人の願いなんて知ってどうするというのだ。

 アタシにはなんの関係もないこと。

 ただ、出会えば敵同士。

 そう、それだけ……。

 

「瀬那! 私また五角チョコパイ買ってくる! だからまたちょっと待ってて! ……いや、目を離すと駄目だから一緒に買いに行こ!」

「お、おいこら! 引っ張るな!」

 

 そう、ライダーは敵同士。

 だけど、こいつは……。

 

 

 

 

 

 

 

 聖山駅近くの高架下。 

 そこに、漆黒のライダー『仮面ライダーウィドゥ』

 氷梨麗美はいた。

 自身の契約モンスターにより強制的にミラーワールドから追い出され、現実世界へと帰ってきたがその心はズタボロだった。

 

 否定された。

 私達の愛を否定された。

 嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ。

 私達は間違ってない。

 私達の愛は間違っていない。

 

「そうでしょ、瑠美?」

 

 もう一人の自分へと問いかける。

 だが、返事がない。

 瑠美もまた、これまでにない屈辱を受け、返事どころではなかった。

 

「瑠美……。大丈夫。私達の愛は間違ってない。間違ってないよ。だから、瑠美。私が愛してあげるから元気出して?」

 

 そして、左の袖を捲ると麗美は自身の腕に思い切り爪を立て、何度も何度も肉を抉る。

 黒いアスファルトを血が汚し、辺りは既に赤い華が咲き誇ったかのよう。

 しかし、それを咎めるものがいた。

 

「いけませんよ。自分の身体を傷つけるなんて」

「誰……? 私はいま瑠美に愛を与えてるの。だから邪魔しないで……!」

 

 麗美はその人物を睨み付けた。

 眼鏡をかけ、髪をおさげにした清楚という言葉がよく似合う少女。

 黒いブレザーの制服は藤花学園のもので、いわゆるお嬢様学校のそれを着ているせいか余計に清楚という印象を感じさせる。

 そして、穏やかな少女であった。

 邪魔しないでと言われたにも関わらず少女は白いハンカチを手に取ると麗美が自傷した左腕の傷に当てた。

 

「こんなに傷つけて……痛かったでしょう?」

 

 そう問う少女に麗美はなんでそんなことを言うのか分からなかった。

 

「痛いのは、愛だから……」

「痛いのが、愛?」

「そう。痛いのは愛なの。お父さんもお母さんもそうやって私のことを愛してくれた。だからこうやって……こうやって……」

 

 知らず、涙が流れた。

 おかしい、おかしい、おかしい。

 痛いのが愛だったはずだ。

 暴力こそ愛情であった。

 なのに……。

 今は、それが本当にそうなのかと疑っている自分がいる……。

 

「そう、ですか。貴女はそういう形の愛しか知らなかったのですね。大丈夫です。愛の形は様々。だから、私が貴女に愛を教えましょう」

「え……?」

 

 私には、この少女が光輝いて見えた。

 今まで、こんな人と出会ったことはなくて……。

 最初に愛を教えてくれたのは瑠美だった。

 けれど、別の形の愛があるというのならそれを知るのもいいかもしれない。

 愛を知れば、あの女を黙らせることも出来るだろう。

 

「私は樋知十羽子(ひじりとわこ)といいます。貴女のお名前は?」

「私は、麗美。氷梨麗美」

「そうですか。麗美さんというのですね。では、私が教えて差し上げます。神の寵愛を受けるということを……」




次回 仮面ライダーツルギ

「なんだ~鏡華ちゃんのお友達だったのね~!」

「さて、そろそろ盛り上げていこうか。このライダーバトルという祭典を……」

「プロジェクト、ナイト……?」

「待ってたんですよ。御剣君を……」

願いが、叫びをあげている────。


ADVENTCARD ARCHIVE
STRIKE VENT(仮面ライダーウィドゥ)
ブラッククロー 1000AP

仮面ライダーウィドゥの契約モンスター=ブラックスキュラを模した手甲。
両手に装備され、細長い指の爪が伸びたかのように見える。
攻撃力は低いが指先には毒があり、引っ掻いた相手に戦闘中じわじわとダメージを与える。

たっぷり愛を愉しむのに、過剰な力は必要ない。

キャラクター原案

樋知十羽子  正気山脈様

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