仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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?+1ー23 涙雨

 地面を転げる。

 胸に走る痛み、よりも驚愕の方が大きかった。

 

「射澄さん、どうして……」 

 

 僕の問いかけに答えはない。

 これが答え言わんばかりに振るわれる槍は無言で僕の命を奪おうとしてくる。

 スラッシュバイザーで槍を弾く。

 なんで、どうして。

 刃がぶつかると同時に疑問をぶつける。

 やはり、答えはない。

 鍔競り合う。

 仮面と仮面がぶつかりそうな距離。

 

「答えてください射澄さん! 僕には分からないですよッ!」

「……ッ!」

 

 射澄さんに蹴り飛ばされる。

 眼前を、巨大な手裏剣が通り過ぎていった。

 

「ああ、惜しい。まだ連携ってのは難しいね」

 

 くそ、敵は……。

 敵は、射澄さんだけじゃない……。

 

「なっちゃんも混ぜてよ~♪ えーい♪」

 

 群青色のライダーが逆手にもった二本のナイフで切りつけてくる。

 だがこの距離は僕の距離。

 容易くやらせはしない。

 バイザーでナイフを弾き、柄で鳩尾を突いた。

 

「ガッ!? ぼ、暴力的な子は嫌いなんだから!」

 

 鳩尾を押さえながら後退する群青のライダー。

 やけに甘ったるい、アニメ声みたいなこの声は聞き覚えがある。

 

「君は放送部の玄汐夏蜜柑(げんせきなつみかん)だな!」

「あは♪ ばれちゃった~。さすがなっちゃん有名人♪ みんなのお耳の恋人だからね~。変身しててもすぐ気付かれちゃう♪」

 

 特徴的な声。

 昼の校内放送は彼女の独壇場と化したほどの声。

 そして話術。

 これまた濃い人物がライダーになったな……!

 

「チッ。だから仲間に入れたくなかったのに……」

「えーイツイツひっどーい☆」

「イツイツ言うな!」

「なにを遊んでいる」

 

 吼帝が前に出た。

 ふざける配下達を咎めるその様は正に王といった様子で他のライダー達はしぶしぶと下がっていった。

 

「他のライダー達よりはやるようだ。少しは楽しめそうだな」

 

 奴が、来る。

 奴は他のライダーとは雰囲気が違う。

 心してかかれよ……。

 自分にそう言い聞かせ、剣を構え直す。

  

「さあ、殺し合おうか」

 

 両手を広げながら歩み寄る吼帝。

 さあ、どこからでも来いと言わんばかりの自信。

 すごいプレッシャーだ……。

 まるで、高い城壁が迫ってきているかのよう。

 僕はこいつに勝てるのか……?

 いや、勝つことではない。

 今は生き残ることを考えよう。

 

「いくぞ」

 

 その言葉が開戦の合図。

 吼帝の鋭い拳が、眼前に迫る。

 速い……。

 首を傾け回避。

 そして目線は続く二撃目を放とうとする右拳を捉えていた。

 右の拳が放たれようとする。 

 

「ッ!!!」

 

 逆手に持ったバイザーを押し付けて拳を殺す。

 放たせない。

 打たせない。

 一瞬の膠着。

 動いたのは僕の方だった。

 くるりと回りながら間合を取ると同時に逆手に持ったバイザーで胸部を斬りつける。

 大して効いてはいなさそうである。

 デッキからカードを引き、召喚したのは太刀。

 

「やはり、やる……」

 

 そう言うと左腕の獅子の顔を模した召喚機の取手を引きカードを装填する吼帝。

 

【SWORD VENT】

 

 舞い降りる剣は彼の身の丈ほどもある片刃の両手剣であった。

 取り回しは悪そうだが、当たればひとたまりもないだろう。

 

「ふんッ!」

「はあッ!」

 

 同時に駆け出す。

 速いのは僕の方だ。

 横薙ぎに振るわれた剣を刃先ギリギリのところで回避して一瞬で間合に入る。

 このまま斬る……!

 左肩から袈裟に切る。

 だが、浅いか……?

 いや、装甲が硬いからだ。

 

「その程度かッ!!!」

 

 吼帝の剣が振るわれる。

 太刀で受け流しながら回避する。

 火花が散る。

 刀身は……問題ない。 

 刃を受け流し終えるとすかさず逆袈裟、横と縦に一閃ずつ。

 だが、硬い……!

 吼帝はどんな攻撃をも飲み込んで、疲弊した相手に高い威力を誇る攻撃を見舞うのだろう。  

 ならば、どうする。

 戦いながら思考する。

 悪戯に攻撃しても大して意味はない。

 こうなれば、狙うのは……急所。

 いや、駄目だ。

 もしそれで、相手の命を奪ってしまったら……。

 

「ガハッ!?」

 

 突然、背中に走る痛み、衝撃。

 しまった。 

 吼帝にばかり気を取られてしまった……。

 

「黒峰。邪魔をするのか」

 

 忍者のようなライダーの手元に巨大な手裏剣が帰っていった。

 吼帝は一対一の戦いを邪魔されたことに苛立っているようだ。

 

「邪魔じゃなくて助けてあげたんでしょうが。それに、そいつをやるのは神前だって言ったのはあんたでしょ」

「ふむ……。まあ、少し遊び過ぎたか。神前、やれ」

 

 吼帝からの指示を受けた射澄さんが迫る。

 ゆっくり、ゆっくりと歩み寄る。

 

「射澄さん……!」

 

 槍が振るわれる。

 太刀で受けようとしたが上手く力が入らず弾き飛ばされてしまった。

 そのままの勢いで袈裟に切り裂かれ、地面を転げる。

 すぐに立ち上がろうとしたが、顔前に切っ先が向けられていた。

 

 数秒の沈黙。

 切っ先を向けたまま、射澄さんは動かなかった。

 仮面に雫が落ちた。

 黒い雲に覆われた空。

 雨が、降りだした。

 

「どうした神前。やれんのか」 

 

 吼帝が問う。

 射澄さんは槍をこれでもかと力を込めて握りしめると思い切り振り上げた。

 ここで、終わるのか……。

 くそ……!

 

 

 

 

 

【ADVENT】

 

 バイザーの電子音が響いた。

 この場にいた誰もがカードを使用した者を探した。

 

 つまり、この場にいる者ではない。

 第三者の登場。

 

「ッ!?」

「ええッ!?」

 

 僕と射澄さんの頭上に現れた巨大な影。

 僕らのいる場所に自由落下してくるそれは見た感じかなりの重量がありそうだ。

 あれに踏み潰されたらまずいと射澄さんはすぐに離脱。

 僕もなんとか間に合った。

 落下してきたモンスターは白金に輝くヘラクレスオオカブトのようなモンスター。

 

「ふっ……」

 

 空から、ライダーが舞い降りた。

 白金の堅牢な鎧を纏う輝かしい騎士。

 

「何者だ貴様」

「私は仮面ライダーリーリエ。白金の騎士。姫を不埒な輩から守護するために参上した」 

 

 かなり大袈裟な物言いというか芝居染みた名乗り。

 だがそれが当然といったようなリーリエと名乗ったライダーは堂々としていた。

 それにしても姫?

 一体姫とは誰のことかと訝しんでいるとリーリエさんは僕に向かって跪いた。

 

「あなたの危機に参上致しました。姫」

 

 姫。

 姫。

 

「あの、姫って僕のことですか……?」

「貴女をおいて他に誰がいるというのですか?」

 

 あれ、この人もしかして……。

 

「もしかして、北さん、ですか?」

「ええ、そうですとも。そしてどうか津喜と名前で呼んでほしい。姫」

 

 ああ、ああ。

 これまた濃い人がライダーになったなぁ。

 

「あの僕はおと……」

「ふざけた奴。奴も消せ」

 

 男だと言おうとすると邪魔が入る。

 気が付けば三人に囲まれていた。

 

「ふっ。君達のような悪逆の徒に負ける私ではない!」

「北さん相手は三人です! 危険ですよ!」

「安心してください姫。貴女をお守りするのが私の役目。共に生きて帰りましょう。はあッ!!!」

 

 そんなことを言って駆け出した北さん。

 ヤバい完全に役に染まってる。

 ロールプレイしてる。

 そして意外と強い。

 三人相手に負けてない。

 

「硬い……!」

「君達が脆いだけさ」

 

 白金の鎧は生半可な攻撃なんて通さない。

 あの三人では火力不足のようだ。

 だが数の不利はなかなか覆せないものである。

 次第に押され始めてきた。 

 というか、もう僕もヤバいか……。

 時間がもうない。

 

「ッ……。姫を守ることが最優先だ。ここは退かせてもらうよ」

 

 撤退するリーリエ。

 三人が追いかけようとするが目の前にリーリエの契約モンスターが立ちはだかった。

 巨体で堅牢なヘラクレスオオカブトのようなモンスターであるが見た目よりも動きは遅くない。

 地面をその巨大な角で叩くと土煙が起きて煙幕代わりに。

 今のうちに……!

 

 

 

 

 

 喫茶アイスルーム。

 閉店の時間であったが親戚である美玲とその後輩である鏡華のために場所を提供していた。

 

「プロジェクト・ナイト。つまり貴女のお兄さんがライダーというシステムの開発者というわけね……」

「はい。そしてこれには御剣君の名前とツルギの設計図がありました」

「燐の……?」

  

 資料を捲り、確認する。

 そこには確かに御剣燐の名前があった。

 

「これはどういうこと? 燐は最初からツルギになる予定だったということ?」

「それは、分かりません……。兄と御剣君に関係があったかも分かりません。何より御剣君は知らないようでしたし……」

 

 それでは一体どうして。

 考えても二人には答えが見えなかった。

 

「そういえば、神前さんから咲洲さんに本を返しておいてほしいと頼まれていました」

 

 鞄から取り出した本を美玲に差し出す鏡華であったが美玲は戸惑っていた。

 

「私、射澄に本を貸した覚えはないわよ。私が借りることはあっても射澄が私から本を借りるなんてあり得ないわ」 

「え……。けど、感想も伝えられました。明智光秀の気持ちがなんとなく分かるって」

「明智光秀……。まさか……」

 

 嫌な想像をする美玲。

 それを掻き消すように鳴ったスマホ。

 しかし……。

 

「もしもし。燐、どうかした?」

『射澄さんが……。射澄さんが……』

 

 

 

 

 

 

 

「チッ。変な奴のせいで逃がすなんて……」

 

 暗い生徒会室の中、先程の戦いに参加していた者と佐竹副会長の六名が集結していた。

 

「ねえ、あいつ誰か知らないの?」

「知らない。私が行動を共にしていたのは彼と美玲と美也だけ。あとはライダーではないが宮原鏡華ともね。もしかしたら御剣燐と個人的に繋がりがあったのかもしれない」

 

 射澄がそう告げる。

 言葉には力は無く、誰に対して言ったでもないような。

 虚に消えていくよう。

 

「……神前」

 

 自身の席に座り、ずっと壁を睨み付けていた鐵宮。

 いつもより低いトーンで射澄に声を掛けた。

 その様子に生徒会室にいた面々に緊張が走った。

 

「……なんだい」

「御剣燐は……強いか」

「どういう意味かな?」

「言葉通りの意味だ」

 

 意外な問いに戸惑った射澄だったが平静を装い答える。

 

「ああ、強いよ。刃を交えて理解したと思っていたけど。何か気になることでも」

「……私は、頂点に立つ者だ。全てにおいてだ。だがそれに障害があるならば乗り越えねばならない。そしてその障害が高ければ高いほどに私が君臨する頂点は高いものとなる」

 

 その場にいた誰もが鐵宮の底知れない『頂点』への執着に戦慄した。 

 御剣燐をただの『敵』と見ず自身の『障害』と見た彼の貪欲なまでの頂点への渇望を。

 

「それはいいけどさーどうするの? 逃がしちゃった以上は追わなきゃじゃん?」

 

 机に腰かけていた小柄な少女、夏蜜柑が足をばたつかせながら尋ねた。

 

「案ずることはない。いずれ、再び見えることになる。戦場でな」

 

 戦場……。

 再び、彼と刃を交えなければならないというのかと内心で苦虫を噛み潰す。

 そんな中、射澄のスマホが振動した。

 誰からと確認した射澄は目を見開いた。

 今、最も会いたくない相手……。

 

「今日はこれで失礼するよ」

「えー☆ なに下っ端かつ裏切り者の分際で勝手に帰ろうとしてるんですかぁ?」

 

 射澄を行かせまいと壁を蹴り阻む夏蜜柑。

 しかし意外なことに鐵宮が夏蜜柑を咎めた。

 

「いい玄汐。行かせてやれ」

 

 不服そうに足を下ろした夏蜜柑は射澄を睨み付ける。

 そんな視線に意を介すこともなく射澄は生徒会室を後にした。

 

「いいんですか? なっちゃんあいつのこと信用ならないです」 

「いい。もし始末するというのなら、それは奴が行動に移した時だ。何か裏があるのなら泳がせる。ないならそれまで」

「そうですか。あ、あとそういえばハルハル~。あなたやる気あるんですか~? ちょっと消極的だと思ったんだけど~」

 

 玄汐の次なる怒りの矛先はハルハルと呼ばれた少女、新島陽菜(にいじまはるな)に向いた。

 

「そんなことは……」

「ヤるならもっと本気でやってくださいよ~。殺しそびれたらなっちゃんのお給料下がっちゃうんだから~」

 

 玄汐は鐵宮から金銭を受け取ることを条件に彼の下についた。

 歩合制というのもありこの場の誰よりもライダーを倒すことに関しては人一倍気合が入っていた。

 

「いいや、なっちゃんも帰る。それで一人か二人殺そっと。そしたらお金、くれるでしょ?」

「……殺した奴のデッキかメモリアを忘れずにな」

「はーい☆ それじゃおっさき~」

 

 気持ちを切り替え物騒なことを言って去った玄汐を見送った樹は鐵宮を少しばかりからかった。

 

「結構懐かれてるじゃん」

「戯け。あの手の手合はこちらに出すものがなくなったと見れば即手を切る輩だ。信用はするが信頼はしない」

 

 信用はするが信頼はしないという言葉の意味が分からない樹はどっちも同じだと切り捨てた。

 

「それで、新島君」

「……なんだ」

()()している」

「ッ!?」

 

 平坦な口調でそう告げた鐵宮であったが新島に向ける視線には圧を感じさせるものがあった。

 

「分かってるさ……!」

 

 それだけ言って彼女も逃げるように去って行った。

 生徒会室には鐵宮、樹、佐竹の三人のみ。

 

「……一気に賑やかになりましたね」

 

 これまでずっと黙っていた佐竹が口を開いた。

 

「ふむ。確かに、口数が多いのが約一名だ。私はもっと奥ゆかしい女性が好みなんだがね」

「あんたの好みなんて知らないよ。ただ素直に手勢に加わるって言った奴等に招集かけただけなんだから」

「手厳しいな。だが、その仕事の早さには関心するよ。黒峰君も佐竹副会長も」

 

 珍しく褒めるということをした鐵宮。

 今の彼はどちらかというと一般社会で生活する方の表の彼が強く出ているようだった。

 しかし二人は当然彼の裏を知っている。

 知っているからこそ褒められたところで喜ぶなんてことはしないのだ。

 

「そういえば、咲洲美玲はどうだった」

「考えておくとは言っていたけど……。正直、あの手のタイプは釣れないと思う。我が強くて」

「なるほど。氷の女の異名は伊達じゃないか」

「その、氷の女ってなんなの」

 

 時折、美玲を指して氷の女と呼ぶのが気掛かりな樹。

 わざわざそんな呼ばれ方をするのだからなにかしら理由があるはず。

 その理由がどういうわけか異様に気になったのだ。

 

「彼女、去年の三年の先輩から交際を申し込まれてね。それもなかなかの人気者。けれど彼女はそれを断った。それも、手厳しく」

「詳しいな佐竹副会長」

「彼女のことを調べていたので」

 

 氷の女。

 樹は脳内でその言葉を反芻する。

 確かに、あの女に似合いの言葉だと一人納得すると同時に苦手意識を感じてしまった。

 心の内を見透かされているような、あの冷たい視線。

 出来れば、早いうちに潰しておきたいとすら思った。

 

「さて、我々も帰るとしよう」

「了解。で、しばらくはどうするの」

「これまで通りでいい。仕掛ける時は仕掛けると号令を出す。まあ、君が絶対に勝てると自信がある時は一人で挑んでもいいがね。それじゃあ」

 

 鐵宮も部屋を出た。

 あとを追うようにして佐竹も行った。

 樹は一人、生徒会室に残った。

 窓の外は小雨が静かに降り続けている。

 

「傘、ないな……」

 

 独白は闇に消える。

 雨が止むまで待っていようと、イヤホンを耳に付けお気に入りの曲を再生させた。

 

 

 

 

 

 

 美玲先輩に射澄さんのことを報告し終える。

 射澄さんのことも気掛かりではあるが……。

 

「まさか、北さんまでライダーだったなんて……」

「ああ。これでも古参なんだ。ライダーとしてはリーリエと名乗らせてもらっている」

 

 リーリエ。

 たしか、ドイツ語で百合だったか。

 堅牢な鎧には合わない名前だとは思ったが口には出さなかった。

 

「とにかく、助けてくれてありがとうございました。もし、北さんが来てくれなかったら……」

「礼には及ばないよ。君を助けるのは当然じゃないか。それと、津喜と呼んでほしい。君のその口で」

「えーと、分かりました。その、津喜、さん?」

 

 名前で呼ぶと、北さんは頬に手を当て身体をくねらせた。

 

「あー耳が幸せとはまさにこのこと……。つ、次はこう、耳元で!」

 

 ……何か、ヤバいものを呼び覚ましてしまった気がする。 

 これ以上はいけない。

 

「むう。それじゃあ別のお願いを」

「なんですか?」

「その、身体を触ってもいいかな」

「駄目です」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

「話聞いてました!?」

 

 うねうねと指を動かす北さん。

 駄目だと言ったというのにその両手は僕の脇腹を掴まえていた。

 

「おお……意外と筋肉があるようだ。筋トレしてる? いいや問題ない。むしろ健康的というかこの可愛さでかつ筋トレ女子ともなればもうヤバいのでは? 属性過重積載では? だがそれがいい!」

「あの、ちょっ……んっ……」

 

 な、なんか手つきが怪しい……。

 これ、本当にヤバ……。

 

『ストーーーップ!!! ストップ! ストップです! 不純異性交遊はいけません!』

 

 突如響いた第三者の声。

 窓ガラスにうつる少女、アリス。

 

「アリス……」

『駄目ですよ津喜さん!』 

「別にいいだろう。ライダーバトルにはなんの関係もない」

『駄目ったら駄目です! 次やったら殺しますよ!』

 

 脅しているのだが、なんだかいつもと違って怖くはない。

 なんというか、小さい子が頑張ってビビらせようとしている感が強い。

 

「それで、何の用だい? 君がわざわざ出向くなんて何か用があるのだろう?」

『えっ。あ、いや、その……。燐君ッ!!!』

 

 急に大声で僕を呼び、指差すアリス。

 その顔は若干赤くなっていた。

 

「な、なに?」

『じょ、女装似合ってますねッ!!! それじゃあッ!』

 

 それだけ言うとすぐにアリスはいなくなってしまった。

 ……なんだったんだ、一体。

 

「なんだったんだ一体アリスは。……ん? 今、アリスはなんて言った?」

「え? それじゃあ、ですか?」

「違うその前」

「女装似合ってます。あ」

 

 あ。

 いや騙してたつもりとかないしなんならずっと男だと主張してたけど聞く耳を持たなかったのはそっちですしああもうどうにでもなれ。

 それにしてもすごい落ち込みようでがっくりと項垂れてしまった。

 まあ、期待の反動が大きかったのだろう。

 残念ながら僕は男なのだ。

 

「じょ……」

「じょ?」

 

 女装だったのか!

 なんて怒られるのかもしれない。

 しかし、この人は僕の予想を悉く上回る。

 斜め上の方向に。

 

「女装男子だとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 どうやら、違う燃料を投下してしまったらしい。

 誰か、助けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぱらぱらと降っていた小雨は止んだようだがまだ空はぐずついている。

 指定された場所、藤ヶ丘公園は聖山駅から徒歩20分の街中にある一番大きな公園。

 春には桜が咲き花見客で賑わい、そこから少し季節が進めば今度は見事な藤の花が見所となる。

 公園内にある浄禅(じょうぜん)の池近くの東屋で一人、彼女を待つ。

 今までの人生で、これほどまでに緊張したことはなかった。

 まるで……。

 

「死神でも待ってる顔ね、射澄」

「美玲……」

 

 いつもと全く同じ仏頂面の美玲がようやくやって来た。

 なんとも、見たくなかった顔である。

 かといって鬼の形相を浮かべる美玲や泣きながら現れる美玲なんてのも想像はつかないし絶対にそんなことはないだろうから想像通りではあったが。

 

「……それで、何の用かな。わざわざ呼び出して」

 

 聞かなくとも分かる。

 分かるのだ。

 これでも、付き合いは長い方で美玲の理解者を気取っているのだから。

 

 そして、私の予想通りに美玲は私にデッキを見せつけた。

 

「ああ、そうだね……。ライダーは殺し合うものだから……」

 

 私も、意思を示した。

 互いに見せつけあったデッキを手に歩きだし、近くの管理所の窓ガラスに向かってデッキを突き出した。

 美玲は鳥が羽を広げるように腕を広げる。

 対して私は右の拳を左胸に置いた。

 美玲がどこからでも来いと言っている中、私は自分を守っているかのようだった。

 いや、実際にそうなのだろう。

 私は私自身を守ろうとしている────。

 

「変身」

 

 美玲が鎧を纏った。

 鳥を思わせる、青と銀のライダー。

 彼女が、敵……。

 

「……変身」

 

 私も鎧を纏った。

 だが、やけに重い気がした。

 さっき、燐君と戦った時よりもずっと……ずっと……。

 そんな重い鎧を引き摺るような感覚でミラーワールドへと向かう。

 

 ああ、どうしようもなく……。

 

 苦しい……。

 

 痛い……。

 

 辛い……。

 

 身体が重い。

 武器が重い。

 頭が重い。

 

「……これで、終わりね」

 

 気が付くと、目の前には剣の切先が突きつけられていた。

 ああ、さっきの逆だ。

 これは罰なのだと。

 裏切り者には相応しい末路であると。

 

「何か、言うことはないの」

「何もない……。当然の報いだとも……」

 

 受け入れよう。

 この結末を……。

 

「……帰るわよ」

「え……」

 

 どういうわけか、美玲は剣を下ろした。

 そして、私に手を差し伸べたのだ。

 

「どういう、つもり?」

「誤解しているようだから言うけど、別に私は貴女を殺しに来たわけじゃないわ」

「じゃあ、なんで……」

「軽い運動よ」

「……運動にしては、物騒じゃないかな。私、ボロボロなんだけど」

「それは運動不足のせいね。読書ばっかりしてないで身体を動かさなければ駄目よ」

 

 ……ああ、まったく。

 敵わないなぁ……。

 

 

 ミラーワールドから戻り、二人で池の周りを歩いていた。

 夜の池や海というものはなかなかにホラーだと思う。

 そんなつまらないことを考えるのがミラーワールドから戻ってきてからというものずっと互いに無言だったから。

 ようやく痺れを切らした美玲から切り出してくれたが。

 

「それで、聞かせてくれるのよね?」

「もし、言わなかったらどうする?」

「殴るしかないわね。燐の分も合わせてグーで」

「それは嫌だな。さっきもボコボコにされたのに今度は直にとはね」

「まあいいわ。昨日の晩、何があったの」

 

 そうして、ようやく本題を私は語り出した。

 弱い私を許してくれと前置きしてから。

 

 

 

 暗い夢の世界を通り過ぎ、瞼を開くとそこはさっきと変わらないような暗い部屋の中であった。

 薄暗い部屋の唯一の光源は蝋燭のみ。

 ここは……。

 古くカビ臭い畳の上に寝かされ、後ろで手を縛られている。

 そして目の前には鉄製の柵。

 

「座敷牢。まさか、実物を見るどころか捕らえられるなんて」 

 

 こうなる直前の記憶を呼び覚ます。

 お団子君とミラーワールドへ行って……。

 

「早いお目覚めで助かるよ神前射澄君」

 

 男の声。

 こんなに傲慢さを感じる声は聞いたことがない。

 

「鐵宮生徒会長……」

 

 襖を開いて現れた美丈夫は学校で幾度となく目にした聖山高校現生徒会長、鐵宮武。

 学校では文武両道、誰にも隔てなく優しく、正に生徒の模範たれという生徒会長に相応しい人物であるが、今の彼にはそんな様子が一切見受けられなかった。

 

「流石、図書室の番人と言われるだけのことはある。この状況下でも冷静だ」

「焦っても仕方ないからね。それで、私を捕らえて何の用かな?」

「話が早くて助かる。君のような知的な女性は好みだよ。昔から私は女というのが嫌いでね。甲高い声で騒がれるとむしゃくしゃする。おっと、余計な話はここまでにしよう。用件はひとつ。私の軍門に入りたまえ神前射澄」

 

 軍門ということは、彼もグループを形成しているということか。

 いやはや、恐ろしい相手だ。

 少女達の遊戯に混ざる男。

 燐君と同じイレギュラーではあるが、燐君のように戦いを止めたいだなんて思っていないだろうこのタマは。

 

「君の軍門に下るとどんなメリットがあるのかな?」

「メリットか。他のライダー達には私が頂点となったら君達の願いも叶えてやろうと言っている。どうかな? 君の願いは……いや、聞くまでもなかったか」

 

 取り出したのは私のデッキ。

 やはり、取り上げられていたか。

 

「メモリアカード。これに何の意味があるのか私には分からなくてね。弱点を晒しているとしか思えんのだ。君の願いは……【OMNISIENCE】。全知か。なるほど、らしい願いだ」

「全知そのものがほしいんじゃない。全知を得るための時間が欲しいんだ」

「ふむ。全知など到底人の寿命ではなし得ないものだ」

「だからこそ願ったんだろう。このバカらしいゲームにね。それに、君の軍門に下ったところで成し得ない願いではないかな?」 

 

 煽る。

 打開策を思いつく時間を稼ぎたかった。

 しかしこの状況を打開するなんていうのは……。  

 

「なるほど。それじゃあ、このメモリアを破くか。前に破いてどうなるか見てみたかったのだが駄目でね。さて、願いの反転とは一体どうなるのか……」

 

 カードに手をかける鐵宮。

 メモリアを破かれてしまっては……!

 

 

 

「それで、鐵宮に付き従ったわけ?」

「ああ。ライダーでなくなるわけにはいかなかったんだ……」

 

 ああ、そうだ。

 私はまだ死ねない。

 死ねないのだ。

 美玲は聞くことをしなかったが、私は自分から語り出した。

 

「……彼女を助けるまでは、死ねない」

「影守美也のことなら貴女のせいじゃ……」

「いや、私のせいだ。私が、私が弱かったから彼女を奪われるなんてことになってしまった……。彼女を取り戻すまでは、死ねない……!」

「射澄、貴女そこまで……」

「美玲にとっての燐君のようなもの。とでも言えば分かるかな。これまで特別欲しいなんて思っていなかったが、実際にあそこまで付き合ってくれる後輩というものが出来て、私は嬉しかったんだ。燐君や彼女という後輩が出来て私は先輩面というものをしたくなったんだよ。だけど彼女は奪われた。取り返そうとして生き恥を晒せば今度は燐君を殺せときた。もう、どうにかなってしまいそうなんだ……!」

 

 美玲はただ、静かに聞いていた。

 そして、たった一言。

 

「馬鹿じゃないの」

「……酷いね。けど事実だ。私は取り返しのつかないことをするところだったんだ……」

「そうね。けど、まだ取り返しはつくところよ。そして、私が取り返すわ。射澄のメモリアを」

 

 驚きのあまり目を見開いた。

 いつもの平坦な口振りで、無謀なことを言い出した。

 

「鐵宮は強い! それに他にも仲間がいるんだ。彼女達も強い……」

「そう。けど、いずれはやりあっていた相手よ。それが早まった程度の話。それに、まだ勢力を伸ばしきっていない今が叩くチャンス」

「それは、そうかもしれないけど……」

 

 だとしてもなんて無謀をしようとしているんだ美玲は。

 頭はいいが、とんでもないことを言い出すのだから。

 

「何も鐵宮の一派全員とやり合う必要はないわ。頭が倒れれば瓦解するはずよ」

「鐵宮一人を倒す……」

「そう。あと散り散りになった奴等は各個撃破。これでいいでしょう?」

「敗残兵まで潰すとは怖いね美玲は」

「これはそういう戦いだって、忘れたかしら。私は元々戦いを止めるつもりなんてないのだから当然よ」

 

 本当に恐ろしい女だな美玲は。

 敵に回したくない人物ナンバーワンの称号は伊達ではない。

 それにしても……。

 

「本当に、熱い女だね君は」

「? 何か言った?」

 

 私の呟きは美玲の耳には届かなかった。

 まあ、聞かれたところでなんてことはないのだが。

 

「……さっき戦う必要はあったのかな? なんだか無意味にボコボコにされた気がするんだけど」

 

 少し話をぶり返す。

 この話をするだけなら、あんなにボコボコにされる必要はないと思うのだが。

 

「射澄、貴女は強がるから。どっちが上かハッキリさせないと素直に話してくれなかったでしょう」

 

 これはまた手厳しい。

 確かに、自分一人で解決しようとしていたからそれはあるかもしれない。

 

「それと、あなたにやられた燐の分の仕返し」

「……ひょっとして、それが一番の理由じゃない?」

「かもね」

 

 ああ、本当に……。

 

「射澄。貴女は要領いいくせに不器用過ぎるのよ。もっと周りを頼りなさい。私達、友達でしょう」

 

 ああ、本当に……。

 

「ああ、そうだね……」

 

 ああ、本当に恐ろしい女。

 けど、それが私の数少ない友達。

 

「ちょっと、なに泣いてるのよ」

「いや、すまない……」

 

 ああ、本当に今日何度目の涙だろう。

 こういう時こそ誤魔化すための雨というものがほしいのに天は私の思い通りにはならないらしい。

 だけど、今は少しだけ……。




次回 仮面ライダーツルギ

「デッキよ。デッキをちょうだい」

「美容院! 美容院行こ!」

「なっちゃんこと仮面ライダーテュンノスだよ~☆」

「上谷さんッ!!!!」

願いが、叫びをあげている────。


ADVENTCARD ARCHIVE
ADVENT (仮面ライダーリーリエ)
プラチナムヘラクレス 5000AP

北津喜=仮面ライダーリーリエと契約しているヘラクレスオオカブト型モンスター。
白金に輝く身体と赤い角が特徴的。
パワーと堅牢さに優れたモンスターでリーリエにもその特徴は受け継がれている。

光輝なり、剛毅なる至宝の角を見よ!

キャラ原案
仮面ライダーリーリエ
玄汐夏蜜柑・仮面ライダーテュンノス/はっぴーでぃすとぴあ様

新島陽菜・仮面ライダーグリズ/ガジャルグ様

素敵なキャラクターありがとうございます!
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