夜の校舎というのは昼と違って不気味なものである。
何か、出てくるのではないかと柄にもなく考えてしまう。
『こんばんは~佐竹さん』
何か出てくると思っていたら、本当に出てきた。
私が今一番色々と文句をついてやりたい相手が。
窓ガラスの中でニコニコとした笑顔を顔に張り付けている。
「アリス……!」
『佐竹さん怖いですよそんな顔したら。私みたいに笑顔でいきましょうよぉ。ほら、ニコ~って』
芝居がかった笑顔。
本当に笑ってなどいないことは明白であった。
いや笑ってはいるのだろう。
最も、字としては嗤うの方だ。
「わざわざ話しかけてきたってことは私に用があるのでしょう。私も貴女に色々と言いたいことがあるからちょうどいいわ」
『私に言いたいこと、ですか。まあ、聞いてあげないこともないですよ』
この上からの物言い。
気に食わない。
「デッキよ。デッキをちょうだい」
『デッキならもうあげたじゃないですか?』
「奪われたのよ! それも男に!」
『……へぇ。私はてっきり佐竹さんが
「そんなわけ!」
『別にルールとしては駄目とは言ってませんし、強い人に代わりに闘わせるなんて佐竹さんは頭がいいなぁってアリスは思っていたんですが違いますか?』
私が……。
確かに、自分以外の人間に代理で闘わせることは禁止とはアリスは言っていなかった。
もしかしたら、このまま鐵宮を利用していけば……。
『デッキの所有権は貴女にあります。なんせメモリアは貴女の願いを記憶しているのですから。あの男が最後まで生き残ったとして、叶うのは佐竹さん。貴女の願いなんですから』
そうだ。
そうだ、そうだ、そうだ。
叶うのは私自身の頂点という願いであって鐵宮が頂点になるわけではない。
あいつを利用して私が頂点になった時。その時があの男の終わり。
あの男の処刑の時だ。
『それじゃあアリスによるライダー個人面談は終わり! 今後も
アリスは消え、鏡に映るのは私の虚像。
嫌な奴だが、おかげで私の闘い方は定まった。闘いに勝利した時のヴィジョンも。
このままの調子でいけば、私は、勝てる……!
『ルールで駄目とは言っていませんが、良いとも言っていないんですよねぇ……』
ミラーワールドで独り、佐竹日奈子の様子を伺いながら呟いた。
ああ、つまらない仕事だとため息をついてからまだ校舎の中に燐がいることに気付いたアリスは燐のところへ向かったのだが……。
聖山市屋戸岐町。
そこのアーケード街を歩き、いつものようにモンスター、ライダー探しを行っていた。
「ねえ瀬那」
「なんだ」
「美容院! 美容院行こ!」
また何を言い出すかと思ったらこいつは……。
「行かない」
「えぇ!? どうして! 髪の毛ヤバいよ! うちのお風呂使うようになってからリンスするようになったりしたけどもうヤバいって! ボサボサだよ! 髪が柳みたいになってきてるよ!」
柳とはずいぶんな物言いだ。
多少前髪が伸びてきた程度の話だ。帰ったらハサミを借りよう。
「瀬那。今帰ったら自分で切ろうとか思ってるでしょ」
……存外に、勘が鋭いようだ。
「別にいいだろ」
「よくない! 髪は女の子の命なんだよお母さんが言ってた! だから明日、私が通ってる美容院連れてくから!」
「はあ? そんな美容院なんて行く金アタシには……」
「私が出す!」
「はあ!? そんなことのために自分の金を使うんじゃない馬鹿!」
「ふっふーん。私はマジシャンだからね。ショーでお小遣い稼いでるから瀬那が心配するほど持ってないわけじゃ……」
自信満々でそんなことを演説し、ショルダーバッグを漁っていると、バカは通行人とぶつかってしまった。
「あ、すいません……」
「いえいえこちらこそ」
軽く会釈して、その通行人……。少年は人ごみに紛れ、去っていった。
「さて、話を続けるとだね。私は既にそれなりに稼げていてだね。今もお財布には……お財布には……」
ショルダーバッグの中を漁り続けるバカの顔色は悪くなる。
冷や汗もかいている。
「……おい」
「嘘でしょ! お財布ないよ!」
「どうせ家に忘れてきたんだろ」
「そんなことないよ! お昼に購買でパン買ったもん!」
「それじゃあ学校に忘れて……」
いや待て。
まさか……。
「さっきの奴……」
すかさず走り出す。
まだそこまで遠くには行っていないはず。
だがこの人の多さは厄介だ。
それに、
「いた……!」
懸念とは裏腹に、さっきの奴はまだ近くにいてくれた。
小さな背中、肩ぐらいまで伸びたらバッサリと切った髪。
このまま捕まえてもし仮に犯人だとするならば財布を取り返す。
しかしここで、あの少年はチラリと背後を覗いてアタシの姿を見つけたのだ。
そうなれば、奴がどういう行動に出るかは分かっている。
逃走。
勢い良く走り出したその背中はどんどん小さくなっていく。かなり足には自信があるようで実際に速い。
小柄なのも相まって人ごみを糸を縫うように駆ける相手はかなりこの手のことに慣れているようだ。
恐らく常習犯なのだろう。
アタシよりも年下だろうにもうそんなことに手を出すなんて……。
別に叱ろうなんて気はない。が……。
何故だろう。
こんなにも胸がざわつくのは。
何故だろう。
こんなにも腹立たしいのは。
────気が付くと、アタシの手は少年の肩を捕らえていた。
「うわっ」
少年は軽く驚くと焦る様子も見せずにバカの財布を手渡してきた。
「お姉さん足速いんだね。追い付かれたのは初めてだよ。それじゃ!」
「あ、おい!」
少年のそんな態度に呆けてしまい少年を逃がしてしまった。
いや、別にいいか。
目当ての物は帰ってきたわけだし……。
「瀬那!!!」
往来で大声を出すのは酔っ払いかバカくらいのものだろう。今回は後者の方である。
「あ、お財布! 取り返してくれたの!」
「あ、うん……。犯人は逃げたけど」
「それでもいいよ~! ありがとう~!!!」
「ちょっやめ……」
抱き付いてきたバカを突き放そうとするが吸盤でもついてるんじゃないかと思うほどに離れない。
私が突き放すのに悪戦苦闘していると、この辺りを巡回していたであろう警官二人組が近寄ってきた。
「君、その子がお友達?」
「はい! お財布取り返してくれました!」
どうやらバカが呼んできたらしい。
まあ、妥当な判断ではあるが……。
「……なにか?」
「あぁ、いや、なんでもないよ……」
ジロジロと怪訝な目を向ける理由は分かる。
藤花の制服を着ているバカとこんな私が友人ということに違和感を感じたのだろう。
まあ、そもそも友人なんかではないのだ。
ライダーバトルで勝ち抜くために利用しているだけ。
そう、それだけで……。
『──────────』
ふと、鳴り響く闘いの音。
「瀬那!」
「あぁ」
「それじゃあお巡りさんありがとうございました! 用事出来たのでこれで!」
困惑する警官を置き去りに走る。
ライダーが最優先にすることは闘いに赴くことだ。
明るいアーケード街を外れ、細い闇の中へ。
廃業してしばらく経ってもそのまま放置されている飲み屋の戸に向けてデッキを突きだした。
「変身」
「変身!」
共に変身しミラーワールドへ向かう。
モンスターを倒してエサにするでもいいし、モンスターに釣られて現れたライダーを倒すことが出来たなら上々。
ミラーワールドにいたのはなんてことないモンスターで、二人でかかれば楽勝であった。
モンスターの腹の足しにはなるのでバカのモンスターにくれてやったが……。
「妙な感じがする……」
「妙な感じって?」
「妙な感じって言ったら妙な感じだ」
「もうそんなこと言ってないで早く帰ろうよ~」
そうは言うが胸がざわついて気になってしょうがない。
こういう時は決まって敵の奇襲が待っている。
言わばこの胸のざわつきは殺気というものかもしれない。
ライダーバトルに身を置いて一月。
短いようで長い闘いはアタシのことを
ゆえに、この
風を切る音が近付いてくる。
街頭を破壊して尚こちらに飛来してきたそれはアタシの首を狙っていた。
後ろに飛び退いて回避すると、それは持ち主の手へと帰っていく。
武器は、ブーメラン────!
「瀬那ッ!」
「敵だ! 構えてろ!」
敵ライダーの登場。
それも、殺意に溢れた一撃を放つような奴なら相手にしやすい。
自分のことを殺しにかかってくる相手の方が精神的にも殺しやすい。
「あはっ☆ 避けられちゃった」
夜の中から現れた青く、鋭いライダー。
今まで出会ってきたライダー。いや、人間の中でも耳にこびりつく高い声。キャーキャー喚かれたら一般人の三倍は鬱陶しいだろう。
「あの娘……」
「知ってんの?」
「あの娘……すっごく声高いね!」
……まあ、同じ感想を抱くだろう。
あと、お前もなかなか高い方だと思ったのは内緒だ。
「二人組かぁ。最近つるむ連中多いよね~。って、なっちゃんも人のこと言えないかぁ」
一人ぶつぶつと語る。
どうやらこいつも仲間がいるようだが、今は一緒ではないようだ。
いや、隠れ潜んでいるだけかもしれない。
いずれにせよ警戒は怠らない。
全く関係ないライダーが漁夫の利を狙ってくるかもしれないのだ。
これまでもそういったことはよくあった。
「こんばんは☆ なっちゃんこと仮面ライダーテュンノスだよ~☆ よ☆ろ☆し☆く☆」
「私達コンビに一人で挑もうだなんて無謀じゃないかな、なっちゃん?」
「ん~? フレンドリーな娘は大好きだしお友達になりたいけど~。ライダーは殺さなくっちゃ!」
そう言い飛ばすと再びブーメランを投擲。
周囲の建物の壁を切り裂きながら飛来する。
回避することは容易い。
先程も避けた攻撃だ。
【SWORD VENT】
今の一撃はカードを使う時間稼ぎだったようだ。
戻ってきたブーメランには目もくれず、召喚した二本のナイフを逆手に構え迫ってくる。
「このッ!」
バカが鞭を振るう。
現状一番リーチがあるのはあいつだ。
このまま奴を近付けずに自分の得意な距離で戦うのがベストである。
しかし、そう簡単にやらせてくれる相手ではない。
「んなッ!?」
「柔い柔い!」
しなりながら迫る鞭を切り裂いて、青いライダーはバカに肉薄する。
接近戦はあいつには無理だ。
舌打ちしながらこちらもカードを切る。
【GUARD VENT】
スズメバチの頭を模した盾を装備して二人の間に割って入った。
ナイフを受け止め、そのまま盾で押し返す。
「ありがと瀬那!」
暢気に感謝を口にするが、今はそんな場合ではない。
「パワーじゃそっちが上か~。けどそれぐらいじゃ負けないよ!」
身を屈め、真っ直ぐにこちらへと向かって駆けてくる。
相手が小柄なのも相まって余計に素早いように見えた。
「ほらほらぁ! 鈍いよ遅いよトロいよぉ!!!」
「チィッ!!!」
ナイフによる連続攻撃。
ひたすらに凌ぐが……やりづらい。
なんとか反撃に転じたいが、一方的に攻めたてられては……。
というかあのバカはなにをしている。
ずっと見ているだけ。
「おい! なに突っ立って見てるんだ!」
「ちょっと待って瀬那。……ふむふむなるほど。そういう戦い方なんだね」
ようやく動く気になったのかデッキからカードを抜いた。
【COPY VENT】
「なにッ!?」
青いライダーのナイフが投影され、バカの手に奴と同じナイフが握られる。
「お~。カッコいいねぇ。私、ナイフなんか持っちゃって、危険な女になっちゃった」
鞭を振り回す女は危険じゃないのかと思ったが何も言わない。
何も言わないのが疲れないコツである。
「なっちゃんの真似するなんて!」
「真似っこは得意だよ~。ハアッ!!」
敵と同じような動きで攻撃を仕掛ける。
さっきのは敵の動きを観察していたようだ。
でなければこんな動きは出来ない。
「……真似は出来ても私の域には届いてないね」
「ッ!? あああぁッ!!!!」
全身に斬撃を浴びせられ、叫びをあげる。
「おい!!! くそッ!!!」
あいつを助けるために再び突撃。
盾の大顎を広げ、振り回す。
「やっぱ雑魚は雑魚らしく群れるんだね~。なっちゃんは強いから強い人達と組んだけどねぇ」
くそ……。
ここは退くしかないか……。
しかしそう簡単に退くことが出来るだろうか。
ミラーワールドに存在出来る時間も残り短い。
「ごめん瀬那……」
「ひひひ。二人仲良く殺してあげるよ~」
「チィ……」
……なんだろう、この感じは。
おかしい、おかしい、おかしい。
どうして、ヤバいだなんて思っているのだろう。
別に一人でも戦えばいいのに。
なんで
一人でもいいからこいつを殺せばいいのに……。
「えーなに? 一人じゃ戦えないの~? 腰抜けにも程があるっていうか……」
くそ……。
言わせておけば……。
だけどもう時間が……。
ギラリと光る刃が命を狙う。
刃と刃をぶつかて弄ぶ音は死神の足音のよう。
【STEAL VENT】
突如としてそれは響いた。
誰のものでもないが、確かに響いたのだ。
そしてこのカードの効果によって、敵のナイフは奪われた。
「今度はなに!?」
突然手にしていたナイフが消えたことで慌てふためく。
鎌を持たぬ死神など、恐れるようなものではない。
「ッ!!!」
地面を蹴り、敵の眼前に躍り出ると同時に頭突き。
よろけたところに追撃の盾での殴打。
「ぐああぁッ!?!?」
トドメまで刺してやりたいところだがもう時間がない。
「瀬那!」
呼び声に誘われて逃げるように走る。
勝てはしなかったが生き延びることは出来た。
生きているならば、ライダーでいられる。
ライダーでいられたなら、戦える。
戦えるのなら、願いを叶えるチャンスはまだあるということ────。
「お姉さん達はちゃんと逃げたか」
細い路地の中、壁に背をつき二本のナイフをだらりと持ち上げ眺める小柄なライダーがいた。
スティンガーとジャグラーが撤退したのを確認するとナイフを放り投げて暗い路地の闇の中へと消えていった────。
「……ごめんね瀬那」
バカの家に戻ってきて早々、そんなことを口にした。
ここまでの道中は珍しく、無言だった。
「なんだよ、急に……」
「私、瀬那の力になるって決めたのに、弱いからさ。足手まといになっちゃって……。駄目だね、私」
あはは、と力なく誤魔化すための笑顔をアタシに向けた。
「……お前は」
「瀬那……?」
「……なんでもない。もう寝ろ」
それだけ言って、リビングを独り出た。
借りている部屋に入ると扉に背を凭れさせ、静かに腰を下ろしていった。
言えなかった。
一言。
ある一言が喉元まで来ていた。
その一言を言えば、あいつを救うことが出来ただろうに。
「くそ……」
月の光がよく入ってきていた。
青い闇が、心を覆う。
これは、弱さだ。
たった一言、言えない。
たった一言で、茜を救えたかもしれないのに。
『お前は、もう戦わなくていい』
ただ、それだけで良かったのに────。
御剣君とも咲洲さんとも、誰とも連絡は取れない。
この兄の資料について共に調べたいが恐らく、皆さん戦っているのだろう。
一度、目は通したがまったく理解出来なかった。
いや、脳が理解を拒んだのだ。
どうして、お兄ちゃんがこんなものを……。そう思わずにいられなかったのだ。
一人でこれを見る覚悟がついていなかった。
だから、御剣君でも咲洲さんでも。誰かと一緒に調べたかった。
だけど、皆さんがそれぞれの戦いをしている。
私一人が逃げては駄目だ。
「私も、戦いましょう」
一度、深呼吸して表紙を捲る。
私の戦いは始まったばかりだ。
昨夜の闘いのことが脳裏にちらつく。
射澄さんの事情は理解し、現状の最優先は射澄さんのメモリア奪還と美也さんの奪還。
一度に奪われてしまった物が多いし、美也さんに関しては時間がない。
急がなければならない。
「燐。食欲ない? 具合悪いの?」
「ううん、大丈夫。いただきます」
目の前に並んだ朝食を平らげていく。
味噌汁はよく冷ましていただかないと舌を火傷することになるので注意だ。
時間には余裕があるのでゆっくりと食べよう。
向かいに座る父さんはなんてことなく熱々の味噌汁に口をつけている。
「文化祭前だからってあんまり遅くなっちゃ駄目だからね」
「わ、分かってるよ……」
ここ最近のことで、特に母さんに心配をかけてしまっている。
そんなだからライダーバトルのこと、美也さんのことを考えるとどうしようもない枷にもなってしまう。
もし自分が大学生とかで一人暮らしをしているとかだったら親の目も気にせずに夜中も美也さんの捜索とかにあたることが出来るのだが……。
どうしようもない。
高校生なんてまだまだ子供だ。
中学の時はすごく大人に見えた高校生だけれども、いざなってみるとそんなことはなく、よりそのことを痛感させられる。
『次のニュースです。聖山市で、また行方不明者です。昨日未明、聖月パレスタウンで────』
アナウンサーが淡々と読むそれを無視など出来なかった。
目を釘付けに、耳はその他の音は入れないように。
「嫌ねぇ、ここ最近。ほんとどうしちゃったのかしら」
「ああ。行方不明になってるのは女子高生が多いらしいが、誰彼構わずのようだ。お前達も気を付けるんだぞ」
「はーい」
真面目な話をしている中、間の抜けた欠伸がダイニングに響いた。
「ふぉふぁひょ~……」
「まったく寝坊助さんなんだから……」
寝癖、寝惚け眼に欠伸という寝坊助三点セットを揃えた美香がようやく起きた。
毎度のことながら朝に弱い妹だ。
テーブルにつくと、まずは味噌汁に口をつけてその熱さに目を覚まさせる。
「あ、ねえお兄ちゃん」
「なに?」
「お兄ちゃんさ、校外学習どこ行った?」
「校外学習?」
さっきまでの眠気が吹き飛んだかと思えばいきなりそんな話題を振るとは。
校外学習というと確か聖山市内の何かしらを自分達でテーマを決めて現地に行って調べるというものなはず。
僕の時と変わっていなければであるが。
「僕は……聖山港に入ってくる貨物船には何が積んであるかだったなぁ」
「つまらなさそう」
「そういうこと言うんじゃないよ。結構面白かったんだから。それで、美香はどこに行くのさ」
そう訊ねると待ってましたと言わんばかりの表情を浮かべて自分の行き先を言ってのけた。
「
「富士守神社って……。美香、さてはパワースポット行きたいとかそういう理由でしょ」
そういうと露骨に目を逸らしたのでやはりかとため息をついた。
もっと実になるような所に行きなさいと説教したくなったが母さんが食い付いて話に花を咲かせてしまった。
女性というものはスピリチュアルなものが好きである。
富士守神社は聖山市内で一番有名なパワースポットとして有名である。
沼田区の山の中にあり、参道は苔むし、趣に溢れて市の広報などでよく表紙を飾ったりする。
そしてなんといってもご利益であるが……、とにかく『効く』らしい。
あまり詳しいことは知らないが有名企業の社長や政治家などが若い時に訪れ、成功を掴んだとかなんとか。
「良いわね~。今度みんなでお詣りにでも行こうか。もしかしたらご利益でお父さんが出世したりして!」
「責任が増えるだけだから嫌だなそんなご利益は」
「行こう行こう!」
父さんの言葉を聞かなかったのか。
しかし出世はせずとも例えば家族の安全とか健康とかそういうのを願うのはいいだろう。
気付けば、朝の暗いニュースのことなんて忘れ、明るいいつもの家になっていた。
「おはよう燐ちゃん!」
いってきますと家から出た瞬間、頭が痛くなった。
なんで、この人がいるの。
「おはようございます北さん……」
「津喜と呼んでくれと言っただろう? さあ、その唇で私の名を叫べ! 津喜!!!」
「あの、どうして家が分かったんですか北さん?」
「くっ……。昨夜はあんなにも
「誤解を生むようなこと言わないでもらえませんか! あと質問に答えてください」
家を教えるようなことはしていない。
したら駄目だと第六感が言ったからだ。
「まあ私ぐらいになるとね、君の気配を察知してだね」
「北さん」
「テニス部の後輩から聞きましたごめんなさい」
ちゃんと正直に話してもらえたからよし。
テニス部の友達は……あとで候補を絞ろう。
「それで、何しに来たんですか」
「我が姫君の護衛にね」
「護衛?」
「そう。あのとおり学校は危険。一人で行動するのは危険ゆえに私が君の護衛についたわけさ。自主的にね。そう、自主的に」
やけに自主的だということを強調してくるがまあいい。
それに学校が危険だというのは分かっている。
分かっているが……。
襲ってくる仮面ライダーがいるから学校行かない。なんて母さんには言えないのだ。
いや、父さんにも美香にも言えないけれど。
つまり、学校には行かなくてはならない。
いや、行くフリして行かない……学校から連絡が家に来るかぁ。
なら護衛というか仲間と一緒に行動するのはいいことだろう。
「おはようございます美玲先輩」
「おはようり、ん……」
いつもの交差点で美玲先輩と出会った。
珍しく、分かりやすいほどに表情を変えた美玲先輩。
鳩が豆鉄砲をという感じだ。
「やあ良い朝だね咲洲さん」
「なんで、貴女が燐と一緒にいるの」
「昨日から燐ちゃんの
誓われたっけ……。
まあ、この人は信頼は出来るだろうしいいか……。
「道中で話は聞いた。なかなか窮地のようだね」
「窮地だけれどもそれは他のライダー達も変わらないわよ。私達が目の敵にされてるだけで」
確かに、現状一番目の敵にされているのは僕達だろう。
しかしあのライダー……。生徒会長が変身する吼帝率いるライダー達は軍門に下らない限りは潰される。
全ライダーにとっての脅威であるのだ。
「私が仲間入りはしたが数ではまだ及ばないのだろう?」
「そうね。まあ、現状は問題ないからいいのだけれど」
「勝算があるのかい?」
「鐵宮を倒す」
その言葉に驚かされた。
倒すということはつまり殺すということで……。
「前にも言ったけれど、私はライダーバトルに懸ける願いがある。もとより他のライダーを殺す覚悟くらい出来ているわ」
ずっと僕達と一緒に戦ってくれていたから忘れていたが美玲先輩には願いがあった。
それがどんな願いかは知らないが人を殺すなんてことを美玲先輩には……。
「……まあ、願いを叶えるにしろ生き残るにしろとにかく今はそのお偉いエンペラーをどうにかするしかないだろう? 咲洲さんの目論見は分かるがより確実性を高めようじゃないか」
「確実性?」
「向こうが仲間を集めているならこちらも仲間を集めればいい。吼帝の軍団に対抗出来る強い軍団をね」
朝の北さんの言葉を思い出すが、仲間なんてそうそう出来るものではない。
さて、どうしたものか……。
「御剣君。その、お話いいですか?」
「あ、うん……」
鏡華さんが小声で僕に伺いたてたので一旦自分の思考を止めた。
鏡華さんにライダーの知り合いが僕達以外にいるなんてことはないからだ。
「昨日、兄の部屋をまた色々と探したんですか特に成果はありませんでした。なので改めてあの資料を読み込んでいたんですがひとつ分かったことがあったんです」
見つかった資料。
何故か僕の名が記されてあるという鏡華さんの兄、宮原士郎が残した仮面ライダーに関する資料である。
仮面ライダーの製作者は宮原士郎ということで間違いないようだが……。
「それで、分かったことって?」
「はい。仮面ライダーは元々こんなライダー同士で戦うためのものではないようなのです」
「……というと?」
「仮面ライダーはモンスターと戦うためのシステムだと記されていました。つまり、今の仮面ライダーの運用方法は間違っているというわけです」
仮面ライダーの運用方法が間違っている。
まったく考えたことがなかった話題だ。
仮面ライダーは戦うものだとしていたからだ。
しかしその戦う相手。
Whatの部分を改めて考える真似をしていなかった。
「じゃあ、今の仮面ライダーの運用方法が間違っているならどうしてそんなことに……」
「……それこそ、アリスの仕業なんじゃないでしょうか」
アリスの、仕業……。
アリスが仮面ライダーをモンスターと戦うための鎧から仮面ライダーが仮面ライダーと殺し合うためのドレスにしてしまった……。
あり得そうな話だ。
「私はアリスと会ったことがないのでなんとも言えませんが……」
「いや、その線で行こう。かなりいい線だと思う」
「だといいんですが……」
「他に何か分かったことある?」
「いえ、まだこれだけしか……。すいません」
いや、これだけ分かったなら充分だろう。
仮面ライダーの運用方法。
それを歪めたのがアリス。
次、アリスと会ったら訊ねてみよう。
はぐらかされるとは思うが、それでも……。
昼休み。
仲間を増やすと提案した手前、率先して仲間集めに奔走しなければならない。
「しかしライダーの知り合いなど……。うーむどうしたものか」
考えながら歩いていたので目の前を疎かにしてしまったのがいけなかった。
曲がり角で、生徒とぶつかってしまった。
「きゃっ」
軽い悲鳴と手に持っていただろうノートが地面に落ちた音。
ノートにルーズリーフを挟んでいたのか数枚廊下に散らばってしまった。
「ああ、すまない。考え事をしていて……」
「こちらこそすいません……」
ぶつかった相手は風紀委員の上谷真央。
何かしらお小言をいただくかと思ったが意外にもそんなことはなくそれよりも散らばったルーズリーフの回収に勤しんでいた。
急いでルーズリーフを拾い終えるとそそくさと上谷さんはこの場をあとにしたが、一枚だけ拾い忘れてしまったルーズリーフがあったのを見つけた。
拾って届けようと思ったが……。
あまり、こういう人のものを見るのは良くないとは思うがたまたま見てしまった。
そして、私は……。
「上谷さんッ!!!!」
「はいッ!? って、廊下で大声出さないでくだ……ッ!? それ、は……。まさ、まさか……み、見たんですか……!?」
「上谷さん……。いや、同志よッ! 素晴らしい! ぜひこの魔法少女リンリンについて訊ねたいッ!」
ルーズリーフに描かれていたのはマンガのようだった。
まだラフの段階だったが既に私のせいへ……好みにドストレートに突き刺さっていることを感じ取った!
「きゃー!!!! 駄目ですそんな大声で言わないでください! というか返してくださいそれ!」
「なあなあこれは君のオリジナル作品だろう! まさかこんな素晴らしいクリエイターが身近にいたなんて! あの、私も自作のファンタジー小説書いてるんだけどぜひ意見交換でも!」
「い、意見交換でもなんでもするので早く返してください! お願いですから!!!!」
こうして私は仲間を見つけた。
素晴らしいクリエイターという仲間を。
ちなみに余談だが私の書いたファンタジー小説は酷評された。
うぅむ難しい……。
次回 仮面ライダーツルギ
「御剣もああいうのに騙されないように」
「追いかけなくていいの」
「ファンタジー系のゲーム好き?」
「見つけた。仮面ライダー……!」
願いが、叫びをあげている────
ADVENTCARD ARCHIVE
STEAL VENT
敵の持つアイテムを自分の手元にテレポートさせる効果を持つカード。
主に武器を奪うことに使用される。
その手から、逃れることは出来ない。
キャラクター原案
????・仮面ライダー???/mak様
まだ名前は登場していません。
今後の活躍に期待です。