仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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?+1ー28 動き出す者達

 聖山大学病院の病室にその少女はいた。

 

「陽菜」

「なに、兄さん?」

 

 新島陽菜。

 仮面ライダーグリズとして、鐵宮の陣営に所属している少女である。 

 

「なんだか暗い顔してるよ。なにかあった?」

 

 病床の兄に心配をかけてしまったと内心悔やむ。

 兄さんにはずっと笑顔でいてもらいたいのに。

 

「別に、なんでもないよ」

 

 偽の笑顔を浮かべてみせる。

 兄に心配をかけたくはない。

 ライダーバトルなんてものに参加していることを知られでもしたらと考えると殺された方がマシだと思ってしまうほどに。

 

「本当に? 陽菜はなんでも自分で解決しようとするからさ、なにかあるなら話してよ。解決は出来なくても、話を聞くぐらいなら出来るし。というか、話を聞くぐらいしか出来ないんだけどさ」

 

 自虐を言って笑う兄に心が痛む。

 かつて、自分が幼かった頃、なにかあればすぐに助けてくれた兄にそんなことは言ってほしくない。自分でも分かるほど顔が強張り、また笑顔を作ろうとしてスマホが震えた。

 

「……友達から連絡来たからちょっと出るね」

 

 病室を出て、通話可能区域である渡り廊下へ。

 都合よく、人の通りはない。

 都合がいいのは他人に聞かれたくない話をするから。電話をかけてきたのが鐵宮なのだからそういうことと決まりきっている。

 

「……もしもし」

「やあ新島君。いまはお兄様のお見舞い中だったかな」

 

 知ったような口をと内心毒を吐く。

 この男と仲良く雑談などするような仲でもないし、そもそもそんな仲になどなりたくはない。

 

「それで、なんの用?」

「雑談を楽しむ余裕くらいは持ち合わせてほしいところだがね。まあいい、用件は至極単純。咲洲美玲を殺せ」

 

 鐵宮の命令を聞いた瞬間、胸を貫かれたかのような痛みに襲われた。

 殺せ。

 その言葉が重くのしかかる。

 

「君はまだライダーを殺していないだろう。敵を殺せぬ味方など不要なのだよ。それに君もライダーだろう。なら分かるだろう。他のライダーを殺さねば願いは叶わないということを」

 

 ライダーバトルとはその名のとおり仮面ライダーによる殺しあい。生き残った最後の一人がどんな願いも叶えることが出来るという戦い。

 決して他のライダーを殺した人数が多い者が願いを叶えてもらえるというわけではない。最後に生き残っていればいい。ならば必ずしも他のライダーを殺さなければいけないというわけではない。

 しかし、こちらの意思とは関係なしにライダーは襲ってくる。だからこれまでは撃退するに留めてきていた。

 だが、殺せときた。

 頭の上がらない相手から。

 鐵宮の配下となり、彼の役に立てば兄の病気を治すという契約。それを結んでしまったから。

 

「……分かった」

「聞き分けがよくて嬉しいよ。頼んだよ。ああそうそう、倒したらデッキを持ってきてくれ。咲洲美玲を討ち取った証とする」

 

 それではと、一方的に電話が切れた。

 鐵宮は有無を言わさない。

 こうなったらもう、やるしかない。

 覚悟を決め、病室に戻る。

 偽りの笑顔を頑張って、作りながら。

 

 

 

 

 

 

 藤花女学園の放課後は厳かに始まる。

 授業が終わったからといって楽しげな声を上げることは許されない。

 それが許されるのは家に着いてからである。

 それでも友人との談笑ぐらいは行われる。

 とはいえ藤花の中では変わり者とされる私にはあまりそういった友達はいないのだが。

 なのでさっさと帰って瀬那と合流しよう。

 

 教室を出て一人、人に溢れた廊下を歩く。

 これから部活がある人、友人と遊びに出かける人の話し声が耳に流れていく。私にはなんの関係もない話。だから聞き流す。受け入れていては脳の無駄遣いというものだ。

 

「────」

 

 雑音など気にせず帰る。

 そのつもりだった。

 しかし……。

 

「あんた、ライダーでしょ?」

 

 その言葉に心臓が跳ね上がった。

 ライダーという単語が私の足を止める。

 今の言葉は私に投げ掛けられたものなのか。

 言葉の発信者は誰かと振り返るが私に向かって話し掛けた様子の人はいない。

 

「ライダー? なんのことですか? 私、バイクの免許なんて持ってな……」

「とぼけないで。見てたんだよ。昼休みに鏡から出てくるところを」

「それは……」

 

 会話していたのはベリーショートの黒髪と日焼けが眩しいスポーティーな少女と艶のある茶髪が美しいまるで人形のような少女。

 それにしてもよもやこんな放課後の人で溢れる廊下でライダー関係の話をするなんて。

 雑踏にまみれて誤魔化されるかもしれないが私みたいに他のライダーがいるかもしれない不特定多数の場で話を、戦いを持ち掛けるのはいただけない。

 

「私に見つかっちゃったのは運の尽きだね~。瀬那のためにも情報収集しちゃおっと」

 

 向こうも話がまとまったようで二人揃って人混みを逆らい人気のない場所へ向かっていくようだ。

 私はバレないように二人を尾行する。

 スポーティーな少女は気が立ってるようで私には気付きそうにない。気をつけるべきはもう一人の少女のほう。

 慎重な尾行の結果無事に気づかれることなく理科室へ。

 扉の近くで聞き耳をたてる。

 ……あまり聞こえない。

 どんな会話が繰り広げられたかは結局分からなかったがあの言葉だけは聞こえた。

 

「変身!」

「変身!」

 

 変身してミラーワールドへと向かったようなので早速偵察。

 こっそりと、こっそりとね。

 

 

 

 

 

 銀色のライダー『ヴァリアス』が短剣を逆手に構え緑色のライダー『イェーガー』を追いかける。イェーガーは素早い身のこなしが得意なようで身軽さを見せつけるように校舎の周りを駆けていく。

 

「自分から挑んできたくせに……」

 

 逃げ回る相手に苛立つヴァリアス。

 イェーガーがフェンスを軽く飛び越える。その挙動には一切の無駄はなくヴァリアスも思わず見惚れるほど。これではいけないと気を取り直して同じようにフェンスを飛び越える。ライダーの力を持ってすればこの程度は運動が苦手でも余裕で飛び越えられる。

 着地してイェーガーの背を再び追いかけようとするヴァリアスであったが……。  

 

「いない……?」

 

 イェーガーが、いない。

 校舎脇の一本道で木が生えてあるぐらいで隠れられるような場所ではない。 

 いくらヴァリアスが一瞬呆けていたとしてもそれで姿が見えなくなるなんてことはないのだ。

 

(カードを使った? 透明になれるカードもあったから多分それで……)

 

 この状況を冷静に整理、考察し、いつ攻撃が始まってもいいように身構える。

 緊張が続く。

 短剣を握る手が力む。

 全身が強ばっていく。

 そして────

 

「シャッ!!!」

 

 ヴァリアスの頭上、木の枝からぶら下がったイェーガーが二振りの鎌でヴァリアスの首を挟み、持ち上げる。

 さながら、白い蝶を捕らえた蟷螂のようであった。

 (狩人)が獲物を捕らえたらどうするか。

 食す(殺す)

 それ以外など存在しない。

 

「ガッ!? く、あ…………」

 

 首に強烈な痛みが走る。

 気道が狭まり呼吸が止まっていく。

 だが、その前にスーツを引き裂き、首を断たれるのが先か。

 

『キュー!!!』

 

 だが、ただではやられない。

 全長20cmほどの二足歩行の小動物のようなモンスターが小さい身体で出せる精一杯の咆哮をあげながらイェーガーに迫る。ヴァリアスの契約モンスター『ヴェイルーツ』である。

 

「なにこいつ!?」

 

 ヴェイルーツがイェーガーの仮面を叩く、引っ掻くと攻撃する。両腕が塞がっているイェーガーはされるがまま。一撃は弱いが顔は人の弱点である。弱点というものは自然と守ろうしてしまうものだが、今は両手が塞がっている。

 そして自然に手の力が弱まりヴァリアスはその隙をついてイェーガーの魔の手から抜け出した。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 膝をつき、呼吸を整える。

 イェーガーも木から飛び降り、ヴァリアスにトドメを刺そうと走る。

 だが、既にヴァリアスのカードが切られていた。

 

【SWORD VENT】

 

 木の上でのびていたヴェイルーツが目を覚ましイェーガーに向かって飛び降りる。その最中、ヴェイルーツは()()する。

 

『ガルルルゥ!!!!』

 

 体躯は巨大化し、鋭い牙と爪が生え並び尻尾が巨大な刃である四つ足の獣『パールスガルム』となった。

 

「なにッ!?」

 

 頭上からそのような獣に襲いかかられれば誰だってパニックを起こす。イェーガーはパールスガルムに押し倒され、鋭い爪で切り裂かれる。

 

「……もういいよヴェイルーツ。そこまでにしてあげて」

 

 痛む首を手で押さえながらヴァリアスはそう指示して近くの窓ガラスからミラーワールドを後にした。パールスガルムも最後にイェーガーを睨み付けてから元の姿に戻り、とことことどこかへと走り去って行った。

 

「くそっ……」

 

 地に寝転ぶイェーガーは力なく地面を叩いた。

 望む青空が遥か遠くにあるのが今は恨めしい。

 

「……ねえ、貴女」

「!?」

 

 ひどく、驚き飛び起きた。

 いつの間にそこにいたのか。

 そのライダーの風貌も相まって幽霊のようである。

 黒いローブで顔を隠し、ボロボロの喪服を着ているかのようなライダー……仮面ライダーウィドゥ。

 

「あんた、いつから……」

 

【FINAL VENT】

 

「え……」

 

 ウィドゥの鋭い爪がイェーガーの腹部を貫いた。

 爪先から滴る血液。

 イェーガーの中で指を蠢かす。ぐちゃり、ぐちゃりと音を立て血と臓物を散らす。

 

「やめっ……いや……ガアッ!!! 中で、私の中でやめっ……」

 

 イェーガーの、少女の意識は少しずつ遠のいていく。

 体の端から力が抜けていく。

 体温が奪われていく。

 そして少女が事切れると同時にウィドゥはその手を引き抜いた。

 イェーガーの仮面が割れ、悲鳴と苦痛の中で死んだ少女の顔が露となる。自身の血の中に倒れ、少女はミラーワールドに溶けていく。

 その場でぼうと立ち尽くすウィドゥは幽鬼の如し有り様で、血溜まりに佇むのが、似合い過ぎていた。 

 血で濡れた世界に乾いた拍手が響く。

 もう一人、ライダーが現れた。

 

「素晴らしいです麗美さん」

 

 煌めく鎧の赤が眩しいライダー。

 堅牢な鎧は生半可な攻撃では傷つくことはないだろうと思わされてしまう。

 

「十羽子……」

「また一人、麗美さんの愛を一身に受けながら今世を終えることが出来ました。来世ではきっと、主の寵愛を受けることが出来るでしょう」

 

 その場には二人しかいないはずなのに、赤いライダーは大衆に教えを説くように大袈裟な身振り手振りを交えながらウィドゥに語りかける。

 

「私も、神様から愛をもらえる?」

「ええ、ええ。もちろんです。真面目に奉仕している麗美さんを誰よりも見て、感謝しているのは主であります。ですからこの調子で他のライダー達を殺戮(祝福)しましょう」

 

 それでは次に祝福を受けるべき者はと標的を定める。

 標的は、先程イェーガーと戦っていたヴァリアス────。

 

 

 

 

 

「……やっばいの見ちゃったなぁ」

 

 一連の出来事を目撃者していた茜は汗が止まらなかった。

 なぜ、あいつ(ウィドゥ)がいるのか。あのライダーは何者なのか。疑問は尽きないが藤花も安全ではないと逃げるように早足で廊下を歩く。

 そして、立ち止まった。

 

「……あの子」

 

 大丈夫かな、と呟こうとして口を塞ぐ。

 そんな他の子のことを心配している場合じゃない。じゃない、というのに。

 

「ああもう! あいつらのことだけ! あいつらのことだけだから!」

 

 昇降口に向かっていた足を逆戻り。

 それなりに痛手を負っていたようだからまだ校舎の中で回復に努めているはずと予想して校舎の中を探し始めた。

 

 

 

 

 

 

 見せつけられる闘いの記憶は悠久のものであった。

 果たして、どれだけ繰り返してきたのだろうか?

 一年、五年、十年、百年、千年、一万年……何億年。

 もはや途中から数えることなど不可能と判断し同じ時をリピートする。

 闘いがあった。

 闘いがあった。

 果てしない闘争を繰り返して、繰り返して……。

 その時、ふと気付いた。

 いつから、繰り返して。いや、いつから。そして何故、ライダー同士が闘うなんてことになった?

 おかしい。

 仮面ライダーは僕だけのはずだった。

 仮面ライダーはモンスターと闘う者のはずだった。

 それが、いつの間にこんな……。こんな、悲惨な殺し合いをする者になったのか。

 忘れ去られていた過去を思い出し、知り得た物も多い。だが、それ以上に謎が増えた。

 全ての真実を解き明かすには、僕の記憶だけでは駄目だ。

 それでは、一体誰の記憶が必要なのか。

 それはきっと目の前の……。

 目の前の……。

 

 太刀を振り下ろそうとする手を止める。

 そうだ、僕は刃に変身して……。変身して、あの膨大な記録と記憶を見ていたのか。

 そして意識のない間、僕は、アリスと闘って……。

 いや、アリスとは……。

 僕が戸惑っている間にアリスは後方へと飛び退いた。

 

『……全て、見たのですね』

「アリス。いや、君は……」

『こうなっては、仕方ありませんね……。やり直すしかありません』

 

 やり直す。つまりは、繰り返されるということ……!

 アリスはデッキから一枚のカードを引き抜く。カードの表側を僕に見せつける。時計が描かれた、見たことのないカード。

 

「奴を止めろ! 巻き戻されるぞ!」

 

 宮原士郎の言葉に身体が動いた。

 あのカードを使わせてはならない。いや、使わせるのではなくカードそのものを破壊してもう二度と使用出来ないようにしなければならない────!

 全力を超えた全力で駆ける。

 太刀を投げつけ、スラッシュバイザーを抜刀。

 もうここは自分の距離なのだ。

 しかし、アリスの足元から生えた茨達が道を阻む。こんなものに構っている暇などないのに……!

 

『さあ、次はもっと上手くやりましょう私。そして次こそ、燐君。あなたが闘わなくていい世界にしてみせます』

 

 手鏡のようなバイザーにカードが挿入される。

 あれが読み込まれたら、また闘いが繰り返されてしまう!

 

 ガシャンと、バイザーの中にカードが入れられてしまった。あとはもう読み込まれてカードの効果が発動する。

 

【TIME VE────】

 

『え────』

 

 なにか、おかしい。

 カードが、読み込まれない……?

 そんなことがあるのか。いや、そんなことは全ての記憶を探っても存在しない事象であった。

 そしてそれはアリスも同じで、彼女が一番この場で動揺していた。

 

『そんな、どうして!? なにが起こっているというの!? 今までこんなことなかったというのに!!!』

 

 動揺を隠せないアリスとただ立ち尽くすしかない自分。

 僕は……。

 

「何をしている御剣燐、早くその女を殺せ! 奴が全ての元凶だ。奴を殺せば全てが解決する!」

 

 アリスを殺せば……。

 全ての元凶であるアリスを……。

 ……本当に?

 アリスが、全ての元凶?

 違う、違う、違う。

 それは、違う。

 そう僕には断言出来た。

 

「アリス、君は……」

 

 黒き鎧に包まれた手を伸ばす。

 彼女が全ての元凶というなら、それは違う。どうしてこんなことを始めたかは分からないが、ミラーワールドと現実の世界を繋げてしまったのは僕だ。ならば、僕だって元凶だ……!

 

「アリス、もうやめよう! 本当の君はこんなことする女の子じゃなかっただろう!」

『燐君……。なんですか、それ。本当の私? なんで他人の燐君が本当の私なんて分かるんですか!』

 

 僕の言葉は呆気なく弾かれる。

 それもそうだろう。なにも分かっていない僕の言葉が、届くはずもない……。

 

【フフフフフ……】

 

 それは、唐突に聞こえた。

 女の、笑い声。

 聞いたことがある声だ。僕に闘えと唆してきた声……!

 

【ああ、アリス。どうしたのかしら? ひどく苛立っているようだけれど】

 

『ッ……。なんでもありません。大体なんですか、あなたは表には出てこないはずではなかったのですか』

 

 この声の女とアリスは繋がっている、のか……?

 

「お前は一体何者なんだ!」

 

【……アリス。やったじゃない。あの子からデッキを取り上げることが出来たのね。ならもうあの子は用済み。この世界から締め出してあげるわ】

 

 白い、ぼうとした靄に包まれた人影が現れる。それが現れた瞬間、身体が冷たくなったような気がした。身の毛がよだつという感覚を思い知らされる。

 あれと戦っては……いけない。

 

【おいたが過ぎたわねツルギちゃん。あなたはもう、ミラーワールドと関わることは……ない】

 

 白い人影から放たれた何かに吹き飛ばされる。

 刃の鎧も砕かれ、生身を晒し鏡の世界から追放されて────。

 

 

 

 地に墜ちた刃のデッキを士郎が拾い上げる。

 そしてすぐさまアリスと白い人影を睨み付ける。いつでも闘う準備は出来ているという意思表示。

 

『さて、燐君がいなくなったので存分にあなたを殺せますね、刃』

 

 アリスも刃を殺すつもりである。

 だが、白い人影がアリスを制した。

 

【やめておきなさい。御剣燐をミラーワールドから追放した今、いつでも刃は殺せる。焦る必要はないわ】

 

『……そうですね。燐君のデッキがこちらにある以上、刃など取るに足らない相手となりました。いいでしょう、見逃してあげます』

 

 アリスと白い人影は闇の中へと消えていく。

 独り残された刃はただその場に立ち尽くすのみであった。

 

 

 

 

 地面に叩きつけられる。昼間、金草さんと闘った廃工場のようだ。

 痛む全身に構わず、目の前の煤けた鏡に手を触れる。だが、なにも起こらない。なにも聞こえない。なにも見えない。

 デッキを持たない僕にはもう鏡はただの鏡でしかない。

 僕にはもう、闘う力がない────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その少女を見つけ出すのにそう時間はかからなかった。

 とある空き教室の隅にその少女は身を潜めていた。

 

「君、大丈夫?」

 

 少女は首を押さえていた。

 うっすらと見える、赤くなった肌。彼女が色白なおかげでかなり目立っている。

 

「あなたは……。いえ、少し具合が悪いだけなので私は大丈夫ですから……」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ。君がさっき戦ってたライダー、他のライダーに殺されたよ」 

「え……。それじゃあ、あなたもライダー……!」

 

 逃げ出そうとする彼女だったが首の痛みでへたりこんでしまう。

 

「落ち着いて。今のところ私は敵じゃないよ。というか敵がヤバいから! このままここにいたら君も殺されちゃう!」

「いいえ、殺すのではありませんよ」

「「!?」」

 

 既に、敵はそこまで来ていた。

 眼鏡におさげ。古風で大人しそうな印象の少女。しかし、眼鏡の奥の瞳は獲物を見つけた獣のようにぎらついていた。

 

「殺すのではなく、祝福を与えるのです。ですが、祝福を与えるべき者と日に三人も出会えるだなんて主に感謝しなくては」

「なに言ってるのこの人……」

「私は樋知十羽子(ひじりとわこ)。さあ、あなた達も我が主の元へ送って差し上げます」

 

 なんとかして逃げ出そうと考える。けれど、出入口の前には彼女が立ち塞がっているし、この子を連れて逃げるのは……。

 

『──────』

 

 こんな時にモンスターが!?

 私達の背後の窓ガラスから伸びる糸が私達を捕らえる。そのまま鏡の中へと引き摺りこまれて……。

 

 

 

 

 

 

 聖山高校の校舎の中を練り歩くのは服を着た中二病こと北津喜である。彼女はとある役割のためにわざと肩で風を切っていた。

 

(さあ、いつでも来たまえ鐵宮及びその配下達。私はいつでも受けてたつぞ)

 

「あの!」

「ようやく来たか……!」

 

 後ろから声を掛けられて勢いよく振り返る北。声を掛けたのは小柄な一年の女子生徒。彼女は果たして鐵宮の仲間なのかをじっくりと観察して確かめる。

 

「あ、あの……そんな、見られたら……。は、恥ずかしいです……」

 

 女子生徒は頬を赤くしてうつむいた。ちなみに言っておくがこの女子生徒は鐵宮やライダーとはまったく関係のない一般的な女子生徒である。

 

「いいや、ダメだよ。ちゃんと私の目を見たまえ」

  

 女子生徒の顎に指をかけ、自分を直視するように促す。

 俗に言う「顎くい」である。北は平気でこういうことが出来る人間なのだ。おかげで、女性ファンが多いこと多いこと。

 

「ひゃっ!? き、北先輩……そんな、だめですよ……」

「ふむ……。どうやら違うようだ。君じゃない」

 

 女子生徒がライダーではないと直感で気付いて興味を失った北は再び校舎の徘徊を始める。

 

「えっ、ちょっと! あそこまでやっておいてなにもないんですか!?」

 

 女子生徒の声などもう北には届いていない。

 興味がないものには少し、というかかなり淡白なのが北であった。

 

「まったくなにやってんだか……」

 

 そんな北の様子を少し離れた場所で見守っているのが遥である。北が誘い出して、誘いに乗った敵を北と遥が二人で叩くというのが作戦である。 

 しかし北の様子を見ていると不思議と疲れると遥は少しばかり飽きていた。

 

「この隙にあのクールビューティーと記憶喪失が鐵宮を叩く、か……。私もそっちに行きたかったなぁ」

 

 どう考えてもそっちの方が面白そうだと思う。なんなら今からでもそっちに行こうかと考える。北なら一人でもなんか大丈夫そうだしと。

 

「金草遥」

 

 先程の北ではないが、背後から呼ばれる。北と違うのは、語気に敵意を感じたこと。

 

「一年か。何の用? 先輩いまちょっと忙しいんだよね」

 

 あえて、そんな言い方をする。おちょくるような、言い方。

 だが、その少女にそれは通用しない。

 少女、黒峰樹には。

 

「この間の続き、やりましょうよ。先輩?」

 

 デッキをちらつかせながら誘ってくる。

 そのデッキには見覚えがあった。いつだか埠頭で闘ったライダーのもの……!

 

「いいね、今度こそ白黒つけようか」

 

 遥は自身に与えられた仕事など忘れ、戦いに赴く。

 昼間はツルギに実質敗北していたので少しばかり鬱憤が溜まっていた。強いゲーマーである彼女は、人よりも負けず嫌いなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 遥が戦いに赴くのと同じ頃、人の出払った新聞部部室にいた美玲と伊織の前に二人のライダーが立ち塞がっていた。

 陽菜と、射澄である。

 

「ごめん咲洲。あんたに恨みはないけど倒させてもらう」

 

 陽菜が茶色のデッキを掲げ、美玲に挑もうとしている。美玲は射澄に視線を配る。射澄も同じように視線を美玲に向けていたので自然と二人の目は合う。そうして二人は目で意思を伝えあう。

 

「咲洲さん。二対二ですが……」

「安心して。実質三対一よ」

 

 言葉の意味を察した伊織もまた戦闘態勢に入る。

 ここでも、戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会室。鐵宮は一人、黙していた。

 自身の前に立ち塞がろうとする咲洲美玲とその一派の排除を命じ、今は結果待ち。将として、座して待っていたのだ。

 そんな彼の前に現れる、白い人影────。

 

「やあ、君がアリスかい? いや、違うか。アリスという少女は宮原鏡華と瓜二つだという。それに君は少女というよりは女性という感じだ。それで、どちら様かな?」

 

 鐵宮はその存在に動じることはなかった。

 その態度が、白い人影には面白かったようでクスクスと笑い始める。

 

【そうね、私はアリスじゃないわ。私は……コア。コアと呼びなさい】

 

 白い人影はコアと名乗った。コアは鐵宮に近付くとその思わずぞくりとするほどの白さの手で鐵宮の頬に触れる。

 

【貴方、面白いわね。アリスよりも面白いかも】

 

「ほう? その言い方だと貴女はアリスよりも上位の存在のようだ」

 

【上だとか下だとかそんなじゃないわ。私はただこのゲームを面白くしたいのよ。だから、面白い貴方にこれをあげるわ】

 

 コアの手から鐵宮に白いオーラが流れこむ。鐵宮はそれをただ受け入れる。

 

【いいわ、いいわ。その全てを飲み干してやるっていう気概。そういう人、私は好きよ】

 

 白いオーラを注ぎ込んだコアは鐵宮から離れる。そして、私が見える?など問いかける。

 

「ああ、よく見える。いや、前よりも視力が上がったような気がするよ」

 

【それだけじゃないわ。今の貴方には……未来が視える】

 

「未来が……? ッ!?」

 

 頭を押さえる鐵宮。目の奥が痛む。思わず目を閉じる鐵宮だが、その目には映っていた。

 

 生徒会室の扉を乱暴に開けて入室してくる銀髪の少女の姿が。

 

『最近は学校が面白そうだから真面目に登校してたんだけど、まさかあの子以外に男のライダーがいるとは思わないじゃん? ね、闘ろうよ』

 

「い、今のは……」

 

【それが未来よ。そのうち慣れて痛まなくなるだろうからその目を利用してこの闘いを勝ち抜きなさい。それじゃあね、鐵宮君】

 

 そうして白い人影、コアは生徒会室から消えた。再び一人となった鐵宮。だが、急に扉が乱暴に開けられる。

 生徒会室に入ってきたのは、長い銀髪の少女。

 名前は、喜多村遊。

 

「最近は学校が面白そうだから真面目に登校してたんだけど、まさかあの子以外に男のライダーがいるとは思わないじゃん? ね、闘ろうよ」

 

 さっき見た光景と、さっき聞いた言葉と、まるで同じである。

 その事実に思わず笑いが込み上げてくる。

 

「いいだろう……試してやる」

 

 その言葉を自分の実力を試すことだと思った遊はにやりと口角を上げるが、鐵宮の言葉の意味はそうではない。

 与えられたこの眼の力を試すという意味で言ったのだ。

 

 乱暴に閉められる扉。

 生徒会室に、二人の「変身」という声が響いた。




次回 仮面ライダーツルギ

「あなたも人を殺して……ッ!」

「なかなかいい拳だよ本当に、君のは」

「え……戻して! さっきの可愛いのに戻して!」

「とにかく、今はこの人達を助けるのが先か……」

願いが、叫びをあげている────。


ADVENTCARD ARCHIVE
TIME VENT(仮面ライダーブロッサム)
永劫回帰

時を巻き戻すカード。
アリスはこのカードを用いて何度もライダーバトルを繰り返してきた。

何度繰り返しても、変わらない。
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