新島陽菜が変身した仮面ライダーグリズはストライクベント「アトスナックル」を装備し、鋭い爪でアイズに襲いかかる。その様は獲物を狩る熊のよう。
その爪をアイズは弓剣で受け止めるが、段違いのパワーに押され、壁に追いやられてしまう。
「パワーなら、私が上ッ!!!」
「そう、みたいね……!」
壁とグリズの板挟み。
グリズはこのままアイズを押し潰さんばかりの勢いで力を籠める。
なんとかこの牢から脱出しようとアイズは膝蹴りを胴に向けて行うがグリズの堅牢な鎧に阻まれ新島陽菜の肉体には響かない。
窮地は続く。
なんとか脱しなければ自身の命の危機。この危機を乗り越えるべく美玲が取った行動は……。
「ッ!」
「なっ!? 痛……!」
それは、頭突き。
生物共通の急所である頭突きは誰にだって効果がある。美玲にも多少痛みがあるがそれ以上にダメージを負ったのは新島陽菜のほう。グリズが後退ったところに頭部に回し蹴りを連続で決め、弓剣で鎧を切り裂き更に追い討ちをかける。少なくないダメージを負わせた隙にアイズは自身にとって有利なフィールドに移動した。外の広い空間でならその機動力と弓による遠距離攻撃を活かせるからだ。
「くっ……待て!」
痛む身体に鞭を打ちアイズを追いかけるグリズだが誰が見ても既に勝敗は決しているようなもの。それでも、新島陽菜は自身の願いの奴隷となる。
願いが、痛む身体に鞭を打った。
校舎の屋上では三叉槍と突撃槍という二つの槍がぶつかりあっていた。
射澄の変身する仮面ライダーヴァールと伊織が変身する仮面ライダーピアースによる長物対決は小気味よい金属音を響かせて、互角の戦いを繰り広げる。どちらに勝負が転がるか分からない。
一度、ピアースは後退し間合を測る。
次なる攻め手を思案するためであったが、ヴァールが三叉槍の穂先を下ろした。
「これくらい打ち合えば、誤魔化せはするだろう」
射澄の言葉に戦意がないことを認め、ピアースもまた突撃槍の穂先を下ろす。いや、元より戦意なんてものはなかった。射澄の言うとおり誤魔化すための芝居にしか過ぎない打ち合い。
美玲が言っていた実質3対1とはこのことであった。
「どういう繋がりで君が美玲と燐君の側についたかは知らないけれど二人を頼むよ。今の私は人質ならぬカード質を取られていてね。バレたらどうなるか分からない」
「そう、ね。私もまだ少し迷いはあるけれど……。けど、彼の仮面ライダーのあり方の方が、性に合ってるみたいだから」
「そうか。そうだね、私もそう思い始めていたところだったんだ……」
空を見上げるヴァールの仮面の下。射澄の瞳が僅かに揺れる。静かに、ミラーワールドの音だけが二人の間に流れていた。
その者が乱入するまでは。
『ライダー……食べちゃうね』
髪を下ろし、乱れた前髪の間から覗く目は捕食者の目だった。
「っ……お団子君……」
『あれ、あんたは……あの時のライダーか。ちょうどいい。食い損ねたからあんたをいただかせてもらうよ。変身』
影守美也の肉体を借りた加藤陽咲が仮面ライダー縁へと変身する。
【SWORD VENT】
カッターのような大型の刃を召喚しヴァールへと肉薄する縁。射澄は相手の身体が美也であるため戦いの心構えが出来ず、凶刃の餌食となる。
「ぐっ……お団子君! 目を覚ますんだ!」
攻撃の合間を縫って、射澄は美也へと声を届かせようと叫ぶ。
だが、届かない。
亡霊が声を阻む。
『美也は寝てるんだよ……起こしちゃ駄目でしょうッ!!』
「があぁッ!?!?」
地に落とされていた刃が跳ね上がる。
下腹部から縦一閃。激しく散った火花と共にヴァールは地に墜ちた。縁はヴァールの胸を踏みつけ、剣を突き刺そうとする。その様は獲物を屠るためにじわりと口を開けた蛇のよう。
だが、この場にはライダーがもう一人いる。
ピアースが突撃槍を縁の横腹に叩きつける。
鈍い音と共に縁は地面を転げ、剣を杖にして片膝で立つ。素早い体勢の建て直しにピアースは追撃を躊躇った。
「救助ありがとう。危うく死ぬところだった」
「いいえ。ねえ、あいつが……」
「ああ、聞いているだろうけど身体は影守美也という少女のものだ。だからあまり痛めつけないでもらえると助かる」
「痛めつけないでって……」
二人の会話を遮るように縁が強襲する。
刃を槍で受け止めたピアースが声を上げる。
「向こうはこっちを殺す気で来てるのに痛めつけるなって無理よ!」
「無理難題は承知の上だとも! なんとか、なんとか私が彼女を呼び戻すから頼むよ一角君!」
「呼び戻すって……というか一角君ってなに!」
ここに即席のコンビが誕生する。
槍を武器とする青いライダーが二人。縁の呪縛から美也を取り戻さんと得物を握り締めた。
学舎に似つかわしくない銃声が響く。
深緑のライダー甲賀を狙って放たれた弾丸は壁を穿ち、甲賀が短刀型のバイザーでカノンに斬りかかる。軽快なステップで短刀の間合から外れるカノンだが甲賀の追撃は続く。
距離を保ちたいカノンと間合を詰めたい甲賀の鬩ぎ合いは……甲賀に軍配が上がった。刃がカノンの装甲を掠める。
いよいよ、二人の距離はなくなった。
「ほらほら、もう私の間合だよ。離れなくていいのかな」
挑発を織り込み斬撃を繰り出す甲賀に対してカノンは無言を貫いていた。
「あの余裕そうな態度はどこに行ったのさ!」
調子づき、大振りとなった甲賀の腕をカノンが掴み、自身の身体に密着させると銃声が一発。
続けて二発、三発、四発、五発。
掴んでいた甲賀の腕を離す。膝から崩れる甲賀を無感情に見下ろしていた。
「分かってないなぁ。近距離も遠距離もないんだよ
カノンバイザーを弄び、甲賀の眼前に銃口を置きながら気だるげに話す。
そして無情に銃爪を引く────。
響いたのは銃声ではなく轟音。
校舎の壁を突き破り、メタリックグリーンの鎧が転がってきた。
「なんだ!?」
「ッ……! ……鐵宮……」
「黒峰君か、君も戦っていようとはね。よし、君の敵も私が倒してやろう」
悠然と、破壊された壁をくぐり現れた吼帝。
その鎧には傷ひとつついておらず、吹き飛ばされてきたライダー、レイダーとはえらい違いである。あのライダーの中でも強豪とされるレイダーをここまで痛めつける吼帝の暴虐とは……。
砲弾のような拳が自分の顔面目掛けて放たれる……。
これはこれから起こる未来の景色。
「おりゃあぁぁぁぁ!」
雄叫びと共に放たれるそれは視えた未来と同じ軌道で私に迫る。これまで戦ってきたライダーとは違う拳の冴えだがもう見えてしまっている以上は避けることなど容易い。
半歩、それだけの移動で回避。それと同時に逆に敵の顔面に裏拳を叩き込む。
「ぐえっ!? ……やるねぇ」
「軽口を叩く余裕があるようでなによりだ。簡単にやられてはつまらないからね。もっとこの力を試したいのでな!」
コアという謎の存在から与えられた「未来視」の能力。
そして戦い始めてから気が付いたが、やけに身体が軽い。それでいて力が漲っている。
すこぶる調子がいいというわけだ。
今度はこちらが攻めのターン。
真正面に立つ喜多村遊/仮面ライダーレイダーを蹴り飛ばし、来いと手招いて挑発。すると思った通りに奴は挑発に乗ってきた。
そして、視る。
私に向けられた
「おらおらおらおらぁ!!!!!」
吹き荒ぶ拳の嵐。
一発でも当たれば大きなダメージになるだろうという攻撃が何発も炸裂する。
だが、当たるわけがない。
全て見えているのだから。
全て知っているのだから。
「くっ……なんで当たんないかなぁ!!!」
苛立ちが拳に乗ってくる。こんな拳なら、わざわざ未来を視る必要もない。
「大体理解した。次はこちらの番だ」
未来視。
回避、防御の流れを確認。あとはそれにあわせて攻撃していくのみ。
打、打、打。
暴力による支配。
吼帝とレイダーの上下関係は決定付けられた。
満身創痍のレイダーを蹴り飛ばす。校舎の壁に衝突し、壁は崩壊。煙の向こう側のレイダーへと追い討ちをかけるために歩き出し、甲賀とカノンが戦闘中のところに遭遇するのであった。
耳をなぶる音が鏡の中から響いてくる。
ライダーが、戦っている……。
「ッ……! いや!」
思い出す、自身の罪を。
違う、殺すつもりなんてなかった。
あれは事故である。
私は、私は……。
「戦いが始まっているな……」
ふと、そんな声が聞こえた。彼女は窓の外を見ているようだが、違う。
鏡の中を見ているのだ。
彼女……北津喜さんは。
「私も参戦すべきか……ん? やあ上谷さん。どうしたんだいそんな青い顔して……」
「あ、あなたもライダーなんですね……」
「上谷さん……?」
「あなたも人を殺して……ッ!」
身体の震えが止まらない。
足に力が入らず、膝から崩れて……。
思い出す、殺してしまった少女の悲鳴を。
思い出す、殺してしまった少女の怨嗟を。
「いや……いやッ!!!」
呼吸が乱れる。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
殺されたくない。
殺してしまった。
殺されたくない。
殺してしまった。
殺されたくない。
殺してしまった。
「上谷さん落ち着くんだ! 私は敵じゃない!」
「……敵じゃ、ない……?」
「ああ。今はこのライダーバトルを止めるために仲間達と戦っているんだ。だから私は君の敵じゃない。その感じ、無理矢理ライダーにされたんだろう?」
私と目線を合わせ、優しく語りかける北津喜という少女。彼女との関わりは本当にここ最近からであるが、彼女を信頼していいのだろうか。
最後の一人になるまで殺しあうというのなら裏切られてしまうのではないだろうか。利用されてしまうのではないだろうか。
せめぎあう。
誰かを信じて、楽になりたいという気持ちと、疑心暗鬼、不安というものが。
「大丈夫。私と私の仲間なら信頼出来る。だから、ね?」
差し出された手を見つめる。
救いの手か悪魔の手か。
私は、その手を……。
かつて、本気で殺しあった相手と共闘するというのは変な気分である。なんて、そんな思考は即座に放棄した。
そうでなければ、二人まとめて殺されてしまう。
「なんで当たらないんだよッ!」
銃爪を引き続ける。
放たれる弾丸は確実に命中するはずのものだった。
けれど、弾丸は全て回避されるか防御されてしまい接近を許す。
「けどこの距離なら当たるだろ!」
そう、銃には近距離も遠距離もない。
当たれば有効、一本である。
「ふっ……当たらんよ」
「なっ!?」
嘘だ、そう思った瞬間には獅子の拳が腹部を抉っていた。
呼吸が覚束ない。
鋭い痛みが突き刺すよう。
それでも、動かなければ……。動かなければ、死しかない……。
「もう終わりか? もっと頑張りたまえ……おっと」
余裕をこく吼帝に拳が放たれる。
それすらも吼帝は回避してみせたが……。なんて、化物。
「なかなかいい拳だよ本当に、君のは」
「君に褒められてもなんか嬉しくないなぁ……!」
事前動作がまるでない回し蹴りが吼帝の頭を狙って繰り出される。恐ろしく速い蹴り。まともに食らったら頭がサッカーボールのように飛んでいってしまうのではないかというそれを吼帝は簡単に、腕の一本で防いでみせた。
「ッ!?」
「戦闘能力は全ライダーの中でも随一。だが、今の私には及ばない」
レイダーの軸足を払い、転ばせると同時に鳩尾に拳を叩きつけた。地面が、震えた気がした。
それほどまでの力を叩き込まれたレイダーはもう生気を感じさせない。死体のように倒れたまま。
「ふん……さあ、そろそろ立ち上がれるぐらいにはなってくれたか?」
「チッ……」
向こうはこっちがまた戦えるようになるまで待っていたらしい。
しかし、今回負ったダメージが大きすぎる。これは逃げるしかない……!
「逃がすとでも!」
脱兎の如く駆け出したが、目の前を巨大な手裏剣が通りすがる。
あと半歩、先に進んでいたら直撃していた。だが、そっちの方が良かったかもしれない。
「いい援護だよ黒峰君。さあ、終わらせようか……!」
悠然と歩み寄る吼帝にバイザーを向ける。銃爪を引く瞬間、吼帝は突然後方へと飛び退いた。そのすぐ後に、吼帝がさっきまでいた位置に矢が一本、二本、三本と突き刺さる。
「……なるほど。狙撃、奇襲に関してはこちらが視る前に自動的に視せてくれるのか……」
吼帝はなにやらぶつくさ呟いているが関係ない。あのクールビューティーが作ったチャンスを活かさせてもらおう。
【ADVENT】
契約モンスターである機械仕掛けの大蜥蜴、カノンリザードを召喚し吼帝へと差し向ける。カノンリザードに備わった銃口が火を噴き、吼帝を狙う。
「ふん……。モンスターに頼ったところでだね、無意味なのだよ」
【ADVENT】
「チッ!?」
召喚される吼帝の契約モンスター。
その姿はRPGでは定番のキメラである。
黒き魔獣、レオキマイラ。
自分の存在を示すように吼えるレオキマイラに対抗してカノンリザードもその口を大きく開いて威嚇する。
始まる、獰猛な獣同士の戦い。
「黒峰君。君は咲洲美玲の相手をしてきたまえ。新島君では役不足だったようだ」
「了解」
甲賀は咲洲の方へと行ってくれたが、それでは咲洲が二対一と不利になってしまう。仲間になったなんて意識はないが、こいつらよりは咲洲の方がマシだと思うのでちょっとだけ心配はしてやろう。
「ま、人の心配なんてしてられないんだけどさ……」
吼帝は私よりも強い。
冷静に、事実を認める。
私より強い奴なんているのは当然で、それを倒すからこそのゲームだ。難易度が上がれば上がるほどに燃えるタイプというかゲーマーとはそういうものだろう。
だというのにどうしたものか。
今の私には燃えるような熱がない。ただ、このままでは殺されてしまうという冷たい事実だけ。
攻略?
笑わせる。
こんなものは……。
「無理ゲー、だな」
銃口が僅かに下がる。
身体から力が抜けたのがよく分かる。
これは負けイベントなのだと理解する。
ただ、負けてしまえばそのまま負けっぱなし、死にっぱなし。コンティニューなど存在しない。
「どうした? 諦めたのか?」
ラスボスの問い掛けに対する返答は、『はい』か『いいえ』のどちらか。
『はい』を選んで素直に殺されるか、あるいは……。
銃口だけでなく、腕そのものが下がった。
眼前には吼帝。
充分、奴の間合である。
「口も聞けなくなったか……負けを認める潔さを評価するか、負けを認めた弱さを侮蔑するか……。君はどちらがいい?」
「誰が──────負けただと?」
最速の一発。
西部劇のガンマンがやる早撃ちである。
この距離ならば、絶対に外すはずがない。
そう、絶対に、外すはずなんて、ないのに……。
「なん、で……」
吼帝は、私の早撃ちを読んでいた。
でなければ、避けられるはずがない。
「いい速さだったぞ。君もまた強い敵であった。だが、無意味だ」
視点が転がり、気が付くと青みがかってきた赤い空を見上げていた。
ああ、なんて、高い空。
胸を踏みにじられる。
その痛みなんてどうでもよかった。
これから先のことに比べれば。
恐怖はなかった。
ただ、あったのは……虚無感。
もう、なにも出来ないのかという虚無が私という存在に穴を穿つ。
「泣きも喚きもしないとは……命乞いのひとつでもしていいぞ。最期の言葉を私に聞かせてくれないか?」
余裕と加虐心の籠った憎たらしい変態的な声もただの環境音に過ぎなかった。
【STRIKE VENT】
吼帝の右腕に契約モンスターの頭部を模した手甲が装着される。
獅子の口に、禍々しい黒炎が早く檻から出せと猛る獣のようだった。
「はは……これでゲームオーバーか……」
思わず、最期に出たのはそんな言葉。
人間、最期の時にはこんな気の抜けたことしか喋れないのか────。
グリズと、乱入してきた甲賀というライダー二人まとめて相手していた時だった。
踏みつけられた金草が黒い炎に燃やされて、爆発。火柱が立つところを見た。
「金草……!」
思わず、そう口走っていた。
ただの共闘関係。それも、関係を結んだばかりだというのに。
爆炎の中から、吼帝が現れるのを見た。
その瞬間、私の中の何かが火花を散らせた。
「鐵宮ッ!!!」
弓剣で二人を怯ませ、駆ける。
だが、弓を持つ手から消滅が始まったのを見て、途端に頭が冷めた。
「くっ……」
唇を噛み締める。
だが、このままではミラーワールドに殺されるなんてつまらない終わり方をしてしまう。
仇敵を睨み付け、校舎の窓からミラーワールドを後にした。
「お団子君!」
『あぁ……うっさい!!!』
呼び掛けること何度目か。
槍と剣で鍔迫りあっていたが弾かれて蹴り飛ばされる。
「くっ……」
「大丈夫?」
「ああ、なんとか……」
ピアースの手を借りて立ち上がり、再び彼女に呼び掛けるために槍を握り直す。
倒すための槍ではない。
彼女を受け止めるための槍だ。
『くそ……お団子お団子うるさいんだよ……。つッ……美也ぁ……出てきちゃ駄目って言ったでしょ……』
……!
出てきちゃ駄目……ということは、まだお団子君の意識は存在しているということ……!
「お団子君!!!」
『うるさいッ!!!!!!!』
縁の剣が蛇腹状となり不規則的な動きで私に襲いかかる。
全身を切り刻まれるが……構うものか……!
「つぅ……おおおッ!!!」
『ッ!? 近付くなぁ!!!』
『射澄さん!』
「ッ!!!」
あと一歩、手を伸ばせば届く距離に彼女はいた。
だが、縁は飛び退き一帯から離脱。
この戦いではお団子君を救うことは出来なかった。
それでも……。
「今の声は、確かに……」
見えた光明。
生き恥を晒した甲斐を見つけた気がした。
暗くなってきた校舎。
人も少なく、特別照明がつけられるということもない。
その場で、立ち尽くすことしか出来なかった。
別に、仲間なんかではない。
ただ、その力を利用しようとしていただけでこれまでは敵であった相手。
それでも……。
私が彼女を引き込まなければ、金草遥が死ぬことはなかったのではないか?
頭を埋め尽くすその考えが、他の思考を遮る。
ライダーバトルに参加している以上、こんな風になることだって覚悟の上だっただろう。
それは詭弁だ。
それは責任転嫁だ。
「彼女の死は、私の責任だ……」
ずしりとのし掛かる重りが胸にひとつ増えた。
ああ、嫌だ。
こんな時は余計に彼のことを思ってしまう。
御剣燐。彼に寄りかかってしまいたくなる。求めてしまう。
しかし、それでは永遠に終わらない……。
ふと、携帯端末が震えた。
相手は……燐からで、震える手で急いで出てしまった。
「燐、いまどこにいるの?」
早口でそう捲し立ててしまった。
しかし、当の燐はしばらく無言でようやく口を開いたかと思うと衝撃のことを口にした。
『すいません美玲先輩……。デッキを、アリスに奪われてしまいました……』
夕焼けに染まる中庭は、校舎の外装と相まって幻想的な雰囲気を醸し出しているが、今はそんな場合ではない。
「愛をあげるからこっちにおいで」
「誰がお前みたいな変態に!」
絶賛、変態から逃げている真っ最中。
あとはやべー宗教の人。
樋知十羽子という少女が変身したライダーとは初対面である。
赤い、重そうな鎧が特徴的なライダーで逃走中にも関わらず彼女はゆっくりと歩いている。
「ねえ! なんか銃とか持ってないわけ!? 離れて攻撃出来るような武器!」
共に変態達から逃げる仲間の白いライダーに尋ねる。
ただ逃げるのではなく、せめて足止めぐらいはしつつ逃げなければならない。
ミラーワールドにいられるおよそ10分間は逃げなければならないからだ。
逃げずに戦えと思われるかもしれないけれど、あの変態と真正面からやりあうのは嫌だ!
「あります! シュートベントが一枚!」
「よしそれを使おう!」
白いライダーがカードを短剣型のバイザーに装填するとあの茶色い可愛らしい小動物のようなモンスターが現れて……変身した。
翼の生えた上半身は人型の蛇のような姿に。
「え……戻して! さっきの可愛いのに戻して!」
「やれって言ったのあなたですよね!? ……とにかく撃って!」
白いライダーがモンスターに命じると翼と翼の間に水の球が形成されて……そこから水流が放たれる。
これならモンスターに攻撃は任せて私達は逃げに徹することが出来る。
しかし、敵はライダーである。
樋知の変身したライダーが左腕の豹の顔を模した盾にカードを装填。
【GUARD VENT】
樋知の両肩にアーマーが装着され、更に重そうな見た目となる。そして……変態達の周囲にバリアが張られ、水流は呆気なく防がれてしまう。
「そんなのあり!?」
「私、仮面ライダーエクスシアは防御力が高いんです」
エクスシア……。天使みたいな名前なんかしてぇ!!
相方は変態悪魔みたいだし天使は天使でもろくな天使じゃないよ!
【CAPTURE VENT】
「え? やばっ!?」
気が付いたら、足に蜘蛛の糸が巻き付いていた。
そしてそのまま変態共の方に引き寄せられて……。
「さあ、私が愛をあげる」
長い爪をカタカタと震わせ、キス寸前まで顔を近付けながらそんなことを言われるがやはり変態の言うことは理解不能だ。
というかそれよりやばいんだけどこの状況!
「でえぇぇぇい!!!!」
白いライダーが短剣で変態に斬りかかってくれた。
おかげで変態は遠退いてくれたので助かった。
……いやいや。
「なんで逃げなかったの!」
「なんでって……あなたは私を助けてくれましたから……」
そんな理由で……。
だけど、なんとか切り抜けた今のうちに……。
「させませんよ」
【SWORD VENT】
エクスシアが両刃の剣で私達に斬りかかる。
白いライダーが短剣で受け止めるが、その横からウィドゥが爪を光らせる。
変態の相手は嫌だけど、私を助けてくれた人を見殺しには出来ない。
変態相手にタックルをかまして慣れない格闘技で戦う。
こういうのは瀬那のポジションで……。
まあ、案の定私達はボコられまして……。
やっぱりこういう箍が外れてる人は強いなぁ。
「あはは……どうしようね……。私、どっちかっていうとサポートタイプというかなんというかだから……なんというかその、弱いんだよねぇ……」
追い詰められたので、緊張を解すべくジョークを言うがジョークでもなんでもないなこれ。
「……サポートなら、何かそういうカードを持ってるんですか?」
「え? まあ、色々揃ってるよ」
「でしたら、一瞬でいいので隙を作ってください。そうすれば、この場を切り抜けられるかもしれません」
どうやら彼女には切り札があるらしい。
それに賭けるしかないようだ。
「作戦会議なんて無駄ですよ。あなた方はここで、主に捧げられるのですから」
【FINAL VENT】
……ファイナルベントなんて絶体絶命。しかし、絶対絶命の時こそ逆転の大きなチャンスである。
エクスシアの契約モンスターの翼の生えた豹が現れ、重の結界が私達を閉じ込めた。その上空に巨大な光。
綺麗だとは思わない。
あれは私達の命を奪う光。
それにしても……発動までに時間がかかるタイプで助かった!
【CONFINE VENT】
私の切り札、コンファインベントはカードの効果を無効化するカード。
それはファイナルベントも例外ではない。
私達を閉じ込めていた結界は割れ、豹のモンスターも消える。
「なっ!?」
さあ、隙は作った。
あとは彼女の出番。
【STRIKE VENT】
小さなモンスターが変化する。
今度は大型の鳥へと変化する。
翼の他に大型のブースターを装備していて見るからに速そうだ。
「逃げます!」
「了解!」
二人で巨鳥に飛び乗り離脱する。
あばよぉ変態!
「くっ……麗美!」
「もう追ってる」
快適な空の旅かと思いきや、ウィドゥの契約モンスターの黒い蜘蛛が追撃してきて奴の撃ってきた針が鳥さんの羽を掠めて不時着。その衝撃で私達二人は近くの車からミラーワールドを出ることになったのだけど……。
失意のまま、歩く。
戦うための力を奪われてしまった。
そして思い出したこと、知ってしまった現実。
それらが津波のように押し寄せて、頭が全然回らなくて……。
駐車されていた白い乗用車の横を通り過ぎている最中だった。
「うわぁぁぁ!?!?」
「きゃあぁぁぁ!?!?」
「えっ……えぇ!?!?」
女の子が二人。車から……車のボディから飛び出てきて、僕は押し潰されてしまった。
どうやら、ライダーのようだ……。
「痛たぁ……。君は大丈夫?」
「私は大丈夫ですけど……その、下に男の子が……」
「お、重い……」
「重いとはなんだい! 女の子に失礼じゃないかな!」
「ご、ごめんなさ……待って、早く降りて……死ぬ……」
危うく中のものが出てきそうというかもう死んじゃいそうというか……。なんとか、二人にどいてもらって一命は取り留めたけれど……。
「って、君たち怪我して!? 早く手当てしないと!」
「あ、あ~そうだね。結構怪我しちゃって……。ここなら私の家が近いし……痛ぁ……」
立ち上がろうとしてよろけた少女を支える。
この感じでは家に行くのも大変だろう。
「家まで案内してください。連れていきますから」
「え、けど……」
「そこの君も。まとめて手当てしますから。いいですね」
「は、はい……」
半ば強制するような口調になってしまった気がしないでもないが仕方ない。
快活そうな少女に肩を貸して近くだという家に向かって歩き出す。
……歩き始めてから気付いた。
さっきまで失意のドン底にいたというのに、いつの間にか少しだけ回復していた。
緊急事態でそれどころではなかったというのもあるけれど……。
「とにかく、今はこの人達を助けるのが先か……」
隣の少女に聞こえないよう自分に言い聞かせる。
力のない僕は、出来ることをするしかないのだから……。
次回 仮面ライダーツルギ
「これは、勝利宣言だ」
「でしょうね。今、一番奴に歯向かってるのは私でしょうから」
「男の、ライダー……。お前あの時の奴か!!!」
「はい、炒飯」
願いが、叫びをあげている────。
ADVENTCARD ARCHIVE
SHOOT VENT(仮面ライダーヴァリアス)
アゲートヴィーヴル 4000AP
仮面ライダーヴァリアスの契約モンスター=ヴェイルーツがシュートベントによって変化した姿。
下半身は蛇、上半身は人のようで翼が生えている。
水を発射し遠距離から攻撃する。
撃ち落とし、水中へと引き摺り込めば、あとは楽。