「痛たたたぁ! 痛い痛い~!」
「もう、ちっちゃい子じゃないんですから大人しくしてください」
手当を受けている少女の子供っぽい悲鳴が響く。
手当をしている少女の方がまだ中学生と言われても素直に信じてしまうような見た目なのにしっかりしている。というか、手当をしている君も手当が必要だぞ。
タオルを濡らしたりなど雑務を任されている間に手当が始まってしまっていた。
「君も怪我してるからおとなしくしてないと駄目だよ」
「私は大丈夫ですから」
「そんなことないでしょ。顔にまで怪我しちゃって……絆創膏、絆創膏……」
救急箱から絆創膏を取り出して貼ってあげる。
これでよし。
「おお~手慣れてるね~お兄さん」
「妹がいるので。流石にもうこんなお世話してないですけど小学生の時とかはよく怪我してたから……」
妹が小さい時のことを思い出す。
しょっちゅう転んでは泣きついてきていたものだ。
「……今の話だと、私が小さい子みたいな扱いじゃありませんか?」
「え!? い、いやそんなことは……」
少しだけ、ほんの少しだけ妹のような感じがしていたのは事実だ。
こう、なんだろう。
妹オーラみたいなものが出ている気がする。
「そういえばお兄さん。私達が鏡の中から出てきても驚かなかったよね。なんで?」
「なんでって、ライダーなんでしょ?」
「どうして、男のあなたがライダーのことを……」
あ、そうか。
最近はめっきり驚かれなくなってたけど基本的に僕はイレギュラーな存在なんだった。
そして、僕はもうライダーではない……。
「その、ついさっきまで僕もライダーだったんです。けどデッキを奪われてしまって……」
「奪われたって、誰に? 他のライダー?」
「……アリスに、です」
せめて、刃のデッキだけでも確保出来ればって……いや、刃のデッキは彼の物だ。人の物を盗ってはいけない。
「ふ~ん。まあ、女の子の戦いに男の子がいたんじゃね。アリスも仕事してくれたってことで。それよりお腹空いた~。ねえ、なにか作ってよ~お兄さん~」
「こき使うな君……」
「こっちは怪我人だぞ~」
それを言われてしまっては弱る。
それじゃあキッチンをお借りしますと言ってからふと気付いた。
ここまで会話しているのに、まだお互いに名乗っていなかった。
「僕はお兄さんじゃなくて、御剣燐。聖高の一年だよ」
「私は天才JKマジシャン撒菱茜だよ! よろしく燐」
いきなり呼び捨てとは、なかなか人との距離感が近い人だ。
そして、もう一人の少女も名乗ってくれた。
「……
キッチンを借りて、なにかを作ることになったのだが「今日買い物に行く予定だったんだよね~」と語った茜さん。
ようするに、食材があまりないということである。
冷蔵庫のあまりもの。
冷飯。
「……あの、大丈夫ですか?」
真里亞さんがこの惨状に心配してくれたがなんてことない。
これだけあれば充分なのだ。
「大丈夫。任せといて!」
真里亞さんは手伝いを申し出たが怪我人にそんなことはさせられないので丁重に断り調理を開始する。
後ろから茜さんのお腹空いたというお化けのような声がするが大丈夫。これは早く済む。
父さんが言っていた、中華はスピードだと。
「はい、炒飯」
炒飯。
それはパスタと並ぶ男の料理とされている。
部長も言っていたけど、モテたいならパスタと炒飯だと。
モテたい……かどうかはさておき自炊は出来て損はないし少ない食材で簡単に作れるので炒飯はよく作る。
妹からも好評な僕製炒飯どうぞ召し上がれ。
「うん、美味しい」
「……美味しい、です」
よかった。
美味しいと言ってもらえるのは嬉しい。
折角作ったものだしね。
「あーあ、折角こんな美味しい炒飯があるのに瀬那ったらどこほっつき歩いてるんだか」
「セナ? 妹さん?」
「ふふーん。私の仲間だよ。今は家に居候してるんだ」
「へぇ……」
そんな話をしたからか、噂をすれば影というやつでそのセナという少女が帰ってきたらしい。
リビングに入ってきた少女はドアの前で立ち止まった。
雑に伸ばしているだけの髪を金に染めた少女。
全体的に細い、というより痩せすぎだ。
なにより、その他人を拒絶する意志を宿す目には圧倒されてしまう。
「誰だ、お前ら」
その言葉が、肉食獣が威嚇する時の唸り声に聞こえた。
彼女の中では僕と真里亞さんは自分のテリトリーに侵入した敵でしかないようだ。
別に彼女と仲良くしたいだとかそういったつもりは一切ないが、何事も穏便に済ませたいと思うのが普通だ。
ここは、言葉を間違えたら殺される。
それぐらいの心づもりで言葉を選べ……。
と、意気込んでいたのだが。
「もう、なにシリアスやってるの! シリアス禁止! はい瀬那も燐が作った炒飯食べよ!」
「誰がそんなもんッ!?」
無理矢理、セナという少女の口に炒飯が突っ込まれた。
咀嚼する。
妙な空気が部屋を包む。
「……うまい」
敵対心だとかが抜けた声がした。
少女の目には光が宿っていてさっきとは雰囲気が違う。
もしかして、あれだろうか。
さっきまでの険しい雰囲気はお腹が空いてイラついていたとかそういう……?
思っていたよりこの少女、普通の女の子なのかもしれない。
あっという間に炒飯を平らげるとソファに腰掛け改めて僕達について問いただしてきた。
「で、お前らはなんだ」
「この子はライダーで私が助けた真里亞で、こっちのお兄さんは二人まとめてピンチになった私達を助けて炒飯まで作ってくれた燐だよ」
「お前……ライダーなんか助けやがって。見殺しにしとけば良かったんだ。数が減るからな」
「だってヤバイのに絡まれてたんだもん。この間のあの変態」
「は? あいつまた出たのか……」
二人の会話を眺める僕と真里亞さん。変態の二文字で通じ合っているが果たして……。
「多分、黒い蜘蛛のライダーのことだと思います……。ちょっと、変な感じしたので。あともう一人の方も……」
「ええ……変態が二人いるの?」
治安悪くなったなぁ聖山市も。
「あと燐もライダーだよ」
その一言が空気を変えた。
この人は余計なことを……!
しかも僕の予想以上にセナさんは怒り出して……。
「男の、ライダー……。お前あの時の奴か!!!」
「えっ、えっ!? どの時!? どの時ですか!?」
「あの夜! 咲洲といただろ!」
あの夜?
美玲先輩といた?
……思い出した。
僕が初めて
「もしかして、あの黄色いライダー……ですか?」
「ああそうだ! あの時はやられたけど今はそうはいかない!」
「落ち着いてください! 僕はもう、ライダーじゃありませんから……」
自分で言って、数時間前の事実を再確認する。
デッキを奪われ、この時間が何度も繰り返されていることを知り、僕の身になにが起きたかを知った。
僕が犯した罪と、償うための罰たる戦いと……。
「ちっ……。出てけ、ライダーと馴れ合うつもりなんてない」
ここは、彼女に従った方がいいだろう。
居残ったら殺されてしまいそうだ。
荷物をまとめて立ち去る。
もう、ここに僕がいる意味はないのだから。
「ま、待ってください!」
茜さんの家を出てすぐ真里亞さんが僕のあとを追ってきた。
それもそうか、彼女もセナさんからしたら部外者なのだから追い出すのは僕だけではない。
「追い出されちゃいましたね、僕達」
「まあ、長居は出来ないから……。あの人の言う通りよ、ライダーがあんなに集まって、手当てしたりとか普通ならあり得ない」
あり得ない、か。
本来のライダーバトルをしていたライダーからすればそれはあり得ないことか。
それでも、僕にとっては……。
まだ数日だけではあるけど、仲間がいて皆で一緒に行動して……。
だけど今はどうだ。
射澄さんは鐵宮に捕らわれ、美也さんはあの黒いライダーに取り憑かれて。
その上、僕はデッキを奪われてしまった。
ライダーとして戦うことが出来るのは美玲先輩と北さんと伊織さん、協力してもらっている遥さん。
数は揃っているかもしれない。それでも……。
僕のせいで繋がってしまったこの世界とミラーワールド。
僕がミラーワールドへの扉を開いてしまった。
だから、こんな殺し合いが起きている。
僕のせいで多くの人が命を失うことになった。
ライダーバトルによって。
モンスターによって。
その責任は、僕がこの戦いを止めて、モンスターから人を守り続けなければ取ることは出来ないだろう。
一生を、懸けても。
「……どうしたの? 顔色が悪いわよ?」
「え……。いや、なんでもないよ。それより、なんかさっきと雰囲気違う感じするけど……」
今話していて思った。
さっきまでとなんだか違う。
口調と雰囲気が違う。
さっきまではおとなしい人って感じだったけれど、今は……なんだろう。自分にはいないからよく分からないけれどお姉さん……みたいな?
「こっちが素なのよ。学園だとこんな感じじゃ怒られるから猫被ってるの」
「へ、へ~……。僕の前では、いいの? 猫被らなくて」
「そうね。学園の人じゃないし、貴方の前では別にいいかなって、そう思ったのよ」
得意気な笑みを真っ直ぐ向けられ、内心少しだけドキッときた。
いけないいけない。
僕には美玲先輩という人が……。
「あ……」
そう、だ。
記憶を呼び起こされて思い出していたが僕と美玲先輩は……。
「どうしたの? 今度は顔真っ赤よ? 顔色が忙しいわね」
「な、なんでもないよ……」
「なぁに? もしかして、私に惚れた?」
「違います」
そう言ったら、脇を小突かれた。
結構痛い。
「な、なんですか!」
「別に。冗談を真面目に返されたから面白くなかっただけよ」
「さいですか……」
痛む左脇腹をさする。
それからはしばらく無言で歩き続けていた。
建ち並ぶ家々からは笑い声が響いたり、今日の夕飯の香りをお裾分けしてもらったり。そこには確かに日常があった。
車が一台、僕達の先を行く。
排気音が遠くなった頃、真里亞さんが口を開いた。
「……ねえ、貴方もライダーなんでしょ」
「……はい。デッキを奪われちゃいましたけど」
「どうして、ライダーになったの?」
ライダーになった理由……それは……。
「……僕のせいで、この戦いは起こってしまったんです。だから、僕が止めないと……」
「貴方の、せいで?」
「そうです……僕がミラーワールドを開いてしまったから……。だからモンスターが人を狙うようになって……」
堰は崩壊していた。
この事実に耐えきれなくなってきていた。
全ては、自分の責任であるということに……。
「……よく分からないのだけれど、本当に貴方の責任なの?」
「え……?」
「ミラーワールドが開いたのが貴方の責任だとしてもそこからライダーバトルが発生してしまったのは何故?」
「それ、は……」
ライダーバトルが始まった理由。
それは、分からない。
そもそも仮面ライダーは最初、僕しかいなかった。
それが何故、今はこんなにも仮面ライダーが存在しているのだろうか。
ただ、それでも……。
「それでも、僕の責任だ。ミラーワールドさえ開かなければこんなことには……!」
「違う。それは違うわ」
「なんでそう言い切れるんですか!」
「貴方の罪がミラーワールドを開いたことだとして、それを利用してライダーバトルを起こした人がいる。ならライダーバトルが起きてしまったことは貴方ではない別の誰かの罪。それも、貴方がミラーワールドを開けたことを利用した悪どい奴よ、きっと」
反論、したかった。
だけど、言葉が出なかった。
「それに誰も貴方を糾弾なんてしないし出来ないわ。特に、ライダーなら。願いがあるから戦ってる。願いを叶えるチャンスを与えてくれた……」
「チャンス……?」
「私の願いは小夜……死んだ妹を蘇らせること! ……だから、私は戦うわ。譲れない願いのために。貴方がデッキを奪われてライダーじゃなくなったのは幸運かも。私、貴方のことは殺したくはないみたいだから……それじゃあ私はこっちだから。また会ったらあの炒飯お願いね! すっごく美味しかったから! それじゃあね!」
真里亞さんはまたあの得意気な笑顔を浮かべて走り去っていった。
怪我人ということを忘れさせるほどの元気に少しだけ、僕も元気になれた気がした。
夜の生徒会室に光が灯っているが特に気にされることはなかった。文化祭が近付いてきているのでこの時期はそういうものなのだと教師も生徒も思っているからだ。
しかしこの生徒会室で話し合われることは文化祭のことではなくライダーバトルのことであった。
そして今の議題は鐵宮が手にした力のこと。
黒峰樹は半信半疑で問いかけた。
「……本当なの? 未来が見えるようになったって」
「ああ、素晴らしい目を与えてくれたものだよ。彼女には感謝しなければならないね」
「彼女? アリスのこと?」
「いいや、彼女はコアと名乗っていた。君達は会ったことは?」
全員に問いかけるが、コアとは誰も会ったことはなかった。そもそも、コアという名すら初めて聞いた者しかいない。アリス以外にもライダーバトルに関わる謎の存在がいるという事実に内心驚くばかりである。
「なるほど、それでは彼女は私にとっての勝利の女神ということかな?」
「きっとそうだよ! その力があれば私達は無敵だもん! そうしたらなっちゃんもっともっとライダーを殺せるもんね~」
「頼もしいな玄汐君は」
未来視の能力を手に入れた鐵宮は現時点において最強のライダーの座に君臨していることは間違いない。
そうなると彼の下についたのは正解だったに違いない。そう、思いたいところではあるが……。
(未来が見えるってことはつまり寝首を掻くのも駄目ということになる。もしもこいつが私との約束を果たさずに切り捨てられるようなことになれば────)
樹は彼との契約が不履行になることを恐れた。
鐵宮を勝たせるために彼の手駒となり、願いを叶えた暁には自分の願いである右腕の治療を施してもらえる。
だがもし鐵宮がこの契約を守らなければ。
その時は鐵宮を殺す気でいた。
しかし今の鐵宮に奇襲は通用しない。
自分の得意な戦法が通じないのであれば、奴を殺せないのであればその時は……自分はどうすればいいのかと。
「鐵宮。興味本意で聞きたいのだけれどいいかい」
ずっと黙っていた射澄が鐵宮に問いかけた。
珍しいと誰もが思った。
メモリアカードを奪われて、無理矢理従わされている彼女はここでは最下位の人間であり発言できるような者ではなかったからだ。
「なんだね神前君。言ってみたまえ」
「その未来視の能力はどこまで先の未来を見れるんだい? 明日までなのか一週間後までなのか、はたまた何十年も先の未来まで見据えることが出来るのか……」
「なるほど、確かにこの目の性能限界は知っておくべきことだ」
鐵宮は瞳を閉じた。
自分自身が見据えることが出来る最も先の未来を視るために────。
映るはもう一人のイレギュラー。
御剣燐。
彼が、目の前に立ちはだかっている。
そこから先は……見えなかった。
ここが、限界。
「……恐らく、一週間以内までだ」
「視たのかい?」
「ああ」
「どんな未来だったの~?」
鐵宮は口を閉じた。
先程までの上機嫌は鳴りを潜め、席に深く座り込んだ。
「……鐵宮?」
「……試練は、付き物か」
「は?」
「……神前君、君の友人である咲洲美玲に伝えたまえ。降伏しろと。黒峰君と佐竹副会長は他のライダー達にこう言いたまえ、"鐵宮に従えば願いを叶えよう。歯向かえば死あるのみ"だと」
全員が鐵宮の意図を理解しきれなかった。
そんな困惑を浮かべる臣下達に王は言い放つ。
「これは、勝利宣言だ。私はこの戦いに勝つ。そして勝利の暁には私に従った君達の願いを全てを叶えよう」
王が宣言した。
勝利を。
王が宣言した。
願いを叶えると。
その言葉には真実か嘘かなどどうでもよくなる力強さがあった。
そうして、鐵宮達は更にライダーバトルというゲームを優位に進めていく────。
あれから、自室で一人。
家に着くやいなやすぐにベッドに横たわり、それからなにも出来なかった。
燐と取ろうとしても、出来なかった。
燐に支えてもらいたい、燐に寄りかかってしまいたい。
だけど……デッキを奪われてしまったという燐に今、そんなことは出来ない。
そんなとき、スマホが鳴った。
すぐにスマホを手に取った。
燐からかもしれないと思って。
連絡してきたのは射澄からだった。
「もしもし」
『やあ美玲。愛しの燐君じゃなくて悪いね』
……そんなに分かりやすかっただろうか、私は。
『冗談はともかくだ、聞いてほしい。鐵宮はライダーバトルを終わらせる気だ』
射澄の言葉が私の身体を起き上がらせた。
「どういうこと……」
『これから話すことは全て真実だ、鐵宮は未来を予知する能力を手に入れた。そんな相手に私達……他のライダーは勝てない。だから鐵宮は全ライダーに対して降伏するように言っている。歯向かえば死、従えば願いを叶えてやると言っている』
「ちょっと待っていきなり情報量が多すぎよ……。未来を予知? 従えば願いを叶える? なにを考えているの?」
『恐らく、全ライダーを従えさせて自分以外のデッキを壊すとかでもするんじゃないのかな。そうして願いは全員の願いを叶えろとか、そんな感じだと思う』
そんな、馬鹿げている。
全員の願いを叶えることなんてそんなことはきっと出来るわけがない。
あのアリスがそんな結末を求めているとは思えない。
直感だけれど、そんな気がする。
あの女のことが分かる気がするというのは癪だけど……きっと、そうだ。
『……美玲に、降伏しろと伝えろと言われた』
「でしょうね。今、一番奴に歯向かってるのは私でしょうから」
『すまない、私のせいで……』
「気にしないで、未来を予知するだかなんだか知らないけれど倒すことは出来るはずよ」
『……まだ、戦う気でいるのかい?』
「当然でしょう。射澄、私は自分で決めたことは曲げるつもりはないわ。鐵宮を倒して、射澄のメモリアカードを取り返すって、そう決めたから。それに……」
『それに?』
「……鐵宮の理屈でいくと、他のライダーの中に燐と付き合うことが願いなんてライダーがいたら燐を盗られるでしょう」
射澄は笑った。
これ以上に面白いものはないと言わんばかりに。
「なによ」
『い、いや……ごめん悪かった。けどそうだね、ひとつのものを求めるライダーが二人いたとしたらその二人の願いはどうなるんだろうね、ああ、なんだそんな簡単な抜け道があるなんてどうして気付かなかったんだろう私は。あーはっはっはっ!!!』
「ちょっと、笑い過ぎよ。……ともかく、鐵宮の要請を受け入れる気はない。徹底抗戦よ」
『それでこそ美玲だ。君が私の友達でとてもおもしろ……嬉しいよ』
……今のは、聞かなかったことにしてやろう。
『私も上手いことやるよ。それに自分なりに鐵宮を倒す方法を考えたんだ。きっと上手くいく』
「……本当なの?」
『ああ、本当だよ。美玲がやる前に私があの男をやっちゃうかもね』
……なにか、違和感がある。
そのことを問いただそうとする前に射澄は通話を切ってしまった。
かけ直しても出ない。
射澄……なにをする気なの……?
家路につくため、彼と別れて一人になった瞬間だった。
あの二人組と再会してしまったのは。
つけられていて、一人になるところを狙われたらしい。
デッキを所持していると怪我の治りが早くなることには気付いていたけれど、治癒よりも早い再会はなんて不運。
更に二対一という圧倒的不利な状況に私は追い詰められていた。
「さあ、主の下へお行きなさい。主は貴女を赦します。貴女のどんな罪も洗い流してくれます。だから、どうか……ね?」
両刃の剣が振るわれる。
短剣で受け止める。カードを使わせてくれる暇すらない。
それに……罪、だと。
思い出すのはあの光景。
私を庇った妹が血を流す姿。
そうだ、それが私の罪だ。
あの時、死ぬのは私の方だった。
神様に連れていかれるのは私の方だった。
なのに……。
『どうしてあの娘なの……』
『よりによって……』
「ッ……! でえぇぇぇぇ!!!!」
「なッ……!」
紅のライダーを押し返し、この勢いで奴を攻めたてようとする。
しかし、黒いライダーが行く手を遮る。
鋭く、長い爪の連続攻撃を躱し続けるが先の戦闘の傷が痛み反応が遅れた。
爪が鎧を袈裟に斬る。
「ぐう……!」
「ふふふ……」
未だにカードを引けない。
引かせてもくれないし、なにより腕が限界を迎えようとしていた。
「痛みを……愛をあげる……」
わけの分からないことを……。
こんなところで終わるわけにはいかない。
なんとか、生き延びなければならない……!
「ヴェイルーツ!」
『キュー!』
名前を呼ぶと契約モンスターのヴェイルーツが駆け付けて足先から私の身体を駆け上がるとデッキからカードを引き抜いてくれた。
これなら……!
「……」
【CAPTURE VENT】
『キュ!?』
「ヴェイルーツ!?」
突如、ヴェイルーツが横から飛来した何かによって吹き飛ばされた。
電柱に叩きつけられヴェイルーツは蜘蛛の糸のようなもので張り付けられ、脱出しようと踠いているが振りほどけないでいる。
これでは……。
「カードも使えないし頼みの綱のモンスターもあれじゃあね……。おとなしく私の愛を受け取って?」
ここで、死ぬ?
死ぬの、私?
嫌だ、嫌だ。
死ねない、死にたくない。
動け!
動け私の身体!
こんなところで死ねない!
しかし、思いとは裏腹に身体は動かない。
ああ、なんて呆気ない。
なんて情けない。
嫌だ、
「あーはいストップストップ~」
響いた声はどこか気怠げだった。
いつから、そこにいたのか。
ヴェイルーツが張りつけにされている電柱の影からそのライダーは現れた。
深緑の、忍者のようなライダーが。
「……誰?」
紅いライダーが忍者のようなライダーに問いかけた。
「殺し合いご苦労様。けどもうこんなことしなくても願いが叶う方法があるんだけどどう? 興味ない?」
殺し合いをしなくても、願いが叶う方法……?
このライダー、一体何者なの……?
「いいえ、そんな方法はありません。私の願いはこの手で、一人でも多くの人を主の下へ送り届けることですから。麗美さんもそうでしょう? その手で多くの方へ
「……うん、そう……」
なんて、奴等……。
こんな奴等がいたなんて、凶悪にも程がある。
「あー、そっか、じゃあ交渉は決裂ってことで。……玄汐」
「はーい☆ なっちゃんだよ~☆」
紅いライダーの背後からまた一人ライダーが現れた。
二本のナイフが闇の中で妖しく輝き、紅いライダーを切り刻もうと振るわれる。
「そこのあんたは?」
「え?」
「どうする? さっきの話。断るって言うなら殺すけど」
……。
どうやら、本気のようだ。
今の私には彼女達に抵抗する力はない。
ここは、彼女達の話に乗るしかないようだ。
「……よく分からないけど、乗るわ」
「りょーかい。賢明な判断が出来る人で助かるわ。それじゃ、あのヤバそうなの二人は片付けるか」
【SWORD VENT】
巨大な手裏剣が召喚され、忍者のようなライダーも戦闘に加わった。
私はとりあえずミラーワールドから、戦場から脱出しておくことにする。
巻き添えなんて食らったらたまったものではない。
次回 仮面ライダーツルギ
「上谷真央先輩……で、あってます?」
「そうじゃない。きっと、彼は戦う道を選ぶ……。選んでしまう」
「北さん、うるさい」
「神様、私はママを殺してしまいました。どうか、お許しください」
願いが、叫びをあげている────。
ADVENTCARD ARCHIVE
STRIKE VENT (仮面ライダーヴァリアス)
ジルコニスガルーダ 4000AP
ヴァリアスの契約モンスター=ヴェイルーツがストライクベントにより変化した姿。
ガルーダの名の通り巨大な鳥型モンスターとなる
高い機動力を誇り、空中戦を得意とする。
大地を駆ければ、いずれ空へと至るはず。