樋知十羽子のはじめての殺人は彼女が小学校2年生の時に行われた。
正確に言えば、母の自殺の幇助。
シングルマザーであった十羽子の母は鬱を患っており、自らの手で命を絶とうと決意した。
だが、その決意はすぐに崩れた。
死ぬのは怖いと、首を吊るための縄が教えてくる。
ただ、死にたい。
ただ、消えたい。
無意味で無価値な自分を終わらせてしまいたい。
だけど死ぬのは怖い。
ならば、どうする?
そこで、十羽子の母は思い付いてしまった。
自分で死ねないのなら、誰かに殺してもらおうと。
自分の娘に殺してもらおうと。
「ねえ、十羽子」
「なにママ?」
「ママの背中を思いっきり強く押してほしいの」
十羽子は母の言うことをよく聞く子供であった。
学校で先生から困ってる人がいたら助けてあげましょうとよく言い聞かされていたし、母が常に困っているのだと幼いながらに十羽子は母のことを理解していた。
そしてなにより十羽子は人を信じすぎてしまう子であった。嘘や冗談と言った類いのことをまだよく分かっていなかった。
だから、疑いもしなかった。
天井から吊るされた縄を見ても。
縄で作った輪を首にかける母を見ても。
椅子の上に立つ母の後ろに、同じように椅子の上に立つ。
母が、「押して」と言ったから母の背を精一杯の力をこめて強く押した。
まだ幼い十羽子の力でも母を椅子から突き飛ばせてしまうほどに母が軽かったことを今でも覚えている。
母は浮いた。
地に足をつけずとも立っているかのようだった。
そんな母を見て、幼い十羽子は母は宙に浮くことが出来るんだなどと思ったが話しかけても返事をしない母を怪訝に思い始める。
宙に浮かんだままの母。
先月、学校で作ったてるてる坊主のよう。
夕陽のオレンジと夜の青が混濁していく。
声をかけても母は返事をせず、ひぐらしの鳴き声だけがこの世界唯一の音。
母が返事をしないので、十羽子も口を閉ざした。
そろそろ夕飯の時間。
だけど、母はてるてる坊主。
てるてる坊主にご飯は作れない。
ああ、お腹が空いたなぁ。
2時間後、借金の取り立て屋が自殺した母と母の傍らに座り込んでいた娘を見つけ警察に通報する。
ここではじめて母が死んだということを十羽子は理解する。
大人達は十羽子を哀れんだ。
ああ、ショックで言葉を失なってしまったのかと。
あの後ろにあった椅子は子供ながらに母を助けようとしたものだろう。
ああ、可哀想に。
可哀想に。
その後、十羽子は施設で育てられた。
世界的宗教が運営する施設であった。
そして人の死と殺人という罪について理解する。
まっとうに生きていれば誰だって殺人が罪だと覚える。
十羽子もそれを知った。
知ってしまった。
あの日の自分の行いは殺人だったのだと。
罪を犯したのだと。
ああ、ああ、ああ。
私は、なんてことを─────。
罪悪感に押し潰された十羽子はこれからどうしようかと悩んだ。
警察にバレたらきっといっぱい怒られてしまう。
黙っていれば問題ない。
黙っていれば大丈夫。
だが、黙っていると心がドンドン重くなる。
もう耐えられなかった。
誰かに話してしまおうと。
いわゆる、懺悔である。
しかし誰に話すというのだ。
施設の先生?
神父様?
それとも学校の先生?
どれも、違う。
話せばいっぱい怒られる。
だけど、打ち明けたい。
それじゃあ、どうする?
そうだ、神様だ。
神様に打ち明けよう。
毎日のように祈りを捧げている神様に打ち明けよう。
「神様、私はママを殺してしまいました。どうか、お許しください」
祈った。
祈りを捧げた。
すると、どこからか声で聞こえた。
『いいえ、十羽子。貴女はママを殺したわけではない。貴女はママを救ってあげたのです』
「ママを、救った……?」
『そう。貴女のママはこの世を生きるには弱すぎた人間だった。だから貴女に殺されたことで私のところへ送られて貴女のママは救われたの』
「ママは、救われた……」
『そう。だから十羽子、貴女はとても良いことをしたの。だから、罪なんか感じては駄目』
私は、良いことをした……。
そっか、私は良いことをしたんだ……!
ママは救われたんだ!
……けど、どうやって?
声のところへ行けば救われるの?
それでは、この声の主は一体何者なの?
「あなたは……あなたは誰なんですか?」
『私は、貴女の神よ』
私の、神。
神様への祈りがちゃんと通じたんだ。
私は……許されたんだ!
それからも、神の声は聞こえてきた。
この世には強者と弱者がいる。
弱者はこの世では生きていけない。
だから神である私が弱者を救うのだと。
私はその手伝いをしてくれた良い子だと。
これからも私を手伝ってほしいと。
けれど殺人なんてそうそう出来るものではない。
そうして、月日が流れた。
学力も優秀で施設でも模範的な児童であった十羽子は聖山市でもトップレベルの進学校である藤花女学院へと進学。
学校でも評価は高く、教師からも生徒からも信頼を寄せられていた十羽子であったがその心は満たされていなかった。
神様のお手伝いがまるで出来ていない。
自分は悪い子だと。
こればかりは他人が埋め合わせることが出来ない渇き。
そんな渇きの正体こそ知らずとも、渇いていると見抜いたのがアリス。
十羽子をライダーバトルへと誘った。
それが、十羽子をまた変える。
はじめてのライダー同士の戦い。
剣で打ち合い、感じた。
この娘は、母と同じ弱者だと。
この世で生きていけない、救いが必要な存在だと。
ああ、ああ、救わなければ。
私が、神のもとへ導かなければ。
よかった、これで神様のお手伝いが出来る。
はじめて出会った自分以外のライダーを救った。
そして二度目、三度目、四度目、五度目。
どのライダーも、救わなければいけない弱者であった。
氷梨麗美もまた、救わなければいけない弱者であった。
彼女は愛を求めていた。
痛みが愛だと。
可哀想に。
痛みが愛だなんて、きっとそれしか知らないのだろう。
ねえ、神様?
『どうしたの十羽子?』
この子をただあなたのもとへ送ってもきっとあなたの愛というものを理解出来ないと思うのです。
だから、私が彼女に愛というものを教えてからあなたのもとへ送りたいのです。
『十羽子、貴女はなんて素晴らしいの。更なる救いをその娘に与えようというのね。ええ、きっと貴女なら出来るでしょう』
はい、神様。
きっと、この子も他のライダー達のように。
ママのように、お救いしてみせます────。
「ねえこいつ攻撃が通じないんだけど!」
鋭いナイフの斬撃も。
「防御力がダンチ……!」
どれだけ分身を作って攻撃してきても。
「攻撃は全て無意味。ですので攻撃は止めてください。私は貴女達を救いに来たのです」
盾でナイフの一撃を弾く。
これまでとは違い、防御のために盾を置くではなく攻めるために盾をナイフが振り下ろされるのに合わせて振り上げた。
相手の身を崩し、隙だらけの胴体に盾を押し込んでいく。パワーでは私に分がある。
塀まで追い込み、動きを封じる。
「こんの……離せよッ!!!」
「ふふ、本性が出てますよ。さっきのような可愛らしい声では鳴かないのですか?」
押し付けていた盾を一旦離し、下腹部を蹴りつける。
「ガッ……!?」
「玄汐!」
麗美さんが相手どっていた深緑のライダーが味方の危機にこちらへと向かってくる。
走りながら巨大な手裏剣を私へと向かって投擲するも無意味。
私の盾の前にはどんな攻撃も通らない。
手裏剣は私の首をはねようという軌道。眼前に盾を構えて防御。
金属と金属がぶつかる音。
「だから、無意味だと……」
【CLEAR VENT】
しまった……!
顔を狙ったのはカードを使う瞬間を作るためだった。
あのカードの効果は一定時間自身を透明化させる効果。
どこから攻撃してくるか分からない以上、盾を持っていても無意味だと言ってきているかのようだ。
「しかし、この盾は召喚機。私はまだ盾を二枚残している……!」
デッキから二枚まとめてカードを引き抜き続けざまに盾型の召喚機へとカードを挿入、読み込ませる。
【GUARD VENT】
【GUARD VENT】
二種類の盾が召喚される。
ひとつは両肩に装備された鎧から放たれる光のバリアフィールド。
射撃などの遠距離からの攻撃を防ぐことが出来る。
もうひとつの盾は背中に備わった天使の翼。
羽根の一枚一枚が盾となり、背後からの攻撃は自動で防御する。
この二つを備えた私をどう攻略する?
麗美さんも私の近くまで来たので二人で備えることが出来る。
さあ、どう攻める?
もし、私がこの状況ならば距離を取って相手を観察し隙を狙う。しかし遠距離からの攻撃は無意味。
私達から距離を取ってしまった時点で詰みなのだ。
それか仲間を見捨てて自分だけ逃げた?
だとしたら、本当に弱い。
私が救うべき弱者らしい。
「ぐっ……こんのォ!」
足で押さえつけていたライダーが拳を振り上げ、反抗しようとしてきたが蹴り込んでいた足を更に押し付けることで黙らせた。
先程の盾の一撃で内臓にいいダメージを与えている。
彼女はもう、いつでも救済出来る。
「抵抗して仲間が助けに入れる隙を作ろうとでもしましたか? 安心してください。仲間からは助けてもらえませんが、私が救ってあげますから」
そう告げると彼女の抗おうという意思が潰えたのか全身脱力したようで両腕もだらりと下げ、戦意の喪失を告げるように一瞬だけ両腕を上げた。
「はぁ……ちょー意味わかんないですけど~」
「意味ならすぐに分かりますよ。死んだ後でですが」
救済の意味を教えるため、剣を構える。
主よ、どうか彼女もお救いください……。
「バーカ、違うっての。てめーの言葉もイミフだけど……そこにずっといるのがイミフだって言ったんだよイツイツ?」
こいつ、なにを言って……。
「……! 樋知ッ!!!」
その時、麗美さんが叫ばなければ死んでいた。
もし、ほんの一瞬でも遅ければこの
「そんな、まさか……ずっと、
私と、死に体のライダーの間に現れる深緑のライダー。
彼女が握る直刀には私の血が付着していた。
腹部貫通を免れた代償に脇腹を切り裂かれてしまったのだ。
傷口が熱を持つ。
そして出来てしまったこの傷を深緑のライダーが狙う。
「麗美さんッ!!!」
救援を要請する。
互いに深手を負ったライダーが一人。
まだ状況はイーブン……!
「させないぞ☆ なっちゃんからのお返しプレゼント~☆」
【FREEZE VENT】
「これは……!」
麗美さんの脚が凍りつく。
動きを封じ込められてしまった。
「も~イツイツヒドイぞ☆ なっちゃんずっとピンチであんな近くにいたのにすぐ助けてくれないなんて!」
「ごめん。なんか面白い情報ないかなって思って聞き耳立ててた。完全に癖になったわ、これ。あいつにこき使われたせいで。……それより、さ。あんた達、投降する気は?」
「ないと言ったはずですが」
「……だよね。せっかくみんなの願いが叶うかもしれないってのに。いや、あんたの願いは叶ったら困るやつだったね確か。救済を、とか意味分からないやつ」
意味が分からないものなどではない。
今は意味が分からずとも私の手で殺されることでその意味が分かる。
私が殺した人は、救われる。
「敵対するなら殺す。……けど、今日は退いたげる。じゃあね」
「えっ。イツイツあいつら殺さないの!? ねー! ちょっとー!」
二人のライダーはこの場から去って行った。
……見逃された。
いや、あれはまたいずれ戦うという意思表示。
「次は、私が殺し……」
視界が狭まる。
そして、ぐにゃりと歪む。
天と地が分からなくなり、私は……。
「ただいま……」
すっかり遅くなってしまい、恐る恐る家の中へ。
けれど、普通にバレてしまうものである。
「燐~? おかえりなさい。いま何時だと思う~?」
母さんが笑顔で聞いてくるがあれは怒っている時の笑顔である。
素直に謝ろう。
「その……ごめんなさい。ご飯は大丈夫だから」
「あ……ちょっと、燐」
「部屋にいるから」
母さんの横を通り過ぎ、階段を昇り自室へ。
着替えもしないでベッドに座り込み、今日のことを整理しようとして……。
「無理だろ、整理なんて……」
一度に大量の、何億年にも相当しそうなほどの記憶を注ぎ込まれたのだ。
脳がパンクしたっておかしくない。
事実、いっぱいいっぱいになっている。
僕は……。
ミラーワールドを開いてしまった。
そこで、アリス……キョウカさんと出会い、友達になった。
だけどミラーワールドが開いてしまったせいでモンスターが人間を襲い始めてしまった。
そんな事が起きているとは知らなかった。宮原士郎から教えられるまで。
そして、彼から渡されたデッキを用いてツルギに変身してモンスター達と戦って……。
「僕は、死んだ……」
あの時、ミラーワールドにいたモンスター達は今のモンスター達よりも強大で凶悪だった。
自分でも、よく勝てたと思っている。
相討ちに持っていけただけでも大金星だと思う。
……辛く、長く、孤独な戦いだった。
がむしゃらに戦って、戦って……。
「僕が死んで、終わりじゃないのはなんでなんだ……。アリス……なぜ時を巻き戻す……」
刃曰く、アリスは時を巻き戻すことが出来て、何度もライダーバトルを繰り返してきたようだ。
気になることは他にもある。
ライダーバトルだ。
ライダーはツルギ、僕一人だけのはずだった。
それが今はライダーで溢れかえって、ライダー同士で殺し合うなんてことになっている。
願いが叶うだとか、そんな話は始まりには存在しなかった。
これは、僕だけの情報では解決出来ない問題。
アリス……キョウカさんに聞いてみるしかない。
そして、デッキを返してもらわなければ。
僕がまた、戦うためにも……。
けれど、ミラーワールドに入ることもアリスと会話することもデッキがなければ出来ないこと。
誰かにデッキを借りる?
そうすればミラーワールドを視認することは出来る……。
「美玲、先輩……」
誰か、他のライダーですぐに思い付いたのは美玲先輩であった。
僕が恋した人。
美玲先輩はどうして、どんな願いを持ってライダーバトルに参加しているのだろう。
前に訊ねた時ははぐらかされてしまったが……。
コンコンというノックの音が思考を遮り、反射的に顔が上がった。
二日前に見たのと全く同じ構図で、母さんが部屋に入ってきた。
「燐、やっぱりどこか具合悪いんじゃないの? 熱とかない?」
「……大丈夫だよ。全然、平気」
「またそんなこと言って……。正直に話して?」
「いや、本当に大丈夫だから……。疲れたからもう寝る。ほら出てった出てった」
「えぇ? お風呂と歯磨きは~?」
もういいからと部屋から押し出し、制服を脱ぎ捨て電気を消した。
ベッドへと倒れるように寝転び、目を閉じる。
……やはり、頭が働いてしまう。
それも、嫌な方向へ。
あまり考えたくないことだが、それでもやはり無視出来ない。避けては通れないひとつの謎。
「アリスが僕の知ってるキョウカさんなら、あの鏡華さんは一体誰なんだ……」
キョウカさんと鏡華さん。
まさしく鏡合わせのような二人。
鏡華さんは知らないと言っていたけれど、やはり二人に関係がないとは思えない。
なにか、あるはずだ。
そして、なにより鏡華さんは……。
僕の戦いの記憶の中に、ほとんど存在していなかった。
翌日。
「ほらやっぱり具合悪かったんじゃない。今日は学校休みね」
身体がだるく、熱っぽい。
微熱ではあったけれど、学校に行くのは厳しい。
「ちゃんと寝てるのよ。なにかあったら呼んでね」
「……はぁい」
昨晩、考え過ぎたせいでほとんど眠れなかったことが原因かこんな大変な時期に体調を崩してしまうなんて。
母さんも部屋から出ていき一人きり。
寝不足だけど眠気は来ない。
情けない話だけれど心細さを感じてしまう。
嫌な考えばかりがぐるぐるとループしてしまう。
なんとか考えを振り払おうとして、布団を頭まで被った。
「おはよう咲洲さんッ!!!!!」
「北さん、うるさい」
こんな朝っぱらからうるさいのと出会ってしまった。
あまり朝には強くないのでやめてもらいたい。ただでさえこれから学校だというのに。
「おはよう、咲洲」
「……日下部さんも北に巻き込まれた感じ?」
「あはは……まあ、そんな感じ」
「今朝は日下部さんだけじゃない。上谷さんも一緒さ!!!」
北が左にずれると小柄な女子生徒が一人。
この間、喜多村につっかかっていた風紀委員の……。
俯きがちで、すぐにまた北の背に隠れてしまった。
「彼女もライダーなんだ。なりたてでね、私が昨日保護したんだ」
「保護って……」
ライダーになりたてということは戦闘経験もほとんどないのだろう。
正直、そんな人材を抱える余裕はない。
「北、保護かなにか知らないけれど私には一切関係ないわ。やるなら全てあなたの責任よ」
「分かっているとも。上谷さんの面倒は私が見る。……それより、我が姫は?」
「……さっき家に寄ったけど、燐なら体調不良で休むそうよ」
「なんだって!? 今すぐお見舞いに!!!」
「やめなさい。具合悪いところに貴女が行ったら悪化するにきまってるわ」
私だったら悪化する。
こいつに体力と気力を吸い取られて。
それに……。
「それから、燐はもうライダーじゃないわ」
「え……」
「どういう、ことだい……咲洲さん」
「デッキをアリスから取り上げられたそうよ。だからもうライダーじゃない。ライダーでなければもう、ライダーバトルに関わる必要はない……」
事実を述べる。
北さんも口を閉じてしまうほどの衝撃。
しかし、もともとライダーバトルは女のものであった。
男である燐が参加するものではない。
だから……。
「これでいいのよ、これで……」
自分にも言い聞かせるようにそう口が動いていた。
燐は優しいから、戦いをするような人ではないから、これでいい……。
「けど、本人はそれで納得してるの?」
そんなことを言ったのは日下部さんだった。
「彼、きっと納得なんてしてない。それに私は……彼には、仮面ライダーでいてほしい」
「なん……ですって」
「彼の言う仮面ライダーと私達の言う仮面ライダーは意味が違った。彼は……私達に必要だと思う」
「燐に戦えっていうの……」
「そうじゃない。きっと、彼は戦う道を選ぶ……。選んでしまう」
……否定したかった。
言い返してやりたかった。
だけど、出来なかった。
それは、私もどこかで分かっていたことだった。
デッキを奪われたのなら大丈夫だと思い込みたくて……。
それでも……。
「……だとしても、もう燐は戦わせない」
そうだ、それが一番いい。
燐はこの戦いに関わってはいけない。
戦いなんて、彼には似合わないのだから……。
「……まあ、あんな感じだけどなんとかなる。なんとかするさ私が! あーはっはっはっ!」
学校についてから、北さんがそんなことを言った。
事態のほとんどを、いや全てを理解出来ていないけれどとにかくピンチらしいということは理解した。
ライダーバトルに巻き込まれてからよく分からないことが多すぎる。
本当に、私はこの人についていっていいのだろうか……。
「それじゃあ上谷さん。また昼休みに集まろう。鐵宮の仲間から勧誘されても断ってすぐに誰か人のいるところに。というか基本的に一人にならないように。それでは良き学生生活を!」
「あ……」
行ってしまった。
クラスが違うので仕方ないけれど、出来る限りは一緒にいてほしかった。
鐵宮……生徒会長がライダーで彼の配下のライダーが何人もいるという。
もし、そいつらと出会って戦うことになってしまったら……。
「上谷真央先輩……で、あってます?」
「ひっ……!」
いきなり背後から声をかけられたものだから驚いてしまった。
私を呼んだのは見覚えのない一年の女子生徒。
「あ、あなたは……?」
「あ、すいません。一年の黒峰樹っていいます。ぶっちゃけた話をすると、ライダーです」
ライダー……!?
もしかして、鐵宮の……。
すぐに北さんを追いかけようとしたが腕を捕まれてしまった。
「落ち着いてくださいよ。その反応、先輩もライダーなんですよね? あいつらから色々聞かされたかもしれないですけど、別に先輩を取って食おうだなんて思ってないですから」
「え……」
「もっと言うと私達は先輩を仲間にしようと思ってます」
仲間に……?
一体、この人はなにを言って……。
「私達はもうすぐこの戦いに決着をつけます。戦いが終われば、私達はみんなで願いを叶えることが出来る……。どう? あいつらといるより私達といた方が良くないですか?」
みんなで願いを?
この戦いは最後に勝ち残った一人が願いを叶えるという戦いのはずだ。
それがどうすればみんなで願いを叶えるだなんてことに……。
「……もっと言うとさ、鐵宮は歯向かう奴は殺せって言ってる。奴等といたら先輩も殺されちゃいますよ」
「ま……待って! そんな、私はただ……!」
「先輩、賢く生きましょうよ。奴等から私達のことどの程度聞いてるか知らないですけど、どっちについた方がいいかぐらいなんとなく分かりますよね?」
……殺されたくはない。
……私に優しくしてくれた北さんを裏切りたくもない。
……私は……。
「ま、いい返事を期待していますよ。賢そうな先輩なら、私達を選んでくれるって信じてますけど。私も先輩を殺したくないですし」
それじゃあと黒峰樹という女子生徒も去って行った。
……もしも、彼女が言っていたことが本当ならば鐵宮の味方につけば願いも叶うしこの戦いを終わらせることが出来るということ……。
それだったら、北さん達にもそのことを話してみんなでライダーバトルを終わらせてしまえたら……!
「そうだ、きっとその方がいいんだ……」
早速北さんに伝えに行こうと思ったが予鈴が鳴ってしまった。
風紀委員である私が遅刻など言語道断である。
急いで教室へ向か……。
『終わらせて、なかったことにしようとしてない? あなたが人を殺したこと』
「……!?」
突然、そんな声が聞こえてフラッシュバックする記憶。
滴る血、腹部に刺さったナイフ、少女の死にたくないという声……。
「いや……いやっ……!!!」
呼吸が乱れ、その場にしゃがみこむ。
駄目だ、駄目だ、駄目だ。
私が殺した、殺してしまった。
殺したくて殺したのではない。
だとしても殺してしまった事実は消えない。
「おい、大丈夫か?」
「いやっ!!!」
教師が声をかけたがパニックを起こした真央にはその声が自身を責める声にしか聞こえなかった。
乱れてしまった心は静けさを取り戻せない。
上谷真央の心はたった一度の殺人で、既にひび割れてしまっているのだから。
彼女の崩壊は、時間の問題であった……。
次回 仮面ライダーツルギ
「いいから返しなさい! それは貴女なんかが!」
「元の、日常……」
「なんていうか、こう……出来すぎてる?」
「成長、したんじゃない。成長期だもの」
願いが、叫びをあげている────。
ADVENTCARD ARCHIVE
GUARD VENT(仮面ライダーエクスシア)
シルトウイング 2000GP
仮面ライダーエクスシア=樋知十羽子の持つガードベントの一種。
背中のハードポイントに装備され、見た目は天使の翼。盾とは思えないが羽根の一枚一枚がバリアとなっており、背後からの攻撃など十羽子の意識外からの攻撃を自動的に防御する。
装備中は飛行も可能となり機動性の低さを補うことも出来る。
天使の翼は堅牢なり。