仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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?+1ー33 射澄

 学校から逃げるように、いやまさしく逃げ出した。

 先程の会話、美玲に伝えなければ。

 そうしなければこの街のほとんどのライダー達が美玲に襲いかかることになる。

 そんなことになれば確実に美玲は敗北し生贄として捧げられてしまう。

 チャットアプリのトーク履歴、一番上をタップし音声通話を開始する。

 何コールかして、美玲の低いもしもしという声が。

 

「美玲、なんでもいいから聖山市内から出るか隠れるかするんだ」

「急になに。なにがあったの」

「鐵宮とコアって奴の会話を盗み聞いた。美玲とアリスを生贄にすればライダー全員の願いを叶えると、そう言っていた」

「なんで私とアリスを……。それより射澄は今どこなの? まだ学校にいるの?」

「いや、すぐに学校を出たよ。今は駅の方に向かってる。人が多いところの方が安全だろうと思って……」

 

 言葉を失った。

 耳に当てていたスマホが思わず下がる。

 美玲の声が遠く、私の名前を呼んでいた。

 

「私から逃げられるとでも思ったのか? 神前射澄」

「鐵宮……!」

 

 街灯の真下、スポットライトに照らされた主役のような佇まいで鐵宮が現れた。

 

「まあ、どうせこうなるだろうと思っていた。ゆえに泳がせてもいた。しかし君はもう用済みだ」

「……メモリアを破くのかい?」

「いいや、それじゃあ面白味がないだろう。君は兎、私は獅子。それで行こうか」

 

 デッキをちらつかせ、獅子の瞳が輝いた。

 

 ……覚悟を、決めなければいけないだろう。

 鐵宮を倒す手段。

 未来を視るという能力は唯一無二のものでこれを攻略出来るライダーはいない。

 だが、私にはある。

 未来視があろうと関係のない、切り札が。

 もし、これが駄目ならば……。

 

 一人の男の子名前が脳裏に浮かんだ。

 

 御剣燐。

 

 彼ならば、あるいはと。

 なんの根拠もないけれど、何故かそう思った。

 

「さあ、始めようか」

 

 鐵宮の言葉には有無を言わせない威圧感があるが、負けてはいられない。

 

「ねえ射澄! いす……」

 

 スマホはバッグにしまい、かわりにデッキを取り出す。バッグは道の片隅に置いて、デッキ(決意)を鐵宮に見せつける。

 ここでこの男を倒せば親友を守ることに繋がる。

 見せてやろうか、ジャイアントキリング。

 

「ふふ……変身」

 

「────変身ッ!」

 

 宵に舞う騎士の像はひとつに重なり、二人の騎士が相見えた。

 光の下から闇へと踏み出す仮面ライダー吼帝。

 闇の中から光へと向かう仮面ライダーヴァール。

 

 襲いかかる吼帝の拳を三叉槍型のバイザーで受け流し、反撃と槍を叩きつけると吼帝は前腕で防御し押し返そうとする。

 競り合う二人はそのまま騎士の戦場ミラーワールドへと転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 切れた通話。

 射澄になにかあったに違いないと家を飛び出した。

 逃げろだとか隠れろだとか行っていたが冗談ではない。

 戦わずに逃げるだなんて、私には出来ない。 

 親友である、射澄を捨てて。

 

「変なことするんじゃないわよ、射澄……!」

 

 夜の街を駆けていく。

 なにかあっただろう親友のもとへ行くために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライダーの気配を感じると住宅街に並ぶ民家の屋根の上からライダーを探す陽咲。

 なんとか邪魔をして陽咲のやろうとしていることを邪魔しようと試みる。

 

「あれ、あのライダーは美也といた……」

 

 共有はされている視覚に入ったのは仮面ライダーヴァール。射澄さん……!

 

「美也、騒がないでよ……。あれ、負けた方を食べるんだからさ……」

 

 そんなことさせない! 

 絶対に!

 

「ほんと、しっかり飲み込んだはずなんだけどな……。美也がおとなしくしてくれないから私お腹ペコペコで消えちゃいそうなんだけど」

 

 陽咲やめて!

 人を殺すなんて間違ってるし、私は腕を治してほしいなんて思ってない!

 

「美也が思ってなくても私が思ってるんだよ。また一緒に剣道しようね……ふふふ……」

 

 もう、なにを言っても陽咲には通じない。

 今の私に出来ることはとにかくこの意識を保ち続けること。

 そうすれば陽咲の行動を抑えることが出来る。

 その甲斐あって陽咲はまだライダーを食べるなんてことは出来ていない。

 それでも、いつまでこれが続くか……。

 

「見つけたぞ」

 

 低い、男の声と同時に斬撃が放たれる。

 黒い、ツルギ────。

 

「チッ……。出たな……お前を見ると気持ち悪いんだよ!!! 変身!」

 

 変身すると即座に剣を召喚し黒いツルギに斬りかかる。

 鍔競り合い、黒いツルギが口を開く。

 

「ああ、俺もそうだ。同族嫌悪でな。……影守美也、聞こえているならそのまま意識を強く持っていろ。今のままなら、救えるかもしれん」

 

 え……。

 

 鍔競り合いを制し、脇腹を蹴られた陽咲、仮面ライダー縁は数軒先の屋根に着地してやはり自分が不利と悟るとこの場から撤退。

 黒いツルギは追跡を開始した。

 言われたとおりに強く意識を保っているが、射澄さんのことが心配でならなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SWORD VENT】

 

 身の丈ほどある両刃の剣が吼帝の手にもたらされる。

 直撃はそのまま敗北に繋がりかねない一振を回避し、ヴァールは反撃の突きを放つがその攻撃は既に視られていた。

 槍の柄に沿い、流れるように回避すると同時にヴァールの間合の内側へと入り込み、右の拳が鳩尾を穿つ。

 

「カッ……」

 

 肺から漏れ出る空気。

 陸で溺れたかのような感覚を味わう射澄に更なる暴力が与えられる。

 

「ふん……やはり拳の方が性に合う。殴るというのは心地好い!」

 

 吼帝のアッパーがヴァールを吹き飛ばす。

 塀に叩き付けられ地面に伏したヴァールはそれでもと即座に立ち上がり槍を構えて突撃していく。

 

「でやぁぁぁぁ!!!!!」

 

 薙いで、突いて、払って、叩きつけて。

 その、どれもが当たらない。

 闇を薙いで、空を突いて、無を払って、虚を叩く。

 

「くっ……」

 

 デッキからカードを引き抜いて、対抗手段を得ようとするヴァール。

 そのカードが何かを視た吼帝は大剣で電柱を切り倒しカード使用を妨害。

 倒れてくる電柱を回避したヴァールであったがその隙に吼帝は自身の間合まで近付き上段からの一閃を放った。

 槍で受け止めようとしたヴァールであったが柄ごと切り裂かれ、眩い火花が血の変わりと噴き出し、ヴァールは膝から崩れ落ちる。

 倒れたヴァールを蹴り、仰向けさせた吼帝は胸を踏みつけた。

 

「もう少し歯応えが欲しいな神前君。しかし、まあ……君のような知的な女性は好みでね。殺すのが惜しいよ、本当に」

「……お前、みたいな男に……好かれたくはないね……があぁッ!?」

「喋る元気はまだあるか。このままトドメを刺してしまってもいいが……。狩りは狩ったと思った瞬間こそ危険という。ほら、最後の一噛み、歯向かうチャンスをくれてやる」

 

 再び蹴飛ばし、ヴァールを地面に転がすと吼帝は距離を取った。

 どこからでも来るがいい、仕切り直してやると。

 そして、最後のチャンスを与えられたヴァールは……深手を負っているにも関わらず、それをまったく感じさせない立ち姿を見せた。

 

「……その余裕が、仇となるぞ。鐵宮……!」

 

 射澄は仮面の下、額からの流血に瞑っていた右目を開きそう言い放ちながらカードを一枚、手に取った。

 

「……なに?」

 

 その迫力に鐵宮も危険を感じた。

 この女、なにかまずいと。

 

「お得意の未来視で視てみるといい。自分の未来を……」

 

 鐵宮はすかさず未来視を発動し、未来を視た。

 

「な……なにぃッ!?!?」

 

 鐵宮の未来。

 そこには変身が解け、大量の血を流し倒れる自身の姿。

 

「馬鹿な、あり得ない……!」

「その反応……。どうやら、上手くいくようだね……」

「神前……貴様なにを!!!」

「シャッフルベント。私に与えられたダメージを強制的に与える効果を持つ。ただし、この効果は誰に向かうか分からない。私にだって降りかかる可能性がある。はじめにカードの効果を確認した時は悩んだよ。こんなピーキーなカード、どこで使うんだって」

 

 射澄の言うとおり、このカードは扱いが難しいカードである。

 乱戦では誰に効果が発動されるか分からず、味方がいる場合は味方に降りかかってしまうかもしれない。なにより自分も対象に含まれるというリスク。

 これまで使う場面は一切なかった。

 しかし、このカードを使うのに最高の条件が揃った。

 

「ここには私とお前の二人きり。確率は1/2。そして君の反応。安心してこのカードを使えるよ。今の私のダメージともなれば……」

「ま、待て! 私を殺すということは大勢の人間の願いを砕くことになるのだぞ!!!」

「ふぅん。それで?」

 

 鐵宮の弁にまったく興味がないように、射澄はバイザーにカードを挿入した。

 

「たった一人の願いが大多数の犠牲のもとに成り立つのとたった二人の命で大多数の願いが叶う! 賢い君ならどちらが正しいか判別はつくだろう! 君の願いだって叶うんだぞ!!!」

「そのたった二人のうちの一人は私の親友だ。悪いがどこの誰とも知れない奴の願いよりも、親友の方が大事なんだよッ!!! それに、助けなきゃいけない後輩がいる……!」

 

 射澄が吼えると同時に、バイザーにカードが読み込まれた。

 

【SHUFFLE VENT】

 

「やめ……やめろぉぉぉぉ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【CONFINE VENT】

 

「え────」

 

 かき消された。

 シャッフルベントの効果。

 鐵宮が視た未来は、訪れなかった。

 

「なん、で……誰が……」

 

『心配になって来てみれば、女の勘は当たるのね』

 

 ぼうと、闇の中に浮かぶ白い影。

 コアによるコンファインベントが、鐵宮の未来を変えた。

 

「ふふ……はははッ!!! やはり貴女は私にとっての勝利の女神のようだな! 神前ぃ……お前にまだ切り札はあるのか?」

 

 そんなものは、ない。

 射澄にとっての切り札は失われてしまったのだから。

 

「やはり勝つのはこの私だぁぁぁ!!!」

 

 地を蹴り、ヴァールへ殴りかかる吼帝。

 顔面を捉えた拳は直撃し、再び射澄は地についた。

 ただ、今度は立ち上がれなかった。

 先程は勝てるという希望が、勝つという気合が気力となりダメージを無視出来たが希望は砕かれ、精神的支柱を失った射澄に立ち上がることはもう出来なかった。

 

「罰を与えよう。絶望の中で果てるがいい」

 

 吼帝の手に取られる射澄のメモリア。

 躊躇なく、破られた。

 

「────!」

 

「さあ、今度は見せておくれよ。願いの反転というやつを」

 

 変身が解かれた射澄。

 傷だらけで、倒れたままの射澄になんの反応もない。

 

「どうした? どうなった? ええ?」

 

 愉しむような声で射澄に問い掛ける鐵宮だが、やはり射澄からの反応はない。

 

「……確か、神前の願いは全知だったか。それの反転となれば……知能を失うか? はははッ! あれだけ知的だったのにな! なんともまあ無様だなッ!!!」

 

 ひとしきり観察を終えた鐵宮はヴァールのデッキを拾い、もう無価値だと背を向けミラーワールドを立ち去った。

 コアもいつの間にか消えており、射澄一人きり。

 

「────あ」

 

 メモリアを破かれてから初めて、声を発した。

 おもむろに起き上がると、射澄はぼうとして。

 

「あ……ああ……」

 

 空を眺めていた。

 いや、空を眺めているとは思っていない。

 ただ、顔がそちらを向いているから、そう見えているだけ。

 

 ぽつりと垂れた、額からの流血。

 射澄はそれが自分の命が失われていくことだとはもう分からない。

 額に触れ、ぬめりとした感触を初めて味わい。自身の血で真っ赤になった掌を見つめて。

 

「あ……あああ……!」

 

 射澄は、笑っていた。

 なにが、楽しいのかは分からない。

 そして────消滅が始まる。

 

 ミラーワールドに生身の人間は長時間存在出来ない。

 射澄にも例外なくそのルールは適用されて、少しずつ粒子となってミラーワールドに溶かされていく。

 知を失い、自分が消えていくということも理解出来ずに。

 

 神前射澄は、ミラーワールドに消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現実世界へと戻り、一度学校へ戻ろうと歩き出す。

 笑いが込み上げてくるのを我慢しながらスマホを操作し黒峰樹へと連絡する。

 

「私だ。咲洲美玲とアリスを捕らえろ。殺すのではなく、捕らえるんだ。いいな。そうすれば私達の願いが叶う。ああ、頼んだよ」

 

 すべて、自分の計画通りに進んでいく。

 我が覇道への歩みは確実に、頂点へと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 一度、学校へ行き駅……聖山駅方面へと進んでいく。

 射澄は駅の方に行くと言って通話は切れた。

 デッキを手にし、ミラーワールドの気配も逃さないようにとにかく探して歩いた。

 

「射澄……どこよ……」

 

 住宅地のど真ん中。

 道が入り組むこの辺り。

 どこを通っていったのか見分けるのは難しい。

 もしかしたらもう駅に着いたかもしれないので駅まで行ってみるのもありかもしれない。

 そう思って走ること十数秒。

 見慣れたバッグがあった。

 聖山高校指定のもの。

 なんで、こんなところにと不審に思ってバッグを手に取る。

 やけに重い。

 アクセサリーなどの類いはついていない。

 バッグを開けると、教科書ではなくまず文庫本が顔を出した。

 

 ────やめて。

 

 文庫本を取り出すと今度はハードカバーの小説。

 教科書や参考書の類いよりもとにかく小説だとかエッセイだとか自伝だとかジャンルに縛られない本達がどんどん出てくる。

 

 ────違うはずだ。

 

 そして……見慣れたスマートフォン。

 これは……射澄のもので間違いなかった。

 

 バッグだけここに置いてあったということが、最悪の事態を想起させる。

 

「射澄……射澄ッ!!! 近くにいるの!?」

 

 返事はない。

 とにかくこの辺りにはいたのだと手掛かりは掴めた。

 まだそうと決まったわけではない。

 探さないと……。

 

「射澄! いすっ……」

 

 突然、後頭部に走った衝撃。

 意識が奪われて……。

 

 

 

「はいまず一人確保っと。こんな簡単に捕まるとは思わなかったよ」

 

 深緑のライダー甲賀の奇襲が美玲を襲った。

 気絶した美玲を肩に担ぎ、甲賀はミラーワールドへと姿を消して美玲を連れ去ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人、重く沈んだまま夜を歩いていた。

 あの鏡華さんは一体なんだったのか、僕が見たものはなんだったのか。

 あれは、これまでの戦いの、ループの記憶には存在しないものだった。

 それに、鏡華さんにしてしまったことの罪悪感。

 本当に、自分が情けなくて……。

 

 老朽化してきた橋に差し掛かる。

 向こうから人が。

 黒い服。

 恐らく学生。

 少しずつ近付いていくと、その人物が誰か分かった。

 分かってしまった。

 

「やあ、御剣燐君」

「鐵宮……」

 

 いま、最も一対一で会ってはいけない人物と遭遇してしまった。

 戦うなんてことになっても僕は戦えない……!

 

「まあ、そう身構えないでくれたまえ。今は戦わないよ」

「え……」

「今の私はすこぶる機嫌が良くてね。ほら、これでもあげよう」

 

 鐵宮が投げ渡してきたのは……。

 

「これ、は……」

「ま、そういうことだ。それではな」

 

 嘘だ、そんな……。

 射澄さんの、デッキ。

 ところどころ傷だらけで……。

 そういうことだって……。

 嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ……!

 

「うぅ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」




次回 仮面ライダーツルギ

「おねーさんのデッキ、取っちゃった」
 
「どうしたの瀬那! そんな汗だくで」

「ゲーム・スタート」

「……本当の願いを言えないようじゃ駄目だ。死ぬよ、お前」

願いが、叫びをあげている────。



ADVENTCARD ARCHIVE
SHUFFLE VENT(仮面ライダーヴァール)

自身に与えられたダメージを周囲のライダー一人に強制的に与えるという効果を持つ。
ただこの効果はヴァール自身も対象に含まれるため自滅してしまうという可能性もあり、仲間と共に戦う機会が多かった射澄には使うタイミングがなかった。
鐵宮戦においては一対一でかつ鐵宮に未来を見せてどちらに効果が発動するか判明した状態で使用するという対未来視において非常に効果的な使い方をしたがコアの乱入により無効化されてしまった。

「お得意の未来視で視てみるといい。自分の未来を……」
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