仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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?+1ー34 盗まれたカードデッキ

 人通りがまだ疎らな午前の聖山駅前にあるアーケード街。

 今日もまた、敵を求めて彷徨っていた瀬那は早速モンスターと遭遇し闘っていた。

 

「おらぁッ!!!」

 

 イノシシのようなモンスターを、スズメバチの腹部に似た手甲「クインニードル」を装備した右腕で殴り飛ばす。

 閉業した時計屋のシャッターに激突したモンスターはまた何も考えずにスティンガーに向かって突進。

 スティンガーは冷静に回避すると同時に今度は背中を蹴りつけて、婦人服店にモンスターを叩き込む。

 ミラーワールドなので周りへの被害など一切考えたこともない瀬那はとにかく暴れ回れる。

 店内をリングにして、モンスターを壁に床にと叩き付けて店外へとモンスターを投げ飛ばす。

 そろそろトドメを刺すかとデッキからファイナルベントのカードを引いてレイピア型の召喚機「クインバイザー」に装填。

 

【FINAL VENT】

 

 スティンガーが契約しているハチ型モンスター「クインビージョ」が飛来。下半身の巣からクインビージョの配下であるビージョが一斉に飛び出しモンスターを取り囲む。

 身動きが取れなくなったモンスターに向かってクインビージョは両腕の針を撃ちだし、スティンガーは2本の針と同時に隠し針を露にしたクインニードルを突き出す。

 計3本の針に貫かれたモンスターは爆発。

 エネルギー体が空へと向かっていく。

 あれを契約モンスターに捕食させることで契約モンスターとの契約を果たし、契約モンスターを強化する。

 それがライダーの鉄則……なのだが。

 いつものようにクインビージョがエネルギー体を食おうと接近していくが、横から別の小型の鳥型モンスターがエネルギー体を横取りしていった。

 

「なっ!?」

 

 せっかく気持ちよく倒したモンスターをクインビージョのエサにして強化出来ると思っていた矢先にこれ。

 野良のモンスターの可能性もあるが、ライダーと契約しているモンスターの仕業かもしれないと思い、横取りしていった鳥型モンスターを走って追いかけるスティンガー。

 だが、追跡は一瞬で終わった。

 アーケード街を駅方面に向かって走ると、バスロータリーの中央に立つ一人のライダー。

 くすんだ赤い色で、これまで出会ってきたライダー達と比べると小柄だな、なんてことを瀬那は思っていた。

 

「追ってきてくれたんだ」 

 

 小柄なライダーはスティンガーに聞こえるように声を張ってそう言った。

 その声色からは楽しげな雰囲気が感じ取れたが、そのことが瀬那を少しばかり苛立たせた。

 戦いの場に、楽しいだなんて感情を瀬那は持ち込んだことがなかったからだ。

 

「……さっきのは挑発のつもりか?」

「挑発? 遊び相手を探してただけだよ。そしたら、おねえさんが来てくれた」

「遊び、だと。そんなこと言ってられんのも今のうちだけだッ!」 

 

 ライダーと会話することなど不毛とスティンガーはクインニードルを構えて小柄なライダーに向かって飛びかかる。

 

「ゲーム・スタート」

 

 小柄なライダーはカードを取ると、左手に装着された鳥の顔を模す召喚機「ビークバイザー」にカードをいれる。

 

【STEAL VENT】

 

 カード名が読み上げられた瞬間、スティンガーに装備されていたクインニードルが消失。

 突然のことに驚くがそのまま素手で殴り付けてしまえと瀬那は考えるが再び驚かされることとなる。

 

「ッ!?」 

 

 スティンガーの拳が、()()()()()()()によって阻まれる。 

 小柄なライダーの右腕に装備された、スティンガーの武器であるはずのクインニードル。 

 さっきのカードの効果かと、瀬那は舌を打った。

 

「驚いた? おねーさん」

「ハッ! その質問をする奴は一人で充分だッ!」

 

 腰に差していたクインバイザーを抜いてライダー目掛けて叩き付ける。

 クインニードルの腹で防御されるが、クインバイザーをとにかく何度も叩き付けて圧倒していく。

 

「その程度かよッ!」

「うー。そんなムキにならないでよー。続きはこっちでしよ」

 

 小柄なライダーはクインバイザーの上段をするりと躱して駅に隣接している商業ビルのショーウィンドウからミラーワールドを後にした。

 

「待てッ!」

 

 スティンガーは逃げるライダーを追って現実世界へと戻る。

 駅前という人の多い場所ではあるが、ここは人の空白地帯とでも言うべき場所で誰にも目撃されることはなかった。

 

「どこ行きやがった……」

 

 少し歩けばすぐに人混み。紛れられては追跡は困難だと断念しようとした時、人とぶつかった。 

 小柄な、恐らく男子。

 ちらりと背後に目を配る。別にぶつかったので因縁をつけているわけではない。なんとなく気になったからである。

 帽子を目深に被っていたので顔は見えなかったが恐らくそうだろうと結論づけて……思い出した。

 つい先日のスリのことを。

 

「まさか……!」

 

 自分までやられたかと羽織っているジャージのポケットを確かめると財布とスマホはあった。

 ただ、デッキがない。

 

「おねーさんのデッキ、取っちゃった」

 

 背後から先程のライダーの声。

 すかさず振り向くとそこにいたのはさっきのスリ。

 少年だと思っていた者は少女であり、ライダー。

 

「返せッ!」

 

 少女が見せつけるようにしている自身のデッキに飛びつく瀬那であったが少女は踊るようにして瀬那から遠ざかる。

 

「へへ~ん。返してほしかったらボクの言うこと聞いてよねー!」

「ざっけんな!」

 

 少女を捕まえようとする瀬那だがまたも軽い身のこなしで避けられる。

 

「だーかーらー。返してほしかったらボクの言うことを聞くこと! でないとおねーさんのメモリア破いちゃうよ?」

「ぐっ……」

 

 願いが記録されたメモリアを破かれてはただ敗北するどころでは済まされない。

 メモリアを人質に取られた以上、瀬那はこの少女の言うことに従うしかなかった。

 

「……アタシになにしろってんだ」

「ふふーん! よくぞ聞いてくれました。おねーさん、ボクと遊ぼ?」

 

 明るい、満面の笑みを浮かべた少女は瀬那に向かい言った。

 予想外の言葉に瀬那は、気の抜けた言葉しか出なかった。

 

 

「ねぇねぇ遊園地行こー! 七木山ハニーランド!」

「ダメだ」

「えー!? じゃあカラオケ!」

「ダメだ」

「そんなぁ!? じゃあ水族館!」

「ダメだ」

「なんでぇ!?」

「金がかかるから」

 

 早速、少女の遊ぼうという願いを実行しようとする瀬那であるがあいにくと手持ちが心許ないので少女の提案を却下せざるを得ない。

 

「言うこと聞かないとどうなるって言ったか覚えてるー?」

「仕方ないだろ金ないんだから。それともお前は持ってるのか?」

「ない」

 

 奢られる気満々だったのかとため息をつく瀬那。

 金がなければ遊ぶことなど出来ない。

 遊ぶとは、金と余裕がある者のみに許されたことなのだ。

 

「そもそも平日だから出歩くと目立つぞ。あとお前、学校は?」

「おねーさんこそ学校は?」

「質問に質問で返すな。しかしどうすっか……あのバカが学校終わるの待って合流するか……ん?」

「アイスメロンパン二つ! あ、支払いはあの金髪のおねーさんね」

 

 少女は勝手に移動販売車で買い物をしていた。

 絶賛聖山市で人気沸騰中のアイスメロンパン(税込450円)である。

 

「お前っ!」 

 

 注文を取り消そうとした瀬那であったが商品を受け取った少女は早速一口。

 

「お姉さんもどうぞ!」

「……ありがとうございます」

 

 店員のお姉さんの笑顔もあって、瀬那は千円札を差し出した。

 瀬那の所持金は残り、1758円。

 

 その後もクレープを奢らされ、ゲームセンターのUFOキャッチャーを取るまでやると言われて瀬那の所持金は58円のみとなったのだった。

 

「あー楽しかった!」

 

 聖山駅裏の公園で一休みとベンチに座った二人。

 少女は満足した様子で、瀬那はやれやれといった風を装って。

 アイスメロンパンとクレープは美味しかったので満更でもないがそれはそれとしてこれを以上続けられたら流石に困るので注意はしておくがどこ吹く風。

 こうなれば力ずくでデッキを奪い返すか。ついでにこいつのデッキも奪ってしまえば敗退させたようなものだ。

 小柄でチョロチョロと動き回るが捕まえてしまえばこっちに分があるとそこまで考えて、ふと気になることを見つけた。

 

「おい」

「なーにー?」

「お前、小学生か?」

「ぶー! 中学生だよ! 小学生なんてお子様と一緒にしてもらっちゃ困るよ~!」

 

 中学生……と変なショックを受ける瀬那。

 流石の自分でも中学まではそれなりに学校には行っていたぞと内心この少女の家庭環境などが気になってしまった。

 

 ────気になったから、なんだってんだ。

 

「今時の小学生、結構大人びてるよなとか思ってたけど、お前みたいなガキっぽい中学生がいるとは思わなかった」

「それを言うならおねーさんだっておっぱいないじゃん」

「胸は年齢関係ねぇ。でかくなるのもいればならない奴もいる」

「ボクはどうなると思う?」

「望み薄」

 

 そんなぁとショックを受ける少女を見てため息をつく。

 こんなのがライダーとは、拍子抜けも甚だしい。アリスは何を思ってこんなのにデッキを渡したのかと思う瀬那であったが別の可能性が頭に浮かんだ。

 

「お前、デッキも盗ったやつだろ」

「正解! よく分かったね!」

「あのな、ライダーバトルは遊びじゃねぇんだ。お前みたいな奴がやることじゃない」

「なんだよー! 確かにデッキはスリで盗ったものだけどボクだって本気なんだから!」

 

 ベンチから立ち上がり、瀬那に向かって声を上げる少女。

 そんな少女に向かって瀬那はあくまで冷静に、静かに問いかけた。

 

「なら、お前の願いはなんだよ」

「そ、それは……お、お金! お金がいっぱいあれば遊園地もカラオケも水族館も行き放題でしょ! なんでも出来るでしょ! だからお金!」

 

 瀬那には分かった。

 少女の願いが、嘘であるということに。

 

「……本当の願いを言えないようじゃ駄目だ。死ぬよ、お前」

「え……」

「だから、デッキ渡せ。アタシのと、お前のも」

 

 少女を真っ直ぐと見つめ、デッキを渡せと手を伸ばす。

 少女は瀬那が本気であることを察して悩むがそれも一瞬。少女は、誤魔化すことを選んでしまった。

 

「ふ、ふーんだ! そんなに言うならおねーさんの願いはなんなのさ!」

「それは……」 

「なんだよ! おねーさんだって言えないんじゃん! だったらメモリア見ちゃうもんね!」

「お、おい!」

 

 瀬那のデッキを取り出してカードを引いていく少女。

 メモリアを引いた時、少女は予想外の願いに表情を失った。

 

「HOME……家……?」

「……返せ」

 

 瀬那は少女からデッキとメモリアを取り上げた。少女は抵抗しなかった。

 地面に落ちたカードを拾い集め、デッキに納めると再びベンチに腰を下ろした瀬那は公園に来ていた親子を見つけるとおもむろに口を開いた。

 

「アタシの両親は、デキ婚だった。知ってるか、デキ婚」

「そ、それぐらい知ってるよ! 子供が出来ちゃったから結婚するやつ、でしょ……?」

「ああ。その出来ちゃったのが、アタシだ」

 

 少女に対して皮肉を言ったつもりではなかったが、瀬那の言葉は少女に罪悪感を植え付けるのには充分だった。

 

「アタシとほんの2、3才しか違わない時にアタシの父さんと……母さんはアタシを産んで、結婚した。どっちも真っ当な人間なんかじゃなかった。それでも、母さんは家事とかちゃんとしてたし、父さんはアタシが産まれて変わったらしい。真面目に働いて、アタシを育ててくれた。父さんは、アタシに優しかった。けど、父さんは死んだ。自殺した」

「え……」

「トラックの運転手しててさ、子供を轢いたんだ。飛び出してきたな。それで仕事クビになって、人殺しだなんだ言われて、住んでたとこも引っ越して、それでもまだ人殺しって言ってくる奴等はいて、父さんは死んでった」

 

 淡々と話す瀬那とは正反対の様子で悲痛な表情を浮かべていく少女。

 それでも、瀬那は口を動かし続けた。

 

「母さん……あの人は遊び足りなかったんだろうな。父さんが死んでから、何人もの男をとっかえひっかえしてた。そんなあの人からしたらアタシは邪魔な存在で、邪険にされてきた。だからあの人と暮らす家は、アタシにとっては居場所なんてない場所で。ずっと一人だった。家族もいないようなもの、友達だっていない一人ぼっちだ。だから、アタシは家が欲しい。父さんと……母さんのいる、家が」

 

 語り終える頃、遊んでいた親子は手を繋いで公園を出るところであった。

 あの親子には、帰る場所がある。

 それが、今の自分にはないのだと瀬那は改めて自身の願いと向き合わされた。

 

「ほら、アタシはちゃんと言えたぜ。これが覚悟の違いだ。お前と戦ってもアタシが勝つ、絶対に。だからデッキ渡せ。お前にライダーは勤まらない」

「ボク、は……」

 

 デッキを取り出し見つめる少女。

 諦めてしまえと瀬那は言っている。

 

 ────ああ、どうして自分はこんなにもこいつのことを気にかけてしまったのだろう。

 

「ボク、お父さんもお母さんもいないんだ。今は、孤児院で暮らしてる」

「なら、お前の願いは……」

「お父さんとお母さんのことも最初は考えた。だけどね、メモリアに出たボクの願いは……繋がり。孤児院でもボクは一人ぼっち。誰か、ボクと一緒にいてくれる人が欲しいんだ。だから……ライダーであることをやめたりするもんかっ!」 

「お、おい!」

 

 走り去る少女。

 瀬那は一瞬の逡巡の後に少女を追いかけ走り出す。

 だが、少女の足は速く、街は人で溢れ、迷宮のような路地で入り組んでいる。

 少女を探すのは困難。それでも、瀬那は少女を見つけるべく街を駆けた。

 

 ────なんでアタシ、こんなことしてんだろうな……。

 

 わざわざ、たった数時間の付き合い。

 それもデッキを盗んだような奴のためにこんな……。

 けれどあいつは……。

 

「瀬那!」

 

 アタシの名前を叫ぶような奴は今のところ一人しかいない。

 (バカ)だ。

 気付けば陽は西に傾いて、夕焼けが眩しい時間。

 いつの間にか藤女の近くまで来ていたようで、学校も終わったという頃合いだからバカと鉢合わせたってわけか。

 

「どうしたの瀬那! そんな汗だくで」

「なんでもな……いや、お前も手伝え。帽子被ったちんちくりん。男に見えるけど女で孤児院育ちだ。いいな!」

 

 それだけ伝えて再び走り出す。

 何故か無性に嫌な予感がしてならないからだ。

 

 

「ちょっ、瀬那ぁ! もう、それだけの情報じゃ分かんないって……」

 

 茜はまあ、手伝うけどさと瀬那とは逆の方向へと走り出した。

 二手に分かれ、少女を探すのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 少女は一人、知らない公園のブランコに座り込んでいた。

 衝動的に走り出したがために、見知らぬ地区に気が付くと辿り着いてしまい、最初こそ知らない場所を探検だと意地を張っていたが暗くなってきてこと、疲れてしまったことなどが重なり、今の少女の心には影が差していた。

 

「……おねーさんの言う通りにしてればよかったかな……」

 

 デッキを渡していたら、もしかしたらおねーさんとライダー同士ではなく友達同士として繋がれたのかな。そうすればきっとこんな気持ちにならなくて良かったのかな。

 そんな気持ちが渦巻いて、デッキを見つめること数秒。

 

「あれ~? どうしちゃったのかな~? 君ぃ~迷子~?」

 

 セーラー服を着た、やたら声の高い女子高生が目の前に現れた。

 このセーラー服は、たしか聖山高校のものだったかと記憶を確かめる。

 

「一人で帰れるから大丈夫!」

 

 ブランコから降りて、一人帰ろうとする少女であったが、女子高生……玄汐夏蜜柑が道を遮った。

 

「ねぇ、ライダーでしょ。さっきデッキ見てたよね」

「なんのこと? ボクわからな……」

「とぼけんじゃねぇよ!」

 

 声を荒げる夏蜜柑は少女の右腕を掴んで逃がさない。

 

「ねえ、殺し合おうよ。ライダー同士さぁ! 最近殺せてないからイラついてんだよ。金が入んねぇからさぁ!」

「お、お金……?」

「そう。なっちゃんはね、お金が欲しいから戦ってるんだ~☆ つうわけで殺させろ」

 

 夏蜜柑の殺気と狂気をはらんだ視線が目を逸らすことも許さない。

 逃げ場は、なかった。

 

 

 

 

 

 

 夜の公園を舞台に戦いは始まった。

 玄汐夏蜜柑/仮面ライダーテュンノスは早速ソードベントを使用し、マグロの鰭のような鋭い二振りのナイフを構えて斬りかかる。

 機動力に優れたライダーでテュンノスは隙を与えぬ連撃で少女が変身したライダー、仮面ライダーカイトを狙う。

 だが、機動力に優れるのはカイトも同じだった。

 身体の小ささと少女の高い運動神経が合わさり、縦横無尽に駆け回り、刃を躱していく。

 

「逃げんなッ!」

 

 逃げねば死ぬ。

 少女はとにかく逃げ続ける。

 それが、仮面ライダーカイトの戦法なのだ。

 それともう一つ。

 

【STEAL VENT】

 

「ナイフがっ!?」

「盗っちゃったもんね!」

 

 スチールベントでテュンノスのナイフを奪ったカイトは得意気に見せびらかす。

 スチールベントによる相手の装備、手札を崩していくのもカイトの戦法。

 

「こっちにはまだあんだよ武器が!」

 

【SWORD VENT】

 

 召喚されたのはマグロの尾鰭のようなブーメラン。

 一回転した勢いで投擲し、カイトの首を狙う。

 

「こっちだってまだあるよ!」

 

 二枚目のスチールベントを用いたカイト。

 飛来していたブーメランは消失し、カイトの手にブーメランが納まる。

 

「へへーんだ! もう武器はないよね? ボクを見逃してくれればボクも何もしないよ」

 

 勝った気でいるカイトはテュンノスにそう告げる。

 テュンノスは俯き、黙ったまま肩を震わせていた。

 キレたか?とカイトは思ったがテュンノスの震えが治まり、顔を上げると特徴的な高い声で返事をした。

 

「そうだね。君強いね~☆ なっちゃん勝てそうにないから見逃してくれる~?」

 

 よかった、分かってくれたとカイトは思い、スチールベントで奪ったナイフとブーメランを捨てると一目散に近くの鏡を探して走り出した。

 

「……なんて、言うとでも思った?」

 

 ドスの効いた声で呟くとテュンノスはカードを引いた。

 左腕に装着しているバイザーに挿入し、読み込ませる。

 

【FREEZE VENT】

 

「あれ、足が……!?」

 

 凍結するカイトの足。

 地面まで凍りつき、カイトは身動きが取れなくなってしまった。

 

「殺させろ……って、言ったよねぇ」

 

 カイトが捨てたナイフを拾い上げたテュンノスが歩き、近付いてくる。

 テュンノスがカイトの肩に顎を乗せる。

 身体を密着させたテュンノスはカイトの身体にナイフを持った手を這わせて、耳元で囁き始める。

 

「ライダーバトルがどういうものか知らないの? 見逃すわけないじゃん。ほんと、お子ちゃまなんだから……さっ!!!」

「いぃっ!?!?」

 

 右足の太ももを貫かれたカイト。

 がくりと倒れそうになるがフリーズベントで足と地面が凍らされているのとテュンノスに身体を支えられてもいるので倒れることは出来なかった。

 

「やめ……やめてよぉ……」

「はぁ……ほんと、死ぬ奴って無様。大体、なっちゃんの言うこと信じたあんたが馬鹿なんだから。馬鹿は社会じゃ生きてけないのよ分かる!?」

「いぎっ!?」

 

 次は左足の太ももが貫かれる。

 足はこれで使い物にならない。

 倒れたくても倒れられない。

 血はどんどん溢れ出ていき、カイトの思考を停止させていく。

 

「次はどこを刺された~い? 肩? 胸? お腹?」

「痛いよ……痛いよ……」

「質問に答えろッ!」

「がっ!?」

 

 貫かれたのは脇腹。

 刃を回し、傷口を広げていくとカイトの悲鳴が夜の彼方へと吸い込まれていく。

 

「ま、こんなもんか。トドメ刺しちゃお」

 

 カイトから離れ、カードを使用するテュンノス。

 トドメ、すなわちファイナルベント。

 

【FINAL VENT】

 

 テュンノスの契約モンスターである『ディープブルーフィン』が召喚される。

 青いマグロ型のモンスターを背に、ナイフを構えたまま跳躍するとディープブルーフィンもテュンノスを追って上昇。

 ディープブルーフィンの放った水流を受け、ナイフを持ったまま両腕を広げたテュンノスは独楽のように高速回転しカイトへと迫る。

 高速回転する刃と化したテュンノスがカイトの身体を切り刻み、抉る。

 

「死んじゃえ」

 

 テュンノスがカイトの背後へと回るとカイトは爆発。

 全身切り傷だらけの少女が倒れ、デッキは地面を転がった。

 

「あ、あ……」

 

 デッキに手を伸ばす少女。

 だが、少女の手の甲にナイフが突き刺される。

 少女にはもう、悲鳴をあげるほどの力もなかった。

 

「ダメダメ☆ 倒した奴のデッキがないと倒したって証拠にならないじゃん」

「あ……おねー、さん……」

 

 少女は無惨にもミラーワールドに溶かされる。

 少女がいたという証は、広がる血の海しかなかった。

 

「さーて、なっちゃんも帰ろっと……うん?」

 

 ミラーワールドを出ようとするテュンノスの目の前にライドシューターが現れ、フードが上がる。

 仮面ライダースティンガー、片月瀬那であった。

 ライドシューターから降りたスティンガーはテュンノスと向かい合う。

 先日、やり合った相手。

 問答無用で敵である。

 

「あれ~☆ あなたこの間の二人組みの片割れでしょ~? 今日は一人? コンビは解散? 音楽性の違いとか~? きゃはは!」

「チッ……あいつがいるかと思ったが……。おい、待て、それは……」

 

 瀬那は見つけてしまった。

 テュンノスが手に持つデッキを。

 テュンノスの背後に広がる血の海を。

 

「んー? これー? ちょうど一人殺したんだよね~なっちゃん。すばしっこい奴だったけどなっちゃんの相手じゃなかっ……ッ! ……危ないじゃん」

「……それを、渡せ!」

 

 テュンノスに殴りかかったスティンガー。

 バックステップでスティンガーの拳を回避するテュンノスはこいつも殺すかと思考を切り替えた。

 

「なに? 渡せ? なっちゃんにはこれが必要だからさ~無~理~。それともなに? この前の奴は捨ててこっちに鞍替えしてたの? それともトリオになっちゃってた?」

「黙れッ!」

 

 とにかく我武者羅に殴りかかるスティンガー。

 これぐらいならば回避は容易いと優雅に避け続けるテュンノスであったが流石にこの猛攻は鬱陶しいとナイフを光らせた。

 スティンガーの左の脇腹を裂いたナイフ。

 仮面の下で夏蜜柑は舌舐りをする。

 こいつも、殺せると。

 だが……。

 

「らあぁぁぁ!!!」

「なっ!?」

 

 ダメージなどなかったかのようにスティンガーは攻め立てる。

 そして、渾身の右ストレートがテュンノスの顔面を捉えた。

 吹き飛ぶテュンノス。

 宙に舞うカイトのデッキ。

 スティンガーは……カイトのデッキを取った。

 

「返せッ!!!」

 

 テュンノスはデッキを奪い返そうと立ち上がるがミラーワールドに存在出来る制限時間が迫り、消滅が始まった。 

 これでは流石に分が悪いとテュンノスはミラーワールドから逃げ、残ったのはスティンガーのみ。

 

「……くそ」

 

 ────なんで、自分はこんなにもあの少女のことを気にかけてしまったのか。

 

 それは、あの少女が一人で遊んでいたから。

 あの少女が孤独だったからだ。

 幼い頃の自分と重なったからだ。

 アタシはあの少女を……救おうとしたんだ。

 少女の願いは、人との繋がりであった。

 

「どうしてだ……。アタシだってあいつと同じ一人ぼっちだったじゃないか……」

 

 もしもあの時、アタシがいると言ってあげていられればあいつは命を落とさなくて済んだのではないか。

 アタシも同じ一人ぼっちだったけど、今は違う。

 だから、お前もきっと一人ぼっちじゃなくなると。

 そう言ってあげていれば良かったんじゃないのか。

 

「くそぉッ!!!」

 

 叫びは誰にも届かず消える。

 無力さに苛まれるスティンガーの足下に、少女の血が寄り添っていた。




次回 仮面ライダーツルギ

「……どうした。契約破りだから僕を食べに来た?」

「会長くーん! あーそーぼー!」

「これはアタシの戦いだ。お前は帰ってろ」

『お願い……最後の一回だから。もう燐くんとは会わないから! ずっとこの部屋で一人でいますからッ!!!』

願いが、叫びをあげている────。


ADVENTCARD ARCHIVE
FREEZE VENT

対象を凍結させて動きを止める効果を持つ。
また、ファイナルベントやアドベント時に現れるモンスターに対して使用することで効果を実質無効化させることが出来る。

凍結せよ、その命諸共。

キャラクター紹介
少女(名前は後々)/仮面ライダーカイト
Makさん素敵なキャラクターをありがとうございました!
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