────その日、風が運命を運んできました。
割れた鏡の向こう側、一人の少年との出会いが私の人生を彩った。
たった一人でミラーワールドにいた私を、彼は見つけてくれた。
御剣燐。
彼は、私に孤独の寂しさを思い出させてくれた。
ある時、燐くんに好きな人が出来たという。
同じ学校の先輩。
面識はほとんどない。
聞けば、高嶺の花のような人。
そんな人を好きになってしまった燐くんは弱気になっていた。
嫌だった。
誰かに彼を取られてしまうことが。
ずっと、今のように二人きりの時間を過ごしていたかった。
恋人なんてものが出来たら燐くんは私から離れていってしまう。
それだけは、なんとしても避けたかった。
だから、燐くんに意地悪をしたのだ。
自分もどうせフラれてしまうのだろうと弱気になっていた燐くんに発破をかけた。
『……いいえ、燐君そんなことはありません。ここはもう男らしく当たって砕けろです! 思いきって告白しちゃいましょう! 思いを伝えなきゃそもそも付き合えるチャンスも何もないんですから。私、応援します』
いっそ、フラれてしまった方が諦めもついていいだろうと。
そんな思いで応援するなんて言ってしまった。
……だからか、罰が当たったのでしょうか。
「ありがとう鏡華さん! 告白上手くいった!」
『そうなんですか……。その、良かったですね! 私も嬉しいです!』
笑顔で取り繕った。
嘘だと思いたかった。
なんで、どうしてという言葉ばかりが頭に浮かぶ。
けれど……。
彼の、笑顔が好きだった。
彼の、喜ぶ姿が好きだった。
『お付き合いを始めたらもう私なんかよりそのミレイさん?を優先しなくちゃですね。私に構わずデートとかいっぱいしてください。それで、その話を聞かせてくださいね。楽しい……楽しい話を』
「うん。鏡華さんにもちゃんと会いに来るよ。大事な友達だから」
『友達……。ええ、そうです。私達、友達ですから』
友達。
私達の関係性を示す言葉。
これまでだったら友達と言われて嬉しかった。
私の唯一の友達。
けれど、何故かこの嬉しいはずの友達という言葉に私は不満を募らせるようになっていた。
私はまだこの時、恋というものを知らなかった。
「貴女は、いつからミラーワールドにいたの?」
『幼い頃です。その時のことはあまり、覚えてはいません……』
あまりに突然だったことぐらいしか覚えていない。
今はそれよりも、彼のことだ。
咲洲美玲と出会い、少ししてから燐くんは私の兄、宮原士郎と出会っていた。
そして、仮面ライダーにさせられてしまった……。
人類を守護する、剣に……。
私との出会い、ミラーワールドを開いてしまったことが原因で人々を襲い始めるようになったモンスター達。
燐くんは、その罪悪感に押し潰されていった。
白き剣がモンスターの群れを切り裂いていく。
血飛沫の如く飛び出る火花達が宵を照らし、純白の騎士を照らす。
斬って、斬って、斬って斬って斬って斬って斬って。
炎の中で独り、立ち尽くす騎士の名は仮面ライダーツルギ。
ミラーワールドに存在出来る制限時間およそ10分間のほとんどを費やした彼からは、消滅しつつある証拠として黒い粒子が飛散していた。
急いで鏡を通り、現実世界へと戻らなければならないというのに彼は、ぼうとかかしのように突っ立っている。
「燐くん!」
「……あ……キョウカ、さん……」
私の声に気付き、ツルギはビルのショーウィンドウを抜けてミラーワールドを後にする。
ここのところ、燐くんは戦いの後はしばらくああしてぼうとすることをしていた。
息を整えていたのか。いや、それにしては意識が朧気といった感じだ。
とかく、今の彼はふと目を離した瞬間消えてしまいそうな危うさがあった。
時間も場所も彼の都合も問わずモンスターは人間を狙い、狩り、捕食する。
そんなモンスターから人を守るために戦うということは御剣燐の全てを犠牲にするということだ。
学校も休んでいた。
行ったふりをして、モンスター狩りへと赴く。
彼の青春は殺された。
彼から、眩しかった笑顔は失われていた……。
『燐くん……。大丈夫ですか?』
鏡の中から声を掛けると、決まって一拍置いてから作り物の笑顔で「大丈夫だよ」と彼は答えていた。
寂しそうな笑顔。
私は、そんな顔をする燐くんを見るのが辛くて堪らなかった……。
私は兄さんに訴え続けました。
燐くんをこれ以上戦わせないでと。
けれど、兄さんは聞き入れてはくれませんでした。
「鏡華。俺はお前を助けるために行動している。御剣燐も同じだ。あいつもお前を助けるために戦っている。本人も同意している」
『じゃあもっとデッキを作ってライダーを増やしてください! 燐くん一人で戦い続けるなんて……』
「いまツルギのデータを元により完成度を高めたライダーを製作している」
痩せこけた兄さんの瞳には狂気によって光が灯っていました。
幼い頃の記憶にいた兄さんとは、まるで別人のようでした……。
もう兄さんは頼れないと思った私はとにかく自分が出来ることをしようと思いました。
ただ、この時の私にはなんの力もありません。
私に出来ることなんて、ただ燐くんの傍にいることだけ。
こんなことしか出来ない自分が情けなくて、それでも彼に寄り添い続けても残酷は加速する一方でした……。
モンスターが現れないかと街を彷徨い続け、歩き疲れた彼は公園のベンチに一人座り込む。
彼の目は下を向くことが増えていた。
精神を磨り減らした彼の瞳からは光が消えつつあった。
「これあげる」
「え……?」
顔を上げると、白い帽子を被った小さな女の子が白い花を燐くんに差し出していた。
「……いいの?」
「うん。元気だしてね」
「……ありがとう。優しいんだ」
「ママがね、人にはやさしくするんだよって言ってたから。バイバイ」
手を振り返して、女の子を見送る燐くんの顔は久しぶりに穏やかなものとなっていました。
けれど、数十分後のことでした。
モンスターの気配を察知し、向かった先で……。
「ッ! ……これ、は」
道に落ちていた白い帽子。
燐くんに花を渡した少女の物と同じ。
急いでツルギへと変身しミラーワールドへ向かった燐くんが見たものは大型の蜘蛛のモンスターとその足下に散らばる衣服や靴。
先程の少女の物とよく、似ていた。
「うぁぁぁぁぁッ!!!!!!!!」
剣を抜き、駆けるツルギ。
モンスターの鋭い脚が迫るツルギを貫こうと振り下ろされる。
跳躍。
蜘蛛のモンスターの上に飛び乗ったツルギは剣を突き刺す。
震える大蜘蛛の右側の足、四本が一度に断ち切られる。
片足を全て奪われた蜘蛛は立つことも歩くことも出来ない。
【SWORD VENT】
踠く、蜘蛛の眼前に大剣携える剣鬼が立つ。
己が死を悟りながら蜘蛛は両断される。
爆炎の中、大剣を振り下ろしたままの姿でしばらく彼は動かなかった。
こうして、救えなかった命と。
取りこぼしてしまった命と向き合う度に、御剣燐の心は切り裂かれていった。
その果てに御剣燐は人間らしさを失い、人類を守護する剣へと成り果てたのです。
独りきりで、モンスター達と戦い続け。
御剣燐という仮面を被り、日常を偽り続け。
ツルギという仮面を被り、非日常を切り裂いて。
ただ、モンスターを切り裂くだけの存在。
それは人間の在り方ではない。
この時点でまず、御剣燐は一度死んでしまったのでしょう。
何度も、何度も自分自身を殺して。
人の生き方では、ありませんでした。
そして、最期の時。
ある日、突然モンスター達が大量発生したのです。
様々なモンスター達が一斉に現実世界を襲い、大きな被害が出ました。
燐くん一人で守りきれるわけがない物量。
モンスター達の総攻撃を受け、それでも、最後まで人を守るために戦って。
強大なモンスターとの戦いの果てに、彼は……。
貫かれた腹部から、血が流れ続けていた。
力なく壁に背をもたれ、立つこともままならずへたりこんで……。
ミラーワールドでそんな状態で居続けたら……。
駆け寄り、燐くんの手を取り名前を呼び続けた。
その手の冷たさが、燐くんの死という事実を私に突きつける。
「燐くん……! 燐くん!」
「……ようやく、死ねる……」
それが、彼の最期の言葉でした。
彼は、死をずっと待ち望んでいたのです。
「いや……そんな、どうして、冷たいんですか燐君……? 最初に手を合わせた時はあんなに暖かったのに。ねえ、どうして、どうして……。いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
御剣燐は、黒い粒子となりミラーワールドで消失した。
これが、彼の最期。
「そんな……! なんで燐が死ななきゃいけないの!?
大体、鏡を割ってミラーワールドが開いたって……。鏡なんて毎日どこかで割れてるのよ、それなのに……」
『……ええ。貧乏くじを引いてしまった、なんて言葉では片付けたくはないですが……』
それでも、彼はミラーワールドを開いてしまったということは事実。
重すぎる罰を、背負わされてしまった。
「……燐のことは分かった。理解したことにするわ。じゃあ、このライダーバトルってなんなの。元は人間を守るためのシステムなんでしょ」
『……ええ。ライダーバトルは、私が仮面ライダーの在り方を歪め始めたもの……。燐くんが死んでからすぐ、私はコアという存在と出会いました』
「コア……?」
『ミラーワールドに存在する意思のようなもの、とでも言いましょうか……。彼女が、私に接触してきたのです……』
彼と語らった部屋でずっと泣いていた。
それしか出来なかった。
なにも出来なかった。
どうして、どうして彼が死ななくてはならないのか。
……きっと、私がいけないんだ。
私と、私と出会ってしまったからだ。
私は、燐くんと出会ってはいけなかったのだ。
だけど……。
私は、あの暖かさを知ってしまった。
ずっと冷たいこの場所にいたから、それが普通だと思っていたけれど知ってしまったから。
だから、嫌だ。
彼との出会いを、否定なんてしたくない。
『もう一度、彼と会いたい?』
「ッ!? 誰!?」
突然、耳元で囁かれた甘い言葉。
立ち上がり、振り返って言葉の主を見るとそれは人の形をしてはいるようであったが白い靄に覆われ姿は見えない。
白い人影としか表現出来なかった。
『私はコア。ずっとずっと前からこの世界にいるの。けど、貴女みたいな子とは初めて出会ったから気になって。燐という人間と、また会いたい?』
その言葉に、私は縋りついた。
縋るしか、なかった。
そうでないと、彼を救えない。
彼にまた、会いたいと私は……。
竹林の中、黒き刃と斬り結ぶ。
以前ほどの実力の差、絶対的な壁はなくなっていた。
今の僕は、刃と互角になったということ。
だが、互角となったことでこれまで以上のプレッシャーを感じている。
勝敗が決まりきっていた以前は負けてもいかに生き残るかということを思考していたが今は違う。
『ハアッ!』
「ッ!!!」
横一閃、太刀で受け止める。
竹林は衝撃に震え、さざめく。
十字を描く二刀。どちらも譲らぬ力のぶつかり合い。
赤く光るバイザーと睨み合う。
『ようやく、取り戻したか。己が真の力を』
「真の力……!」
『一人孤独に戦い続け、磨き上げられた剣技。そして……』
均衡が解かれ、互いに後退。
刃はこちらに鋒を向け、言葉を続ける。
『サバイブ。使わないのか?』
サバイブ……。
使えば、刃を上回るだろう。
だが、それは……。
『ふっ……。使わざるを得ないようにしてやろう』
太刀を地面に突き刺し、一枚のカードを引いた刃からこれまで以上の力を感じた。
これは、まさか……!
カードの表がこちらに向く。
金色の翼。
背景から眩い光を放ち、周囲は真白に包まれる。
刃のスラッシュバイザーがスラッシュバイザーツバイへと変化する。
そして装填されるサバイブのカード。
【SURVIVE】
輝きの中、刃が新たなる変身を遂げる。
全身に走る金色のライン。
血に濡れたかのような両腕。
腰にはローブが備わる。
その姿に、武者といった言葉が脳裏に過った。
仮面ライダー刃 サバイブ
【SWORD VENT】
鯉口を切る刃サバイブから死を感じた。
『ハッ!!!』
光と共に消える刃サバイブ。
強い衝撃を、スラッシュバイザーツバイ越しに受け止める。
『よく間に合ったな』
本当に、ギリギリであった。
サバイブを使用し、自身の周囲に風を集めて壁としなければ今頃上半身と下半身が地面に転がっていたはずだ。
「何故、お前がサバイブを……!」
『お前がサバイブに至った。だから、俺も至った。それだけだ』
再び、光と共に消える刃サバイブ。
超高速で僕の周囲を駆けている。
この速さに、追いつけるか……?
いや、追い付くのだ────!
「はあッ!!!」
風を纏い、刃サバイブを追走する。
光と風の中、剣が舞う。
極限の剣戟。
一瞬でも気を緩めたら、斬られる!
袈裟、下段からの斬り上げ、首を狙う一閃。
全て、尽くを対処する。
刃がぶつかり合う度に発する衝撃が竹林を揺らす。
何度目かの鍔迫り合い。
紅く滲んだバイザーの向こうから、刃の視線を感じる。
だが、これまでとは違った気配だ。
殺気だとか、そういったものではない。
これは────。
『やはり、お前は強い……!』
「なに……?」
『孤独の中で磨き上げた剣。誰に知られることもなく、讃えられることもなく……。何者をも寄せ付けぬ孤高の剣。それが、お前の強さだ……!』
突き刺さる。
言の刃が。
だから、刃から距離を取る。
後方へと飛び退き、スラッシュバイザーツバイを構え直す。
だが、その刃の間合からは逃れられない。
『いつだって一人だった……』
「ッ……」
『人々の助けてという叫びを耳にした……』
「……」
『その言葉を真に叫びたがっていたのは誰だ』
「……ッ!」
嵐を纏い、刃との間合を一瞬で詰める。
竜巻く風を纏った斬を力の限り振り下ろす。
刃はスラッシュバイザーツバイの刀身を指でなぞり青白い光を灯す。
「ハァァァッ!!!!!」
『フンッ!!!!!』
風の剣と光の刃が交差。
斬り結び、世界を震わせる。
『……お前が死んだ後に、俺は生まれた』
「僕が死んだ後に……?」
『ああ、アリス……。鏡華によってな!』
払われる足、急落下する視界と背中の衝撃。
倒れた僕の首を断とうと迫る刃を咄嗟に蹴り飛ばし、起き上がり様に刃サバイブの左肩を切り裂く。
「なんで彼女がそんなことを!」
『お前を蘇らせようとしてだ』
その言葉に、息が詰まった。
僕を、蘇らせようと。
それが、意味することとは。
彼が最期を迎えた場所。
そこで私はコアと契約した。
『さあ、願いを叶えなさい』
言葉通りに、私はコアから与えられた力を用いて時を操作する。
彼の最期の時を再生する。
黒い塵と消えた彼が、巻き戻る。
そして、俯き眠る御剣燐が甦った。
「燐くん!」
感激に、彼に抱きつかずにはいられなかった。
……それが、悲劇の始まりとも知らずに。
「あ、れ……」
彼の身体は、冷たかった。
あの暖かさはなく、最期の時と同じ冷たさ。
その事実に、彼から離れる。
彼の瞳が開く。
暗く、仄暗い瞳が私を捉える。
だが、なにも反応がない。
甦ったのでは、なかったのか。
糸の切れた操り人形のように、動かない。
『ああ、これは……失敗作ね』
言葉と共に再び迫る刃サバイブ。
彼の執念が、理解る。
────ああ、やはりか。
彼の言葉で、なんとなく分かってしまった。
光の刃を受け止め、弾き、命のやり取りを繰り返す。
「君は……僕か」
『俺は、お前の死体だ』
言葉と刃が舞う。
宵に火の華を咲かせ、語らう二人。
刃サバイブのスラッシュバイザーツバイの刀身が更に輝きを増し、熱波が襲う。
太陽に近付いているかのような、それほどの熱。
彼の心に燃え滾る感情の炎が放つ熱────!
『俺は鏡華に棄てられた。失敗作だからだ』
「ッ!」
『俺は……復活など望んでいなかった。そうだろう?』
「ぐっ!?」
その上段からの振り下ろしは神がかっていた。
受けるのに精一杯であったが、パワーで押されている。
受け止めたスラッシュバイザーツバイが身体に密着しそうなほど。
刃サバイブの光熱が、右肩を焼く。
『戦いたくなどなかった……。末期の瞬間、これで終われると思ったのに……。俺は生み出され棄てられた。そして、宮原士郎に見出だされた。ミラーワールドの存在である俺であれば、制限時間など気にせずモンスターと戦えるとな』
制限時間を、気にせず戦える……。
ああ、そうか……。
彼は僕だ。
ただ違うのは、死後も戦い続けたこと。
「くぅ……っ! ぜあぁぁぁぁッ!!!!!」
『ッ!?』
風が荒れ狂う。
熱波すらも吹き飛ばし、刃サバイブを押し返す。
「お前は一体……なにがしたいんだ!」
刃のことは分かった。
では、目的は?
何度も僕の前に立ちはだかり、刃を交えた。
時には助力し、美也さんを助けた。
目的が、分からない。
『御剣燐は罪を償う。罰として最後まで戦い抜く……。俺の代わりに、その死後までも明け渡して』
刃サバイブがデッキからカードを引き抜く。
あれは、タイムベントのカード……!
こちらもタイムベントを引いて、同時に使用する。
【TIME VENT】
「未来超越……!」
【TIME VENT】
『未来超越』
再び始まる剣戟。
それと同時に斬り捨てていく敗北の未来達。
戦わないなどという未来は論外。
無数に拡がる未来を斬って捨てる。
敗北を、切り捨てる。
だが、斬っても斬っても湧いて出る敗北の二文字。
それは僕だけか?
否。
それは、刃とて同じこと。
互いに切り裂かれる未来を斬り続けている。
『はじめて時が繰り返された時、俺の心は歓喜で満ちた……。現実世界に生きた俺がいると……。俺の代わりがいると……!』
「代わり……!?」
『そうだ。俺はお前に殺され、お前に託して死ぬ……!』
剣が加速していく。
刃サバイブとの打ち合いが、剣を進化させていく。
風が、力をくれる────。
『それでいい……! お前の纏うその風は、消えゆく命の灯火を燃やし続けるためのもの……!』
「なに……!」
『さあ、俺に見せてくれ。未来超越では覆せぬ敗北の未来を……!』
こいつは待ち望んでいる。
死を。
僕に殺される未来を。
だが、それは……。
『出来るだろう、お前なら。己を殺し続けてきたお前には』
ああ、そうだ。
出来てしまう。
他のライダー、人は殺せない。
だけど、こいつだけは殺せてしまう────。
「それで、いいのか……?」
呟きは剣戟がかき消した。
刃の全力。
僕を殺しに来ることで、僕に殺されようとしている。
恐るべき自殺願望。
だが……。
理解、出来てしまうと。
『さあ、俺を殺してみろ……!』
地を蹴り、刃サバイブが光となる。
光速となり駆ける刃サバイブの斬が胸部装甲を袈裟に切り裂いた。
「ガッ!?!?」
斬と、熱の二つがこの身を痛ませる。
変身が解け、枯れ葉達の中に倒れた。
息をするのが痛い。
一思いに殺してくれなんて思ってしまったほどだ。
────だが、そうさせなかったのは自分だ。
振り向く刃サバイブ。
なんともなさげに立っていたが膝をついた。
刃サバイブの装甲も割れ、宮原士郎の肉体を晒す。
左の脇腹をおさえ、苦痛に顔を歪ませていた。
『……あの刹那に、合わせたというのか……』
刃サバイブの斬撃と同時に横一閃。
また、風の剣を形成し全身を切り裂いていたのだ。
『この肉体も、限界か……』
宮原士郎から黒い塵が溢れ出て、人型が形成される。
黒い服を着た、僕だ。
『まだ、俺を殺すには至らないか……』
「ぐ……」
共に痛む身体を無理矢理立たせて向かい合う。
不思議と……なにも、感じない。
なにも、抱かない。
『ライダーバトルはまだ終わってはいない……。ライダーバトルを終わらせろ……。そして、俺を殺せ……』
「待て……。なんで、士郎さんの身体を……」
横たわる宮原士郎の遺体はミラーワールドに溶け出していた。
『生まれたばかりの俺は身体を動かすことが出来なかった。宮原士郎は己の死期を悟り、俺の肉体となることで仮面ライダー刃として戦うようにした……』
刃の言葉が終わると同時に宮原士郎の肉体は消滅した。
その光景が思い出させてくれた。
消滅の危険性は僕にもあるということを。
『行け。まだ俺を殺せる時ではない。いずれお前の未来超越が俺を切り裂くだろう……』
「……死にたいのなら、自殺すればいいだろう」
『自分を殺すというなら、これこそ自殺だろう。……それにな、既に試した。だが、出来なかった。運命が俺を死なせない。俺を殺せるのは、俺だけだ……』
そう言い残し、影となり消えた刃。
俺を殺せるのは、俺だけだ。
そうなのだろう。
僕もうっすらと理解しているのだ。
僕を殺せるのは、僕だけなのだと────。
御剣燐の死後、燐の鏡面存在が刃となりモンスターと戦い人類を守護していた。
そして、季節は巡り秋となりライダーバトルが始まる。
『コアは私に更なる権能とミラーワールドについての知識を授けました。そして、私の願いを叶えるために少女達の命を集めろと命じ……ライダーバトルを始めました』
「……聞かせなさい。あなたの願いを……。何のために、こんなことをしているのかを……!」
美玲の脳裏には死んでいった者達がいた。
何故、彼女達は死ななくてはならなかったのか。
人の命を弄び、その果てにキョウカは何を望むのか。
『私は……御剣燐が幸福に生きることが出来る世界を望みました……』
「燐が、幸福に……」
『たとえ燐くんが望んでいなくとも……それが私の願い! なにも知らなかった貴女には分からないでしょう!』
「ッ……!」
『優しく暖かい人だった燐くんが冷たい剣へと成り果てていった……! 普通に生きて、普通の幸せを手に入れて、幸せな人生を歩んでいくべき彼が……どうして、どうしてあんな辛い目に合わなくちゃいけないんですか!』
その言葉に、美玲は初めてキョウカに共感した。
彼女は自分と同じなのだと。
冷たい、孤独の中で生きてきた自身の前に現れた暖かな光なのだと。
あの光に、翳ってほしくないと。
特別なものになどならなくていい。
誰もが普遍的に手に入れる幸福を、彼に望んだ。
それは、自分だって同じこと……。
『……命を集めれば、ミラーワールドは願いを叶える。そのために私は何度も繰り返しました。私が望む結末を迎えるまで。けれど、駄目だった。何百、何千、幾億も繰り返したのに……! 今の私にはもう、時を巻き戻す力はありません……。コアは私に見切りをつけました……』
「全て、コアの手のひらの上だった……ってこと」
『……ええ。どうやら、そのようです……』
何を目的としているかキョウカにも分からないコアの未知なる恐ろしさを二人は感じていた。
「────じゃあ、そのコアって奴を斬ればライダーバトルは終わる?」
「燐……!」
『燐くん!』
刃との戦いを終えた燐が二人のもとへ帰還した。
消滅が始まっていたのですぐに現実世界へと戻り、美玲の隣に立つ。
連戦による体力消耗と痛みに今にも倒れてしまいたいが、二人の前だ。心配をかけてはいけないと気力だけで立っていた。
『コアを斬るなんて……燐くんが戦う必要なんて……。私は貴方に戦ってほしくないんです!』
「それを言うなら僕もだキョウカさん。君にもうこんなことをさせたくない」
『ッ! ……でも、私は……』
未だに自身の願いに縋るキョウカは燐が止めろと言っても聞くつもりはない。
多くの命を奪った。
大罪を犯した。
今更、止まることなど出来ないのだと。
だがそんなキョウカを燐は切り裂く。
「……君は、許されないことをした。ライダーバトルで多くの命が失われた……。僕も許さない」
『今更そんなこと……! 自分でも分かっています! 許されないことをした! なら、もう突き進むしかない!』
「馬鹿言うなッ!」
燐の怒号に、キョウカと美玲は驚いた。
穏やかな気性の彼が声を荒げさせるところなど見たことがなかったからだ。
「許されないことをしたなら償うんだよ! 突き進むなんて開き直りは最低だ!」
『でも、私にはそれしか……』
「君一人では出来ないって言うなら……僕も一緒に償うよ」
『え……? どう、して……? どうして燐くんが!』
「友達、だから」
『ッ……!』
穏やかな笑みをキョウカへと向けていた。
そして燐の言葉に、キョウカは思い出していた。
かつて、友達という言葉に抱いた想いを……。
「終わらせよう僕達で。ライダーバトルを」
『でも、そんな……燐くんにそんなこと……』
「友達が間違ったことしたら止めるものだし、困ってたら助けてあげるのも友達だよ。だからさ、一緒に終わらせよう」
手を差し出す。
ミラーワールドのキョウカにはその手は取れない。
手は、取れなくとも。
二人は鏡面に手を重ね合わせる。
『ごめんなさい……ごめんなさい……!』
「許してあげない。全部、終わらせるまでは」
『はい……!』
泣きじゃくるキョウカを優しく見守る燐。
彼女が泣き止むまで、寄り添い続けた────。
帰路につく。
ライダーバトルを終わらせる。
彼女の償いのために。
ライダーバトルが終わったら、今度はモンスターとの戦い。
キョウカさんも、誰も巻き込まない。
これは僕の戦いだ。
ライダーバトルが始まった原因が僕にあるならライダーバトルを終わらせるのだって僕だ。
けれど、ミラーワールドを開いてしまったのは僕個人の責任なのだから僕だけが戦う。
そうだ、それでいい……。
「……燐」
これまで、ずっと黙っていた美玲先輩が声を発した。
「なんですか?」
「……燐は、全てを思い出したんでしょう? なら……」
……美玲先輩の言いたいことはすぐに理解した。
「……はい。思い出しました、美玲先輩とのことも」
「じゃあ……」
「好きです、美玲先輩」
「────」
変わりない、偽りのない言葉。
これしか、言えない。
「……反則」
「え……? 駄目、でした……?」
何かを間違えてしまっただろうか?
まさか美玲先輩には意中の相手がいるのだろうか?
とんだ思い違いをしてしまったのではないか?
そもそも反則とは……。
隣を歩いていた美玲先輩が突然目の前に躍り出る。
次の瞬間甘い香りがふわりと薫り、唇に柔らかな触感。
一秒が、永遠に感じた。
すうと離れていく熱が寂しい。
月が照らす青の中、少しばかり紅潮したような顔の美玲先輩がいた。
「────好きよ、燐」
「あ……その、反則です……」
仕返しを受けた。
上手くいったとばかりに美玲先輩は余裕あるといった風な笑みを浮かべている。
その表情を見て、何故だかようやく取り戻せたのだと実感した。すると、僕まで自然と笑顔になって……。
ああ、なんだか久しぶりだ。こんな笑顔を浮かべるのは。
長い長い夜が明ける。
今宵、ライダーバトルはひとつの終焉を迎えた。
だが、それは新たな戦いの始まりに過ぎない。
もうひとつのライダーバトルが、闇の中で胎動していた────。
ADVENTCARD ARCHIVE
SURVIVE-閃光-
仮面ライダー刃が獲得したサバイブカード。
光の力を身に纏い、刃を強化させる。
高速移動が可能となり、並の敵であれば一太刀で斬り伏せる。
黒いスラッシュバイザーツバイを装備し、刀身に光を纏わせ斬撃を強化する。また、光が放つ熱により近付いた敵を焼き尽くす。
黒き剣士が得た光、それはかつて自身が求めた白き光……。