仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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?+1ー39 穏やかに、激しい

 仄暗い路地を駆け抜ける赤いライダーがいた。

 息を切らし、何かから逃げていた。

 

「ひ、光……!」

 

 繁華街の光が射し込む。

 入り組んだ路地の出口を見つけ、ようやく逃げきったと安堵の息を漏らす少女。

 だが、光を背にして立ちはだかる白きライダーがいた。

 

「ツルギ……!」

 

 赤いライダーは腰に提げていた銃型のバイザーを抜いて撃つ、撃つ、撃つ。

 火を吹く銃口。

 だが、ツルギは銃弾よりも速く動いていた。

 振り抜かれる太刀。

 通りすぎ様の一閃。

 彼女はツルギの動きにまったく反応出来なかった。

 

「え……」

 

 背後に立つツルギに呆気に取られるもすぐに思考を切り替え、隙だらけに見えた後ろ姿に銃弾を撃ち込もうと振り返る。

 その瞬間、赤いデッキがバックルから外れて地に堕ちた。

 デッキは、横一閃に切り裂かれていたのだ。

 

「は……?」

 

 変身がとけ、制服姿の女子高生が姿を晒す。

 

「え、あ、うそ、デッキ……デッキ!」

 

 壊れたデッキに手を伸ばす少女。

 だが、少女は忽然とミラーワールドから消え去った。

 

『……問題なく、彼女は現実世界へと戻しました』

 

「そっか、ありがとうキョウカさん」

 

 路地に現れたキョウカがツルギの背に告げた。

 ツルギはしゃがみ、切り裂いたデッキを手に取りカードを一枚抜く。

 メモリアカード。

 少女達の願いが記されるカード。

 先程のライダーに変身していた彼女の願いは、Money。

 金であった。

 

『燐くんもそろそろ戻らないと……』

 

「……そうだね」

 

 ツルギはメモリアカードを手に現実世界へと帰還。

 変身は解除され御剣燐へと戻ると改めて、メモリアカードに視線を落とした。

 

「お金、か……」

 

 メモリアカードをポケットにしまい、御剣燐は仕事終わりの人々で溢れる街へと紛れていく。

 

 あれから一週間近く経とうとしていた。

 ライダーバトルはゲームマスターであったアリス=キョウカが戦いを終わらせることを決意し、ある意味では終わったのだ。

 鐵宮に付き従ったライダー達の大部分はツルギサバイブにより契約モンスターを失い、デッキを放棄したことでライダーの数そのものは減った。

 しかし、全てのライダーがいなくなったわけではない。

 鐵宮に付き従わずあの戦いに参加していなかったライダーも少なからず存在していたり、あの時デッキを放棄せずにいたライダーもいる可能性がある。

 そういったライダー達はライダーバトルを続行させようと、願いを叶えようとしている。

 そんなライダー達との戦い。いや、いずれも戦いと呼べるものではなかった。

 

 燐は残存したライダー達との戦いを処刑のようだと感じていた。

 少女達の願いを、希望を切り裂き、絶望を与える。

 そのことに苦悩しつつも、誰も命の奪い合いなどするべきではないのだと自身に言い聞かせて戦っていた。

 全てを終わらせるまで戦うという誓い。

 まずはライダーバトルを本当の意味で終わらせる。

 己以外のライダーを……とまで考えて、足を止める。 

 今の仲間達のことが脳裏に浮かぶ。

 協力してくれている美玲をはじめとした燐の仲間達。

 だが、いずれは彼女達にもライダーを辞めてもらわねばと思うと胸のあたりが少しばかり重くなる。

 

「仲間……」

 

 自分は仲間を求めているのかと、呆れてしまい立ち止まった。

 ライダーバトルを終わらせたら独りで戦うという誓いも立てたのだ。

 それだというのに仲間を求めている自分がいる。

 そんな甘えは、いけない。

 甘えはここに捨て去り、ひとまず家へ帰ろう。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~」

 

 家に入るとなにやらいい匂い。

 ……生姜焼き!

 予想が当たるかどうか胸を弾ませて廊下を歩いてリビングへ。

 

「おかえり~」

 

 リビングには洗濯物を畳んでいる母さんがいた。

 ……ん?

 母さんがいた?

 

「あれ、母さん夕飯の準備は?」

「ふふーん。今日はね、美玲ちゃんが作ってるのよ」

「へぇ」

 

 へぇ?

 ミレイちゃん?

 待って、脳が、ちょっと。

 

「ママさん、夕飯出来ました。あ、燐。帰ってたの」

 

 予想外のところから予想通りの人が出てきた。

 ちょっと、混乱してる。

 

「帰ってたのというか、なんというか、え、その、なにしてるんですか?」

「なにって、夕飯を作ってたんだけど」

「なんで美玲先輩がうちの夕飯を作ってるんですか?」

「今日、スーパーでママさんと会って少し話をしたらご飯食べていってって言われて」

 

 以下、回想。

 スーパーの野菜売り場にて。

 

「あ……燐のお母さん……」

「あなた……えっと、美玲ちゃんね。大丈夫ちゃんと覚えてるから」

 

 まだまだ若いんだからと得意気な顔を見せる燐の母。

 息子の先輩。それも女子という母からすると少し気になる対象であった美玲に燐の母はまず雑談から入った。

 

「おつかい? 偉いわね~。燐はともかく美香……あ、妹ね。美香は全然手伝ってくれないのよ~」

「そうなんですね。私はおつかいというか……家の事するのは私しかいないので、それで」

「え? お母さんは?」

「母は私が小学生の時に亡くなって、父も仕事が忙しくてそれで……」

「そうなの……。ごめんなさいね、無神経な話しちゃって」

「いえ、大丈夫です。慣れてますから」

「……そうだ! 美玲ちゃん、家でご飯食べていって!」

 

 回想終了

 

「いや、食べていってって言われた美玲先輩が夕飯作ってるってどういうこと母さん」

「お母さんだってご飯と味噌汁作ったわよ」

「そうじゃなくて食べていってって言った人にご飯作らせてるってどういうことさ!」

「燐、ママさんを責めないで。手伝うって言ったのは私だから」

 

 むう、納得いかない。

 

「それより燐。美玲ちゃんと付き合ってるんですって?」

「な、なにさ急に……」

「どうしてお母さんに言ってくれないのよ~! 隠すなんて水臭いわよ」

 

 別に隠していたつもりはない。

 ただ、その、言わなかっただけで。

 うん、言うつもりではいたし。

 そのうち、いつか。

 

「話をすり替えないでよ……」

「いいえ、大事な話よ。というか、これについては私からも抗議したいのだけど」

 

 美玲先輩が詰め寄ってくる。

 キリッとした目が更にキリッとして怒っている。

 なんで……?

 

「私と付き合ってることって、隠すようなこと?」

「え、あ、いや……そのようなことは……」

「何か後ろめたいことでもあるわけ?」

「あ、ありません! 誓って、ありません!」

「……そう。なら、いいけど」

 

 まだ夕飯の準備があるのでとキッチンに戻った美玲先輩。

 よかった、矛を収めてくれたようで助かる。

 こればかりは微妙な男心の問題なのだ。理解されるのは難しいだろうが、きっと他の男子諸君は分かってくれるはず。多分。

 

「ふふ、もうすっかり尻に敷かれてるわね」

「そういうこと言うのやめて」

「けど良いことよ。女の子の方がしっかりしてると将来安泰なんだから。そう、私みたいに」

「母さんみたいに……?」

 

 しっかりとは対極に位置してそうな母さんがそんなことを言う……?

 

「なによ」

「いや、別に……」

「美玲ちゃーん! 燐の生姜焼き一枚抜きにしてー!」

「ええ!? そんな、横暴!」

 

 

 きっちりと、生姜焼きは一枚減らされていた。

 三枚と二枚。

 差はないようで、大きい……!

 

「美味しいです美玲さん!」

「そう? よかった」

 

 美香も美玲先輩に早速懐いたようだ。

 というか、なんとも異質……というと美玲先輩に悪い。

 ただ、悪く言うつもりはないが……異物感というか、なんというか。

 唯一の同性である父さんなら分かってくれるだろうか、この感じ……。

 

「……」

 

 駄目だ。多分、分かってくれない。

 父さんはあんまり気にしない人だからなぁ……。

 僕だけか?

 僕だけなのか?

 なんとも、肩身が狭くなったような気がする……。

 

「燐ったら緊張しちゃって~」

「し、してないって!」

「彼女がご飯作ってくれたんだからしっかり食べなきゃダメよ。ほら、母さんの生姜焼き一枚あげるから」

「それさっき没収されたやつ!」

「え!? 美玲さんとお兄ちゃん付き合ってるの!? いつから? いつから!?」

「あーもううるさいなぁ。静かに食べなさい」

「えーだって、えぇー!」

 

 美香に知られると煩くなるのを分かっていたからここで言ってほしくはなかったぞ母さん。

 ……ちらと正面の美玲先輩に目をやる。

 静かに、綺麗に食べていた。

 こんなに綺麗にものを食べる人、はじめて見た。

 何を思っているのだろう。

 こんな他所の家で晩ごはんなんて、僕なら気が気でない。

 いつもと違う環境なのに平然として、いつもと変わらぬ様子でいる。

 そんな超然とした姿に……憧れたのだ。

 

『……次のニュースです。聖山市で発生している連続行方不明事件について、警察が本日、会見を開きました』

 

 物思いから現実に引き戻される。

 テレビが映す、警察の会見に目が釘付けとなった。

 曰く、行方不明者がここ数日で増加傾向にあること。

 曰く、未だに何の証拠も掴めていないこと。

 曰く、市民の皆さんは注意して生活すること。

 ざっと、こんなことを警察のお偉いさんが話した。

 

「やぁねぇ、行方不明者増えてるだなんて」

「何の証拠もないとか警察無能じゃん」

「美香、そういうことは言うな。普通の誘拐事件じゃないんだ」

 

 そう、普通の誘拐事件ではない。

 そのことを知るのはこの場では僕と美玲先輩だけ。

 仮面ライダーだけなのだから。

 犯人は人間ではなくモンスター達。

 行方不明となった人達。中にはライダーだった人達もいるがそれらを除けば性別、年齢、その時にいた場所、行方不明となった時間。そういったものに共通点はない。

 モンスターが捕食すると決めたということしか共通しない。

 謂わば、通り魔。

 警察では防ぎようがない。

 ライダーでなければ……。

 ライダーがやらなければ……!

 

「燐……?」

 

 夕食を平らげ、部屋に戻る。

 当然ながら部屋には誰もいないのだが、壁に立て掛けられた姿見の中にはキョウカさんがいる。

 あの日以降、キョウカさんは僕と行動を共にしている。

 そのため自然とキョウカさんの新たな拠点が僕の部屋になった。

 キョウカさんはソリティアの真っ最中であったが不機嫌そうな顔をしている。

 なにかあったのだろうか。

 

「キョウカさん、なにかあった?」

 

『燐くんには関係ないですけど……大いにありますね』

 

「どっち?」

 

 ふん、とそっぽを向かれる。

 なんだというんだ。

 それよりも、だ。

 

「……行方不明者の、モンスターに襲われた人達が増えてるって」

 

『そのようですね。理由は……理解、していますね……』

 

「……ライダーの数が、減ったから。僕が、減らしたからだ」

 

『……大勢いたライダー達が自分の契約モンスターに餌を与えるため、積極的に狩りを行っていた。それが結果としてこの街の人達を護っていた』

 

 人を守るためという理由ではなかったかもしれないが、結果的に人々は守られていた。

 けれど、モンスターを狩っていたライダー達がいなくなったことによってモンスターは野放しとなった。

 当然、僕達だっているが……。

 

『燐くん、どうか気を病まないでください。貴方が一人で闘っていた時とは状況が違います』

 

「……どういうこと?」

 

『ライダーバトルを実施するにあたって、モンスターの存在は不可欠でした。しかし、モンスターのほとんどを燐くんが討伐したためコアがモンスター達を新たに生み出していったのです。燐くんが闘ったモンスターよりも多く……』

 

「モンスターを、生み出す……!? そんな……」

 

『私にも、詳細は分かりませんが……。とにかく、今の状況に燐くんは何の責任もありません。だから、今は出来ることをしましょう……』

 

 今、出来ること……。

 キョウカさんはタイムベントを失い、時を巻き戻すことが出来なくなった。

 ライダーバトルが行われる前にタイムベントして、ライダーバトルを始めないという方法は出来ないわけだ。

 ゆえに、今は始まってしまったものを終わらせるということしか出来ない。

 ライダーバトルの参加者を0にする。

 そして、ライダーは僕一人となってモンスターと戦い続けるのだ。

 ミラーワールドと現実世界の繋がりを断つ方法も当然探していくつもりだけれど、繋がった方法が方法だけにこれは苦労しそうだ。

 それに、仮にミラーワールドとの繋がりを断ったとしても、鏡が割れたことによりミラーワールドと現実世界が繋がったということは、いつどこで誰が再びミラーワールドと現実世界を繋げてしまうか分からないということ。

 世界から鏡を全て消し去らない限り、ミラーワールドとこの世界はいつ繋がってもおかしくないのだ。

 

『私がもっとコアについて知っていれば……。ごめんなさい……』

 

「キョウカさんは悪くない。悪いけど、悪くない」

 

『どっちですか、それ……』

 

「さっきのお返し」

 

 してやったりとキョウカさんに微笑むと、ノック音。

 ドアの向こう側から、美玲先輩の声がした。

 ドアを開けて、美玲先輩を部屋に入れると美玲先輩は……固まった。

 

「美玲先輩……?」

 

 僕の声など聞こえないかのように、美玲先輩は一目散にキョウカさんのいる姿見の前に立った。

 

「どういうつもり」

 

 美玲先輩が不機嫌な時の低いトーンの声が発せられた。

 妙な緊張感が部屋を包み込んだ。

 

『どういうつもり、とは、どういうつもりです?』

 

 不機嫌な美玲先輩を前にしてキョウカさんは挑発的な笑みを浮かべて、質問を質問で返した。

 

「なんで燐の部屋にいるわけ」

 

 あ……。

 美玲先輩に、キョウカさんが部屋にいること話すの忘れてた……。

 

『えー? 何か問題でもありますぅ?』

 

「大ありよ。今すぐ出ていきなさい」

 

『でも今~、私と燐くんは協力して、互いに助け合って、共闘中なので! 共同作業中なので! 一緒にいた方が都合がいいんですぅ!』

 

 ああもうなんでキョウカさんもそういう風に言うかなぁ!

 

「あ、あの二人とも!」

 

「燐。普通、彼女がいるなら部屋に他の女をあげるなんてしないわよね。他の女と二人っきりになんて、ならないわよね」

 

『えー、でも私はミラーワールドから出られないので、なぁんにも出来ませんよ~? それに私、燐くんとはお友達! ですから!』

 

 友達なら、睨み付けないでもらいたいですキョウカさん。

 

「なにも出来ない? 友達? あのね、そういって近付いてくる女が一番タチ悪いって、知らない? 信用ならないのよ」

 

『嫌ですねぇ、こんな恋人の交友関係にまで口出してくる女。束縛キツイと愛想尽かされちゃいますよ~。あ、ちなみに私は束縛とかしないので! よその女と付き合ってもいいですよ! 最終的に私のところに来てくれれば!』

 

「余裕ぶってるようだけど、それ負け犬根性よ」

 

『誰が負け犬ですって?』

 

 こ、怖い……。

 一触即発どころじゃないぞ、いつライダーバトルが起こってもおかしくない……。

 な、なんとかして止めないと……。

 

「あ、あの美玲先輩! そういえば何か用があって部屋来たんじゃないですか!」

「……そうだったわね、これ貰ったから」

 

 スマホを見せてくる美玲先輩。

 ほっこりとした顔になって良かったと思ったところだったが、僕は血の気がさぁっと引いた。

 スマホに映るのは、五歳の誕生日の時の僕の写真だったからだ。

 

「な、なんでそれを……母さんだな!」

「ええ。データ全部もらったから」

 

 スマホをスクロールしていく美玲先輩。

 全部、僕が小さい時の写真。 

 

『え、ちょっと! 私にも見せてください!』

 

「駄目に決まってるでしょう」

 

 やばい、やばい。

 小さい時の写真を見られるのがこんなに恥ずかしいだなんて知らなかった。

 

「あの、美玲先輩あんまり見ないで……ください……」

「どうして? かわいいわよ」

「うっ……その、じゃあ美玲先輩が小さい時の写真も見せてくださいよ!」

「……それは駄目」

「ずるいです!」

 

『ずるいです! 私にも見せてください! 見せてくれたら燐くんがブツを隠してる場所を教えますから!』

 

「なんですって?」

 

 また血の気が引いた。

 

「キョウカさん! なんにも隠してないから!」

 

『本棚の上から二番目の列! 波須ピノコ短編集ⅠとⅡの間!』

 

「それ以上言うなー!」

 

 キョウカさんの口を塞ぎ……たいがキョウカさんはミラーワールドにいるから無駄だった。

 そしてその間に美玲先輩がそれを見つけてしまった。

 

「これは……答案用紙……?」

「あ……」

 

 折り畳まれたそれを開いた美玲先輩はため息をついた。

 

「まあ、その……。そういう系のものではなかったから良いけど、今度から一緒に勉強しましょう。数学」

「……はい」

 

 うう、見つかってしまった。

 過去最低を記録した答案が。

 恥ずかしい……。

 

「文系は得意でしょ。苦手な科目で点取れるようになれば色々悩まず済むわよ。進路のことだってあるんだし」

 

 進路、か。

 

『さあ隠し場所は教えましたよ! 私にもちっちゃい燐くんを見せて……』

 

「美玲ちゃん! 遅くなる前に帰った方が良いわよ!」

 

 ノックもせず入って来た母さんの言葉にキョウカさんの願いは遮られた。

 とりあえず、母さんは美玲先輩を見習ってほしい。

 

「燐、送っていきなさい。夜道は物騒だから。人通りが多い道を歩くのよ。大通りとか」

「はーい。それじゃあ美玲先輩、送っていきます」

「……ええ」

 

 どこか名残惜しそうにしている美玲先輩だったが、すぐにいつものポーカーフェイスに戻り、家を出た。

 

『待ってください! 私との約束は! ちっちゃい燐くんはー!?』

 

 ……キョウカさんの叫びは、聞かなかったことにしよう。

 

 

 

 

 人通りが多い道を歩くのよと言われたので大通りを往くが……。

 

「全然、人が歩いてないわね」

 

 美玲先輩が言ったとおり、人はほとんど歩いていなかった。

 車もいつもこの時間なら仕事終わりで家に帰る車が多いものだが、少ない気がする。

 

「行方不明者が増えてるから、みんな家でおとなしくしてるんでしょうね。……まあ、家の中にいてもモンスターからしたら関係ないんでしょうけど」

「そう、ですね」

「ねえ、燐」

「はい?」

「私、家にいても一人なの知ってるでしょ」

 

 それは、はい。

 美玲先輩のお父さんは家にほとんど帰ってこないらしい。

 仕事が忙しいらしいけど……。

 

「……もし、燐のママさんに泊めさせてくださいって言ったら、泊まらせてくれたかしら」

「えっ……と、その、家に、泊まりたいんですか?」

「……うん」

 

 美玲先輩が珍しく、子供っぽい声音で返事した。

 

「家にいても、つまらないし。燐の家はすごい……なんていうか、私の理想の家なの」

「理想の……家……」

「パパがいて、ママがいて、兄弟がいて……みんなで、ご飯を食べるの。その日あった事を話したりしながら……」

 

 それが、私の理想と美玲先輩は締めた。

 僕にとっては、当たり前の日常。だけど、美玲先輩からしたら、それは理想で……。

 

「……美玲先輩が、そんな事思ってたなんて、知りませんでした……」

「当然でしょ。誰にも言わなかったんだから」

「……僕は、美玲先輩が理想です」

「……え? それ、どういう……」

 

 突然、頭に響く戦いを告げる音。

 切り替わる、日常から非日常へと。

 戦いへと。

 駆け出し、モンスターの居場所を目指す。

 

「燐!」

 

 通りを駆け抜け、左へ曲がると街灯以外の光がなくなり嫌な静寂に包まれる。

 夜目が、一人の女性を捉えた。

 そしてその女性をミラーワールドから狙う黒いモンスターの影も。

 人型であるが、バッタのように跳び跳ねミラーワールドを移動し……いよいよ、女性へと向かって跳躍。

 

『キシャアアア!!!!』

 

「きゃああああ!!!!!」

 

 響く女性の叫び。

 ……絶対に守る!

 

「はあっ!」

 

 モンスターへと向かい、飛び蹴りを放つ。

 蹴りはモンスターの肩へ直撃し、狩りに失敗したモンスターはミラーワールドへと逃げ帰った。

 

「燐!」

 

 美玲先輩が気絶した女性を近くのフェンスへと寄りかからせていた。

 女性が気絶してくれて助かった。

 気兼ねなく変身出来る。

 近くに停められていた黒いセダンを鏡に、美玲先輩と並び変身する。

 

「「変身ッ!」」

 

 それぞれツルギとアイズへ姿を変え、ミラーワールドへ。

 アイズはライドシューターへと乗り込み、僕はスラッシュサイクルに跨がり鏡の道を駆け抜ける。

 

 

 

 

 

 ミラーワールドへと到着したツルギとアイズはモンスターを探した。

 広く、開けた大通りが戦場。

 バッタ怪人とでも呼ぶべきモンスターはその跳躍力により高い機動力を持つ。

 どこから奇襲してきても、おかしくはない。

 

「……燐ッ!」

 

 アイズが叫んだ。

 アイズは契約モンスターであるガナーウイングの影響により視力が並のライダーと比べて高い。

 そのため、モンスターの奇襲に早い段階で気付いた。

 ……最も、ツルギはそれより一瞬早く気付いていたが。

 

「ッ!」

 

 振り抜かれる、スラッシュバイザー。

 放たれた居合いは神速と言っても過言ではなく、アイズの目を以てしても捉えることが出来なかった。

 

『ギ……シャァァ……!』

 

 切り裂かれてもすぐに立ち上がりツルギへと威嚇するモンスターであるが、ツルギは恐れなど抱かない。

 スラッシュバイザーをだらりと、力が抜けた自然体で構えて一歩ずつモンスターへと歩み寄るツルギ。

 モンスターは野性の勘で、ツルギを最大の脅威と感じて逃走を選択。

 自慢の脚で夜空へ向かって跳躍する。

 

「逃がさない……!」

 

【SHOOT VENT】

 

 ガナーウイングの青い翼を模した弓『ウイングアロー』と矢筒が召喚され、背中のハードポイントへと装着される。

 矢を番え、夜空に向かい狙いを定める。

 黒い体色は夜と同化し、普通ならば発見は不可能だろう。

 だが、アイズには視える────。

 

「いた……。すぅ……ッ!」

 

 放たれる、一条の青き光。

 夜空を走る流星の如く、突き進む。

 そしてその流星は、モンスターの跳躍に一役買っていた羽根を貫いた。

 バランスを崩し、墜落していくモンスター。

 それを、電柱の上から見上げていたツルギもまた、得物を召喚する。

 

【SWORD VENT】

 

 舞い降りる太刀は『リュウノタチ』

 宵闇の中でも白い輝きを放つ、美しき刃。

 リュウノタチを掴み取ったツルギは、墜落するモンスターへと向かい夜空を翔る。

 重力の魔の手に捕まったモンスターへ、一閃────。

 

 ツルギは切り裂いた姿勢のまま、着地。

 その背を、爆炎が彩った。

 

「終わったわね」 

 

 ツルギの元へ駆け寄ったアイズがそう口にするもツルギは何も返さなかった。

 そのことに、アイズは不満を抱くがなにやら頭上が騒がしくなり空を見上げた。

 ガナーウイングとドラグスラッシャーが睨みあっていた。倒したモンスターのエネルギーをどちらが捕食するか、争っているのだ。

 アイズはガナーウイングを止めようとするが。

 

「ドラグスラッシャー」

 

 ツルギのその一言で、ドラグスラッシャーが退いた。

 ガナーウイングは一声鳴くと、黒い空に輝く黄金の球体を捕食。

 こうして、帰宅途中の戦いは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか美玲先輩?」

 

 ミラーワールドから戻ると開口一番、燐がいつもの調子で問い掛けてきた。

 大丈夫だと返事すると、いつもの笑顔が見れた。

 良かったと、内心安堵する。

 戦いの最中の燐はいつもの燐ではないようで、調子が狂う。

 だから、いつもの燐が今ここにいて安心するのだ。

 そして、安心ついでに思い出した。

 

「ねえ、さっきの話の続きなんだけど」

「なんでしたっけ?」

「その、私が燐の理想って……。どういう意味?」

「あー……。ふふっ、内緒です」

 

 今度は悪戯っぽく、燐は笑った。

 

「なんで」

「美玲先輩が小さい時の写真見せてくれたら答えてあげます」

「……ふぅん」

 

 なるほど、そういうことかと察した。

 燐なりに仕返しがしたいらしい。

 

「……言ってくれないと、あの写真を北達に見せるけど」

 

 私も私で意地らしいと思う。

 燐より優位に立っていたいと思う自分がいるのはとっくの昔に自覚済み。

 端的に言えば、先輩風を吹かせていたいのだ。

 あと、私も小さい時の写真を見せるのは恥ずかしい。

 とにかくああ言って脅したのだから、燐は折れてくれるはず……。

 

「……写真、独り占めしてくれないんですか?」

「っ!?」

 

 その瞬間、燐は小悪魔的だった。

 計算しての発言か、それとも自然と出た言葉なのか。

 とにかく、今の発言は狡かった。

 

「……分かった。あとで、見せるから……」

「ふふ、やった」

 

 ああ、もうどこで覚えたのかそんなテクニック。

 今後もこんなことされたら心臓がもたない。

 意外な燐の側面に驚きながら帰路を進む。だが、それ以上の驚きが私を待っていた。

 

 

 

 家の周りが、パトカーや救急車のランプで赤く照らされていた。

 モンスターの被害が家の近くであったのかと思い、野次馬達に近付くと隣の家のおばさんが慌てた様子で私に駆け寄ってきた。

 

「よかった美玲ちゃん! 家にいなくて!」

「どういうことです?」

「美玲ちゃんのお家にトラックが突っ込んだのよ!」

「……は?」

 

 もう凄い音がして~だのとおばさんが話していたが私には聞こえなかった。

 とりあえず野次馬達を掻い潜り、先頭へ来ると確かに私の家にトラックが突っ込んでいた。

 ……塀と玄関周りだけの被害で済んで良かっただの、現実逃避する。

 

「あ、あの、美玲先輩……」

「……燐。私、どうしたらいい?」

 

 心の底から問い掛けた。

 燐からは、戸惑いの声しか返ってこなかった。




次回 仮面ライダーツルギ

「というわけで、しばらく私もここで暮らすから」

『な、なんでですかー!?』

「家がまた賑やかになった……」

「罪な男……」

願いが、叫びをあげている────。

ADVENTCARD ARCHIVE
FINAL VENT(仮面ライダーアイズ)
裂空破(れっくうは) 5000AP

仮面ライダーアイズのファイナルベント。
背中に契約モンスターのガナーウイングを、両足にはガナーウイングの鉤爪を模したウイングクローを装備。
天高く飛び立ち、地上の敵へと向かい滑空。
その際にガナーウイングの二門の砲が砲弾を放ち、ダメージを与える若しくは逃げ道を塞ぐ。 
そしてトドメの回し蹴りはウイングクローにより斬撃の効果も付与されている。

大空より飛来し、獲物を狩るは黄金の鉤爪。
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