これが夢だということは理解している。
見覚えのない景色。
どこまでも続く草原に立つ、一本の巨木。
樹齢数百年ぐらいかなと思いながらそれを見上げる。
堂々とした貫禄のある幹から力強く伸びていく無数の枝達。その生命力溢れる姿に自然と尊敬の念を抱かずにはいられない。
広葉樹らしい木葉達が穏やかな風に揺れ、囁く。
ああ、久しぶりに心穏やかになれたと落ち着いた瞬間、突風。
激しい風が、木から葉を奪っていく。
葉だけでなく、枝すらも風は手折り、その木が緑を失うのに時間はかからなかった。
強い生命力を感じさせた太い幹には、朽ちていくだけなのだという絶望があった。
そして重なる。
ああ、この木は自分の運命を表しているのだと────。
ひとつ、大事な話をしたい。
とても大切な話だ。
人生をより良くするために、若輩ながらも僕が得た結論。
それは、朝の目覚めはとても大切だということ。
終わり良ければとも言うが、やはりスタートダッシュは気持ち良く行きたいものだ。
朝の目覚めを良くするためには何よりも睡眠の質が大事で、最近は正直良い睡眠とは言えないけれど出来る限り気持ち良く寝ているつもりだ。
そしてもうひとつ、気持ち良い目覚めに必要なものがある。
それは、如何に目覚めるか。
僕は目覚まし時計を使わない。
体内時計がしっかりしているから必要ないのだ。
……まあ、たまに寝坊しそうになっても母さんが起こしに来るから無問題である。
何故、目覚まし時計を使わないか。
理由は単純で、ビックリするから。
突然、うるさい音が鳴って飛び起きるのは何とも言い難い苦痛だと思う。
せっかく気持ち良く寝ていたのを妨げられるのだ、許されない。
ゆえに、目覚めは自然なものとしてあるべき……。
そう、思っているのだが。
「だから、朝一で燐の部屋に侵入するのやめて」
『侵入なんて言い方やめてくれますぅ? 私、ここに住んでるんです。ちゃんと燐くんの許可をもらって! だからここは私のお家、どこにいようと問題ないでしょう? むしろ借り暮らししてる貴女こそ自重するべきではありません?』
「私は燐の家族にも認められて住まわせてもらってるの。貴女みたいな違法滞在者とは違うの分かる? あとちゃんと燐を起こすようにママさんから頼まれてるから」
『無表情なのに勝ち誇った笑みに見えるのホント腹立ちます……! 燐くん起きてくださ~い! 貴方のキョウカが朝のお目覚めASMRしてあげますよ~!』
「勝手な真似を……!」
朝からこれである、この二人。
喧嘩するほど仲が良いなんてものではない。
殺気立ってるものだから、戦っていいとなれば即座にライダーバトルを始めるだろう。
流石にこの二人の戦いを止める勇気はない。
……ともかくいつまでも現実逃避しているのも良くない。
何故だか重たい身体を起こして、二人におはようと挨拶をする。
「おはよう、燐」
『おはようございます燐くん』
さっきまで喧嘩なんてしてませんといったような感じ。
全部聞いてたから。
「……その、喧嘩はほどほどに」
「誰のせいだと思ってるの」
『誰のせいだと思ってるんですか』
僕のせい……かな……。
まあ、僕のせいで済むならそれでいい。
「喧嘩するなら他の部屋で……は出来ないか。僕の部屋でして? いやもうしてるか……」
「寝ぼけたこと言ってないで。朝ごはんよ」
「ふぁーい」
ベッドから出て美玲先輩についていく。
鏡の向こう側からの視線が刺さるが甘んじて受けよう。
……キョウカさんとも、ご飯食べられるようになればいいな。
さて、しれっと当然のように御剣家にいる美玲先輩であるが二日前の夜、美玲先輩のお家にトラックが突っ込むという事故が発生。
そんな家に住むわけにもいかずで、一旦僕の家に美玲先輩と戻り母さん達に事情を説明。
結果。
「というわけで、しばらく私もここで暮らすから」
『な、なんでですかー!?』
「家がまた賑やかになった……」
ドンと大きなバッグを床に置いて宣言した美玲先輩。ポーカーフェイスだけど、なんか周りが光ってるように見えた。
美玲先輩のお父さんにも当然、相談はして二つ返事だったという。
判断が早いと思っていいものだろうか……。
そんなこんなで美玲先輩が御剣家にいる生活三日目。
「休校だからって、寝坊助さんになっちゃダメよ。規則正しい生活、早寝早起き朝ごはん! 人間これさえあれば真っ当に生きられるんだから」
などと母さんの高説を拝聴しながら朝食。
美玲先輩は「いただきます」と言った後は黙々とご飯を食べる。
話し掛けられればもちろん返事はするけれども。
食べ終わったら食器を片付け、洗い物など家事を手伝う。
家賃の代わりにもならないけれど、と自虐的なことを言っていたけど母さんは家事の負担も減り、話し相手が出来たと上機嫌だ。
「家、三人子供がいたかも」なんて言い出した時は流石に驚いたが。
そうして平日の午前中。
普通なら学校にいる時間であるが聖山高校は休校となった。
理由は……行方不明者が一気に出たから。
モンスターに喰われた鐵宮。
鐵宮に敗北したという射澄さん……。
この二人に加え、数名の行方不明者が出てしまった。
学校前は報道関係者で溢れ、一躍全国ニュースになってしまった。
それらの対応のために休校措置が取られたというわけ。
僕としては活動しやすくなったのでありがたいが、行方不明者が増えているという状況下なので母さんの目が厳しくなった。
あと、美玲先輩を助けに行った時のこととかもあって一人で外出しようものなら、行き先と帰宅予定時刻を申告しなければいけない。
ただ、一人で外出というのは減った。
美玲先輩が同行するからだ。
母さんも「美玲ちゃんが一緒なら大丈夫」と僕より美玲先輩を信頼してしまっていけない。
「そういえば明日だっけ~?」
朝食を食べ終わる頃、母さんが尋ねてきた。
母さんはいつも主語がない。
「何が?」
「遊園地行くんでしょ」
「あー、うん。明日」
「デート楽しんできてね。美玲ちゃんも」
「はい。……といっても、二人きりってわけじゃないんですけど」
「あら、そうなの? ダブルデート?」
「いえ、他の友達数人とです」
他の友達。
友達というより、ライダー仲間である。
美也さん発案で、ライダー仲間で絆を深めよう的な感じ。
僕もよく知らない人が仲間になっていたりするようだし、ちゃんと挨拶しておこう。
というわけで、翌日。
「久しぶりに来たなー。萩山ベニーランド」
萩山ベニーランド。
聖山市が誇る、歴史ある遊園地……と言えば聞こえは良いが、特に変わったことはない普通の遊園地である。
聖山市営地下鉄東西線に乗って、萩山公園駅で降りてすぐという極めてアクセスが良いのが特徴と言えるか。
「初めて来た」
「そうなんですか? まあ、近くにあると逆に行かなかったりしますよね。こういうとこって」
僕も小学生の時ぶりに来たし、訪れた回数だって片手で足りる。
「燐ちゅわぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!」
「この声は……!」
遠くから走ってくる明るい金髪。
漫画だったら土煙を立てていそうな勢いでこちらに向かって走ってくるあれは……。
「北津喜……!」
両腕を広げ、まっすぐこっちに向かってくる北さんを、美玲先輩が迎え撃つ。
まず北さん直撃コースにいた僕を移動させて、僕がいた場所に立った美玲先輩は拳を突き出した。
すると北さんは急ブレーキをかけて減速。
「ひどいぞ咲洲さん!」
「見た? こうすると人って止まるのよ、燐」
「はえ~」
「無視しないでくれないかなぁ!」
「燐に抱き着こうとした、貴女が悪い」
「別にいいだろう! 親愛の証、ハグだよハグ」
なんとも北さんは欧米的だ。
まあ、北さんのことだからよくやってそうだなとは思う。
「もう北さん急に走らないで……」
北さんを追いかけて美也さん、伊織さん、真央さんもやってきた。
伊織さんとは少し、真央さんとはまだほとんど会話したことがないレベル。
諸々の事情は説明したぐらいか。
「ともかくこれで全員揃ったということで! 早速行きましょう!」
張り切る美也さんに続いて入園。
久しぶりに遊ぶか……!
「まずなに行きます?」
「そりゃあ遊園地といえばやっぱりあれでしょ!」
指差すはジェットコースター。
お客さん達の歓声と悲鳴が入り混ざる遊園地の代表的アトラクション。
「おお! いいねぇ!」
「最初から飛ばすわね。けど、悪くない」
美也さんと伊織さんは乗り気。
「いきなりジェットコースターですか!?」
「あはは。好きなので、何回も乗っちゃうタイプです」
「流石男の子……」
真央さんは少しジェットコースターが苦手そう。
まあ、絶叫系は苦手な人も多いから仕方ない。
「上谷さんは苦手かい?」
「うう、はい……」
「安心したまえ、僕がついてる!」
「そういう問題じゃないです……。けど、ちょ、挑戦します!」
おお。
苦手なものに挑むとは、流石風紀委員。
風紀委員関係ある?
まあいいや。
「美玲先輩はジェットコースター大丈夫ですか?」
「……」
「……美玲先輩?」
「……ふふっ、燐ったら。ジェットコースターなんて存在しないのよ」
「あの、美玲先輩……? あそこにジェットコー……」
「ジェットコースターなんて存在しない。いいわね?」
「……」
美玲先輩、もしかして……。
「ジェットコースター、ダメですか?」
小さく、躊躇いがちに美玲先輩は頷いた。
……よもや、ジェットコースターの存在を否定するレベルで苦手とは。
「ま、まあ苦手な人も多いですから! 無理せずですよ!」
「……燐が行くなら、私も行く」
その後、しばらく無理しないでくださいと説得したけれど結局美玲先輩もジェットコースターに乗ることに。
結果。
「……」
「すごい。ポーカーフェイスだけど顔が青くなってる。美玲さーん、大丈夫ですかー?」
「……」
ベンチで美玲先輩を休ませる。
ジェットコースターでは隣に座って、美玲先輩が大丈夫か様子を見ていたけれどポーカーフェイスを崩さず、絶叫もせず固まっていた。
「つ、次は絶叫しないやつにしましょう! ほら、あれ!」
コーヒーカップならばゆっくり楽しめるだろうと誘った。
しかし……。
「……」
「さっきと変わらないじゃない」
「……うっ……」
「いや悪化してます! 酔ってますよ!」
「うーん、三半規管が弱いんだねぇ」
「美玲さんの意外な弱点……」
ぐったりとした様子の美玲先輩。こんな姿はなかなか見られないが、それどころではない。
「僕、飲み物でも買ってきます」
「あ、私もついていくわ」
伊織さんもついてきて、近くに自販機がないか探す。
こういう時は水、だよな……。
「いい顔になったわね」
「え?」
自販機を見つけ水を買った瞬間、唐突に伊織さんがそんなことを言った。
いい顔……?
「前に話した時はすごい悩んでて、思い詰めた顔してたから。今は悩みが晴れたって顔してる」
「あ……はは。そう、でしたね。まあ、今は今で悩んでますけど……。けど、なんとかなるって、思ってます。皆がいてくれますから」
ライダーバトル、モンスター、ミラーワールドのこと。刃とのことも、キョウカさんを救いたいということも。
きっと、なんとかなると。
なんとかすると。
「……そういえば、伊織さんは記憶のこと……願いのことはいいんですか?」
伊織さんの願いは事故のショックで失った記憶を取り戻すこと。
記憶を失ったことはない。
だから、伊織さんの辛さを僕は知りえない……。
「なに? 願いのために戦えって言うの?」
「いえ! そういうわけじゃ……」
「冗談。ま、私の願いってさ、自分でどうにか出来そうじゃない? それに、今すぐどうこうしたいってほどでもないし……」
伊織さんも自販機に小銭を入れて、緑茶を購入。
一口飲んでから言葉を続けた。
「記憶がなくって、両親のこと私は覚えてないのに、お父さんとお母さんは私のことを知っててさ。そのズレっていうのがずっと私の中にあって、どんどんそれが広がって……。だから、記憶を取り戻すことを願った」
ズレ……。
きっと、伊織さんの両親は伊織さんの記憶を蘇らせようといろんなことをしたはずだ。
その優しさに応えようと伊織さんも頑張って、けど思い出せなくて……。それが、痛みとなって……。
「けど、貴方と会って、仮面ライダーとして戦うことの本当の意味を知った気がしたの」
「本当の、意味……」
「うん。有り体に言えば、正義の味方。自分のためじゃなくて、誰かのために戦うってこと。それがなんだか……光の中にいるみたいで」
「光の、中……」
「願いのために戦ってた頃は、独りで闇の中にいるみたいで辛かった。けど、今は違う。皆がいて、暖かい光の中にいるみたい。それから、かな……あんまり、記憶のこと気にしなくなったっていうかさ……」
伊織さんは僕と向き合い、綺麗な笑みを浮かべ言った。
「私は、今がいい。今がいいんだ」
今がいい、か……。
記憶のことを完全に切り捨てたわけではない。
ただ、過去に執着せずに今を生きると。
伊織さんが、前を向けたようで良かった……。
「御剣燐ね」
突如、敵意をはらんだ声。
振り向くと少女が七人。こちらに敵意と憎悪の視線を向けてくる。
「貴女達は……」
「ライダーバトルの邪魔をしないで。……殺す」
デッキを手にする少女達。
……なるほど。
「ライダーバトルは終わった。貴女達のデッキを破壊する」
「燐君……!」
「大丈夫です。伊織さんは戦わなくても」
こっちから出向かなくても向こうから来てくれるとは、有名になったものだ。
ウエストポーチから折り畳み式の手鏡を取り、話しかける。
「キョウカさん」
『は~い』
「倒したら、いつも通りに」
『分かってます。全員、そちらに送り返しますから』
よし、と意気込みデッキを手鏡に映し込む。
少女達もデッキを翳し、遊園地内のありとあらゆる鏡からベルトを呼び出し、鎧を纏う。
「変身ッ!」
『変身!』
乱れ舞う騎士の虚像達が重なり、ライダーとして姿を現す。
僕はこの手鏡からミラーワールドへ向かう。
7対1。
数ではツルギが圧倒的不利であるが、多人数を相手にすることはツルギにはよくあることであった。
【SWORD VENT】
ゆえに臆することなく、冷静にリュウノタチを召喚し、敵ライダー達に向かい歩き出す。
彼女らもそれぞれの得物を召喚し、細剣と槍を構えた二人がまず迫る。
「でやぁぁぁ!!!!」
「はぁぁぁぁ!!!!」
「……」
まず一人、細剣で斬りかかる紫色のライダー。
その上段はツルギから見たら安直そのもの。振り下ろされる細剣を、リュウノタチを振り上げ弾く。
細剣を弾かれたことにより紫のライダーは胴をツルギに見せつけ、デッキを破壊するチャンスを与えてしまう。
そこへ、すかさず青い槍を装備したライダーが割って入る。
ツルギと紫のライダーの合間に横槍を入れ、次は自分が相手だと突きを放つ。
ツルギにとっては武器のリーチ差による不利。
回避する選択肢はないと青い槍のライダーは判断し、勢いづく。有利は自分と。
確かに、間合は戦いにおいて重要。
自分の得意とする間合で戦うことは定石である。
だが、それは実力が拮抗していればの話。
実力差がかけ離れていては、いくら得意な間合で戦おうとも容易く崩される。
ましてや相手はツルギ。
剣のライダーだ。
自分よりリーチの長い相手との戦い、自身が不利な状況に陥った時のことを考えていない理由はない。
ツルギには剣しかないのだ。
ならば、如何に剣の間合に持ち込むかなど当然のこと。
(当たらない……!)
勢いづいていた槍のライダーにも焦りが生まれていた。
攻撃がまるで当たらないということに。
自身の攻撃が容易く避けられ、余裕綽々といったツルギの様子に苛立ちを隠せなくなってきていた。
そんな苛立ちは、攻撃の精度を落とす。
「やぁッ!!!」
渾身の突きを放ったつもりでいた。
だが、ツルギからしたらそれは好機。
左手で槍を掴んだツルギは、青いライダーの足を払い転倒させる。
「きゃっ!」
転倒により、槍を手放してしまった青いライダー。槍はツルギがそのまま掴んでおり、放り投げられる。
そして、リュウノタチを逆手に持ち替えたツルギが青いライダーのデッキにその刃を突き立てようとする。
だが、ツルギは風を切る音を耳にし咄嗟にそれを切り裂いた。
落ちるは弾丸。
迷彩色のライダーの銃型バイザーから煙が上がっていた。
そのまま、迷彩色のライダーは銃を撃ち続ける。
更に、クロスボウを構えた赤いライダーが矢を放つ。
駆けて避けるツルギ。弾丸と矢は売店の風船などに当たり、施設を破壊していく。
【ADVENT】
続いて、黒いライダーが契約モンスターであるサイコローグを召喚。
黒い人型の異形がオフロードバイクに変形するとライダーはそれに乗り込み、ウィリーでツルギに迫る。
「おらぁ!」
ツルギはバイクも避けるが前輪を地につけたかと思えば今度は後輪が地を離れ、ツルギを狙う。
迫る後輪をバックステップで回避するツルギ。
構え直し、黒いライダーと睨み合う。
黒いライダーはエンジンを吹かし、威圧しているよう。
どちらが、先に動くかと読み合い……動いたのはツルギ。
黒いライダーの背後から自身を狙う弾丸と矢を切り裂く。
そこへ、鉄の騎馬が迫る。
直線的な軌道。左に避けると槍が飛んでくる。
更に細剣の斬も。
また、ここに茶色の斧を振り回すライダーも追加。
計六人が、ツルギを狙い猛攻を仕掛ける。
そして残るもう一人のライダーは黄色いローブを纏い、戦局を伺っていた。
「その剣……いただきます……」
赤い手が描かれたカードを杖型のバイザーへと読み込ませる黄色のライダー。
【STEAL VENT】
それが発動した瞬間、ツルギの手からリュウノタチが失われた。
リュウノタチは今、黄色のライダーの手に握られている。
「武器が無けりゃ、こっちのもん!」
勢力を増す七人ライダー。
だが、ツルギは冷静であった。
確かに、リュウノタチはツルギが最も使う剣である。
だからといって、ツルギから剣が失われたわけではない。
あくまでも冷静に、戦局を見定め、対応する。
攻撃を掻い潜り、スラッシュバイザーにカードを装填。
【SWORD VENT】
天より来るは二振りの短剣。
ドラグダガーである。
斧のライダーを回し蹴りで蹴飛ばし、ドラグダガーを逆手で構える。
「あいつまだ持ってるの!? 剣を!?」
「けど、あんな短いの玩具だ!」
黒いライダーが再びウィリーで迫る。
白いテーブルや椅子を押し退け、ツルギを轢き殺そうとする。
そこへ、幻想の馬の嘶きが響き渡った。
掻き鳴らす、軽快な足音。
「はっ!」
ツルギの前に一角馬ユニコブースターに騎乗する騎士が現れ、その馬の肩に装備する砲から弾丸を連射し黒いライダーを阻んだ。
「伊織さん……」
「仲間が戦ってるのに、戦わないなんてやっぱり出来ないな、私」
伊織、仮面ライダーピアースはツルギを見下ろし、そう言った。
「確かに、ライダー同士……人間同士の戦いはやっぱり辛いし、君はそう思ったから戦わなくてもいいって言ったかもしれないけど……頼ってよ。私達、仲間でしょ」
「仲間……」
「そう。それにほら、見て」
ピアースが指差した方を見ると、巨大な黄金のヘラクレスオオカブトのようなモンスター、プラチナムヘラクレスに乗り高笑いする北、仮面ライダーリーリエの姿があった。
戦車のように戦場を堂々と力強く往く姿は自信に満ち溢れていた。
「あーはっはっはっ! 私を除け者にして戦うなんて水臭いぞ燐ちゃん!」
更に、美也が変身する仮面ライダーグリム。
真央の変身する仮面ライダージュリエッタ。
「そうだよ! しばらく離脱してたけど私だって!」
「く、来るんじゃなかった……!」
「真央さんそんなこと言わない!」
「はいぃ!」
空からはガナーウイングを背に装備し、空を飛ぶ仮面ライダーアイズが。
アイズは上空から矢を放ち、銃とクロスボウのライダー二人を狙った。
「美玲先輩……! 大丈夫なんですか!」
「変身してる分には平気。とはいえ、早く終わらせるわよ」
「……デッキを狙ってください。難しければ、デッキの破壊は僕がやります」
「了解。さあ、馬とバイクどっちが強いか勝負しましょ」
「抜かせ!」
ピアース対黒のライダーは遊園地内全体を使って行われた。
縦横無尽に駆け回る騎馬戦。
ピアースは突撃槍で相手を狙う。
しかし、黒のライダーは小回りがよく効き、攻撃を軽く回避していく。
パワーと火力ではピアースが、機動力では黒のライダーが。
互いに攻めあぐねていたところ、もうひとつのエンジン音が耳をつんざいた。
ツルギの専用バイク、スラッシュサイクルである。
「チッ!」
2対1。
さっきまでは自分が数では有利だったのにと黒のライダーは舌を打つ。
ツルギと黒のライダーは並走し、ツルギはドラグダガーでデッキを狙う。
それを徒手空拳でなんとかいなすが、そちらに気を取られ前に躍り出たピアースに気付くのが遅れた。
ユニコブースターの肩の砲から弾丸が連射され、黒のライダーは転倒。
バイクもモンスターに戻り、敗走。
「ぐっ……そん、な……」
「……」
「ひっ……」
目の前に立ちはだかるツルギに黒のライダーは怯えた。
まだ他にカードはあるが、勝ち筋なんてものは見えなかった。
地に膝をついたツルギは、ドラグダガーでデッキを切り裂きライダーを少女の姿へと戻した。
「なん、で……なんでよぉ!!!!」
「……」
泣き叫ぶ少女に背を向け、ツルギは立ち去る。
次の戦いへ、赴くために。
少女はその背にずっと罵声を浴びせていたが、ミラーワールドから姿を消した。
キョウカにより、現実世界へと送り返されたのだ。
「燐君……」
ピアースはその様を見つめていたが、自分もまた味方に加勢しなければとユニコブースターを操り仲間の元へと駆けていった。
ピアース達の登場により、七人ライダー達は劣勢に立たされていた。
既に一人は敗北し、押し返されていた。
「こうなったら……」
黄色のライダーがカードを切る。
【ADVENT】
黄色のライダーの契約モンスターである巨大な狐型のモンスターが現れる。
それを合図に他の五人は黄色のライダーの元へ集まりアドベントを使用。
契約モンスターが召喚されていく。
槍のライダーのモンスターはカジキマグロのようなモンスター。
細剣のライダーのモンスターは蝶。
斧のライダーはバッファローのようなモンスターを。
銃のライダーは狼のようなモンスター。
クロスボウのライダーは雉のようなモンスター。
六体のモンスターが揃ったところで、黄色のライダーが更にカードを使用する。
【UNITE VENT】
「なに……?」
初めて見るカードに困惑するアイズ。
ユナイトベント。
それは、複数のモンスターを融合する効果を持つカード。
六体のモンスターが融合し、進化を遂げる────。
「さあ出でよ、六獣合神ジェネシス・ノヴァ……!」
現れたのは灰色の巨大なケンタウロスのような姿のモンスター。
六対の腕を持ち、それぞれの手に武器を装備していた。
「なにあれ!? ろくじゅうがっしんとか言ってたけど!?」
「六体のモンスターを融合させて一体のモンスターに……。そんなことが出来るなんて……」
「ゆ、融合なんてしたら……すごい強いってことですよね!?」
「うーん。ロマンの塊……なんて言ってる場合じゃなさそうだ」
『■■■■■──────!』
恐ろしい咆哮を上げたジェネシス・ノヴァ。
すると、天から炎を纏った隕石が降り注ぎ、アイズ達を狙う。
「回避して!」
空を飛ぶアイズが地上のグリム達に叫ぶ。
あんなもの、当たれば即死。
並のライダーのファイナルベント以上の火力を何発も簡単に放つジェネシス・ノヴァは現状、最強のモンスターである。
遊園地は一気に無数のクレーターと化した。
「あはは! 強いライダーが何人いたってユナイトベントが無ければジェネシス・ノヴァには勝てない!」
「……まったく、その通りね……!」
「こ、ここから逃げた方が!」
「逃げれればね! 近くに鏡がないの!」
隕石により、鏡となるものはすぐ手近な場所にはなくなってしまった。
完全に、アイズ達は窮地に陥ってしまったのだ。
「どうすれば……どうすれば……!」
この状況を打開する策を必死に考える。
だが、あの融合したモンスターに対抗する術は自分にはないと諦めかける。
だが、白き切り札がいる。
「────モンスターが合体しているなら、纏めて吹き飛ばす好機ッ!」
【SURVIVE】
爆炎巻き起こる中、嵐が巻き起こりツルギサバイブが顕現する。
マフラーが靡き、ジェネシス・ノヴァへと真っ直ぐ歩を進める。
「燐ッ!」
「たった一人で、姿を変えたところで何が出来る! ジェネシス・ノヴァは最強!」
黄色のライダーが高らかに謳う。
自分達のモンスターこそ最強であると。
ならば、最強の姿となった最強のライダーがそれに挑むと。
ツルギは歩みを止めることはなく、カードを切る。
【TIME VENT】
「未来超越────」
降り注ぐ隕石。
爆炎がツルギを包み込む。
だが、既にツルギから敗北の二文字は斬り捨てられている。
どれだけ、隕石が降り注ごうとツルギサバイブには当たることはなく────。
どれだけ、ジェネシス・ノヴァがその手の武器を用いても、ツルギサバイブには届かない────。
風の力で空へと舞い上がったツルギサバイブは、ジェネシス・ノヴァの刃を弾き懐へと入ると、スラッシュバイザーツバイに風の刃を纏わせ、ジェネシス・ノヴァの左肩から袈裟懸けに切り裂く。
『■■■■■■■────!?!?』
悲痛な叫びを上げるジェネシス・ノヴァの姿は、敵ライダー達には信じられない光景であった。
この力があれば、勝てるとそう言われていたからだ。
「あ、あいつを止めて!」
黄色のライダーが他五人に命令し、五人のライダーがツルギサバイブへと迫る。
「やらせない!」
燐がモンスターの相手をしてくれている。
ならば、私は燐の邪魔をさせないとアイズが五人のライダーの前に立ちはだかる。
それに続き、グリム達も加勢する。
「くぅぅぅ……! こうなったらまとめて消し飛ばしてやる!」
【FINAL VENT】
ジェネシス・ノヴァの全ての腕が胸の前に集まり、膨大なエネルギーを収束。光球を形成し、発射態勢を整えていく。
「────何をしようと、無駄だ。お前の未来は斬り捨てた」
【FINAL VENT】
飛来するドラグスラッシャーがドラグブレイダーとなり地に降り立つ。ジェネシス・ノヴァと向かい合い、風と斬の力を高めていく。
『■■■■■■──────!!!!!!!』
ジェネシス・ノヴァの咆哮と共に紅い熱線、ジェネシス・レイが放たれる。
「はぁぁぁ……ぜあぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
迎え撃つは斬撃の白き嵐、ドラグブレイドホワイトストーム。
二つの力が衝突し、拮抗する。
その余波が、ライダー達を襲う。
「くっ……ひ、一人のライダーの力でどうにか出来るモンスターじゃない!」
「燐……!」
「……ッ! ぜあぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
裂帛の気合と共に、斬の嵐の勢いが増す。
それは、ジェネシス・レイをも飲み込んで己が力へと変えていく。
紅を含んだ白き嵐が、ジェネシス・ノヴァを切り裂いた。
「■■■■────」
巨大な火柱を上げ、獣の集合体は散る。
六つのエネルギー体が空に浮かび、ドラグブレイダーはそれを捕食し天へと消えていった。
ライダー達は無彩色となり、力を失う。
モンスターと契約しているライダーと、そうでないライダーのスペック差は大きい。
六人のライダーは、取り押さえられ現実世界へと連れ戻された。
デッキは回収され、少女達はライダーの資格を失ったのだった。
建物の影から、あいつらが敗北しデッキを取り上げられるところを監視していた。
みっともなく泣き叫び、恨みの言葉を吐く様は無様としか言い様がない。
「それでも、感謝はしておくよ。仕事は果たしてくれたからね。ツルギをあの姿にしてくれた……」
少女、黒峰樹はそれだけ言ってその場を後にした。
人で賑わう遊園地の中にその姿を消して────。
「はぁ……せっかくの遊園地だったのになー……」
帰り道、変に疲れた様子で帰る六人。
あんなことがあってはもう遊ぶ気分になどなれない。
「すいません僕のせいで……」
「燐のせいじゃない。悪いのは向こうよ」
「そうそう。また来よう、全部終わったらさ」
全部終わったら。
全部とは何かと、燐は己に説いた。
全部、とは。
全部とは、自分以外のライダーはいなくなること。
ライダーバトルは行わせず、ミラーワールドを閉じる方法を模索し、人々をモンスターから守り続けること。
仲間がいると言ってはくれた。
しかし、ミラーワールドを開いてしまった業は自分が背負うべきなのだと。
その業によってライダーになってしまった人々は救わなければいけない。
そうであるならば……。
仲間も、恋人も己から────。
「燐?」
「あ……」
「どこか怪我でもしたの? 大丈夫?」
「だ、大丈夫です。ちょっと、考え事してただけで……」
「そう? なら、いいけど……」
大丈夫だと、笑顔を作った燐だったが、その笑顔はどこか寂しさと哀しみを帯びたものであった。
遊園地騒動から三日後。
学校が再開され、久しぶりに登校。
美玲先輩と一緒に家を出たところを、美玲先輩のクラスメイトに目撃されるというアクシデントはありつつも、いつも通りの学校だ。
ぼんやりとホームルームが始まるのを待っていると、おはようと声をかけられたので返事をする。
相手は乃愛さんであった。
「おはよう乃愛さん。久しぶり」
「確かに、お久しぶりって感じ。ちゃんと女装の練習してた?」
うっ……。
そういえば、すっかり女装のこと忘れてた……。
「その感じ、やってないね。今日からまたみっちりやってくから、覚悟して」
「どうか、勘弁してください……!」
こっちはミラーワールドのことで忙しいのだと思いつつ懇願していると、乃愛さんが隣の席にカバンを下ろし席に座った。
「……あれ、乃愛さんって隣の席だったっけ?」
「はあ? いくら休校してたからって隣の席が誰か忘れるぅ?」
……あれ?
あれ、どうしたのだろう。
確かに、乃愛さんは隣の席だった気がする。
けど、拭いきれない違和感があって……。
ここに、ここにいたのは……。
「鏡華、さん……?」
「おい燐! お前咲洲先輩と付き合ってるってマジか!?」
「うわっ!?」
突然、背後から肩をがっちり組まれて尋ねられた。
正司という奴で中学からの友人である。クラスは違うので最近あんまり話してなかったけど。
ちなみに正司はラグビー部なので、当然パワーが僕とはダンチ。
「痛たた……いきなりはよしてよ!」
「ごめんごめん! いやけどさー! 前に咲洲先輩にフラれた先輩から話聞いてさー! 本当か確かめに来たんだよ!」
「ちょいちょいマジ? 御剣が? 年上の彼女を?」
乃愛さんまで話に入ってきて、更には正司は声がでかいので教室中に響いてしまった。
興味ある人達が僕を取り囲み、あれこれ質問責めにされた。
平常を装い、質問には流れ作業のように答えた。
とにかく、いま思い出したことを僕は整理したかったのだ。
?+1ー40 変容する戦い
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ALTERー0 変容する戦い
『さあ、始めましょう。新たなるライダーバトルを……』
仮面ライダーツルギ
新章、開幕。
新たなる、もう1つのライダーバトル。
『本気が見たいの……』
「戦いは終わらない……。永遠に……!」
『多すぎる役者は減らしましょう』
「もう、誰も死なせたくないのに……!」
『痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い────!』
「瀬那……私、もうね……」
『貴女に価値はありません』
「お前は、戦うな」
『あたしは、また……!』
「あんたじゃ救えない!」
『私の目的?』
「私は人殺しなんです! 皆さんと一緒にいる資格なんて……」
『私が救って差し上げます……』
「私は、みんなを守るために戦う!」
『護り続けろ……』
「あなたが断ち切って……。私の、願いを……」
『私は、オルタナティブ・アリス! 旧きライダーの皆さん、さようなら』
「私は御剣燐に恋をした」
『私は御剣燐に愛を貰いました』
「────さよならです、美玲先輩」
次回 ALTERー1 もうひとつのライダーバトル
運命の叫び、願いの果てに────。
ADVENTCARD ARCHIVE
UNITE VENT
契約モンスターを融合させる効果を持ったカード。
融合したモンスターは並のモンスターを容易に凌ぐ力を得る。
ライダーは融合したことで生まれたモンスターのアドベントとファイナルベントのカードがデッキに追加される。
力を追い求めた果てにあるのは光か闇か。