仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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Versus Alternative
ALTERー1 もうひとつのライダーバトル


 ぞくり、ぞくりと背中に冷たい泥のようなものを垂らし落とされているかのような感覚であった。

 おかしいのは、僕か?

 それとも世界の方か?

 どくん、どくんと心臓の音が中でうるさい。

 世界は、時間は平常通りに流れていく。

 自分だけが流れに乗れなかったようだ。

 みんなは、気付いているのだろうか。

 いや、恐らく気付いていない。

 それもそうだ、みんなで遊園地に行った時に彼女がいないことがさも当然のようだった。

 なにより、僕がデッキを取り戻したあの夜から全てがおかしかった。

 彼女が住んでいた洋館は廃墟で、それが真実であった。

 であれば、彼女はなんだ。

 彼女は何者だ。

 キョウカさんはミラーワールドにいる。

 なら、こちらの世界にいた彼女は一体……。

 

「御剣」

「……! な、なに?」

 

 授業中、こそりと隣の席の乃愛さんが話しかけてきた。

 

「顔色やばいよ、どうした? 具合悪い?」

「あ……」

 

 そんなに、顔に出ていたのか。

 頬に触れると、うっすらと汗をかいていた。

 

「やばいなら早退したら」

 

 体調が悪いわけではない。

 ただ、この僕だけが気付いていることを解明する方が学校よりも優先順位が高い。

 教室の時計に目を向けるともうすぐ一限が終わる。

 

「……ありがとう。一限終わったら早退する」

「そ。先生には言っとくから」

「ありがとう……」

 

 一限終了の予鈴が鳴る。

 荷物を鞄に詰めて、学校を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 弛緩した雰囲気漂う午前の住宅地を歩く。

 朝の目覚め、通勤、通学の慌ただしい時間が終わって一息ついているような穏やかさの中にあって、一人悪寒に震えていた。

 身体の中心から末端にかけて冷気が流し込まれているような感覚。

 怖いのか。

 

「……怖い?」

 

 それはおかしいと、気付いた。

 おかしいというより、間違っているというか。

 

 何故、震える。

 

 震えるのは当然だ僕は気付いてしまったのだから、これまでいた彼女がいない。

 それも僕自身もさっきになって気が付いた彼女がいなくなっていたことに。

 これを恐怖せずどうする普通であればあり得ないことではないか。 

 

 普通?

 とっくに異常の只中にいるくせに。

 ミラーワールド、仮面ライダー。

 普通の高校生を謳っているが普通の高校生は変身して鏡の中の世界で戦うなんてことはしない。

 お前は異常なのだ普通でないことが起こった程度で恐怖するな。

 斬り捨てよ。

 その恐怖を。

 

 斬。

 頭の中でそんな音がした。

 身体が軽くなる。

 頭が醒める。

 胸が軽くなる。

 

 不思議と、先程まで感じていたものが無くなっていた。

 今なら落ち着いて色々考えることが出来るだろう。

 家に戻って、キョウカさんとこの事について話さなければ。

 学校からも離れたので、家へと向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、可愛らしい。

 私のことに気付いて恐怖に支配され脅える燐くんがとても愛らしい。

 私のことに気付いてくれたことがなにより嬉しい。

 私のことでいっぱいになってくれたことが本当に本当に嬉しい。

 それだけで発情してしまいます。

 それだけの愛が私にはあります。

 それだけ想っています。

 それだけしか私にはありません。

 

「けど、それを容易く斬り捨ててしまえる今の燐くんは可愛くありません」

 

 乾く唇を濡らす。

 ああ駄目だどうしても乾いてしまう渇いてしまう。

 濡れてしまいたいのに溺れてしまいたいのに。

 この身はいつだって貴方を求めているだけど貴方は行ってしまった逝ってしまった。

 間違いだった過ちだった私は誤ってしまった。

 ならば正すのが道理だ。

 悪いのは彼ではない私だ。

 私は私を否定する。

 私は私を訂正する。

 

 あの私にはそれは出来ない。

 この私にはそれが出来る。

 何故なら私は────。

 

『容赦とか、ないですから♪』

 

 彼が学校から出ていってくれたのは好都合。

 何かしらの理由をつけて彼を学校の外へと出すつもりではあったけれど私のことが気になり過ぎて自分から出ていってしまった。

 嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい。

 私に都合良く動いてくれるなんて愛を感じる愛でしかない。

 

 聖山高校敷地内へと足を踏み入れる。

 足下には私のモンスターが発した花粉の霧が流れる。

 鏡から現実の世界へと流れ込むそれはデッキを持たない人間にとっては毒となる。

 

 

 

 

 

 

 

 ミラーワールドの燐くんの部屋で一人、待ちぼうけする。

 燐くんの学校についていく気は湧かなかった。

 学校について行ったらきっと、余計に孤独を感じてしまうから。

 孤独なんて、なんともなかったのに。

 彼と出会って私は変わってしまった。

 孤独が怖くなった。

 寂しさを理解した。

 それと同時に、人の、彼の暖かさを知った。

 彼が私のところにやって来るのは夕方が多かった。

 学校が終わってから来るからだ。

 夜になると、彼は彼の家へと帰った。

 夜が嫌いになった。

 彼がいなくなってしまうから。

 朝も昼もちょっぴり嫌いだ。

 太陽が空高くあるのが憎かった。

 早く、沈んでいけばいいのにと願った。

 結局、私は待つということに慣れることが出来なかった。

 

『だから私は駄目な女……』

 

 暇潰しに本棚から無作為に選んだ本を読む。

 それによると、いい女とは待つことが出来る女だという。

 

『……いいや、きっと違いますよ。これ』

 

 男にしろ女にしろ、待たせるな。

 愛してるなら、ずっと一緒にいろ。

 そう思わずにはいられない。

 それに……。

 

『待つ女がいい女なら、私はめちゃくちゃいい女になってなきゃおかしいです』

 

 立ち上がり、燐くんのベッドに倒れ込む。

 燐くんの匂いはしない。

 だって、燐くんがミラーワールドのこのベッドで寝たわけではないから。

 そういった匂いは流石にミラーワールドには反映されない。

 だから、まあ、燐くんのベッドかもしれないが私のベッドになっていた。

 無為に時間が過ぎていく。

 私に出来ることは、何もない。

 やるべきことは、あるのに。

 一人でどうにか出来ることは、ない。

 燐くんは一緒に背負うと言ってくれたが、背負わせたくない。私の罪を。

 だから、一人でどうにかしたいのだが燐くんなしではほとんど何も出来ないのだ。

 それが、どうにも、嫌だ。

 ……瞼が重くなってきた。

 ベッドで横になっているせいだ。

 まあ、寝れば時間は過ぎるだろう……。

 ……。

 …………。

 ………………。

 

『容赦とか、ないですから♪』

 

『ッ!?』

 

 その声で一気に目が覚めた。

 私の声。

 だけど、私ではない者の声。

 なんだ、今のは。

 何かが、起きようとしている……!

 とにかく直感に従って、私は部屋を飛び出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家へと向かっている途中、とてつもない恐ろしい気配を感じた。

 それは、学校の方から。

 何かが、学校で起きている。

 それも、恐ろしいことが。

 踵を返し、さっきまで走ってきた道を戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 授業の合間の休み、クラスメイト達から追求を受けていた。燐とのことをだ。

 どうやら一緒に登校するところ、というか燐と一緒に家から出たところを見られたようで早速噂となってしまっていた。

 しかし、二限が始まり、教室は教師の説明と板書のコツコツといった音だけ。多少は、生徒の私語が聞こえてくるが。

 そんなものは気にせず、ノートにペンを走らせていく。

 

「ごほっごほっ」

 

 窓側の席の男子が咳をした。

 

「げほっげほっ」

 

 咳をした男子の隣の女子が咳をした。

 こういうものは連鎖するというか移るというか。

 一人が咳込んだので自分もといった感じだろう。

 乾燥してくる季節でもあるし、咳ぐらい普通だ。

 ……乾燥といえば、唇。  

 リップクリーム買っておかないと……。

 

「ごほっ! ごほっ!」

 

 思考がずれた瞬間、さっきの男子が激しく咳き込んだ。

 それを境に、次々とクラスメイト達が咳を……いや、咳どころではない。

 もはや、呼吸困難となっている!

 

「大丈夫!? どうしたの!?」

「く……苦しいよぉ……」

 

 地獄だった。

 私以外、みんな苦しんでいる。

 

「私は、なんともないのに……」

 

 自分にはまるで何もない。

 私だけがこうしていられるのは何故だ。

 

『ピンポンパンポーン』

 

 校内放送。

 ただ、こんな時に鳴るならサイレンのはずだ。

 なんでこんな間延びした、どこか楽しそうにしている耳障りな女の声がする。

 

『突然のことで驚いているライダーの皆さんこんにちはぁ。あれ、もしかしてまだおはようございますの時間? 私、これぐらいの時間だとどっちで挨拶したらいいか悩んじゃうんですよね~。とまあ前置きはこれぐらいにしておいて、ライダーの皆さんは校長室までお越しくださーい!』

 

「アリス……?」

 

 今のは、あの女の声だった。

 どういうことだ。

 燐と共に償うのではなかったのか。

 どういうこと……。

 ともかく、校長室に来いとあいつは行っていた。

 行かなければ、分からない。

 この惨状もあいつの仕業に違いない。

 こんなことをして、燐を裏切るような真似をしたというのなら私は……!

 乱暴に鞄を開けて、デッキを取り出す。

 契約モンスターを表す金色の鳥の紋章が輝いていた。

 私が平気なのは、これのおかげか……。

 

 廊下に出る。

 苦しみから逃れようと教室から這い出た生徒達が横たわっていた。

 息はあるようだ。

 しかし、いつまでもつのかは定かではない。

 本当に、あいつはなんのつもりでこんなことを……。

 

「咲洲さん!」

「北! 上谷さん、日下部さんも」

 

 北と上谷さんも校長室へ向かうようだった。

 北はわりかし平気そうだが、上谷さんは震えていた。

 

「何が、どうなっているんですか……!?」

「分からない。とにかく校長室に行きましょう」

「ああ。皆で行こう。何があるか分からないからね」

 

 北の言葉に賛成し、一年生の教室がある四階へと昇る。

 校長室があるのは一階なので遠ざかることにはなるが、燐と影守の二人と合流するのが優先だ。

 そして、四階へと来たはいいが……。

 

「美玲さん! みんな!」

「影守! 燐は!?」

「それが、教室に行ってもいなくて……。先に校長室に向かったのかも!」

 

 一人先走るのは、想像出来た。

 こうなれば急いで校長室に向かうまで。

 一階まで駆け降りて、校長室へ。

 扉の前には誰もいない。

 燐は先に入ったのだろうか。

 一度、全員と顔を見合わせて扉を開けた。

 

「黒峰さん……」

 

 影守が呟いたのが聞こえた。

 校長室には黒峰という女子と、生徒会副会長の佐竹と……。

 ぼうと柳の下の幽霊のように立つ彼女は確か、二年の氷梨……。

 ここにいる、ということはライダーということか……。

 背後で扉が開く音がした。

 燐……!

 

「ふぁ~……。屋上で昼寝してたら遅れちゃったけど、ライダー集めて何するのかな~? 殺し合いだよね~やっぱり~!」

 

 入室してきたのは、喜多村遊。

 不良生徒として有名な彼女であったが、登校はしてきていたのか……。

 

『はーい! 全員揃いましたね~!』

 

 ここにはいない少女の声が響く。

 少女は、トロフィーが飾られているショーケースの鏡の中にいた。

 だが、それよりも今の言葉。

 全員揃ったと言った。

 それはおかしい。

 だって、燐がいない。

 

「アリス! あなたライダーバトルはやめるんじゃなかったの!?」

 

 影守が鏡に向かって叫ぶ。

 それも、確かめたかったことだ。

 

『それは~違う私の方ですよ~。ライダーバトルについては古いアリスが放棄したものを私が引き継ぎ色々とリニューアルしました~』

 

「古い、アリス……? どういうこと……」

「私達にデッキを授けたアリスと君は違うというのか?」

 

 日下部さんと北の問いかけにアリスが答える。

 

『ええ、違うアリスですよ。古いアリスは私と比べたらスペックが落ちる型落ち。私のことはアリスRXとでも新しいアリス、新アリスにシン・アリス、アリス2世、帰ってきたアリスとかなんとでも呼んでくださいな♪ あと、まああっちとは違うことを証明するならば……。よいしょっと』

 

「!?」

 

 みんなが驚いた。

 だって、そのアリスは鏡の中から出てきたのだから。

 

「どうです? これで私が違うアリスと理解しましたか?」

 

 校長が座る椅子に深く腰掛け、嫌な笑みを浮かべながらアリスは言う。 

 外見も、性格というか中身も一緒。

 なのに、違う。

 こいつは、アリスではない。

 

「何者よ、あなた」

「何者でしょうか。貴女には最期の時に教えてあげます♥️ な~んて! あはは!」

 

 こいつ……!

 

「と、とにかく! 今のこの状況はあなたのせいなの!?」

「ええ、そうですよ影守美也」

「なんのためにこんな……! 関係ない人まで巻き込んで!」

「関係ない人が巻き込まれたのが、これが初めてだとでも?」

 

 アリスのその言葉は影守の胸を貫くのに充分すぎた。

 息を飲む声が、聞こえた。

 

「これまでも多くの人が巻き込まれています。まあ、規模の大小を問うなら確かにこれはトップクラスですが。巻き込まれてしまった聖山高校の生徒、職員方にはこれまで被害にあわれた方と同じように哀れみをどうぞ。それとも貴女は被害規模が大きくなければ正義の怒りに燃えることは出来ないのですか?」

 

 よく煽る。

 こちらを見下すその目、本当に気に入らない。

 

「話が逸れました。今回、皆さんをお呼びしたのは他でもありません。皆さんにテストプレイをしていただきたいのです」

「テストプレイ?」

「ええ、そうです。新しいライダーバトルのテストプレイ。喜んでくださいな。リリース前の新作ゲームを遊べるなんて、そうそうない機会ですよ」

「ふざけないで! 誰がライダーバトルなんか!」

「やらなきゃ、聖山高校の全校生徒およそ840人と職員43人、その他来客等含む15人の命は失われます」

「なっ!?」

 

 それは、影守や北を黙らせるのには充分過ぎた。

 ざっと900人の命がお前にかかっているのだと。

 ……悩むな、影守。

 

「……分かった。乗ってやるわよ、あんたのゲームに」

「美玲さん……!」

「ふふ、ありがとうございます。流石、判断が早いですね美玲ちゃんは」

「どうでもいい。さっさと始めなさい」

「あら、美玲ちゃんはゲームの説明書読まなかったりチュートリアルは飛ばすタイプですか? 私は説明書のどうでもよさそうなキャラの設定とか小ネタとかまで読み尽くすタイプです」

「説明なんていらないでしょ。これまでと同じように戦えってだけでしょどうせ」

「違いますよ。私は、新しいライダーバトルだと言ったはずです」

 

 アリスは細長い指を鳴らす。

 次の瞬間、私は理科室にいた。

 向き合うように佐竹もいる。

 校長室から飛ばされた?

 それに、時計や貼ってあるポスターから見るにミラーワールドのようだ。

 

『さあ皆さん、それぞれのフィールドに到着していますね。それでは手早くルールを説明します』

 

『ひとつ、戦いの場はそのフィールドの中だけです。違う場所には移動出来ません。扉も窓も開かず、壁を壊すことも不可能です』

 

『ふたつ、この戦いは一対一で行われます』

 

『みっつ、制限時間はこれまでと同じく10分間。10分を過ぎると消滅します』

 

『よっつ、フィールドから出られるのは勝者のみ。敗者は死ぬしかありません。引き分けの場合は先程申し上げたとおりタイムオーバーによる消滅が待っています。出たければ、相手を殺すしかありません』

 

 なに、このルールは……。

 

「そういうことだから咲洲さん。殺すわね」

 

 呆然とする私に、同じくここに転移させられた佐竹が言った。

 そして、彼女がデッキを掲げる。

 だが、そのデッキは私達のそれとは細部が異なっていた。

 なにより、巻かれたベルトがまるで違う。

 私達のものよりも武骨な銀色のベルト。

 

「変身」

 

 バックルにデッキが装填される。

 佐竹が変身したその姿は私達の変身するライダーとはデザインの毛色が違う。

 黒を基調とし、各部は赤紫に塗装された人型。

 多くのライダーが騎士のような姿をしているのに対し、これから感じたのは強い人工物感とか工業的な出で立ち。

 現代的で、漫画とかに出てくるようなパワードスーツのようだ。

 それでいて、こいつは……。

 

「吼帝に似ている……?」

「ハッ! 嫌な奴のこと思い出させんなよ! 元々、あいつのデッキは私のだったんだ!」

 

 殴りかかってくる佐竹。

 私も、変身しなければ。

 大振りの拳は避けるに容易く、脇の下を通るようにして背後に回りながらベルトを呼び出し、変身。

 

「変身!」

 

 アイズとなり、佐竹と向き合う。

 

「私はオルタナティブ! オルタナティブ・エンプレス!」

「オルタナティブ……?」

「もうひとつのライダーシステム。旧いライダーを駆逐する、ライダーバトルを支配する女帝!」

 

 重い机が蹴り飛んでくる。

 とんだ、パワー型……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 図書室には、私と黒峰さんの二人きりだった。

 

「前にもさ、図書室で戦ったよね。邪魔が入ったけど」

 

 射澄さん……。

 

「あんた、戦えるの?」

「え……」

「ここから出るには、勝つしかない。引き分け、負けは消滅。あんた、戦いを止めるとか言ってたけどさ……もう、無理だよ。────変身」

「ッ! 変身!」

 

 深緑の影が迫る。

 直刀の斬撃をバイザーでもある籠手で受け止める。

 

「くっ……」

「戦いを止めるって前提は、自分が生き残らなきゃでしょ。けど、今は勝たなきゃ……相手を殺さなきゃ自分が死ぬ。だからあんたは……あたしを殺さなきゃいけない!」

「それ、は……」

「殺せる? あたしを。あたしはあんたを……殺せる!」

 

【SWORD VENT】

 

 巨大な手裏剣が召喚され、斬りかかる。

 とにかく素手はまずいとこちらもカードを切る。

 小ぶりなチェーンソーのような双剣を召喚し、攻撃を受けていく。

 ……だけど、どうする。

 どうすればいい。

 どうすれば、私は……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「広いねー体育館は!」

 

 大きな声が木霊する。

 二人きりの体育館は北さんの言うとおり広すぎる。

 けど、そんなことを言っている場合ではない。

 

「どうするんですか! 私達、どちらかしか出られないし二人揃って死んじゃうかもしれないなんて!」

「まあ落ち着きたまえ上谷さん。まずは落ち着くことだ。あと、ここはミラーワールドだから変身しておいた方がいいね、うん。変身」

 

 北さんが変身したのを見て、私も変身する。

 けど、変身したところで状況は変わらない。

 

「大丈夫だ安心したまえ」

「なんでそんな堂々としていられるんですか……?」

「信じているからだよ」

「信じてる……? なにを、ですか……?」

「なんとかなることをさ!」

 

 呆れた。

 呆れてものが言えない。

 そんなの、希望的観測が過ぎる……!

 

「これまでもなんとかなっただろう。まあ、大体なんとかするのは燐ちゃんなんだけど。うん、だから信じるのは燐ちゃんをだ」

「けど、御剣くんはここには……」

「上谷さんも知っているだろう? 主役は遅れてやってくる! ……彼は、ヒーローなんだ。だから、きっとこの状況をなんとかしてくれるはず。とはいえ、彼に頼りきりになるのは良くない。とても良くない。だから、いま出来ることをやろう。壁を壊したりするのは不可能とは言ったがもしかしたら壊せるかもしれないしね!」

 

 そう言って北さんは武器を召喚し、体育館の壁を殴り付けた。

 私も、いま出来ることを……。

 けど、本当にそれを信じていいの……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 音楽室の象徴とも言えるピアノに、氷梨麗美が変身する仮面ライダーウィドゥが投げつけられた。

 心豊かにする音楽を奏でる場は、破壊と打撃の音で満ち溢れてしまっていた。

 

「痛い……痛いよ……!」

「当然だろう痛いのは!」

 

 喜多村遊が変身する仮面ライダーレイダーはパワーにおいて最高峰の戦士。

 その豪腕で殴られ続けるウィドゥは早々にリタイアするかと思われた。

 だが、ウィドゥは、氷梨麗美は違うのだ。

 

「痛い……! 嬉しい……!」

 

 仮面の下、麗美の顔は蕩けていた。

 歓喜、快楽、絶頂。

 久しく、こんな快楽を、愛を麗美は感じていなかった。

 樋知十羽子という少女の言う愛が愛なのか探るために共に行動していた麗美はその間、言ってしまえば禁制、禁欲していたようなものであった。

 痛みを味合わせてくれる人は自身のことを愛してくれる人。

 愛してもらったのなら、その分は愛を返さなければならない。

 愛し合わなければいけない。

 

 ウィドゥの黒い爪がレイダーの胸部装甲を走る。

 だが、高い防御力を誇るレイダーには大したダメージにはならない。

 つまりは、自分が受けた分の痛みはレイダーに与えられなかったということ。

 

「愛し合ってくれるのね、もっと……! 嬉しいね瑠美。ねえ、そうだよね瑠美。これが愛だよやっぱり私達間違ってなかった」

『……愛……あい、アイ、愛、愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛!!!!!!! そうだよねぇ麗美! やっぱりそうだよねぇ!』

「『いっぱい愛し愛されよう瑠美/麗美!!!!!』」

 

 かつて、仮面ライダーアイズ/咲洲美玲に言われた言葉によって存在が揺らいでしまっていたもう一つの人格、瑠美が蘇る。

 

「アタシ達が愛してあげる!!!!!」

「……最近、戦う相手の運がないなーって思ってたけど、今日が一番かも。でもいっか、殴り合おうぜ」

 

 壮絶なインファイト。

 零距離での拳と爪の打ち合いが、始まる。

 

 

 

 

 

 

「相手はどこ……」

 

 校長室前の廊下に出ていた。

 アリスのルール説明は聞いていたが相手がいない。

 そもそも、集まったライダー達は9人。

 奇数では、一人余る。

 ということは……。

 

『はーい。日下部伊織ちゃんは今回は対戦相手が残念ながらおりません。ごめんなさぁい。私が代わりをやってもいいんだけど、手加減しても絶対に伊織ちゃんを殺しちゃうので、今回はミニゲームをやってもらいまーす!』

 

「ミニゲーム……?」

 

『ルールは簡単! 現在、この校舎にはモンスターに襲われても抵抗なんて出来ないとってもとっても狩りやすい人間がたっくさんいます。そんなわけで、今すごいモンスターが集まってきてるので~伊織ちゃんには、人間を守ってもらいまぁす! 頑張って犠牲者を出さないようにね!』

 

 健闘を祈りまぁすとルール説明が終わる。

 モンスターからみんなを守る……。

 それであれば、私にだって……。

 

『ァ……ァァァ……』

 

 廊下の先、白い人影が何かを引き摺っていた。

 あれは……。

 

「モンスター! くっ……変身!」

 

 仮面ライダーピアースへと変身して、駆ける。

 だが。

 

『ァァァ……!』

 

 ぐしゃっという音がした。

 首だった。

 動脈が裂けて、真っ赤な血がどばどばとながれている。

 

『いーち。にー、さーん、しー、ごー……』

 

 アリスが数を数えていく。

 まって、まって、まってまってまって。

 いま、数えるものはなに?

 時間?

 時間であってくれ、でもちがうカウントがはやい。

 だから、これは、きっと。

 

『さんじゅうさん、し、ごろく……あーもう追い付かない。ほら、急がないと、みんな食べられちゃいますよ』

 

「あ、ああ……!」

 

 むり、だよ。

 そんな、だってがっこうはひろいんだよ。

 わたしひとりでまもりきれるわけがない。

 

『ァァァァ……』

 

 たべかた、きたない。

 くちをまっかによごして、くいちらかして、あちこちにこぼして、たべられないほねはてきとうになげすてられている。

 

「ぁ……いやぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校の前についた。

 急いで入ろうとした。

 なのに……なんだよ、これ。

 透明なバリアのようなものに覆われている。

 中に入ることが出来ない。

 

『燐くん!』

 

「キョウカさん!」

 

 近くのカーブミラーの中にキョウカさんがいた。

 どうやら、キョウカさんも何かに気付いて駆けつけたようだ。

 

「キョウカさん! なにかバリアみたいなのがあって学校に入れないんだ!」

 

『こっちもです! 中の様子もまったく分からなくて……』

 

 一体、何が起きてるんだ……?

 

 ふと、気付いた。

 こちらに向かって歩いてくる人影。

 長い黒髪、真っ黒なドレス。

 見覚えが、あった。

 けれど、彼女がこちらの世界にいるということは……。

 

「会いに来てくれたんですね、燐くん。いえ、御剣くんって呼んだ方が馴染みあったりします?」

「君、は……」

「宮原鏡華。あなたのクラスメイト。隣の席でしたね。ふふ、とっても楽しかったですよ、青春って感じで。けど、ああ……記憶がなくなったのは残念。今からもう一度やり直したいぐらいです」

 

 やっぱり、このキョウカさんはこちらの世界にいた宮原鏡華、なのか。

 それよりも、だ。

 

「何をしているんだ、学校で」

「燐くんには関係ないことですよ」

 

 可憐な笑顔で、そう突っぱねられた。

 

「関係ないなんてことない。僕も仮面ライダーだ」

「確かに、貴方は仮面ライダーです。ですが、仮面ライダーツルギ/御剣燐は私のライダーバトルの参加者ではありません。もっと言うなら、前のライダーバトルの参加者ですらない。貴方は原初の仮面ライダー。ライダーバトルなんて穢れた遊戯が始まる前に誕生した由緒正しい人類の自由と平和のために戦った仮面ライダー! ああ忌々しい! なんで、なんでなんで燐くんがそんなものにならなくちゃいけなかった!!!」

 

 彼女は頭を激しくかきむしった。

 美しい髪が乱れる。

 それは、僕の目に恐ろしく映った。

 出来のいいホラー映画の怪異のようであった。

 

「ああ、燐くん。貴方はなぜ仮面ライダーなの?」

「……罪を贖うため、仮面ライダーになった」

「罪? 私との出会いは罪だったんですか? 誰がそれを罪と出来るのです? 誰がそれを裁けるのです?」

「……君との出会いが罪ってわけじゃ……」

「ミラーワールドとこちらの世界を繋いでしまった。それを罪と言っているのでしょう、燐くんは。それはつまり私との出会いが罪ということと変わらないのでは?」

「それ、は……」

「私と出会うには罪を犯さなければならなかった。ふふ、あはは! そうですか燐くんは罰として仮面ライダーになったんですね! 私と出会った責任を取った! 私との出会いから燐くんは逃げずに向き合った! ああ、ああ、あああ─────ッ!!!!」

 

 彼女の身体がビクン、ビクンと跳ねた。

 

「あは……絶頂しちゃいました……。燐くんからの愛を感じて……」

 

 汗ばみ、紅くなった頬と荒い息遣いは扇情的ではあった。

 とにかく意味不明ということさえなければ男を興奮させるのに必要充分過ぎる。

 

『燐くん! そちらで何が起こっているんですか!? 燐くん!』

 

「……ああ、腹立たしい声。私と言えど燐くんとの逢瀬を邪魔する奴は許しません。まあ、もとよりこっちの私は殺すつもりでしたが」

 

 見慣れないデッキを手にした彼女の標的はキョウカさんであることは自明の理。

 こいつは、ヤバい。

 キョウカさんと戦わせるわけにはいかない。

 デッキをポケットから取り出し……!?

 

「これ、は……」

 

 足下に、黒い水溜まりのようなものがあった。

 それは、彼女の影が伸びたものであった。

 どんどん沈んでいっている。

 変身しないとまずい!

 だが、遅かった。

 黒い触手のようなものが伸びて、腕を拘束する。

 沈下はどんどん早くなっている。

 もう、胸元まで来て……。

 彼女が、見下ろしていた。

 

「燐くん。私は願いを叶えます。貴方が幸福にいられる世界を叶えます。だから、それまでは大人しくしていてもらえますか。大丈夫です、この下で貴方は眠り続けるだけですから、それではおやすみなさい燐くん」

 

 彼女が言い終わると同時に、僕は完全に黒の中に沈んでしまった。

 どうすることも出来ずに、何がどうなっているかも分からずに……。

 意識が……。

 …………………………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『燐くん! 燐くん!』

 

 呼び掛けても、返事はない。

 途中からあちらの世界にノイズがかかって様子を伺い知ることが出来なかった。

 

『どう、すれば……』

『どうも出来ませんよ、貴女では』

『誰!? ッ!? ……なん、ですか、貴女は……』

 

 振り返る。

 そこには、私がいた。

 正真正銘、私。

 

『私は宮原鏡華。新たなアリス』

『新たなアリス……! ふざけないで、私はもうライダーバトルは終わらせると!』

『はい。貴女のライダーバトルは失敗に終わりました。みっともなく何度も繰り返した挙げ句にこの結果。改心しましたみたいなの、売れませんよ今時。改心したとして、死ぬしか貴女にはありませんから。けれど、私は違います。私は改心なんてしません。私は私の願いを貫く。だから、安心してください。貴女の全てを私が引き継ぎますから。私は貴女と違って、失敗しませんでしたから』

 

 こいつ、何を言って……。

 見慣れないデッキが突き出される。

 なに、あのデッキは……。

 

『変身』

 

 それは、私の知る仮面ライダーではなかった。

 けれど、私が変身する仮面ライダーブロッサムに似ていた。

 

『────オルタナティブ・アリス。あまり、この名は好きじゃないんですけどね』

 

 黒を基調とし、スマートに纏められたスーツ、アーマー。

 左腕にはバイザーと思われる銀色の機具。

 もうひとつのライダーシステムが、牙を剥く────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒い、黒い、黒い。

 暗いのではなく、黒い。

 水の中にいるように、黒の中を漂っている。

 寒くもなく、暑くもなく。

 快適とすら言えた。

 安心感をも覚えてしまう。

 だが、それはいけないと踏ん張る。

 理性が否定する、本能で拒絶する。

 戻らなければ、戻らなければ、戻らなければ。

 そうしなければ、大切な人達が……。

 だが、無駄であった。

 もはや、時間の感覚もない。

 どこにいるのか、自分の身体はあるのか。

 黒の中に溶けてしまったようだった。

 御剣燐は、消失しつつあった。




次回 仮面ライダーツルギ

『同じだなんて思いたくないのはこっちもです……!』

「大丈夫、覚悟は決まってるわ……」

「そうまでして、願いを叶えたいの?」

「『変身』」

「起きないと、仲間が死ぬけど、いいの?」

運命の叫び、願いの果てに────。


ADVENTCARD ARCHIVE
TIME VENT(仮面ライダーツルギサバイブ)
未来超越

未来とは枝葉のように広がる無数の可能性の中から選ばれ、いずれ至るひとつの可能性だったもの。
未来超越はその未来へと至る"可能性"の全てを閲覧し、敗北の未来を切り捨てる力。
即ち、必ず勝つ未来へと至るということ。
だが、その勝利が望まぬ勝利の場合もある。
何より、勝利の先にあるものは新たな戦い。
未来超越は終わらぬ戦いを御剣燐に見せつける。

未来を切り捨てていった先にあるものは本当に勝利?
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