仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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ALTERー2 オルタナティブ

【SWING VENT】

 

 左腕の肘から先を覆う銀一色の機械的なバイザーにカードが読み込まれる。

 電子音声は女の声となっていた。

 カードは青い炎に消え、召喚されたのは黒い茨の鞭。

 

『くっ……!』

 

 鞭は振るわれるのではなく、放たれた。

 一直線に私を貫こうと迫る。

 けど、こんなところで死んではいられない。

 

『変身!』

 

 仮面ライダーブロッサムへと変身し、鞭に貫かれる。

 その身は花弁に。

 回避し、もう一人の私の背後へと瞬間移動して……!

 背後からの攻撃にはそう反応出来るものではない。

 だというのに、もう一人の私の裏拳が仮面を打った。

 

『ぐっ!』

『甘すぎです。甘すぎ。よくその攻撃を私にしようと思いましたね、私。考え甘すぎ浅すぎです』

 

 鞭が宙を走る。

 二撃、胸部にバツを描くようにして打ち付けられる。

 

『キャアッ!?』

『本当に同じ私なんですか? それで? 弱いし、何度もライダーバトルを繰り返すし。しかも燐くんと一緒に罪を償うとかほざいてるんでしょう? ありえません。同じ私と思いたくありません』

 

 ライダーとしての姿は違えど、その顔、身体は確実に自分と同じだと理解している。

 ただ、違う。

 ライダーシステムの性能の差?

 確かに、通常のライダーよりも高い出力である。

 サバイブと同等に近い、脅威的な存在だ。

 ただ、それ以上にこの自分とあの自分の決定的な違いがある。

 それが、分からない。

 

『同じだなんて思いたくないのはこっちもです……!』

 

 言われっぱなしは癪に触る。 

 私も結構あれこれ言ってきたがこいつの方が私より性格が悪そうだ。

 少なくとも自分の方がお前よりマシだと思いたい。

 どんぐりの背比べだとしても、爪の先分ぐらいは、自分の方が何かしら上だと思いたい。

 

『はあ、いいんですかそんなこと言って。いずれ私に感謝することになるんですよ、私』

『感謝?』

『ええ。ライダーバトルを失敗させた私に代わって、この私が新たなライダーバトルを管理します。そして私が勝って燐くんを手に入れる。ね? 私の願いが叶うんですよ。私に叶えられなかった願いを私が叶えるんです。嬉しいでしょう、私』

 

 こいつは……!

 

『自分は願いを断ち切ったとでも思っていましたか? そんなことはありません。願いに未練たらたら。常に心のどこかで燐くんを手に入れたいと思ってますよね。私なんですから』

『違う!』

 

 殴りかかる。

 だが、容易く拳はもう一人の私の手の中に。

 

『もう、私は私に敵わないの理解してください。いや、理解してますけど私のことだから認めたくないだけですよね。醜いったらありゃしない。こんなのを取り込まないといけない私の身にもなってくださいな』

『取り込……ッ!?』

 

 受け止められた拳が、もう一人の私の中に沈んでいく。

 抜こうとしても、びくともしない。

 これは、なに。

 

『お前は……一体なんなんですか!?』

『もう、察しが悪いですね。私は、私の数ある可能性の中の一人』

『か、可能性……?』

『私は、ライダーバトルに勝利した私です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 狭い室内、得意の弓は使えない。

 矢を番えている間に間合を詰められる。

 だから剣を使わざるを得ない。

 ただ、相手……吼帝モドキは吼帝がそうであったように近距離に強いらしい。

 パワーもアイズより上。距離を取って戦うべきなのに、場所がそれを許さない。

 それにオルタナティブとかいうライダー、らしいけど。

 一体、なんなのこいつ。

 

「考え事してる場合か!」

 

 獅子の顔をした拳が殴りかかってくる。

 いやに、真っ直ぐすぎる。

 何か裏でもあるんじゃないかって思うぐらい。だけど、これは単に真っ直ぐなだけだ。

 避けやすい。

 タイミングを合わせ、右足を踏み出し軸として180度回転。

 佐竹の背後を取る。

 つんのめった佐竹のケツを蹴り飛ばす。

 ホルマリン漬けの標本や薬品が並ぶ棚に突っ込み、ガラス片や液体が散らばる。

 

「お前ぇぇぇ!!!!!」

「……あなた、結構激情家なのね」

 

 普段の佐竹は猫を被っていたようだ。

 こういう手合いは相手をするのに疲れる。

 ……殺さなければ、生き残れないというなら。

 

「大丈夫、覚悟は決まってるわ……」

 

 両手の剣を握り締める。

 デッキを手にした時から、私は覚悟を決めていた。

 ここまで、他のライダーを殺さずにいたことの方がきっと異端。

 私は、佐竹を殺す……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあッ!」

  

 壁を殴り付けること、もう何度目か。

 結果は変わらず、バリアに弾かれる北さんの姿。

 

「ぐっ……。流石に、心が折れそうだ」

「き、北さん……」

「けど、まだ試してない手段はある」

 

 デッキからカードを引き、左手のバイザーへと読み込ませた。

 

【ADVENT】

 

 ドスンと音を立てて体育館に現れたのは黄金の巨大なヘラクレスオオカブト(だったかな……?)のようなモンスター。

 

「いけ! プラチナムヘラクレス!」

 

『キィィィ!』

 

 ドスン、ドスンと工事現場で見るような大きなトラックだとかダンプカーを思わせる力強さで歩き出すモンスター。

 見た目以上のスピードがあり徐々に加速。

 凄まじい勢いでプラチナムヘラクレスは体育館の壁に突進した。

 普通であれば壁に大きな穴が開くだろう衝撃。

 しかし、それでもバリアは破られない。

 

「そんな……」

「まだまだ! いくよプラチナムヘラクレス!」

 

【FINAL VENT】

 

 右腕にプラチナムヘラクレスの角を象った手甲を装備して北さんはプラチナムヘラクレスの角へと飛び乗る。

 プラチナムヘラクレスが角を振るった勢いを利用し北さんが打ち出された。

 

「であぁぁぁぁ!!!!!」

 

 右腕の角が回転、唸る。

 つんざく金切り音。

 衝撃の余波を感じる。

 これは、もしかしたら……壊せる!

 

 だが、現実は甘くなかった。

 壁から放たれる電撃か北さんを襲った。

 

「あああああッ!!!」

「北さん!?」

 

 床に叩きつけられた北さんに駆け寄る。

 重厚な鎧のおかげでダメージは少なそう。

 

「ファイナルベントでも、ダメとはね……」

「あんまり無理したら駄目ですよ!」

 

 立ち上がる北さんを見て、そう言わずにはいられなかった。

 北さんはまた壁を殴り始める。

 絶対、破れっこないのに。

 北さんのファイナルベントでも駄目だった。

 私のデッキのカードなんて北さんと比べたら火力は低い。

 これで壁を壊すなんて無理だ。

 どうしよう、このままじゃ二人共死んじゃう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺せば、一人は助かる。

 

「あ……」

 

 そんな言葉が聞こえた。/その事実に気付いてしまった。

 

 いけない。

 そんなことは出来ない。

 北さんは仲間なのだから。

 

 仲間は殺せない。/見ず知らずの人間だったら殺してよかったの?

 

 あ……。

 あれは、事故だ。

 あれはアリスが仕込んだ罠だ私は悪くない悪いのはアリスなんだ全部あの女のせいなんだ。 

 今この状況だってそう!

 

 悪いのはアリス。/殺したのは上谷真央。

 

 悪いのはアリス。

 私は、悪くない。

 こんな状況になったのもアリスのせい。

 私がライダーバトルに参加したのもアリスのせい。

 そうだ、全部全部あいつが悪いんだ。

 全部、全部悪いのはあいつなんだ。

 だから。

 

【SWORD VENT】

 

 これも、全部。

 

 悪いのは、アリス。

 

「はっ! はっ! はあッ……!? ぁ……、かみ、や……さん……」

 

 重厚な鎧でも、隙間はある。

 北さんの腰に突き刺した剣から手を離すと、北さんは倒れて変身も解除される。

 

「し、仕方なかったんです……。だって、このままじゃ二人共死んじゃうって言うから……。こうするしか助からないんです!」

 

 二人共死ぬなんてことは避けられた。

 仕方ない。

 仕方ない犠牲なんだ。

 

 広がる血溜まり。

 北さんのものが足につきそうになって、後退る。

 その血が、北さんが伸ばした手のようで、だから。

 少しの間、呆けていると体育館を覆っていたバリアが崩れた。

 これで、外に出られる。

 私は、覚束ない足で逃げるようにミラーワールドを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モンスターをランスで貫く。

 払う。

 もう、無我夢中だった。

 モンスターから人間を守るどころじゃなかった。

 自分自身を守るので精一杯だった。

 

「いやっ! 来ないで!」

 

 私に群がるモンスターの後ろでは次々と誰かが食べられていっている。

 私も、同じように食べられる……?

 いや、いや。

 死にたくない。

 誰かを守るなんて私には出来ない。

 私には、私には……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 本棚の影の中を駆け抜ける気配。

 速い。

 こうして戦うのは二度目だが、やはり彼女、黒峰樹/仮面ライダー甲賀のスピードは脅威だ。

 忍者のような姿のとおり彼女は素早く、気配を消し、私の命を狙う。

 今、こうして感じている彼女の気配は囮のようなもの。

 私に緊張感を与え、それが最大まで高まり緊張の糸が弛んだ瞬間……来る!

 

「ッ! ここ!」

「チッ!」

 

 攻撃は左後方から。

 巨大な手裏剣が放たれたのを、チェーンソーのような刃を持つ双剣で弾く。

 得物を失った今が好機と甲賀に攻め寄る。

 甲賀は直刀型のバイザーを逆手に迎え撃つが、ここは私/仮面ライダーグリムの距離だ。

 すっかりツルギ、燐くんにお株を奪われてしまった感はあるがこの影守美也だって剣の道に生きていた!

 

「ハアッ!」

 

 まず、右手の剣が甲賀のバイザーとぶつかる。

 鍔競り合う、ことはない。

 左手に持つ剣で切り上げ、直刀を弾き、がら空きになった甲賀の身体を蹴り飛ばした。

 

「つうッ……!」

 

 長テーブルとパイプ椅子を巻き込みながら倒れた甲賀。

 ゆらりと立ち上がり埃を叩くような動きを見せた後、黒峰樹は私に話しかけてきた。

 

「……つよ。なに、願いを叶える気にでもなった?」

「これぐらいしないと、話もしてくれないでしょ」

「話? なんの」

「そうまでして、願いを叶えたいの?」

 

 甲賀がその言葉に反応した。

 願い。

 ライダーが例外なく持つもの。

 彼女の願いは、右腕を治すこと。

 かつて、天才と呼ばれたピアノの腕が彼女にはあった。

 そして私もかつては、剣道で神童なんて呼ばれていた。

 互いに、似通った時期に事故に合い、才を失った。

 だから、私は黒峰樹のことを知っていた。

 私と同じように事故で右腕に傷を負ったピアノの天才少女。

 彼女はその才を、取り戻すために戦っている。

 

「逆に聞くけど、あんたは叶えたくないの? あんたのその腕だって治せるかもしれないんだよ。それともまさか、今こうして剣を振るえていることで満足してたりするわけ? あんたは剣道の天才、だったもんね!」

「それは違う! 私は、ただ……」

 

 右手を握り締める。

 こうして戦えているのはライダーの力による補正のおかげである。

 そうでなければ、右腕の痛みに顔を歪ませることになる。

 

「私は、誰にも傷ついてほしくないだけ。だって、間違ってるでしょ……。誰かの命を犠牲にしてまで願いを叶えるなんて……。誰かの命を犠牲にするほどの価値は、この腕にはない!」

 

 そうだ、絶対にそうだ。

 この右腕にはそんな価値はない。

 神童と持て囃されていたとしても、才能があったとしても。

 誰かの命を犠牲にして治した腕で再び剣道に臨んだとしても、きっと剣を握る手からは血が流れ続けるだろう。

 

「────は? なに、言ってるの」

 

 甲賀の雰囲気が変わったのが分かった。 

 飄々としている彼女だが、今は怒りに溢れている。

 

「あんたは戻りたくないの? 天才だって周りが褒め称えてくれてさ……。なにより、大好きだったことをそう簡単に切り捨てられない!」

 

 大好きだったこと。

 その言葉が私をその場に縛りつけた。

 その隙に甲賀は間合に飛び込んでくる。

 鋭い斬撃が襲いかかる。

 

「くっ……!」

「前に言ったよね、あんた。アタシ達は同じだって。違う。違うよアタシ達は! アタシはまたピアノを弾くんだ! そのためならなんだって……!」

 

 言葉と共に横一閃。

 胸部に直撃する。

 衝撃と痛みが襲いかかり、よろけた私は本棚と共に倒れてしまった。

 

「まず、ここから出るにはどっちか死ななきゃいけない。アタシは死ねない。願いを叶えるために」

「ッ……。私、だって……」

 

 痛む身体に鞭を打ち、立ち上がる。

 

「私だって、死ねない。戦いを止めるために……。あなたに私を殺させないために!」

「ハッ。アタシはもう、誰かを殺してるんだ。今更殺すことに躊躇なんかしない!」

 

【TRICK VENT】

 

 甲賀の分身が現れ、一斉に襲いかかる。

 素早い甲賀がこの数、普通に窮地。

 これを乗り切るにはと左手のバイザーの挿入口を開く。

 

【TIDAL VENT】

 

 タイダルベント。

 タイダル、たしか……潮とかそんな感じの意味だったはずだ。

 その名のとおり、私を起点に波が打つ。

 前にテレビで見たが、30cmの高さの津波でも人は危ない。

 支えが無くては立っていることなど不可能だという。

 それは、いくらライダーとて同じこと。

 

「波ッ!?」

 

 波は無数の甲賀の足を取り、分身達はその姿を消した。

 残るは甲賀本人のみ。

 水浸しとなった床に倒れている。

 

「分身は消えたよ!」

「このッ!」

 

【CLEAR VENT】

 

 甲賀は次なるカードを切る。

 透明となり、姿を隠した。

 透明とはいえ実体はある。

 甲賀が駆けた場所は水が跳ねて教えてくれるが、途中から水はしんとした。

 水から出た?

 壁か天井に張り付きでもしたのか、水に動きがない。

 気配を消したつもりのようだ。

 だったら今度はこれだ。

 

【SQUALL VENT】

 

 スコールベント。

 室内だというのに、大雨が降りだす。

 そして、雨が透明となった甲賀の居場所を教えてくれた。

 カウンターの上。

 場所が判明したので即座に双剣を投擲。

 更に、流れるようにカードを切る。

 

【SWORD VENT】

 

 もう一枚のソードベント。

 私が契約している巨大なワニのようなモンスター『グランゲーター』の尻尾を模した剣『グランザッパー』を召喚。

 

「チッ!」

  

 弾かれる双剣。

 だが、本命はこっち。

 

「でえぇぇぇぇい!!!!!!!」

「しまっ……」

 

 斬!

 振り下ろされた剣の衝撃で水の柱が立ち上がる。

 派手に火花を散らした甲賀の鎧は砕け、黒峰樹が生身を晒した。

 スコールベントが降らす雨に濡れる彼女は膝から崩れ落ち、雨に打たれ続けた。

 

「……ははっ。流石、剣道の天才少女。アタシなんかより戦い慣れてるか」

「……いいから、ここから出る方法を探そう」

「は? なに甘いこと言ってるの。いいから殺せば? そうすれば出られるよ」

「二人でここを出るの! 私は誰も殺させない。あなただって……。だから!」

「……勝手にすれば? 言っておくけど、アタシを殺さないと時間が来たらあんたも消滅するんだからね。あと、後ろから斬りかかるかもよ?」

「そんなことさせないって言ってるでしょ馬鹿! ああもういいから黙ってて! 一人でやるから! あと斬りかかられても私のが強いんだから!」

 

 黒峰さんは手伝ってくれないので自分一人でなんとか出来ないか模索する。

 ……いや。

 

「一人じゃない……」

 

 そうだ、私は一人じゃない。

 仲間がいる。

 さっきはいなかったけど、いや、むしろいなかったからこそ彼、燐くんが切札になってくれる気がする。

 普通であることを自負しているけれど、彼はきっと特別だ。このライダーバトルという環境において。

 だから、彼の力が必要だ。

 戦いを止めるには。

 そして、彼の力を求める以上は私も頑張らなくてはいけない。

 

「やるぞ、影守美也!」

 

 とにかく、ここからの脱出を目標としてグランザッパーを力いっぱい振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 美しい音楽を奏でる場所であった音楽室に響くのは鋼とその奥の肉を打つ打撃音。暴力の音であった。

 主に、奏者は喜多村遊/仮面ライダーレイダー。

 打楽器のように拳を打ちつけられるのは氷梨麗美/仮面ライダーウィドゥ。

 

「あは、あははははッ!!!!」

 

 打撃音に歌が乗る。

 麗美の狂気染みた笑い声。

 殴られて、彼女は笑う。

 何故なら彼女にとって暴力とは、痛みとは、愛であるからだ。

 

「愛されてる!」

『ええ、愛を感じる!』

「『もっと私達を愛して!!!!!!』」

 

 どれだけ殴り飛ばしてもダウンせずに向かってくるウィドゥに最初こそ警戒したレイダーであったが、ここまで純粋に殴り合いが出来ることに歓喜していた。

 ここのところの戦いが不完全燃焼といった感じだったゆえにレイダーのテンションもまた上がっているのだ。

 

「いいよぉ! たっぷり私が殴って(愛して)あげるよぉ!!!!!」

 

 そうして二人は殴り合う(愛を育む)

 愛の言葉ではなく、愛の拳で語らって、二人は交わる。

 殴れば殴るだけウィドゥは愛を感じ、愛を返さずにはいられない。

 どれだけ殴られても、むしろ殴られれば殴られるだけやる気に満ちるウィドゥはレイダーにとっても良い相手であった。

 永遠に続けばいいのに。

 レイダーはそんなことすら思った。

 だが、時間には制限がある。

 ウィドゥの愛も絶頂を向かえる。

 レイダーの闘志も極限を越える。

 

 二人同時にデッキからカードを引き抜いた。

 そのカードは互いに、ファイナルベント。

 最大最高、必殺のカード。

 

 レイダーは左拳に装着しているメリケンサックのようなバイザーへ、ウィドゥは右肩に備わる蜘蛛型のバイザーから糸を引き、カードを糸の先端につけて手を離す。

 

【FINAL VENT】

 

 重なる必殺の宣告。

 本来はモンスターの助力を得て高い威力の技を放つのがファイナルベントであるが、音楽室という狭い空間ゆえにモンスターは現れない。 

 互いに右手に深緑と黒の闘気を纏い、放つ。

 レイダーの剛腕がウィドゥを屠るか、ウィドゥの鋭利な爪がレイダーを刺し貫くか。

 

 音楽室に轟音響く。

 吹き飛ぶ黒い影。ウィドゥが、壁に叩き付けられた。

 

「ガッッッ!?!?!!?」

 

 肺から空気が抜け、あまりの衝撃に痛みすら感じなかったほど。

 ずるずると床に落ちてからようやく痛みを感じ、仮面の下で笑みを浮かべた。

 

「……すごい、すごい……こんなに愛を感じたのは、初めてかも……。ね、瑠美……?」

『そう、ね……麗美……。とっても、とっても愛してもらえた……』

 

 今にも消えてしまいそうな声で、麗美と瑠美は言葉を交わす。

 

「瑠美……。私、もっと愛されたいな……愛したいな……」

『そうね麗美……。いっぱいいっぱい愛し合いたいわよね……この人と……けど……』 

 

 

 

 

 

 

「『この人は殺しちゃったから、もう愛してもらえないね』」

 

 

 

 

 

 

 ウィドゥを殴り飛ばした時の体勢のままでいたレイダーの下腹部からは血が滝のように流れていた。

 風穴が開いたと表現してもいいほど、レイダーは貫かれていたのだ。

 レイダーの拳がウィドゥを捉えるほんの僅かな一瞬早く、ウィドゥの爪が届いていた。

 やがて、鎧は弾け生身を晒した喜多村遊が倒れる。

 その衝撃で、遊を中心にして血の池が広がる。

 

「いい人だったね、瑠美」

『ええ、とてもいい人。愛しているわ』

「こんな人とまた会えるかな」

『きっと、戦っていればまた会えるわよ。愛し合える人に』

「そうだね。けど……」

 

 ウィドゥの各部からは火花が散り、なによりもデッキがひび割れていた。 

 変身も維持出来なくなり、ウィドゥの鎧は砕け散った。

  

『勝者がそんな格好ではいけないわね』

 

 音楽室に麗美でも瑠美でも、ましてや遊でもない女の声が響いた。

 いつから、どこから現れたのか白い人影、コアが麗美達の前に立っていた。

 

「誰……」

 

 麗美がそう訊ねると、コアは膝をついて麗美と目線を合わせると麗美の頬を叩いた。

 

『私はコア、あなた達二人を愛する者よ』

 

「愛して、くれるの……?」

『愛させてくれる?』

 

『まず一つ目の質問はイエス。愛してあげるわ、存分に。そして二つ目の質問はノー。私はまだ貴女達に愛されるための身体がないの』

 

「身体が、ないの……?」

 

『ええ。私も貴女達から愛してもらいたいのに、残念。……だから、お願いがあるの。────私の身体を造るのを手伝って』

 

 身体を、造る。

 具体的に何をすればいいか、麗美と瑠美には分からない。

 ただ、それでも愛のためならと。

 

「瑠美」

『いいんじゃない? まずはこの人の愛を見てみましょう』

「そうだね、瑠美……。分かった、手伝う……」

 

『ありがとう』

 

 感謝と同時に鼻っ柱にコアの拳が叩き付けられる。

 そして、これをと麗美はコアから手渡されたものを見た。

 

「……デッキ?」

 

『ええ。これまでのとは違う、オルタナティブのデッキよ。これで貴女は今までよりもっとたくさん愛し愛されることが出来るわ』

 

「本当? 嬉しい……」

『変身してみましょうよ、麗美』

「うん。やってみるね、瑠美」

 

「『変身』」

 

 デッキを銀色の無骨なベルト『オルタバックル』に装填し、新たな、もう一つのウィドゥが誕生する。

 他のオルタナティブ同様の黒いスーツは麗美の豊満な女の身体を見せつけるかのよう。

 左腕を覆う銀色のバイザー『オルタバイザー』を装着。

 仮面ライダーウィドゥの時は存在した仮面などを隠す布は消え、蜘蛛の巣が覆う仮面には8つの複眼が怪しく光る。

 誕生、オルタナティブ・ウィドゥ。

 

『それじゃあ、勝者はここから出ましょうか』

 

「うん……」

 

 最後に、ウィドゥは遊に視線を向ける。

 あれは、死んでいるだろう。消滅も始まっている。

 心の中でサヨナラを言って、ウィドゥはミラーワールドを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死ぬ?

 これが、終わり?

 否、否。

 嫌、嫌。

 駄々をこねる。

 死にたくない。

 まだ死にたくない。

 ここでは死ねない。

 もっと私は戦いたい。

 戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って。

 

 戦いたいから。

 

 死ねない。

 

 死んでなんかいられない。

 

 この、喜多村遊は戦い続けるんだ。

 

 戦いのために。

 

 血肉湧き躍る闘争を求む。

 

 一方的な殺戮ではない。

 

 ギリギリの緊張感を味わいたい。

 

 アドレナリンがどうとか、そんな話はどうでもいい。

 

 戦うんだ、戦いたいから戦うんだ。

 

 狂ってる?

 

 結構。

 

 狂ってる自覚はある。

 

 狂ってるというより、生まれた時代を間違えたというか。

 

 もしも生まれ変われるなら、戦いが日常茶飯事で、戦って殺しても罪ではなく英雄となれるようなそんな時代、世界がいい。

 

 ただそんな生まれ変わるとかそんな先の話より、私はいま戦いたい。

 

 だから、死なない。

 

 私は、生きる(SURVIVE)

 

 

 

 

 

 

 

「ぶはっ!?」

 

 目を覚ますと血溜まりに顔を突っ伏していた。

 知っているだろうか、人間は水深3cmでも溺死出来るのだ。

 まあ、水深3cmもないんだけどね。

 とはいえ目が覚めたら血溜まりに顔を突っ伏してましたーなんてどんなスプラッタ。

 

「血で溺死なんて流石にそんな趣味ないよー! って、ん?」

 

 今更、見覚えのないカードを掴んでいたことに気が付いた。

 金色の羽が描かれたカードで、カードの名前は……。

 

「S、U、R、V……サバイブ? なんか知らないけどヨシ! あはは!」

 

 デッキにサバイブのカードを突っ込み、ミラーワールドを後にする。

 あー、制服どうしよ。

 クリーニングに出したら通報されるなこれだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガタンゴトンという音、そして揺れ。

 電車の中にいるみたい。

 けどこの揺れがちょうど眠気を誘ってくれる。

 もう少し、寝ていよう。

 

「起きなさい」

 

 もうちょっとだけ……。

 

「起きないと、仲間が死ぬけど、いいの?」

 

 その言葉で意識が一気に醒める。

 そうだ、僕は学校で戦って……。

 

「って、ここどこ……?」

 

 見渡すと、まったく知らない場所にいた。

 電車のような縦長の空間で、内装はレトロ。

 なんて言えばいいんだろう……迎賓館? みたいな。

 シックで落ち着いた雰囲気の内装ではあるが、満員電車とまではいかないぐらい人でごった返している。

 なんだか時代がかった服装の人が多いというか、時代も国もバラバラというかそんな感じの人達が何かをしている。

 銀色のメダルのようなものを使って、買い物?

 一体どういう空間なんだ?

 それでいて僕はボックス席に座らされていて……。

 

「起きたか」

「うわっ」

「うわっ、とはなんだ。人の顔を見てからに」

 

 目の前に、美人がいた。

 腰ぐらいまである黒髪、黒いドレスで着飾った、美しい黒の人。

 怖いぐらい、綺麗な人。

 

「あなた、は……」

 

 見覚えがある。

 この顔は、最近、どこかで。

 

「てっきり、君ぐらいの歳の子は知らないと思ったが……。流石、私。有名人。いや、それともあれか? 幸恵から聞いたか?」

 

 その名前が出て、驚くと同時に思い出した。

 幸恵とは母さんの名前だ。

 そして、この人のことを知ったのは母さん経由だ。

 

「藤上、今日子……」

 

 聖山高校のOG。

 母さんの先輩で、伝説的な女優だったという。

 たしか火事で死んだって……。

 

「懐かしいな、名前で呼ばれるのは。今はオーナーとばかり呼ばれているから寂しかったところだ」

「オーナー……?」

「そう、この列車のな」

 

 やっぱりここ、列車の中なんだ。

 ……いやいや待て待て。

 なんでそんなところにいるんだ僕は。

 

「もう一人のむ……アリスに捕らわれて、溶かされていたところを助けた。だから君はここにいる」

「……助けられたらどうして列車の中にいるんですか?」

「それは、この列車がただの列車ではない、時の列車だからだ」

「時の、列車……?」

 

 その単語が出ると同時に汽笛が鳴った。

 時の列車は時の砂漠を突き進む。

 御剣燐を、運命の終着点へと導くために。




次回 仮面ライダーツルギ

「……良き友人」

「私は止めておいた方がいいと忠告しておくぞ」

「……うるさい。斬るぞ」
 
「私は、元凶だ」

運命の叫び、願いの果てに────。
 

ADVENTCARD ARCHIVE
TIDAL VENT

カードを使用したライダーを起点に波を起こし、周辺を浸水させる。
波で複数の敵を一度に押し返すことも可能。
美也が契約しているグランゲーターなど水辺に生息するミラーモンスターにとって有利な空間を作り出す。

己の得意なフィールドで戦うのは当然だろう?
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