仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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ALTERー4 前哨戦の終わり

『私は、ライダーバトルに勝利した私です』

 

 もう一人の私の言葉は、俄には信じがたい言葉であった。

 ライダーバトルで勝利した私?

 ふざけるのもいい加減にしてもらいたい。

 だって、だってだってそれが本当なら……。

 

 願ってもないことなのだから。

 

『あ、今認めましたね。分かりますよ、私』

『ち、違っ……!』

 

 オルタナティブ・アリスに取り込まれていく腕が更に深く沈み込む。

 このままだと本当に取り込まれてしまう。

 けどこの状況ではカードを使うことも出来ない。

 足掻き、踠くほどに沈んでいくこいつの身体は底なし沼のようで、とにかく踏ん張って耐えるしかない。

 なんとか、しないと……。 

 そうじゃないと、燐くんだって……。

 

『燐くんを助けるためにも私は……!』

『助ける? 弱いくせに不出来なくせに駄目なくせにグズなくせに燐くんを助けるなんて言うなッ!!!』

『ぐうっ!!!』

 

 腕が引きずり込まれて肩まで到達してしまった。

 本当に、本当にこのままじゃ……。

 

『燐、くん……!』

『この期に及んで燐くんに助けを求めるとか、どんだけ雑魚なんですか恥ずかしくないんですか!?』

 

 そうだ、私は弱くて、馬鹿で、幼稚で……。

 こんな自分から、変わりたいと思っていたのに結局燐くんにすがろうとして……。

 私は……!

 

『諸共死にたくなければ、頭をどけろ』

 

 その愛しい人と同じ声に咄嗟に従った。

 瞬間、閃く剣先の光。

 仮面越しに感じる熱は、青く輝く刃から放たれるもの。

 切っ先の狙いはオルタナティブ・アリスの顔面。

 直撃していたら頭が吹き飛んでいきそうなほどの威力であったが、それは直撃していたらの話。

 

『危ない危ない』

 

 花弁の盾越しに、あいつの余裕綽々といった様子の声が聞こえる。

 刃サバイブの刺突は顔を貫く寸前で防御されていた。

 

『チッ……』

 

 刃は舌打ちをすると私の身体に腕を回して……光の速さでバックステップした。

 

『ちょっ! ちょっと! せめてもっと早く一声かけてからやりなさい! 死んだかと思いましたよ!?』

『生きてるから別にいいだろう。それとも、取り込まれたかったのか?』

 

 仮面越しに私を馬鹿にしている顔が容易に想像つく。

 ……燐くんと同じ顔というのが本当に腹が立つ。

 

『そういう風に造ったのは私でしょう、私。まったく、まだ生かしているなんて……。その欠陥品を』

『欠陥品、だと』

 

 刃の声に怒気が孕む。

 彼が怒る理由は分かる。

 私が産み出してしまったから。

 

『私~? 製造責任って知ってます~? 造った以上はそのものに対して責任を負わなければいけません。なので私はちゃ~んと刃を殺してあげました。死にたがってましたもんね。私も偽物とか出来損ないはいらないので~』

『……おい、アリス。いや、キョウカ』

『……なんですか?』

『お前も殺すつもりだが、その前に奴を殺す。問題ないな』

 

 私を殺すのは問題大有りだが、あっちの私をヤる分にはなんの問題もない。

 刃の実力であれば問題はないはず。ましてやサバイブ。

 鬼に金棒というやつである。

 

『出来損ないに斬り殺される準備はいいか』

『親に殺される哀れな子供。なんて風には思いません。ゴミを処分するだけです』

『貴様……!』

 

 眩い光に目を背ける。

 刃の怒りが光線となり、オルタナティブ・アリスに向かい駆け抜けた。

 高速なんて表現では追い付けないほどの速さは脅威でしかない。

 だが、オルタナティブ・アリスは躱した。

 舞い散る桜色の花弁が刃サバイブの黒い鎧を飾り付け、そして爆ぜる。

 

『チッ……』

 

 刃サバイブは再び光となって駆ける。

 だが、既に刃サバイブは花弁に包囲されていた。

 どう動こうと爆発は絶対に食らってしまう。

 いくら刃サバイブといえど、無数の爆発を食らえばひとたまりもないだろう。

 だが刃サバイブはカードを引いた。

 あれは、タイムベント。未来超越────。

 

【TIME VENT】

 

『ふっ……』

 

【CONFINE VENT】

 

『私のとこの貴方にはそんな力はありませんでしたが、まったく問題なしです』

『なに……』

 

 まさか、こんな容易く刃を追い込むなんて。

 いや、そんな感心している場合ではない!

 私にあれをどうにか出来るか?

 未来超越を無効化されてしまった。

 少なくともあの花弁はなんとかしなければならない。

 コンファインベントでは……いや、あれはカード効果によるところではない。コンファインベントは使えない。それどころか私のデッキのカードではあれをどうにも出来ない。

 この役立たず!

 

『……これを使わされるか』

 

 苛立つ私とは対照的に刃は至極冷静であった。

 カードを手にし、鞘にある読込み口へカードを運ぶ。

 

【SWORD VENT】

 

 空に黒いドラグスラッシャーが現れる。ドラグスラッシャーはサバイブの力を受け、『聖剣輝竜ドラグブレイザー』へと進化。黒い東洋の龍を思わせる体型となり、三対の翼を生やしたもう一体の聖剣の竜。

 そのドラグブレイザーの右手に紫色のオーラが集い、光球となる。生成された光球は刃サバイブのもとへと飛ばされると六つに分かれて刃サバイブの周囲を漂った。

 

『いけ』

 

 刃の指示を受けた光球達は一斉にその形を変えた。

 球から、剣へ。

 光の剣。

 自由自在に空を駆け、花弁を切り裂き、焼き尽くし、処理していく。

 爆炎の華を咲かせ、刃サバイブのもとへ集まった光球はスラッシュバイザーツバイの刃に灯る。

 紫炎に燃えるかのような剣は更に輝きを増し、巨大な光の刃となる。

 

『ぜあああッ!!!!』

 

 大剣を振るい、刃サバイブは廻る。

 たった一薙ぎで周囲の花弁を全て切り捨て、刃サバイブはオルタナティブ・アリスの攻撃のひとつを掻い潜った。

 

 

 

 

 

 

 

 理科室。

 仮面ライダーアイズ対オルタナティブ・エンプレス。

 

 佐竹は戦い慣れをしていない。

 未来を視る能力があったとしても活かしきれない。

 

「当たらない! なんでよ!」

 

 ストライクベントで召喚された獅子の顔の形をした手甲をつけた右手で殴りつけてくる。だが、回避出来る。

 未来を視て私がどう動くかを知ったとしても、佐竹はそれ止まりだ。

 鐵宮のような戦闘センスはない。

 猛攻を掻い潜り、逆手に構えた青い双剣で手甲を受け流す。

 前のめりに倒れた佐竹の背中を斬りつけ、そして……。

 

「このっ……!?」

「終わりね」

 

 佐竹の仮面に、切先を突き付ける。

 詰みだ。

 佐竹を殺せばこのふざけたゲームは終わる……。

 振り上げた刃、首を断ち切ろうと。

 

「……ッ」

 

 断ち切ろうとした、なのに……。

 刃は、あいつの首の前で止まっていた。

 

「……はっ!」

「ぐっ……」

 

 腹部を蹴り飛ばされ、尻餅をついた私に佐竹がマウントを取った。

 二発、仮面を殴り付けられる。

 衝撃に頭を揺さぶられて……。

 

「なにあんた殺す覚悟とかないわけ! それでよくライダーやれてたわね!」

「うる、さい……。ぐっ!」

 

 再び、殴打。

 暴力は人を黙らせる最もシンプルな方法だ

 事実、私はなにも出来ないでいる。

 パワーでは向こうが勝る。ゆえに、脱け出せない。

 この暴力から。

 理性なのか本能なのか分からないけれど、その事実をぼうとした頭で受け止めていた。

 ああ、なるほどそうか。

 これが、諦めか。

 

 

 

 

 ……は?

 

「ふざ、け……」

「なに言ってんだよ!」

「ガッ!?」

 

 諦めて、たまるか……。

 私は……。

 私は……。

 

「り、ん……」

 

 目に浮かぶのは、眩しい彼の笑顔。

 私の記憶の中の彼はいつも笑顔でいた。

 あの笑顔を向けられると、安心して、暖かくなって……。

 もっと、彼の笑顔が見たいと。

 もっと、彼と一緒にいたいと。

 だから、だから……!

 

「りん……燐……!」

「死ね! 死ね! ……ギッ!?」

 

 突然、風が吹いた。

 窓も扉も閉まりきった閉鎖空間で、強い風が。

 佐竹は吹き飛び壁に叩き付けられた。

 この、風は……。

 

「燐……」

 

 一体、どこから現れたのか。目の前に立つ白い背中。

 マフラーを風に靡かせ、力強くその存在感を示していた。

 

「お前……! どうやってここに入った!」

「……」

 

【SWORD VENT】

 

 口では語らず、その行動が示していた。

 抜かれた白の太刀から放たれる剣気は、私まで切り裂かれたような心地になるほどの圧を佐竹に向けている。

 

「うっ……あああああ!!!!!!」

 

 剣気にあてられた佐竹が自棄になって燐へと殴りかかる。

 燐は動かない。

 脅威ではないからだ。佐竹の拳など。

 

「なっ!?」

 

 突きだされた獅子の顔を右手で受け止めていた。

 そして、右手は力をこめられ手甲はひび割れ、砕け散る。

 なんて、力。

 あれは手甲があったからよかったようなもの。もし、佐竹が素手であったなら今頃粉砕骨折していた。

 

「ひっ……! わ、私は……私は頂点にぃぃぃぃ!!!!!」

 

 まだ殴りかかる佐竹だが、その拳は全て防がれる。

 まるでロボットのような精密な動きで、片手であしらわれていく。

 何度かの攻防を演じた後、燐の裏拳が獅子の仮面を打った。

 大した威力はないように見えた。だがそれで佐竹は倒れ、燐を見上げる形になる。

 獅子の仮面は割れていた。

 仮面の下、佐竹の右目の辺りが露となり、その目には恐怖が映っているのが見えた。

 素手だけで佐竹は圧倒された。ならば、左手が垂らすその剣を振るったならば────。

 

「やめ……殺さないで! お願いだから!」

「……」

 

 燐は、やはり動かない。

 燐が人を殺すなんてありえない。だから佐竹を殺すようなことはしないだろう。

 けど、今の……いや、これまでもだが。

 戦う時の燐は、燐ではないような。まるで、心をどこかに置いてきたかのように肉体だけが動いている。

 そこに燐はいない。

 燐の器は存在しても、燐の心は入っていない────。

 

「燐……」

「……あ」

 

 呼び掛けて、ようやく燐の声を聞くことが出来た。

 いつもの、燐だ。

 

「チッ……らぁぁぁ!!!!!」

「燐ッ!」

 

 しまった。

 私が燐を呼んだりしたから隙が出来て……。

 

「カハッ!?」

 

 ドン、という音のあと、佐竹の変身が解けて力なく倒れ、燐がそれを受け止めた。

 見ると、佐竹の腹部には太刀の柄の先が当てられていた。意識を奪ったのか……。

 

「……抜くまでもなかったな」

「燐」

「美玲先輩。大丈夫ですか?」

「え、ええ……。それより、どうやってここに入ってきたの。ここ、出入り出来なくなってたはずだけど。他のみんなもそれぞれバラバラに……」

「その、入れたのは色々あって……。あと、他のみんなも大丈夫です。僕が助けに行きましたから」

 

 ……?

 ちょっと、日本語がおかしい。

 僕が助けに行きますから。これなら違和感ないのだけれど、行きましたからとなると既に燐が助けに行っていることになる。

 燐はここにいるのに。

 

「どういうこと?」

「その、分身の術的な……」

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは、赤の地獄であった。

 学舎らしい白い床も壁も赤く塗り潰されてしまった。

 赤い、赤い。

 血で赤い。

 モンスターの食べ残しを踏んで、転んでしまった。

 べちゃ、という音が嫌なものを連想させる。

 淡い水色の鎧とスーツは、誰か達の血で濡れていた。

 

「いや、いや、いや、いや……!」

 

 転んだ私に覆い被さってくるモンスター。

 こいつらが考えていることなんて、食べることだけで。

 私を、私を食べようとして……!

 

「やめて! 来ないで!」

 

 仮面ライダーになっていても、捕食の対象となることは恐怖だ。

 いや、逆に仮面ライダーになってしまったからこそ恐怖が増してしまった。

 

「いっ……!」

 

 乱暴に掴まれ、伸ばされた左腕にモンスターが噛みついた。

 

「や……! い、いぁ……!」

 

 スーツのおかげで噛み千切られはしない。

 だが、それでモンスターが諦めてくれるわけがない。

 どうしたって私を食べようとして、噛む力が増す。

 腕を万力で挟まれたみたいな痛みが延々と襲ってくる。

 それが、一体だけでなく二体、三体とモンスターが群がって噛み付いて……。

 やだ、やだ、やだ、やだ。

 痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い────!

 

「助、け……」

 

 誰も、来るはずがない。

 けど、助けてほしかった。

 こんなところで一人モンスター達に食われて死ぬなんて嫌だ。

 誰、か……。

 

 ふと、浮かんだ誰かは白い背中。

 穢れなき、純白の剣。

 仮面ライダーツルギ、御剣燐……。

 

『ギ? ギッ!?』

 

 突然、私に群がるモンスター達が吹き飛んだ。

 黄金の輝きの中から吹き荒ぶ白い風。

 それがモンスターを吹き飛ばしたのだ。

 そしてその輝きと風が収束し……仮面ライダーツルギサバイブの姿が顕現する。

 

「あ……」

 

 その姿に、手を伸ばす。

 神々しい救世主に。

 彼は私の前に立つとソードベントを使用。

 腰を低く落とした構え。

 あれは、居合だ。

 

「……ッ! ぜあああッ!!!」

 

 解き放たれる白刃は風の刃となり、モンスターを切り裂いていく。

 そしてツルギサバイブは鞘を左手に取り、納刀。それと同時にモンスターは爆破。

 この一瞬で、彼はこの地獄を終わらせた。

 

「ああ……」

 

 彼は、救世主だ。

 やっぱり、彼はヒーローなんだ。

 絶対に助けてくれる存在。

 だから手を伸ばす。

 助けてもらいたくて。

 けれど、彼は鏡が割れるかのように消えてしまった……。

 

「どこ……。どこに行ったの……」

 

 私を、助けてくれる人────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何回やっても何回やっても。

 

「壁が壊せないよ~!」

 

 図書室の扉を打ち付けることもう何度目か。

 ぜんっぜん壊れる気がしない。

 

「だから~諦めてアタシを殺すか、アタシに殺されてくれない? アタシは後者がいいんだけど」

「私はどっちも嫌だからね! 殺すのも殺されるのも! あと二人共死ぬのも!」

 

 図書室利用者のように座って私を眺める黒峰さんにそう返事をして再び作業に集中する。

 傷ひとつつかない扉。

 だけどなんとかここから脱出しないと本当に共倒れなんてことになる。

 それだけは避けたい。

 

「……ねえ、なんでそこまでして止めたいわけ? 別に関係ないでしょ、他人のことなんだし」

 

 黒峰さんの問いかけに手が止まった。

 ……いけないいけない。一秒も無駄には出来ないんだから。ちゃんと手を動かした上で、質問には答える。

 

「……たしかに、他人のことだし首突っ込むなって思われてると思う。けどさ、やっぱり嫌なんだよ。端から見てても、殺し合いなんてさ!」

 

 言葉の節目で力を入れて剣を振り下ろす。

 だから語尾が強くなって、あんまりいい感じに聞こえなかったらごめんね。

 

「端から見ててもって、じゃあ見るなって話じゃん」

「無理。ライダーバトルなんてのがあるって知っちゃったんだから。私だって、知らなかったらこんなことしてない!」

 

 ライダーバトルと関わってなかったら、きっと怪我のことを悔やんだままの生活が続いていたと思う。

 周りの人達に心配をかけないように、大丈夫だと明るく取り繕って。

 なにか新しいことを始めようとしても、なんだかどれもしっくり来なくて。

 だから、高校入学からのこの半年近くは私にとって灰色の学生生活。

 あまり、楽しいと思えることはなかった。

 いや、今も楽しいってわけではないんだけどさ。

 射澄さんのこと、陽咲のこと、悲しくて辛いことばかりだ。

 だけど、それでも────。

 

「今の方が、前向いて生きてるって感じがする。前に進めって、射澄さんが背中を押してくれてる気がするから……」

 

 自分に言い聞かせるように呟いた。

 だから、諦めない。

 辛くても、悲しくても、前に進めばきっと……。

 ライダーバトルに参加してる人達もそうだ。悲しかったり、苦しかったりして、だからそれをどうにかしたくてライダーバトルに参加して……。

 けど、違う。

 きっとライダーバトルで願いを叶えたとしても、前には向けない。

 苦しいのが上乗せされるだけだ。

 だから、私はそんなことさせない。

 だから、私はライダーバトルを止めるために戦うんだ。

 

「私はライダーバトルを止めるために戦う。願いを叶えたって、きっとあなた達は後悔することになるから」

「後悔? そんなのない。他の誰かを踏み台にして生きてるんだよ、アタシもあんたも。剣道の試合で勝つのも、ピアノのコンクールで賞獲るのも同じ! 他の奴等の上に立ってきたんだよアタシ達は! だから、後悔なんてしない!」

 

 これは、信念のぶつかり合いだ。

 黒峰さんは絶対に譲りはしないだろう。自分の主張を。

 それは、分かってた。

 でないと、ここまで生き残ってはいなかっただろうから。

 

「さて、そろそろ時間もヤバいし……。やろうか、変身」

 

 再び、甲賀へと変身した黒峰さん。

 どうあっても、決着をつけたいようだ。

 けど、戦いなんて……。

 時間がないのも事実だし、どうしたら……。

 

「はっ!」

 

 忍者刀を手に迫る甲賀。

 戦うしか、ないのか!

 覚悟を決めて構えた瞬間だった。

 

「なに!?」

 

 暴風が、駆ける甲賀を横殴りにしたようだった。

 テーブルを巻き込み、床に転がる甲賀は即座に体勢を立て直して風の正体を警戒する。

 

「……ツルギか」

「燐くん!」

「……」

 

 声をかけても燐くんは返事をしなかった。

 ……戦闘モードだからか!

 とにかく、どうやって入ってきたかは分からないけど頼もしすぎる味方が来てくれた。

 これは流石に黒峰さんも退くしかないだろう。

 

「チッ……。ツルギ相手は分が悪すぎるでしょ……」

 

 黒峰さんはやはり聡い。

 燐くんの、ツルギの力を理解している。

 無謀な戦いをするタイプでもないし、大人しくしてくれた。

 とはいえ、この監禁された状態からどうやって脱け出すのかが問題。

 燐くんが来てくれたけれど、燐くんがこの状況をどうにか出来るとは限らない。

 ……どうにかしてしまいそうだけど!

 

 結果的には、どうにかなった。

 ただ、燐くんがどうにかしたというわけではなく、急に私達を閉じ込めていたバリアのようなものが割れたのだ。

 

「なに!?」

「……とりあえず、退くか」

「あっ、黒峰さん!」

 

 黒峰さんは窓ガラスに飛び込み現実の世界へと戻っていった。

 ……私も消滅が始まっている。出ないと。

 

「燐くん! 出よう!」

「……」

 

 パリン。

 ミラーワールドからの退去を提案したら、ツルギが割れて消えた。

 

「ええっ!? なにそれどういう!? って、出ないと!」

 

 私も窓ガラスから現実の世界へと戻る。

 ……ひとまず、なんとかなったんだよね?

 状況は分からないけれど、とにかくみんなと合流しよう。

 みんな、無事だよね……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刃サバイブとオルタナティブ・アリスの戦いは拮抗していた。

 それほどまでにもう一人のアリスの実力は高く、刃サバイブは内心では感心するほどであった。

 スラッシュバイザーツバイでアリスの鞭を弾き、刃サバイブは接近。己が得意とする間合に入るがアリスの鞭が縮小し硬化。剣となって刃サバイブと剣戟を演じてみせた。

 

『ほう。こちらのアリスは口だけではないようだな』

『当然です。そっちの雑魚な私とは違うんです』

『ああ。斬り応えがありそうだ。雑魚のアリスとは違って』

『ちょっと! 雑魚雑魚言わないでください! 私だってこれまで何回も刃と戦ってるんですから! そして今日まで生き延びています!』

 

 ドヤァという効果音が聞こえてきそうなほど胸を張ってキョウカ=仮面ライダーブロッサムは言う。

 

『そうだな。逃げ足が速くて苦労させられた』

『んなっ!』

『舌の切れ味もいいなんて、本当に嫌ですね。どうしたらこうなっちゃうんでしょう?』

『愛を知らずに戦い続ければこうなる。ぜあッ!』

『くっ!』

 

 舌戦を繰り広げるのはもうお仕舞いだと刃サバイブの剣が光る。

 鍔迫り合いの状態を利用し、オルタナティブ・アリスの鞭の剣を絡めとるように下へと180度。

 アリスの剣を蹴り飛ばし、その手から得物を奪うと刃サバイブの太刀筋がオルタナティブ・アリスの装甲に傷をつけた。

 生身であればアリスは上半身と下半身で断たれてしまったであろう見事な一閃。

 これには余裕綽々といった様子でいたアリスも顔をしかめざるを得なかった。

 

『チッ……。サバイブの力、これほどなんて……』

『ふっ、お前が殺した俺はサバイブに至っていなかったんじゃないか? そのライダーもどきのシステムは確かに既存のライダーシステムよりは性能が高いようだが、サバイブ込みでは同等。そうなれば変身者の技量が物を言う。お前は、俺には勝てない』 

『この、出来損ないが……』

 

 忌々しげに吐き捨て、再び刃サバイブへと殺意を向けるオルタナティブ・アリスであったが、その身に起きている変調に気付いた。

 正確には、オルタナティブシステムの変調であるが。

 

『……そのようですね。ですが、私は直接手を下すタイプではない黒幕系ヒロインですので。それではごきげんよう』

『待てッ!』

 

 オルタナティブ・アリスは変身を解除した。生身だろうと関係ないとアリスに迫る刃サバイブはアリスを袈裟懸けに切り裂く。だが、その手応えはなかった。

 噴き出すはずの血は花。

 アリスは花弁となって風に流され姿を消したのだった。

 

『逃がしたか……』

『……ひとまずは退けることは出来たようですね。学校に張られていた結界もなくなったみたいですし』

『そうか……』

 

 刃はバックルからデッキを抜いて変身を解除。キョウカも変身を解除して刃と向き合う。

 黒い服装の、仏頂面の御剣燐という姿にキョウカは不快感とまではいかないが違和感を感じていた。

 

「キョウカさん!」

 

 遠くからキョウカを呼びながら走ってくるのはツルギサバイブ。

 キョウカはその姿に安堵するが疑問も浮かんだ。

 

『燐くん……! 無事だったんですね! でも、どうやって……』

『俺が連れ戻した』

『そう、ですか……』 

 

 刃が燐を助けたという事実に複雑な心境になるキョウカではあったが駆け寄ってきたツルギを前にして笑顔を作った。

 

「キョウカさん! 刃も、無事でよかった」

 

『お前に心配されるような俺ではない』

 

「そうだね。君は強いから」

 

『ふん……』

 

 普通に会話する燐と刃という光景を見たキョウカは鳩が豆鉄砲を食ったような顔となる。

 この二人には因縁がある。

 なんとも説明をしにくいものではあるが、因縁が。

 

「あのカードのおかげで助かったよ。……あれ」

 

 ツルギが気付いた。

 トリックベントで生まれたツルギサバイブの分身が舞い降りてきた。

 その腕に、北津喜を抱き抱えて────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一時間後。

 藤花女学院。

 

「ねえ聞いた!? 聖高の話!」

「ネットニュースで見た。ヤバいよね」

 

 二人の女子生徒の、いやクラス全体の話題は聖山高校で起きたことで持ち切りとなっていた。

 茜もまたスマートフォンでネットニュースの映像を見て、息を飲んだ。

 これはきっと、ライダーバトルのせいなのだと。

 

「繰り返しお伝えします。今日未明、M県立聖山高等学校の生徒、職員合わせておよそ650名が意識不明の状態で見つかり、市内の病院に搬送されました。また、100名以上の行方不明者も出ているという情報もあり、聖山市内で発生している連続行方不明事件との関連について警察は────」

 

 やば、先生来た。という誰かの囁きを聞いて茜はスマートフォンを机に仕舞い、教壇に立ったクラス担任の女性教師に目を向けた。

 

「えー、みなさん。既にご存知の方もいらっしゃるとは思いますが聖山高校で起きた事件……か、事故かはまだ分かりませんが、これを受けまして休校措置が取られることになりました。生徒の皆さんは速やかに帰宅してください。また、明日以降については追って連絡します。それまでは家で自学自習に励み────」

 

 休校となれば嬉しくなるのが学生というものだが、事が事なだけに浮き足立つ生徒はいなかった。

 帰る生徒達は暗く、足取りは重い。

 そんな帰宅していく集団から離れ、茜は通話アプリで同居人に連絡した。

 数コールの後に通話に応じた同居人の声はいつにも増して機嫌が悪そうであった。

 

「ニュース見た瀬那?」

「見た」

「あれって、やっぱり……」

「ああ……。一応、確認しに行ってるとこだけど」

「ほんと! じゃあ私も聖高の方に……」

「いや、いい。家に帰ってろ。どうせ大したことは分からないだろうからな。無駄足になる」

「無駄足になるならなんで瀬那は行ってるのさ」

「一応確認つったろ」

「だから私も行くって」

「帰ってろ」

「行く」

「帰ってろ」

「行く!」

 

 そこで、通話は終了した。

 瀬那の方が切ったことで。

 

「もうなにさ、一人で行動なんかして。仲間なのに」

 

 こうなったら意地でも行くと茜は聖山高校へ向かおうといつも曲がる道を真っ直ぐ進む。

 ……進もうとして、足が止まる。

 

「……ッ!」

 

 突然、脳裏に浮かぶあの夜のこと。

 瀬那と共に仮面ライダーテュンノスを倒した時のこと。

 

「……なんで、あの時のこと思い出してるんだろ、私……。ダメダメ、瀬那と合流するんだから急がないと!」

 

 再び歩き出す茜。

 雑念を振り払おうとイヤホンをつけてポップな音楽を流して……。

 




次回 仮面ライダーツルギ

「私なら、貴女をお救いすることが出来ます」

「あいつ、こんな名前だったのか」

『……貴女と組んでいる娘は、どうするんですか?』

「はあ!? なんだよ金がないって!」

「多すぎ。昔話みたいな盛り方をパスタでやるなよ。アタシがそんなに食えるわけないだろ」

運命の叫び、願いの果てに────。


ADVENTCARD ARCHIVE
SWORD VENT(仮面ライダー刃サバイブ)
リュウノホウギョク 4000AP

仮面ライダー刃サバイブの契約モンスター=ドラグブレイザーの右手に持つ宝玉から生成される光の刃。
宙を高速で飛行し、敵を瞬時に切り裂く。

宝玉が放つ輝きは敵を切り裂く閃光となる。
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