仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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ALTERー6 愛の在処

 何故、苦しみというものが存在するのか。

 苦しいとは即ち、生命の危機だ。

 直接的な痛み、精神の傷、罪悪感やストレス。

 いらないでしょう、こんなもの。

 生きていく上では。

 

 この世には、苦しみが多すぎる。

 

 ライダーバトルに参加してから、多くの苦しみを目にしてきました。

 少女達は皆、苦しんでいました。

 苦しいからライダーバトルに参加したのか、ライダーバトルに参加したから苦しいのか。あるいはその両方か。

 

「私が、救わなければなりません……」

 

 生が苦ならば、死こそが救済。

 このライダーバトルという地獄変に現れた、私は神の遣い。

 多くの少女を、苦しみから解放しました。

 そしてこの少女もまた、苦しんでいる。

 ライダーなのだろうとすぐに思った。

 訊ねれば即、白状してしまいましたし。

 自分がライダーであることを認めてから少女、上谷真央は内に秘めた苦しみを私に打ち明けていきました。

 

 ライダーになってすぐ、何も知らないままに人を殺めたと。

 そして、共に戦う仲間を、友人を背後から突き刺して殺したと。

 自分が生きるために。

 

 半ば廃墟の教会を照らす蝋燭が、真央さんの青ざめた顔を強調させる。

 仕方なかったのだと。

 生きるにはああするしかなかったのだと。

 自分に、言い聞かせている。

 

「私が、生きるにはああするしかなくて……! これって正当防衛じゃないですか! 私は悪くない! 悪いのはアリスなんです!」

 

 聞いたところによると、もう一人のアリスがいるらしい。

 だが、彼女は私の知るアリスともう一人のアリス。二人のアリスに怨みを抱いていました。

 殺したのは、自分に殺意があったからではない。

 そうしなければならない状況を生み出したアリスのせいなのだと。

 

「そうですね……。悪いのは、アリスでしょう」

 

 私の言葉に、真央さんの瞳に光が灯った。

 人は自分に賛同するものがあると分かればこうなるものだ。

 とくに、自分は悪くないと思っている層はそれが顕著だ。

 

「しかし、実際に手をかけたのは貴女。ですよね?」

「そ、それはそうですけど、そうしなきゃいけなかったんです!」

 

 彼女はとにかく罪から逃れようとしている。

 しかし、それは無理なのです。

 生きている限り。

 

「ええ、分かっています。最初に言いましたでしょう? 貴女をお救い出来ると」

「……どうやって、ですか?」

「なんの苦しみもない世界へ、送って差し上げます」

「え……?」

「そのような罪をお抱えになって生きるのは苦でしょう。ですから、死んでしまえばいいんです」

 

 真央さんの瞳に宿っていた光が消える。

 嫌だ、嫌だと席から、私から離れていく。

 駄目ですよ。

 そちらには、苦しかありません。

 こちらへ、私のところへいらしてください。

 そうすれば、永遠の苦しみから解放して差し上げます。

 

「いや、いや……。死にたくない……!」

「生への執着。それもまた、苦しみの一因……」

 

 デッキを手に取った瞬間であった。

 教会の重い扉が、耳心地の悪い音をたてながら開いた。

 

「麗美さん……」

「……」

 

 雨に打たれた麗美さんがちょうど帰ってきた。

 いいタイミングです。

 

「麗美さん。そちらの方を取り押さえていただきますか。苦から解放してあげましょう。私達二人で」

「ひっ……。いや! 来ないで!」

 

 私と麗美さんに挟まれた真央さんの顔は絶望に染まる。

 安心してください。

 すぐにその絶望は希望に変わりますから。

 一歩、また一歩と近付く。

 だが、おかしい。

 麗美さんの様子が。

 

「麗美さん……?」

 

『くくく……あははははぁ!!!!』

 

「ッ!?」

 

 麗美さんは狂ったように笑うと駆け出す。

 真央さんには目もくれず、私に向かって。

 

「変身!」

 

 鎧を纏う麗美さん。だが、それは仮面ライダーウィドゥとは違った。

 鎧と言うよりも、ウェットスーツのような印象だ。

 黒いスーツは彼女の女性らしさが過ぎる身体に密着し貼りついているよう。

 これまでヴェールで隠されていた仮面も露となって、蜘蛛と同じ八つの目が私を見つめている。獲物として。

 とにかく、こちらも変身を……!

 

『変身』

 

 間一髪、攻撃を受け止め仮面ライダーエクスシアへ。

 彼女は一体どうしたというのか。

 いや、そもそも。

 彼女は、誰なのか。

 

『麗美に妙なこと吹き込みやがって!』

 

「麗美……。貴女は誰ですか」

 

『アタシは氷梨瑠美! 麗美と一緒に生きるもの!』

 

 蹴り飛ばされ、距離が開く。

 その間に瑠美はデッキからカードを引き、左腕を覆う銀色の召喚機にカードを読み込ませた。

 

【STRIKE VENT】

 

 右手に装備される、蜘蛛の脚を思わせるような鉤爪。

 床を強く蹴り込み、一気に接近してきたウィドゥ。

 速い……!

 左腕の盾型召喚機で防御するが、重い……!

 

『オルタナティブ・ウィドゥっていうんだけど……まあ、関係ないか。これから死ぬんだから! あはは!!!』

 

「くっ……」

 

 押し込まれ、近くの鏡からミラーワールドへ。

 

『本当の愛だかなんだかほざいたみたいだけど! アタシと麗美の愛はぁ!!!!』

 

 振り下ろされる鉤爪。

 床を転げて回避し、鉤爪は教会の長椅子を引き裂き、砕いた。

 しかも、それだけではない。

 切り裂かれた箇所が、腐食している。

 あれは危険過ぎる。

 咄嗟に判断し、カードを引く。

 盾は豹に似た契約モンスターであるシルトパンサーを模し、その頭頂部付近をスライドさせ挿入口を開かせる。

 

【SWORD VENT】

 

 シンプルな両刃剣が召喚され、素早く斬り込む。

 左肩から袈裟懸けに斬り下ろした。直撃だ。

 大きな火花が散ったが、そうだ、この少女は……。

 

『あはは!!! この痛みだけが私達の愛!!!』

 

 左肩をなぞり、まるで攻撃が効いていないかのように。いや、先程よりも素早く、重い一撃を叩き込んでくる。

 蹴り飛ばされ、教会の扉を壊しながら外へと追いやられる。

 暗い夜の雨の中、再びカードを使用する。

 二つある盾のうちの一つ。

 天使の翼のような盾が背中に備わる。

 防御力だけでなく機動力を上げることも可能。

 更に、射程距離はそこまでだが舞い散る羽を飛ばして攻撃、牽制することが出来る。

 羽を飛ばして、こちらに歩むウィドゥを攻撃するが羽は全て、鉤爪に切り裂かれて地に堕ちる。

 

『お返しッ!』

 

「なっ!?」

 

 ウィドゥの鉤爪が、鉤爪だけが私に向かってくる。

 翼の自動防御が作動し、私の身体を包むように翼が閉じて防御はされた。

 あの鉤爪、ワイヤーで遠隔攻撃も可能だなんて。

 

『そらそら!』

 

 まるで、鞭を振るうかのように鉤爪を操るウィドゥ。

 駄目だ、今は耐える時。

 この攻撃を耐え凌げばきっと反撃の機会が……!

 

『────ここらでおしまい』

 

 どれほど経ったころだったろうか。

 突如、鉤爪の動きが変わる。

 激しく打ち付けられていたそれが、私に巻き付いた。

 

【NET VENT】

 

 ウィドゥがカードを使用。

 契約モンスターである黒い大蜘蛛が現れ、私に向かって網状の糸を放った。

 粘着性のある糸が私に絡まって、身動きが取れない。

 ましてや、今の私は翼を閉じたままでいる。

 カードを使うことが出来ない。

 翼を開くことも、出来ない。

 完全に私は蜘蛛の巣に捕らわれてしまったのだ。

 

「くっ……!」

 

 足掻いても無駄だ。

 もう、動けない。

 あとは奴のトドメを待つのみ。

 しかし、ここでウィドゥは妙なことをした。

 私に背を向け、立ち去ろうとしている。

 

「貴女、何を……!?」

 

『アタシはお前を愛さない』

 

「は……?」

 

『このまま、ミラーワールドに溶けて消えて』

 

 そう言って、ウィドゥは私の視界から消えていった。

 あ、あはは。

 そういうこと。

 私を愛さないって、そういうこと。

 貴女の、貴女達の愛は痛み痛ませ、暴力でしか伝えることが出来ない。

 それを私にはしないことが貴女達の私に対する仕打ちと。

 氷梨麗美。

 確かに彼女は歪でしたが、ここまでだったとは。

 暴力とは即ち苦しみ。本当の愛を知らずに、苦しみを愛と思い込んだまま殺すのは可哀想だと思っていましたが、してやられました。

 まさか、自分の盾がこんな弱点になるなど……。

 

「消えますか、私も……」

 

 意識は明白。

 こんな形で自分の死が訪れるなど、ええ全く思っていませんでした。

 ですが、終わりは終わりと受け入れます。

 多くの苦しみが残ったままの世界。

 ああ、もっと、お救いしたかったのですが……。

 

「……」

「……あなた、は?」

 

 目の前に、青い小柄なライダーが立っていました。

 槍を手にして、震えている様子。

 そしてその槍で私を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自室のベッドに寝かされました。

 人生とは、分からないものですね。

 

「何故、私を助けたのですか? 上谷真央さん?」

 

 私を助けた張本人。

 上谷真央はまだ震えていた。

 

「……ひ、人が目の前で死ぬのは、嫌、ですから……」

 

 たどたどしい口調で理由が語られた。

 この娘も、分からないものですね……。

 自分が生きるために二人の人間を殺めたことで苦しみ、生への執着に苦しみ、殺そうとした私を助けるなんて。

 思えば、私は彼女に自分を重ねていたのかもしれない。

 何も知らない年頃に、母をこの手で救った私と彼女を。

 

「上谷さん。こちらへ、来ていただけませんか」

 

 そう誘うと、上谷さんは戸惑いを隠しませんでした。

 まあ、殺そうとした相手から誘われるなど気が気でないとは思いますが。

 

「なにも、いたしませんから。……ぐっ!」

「あっ……!」

 

 身体を起こし、痛みをあえて走らせる。

 すると、人の良い彼女は私に近付いてきました。

 そんな彼女の手を取り、ベッドへと引きずり込む。

 私に身体を密着させるようにして、抱き締めて逃さない。

 

「や……! な、なにするんですか!?」

 

 じたばたと踠く上谷さんだが、なんともまあその様子がおかしくて、可愛らしい。

 小柄で非力な彼女を離さないことは、多少手負いの私でも出来る。

 そうして、彼女の耳元で囁く。

 

「上谷さん。貴女は私と同じなのです」

「同、じ……?」

「貴女は人を殺めたことで苦しんでいます。しかしそれは間違いなのです。貴女は、二人の少女を苦しみから解放したんですよ。貴女は、善い行いをしたのです」

「違、う……。そんな、だって人を殺すことが良いわけ……」

「少女達は苦しみからライダーになるのです。苦しみから解放されたくて。しかし、苦しみから逃れるためにライダーになる必要はないのです。生こそが苦しみの根源。であれば、生から解放されれば良いのです」

 

 そう、私が苦しむ母を救ったように……。

 

「死こそが、救い。私達で、少女達を救いませんか? そしてゆくゆくは人類を救済するのです。いかがですか?」

「死こそが、救い……」

「そうです。私達に殺された者は救済されるのです。上谷さん。いえ、真央さんが殺した二人の少女もきっと貴女に救われ、喜んでいます。ですから、貴女が苦しむ必要はありません。私達は、救えるのです」

「私、は……。んっ!?」

 

 真央さんの唇を奪った。

 私の上にいた真央さんを、下に敷く。

 無垢な少女に樋知十羽子を注ぎ込む。

 最初こそ抵抗されましたが、すぐに彼女は私を受け入れてくれました。

 少女の未熟で、穢れを知らぬ身体がとても美しくて、ああ、きっと上谷真央こそ聖母なのだろう。

 柔らかで、肌触りのいい少女の身体に頬擦りし、私は一時の安らぎを得た────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜のとある廃ビルに少女は集まっていた。

 無造作に置かれた二枚の鏡に映る、もう一人のアリスと黒峰樹である。

 最後の一人、氷梨麗美が合流したところでアリスが会話を切り出した。

 

『はーい皆さんお疲れ様でした~。どうでした? 楽しめましたか~?』

 

「こっちまで死ぬようなルールはもうやめろクソ運営」

 

『きゃー樹ちゃんひっど~い。忌憚なき意見ノーサンキューです』

 

「そういえば、佐竹は」

 

『あー、彼女なら気絶させられて他の生徒達と一緒に病院に搬送されましたよ。いやーあの状況下でしたから、自然に病院送りに出来ますね』

 

 なにを暢気に言ってるんだこいつはと内心毒づいた樹だったが、まあ元々こういう奴だったなということで変に納得してしまった。

 

『麗美、新しい力は気に入った?』

 

 もう一枚の鏡に白い女の影が現れる。

 このグループを束ねる首魁、コアだ。

 

「そっちは瑠美がメインで使っちゃったから、瑠美が答えるね」

 

『悪くなかった。あれならもっと愛を感じることが出来る……!』

 

『そう、気に入ってくれたようで嬉しいわ。ふふふ……』

 

 底知れぬ笑みを浮かべるコアにおぞましさを樹は感じていた。

 願いを叶えるためならばと、コアの側についたが別にコアの信奉者というわけではない。

 あまり深くコアと、いや、ここの連中とつるむ気はないと思っていた。

 

『ひとまず、向こうの戦力を削ぐことが出来た。目的は達成よ』

 

『それで、次は何をすればいいんです?』

 

『次は、旧いライダー達の殲滅。本格的にね』

 

 コアの言葉に、アリスがにやついた。

 今回の戦いはあくまで前哨戦。

 ライダーの数が多い聖山高校に絞ったものであった。

 それがいよいよ、本格的にライダーバトルを行える。

 その事実にアリスは快感を覚えていた。

 

「いっぱい愛せるのかな、瑠美」

 

『そうね、いっぱい愛し合えるわよ麗美』

 

「……話が終わりなら、帰るけど」

 

『樹ちゃんつれな~い。少女が集まってるんですからガールズトークに花咲かせましょうって~。でないと下着の色バラしますよ~』

 

「別にバラされて困るもんじゃないな。帰る」

 

 樹は特に気にすることなく帰宅。

 その背を、頬を膨らませたアリスが見つめていた。

 

『それじゃあ貴女達も各自で行動なさい』

 

「分かった……」

 

『は~い』

 

 麗美もまた家路につき、アリスは鏡から消え去った。

 残るはコアのみ。

 

『御剣燐……。本気が見たいのよ、私は……』

 

 誰にも聞かれぬ陰謀を呟き、コアもまた姿を消した。

 未だに底知れぬコアの謎は雨降る夜に隠されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰に起こされるわけでもなく、自然と目が覚める。

 時刻は6時半。 

 いつも通りの起床時間だが、珍しく誰も起こしに来なかった。

 

「……学校、ないからか」

 

 あんなことが起こったのだから、当然だ。

 県の教育委員会は一斉休校の処置をとった。

 妹の美香はそれはそれは良い眠りに就いているだろうと、なんとなく想像がついた。

 ただ僕は二度寝する気にもならず、いつも通りにベッドを出た。

 

「あら、おはよう。寝てても良かったのに」

「なんか、ふつーに目が覚めちゃって」

「そう。朝ごはんは?」

「食べる」

 

 キッチンで朝ご飯の支度をしていた母さん。

 父さんは普通に仕事があるのでいつも通り、スーツ姿で新聞を読んでいた。  

 広げていた新聞には大きく、昨日のことが取り上げられていた。

 

「……眠れたか?」

「うん。なんか、いつも通りって感じで」

「そうか」

 

 テーブルにつき、そんな会話をした。

 父さんなりの心配だったと思う。

 母さんがご飯をよそっているのが目に入ったので、キッチンへ。

 父さんと自分の分のご飯を持ちテーブルへ。次は味噌汁を持って往復。味噌汁は気を付けなければならない。

 我が家の味噌汁はめちゃくちゃ熱いのだ。

 おかずはベーコンエッグとミニトマト。いつもと特に変わったことない朝食。

 母さんも席について食べ始めたので、僕も。

 

「いただきま……」

 

 そこまで言って、ふと思い出した。

 昨日のこと。

 藤上今日子の言葉を。

 

「君は、鏡の中の私……コアにより願いが叶えられたことで生まれた」

 

 今になって、気にしてしまった。

 昨日は気にする余裕がなかったというのもある。今、三人で食卓を囲んでいるというのもある。

 ただ、僕は……僕と美香は、コアがいなければ生まれてくることはなかったというのか。

 父さんと母さんが結ばれることもなく。

 その事実が、茨となって全身に絡み付いてきたような。

 

「燐? やっぱり食欲ない?」

「あ……。いや、大丈夫。ちょっと考え事してただけだから。いただきます」

 

 塩味が利いた目玉焼きから手をつける。

 これを食べるとご飯が欲しくなるので続いてご飯を口にする。

 咀嚼して、飲み込む。

 この事も、こんな風に簡単に飲み込めてしまえばいいのに。

 食事が喉を通る度に、どうにもそんなことを考えてしまう。

 

 

 

 

 

 朝ごはんも食べ終わり、父さんが家を出る時間。

 母さんはキッチンで洗い物をしながら、いってらっしゃいと送り出した。

 僕もいってらっしゃいと父さんに言って……。ふと、身体が動いていた。

 玄関で靴を履く父さんに、いっそのこと聞いてみようと思った。

 

 なんで、母さんと付き合おうと思ったの、と。

 

「父さん」

「なんだ」

 

 父さんはまっすぐ僕を見つめて、僕の言葉を待っている。

 だけど……。

 

「あ、いや……その、気をつけて」

「……ああ」

 

 父さんは仕事に出かけてしまった。

 言えなかった。

 いざ、言おうと思っても駄目だった。

 玄関に突っ立ってまま。

 なんともまあ、自分でもどうかしていると思うのだが。

 願いが叶えられて生まれた自分というものに対して、僕はまだ何を訊いて、何て言葉をかけられればいいのか。

 それを見つけることが、まだ出来ていなかった。

 

 

 

 

 朝9時過ぎ。

 ようやく美香と美玲先輩が起きた。

 美香は純粋に爆睡を決め込んでいただけだが、美玲先輩はあまり寝付けなかったらしい。

 眠れたのも、ほとんど早朝になってからだったとかで調子が悪そうだった。

 そんななので寝てた方がいいと母さんと僕が美玲先輩に言って、美玲先輩は二度寝中。

 寝れるといいけど……。

 

 それからまた一時間ほど経って、ひとまず僕は……家から出ることにした。

 外の空気を、吸いたくて。

 ちょっと散歩に行ってくると母さんに言って、適当に近所をぶらつく。

 天気は忌々しいぐらいに晴れ。昨日の雨雲はどっかに行ってしまったようだ。

 それにしてもなんだか、いやに静かだ。

 自分以外、誰もいないんじゃないかってぐらい。

 休校中なんだから子供達が遊んでてもいいんじゃないかって思いながら、無人の公園のベンチに座る。

 まあ、あんなことがあったから外に出したくないだろうな。

 

『燐くん』

 

「キョウカさん……」

 

 持ち歩くようになった折り畳み式の鏡に映るキョウカさんが声をかけてきた。

 

『大丈夫ですか燐くん? 調子が良さそうには見えませんが……』

 

「身体が悪いってわけじゃないから安心して。戦うってなったら全然戦えるから」

 

『そういうことを聞いてるんじゃなく……。何を、抱えてるんですか?』

 

「……なんだかこうして、キョウカさんと二人で話すって久しぶりだね」

 

『そうですね……。最近の燐くんは美玲ちゃんにぞっこんですからね~。いいんですか? 私と二人で話して。怒られるんじゃないですか~』

 

 どこか拗ねたようにキョウカさんは言うが、そもそも話しかけてきたのはそっちなわけで。

 まあ、でも……。

 

「キョウカさんになら、話してもいいかな」

 

『え……?』

 

 キョウカさんに、藤上今日子と出会い、語られたことを全て話した。

 キョウカさんにとっても、無関係ではないから。

 お母さんの話なのだから。

 そして、僕のもっぱらの悩みの理由も。

 こうやって口にして、話を聞いてもらったからこそ、言語化出来た。

 

「……なんかさ、願いを叶えられて生まれた僕が、他の人達の願いを切り裂くなんて、って思ってさ」

 

『……燐くんは、優しすぎます』

 

「そんなことないよ」

 

『いいえ! 大体、燐くんが戦いを始めた理由そのものからして……』

 

「違うよ。僕は罪悪感で戦ってた。ただ、自分が楽になりたいから。罪の重さから逃れたくて、救われたくて……」

 

 ただ、僕がミラーワールドを開いてしまったことで亡くなってしまった人達への責任を果たすために。

 罪を償おうとしてただけ。

 自分のためにしか戦っていないんだ、僕は。

 

『けど、大切な人達のために戦うって、燐くんは……』

 

「それだって結局、自分のためだろう?」

 

『ああもう燐くんの分からず屋! どうしてそう何もかも自分のせいにするんですか!』

 

 キレた。

 キョウカさんが、キレた。

 

『いいですか! 一兆歩譲って燐くんが自分のために戦っていたとしても! その自分のための戦いで多くの人が救われてるんです! 結論、燐くんは多くの人のために戦う優しい人になるわけです。異論は!?』

 

 ありませんと答えるしかなかった。

 ここで異論ありなんて言おうものなら、鎮まってくれないだろうから。

 

『はあ……。大体、優しくない人だったら私の分の罪を背負うなんて言いません』

 

「あー……そう、かな」

 

『そうです。なので気にせず他のライダーを一網打尽に叩き斬ってライダーバトルを終わらせましょう!』

 

 待って。

 その言い方だと、僕がライダー殺してるみたいになる。

 けど、なんだかそのキョウカさんの勢いが面白くて、思わず笑いがこみ上げてきてしまった。

 そこからは、なんだか普通の雑談になって少し胸が楽になった気がする。

 ただ、それでもどこかにまだ胸のつかえが残っている。

 いや、むしろこっちが本命のようだ。

 とはいえ胸が軽くなったのも事実。

 キョウカさんと話せて良かったと思うと同時に、12時を知らせるチャイムが街に響く。

 お昼だな。

 お腹空いたな、なんか。

 笑ったからかも。

 家に戻ろうと、公園を出たら見慣れたスーツ姿が目に入った。

 

「父さん?」

「……燐か。なにしてるんだ、一人で」

「散歩。父さんこそ、こんな時間にどうしたの?」

「半休にしてきた」

 

 なるほどと父さんと一緒に家の方向に向かって歩き出す。

 だが、父さんは立ち止まってこんなことを言い出した。

 

「昼、食べてかないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 家の近所にこんなラーメン屋があるなんて初めて知った。

 結構古いところのようだけど、全然知らなかった。

 お客さんは昼時というのもあって、僕ら以外にも五人ほど。

 狭い店内なのでもう少ししたら埋まってしまいそうだ。

 お好きな席へと言われたので二人掛けのテーブルに腰掛ける。

 

「こんなとこがあったんだな」

「え、知ってて入ったんじゃないの?」

「初めて入った」

 

 父さんまで知らなかったとは。

 というか普通にちょっと歩いて、知ってるお店だから入ったみたいな自然さがあったんだけど。

 父さんは、たまに不思議だ。

 まあそんなことはともかく何を食べるかだ。

 とはいえ決まってるんだけど。

 

「僕、しょうゆラーメンで」

 

 初めて入ったお店。

 であれば基本のものを頼むというのが自分流。

 メニューにも特にこれがイチオシみたいなのもなかったし。

 

「それだけでいいのか?」

「え、うん」

 

 父さんが店主を呼ぶ。

 人の良さそうなおじいちゃんだ。

 父さんもしょうゆラーメンを選んだようで、しょうゆラーメンが二つ。それと、餃子が頼まれた。

 ほどなくして、しょうゆラーメンと餃子がテーブルへ。

 醤油の香りが鼻腔を通って空腹をより刺激してくる。

 澄んだ醤油色のスープは丼一杯に満たされていた。その中に細縮れ麺が浸かり、チャーシュー一枚、メンマが結構たくさん。そして、ナルトが添えられている。

 ひとまず、食す。

 いただきます、と。

 普通のラーメンと言えば地味に思われるかもしれない。

 ただそれが良かった。

 普通に美味しいラーメンって、なかなか出会えないものである。

 父さんが餃子も食べろというのでいただく。パリッともちっが程よいバランス。

 肉汁が熱くて舌を火傷しかけたが、問題なく美味しいと言える。

 近所にこんなお店があったなんて、これから通おうと思うと同時に、なんでこれまで知らなかったんだという思いが沸き上がる。

 

「……それで、何を聞こうとしてたんだ」

 

 父さんが、いきなりぶっこんでくるものだからラーメンのスープが変なとこに入ってむせる。

 せっかく忘れてたのに……。

 けど、父さんには今朝のあれから色々とお見通しだったというわけで……。僕も覚悟を決めて、問う。

 

「父さんは、さ。もし、母さんと付き合って結婚するってことが誰かに定められていたとしたら、どう思う?」

 

 恐る恐る、尋ねた。

 あと、場所が場所なので他の人に聞かれたくないというのもある。

 

「……なんだそれは。その、誰かというのはなんだ、神様か」

「ああ、うん。そんなものだと思って……」

 

 父さんの質問に答えると、父さんはラーメンを啜った。

 チャーシューも食べて、スープを飲み、餃子を食べ……。

 最後に、水を飲み干した。

 

「父さん」

「なんだ。麺、伸びるぞ」

 

 僕のラーメンを指差し言った。

 伸びるのは嫌なので、僕も麺を啜る。

 

「────その質問の意図は分からないが、いいんじゃないか。別に」

 

 食べてる最中に、父さんはさっきの質問に対する返答をした。

 こっち、食べてる途中なんだけど。

 

「伸びるから、ラーメンを食え」

 

 父さんは僕のラーメンのことを気にしてばかり。

 こうなったらもう食べ終わるしかない。

 しっかり味わって食べたいとこだけど。

 

「……まあ、別にそれで迷惑を被ったりだとか、不幸だと思ったことはない。だから、まあ……そういう運命だったんじゃないか」

 

 人が食べてる時にばかり話す。

 父さんは水を飲んで……って、それ僕の水。

 抗議しようとするとちょうど、店主の奥さんであろうおばあちゃんが水を持ってきてくれた。

 お礼を言って水を受け取り、口に含む。

 冷たい感触が、焦る胸に心地よかった。

 

「つまり、感謝してるってこと? 運命に」

「それも違うな。第一、そんなことを考えたことすらなかった。そもそも、運命として定められてるなんてのはそれこそ神様でないと分かるものじゃないだろう。偉そうな言い方だが、俺はあいつを自分の意思で選んだ。俺は、そう思っている」

 

 自分の意思で選んだ。

 その言葉が、なによりも嬉しかった。

 ああ、そうか。そういうことか。

 自分が何に気を病んでいたのかようやく分かった。

 願いが叶えられて結ばれた父さんと母さんが、ちゃんと愛しあっているのかどうか。

 それを気にしてしまったのか。

 

「ありがとう、父さん」

「まったく、妙なことを聞いてくる。二度と答えないぞ」

「はーい」

 

 照れくさそうに席を立った父さんの会計を待って店を出た。

 空はまだまだ青く、太陽は高い。

 今日の空のこと、ようやく好きになることが出来た。




次回 仮面ライダーツルギ

「あははっ。殺す相手に褒められるの嬉しくねー」

「ほ、補導はガチっぽいね……」

「私は仮面ライダー狼牙」

「もし、お前の言うそれが魔女だってんなら……。意外と、魔女ってやつは多いらしい」

運命の叫び、願いの果てに────。


ADVENTCARD ARCHIVE
ADVENT(仮面ライダージュリエッタ)
スピアーシャーク 5000AP

上谷真央=仮面ライダージュリエッタと契約しているノコギリザメ型モンスター。
前方に突出した吻と背びれ、尾びれは刃となっており厚さ50センチの鉄板もいとも簡単に真っ二つにする程。
胸鰭にはブースターが装備されており、地上であろうとブースターで飛躍する。

海原裂く刃を向けられた時、死を覚悟せよ。
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