仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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ALTERー7 屍山

 ちょっと久しぶりのマジックショー。

 気合が入る。

 特に、今回は稼ぐことを意識していかないと。

 

「というわけで撒菱茜脱ぎます!」

「脱ぐなバカ」

 

 リビングのソファでスマホを弄り、こっちには目もくれず瀬那のツッコミが炸裂する。

 ひどく冷静なツッコミ。というか、マジレス。

 もっとノッてくれても良くない?

 

「も~冗談だって~。なに? 私の柔肌が見も知らぬ誰かの目に晒されるのが嫌だったのかな~?」

「一般の方々にバカのバカみたいな身体をお見せしたら目の毒になる。公害だ、公害」

「人を水俣病とか光化学スモッグみたいに言うのやめよ?」

 

 顔は笑ってるけど、心は泣いてるよ私。

 

「も~脱ぐのは冗談だって~。でもちょ~とスペシャルな衣装でやるつもりだよ! ほら見てこれバニー……」

「秒で補導されるわ」

「ほ、補導はガチっぽいね……」

「大体、なんでそんなん持ってんだ。あと、藤女の奴がそんなんやったらヤベーだろ。なんか普通に……ちょっとスカートの丈短くするとか、つか衣装ぐらいで変わるかよ」

 

 ふふーん。分かってないなぁ、瀬那は。

 

「女の魅力で男を惑わし、財布の紐を緩くさせる。常識だよ常識。私ったら魔性の女! 魔女だよ魔女」

「魔女、ねぇ……」

 

 瀬那は魔女という言葉が引っ掛かった様子で、スマホを弄る手が止まる。

 なんだろう。

 今日の瀬那は、なんだか様子がおかしい気がする。

 

「……もし」

「?」

「もし、お前の言うそれが魔女だってんなら……。意外と、魔女ってやつは多いらしい」

「瀬那……?」

 

 瀬那は、笑っていた。

 楽しそうに、ではなく。嘲るような、自虐的なような。

 やっぱり、今日の瀬那はどこか様子がおかしい。

 

「ほら、そろそろ行けよ。時間もったいねぇだろ」

「う、うん……。行くけど、瀬那は?」

「アタシはもうちょっとしてから出る」

「そか……。じゃあ、鍵閉めよろしくね~。いってきまーす」

「あ、待て。どこでやんの」

「駅前だよ」

 

 答えると、「そう、いってら」と瀬那は小さく手を上げた。

 そんな瀬那に少し目線を残しつつ私は家を出る。

 瀬那も働くみたいだけど、なにするんだろ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バカが出てから30分ぐらいしてから、外出。

 向かうは屋戸岐町。

 そこの、安さと品数が売りのでかい店の前が待ち合わせ場所。

 ここは、そういう場所。

 ちょっと見渡せば、ご同業……とは、言いたくないな。とにかく、自分を売り物にしてる女が二人はいる。

 別に、こっちはそういう職業をやってるわけじゃない。

 むしろ、嫌いなぐらいで……。

 

「……はは、嫌いなクセにやってんだもんな」

 

 ああ、嫌いだ。

 自分を売る女も、女を買う男も。

 嫌い、嫌いだ。

 だけど、これしか知らない。

 親がそうなのだから、嫌でも理解させられた。

 小さいアタシと同じ屋根の下にいながら、隠すこともなくあの女は抱かれていた。

 あれは、男がいなきゃ駄目な女だ。

 男ならなんでもよかった。そういう女だ。

 

「……ぁぁ……」

 

 息と共に憎しみを吐き出す。

 いつからだろうか、これが癖となっていた。

 こうしなければ、こうしなければあの人への憎悪が溜まって毒になってしまうから。自家中毒を引き起こしてしまう。

 ただ、久しくこの感覚を忘れていた気がする。

 それは、なんでだろうか……。

 

「君? ゆめちゃんって」

  

 見知らぬ男の声に、引き戻される。

 

「……はい。ゆめです」

 

 もちろん、偽名だ。

 いくつかあるうちの、ひとつ。

 

「アプリの写真よりかわいいね」

 

 男が作った笑い顔を浮かべ、世辞を言う。

 男の顔は印象に残らない。若いのか、老いているのか、分からない。

 どんな顔か、分からない。

 靄がかかったように。

 ただ、靄がかっているのは男の顔ではなくアタシの目だ。

 いつも、いつもこうだ。

 アタシは、アタシを抱く男の顔なんてちっとも見る気がないのだから。

 

 何を話しているかも分からない。それでも口は動いている。

 

 男は笑っている気がする。笑うとは、牙を剥くことと同じ。

 

 男はアタシを見ている。見定めている、アタシの価値を。

 

「あ……」

 

 気が付くと、ホテルが多い通りに入っていた。

 ああ、そろそろか。

 ここまで来ればあとは入るだけ、入れるだけ。

 この男の欲を、アタシの、中に……。

 

「ちょっとあなた! その子未成年ですよね!」

「……は?」

 

 女の声だ。

 若い、女の声。

 誰だ……?

 男はいなくなっていた。

 面倒を嫌ってのことだ、当然だ。

 

「あなたも、なんでこんなことをしてるの! 分かってるの自分がしてること!」

「あんた、は……」

 

 ああ、見覚えがある。

 昨日会った、あいつ……紗枝を探してる女だ。

 ……なんだって、こんなとこに。

 

「私のこと、覚えてるわよね? 惣田早苗、昨日会ったでしょ」

「……んだよ」

「え?」

「何すんだよ、邪魔しやがって!」

 

 ふつふつと、怒りが沸いてきた。

 

「金蔓がいなくなっちまっただろ! ふざけんなよ!」

「金蔓って、やっぱりあなた……。駄目よ、そんな方法でお金を得るなんて」

「んなこと聞いてないんだよ! あんたに関係ないだろ!」

 

 こんな奴と一緒になんていたくない。

 こんな、こんな、いかにも温室育ちって感じの輩とは。住んでる世界が違うんだ、住んでる世界が。

 こんな方法でなきゃ、金を稼げない。これしか知らないアタシとは……。

 

「待って!」

「ついてくんじゃねえよ!」

 

 走り去る。

 とにかく、一秒たりとも一緒にいたくはなかった。 

 

自分が傷だらけなことを思い知らされてしまうから。

 

「くそ……くそ……!」

 

 心臓を抉り出されるような不快感で、劣等感が押し寄せる。

 走り、通りすがる人々は誰もが、誰もがアタシよりも上にいやがる……!

 走っても、走っても、アタシのいるべき場所、帰るべき場所は見つからなかった────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マジックショー。なかなか、盛況。

 駅前ということもあって、老若男女を問わず見物客は増えていった。

 今は、ちょっと休憩時間。

 現在までの売上を確認中。

 うんうん。それなり、それなりっと。にへへ。

 これなら今晩は素パスタをペペロンチーノには出来そう。

 

「お、撒菱じゃん」

「え?」

 

 親しげに話しかけられ、顔を上げると同級生がいた。

 中務理恵。

 帰宅部。

 そんなに話すってわけでもないけど、話せば普通に楽しい感じ。

 もふりたくなるツインテールが特徴で、仲の良い友達からはよくもふられているのを見かける。

 

「休校だからって金稼ぎかー?」

「武者修行だよ武者修行! ……嘘です、今回はちょっと金欠なので真面目に稼ぎに来てます」

「金欠って、私じゃあるまいし。ましてや、大人気マジシャンの娘が?」

「うちの親は私にマジックを教えて、「よしこれで稼げるようになったな。じゃあ今月からは小遣いやらないから。自分で稼いでこい!」ってなわけですよ」

「意外とスパルタなんだ。ま、才能はあるし問題ないっしょ」

 

 ふふん。まあねぇ。

 とはいえ、今は私一人ではなく瀬那の分まで稼がなければなので大変なのだ。

 休憩もそろそろ切り上げて、午後の部を始めないと。

 

「そんじゃ、休憩終わり! 稼ぐぞ~!」

「がんばれ」

「うむっ!」

 

 じゃあねーと中務さんとは別れて、午後の部開始。

 さあみんな集まって、楽しいマジックショーが始まるよ~!

 

 

 

 

 

 

 

 扉を叩くのはやめた。

 叩いたって、無駄だったから。

 どれだけ声を上げても無駄だったから。

 ここに、人はいない。

 いるのは、あの子だけ。

 それ以外に、誰かが来ることもない。

 鏡もない、デッキも取られてしまった。

 彼女は適当に私に合うサイズの下着と新しい服を買って、渡してきた。それ以降、彼女は来ていない。

 どうにかしたら、脱出出来るだろうか。

 その考えだけをなんとか頭に留めなければ、いよいよ自分までおかしくなってしまう。

 あと、何かを考え続けていないと本当に苦しくなってしまう。

 

 ……ああ、なんで私はこんなことになってしまったのだろう。

 分からない。

 本当に、分からない。

 彼女を助けて、私は……性的暴行を受けた。そうとしか、言えなかった。 

 そして、監禁されている。

 なんで?

 どうして?

 彼女は、私をライダーと知った時は殺すつもりでいたのに。

 それがどういうわけか、あんなこと……。

 下半身に残っていた違和感も、今は落ち着いた。

 あんなこと、なかったかのように。

 

 気色が、悪かった。

 怖かった。

 彼女の欲望が、ただただ自分にぶつけられる感覚。

 こんなこと、同性からされるなんて思ってもみなかった。

 

「……お腹空いた」

 

 ふと、そんな言葉が無意識に出ていた。

 少食で、あまり空腹感というものを感じない私には久しぶりの感覚だった。

 よくよく考えると、昨日の朝食が最後の食事だ。

 流石に、空腹にもなるだろう。

 けど、それだってどうしようもない。

 こんな何もない部屋では。

 どうしよう……どうしよう……!

 ああ駄目だまた焦りが……。

 焦るのはいけないって分かってるのに、分かってるのに……!

 少しお腹が空いたぐらいじゃ死ぬわけないし……。

 死ぬ、わけ……。

 

 

 フラッシュバック。

 突き刺した感触。

 流れた血、滴る血。

 誰かの、血。

 北さんの、血……。

 

「ッ……。違うの……殺したかったんじゃないの……。私は……」

 

 生きたかった。

 死にたくなかった。

 それしかない、私には。

 願いを叶えるとかより前に、それしかなくて……。

 

「殺せば、生きていられる……」

 

 重い扉が開かれて、彼女が現れる。

 

「貴女が生きるには、殺すしかないんです。殺すしか」

「……! 駄目、です……。人殺しなんて……!」

「それは法で定められたことでしょう? 法は罰を与えても、神が罰を与えるかはまた別の話」

「神……?」

「私には神の声が聞こえるのです。苦しむ人々を救済せよと。神のもとへ導けと」

 

 神のもとへ……?

 やっぱりこの人おかしいんだ……。

 

「お願いだから、ここから出してください……! なんのために私を閉じ込めるんですか! なんで、私を……」

「貴女は、私の……。……貴女にも、きっと神の声が聞こえるようになりますよ」

 

 彼女はそう言って振り返り、部屋から出ようとして……。

 

「待って!」

 

 その肩に掴みかかる。

 逃げるチャンスだ。今しかない。

 けど、私の手は簡単に払い除けられて、押し返されてしまった。

 尻餅をついている間に彼女は扉を閉じて……。

 また、私は閉じ込められてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街をぶらつく。

 イヤホンから流れるピアノの旋律が雑踏、雑音をかき消し、人々の中に紛れ込む。

 こうしていると、どこか落ち着く自分がいる。

 また、激情に駆られもする。

 ピアノ、ピアノ……。  

 奏でる、奏で続ける。

 アタシの音を。

 ずっと、ずっとアタシの中で鳴り響くこの音を、アタシは表現したい、吐き出したい、奏でたい。

 この願いが、日毎に増している気がする。

 

「……黒峰」

 

 人混みの中で、知った顔と出会った。

 

「あれ、新島さんじゃないですか~。お久しぶりですね」

  

 新島陽菜。鐵宮のとこで一緒だった。

 昨日の学校での戦いにいなかったし、あれ以来接触もなかったので消息不明というかなんというか。有り体に言えば死んだと思ってたんだけど。

 イヤホンを外し、ちょっとばかし会話に付き合おう。

 

「鐵宮のとこいた時からそんな話しちゃいませんでしたけど、なーにやってたんですか今まで」

「別に、関係ないだろ……」

「別に責めてるわけじゃないですって~。元々、つるんではいましたけどアタシ達って謂わば個人事業主じゃないですか。仲間意識とかないですし、鐵宮も死にましたし。どこで何してようと関係ないですって。ただの会話ですよ会話」

 

 新島の表情は厳しい。

 分かりやすく警戒してる。

 警戒してるってことは、まだデッキを持ってると見ていいだろう。

 

「デッキ、持ってるんですか?」

「だったら、なんだよ」

 

 その言葉に思わず吹き出してしまった。

 

「ライダーとライダーが出会ったら戦うのが道理ですよ。分かってますよね? それともなんですか、あんたも戦いを止めるとかほざくわけ?」

「……違う。あたしも、戦って願いを叶える……!」

「そうこなくっちゃ」

 

 不敵な笑みを浮かべ、人混みを離れるアタシ達。

 人気のない通り、寂れた雑居ビルのショーウィンドウにデッキを翳す。

 

「変身」

「……変身」

 

 並び立つ深緑のライダー、甲賀。茶色い、熊のようなライダー、グリズ。

 細身で軽装な甲賀に対し、グリズは屈強な鎧を纏い、また変身者である新島陽菜の鍛えられた肉体から放たれる力強さは威圧的。

 だが、甲賀が有利な戦局であった。

 広い街中というフィールドは甲賀の機動力と隠密性を最大限発揮出来る。

 仮に戦場が檻の中であれば、グリズに分があったがそれはIFの話しだ。

 

 ミラーワールド。人のいない世界。

 鏡の向こう側には大勢の人が見える。

 そんな孤独の世界で剣戟が始まる。

 甲賀とグリズの召喚機は直刀と両刃の斧。まずはカードを使わずに、様子見がてらの打ち合いが行われていた。

 

「……ッ!」

 

 素早い動きで駆けて、跳び回る甲賀にグリズは翻弄されていた。

 ビルの壁やガードレール、自販機、街路樹などあらゆるものを足場にして跳躍。グリズに目掛けて、逆手に構えた直刀で斬りかかる。

 

「反応出来てないじゃん!」

「くっ……!」

 

 防戦一方のグリズ。斧で斬撃を受け止め続けているが、少しずつその身に刃が当たりつつある。

 決定的なものだけは、受け止められているが。

 このままでは一方的にやられてしまうと、状況打破のためにカードを切る。

 刃と刃の間に熊の顔を模した意匠があり、ここがカード挿入口となっている。

 熊の口を開けるようにスライドさせ、ベントイン。

 

【STRIKE VENT】

 

【GUARD VENT】

 

 グリズの両手に熊の手を模した手甲が装備される。

 短いが爪を模した刃も備わり、攻防一体の武装。

 また、胸と両肩に茶色いアーマーが追加され防御力は更に向上した。

 

「面倒だな……」

 

 火力に乏しい甲賀では、この防御を突破することは難しい。そのため、そう呟いた。

 しかし、それは甲賀にとっては大した問題ではなかった。

 むしろ、読み通り。

 

(鐵宮についたライダーの情報はほとんど把握してる。どんな戦法を取るかもね)

 

「らぁぁぁ!!!!」

 

 迫る巨体。

 その大きな手を振るい、甲賀を狙う。けれど、甲賀からしたら避けてくださいと言っているような大振りばかりで当たることはない。

 冷静に、冷静にグリズの攻撃を見切っていた。

 何度目かのグリズの攻撃を避けた甲賀は、軽く蹴りを入れる。なんてことない、素人がやるような足裏で押し込むような蹴りだ。

 バランスを崩したグリズは重い鎧も相まって尻餅をついた。

 すぐに立ち上がろうとしたグリズの眼前に、直刀の切先が置かれる。

 

「カードを使わなくても、あんたには勝てるねこれは」

「あたしはまだ……!」

 

 反抗しようとするグリズであったが、仮面を蹴り飛ばされる。  

 仮面の下で揺れる頭は軽い脳震盪を引き起こす。

 

「ぐ……あ……」

「痛めつけて興奮するとかそんな趣味はないからさ……。さっさとトドメを刺すね」

 

 甲賀が引いたカードは、ファイナルベント。

 最大火力の技で、グリズを仕留めるつもりでいる。

 直刀の刃と柄の間のカード挿入口へとカードを入れ、読み込ませようと────。

 

【ADVENT】

 

「はっ……ッ!?」

 

 突然、響いた召喚機の音声。

 そして現れる、白と青に彩られた巨大な狼型モンスター。

 甲賀に噛み付き、振り回す。地面や、ビルに叩き付ける。

 

「がぁぁっ!?」

「なに……誰の……」

 

 困惑するグリズの目の前に、あのモンスターと同じような白と青のライダーが着地する。

 

「あははっ。ラッキー、漁夫ったわ」

 

 自身の契約モンスターにいいようにやられている甲賀を見て、そのライダーは呟いた。

 

「この、くそぉッ!!!」

 

 甲賀は逆手に持った直刀を、狼型モンスターの顔面に突き立てる。

 それに怯んだモンスターは甲賀を吐き捨てた。

 脱出に成功した甲賀ではあるが、そのダメージは非常に大きい。

 立って歩くのすら、やっとなほどに。

 

「なん、だよ……お前……!」

「私は仮面ライダー狼牙。別に覚えなくてもいいけどね、どうせ死ぬんだしさ」

「狼牙……?」

 

 そんなライダー、自分は知らない。自分は全てのライダーを把握していた。なのに、全く未知のライダーがいた。

 その事実が、甲賀に小さくない動揺を与える。

 情報力に自信があっただけに、余計に。

 

「虫の息なお二人さんに教えてあげよう。私はライダーの数が多すぎるんで、潰し合うのを待ってたわけですよ。そんで、程よい数になった辺りで……ザクッとね」

 

 淡々と種明かしする狼牙を甲賀とグリズは黙って聞くことしか出来なかった。

 勝利寸前の隙が生まれたところを強襲し処理、残った既に弱っている方は楽に殺す。

 それが、狼牙の作戦。

 契約モンスターに餌を与える以外の戦闘を避け、徹底的に自分の情報を消して、最終盤まで潜む。

 それが、狼牙の計画。

 

「だから、ライダーバトルはこれが初めて……の割に一気に二人も殺っちゃうとか私、殺しの才能あったりする? うわ、いらねー」

「あんた……」

「ははっ。そんじゃ、トドメ刺しますね。さよなら、ライダーの先輩」 

 

 青いデッキから引き抜く、ファイナルベント。

 斧型バイザーの挿入口を開き、カードを読み込ませる……その寸前。

 

「あーあ、確かにしてやられたわ……。初めての割に上出来だよ、あんた」

「あははっ。殺す相手に褒められるの嬉しくねー」

「……違うっつの」

「は?」

「立場が逆だって言ってんの!」

 

 甲賀は直刀を構えると同時にカード挿入口を閉じる。

 狼牙の乱入の前に、セットしていたものだ。

 

【FINAL VENT】

 

「はっ?」

 

 突然のことに呆ける狼牙の背後に、甲賀の契約モンスター。ステルスニーカーが現れる。巨大な蛙の舌が狼牙を巻き取り、拘束した。

 

「やあぁぁぁ!!!!!!!」

 

 駆ける甲賀。いまある力を振り絞り、駆ける。分身を生成し、手には巨大な手裏剣を構える。

 無数の甲賀は飛び上がり、手裏剣を狼牙目掛けて放つ!

 

「ッ!? せ、セレストウルフ!!!」

 

 狼牙は契約モンスターの名を叫んだ。

 青と白の狼、セレストウルフは狼牙を拘束するセレストウルフに体当たりをして怯ませる。

 それにより狼牙は舌の拘束から解放され、とにかくその場から飛び退いた。

 さっきまで、狼牙がいた場所に突き刺さる巨大な手裏剣達。衝撃で、あたりを土煙が覆う。

 

「……はぁー! 危なかったー!!!」

 

 なんとか退避した狼牙は生を実感していた。

 そして、気付く。

 晴れゆく煙。

 そこにはもう甲賀も、グリズもいなかった。

 

「はぁ……やっば。二人殺るどころか二人も取り逃がすとか……おまけにこっちのこと知られちゃったし、最悪だ。才能ねー」

 

 ぶらぶらと歩き、手近な鏡から現実世界へと戻った狼牙。

 仮面は消え、変身者の姿が露となる。

 仮面ライダー狼牙の正体は中務理恵。

 

「はあ、次はもっとちゃんと奇襲しよ」

 

 人ごみに消えていく理恵。しかし、そんな彼女を鏡の中からステルスニーカーが見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 走り続けて、繁華街とは真逆の静かな住宅地にやって来てしまった。

 再開発も行われず、古いアパートや家、なんかの工場とか雑多な土地。

 人通りもなく、寂れていた。

 シャッター閉まる、商店街の成れの果て。

 やってる店は少ない。おばあさんがやってる惣菜屋とか靴屋とか服屋とか、そんなもん。

 そこを抜けると、交番があった。

 警察は嫌いだ。

 ろくな思い出がない。

 私がこんなになっても、助けて……いや、やめとこう。

 表に立っている警官もいなかったので、素通り。

 変な動きをした方が、怪しまれる。

 そうして、少しずつ夕方に近付く時の中で、再会した。

 

「お、こんなところで出会うとはね」

「あんた……」

 

 喜多村遊。

 平屋から出てきたところと偶然鉢合わせた。

 長い銀髪がよく目立つ、喧嘩狂い。

 

「ふふーん。ちょうどよかった」

「……なにが」

「ヤりたくってさ、ライダーバトル。相手してよ」

「……ああ、いいぜ」

 

 そうこなくっちゃと、喜多村は笑顔を浮かべた。

 ああ、いい。

 なんでもいい、誰でもいい。

 アタシを……ぶつけさせてくれよ。

 

 

 

 場所を変えて、人気のない神社の目の前。

 二人は対峙し、デッキを手にする。

 

「さーて、ヤろっか! ほいっ!」

 

 遊が宙に投げたガラス片。

 落下し、二人の目線の高さに来ると同時にデッキを突き出し、ベルトを呼ぶ。

 

「変身」

「変身」

 

 ガラス片が地に落ち、割れると同時に仮面ライダーとなる。

 仮面ライダースティンガー。

 仮面ライダーレイダー。

 足下に散らばったガラス片からそれぞれミラーワールドへと入り……戦いが始まる。

 

【STRIKE VENT】

 

【STRIKE VENT】

 

 レイダーの両腕に剛腕が、スティンガーは右腕にスズメバチの腹部を模した手甲が装備される。

 二人は合図するでもなく同時に走り出し、殴りかかる。

 速かったのはスティンガーの方だった。

 手甲がレイダーの胸部を捉え、火花が散る。更に、素手の左が仮面を打ち抜く。

 

「あはははは!!!! 強くなったね!!!!」

 

 後ずさったレイダーが歓喜する。

 純粋な闘争をくれる相手に。

 純粋に殺意を向けてくる相手に。

 混じりけのない、闘争。

 それが、ここにある。

 

「……るせぇ……」

「今度はこっちから!!!」

 

 再び、殴りかかる剛腕。だが、先程よりも速い。

 スティンガーの、瀬那の内臓に響く鋭いパンチが直撃する。

 

「……ッ!?」

 

 一瞬、意識が飛びかけた瀬那であったが、よろけた足を踏ん張り右の手甲でレイダーの顔面ど真ん中を殴り飛ばす。

 更に、蹴り飛ばそうと右足が出る。しかし、その足はレイダーに受け止められてしまう。

 剛腕が、足を握り潰そうと力が籠められるのを感じ、咄嗟にスティンガーは今の状況を利用した。

 軸足となっていた左足で地面を蹴って、飛び上がる。その一瞬で、レイダーの頭部を蹴り飛ばす。

 

「がっ……!? ははっ!!!」

 

 バランスを崩し、そのまま石階段を転げ落ちていくかと思われたレイダーだったがその執念は凄まじく。

 一度離したスティンガーの右足を再び掴み、そのまま縺れたまま二人は石階段を転がり落ちていった。

 全身に痛みを感じる両者。

 だが、闘争に喜ぶ遊の方が精神的な余裕があった。

 対する瀬那は日中の苛立ちや、自分の劣等感などを引き摺りそれをぶつけるために戦っている。

 ポジティブな遊とネガティブな瀬那。  

 痛みはそのままネガティブに変換される瀬那は苦痛に呻いた。

 

「ぐっ……」

「さあさあ続けよう続けよう!!!」

 

 レイダーはスティンガーに向かって飛び込み、果敢に攻め立てる。

 スティンガーも防戦一方とまではいかず、殴られれば殴り返す。しっかり、レイダーにダメージを与えていく。

 両者の戦いは拮抗し、戦場は移り変わっていく。

 聖山市を流れる一級河川、凪川にかかる橋の上で死闘を繰り広げていた。

 

「はぁ……はぁ……だぁッ!!!」

「はっ……はぁッ!!!」

 

 飛び上がる二人。

 渾身の力を拳に乗せて、宙でぶつかり合うクロスカウンター。

 届いたのは……スティンガーの拳であった。

 

「うがっ!?!?」

 

 吹き飛ぶレイダーは地面を転がり、空を見上げた。

 スティンガーは着地し、息を整える。

 激戦を繰り広げ、互いに息をつくタイミングなどなかった。

 

「はぁ……はぁ……」

「あはは、本当に強くなってるね」

 

 よっこいしょと上半身を起こしたレイダーは地面に座りながら、肩で息をするスティンガーに称賛の言葉を送った。

 

「やっぱり戦いってのはこうでなくっちゃ。全身全霊で殺し合う。意地と意地のぶつかり合い。はー、こういうのをいっっっぱい体験したいんだけど、悲しいかな、これライダーバトルなのよね。好きな相手ほど、そう何度も戦えない」

 

 そういう相手ほど、殺してるからさ。

 レイダーはそう言葉を締めた。

 何度も味わいたい戦いをする強い相手ほど、殺すのは惜しい。

 しかし、自分達が行っているのは殺し合い。

 どちらかが生きて、どちらかが死ぬ。

 レイダーが今もこうして生きているというのはつまり、そういうことなのだ。

 

「言葉交わすとか、馴れ合うつもりはない」

「ああ、うん。それは私にもない。馴れ合いじゃなくて、殺し合いがしたいんだからさ」

 

 立ち上がったレイダーはデッキに手をかけた。

 

「こいつ、使ってみるか」

 

 引き抜いたカードを目線まで上げて、スティンガーへとカードを見せつける。

 黄金の翼が描かれたカード。

 その名はSURVIVE。

 SURVIVE-屍山-。

 翼の背景には、霧に包まれた山が描かれている。

 その山は、屍山。屍の山。

 屍達が蠢き、死臭を放つ。

 

「ッ!?」

 

 突如、橋が大きく揺れバランスを崩すスティンガー。

 だが、レイダーは不動のまま。

 レイダーの足下の地面がひび割れ、隆起し、レイダーの周囲に鋭い山々が形成されていく。

 薄ら寒い冷気を纏った霧が流れ出し、スティンガーを包んだ。

 左手のメリケンサック型の召喚機が、スパイクを備えた鋭いフォルムへと変貌。

 ガッツバイザーツバイとなる。

 そして、SURVIVE-屍山-のカードを挿入。

 

【SURVIVE】

 

 新たな虚像が舞い踊り、レイダーの姿と重なる。

 黒いアンダースーツに深緑の角ばった重厚な装甲を纏う闘士。だが、全身の装甲や仮面には幾億の戦いを越えた強者を思わせる無数の傷跡が刻まれている。

 四肢には千切れた鎖が揺れ、手枷足枷のような装甲が施されている。さながら、この猛獣を縛りつけようとしたかのように。だが、それは無意味。

 獣は、解き放たれた。

 仮面ライダーレイダーサバイブ────。

 

「な、に……!?」

「……はあッ!!!」

 

 地面を殴り付けたレイダーサバイブ。すると、大地がスティンガーに牙を剥く。

 次々と発生する岩の牙がスティンガーを狙い、迫ってくる。

 

「くそッ!!!」

 

 スティンガーは跳躍。

 飛び退いて、回避……したつもりだった。

 しかし、牙はスティンガー目掛けて伸びる。

 真っ直ぐに。

 空中では自由に身動きが取れないスティンガーは右腕の手甲を盾にして受け止めようとする。

 だが、手甲を容易く破壊して牙はスティンガーに直撃。

 

「────」

 

 スティンガーは、夕陽照らす凪川に落下。

 水飛沫は上がらず、ミラーワールドから現実世界へ戻ったようではある。

 それでも、戻った先は川の中。そしてあの負傷。

 生存は絶望的だろう。

 

「あちゃーやりすぎちゃった。この力、普通のライダー相手じゃ強すぎるね」

 

 スティンガーが落ちた辺りを見つめながら、レイダーは暢気に呟いた。

 そうして、思いつく。

 

「そうだ! この力なら御剣燐(あの子)とガチでやれる!」

 

 仮面の下で、無邪気な狂気が笑みを浮かべる。

 新たな楽しみを見つけ、鼻歌を歌いながらミラーワールドを往くレイダーサバイブ。

 彼女の道は……真っ直ぐ闘争へと続いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕陽に燃えるような川を、少女は流れていく。

 誰に見つかることもなく、気付かれることもなく、ただ少女はその血と共に河を渡っていくのであった。




次回 仮面ライダーツルギ

「やっぱり触手じゃない」

「え、いや、私もしかしてフラグ建てちゃった……?」

「私ね、全然良い母親なんかじゃないの」

「……別れた」

運命の叫び、願いの果てに────。


ADVENTCARD ARCHIVE
SURVIVE-屍山-(仮面ライダーレイダー)

喜多村遊=仮面ライダーレイダーが闘争を誰よりも強く願ったことで獲得したサバイブのカード。
使用すると仮面ライダーレイダーサバイブへと強化変身する。
黄金の翼の背景には死臭漂う灰色の霧と屍の山が描かれており、デッキから引き抜くとあたかもその山に立ち入ったかのような不気味な感覚に襲われる。

屍の山の頂に立つ者。それは勝者か、はたまた————。

キャラクター原案
中務理恵/仮面ライダー狼牙   八咫ノ烏さん
仮面ライダーレイダーサバイブ マフ30さん
ありがとうございます!
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