「美玲ちゃん、やっぱり料理上手ね~」
キャベツの千切りを終えた私を見て、ママさんが褒めてくれた。
日中はダウンしてしまっていたので、夕方からは挽回しなければとせっせと夕飯のお手伝い中。
「ありがとうございます。次は何をすればいいですか?」
「えーっとね、じゃあそのままサラダ任せちゃうわ。美玲ちゃんの好きにしていいから」
「分かりました」
好きにしていいとのことなので、好きにさせてもらう。
しっかりと皆さんが食べられるものに仕上げないと……。
冷蔵庫の野菜室にあるのはトマト、オクラ、レタス、ピーマン、たまねぎ。あ、紫たまねぎ。使うか……。
トマトも使う。そういえばコーンの缶がこっちに……。
「あ、美玲ちゃん卵ひとつ取ってちょうだい」
「はい」
ママさんはハンバーグを作っているところ。かなり久しぶりと言っていた。
私が来てから料理の手間が省けたので、余力が有り余っているとか。
妹の美香ちゃんが手伝ってくれればとか、私も歳取ったなとか、色々と聞かせてもらった……。あれ。
「ママさん、卵ないです」
「えっ!? ちょっとやだもう~。完全にあるつもりでいたわ……」
ハンバーグはしっかり作ってる途中。
あれを廃棄はもったいないし、かといってそのままにしておくのもあれ。
「私、買ってきます」
「ああ、いいのいいの! 美玲ちゃんいっぱいお手伝いしてくれてるんだから。こういうのは、働いてない奴にやらせるのよ」
ママさんはキッチンを出て廊下へ。少し気になり、ママさんの後をついていくと、ママさんは階段の前に立っていた。
「美香~! おつかい行ってきて~!」
声を張り、二階の自室にいるだろう美香ちゃんに呼び掛けるママさん。
肝心の返事は……。
「おつかい? なら、僕行くけど」
ひょこっと二階から顔を覗かせた燐が返事をした。
美香ちゃんを名指しで呼んでたはずだけど……。
「燐はいいのよ。お風呂掃除とか、色々してくれてるから。それより美香は? 寝てるの?」
「え? ちょっとまって」
美香~と呼ぶ声。そして、美香ちゃんの気だるげな声がちょっと聞こえてきた。
おつかいには行きたくないようだ。
「ほら、おつかい行ってきてほしいんだって」
「え~……。やだ、だっるい……」
「バレー部キャプテンがそんなんでいいの?」
「今それ関係ない~……」
「……どうした? なんかあった?」
「お兄ちゃんに関係ないし……」
「なんかはあったんだ」
「……別れた」
「え?」
「別れたの彼氏とー!」
一際大きい声で、美香ちゃんの不幸を知ることとなった。
それは、その……次の出会いがあるだろうから切り換えていこう。けどもし私が燐と別れたら……。駄目だ、切り換えられる自信がない。
「そっか……。じゃあ、気分転換に買い物行こ」
「それ気分転換じゃなくておつかいでしょ」
「外出れば気分も晴れるって。ほら、今日いい天気だからさ」
「行かない! 行かないったら行かない!」
「そう……。じゃあ、僕が行くから」
「……」
「いってきまーす」
「……いってきます」
「寄り道しないで帰ってきてね~」
燐とちょっと不貞腐れた美香ちゃんを見送るママさんの背中を見つめていた。
いや、その、まさか美香ちゃんも行くとは思わなくて。
「最近物騒だから二人で行かせた方がいいわよね」
「あぁ、そうですね……」
「ん? あ、美香も行ったのが不思議なの?」
「え、ええまあ……」
あの状況からよく燐は外に連れ出せたなと思うし、美香ちゃんも一体どういう風の吹き回しなのだろう。
「美香、お兄ちゃんっ子だから。燐が一人で行くってなって心配というか寂しがってるというか……」
話しながらキッチンへと戻り、調理再開。
そういえばあまり燐の家族関係のことは聞いていなかった。家族仲が良好というのは一緒に暮らしててよく分かったけれど。
「慕ってるんですね、燐のこと」
「もうねぇ、ちっちゃい時はお兄ちゃんお兄ちゃんって何するにしても、どこ行くにしても燐がいないと~って感じでね。それに、今じゃあんなだけど昔は病弱でよく熱出してて……」
ママさんの顔に、少し暗いものが映った気がした。
明るいママさんとは縁遠そうな、そんな表情が一瞬だけ。
「……美玲ちゃんは、うちの家族がどう見える?」
「え……。それは、すごく、理想的な家族だと思います。パパさんはしっかりしてて、ちゃんと皆のことを見てて。ママさんも明るくて優しくて、良いお母さんってこんな人なんだろうなって……。そんなお二人に育てられたから、燐も美香ちゃんも真っ直ぐ育ったんだなって……。私には、そう見えます」
特別なことはないけれど、誰もが持ち得る幸せをしっかりと手にしている。
当たり前という簡単で、だけど難しいものである当たり前の幸せを受け止めている。
それが、私の御剣家の印象。
「そっか……。美玲ちゃんには話してもいいかもね……」
「ママさん……?」
「私ね、全然良い母親なんかじゃないの」
「え……?」
衝撃的だった。
まさか、あのママさんからそんな言葉が出てくるなんて。
「それは、どういう……」
「10年は前の話なんだけどね……」
燐も美香もまだ小さくて、手のかかる時期で何かと忙しくてね。
美香はさっきも言ったとおり病弱でよく体調を崩して、看病をしてて……。
お父さんもその頃すごい仕事が忙しくて、お父さんが頑張って働いてるんだから、私も頑張って母親やらないとって、そう思って頑張ってたの。
あの頃は私の母親も入院したりとか、お父さんの方のご両親も早くに亡くなって助けも無くてね、ほんと一人でやってたんだけど……。
やっぱり大変で、参っちゃって……。
「おかあさん……」
「ああ、燐……。ごめんね、美香の面倒見なきゃだから一人で遊んでて? 美香、風邪引いてるから移っちゃうかもしれないから」
甘えに来た燐を遠ざけた。
「燐はもうお兄ちゃんなんだから、一人で出来るよね?」
「……うん」
燐はお兄ちゃんになってそろそろ小学生になるんだから、いろんなこと一人で出来るようにならないとね。
そう自分に言い聞かせて、燐を一人にしてた。
燐を甘えさせなかった。いいえ、燐に甘えてたのよ私は。
燐は素直で真面目で、責任感も強い子だったから私の言ったとおりに一人で出来ることは一人でやるようになって……。
それだけだったら、まだ小さいのにしっかりしてるで終わる話。
だけど、私は燐を一人にさせ過ぎた。
ある時から、燐がほとんど口を開かなくなった。
喋っても、うん。そればっかり。
甘えに来ることもなくなった。
家の中でも一人でいるようになって。
それでいて、家の外では普通に振る舞ってたの。幼稚園の先生にこの事を聞いてみたら、そんなことはないって言われてね。変わった様子はありません。いつも通りの明るい燐くんですよって。
試しに、幼稚園での様子を見てみたら本当だった。
幼稚園に入った瞬間、明るい顔になって友達と遊んでた。
けど、分かったの。それは作った表情だって。
なんていうの、もう演技よ。今の自分は幼稚園にいる燐だって、そういう役なんだって。
小さなうちからここではこういう役割を演じなきゃいけないっていうのを、燐は子供なりに理解してやってたの。
それから、とにかく燐を一人にさせないようにした。
返事がなくてもとにかく話しかけて、甘えられるようにしたりとか、相談出来るような場所にはとにかく行って、専門の先生に相談したりとかして……。
それで、少しずつ明るい燐に戻って……みたいにね。
「私は、燐に寂しい思いをさせてしまった……。ひどい親でしょ」
「そんな、その……。一人でなんでもなんて出来ないですから……。ママさんだけが悪いわけじゃ……」
「そう、一人じゃ出来ることに限界がある。だからね、美玲ちゃん。燐を一人にさせないで」
そう私に伝えたママさんの顔に、私のママの顔を幻視した。
ああ、きっと、これが母親の顔というものなんだろう。
「今でも思う時があるの。燐が、何も言わずに一人でどっか行っちゃうんじゃないかって。だから、美玲ちゃんには燐の側にいてほしい」
「……はい。別れるつもりとか、まったくないですから」
「あははっ。うん、美玲ちゃんなら大歓迎! どうする? 18歳になったら結婚しちゃう?」
「それは流石に速すぎるんじゃ……」
「冗談よ冗談! はー、なんか話し込んじゃったわね。ごめんね、急にこんな話して。なんか歳取ったって感じだわぁ」
そうは言うもののママさんは実年齢より若く見える。
30代後半には見えるし、化粧でもっと若く見せることも出来そうだ。
「いやもう、うるさいおばさんよね私も……。はー嫌だわぁ。けど美玲ちゃんも聞き上手だからつい話しちゃう」
「ありがとうございます。それと、ママさんはうるさいおばさんじゃないですよ。明るいママさんです」
「やだもう美玲ちゃんったら! ご褒美あげちゃう。ちょっと待っててね、隠してるお菓子取ってくるから」
ママさんはキッチンを出てお菓子を取りに向かった。
……それにしても、まさか燐に、この家にそんな歴史があったなんて思ってもみなかった。
それでもやっぱり御剣家は私にとっての理想の家族だ。
きっと、そういったことがあったからこそ、そうなれたのだろう。
最初から完璧な親や家族なんて存在しない。
一緒に成長していくものなのだろう。
そう考えれば、私とパパだって……。
「……は?」
物思いに耽っていたら、目の前に緑色の触手がいた。
触手はスプーンを持って、私が作っていたシーザードレッシングを一掬いすると近くの窓ガラスに戻っていって……。
『んー、ちょっと塩味が強すぎですね。こんなの食べさせられたら塩分過多で病気になっちゃいます』
アリスが、ミラーワールドの中でシーザードレッシングを味見していた。
「アリス……! なに、姑気取り? 燐を振り向かせられないから姑ポジション狙ってるの?」
『はー!? 誰が姑ですかどっちかって言ったら美玲ちゃんの方が姑っぽいですよ! 健気な若妻キョウカは鬼姑の美玲ちゃんにいびりにいびられ愛する夫、燐くんと二人だけで新天地に旅立つんですー!』
「……ごめんなさい。そこまで妄想膨らませてるとなんだか哀れに思えてくるわ。その、ごめんなさい本当」
『ガチ謝りやめてもらえます? あと冗談ですから。燐くんの事はもう未練なく断ち切る……つもりでいます……』
断ち切れないオーラがばんばん出てるんだけれど。
でも、そう。断ち切るつもりなのか。
「で、なに」
『いえ、暇だったので味見でもしようと』
「……ならあんな触手使わないで。心臓に悪い」
『触手じゃありません、根っこです~。まあほとんど触手ですけど……』
「やっぱり触手じゃない」
自分で触手言ったし。
はあ……こいつとの会話はなんだか妙に疲れる。
そのわりに、自分から話しかけてしまった。
「……料理は出来るの」
『え……? いえ、その……出来……ないです……』
一瞬見栄を張って出来ると言いそうだったけれど、素直に白状したようだ。
「そう。まあ、出来なさそうだと思ってたけど」
『なんですかマウントですか、喧嘩売ってるんですか』
「そう思ったのならそうなんじゃない」
『……料理とか、誰も教えてくれなかったですし……』
それは、こいつの本音だった。
すぐに分かった。
この言葉には、いわゆるアリスらしい虚飾がなかったから。
「……女だから、とは言わないけど。料理は出来た方がいいわ」
『え……?』
「一人で食べるにしても美味しい方がいいし、誰かと……好きな人に食べてもらう料理なら余計に、美味しい方がいいから」
冷たい食卓。
一人の食卓が、私の食卓。
たまに帰ってくるパパに美味しいものを食べてもらいたくて、料理を勉強した。
まあ、食べてもらったことはあんまりないけど。
食べても、時間が経って冷めたものになっていた。
……パパはいま、何を食べているのだろう。
『……誰かと何かを食べることなんてないですよ。だって私は、ミラーワールドの存在なんですから……』
……こいつも、同じか。
一人、か。
孤独か。
同情をするつもりは、さらさらないけど……。
水にさらしていた紫玉ねぎの水気を切る。
普段使っている様子のない小さなお椀に千切りキャベツと紫玉ねぎを混ぜるようにして盛り付け、輪切りにしたオクラを上に散らして、トマトとコーンを添える。
そして、自家製シーザードレッシングをかけて完成。
余りの箸を一緒にして、アリスが映る鏡の中に差し出した。
「他のものは渡せないし、ミラーワールドだから実際に誰かとご飯食べるってわけじゃないけど……。ま、それで我慢しなさい」
『……美玲ちゃん』
優しくしたわけじゃない。
こいつが仇敵なことに変わりはない。
燐のことがあるから手を出さないだけで、正直なところぶち殺してやりたいのだけれど。それでも……。
みんながいる近くで一人ぼっちの奴がいるのは気に食わない。
ただ、それだけ。
『……やっぱり塩味が強すぎです』
「今から殴りに行くわ」
卵お一人様一パック。
よかった、一家族様じゃなくて。まあ、その場合は美香と離れて会計を別にしてしまえば、くくく……。なんて。
で、えーと。ついでに頼まれてたのがヨーグルトとバナナと……。
「ね~お兄ちゃ~ん」
……この声は、何かをねだる時の声だ。
「これ欲しい!」
「え~?」
買い物は僕に任せてスーパーをぶらついていた美香が手にしていたのは、雑誌。
10代女子向けのファッション誌だ。
「ほらこれ! エコバッグ可愛くない!?」
表紙に描かれた付録のエコバッグを指差して興奮気味に甘えてくる。
いつもの手段だ。
「……ふ~ん」
「エコバッグなら普段使いするしいいでしょ?」
「そうだね、今絶賛使ってるしね」
肩に提げてる無地のエコバッグを揺らして見せる。
御剣家で普段から使われているやつである。
「うっ……。でもでもそんな地味なのより可愛い方が良くない!?」
「う~ん。エコバッグに可愛さ求めてないし」
使えればなんでもいいけど、エコバッグに求めているものといったらなんだろう。大きさと耐久性?
「美香のお小遣いで買ってね」
あれ、いつもの塩がない。
ああ、こっちに移ってたのか。
カゴに塩を入れて、次の売り場へ。
「うーーー……。お兄ちゃんのケチ」
「ケチでもなんでもないって。僕もお小遣い遣り繰りしてるんだから」
「お願いお兄ちゃん! お金貸して、来月返すから!」
「え~。だめ」
「なんでー!? ほら、前にお兄ちゃんが好みって言ってたモデルの娘も出てるよ! 美玲さん似の! 見たいでしょ!」
「あの中では好みって話だったでしょ。それにほら、美玲先輩がいるし」
そう、美玲先輩に似ている人ではなく美玲先輩が僕にはいるのだ。
モデルなんかに構ってる暇はない。
「うわー、そうやって惚気るんだ。彼氏と別れたばっかの妹に対して。ひっどい兄貴だ。傷ついた。そんがいばいしょーしないと許さない」
「美玲先輩似って言ったのは美香でしょ」
そういえば牛乳も無くなってたな。
メモにはないけど買いで。
「お兄ちゃん、ちゃんと私の話聞いてる!?」
「聞いてるよ。聞いた上で駄目って言ってる」
「むう……。えいっ」
ぽんっと、背中を叩かれた。
殴るとかでなく、本当に軽く。
まったく子供っぽいんだから。
「お兄ちゃんのケチ~」
「はいはい」
買うものは揃ったな。
よし、会計しよ……って。
「あれ」
「あ、君は……チャーハンの燐!」
ふと、バッタリ。
同じ街に住んでいるのだから、こういうこともあるだろう。
ちょっと縁のある女子、撒菱茜さんと出会した。
「お兄ちゃん、友達?」
「お、妹さん? まあ、友達かな。チャーハンご馳走してもらったし。また作りに来てよ!」
「あはは……。その、機会があれば」
人の家でチャーハン作る機会ってなんだよと内心ツッコミながらそう返答した。
……そういえば、この人もライダーなんだよな。
デッキを……って、だめだめ。今は美香がいるんだから。
「……お兄ちゃん、ちょっとトイレ」
「え、ああ、うん。いってらっしゃい」
美香は小声でそう伝えて、ちょっと早足でトイレに向かった。
「兄妹で買い物って、なんかいいね!」
「いや、ほら、モンスターに襲われたらとか考えるとね」
「シスコンなんだね」
「一般的な妹想いだと思うけどなぁ……」
「けどそうそうモンスターに襲われなんて……」
『────』
撒菱さんと顔を見合わせる。
「え、いや、私もしかしてフラグ建てちゃった……?」
「とにかくこっち!」
「う、うん!」
買い物カゴを置いて音が強くなる方へと走る。
こっちはあまり人の出入りがない方の出入口で……。
どこだ……?
あんまり人が入って来ない方のトイレを使う。周囲に人がいられると駄目なタイプなのだ。
にしてもお兄ちゃん、また女子の友達出来てる。
前まではここまでじゃなかったのに。
交友関係は広く浅くで男女問わず。だったのに。
最近やたらと女子の知り合い多くない?
別に私がどうこう言う権利はないけどさ。
美玲さんだっているのに、なんか心配。
モテモテってほどじゃないけど、妙に入れ込む女子が近くにいるのがお兄ちゃんというのは小学生の時から理解している。
将来刺されたりしないか心配だ。
「……ん?」
トイレに入って、水道の前の大きな鏡の中から何かの気配を感じた。
見られてる?
なんて、気のせい気のせい。
『メガァァァ……!』
「えっ……!?」
何かが、鏡の中から現れる。
長い二本の角を生やした怪人が、鏡の中から現れて……。
「きゃあぁぁっ!!!」
今のは、美香の悲鳴!
女子トイレだろうと関係なしに入ると、そこには気を失った美香とモンスター……メガゼールだったか、こいつは。
お前が、美香を……!
『メッ!?』
メガゼールを前蹴りで蹴り飛ばす。
壁に叩きつけられたメガゼールは手洗い場の鏡からミラーワールドに戻っていった。
「燐!」
「撒菱さん、美香を頼みます」
「う、うん!」
白いデニムジャケットのポケットからデッキを手に取り、メガゼールが逃げた鏡に映す。
Vバックルが巻かれ、突き出したデッキを左腰まで引き、両腕を居合のように振るって叫ぶ。
「変身────!」
デッキをバックルへと装填し、鏡から現れるツルギの虚像を纏い仮面ライダーツルギへと。
ミラーワールドへと入り、メガゼールの追跡を開始する。
『メガッ!』
メガゼールは国道を駆けていた。
これならばと、スラッシュサイクルを呼び出し跨がる。
エンジンを吹かして、加速。
時間帯的に帰宅ラッシュで渋滞する道だがここはミラーワールド。走る車は存在しない。
片側二車線を独走。
メガゼールもスピードに長けるモンスターであるが、スラッシュサイクルには劣る。
縮まる距離。間合が詰まる。
左手でスラッシュバイザーを逆手で抜き、メガゼールの右後方につく。
そして、加速。
メガゼールを追い越すと同時にスラッシュバイザーで切り裂く。
『メッ!?』
高速で走っていたところを切り裂かれ、メガゼールは勢いよく道路を転がる。
スラッシュサイクルも停車し、メガゼールに向かって歩き出す。
【SWORD VENT】
リュウノタチを喚び出し右手に構え、スラッシュバイザーはそのまま左手に。
『メガ……!』
「────……」
メガゼールは鋏のような形状の刀を持ち出す。
跳躍力を活かして、飛び掛かってくる。
唐竹、か。
振り抜く、リュウノタチ。
胴を一閃、瞬く火花が滴り落ちる。
『メ、ガ……!』
まだ、立ち向かってくるメガゼール。
鋏状の刀を振り回し、それでもまだ生きようと踠いている。
────お前が、生きていられる道理などないというのに。
「────ッ!」
メガゼールの刀をスラッシュバイザーで弾き飛ばし、がら空きとなった胴にリュウノタチを突き刺し、抜く。
『メッ……』
「……────」
……これ、は。
いや、今は……。
【FINAL VENT】
飛来するドラグスラッシャーを背にし、剣舞。
地面を蹴りドラグスラッシャーと共に飛び上がる。
ドラグスラッシャーが周囲を飛び回り、空を切り裂き、白い剣閃が輝く。
その輝きと、ドラグスラッシャーが放った斬撃波を身に纏い、メガゼールに向かって加速。
「ぜあぁぁぁ────!!!」
『メガ……!?!?』
メガゼールを蹴ると同時に切り裂く。
爆炎にまみれ、メガゼールのエネルギーがドラグスラッシャーに捕食されるのを見届け、再びスラッシュサイクルに乗って美香のもとへ戻る。
「……んっ。んん……」
何か、懐かしい感じがした。
暖かいのと、優しいのと、大きいのと、ちょっとの揺れと。
「……おんぶ……?」
目を開くと、見慣れた頭が。
「あ、起きた」
「なんで、おんぶされて……てか、怪人が!?」
「怪人? 夢でも見たんでしょ」
夢、なのかな……。
ていうか、本当になんでおんぶされてるの。
「美香、女子トイレで寝てたんだよ。遅いな~って、撒菱さんと一緒に探したんだから」
「え、えぇ……。ちょっと待ってめちゃ恥ずい。え、変な格好とかしてなかったよね!?」
「さぁ~? 撒菱さんは何も言ってなかったよ」
うがぁぁぁ、と暴れる。
暴れまわる。
お兄ちゃんの背中で。
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。
てか、おんぶも恥ずかしい!
現在進行形で恥ずかしい!
「おろして!」
「えー、どうしよっかな~」
横顔しか見れなかったけど、いい笑顔をしてやがる。
お兄ちゃんは無自覚でSだ。
昔から優しいけど、こういう余裕ある時は私をいじめて楽しむんだ。
ひどくて優しいお兄ちゃん。
ぴたりと右頬をお兄ちゃんの後頭部にくっつける。
昔はよくこうしておんぶしてもらってたな。自分からせがんで。
小さい時のことはあんまりよく覚えてないけど、いつも近くにはお兄ちゃんがいた。
けど、どうしてだろう。
ずっと前から、思っていることがある。私の傍にはお兄ちゃんがいるのに、お兄ちゃんの傍には誰もいない気がして……。
夕食終わり、部屋に戻る。
メガゼールとの戦いから気になっていたことがある。
それを、キョウカさんに確認する。
折り畳み式の鏡をローテーブルに置いて、キョウカさんと向き合う。
「キョウカさん、思い出すのが辛いかもしれない。けど、大事なことだから協力してもらいたい」
『珍しいですね、燐くんがそんな……。けど、分かりました。なんです?』
「北さんの傷のこと」
『傷、ですか……?』
北さんは背後から刺された。
キョウカさんの力で治療してもらい、なんとか一命は取り留めたが未だに意識はない。
北さんを刺した相手は氷梨麗美、仮面ライダーウィドゥ。その爪によって貫かれたのだと想定されている。
けど……。
「僕もしっかり見たわけじゃないから、確認したいんだ。北さんの傷がどんな傷だったか……」
『どんな傷……。その、傷自体は細いというか……。しっかり貫通していて……』
「……例えばさ、ぐちゃぐちゃしたりしてた?」
『いえ、そういう感じでは……』
……なるほど。
なんとなく、だけど……。
『燐くん?』
「……北さんを刺したの、ウィドゥじゃないと思うんだ」
『えっ……』
「今日、モンスターと戦った時に思って……。ウィドゥの爪の刺し傷だったら、そんな綺麗なものにはならないはずだから」
『……っ! じゃあ一体誰が……』
……。
レイダー、喜多村遊さんではないだろう。
彼女の戦闘スタイルと武器から考えても、可能性は限りなく低い。
では、あの時あの場にいた残りの人達は?
美玲先輩は副会長と戦っていた。
美也さんは黒峰樹と。
伊織さんは一人、モンスターと戦っていた。
そう、なると……。
でも、なんで?
「……証拠はない、証言もない。だけど、もしかしたら……」
『……燐くん』
「まあ、まだなんにも分からないけど、さ……」
いつもこうだ。
でも、この戦いで分かることの方が少ないのだから。
それでも、迷いながらでも……。
「進んでいかなきゃ、いけない、か……」
正解なんてもの、あるかは分からないけれど。
間違いだらけなのは確実だけど。
それでも────。
テーブルにカルボナーラを2皿。
私の真向かいに置いて、待つ。
瀬那の帰りが何時になるか聞いてないから分からないけど、それでもご飯は二人で食べないと。
だから、待つ。
にしても……。
「遅いなぁ瀬那……」
次回 仮面ライダーツルギ
「ふふ、お家にまで来ちゃいましたよ私」
「燐。そういうのいい」
「はい。それじゃあデートの時間です」
「────未来超越」
運命の叫び、願いの果てに────。
ADVENTCARD ARCHIVE
ADVENT(仮面ライダージャグラー)
マジシャンズオクトパス 4000AP
撒菱茜=仮面ライダージャグラーと契約しているタコ型モンスター。
知能が高く、待ち伏せし罠を仕掛けて獲物を狩ることが出来るほど。
積極的に動き回るのではなく待ち伏せ型で、景色に擬態し獲物が近付いてくるのを待ち、捕食する。
気が付いた瞬間には腹の中。