仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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ALTERー9 トライアングル・コア

 また、この夢だ。

 大きな一本の木の下にいる。

 風に揺れる木葉の囁き、いや、歌っている。

 耳障りのいい木葉と風の歌。

 だけど。

 突然、風が叫びを上げる。

 木葉の歌は悲鳴に変わる。

 葉は吹き飛ばされて、枝も折れて……やがて、朽ちていく。

 あんなに、立派な大木だったのに。もう、見る影もない。

 そこに、生命はないのだろう。

 僕もいずれ、こうなる────。

 

 

 

 

 

 

「……んんんっ……」

 

 目を覚ますには、少し早すぎた。

 まだ6時前。

 それでも、やけに目は冴えてすっきりとした目覚めだった。

 いや、すっきりというよりも……。なんだろう、分かんないや。

 ともかく、こうも目覚めてしまうと二度寝は難しい。

 ベッドの上にいるのもなんだか虚しいから、起き上がり部屋から出ることにした。枕元に置いたデッキを、寝間着にしているジャージのポケットに入れて。

 こいつがないと、落ち着かないなんて。自分でも嫌だけど、何かあったらと思うと肌身離さずにはいられない。

 やはり、まだ母さんも起きていない。

 6時になったら起きるだろうけど。

 キッチンで一人、目覚めの一杯。白湯。

 

「……はぁ」

 

 朝起きたら白湯を飲むのが習慣。身体の内側から暖まって調子が良くなる。エンジンがかかる、みたいな。

 ふと、カーテンから漏れる光を見つけて、リビングの方へ。

 少し、カーテンを開けると光に溢れる。

 

「暖かい……」

 

 こうも朝から天気が良いと、気分も良い。

 家の中、窓のガラス越しにではなく直接この光に当たりたくなった。

 玄関へと行って、外に出る。

 少しひんやりとした秋の空気と太陽の熱が心地好い気温を作り出していた。

 身体を伸ばし、深呼吸。

 まだ、街は眠っている。

 静かだ、とても。

 平穏という言葉が当てはまる。けれど……。

 

「ライダーバトルも、ミラーワールドのことも、まだなんにも終わっていない……」

 

 この平穏の影に隠れた街の闇。

 いつ、どこで、誰が、モンスターに。ライダーに、殺されるか分からない。

 

『燐くん。おはようございます』

 

 キョウカさん?

 こんな早い時間に珍し……。

 

「ッ!?」

 

 咄嗟に飛び退いた。

 蔦のようなものが、近所の家々の窓ガラスから伸びてきて、僕を捕らえようとしてきた。

 

「流石ですね燐くん。逃げられるとは思いませんでした」

「鏡華さん……。いや、アリス……」

 

 家の窓ガラスからこちら側へと出てきたアリスが、僕と向かい合う。

 このアリスはキョウカさんと違って、こちら側で活動することが出来る。

 

「ふふ、お家にまで来ちゃいましたよ私」

「……何の用」

「なんですかその言い方は。私も同じキョウカなんですから、優しくしてください」

「君とキョウカさんは違う」

「ええ、まあ……そうですね。確かに私とこちらのキョウカは結末は異なりますが、始まりは同じ。違うけど、同じなんです」

 

 結末は異なる……?

 一体どういうことだ?

 

「君は一体なんなんだ」 

『そうですね……。立ち話というのもなんですし、歩きながらでも良いですか? 燐くん的にも、その方がいいと思いますけど』

  

 ……確かに、家の前はまずい。

 場所を移すのが懸命だ。

 

「分かった」

「はい。それじゃあデートの時間です」

 

 ニッコリとキョウカさんに似た笑顔を浮かべたアリスと共に歩く。

 とにかく、警戒しなければならない。

 また、何処ぞから鎖が飛び出してくるかもしれないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと、目が覚めた。

 まだ少し、起きるには早い時間に。

 けれど、妙な胸騒ぎがしてならない。そう、この胸騒ぎのせいで目覚めてしまったのだろう。

 

「燐……」

 

 貸し与えられている客間から出て、二階の燐の部屋へ。

 だけど、燐はいなかった。ベッドは空で、家の中を探し回ったけれどいない。

 一度、客間に戻りローテーブルの上に置いていたデッキと折り畳み式の鏡を手に取り、鏡に向かって話しかける。

 

「アリス、いるんでしょう」

 

『……貴女も気付きましたか』

 

「その口ぶりだと、あなたも燐を見てないのね」

 

『妙な気配がしたので目覚めたのですが……。この感じは、もしかしたら……』

 

 もう一人の、私。

 その言葉を聞いて、身体も心もいてもたってもいられなくなった。

 ともかく、外へ。

 ルームウェアのままだけど、気にしない。こんな時間だから、そう人と出会うということもないはずだ。

 

「燐、どこ……」

 

『とにかく探しましょう。もう一人の私と燐くんを二人きりにさせるのは嫌な予感がします!』

 

「分かってる……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歩いて10分ほどで大きな公園に辿り着く。

 その歩いてる間は重要な会話などではなく雑談をしていた。

 アリスからの問いに、適当に答える。それだけの会話で、本題はここに着いてからということらしい。

 公園にはラジオ体操をしているおじいさんと、犬の散歩をしている人、ランニングをしている人と当然だが閑散している。時間も時間だ。

 

「あそこに座りましょうか」

 

 アリスが指差したのは東屋。

 話すのにはちょうどいいだろう。

 だが、座るというのは動作が制限される。その上でさっきみたいな鎖が来たら、避けきることは出来なくなる。

 

「さっきのは挨拶ですから。あんなことしませんよ」

「信用、出来ないな。君はアリスだから」  

「それは確かに。ですが、まずは信じるところから始めませんか?」

 

 そう言って、アリスは東屋へ。

 長椅子に腰を下ろし、木のテーブルの上にデッキを置いてみせた。

 今、この場での戦闘の意思はないということか。

 ……。

 僕も、東屋へ。

 長椅子はコの字型になっており、アリスは右奥の角に座っていた。 

 だから、僕も角に座る。アリスに対して垂直に。

 彼女の隣に。

 

「……まさか、こんな近くに座られるとは思いませんでした。てっきり、反対側にいくと……」

「間合」

「え?」

「ここ、僕の間合だから」

「……怖い燐くん。いいですよ、燐くんはそのままデッキを持っていても。ま、ここには鏡になるものはありませんから」

 

 互いに、即座に手を出せるわけではない。

 だが、それが本当かは分からない。アリスという存在はルール無視、盤外の存在。

 警戒するに越したことはない。

 

「ふふ、にしても、こんな近くに燐くんがいると胸が高鳴って仕方ありません」

「動悸?」

「ええそうです私は恋の病の重篤患者ですので」

 

 また、笑顔を浮かべる。

 だけど、なんだろう。

 キョウカさんと同じ顔のはずなんだけど……。

 

「はっきり、言うんだね」

「ええ。だって、隠していたので駄目だったんですから。私も、もう一人の私も」

「……」

「まあ、隠していたというよりあの頃はまだ()()を知りませんでしたから」

 

 これ、が何を指すのかを言うのは憚られた。

 僕が言ってしまうのは、きっと……。

 いや、それよりも本題だ。彼女が何者であるのか。

 何故、コアに与するのか。

 

「君はキョウカさんと……」

「まあまあ燐くん。これも貴方が聞きたいことに連なる話ですから。聞いていってくださいな」

 

 僕が聞きたいことに連なる話、か……。

 

「私ともう一人の私も起源を同じくするものですから、ここは同じ話。私の話でも、もう一人の話でもあります」

 

 キョウカさんと、このアリス。

 二人だけど、一人の話。

 どこかで枝葉が分かれて、彼女は今、ここにいる。

 

「ミラーワールドに囚われた私はずっと一人でした。そこに現れたのが、貴方です燐くん。ずっと一人だった私に、誰かと共にいる暖かさを思い出させてくれた貴方に恋をする事は、そう不自然なことではないはず」

 

 ですよね、燐くん?

 そんな視線が、横目で見上げられる。

 もしも、僕が彼女と同じ立場だったとして、恐らくは……恋をするかはともかくとして、懐くというか恩義は感じるだろう。

 

「ですが、先程も言ったように私は恋を知りませんでした。幼い頃から一人で、学ぶ機会もありませんでしたから。ただひたすらに、貴方に対する言葉に表すことが出来ない想いを抱え続けていました」

「……でも、君はそれを知った。なんで?」 

「それは……。燐くんが、恋をしたから」

 

 胸を氷か何かで貫かれたようだった。

 僕が、美玲先輩に恋をしたから……。だから、知ったのか。

 

「好きな人が出来た燐くんと、私は似ていましたから。ああ、そういうことなんだなって自然と。だから、燐くんの恋愛相談聞くの結構キツかったんですよ?」

「……ごめ……」

 

 動く唇に、ほんのり冷たい人差し指が当てられる。

 

「謝らないでください。私が恋を知っていたなら起こらなかったことですから。とはいえ、まあ……ミラーワールドの中の存在から告白されても困るだけでしょうけど」

 

 それは、そうかもしれない。

 隔てられたこちらとあちら。互いに行き来が出来ないところで、恋人になるなんていうのは……現実的じゃない。

 けど、どうだろう。

 そもそも、現実的な話じゃないのだから。

 

「……困るというか、悩むというか」

「同じじゃないですか」

「最後まで聞いてよ。……まあ、だからさ。人から好かれるって、愛されるって、それは嬉しいことだから、さ……」

「……じゃあ、もしも燐くんが恋をする前に私が告白していたら、燐くんは……」

「……どうだろう。分からないや」

「……そう、ですか」

「君は友達だから」

 

 残酷かもしれない。

 だけど、こう言わないといけない気がした。

 彼女を傷つける、その覚悟が今の僕には必要だ。

 キョウカさんと同じ姿であるから思わず忘れてしまいそうになるけれど、彼女はそもそも敵だから。

 いずれ、戦わなければいけない。

 

「鏡の中の、友達だから。大切な」

「……友達、ですか」

「うん。友達」

『じゃあ、もう一つ質問します。……どうして、咲洲美玲なんですか』

 

 平静を装った声と分かった。

 少しだけ、声が震えていたから。

 

「どうして、か……」

「……」

 

 今度は、身体をこっちに向けて正面から僕を見つめている。

 震えながらも、真っ直ぐな瞳で。

 乞うように。

 焦がれるように────。

 

 

 思い、出すのは。最初の出会い、しかないだろう。

 初めて会う前から存在は知っていた。

 咲洲美玲という人は有名人だったから。

 弓道部所属の才色兼備。インターハイ出場も確実とされていた。

 そんな有名人、モテないわけがなく。男子生徒、誰々が告ってフラれたなんて話を聞くことはそれなりに。

 氷の女なんて渾名されて、まあ僕には関係のないことだと思っていた。

 だけど、出会ってしまったのだから。

 

 一人、射位に立つ彼女。その姿を言葉で表すならば孤高。

 弓を引く彼女の独壇場から目が奪われる。

 一人だけ、一人の世界。

 眩しかった。

 美しかった。

 ────あんな風に、なりたいと、思った。

 

「……燐くん?」

「……一目惚れ、だよ」

「え……」

「一目惚れ。射抜かれちゃったんだよ、僕は」

「……」

 

 彼女の放った矢に射抜かれた。 

 あの時から僕はどうかしてしまったんだろう。アリス風に言うと、僕も恋の重篤患者になってしまった。

 

「……一目惚れなんて、天災です」

「てんさい……?」

「災害ですよ、災害。他所から現れて、貴方を奪っていった……!」

「アリス」

「嫌……」

 

 僕の胸に、彼女は顔を埋めてきた。

 泣いている、ようだった。

 

「アリスなんて呼ばないで……。今だけは……貴方だけは……」

「……」

 

 彼女もまた、キョウカさんである。

 ……ただ。

 忍ばされた彼女の右手を掴む。

 

「それが目的?」

「……警戒心は本物ですね」

 

 顔を埋めたまま発せられたその声は、冷たいもの。

 やはり、この少女はキョウカさんではあるが、アリスだ。

 僕が掴んだ彼女の右手には、ズボンのポケットに入れていたツルギのデッキが握られている。

 

「目的、というわけではありません。好機と思いましたから。けど、思ったよりも燐くんが甘くなかったです。隙がある方が私は好きですよ」

「君の思い付きは阻止された、離してよ」

 

 アリスは素直に言うことを聞いてくれた。

 デッキを離し、僕からも離れていく。

 その時の表情はどこか暗いものであった。

 

「そんなに、僕を戦いから遠ざけたい?」

「ええ。まずはそれが最優先ですから」

「僕は君がこんなことをするのを望んでいない」

「私は貴方が戦いに身を投じることを望んでいません」

 

 強い意志を宿した瞳だった。

 こんな目をする人だったろうか、君は。

 

「どうして……どうして貴方は戦うんですか。幸せを遠ざけるんですか」

「幸せを、遠ざける……?」

「そうじゃないですか。貴方はいつもそう。自分一人が戦えばいいって、他の人には戦いなんてさせないで一人で背負って……! 私は貴方を許さない。この世界を許さない。一人で戦う貴方を。一人で戦う貴方に気付かない世界を。私に幸せをくれた人が幸せじゃない世界なんて壊れてしまえばいいんです!」

 

 ……。

 一人で戦う、僕。

 彼女に幸せを与えたという、僕。

 彼女は僕に……。

 

「僕は、みんなが幸せな世界を守りたいんだ」  

「そのみんなに、貴方がいなければ意味がありません……」

「いいんだよ、僕は。みんなの幸せを脅かすことをしてしまったのだから」

 

 ミラーワールドを開いてしまった。

 モンスターが人を襲うようになってしまった。

 キョウカさんが、ライダーバトルを始めてしまった。

 ライダーバトルに、みんなが巻き込まれてしまった。

 罪、だ。

 紛れもなく、僕の罪。

 ライダーバトルを始めてしまったキョウカさんの罪は僕の罪だ。だから背負うと決めた。

 やはり、あの頃から僕は変わっていない。

 罪を犯した罪人である僕は罰を受けなければいけない。

 人を守って、守って、戦って、その果てに死ぬ。

 いや、死は甘えだろう。死しても戦わなければならない。

 そんな僕に幸せなんて……。

 

「燐!」

 

 その声に、ハッと意識を呼び戻らされた。

 深海から、一気に引き上げられたかのように。

 

「美玲、先輩……」

「燐、何してるの。そいつから離れて」

「忌々しい女が来ましたね。私の邪魔ばかりして……」

「燐、こっちに来て」

 

 手を差し出す美玲先輩の方へ、自然と身体が向いていた。

 足も動いていた。

 立ち上がって、彼女のもとへ────。

 

「また、私を一人にするんですか」

 

 逃さないと、掴まれた右腕。

 少女の目は、どす黒かった。

 どこまでも、どこまでも深い闇に取り込まれてしまいそう……。

 

『燐くーーーーん!!!!!』

「ッ!」

 

 その声に、引き戻される。

 美玲先輩が持っている手鏡の中から、キョウカさんが叫んでいた。

 

『貴方が知ってる私はこっちの私です! そっちの私は違うワ・タ・シ!』

 

 そう、だ。

 このアリスは……キョウカさんは、僕の知っているキョウカさんではない。

 振り切る理由は、十分過ぎる。

 

「美玲先輩! キョウカさん!」

「────ッ!」

 

 駆ける。彼女達のもとへ。

 僕の知る、僕の好きな人達の方へ。

 

「まったく、一人で出歩かないで。ましてやこんな時に」

『そうです! ましてやあいつと一緒なんて!』

「ごめんなさい……。その、色々あって」

「……とりあえず、話は後よ。あいつ、やる気みたいだから」

 

 美玲先輩が顎でアリスを指して警戒を促す。

 アリスはテーブルの上に置いていたデッキを手にし、戦意をこちらに向けていた。

 

「やはり、どこの咲洲美玲も憎いですし、愚かな負け犬の自分を見るのも癪ですね」

「その言葉」

『そっくりそのまま返してあげます!』

 

 アリスと対峙する美玲先輩とキョウカさんの息はあっていた。

 共通の敵、だからだろうか。

 

「……アリス。三対一だ、どっちが有利か分からない君じゃ……」

「燐。そういうのいい」

『そうです。向こうがやる気なんです。それも、戦わなきゃいけない相手が!』

 

 二人も戦う気しかない。

 どうすれば、いい。どうすればいいんだ。

 止めるべきなのか、止めないのが正解なのか。

 確かに、アリスとは戦わなくてはいけないのかもしれない。

 僕の知ってるキョウカさんとは違うキョウカさんかもしれない。

 だけど……。

 

「変身」

『変身』

「変身」

 

 美玲先輩とキョウカさん、アリスは変身しミラーワールドへと。

 僕は……。

 地面に落ちた手鏡を見つめ、そして……デッキを翳した。

 

「変身……」

 

 ツルギへと変身し、ミラーワールドへと。

 ミラーワールドでは既に、戦いの火蓋が切られていた────。

 

 

 

 

 

 

 それぞれの得物を構え、ライダー達は向かい合う。

 青き弓兵、仮面ライダーアイズ。

 華の乙女、仮面ライダーブロッサム。

 鏡の恋華、オルタナティブ・アリス。

 

「さあ、始めましょうか。ライダーバトルを! 恋に終止符を!」

『言われなくとも!』

 

 仮面ライダーブロッサムとオルタナティブ・アリスは共に鞭を構えて駆け出す。

 片や、鉄のドレスといった荘厳さを思わせる桜と金の鎧を身に纏い。片や、黒一色。余計な飾りなどは戦いには不要といった機能美のスーツを身に纏っている。

 攻撃のタイミングは同時。しなる鞭同士がぶつかり合い、それを繰り返すと同時に花弁が舞う。

 桜色の花弁と黒い花弁が少女の周囲を彩る。

 

「恋の終止符? 笑わせないで」

 

 離れた場所から弓を引くアイズ。

 狙いはオルタナティブ・アリス。激しくぶつかり合い、動き回る獲物に向けて冷静に狙いを定め、矢を放つ。

 しかし、矢は花弁の障壁の前に無力であった。

 

「なっ……!?」

「サバイブでもないライダーの攻撃なんて、私には無意味。それと……」

 

 鞭の競り合いを制したオルタナティブ・アリスの攻撃がブロッサムの胸に叩き付けられる。火花を散らし、地面を転げたブロッサムの背中をオルタナティブ・アリスが踏みつける。

 

『きゃあッ!?』

「あなたはサバイブでも全ッ然弱いです! なんなんですか馬鹿にしてるんですか私!」

 

 ブロッサムの横腹を蹴り、仰向けにさせると再び踏みつける。ヒールの先で、鎧に包まれていない腹部を踏みにじる。

 

『ぐっ……!』

「本当に弱いんです負け犬なんですよ私。ああ、本当に腹が立つ……! これが同じ私とか侮辱にも程があります!」

 

 何度も、何度も踏みつけ、その度に火花が散る。

 キョウカの苦痛に叫ぶ声が響き渡る。踏みつけの次は鞭打ちと、一方的。

 アイズも何とかしようと矢を放つがやはり花弁に阻まれ、矢が届くことはない。

 

『燐、くん……!』

「はぁ? この期に及んで燐くんに助けを求めるんですか? 貴女は本当に私なんですか? 忘れたとは言わせませんよ、同じ私なのだから……私の願いは燐くんを戦わせない! 燐くんが幸せに暮らせる世界! 燐くんを救う! そして燐くんを手に入れる! それが私の願いでしょう私!!!」

『ッ……!』

 

 オルタナティブ・アリスの鞭が硬質化し細剣、針のようになる。それを見たキョウカは仮面の下で青ざめ死を悟った。

 

「キャンキャンキャンキャン吠えてこのザマ、本当に愚かで雑魚で反吐が出る。死んでくださいな。安心してください。私の果たせなかった願いは私が果たしますから」

『くぅ……わ、私は……』

「大丈夫ですって。前にも言ったでしょう? 私はたった一回でライダーバトルを勝利した私なんですから」

『たった、一回で……』

「ええ。惨めに無様に何度も繰り返した私とは違うんです。私の方が、上手くやれますから。それじゃ、死んでくださいな」

 

 逆手に持たれた剣が、振り下ろされる。

 だが、その瞬間。

 

【SURVIVE】

 

 スラッシュサイクルを駆るツルギサバイブが花弁の嵐を切り裂き、オルタナティブ・アリスの剣を弾き飛ばした。

 

「ぐっ……!?」

『燐、くん……』

「燐……」

 

 無言のままツルギサバイブはスラッシュサイクルから降りて、スラッシュバイザーツバイの鋒をオルタナティブ・アリスへと向ける。

 

「燐くん……。なんで、戦うんですか……」

「君が、戦いを止めないからだ」

「ふ……。先に戦っていたのは燐くんでしょう」

「……」

「そして、これからも……。私が戦いを止めたとしても、戦うのでしょう」

「……そうだね。戦うよ、僕は」

 

 全てを終わらせるまで────。

 心の中でそう呟き、静かにオルタナティブ・アリスへと向かい進んでいくツルギサバイブ。

 彼女を切り裂き、この戦いを終わらせようとその間合へと足を踏み入れていく。

 

「ライダーバトルに勝った君が、どうして戦うの。勝ったのなら……」

「……勝っても、貴方を真に手に入れることが出来なかった」

 

 ああ、なるほどそういうことか燐は一人納得した。

 彼女と遭遇した時に見た、あのイメージ。蔦に縛られた自分の姿。あれは、このアリスの世界の御剣燐だったのだと。

 あちらの燐が、こちらの燐に送った危険信号だったのだろうと。

 

「ねえ、私と来ませんか。私と来たら、何もかも終わらせてあげます」

『馬鹿な、ことを……』

「ッ!? あいつ……!」

 

 美玲にとって馬鹿げた提案。それが許せず、アイズは激昂の矢を放つ。怒りに猛っていても、その狙いは正確無比。射線上に立つツルギサバイブに当てない自信も彼女にはあった。

 ゆえに放つ。

 しかし、矢はツルギサバイブが切り捨てた。

 歩く片手間と言わんばかりに、矢を見ることもなしに。

 

「なん、で……燐……」

 

 その動作に、美玲は自分でも予想以上のショックを受けた。

 矢を斬るというのは、美玲の手を汚したくなかったというのもあるだろう。

 だが、その片手間にあしらわれたという事が、自分のことなどどうでもよいかのように扱われた気がしていた。

 

「燐くん……。私が貴方を救います」

「救いは、いらない」

 

 オルタナティブ・アリスの仮面の前に置かれた刃。

 そこに、燐の覚悟があった。

 振り上げられるスラッシュバイザーツバイ。

 

 ────そうして切り裂いたのは、背後を狙った謎の光球。

 

『あまり勝手に出歩かないで、アリス?』 

「コア……」

「あれが、コア……!」

 

 宙に浮かぶ、白い女の影。

 このミラーワールドにおいて、陰謀渦巻かせている謎の存在コアが、その姿を現した。

 

『ふふ、どうも皆さん。朝が早いのね』

「……」

 

 風が吹く。

 ただの風ではなく、烈風。地上から一瞬で飛び上がったツルギサバイブがコアがいた空を切り裂いていた。

 

「燐!」

『燐くん!』

『やだ、怖いわねぇ』

「……」

 

 風を利用し、宙に浮かぶツルギサバイブはコアと向き合う。

 今の彼にあるのは、斬るという一つの意志。

 キョウカを誑かし、ライダーバトルを行わせた者。人間ではない、ゆえに斬ることに何の躊躇いはない。

 

『私とは、言葉を交わすこともしてくれないのかしら』

「…………」

「燐、くん……」

 

 風を蹴り、再びコアへと斬りかかるツルギサバイブの剣閃は回避こそされているがコアを追い詰めつつあった。

 

『これは、流石に厄介ね』

「……」

『ふふ……この完成度の高さ! 一度味わっておくのもいいかもしれないわね……』

「……斬る」

『いいわよ、斬りなさいな』

 

 コアは腕から白い靄がかった刃を生成し、スラッシュバイザーツバイの斬撃を受け止め……切れなかった。

 

『はっ……!』

 

 斬と風圧、その二つがコアを地上へと叩き付けた。

 そこへすかさず、ツルギサバイブは追撃。風を斬り、コアを貫かんとスラッシュバイザーツバイの鋒が煌めく。

 

『いい、いい……』

 

 突きは回避される。地上を穿った一撃は、クレーターを生み、周囲を土煙が覆う。

 全員が視界を奪われ、風を前に立つことすら難しい。

 

「燐……!」

 

 見えない戦場の先、燐が戦っている。

 しかし、自分には何も出来ない。

 その無力さを美玲は一人思い知らされる。

 

『この状況、向こうも見えなくなっているだろうに……』

 

【TIME VENT】

 

『!?』

 

 コアは見た。

 砂塵の向こう側、輝く緑光。

 ツルギの敵を貫くような鋭い目の光。

 そして、コアが聞くは処刑宣告。

 

「────未来超越」

 

 コアの目の前の砂塵が切り裂き現れるツルギサバイブはスラッシュバイザーツバイをだらりと垂れ下げ、歩を進めていた。

 その歩の間に切り裂く、切り裂く、切り裂く。

 未来を、切り裂く。

 敗北の未来を。

 コアを切り裂くという未来だけが、残される。

 

『……ふっ』

「────」

 

 斬。

 白い影が、真っ二つ。

 コアは白い塵となり消滅。たしかに、コアは切り裂かれたのであった────。




次回 仮面ライダーツルギ

「……まさか、コアが斬られるだなんて」

「ほんと、終わってる……」

「ふざけないで! お願いデッキをもうひとつ私に! あいつらから奪い返すから!」

「迎えに来たの私なんだけど」

「駄目、なんだよ……私……」

運命の叫び、願いの果てに────。


ADVENTCARD ARCHIVE
FINAL VENT(仮面ライダーツルギサバイブ)
ドラグブレイドホワイトストーム 10000+AP

スラッシュバイザーツバイの刃の周囲をリュウノゲキリンが高速回転し嵐を纏わせ、ドラグブレイダーが背中に装備した背中の剣と共に白い竜巻を放つ超必殺技。
圧倒的な殲滅力を持ち、モンスターの大群を一撃で薙ぎ払う。
防御手段はほとんど存在せず、攻撃で相殺しようとしても10000AP相当の攻撃までは竜巻に巻き取られ吸収されて、DBWSの威力が上がる。そのためAP表記に+とついている珍しいカードで最大20000APまで向上可能。

聖剣の嵐吹き荒ぶ時、白亜の龍と剣士が目醒める。
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