仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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ALTERー10 闇に沈む

 何故、言葉を交わすまでもなく斬ったのか。

 許せなかったからか。いや、違うだろう。

 あれは、それほどまでの脅威だったからだ。

 人に害する存在。モンスターともライダーとも違う天災。早急に、斬るしかなかった。

 だというのに……。

 

「何も、変わらない……」

 

 斬って、何かが劇的に変わるということはなかった。

 ミラーワールドが無くなるようなことも、ライダーがいなくなるようなこともなかった。

 ただ、この世界を流れる音だけが密かに鳴り続いている。

 

「燐……」

「……僕、は」

 

 コアを斬ったのか、本当に。

 いや、確かに斬った。斬ったはずなんだ、なのになんだ、この感覚は……。

 

『あれ、もう一人の私は……』

「アリス……!」

 

 キョウカさんの言葉に周囲を見渡す。

 彼女の姿はここにはない。コアとの戦闘の間に逃走したのか、もしかしたら……。

 コアを斬ったことで、彼女は彼女がいた場所へ戻ったのかもしれない。

 

「……ひとまず、戻るわよ燐」

「……はい、美玲先輩」

 

 スラッシュバイザーツバイを鞘に納め、ミラーワールドを後にする。

 ここにいられる時間も限られている。

 今は、一度状況を整理するべきだろう。

 

 

 

 

 ミラーワールドから出て、変身が解除される。

 そして、僕は少し目のやり場に困ってしまった。

 

「なにしてるの燐」

「え、いや、その……。美玲先輩、パジャマで来たんですか……?」

「パジャマ……というかルームウェアね。朝早いから誰に見られるってわけじゃないし……。燐だって、それ寝巻でしょ」

 

 それは、そう。なのだが。

 ただ、美玲先輩の深い蒼のルームウェアはその、足が結構出ているというかなんというかで……。

 あんまり、こういう格好で外を出歩かないでもらいたい。

 

「……早く帰りましょっ!」

「迎えに来たの私なんだけど」

 

 無防備過ぎる、隙だらけ過ぎる。

 いや、というのも……。

 他の人に、見せたくないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミラーワールドの何処か。

 廃墟ビルの一室にアリスはいた。

 コンクリート製の支柱に背もたれ、ずるずると腰を落とした彼女は先程の戦闘のことばかりを考えていた。

 

「……まさか、コアが斬られるだなんて」

 

 ミラーワールドに巣食う謎の存在、コア。自分では歯向かうようなことは出来なかったあれをツルギサバイブは容易く切り捨てた。

 恐ろしい、なんて恐ろしい力なのだろう。

 あんな力を持たせるなんて、こちらの私は何をしているのか。彼が強大な力を持つということは戦いから遠ざけることとは正反対のことだというのに。

 あれが自分と同じだなんて認めたくない。

 私は絶対に、絶対に彼を戦いから切り離す。そして、幸せを────。

 

「りん、を……愛、してる……から、だから……」

 

「美玲、先輩……!」

 

「お前を殺してやるッ!!!」

 

 フラッシュバック。

 嫌な記憶。

 私は彼を戦いから遠ざけて、幸せに生きられるようにしたはずなのに。

 私はライダーバトルに勝利したはずなのに。

 なのに、私の願いはまだ────。

 

「今度こそ、私は……」

 

『そう、今度こそ貴女は願いを叶えないといけないわね』

 

 その声に耳を疑い、思わず立ち上がった。

 何故なら、その声の主は先程ツルギサバイブにより切り裂かれたコアの声なのだから。

 

「コア……! 貴女、生きて……」

『死んだわよ。ここのコアは。だから、私が来たの』

「……そういう、ことですか」

『同期完了。肉体投影開始』

 

 すうと、爪先から白い女の影コアが形成される。

 見紛うことなき、コアそのものの姿であった。

 

『ここの私が直接あの力を測ってくれたから、あの彼女……佐竹だったかしら。あれはもういらないわね』

「……処分しろと」

『ん? 別にいいわ。私が行くから』

 

 薄れ消え行くコアを見届けた私は、コアの底知れなさに恐怖を抱くのであった。

 あれの全貌など、知りたくもない……!

 

 

 

 

 

 

 

「佐竹さんおはようございます。具合はどうですか?」

「おはようございます。特に問題ありません」

 

 朝、聖山総合病院にいる私はいつも通り、人の良い私を演じている。

 30代ぐらいの担当医との会話程度ではこの仮面を崩すことは出来ない。

 学校での戦いで、アイズをあと一歩のところまで追い詰めたがツルギのせいでこんな場所に縛り付けられている。

 おまけにデッキまで奪われてしまった。一刻も早く、取り返さなければならないというのに。

 

「あの、退院の話などは……」

「ん? あー、佐竹さんは他の患者さん達と比べると症状も軽いからね。近いうちには退院出来るよ」

「そうですか……。その、近いうちというのは」

「いやーそれもまだ分からなくて。まだあれの原因も分かってないしで……。なにより、佐竹さんのご両親からしっかりと診てほしいって言われててね」

 

 ……使えない親が。

 

「そうですか。ありがとうございます」

「いいえ。それではまた午後に」

 

 去る担当医を見届け、手洗いへ。

 うちの生徒達の容態はだいぶ落ち着いたようで、病院から慌ただしさをそれほど感じなくなった。

 とはいえ、かなりの人数を一度に収容したのだ忙しくないわけがない。

 もちろん、この病院だけで全員を受け入れられるわけがないのでここ以外にも、隣町の病院なども使われたという。

 かなり大きな事態になったが、ライダーバトルには関係ない。そのためにも、早く、早くなんとかしなければ……。

 

『おはよう佐竹日奈子』

「ッ!? コア!?」

 

 大きな鏡の中、私ではない白い女の影が映っていた。

 

『病院、楽しんでる?』

「ふざけないで! お願いデッキをもうひとつ私に! あいつらから奪い返すから!」

『デッキなんていいからいいから』

 

 ひどく、優しい声色だった。恐ろしいと感じるほどに。

 優しく、朗らか。だけど、コアのそれからは何か薄ら寒いものを感じてしまう。

 

『デッキの代わりといってはなんだけど、欲しい物があるのよ』

「欲しい物……? 奪ってこいってこと……?」

『いいえ。貴女から貰うから』

 

 途端に走る寒気。全裸で猛吹雪の中に放り出されたかのような感覚に私は逃げ出そうと足を動かす……。

 足、を。

 瞬間、低くなる視界。まるで、だるま落としのよう。

 べちゃっという、生理的に嫌な音。

 

「え……」

 

 足下を見る。いや、もう足下なんて言えなかった。

 足が、ないのだから。

 トマトが踏み潰されたかのように広がる赤い液体は、私の血。

 嘘だ、嘘なんだこれは夢のはずだそうでなければ何だと言うのだ。

 

「は……?」

 

 あった、私の足。

 鏡の中、コアが、抱えている。

 返して、返して返して。私の、足。

 

『ふぅん……。足ってこんな造詣なのね。じゃあ、最後に貴女の命をいただくわね』

 

 鏡の中にもう一人の私がいる。まるで人形のようなもう一人の私。あっちの私の足も、なかった。

 そして、コアの手が私の胸を貫く。

 ……。

 …………。

 

 

 

 ブラックアウト。

 

 

 

 

 

 目覚めると、知らない天井。

 白い、天井。

 周りはカーテンで仕切りがされていて、ここがどこか察しがついた。

 

「病院……?」

 

 なんで、自分はこんなところにいるんだと疑問に思い、思い出す。

 そうだ、アタシは喜多村に負けて……。

 ……負けたことを思い出したら身体が痛み始めた。くそ、思い出すのはやめだ忌々しい。

 とにかく、アタシは生きてる。生きてるのならライダーバトルを続けられる。

 そうだ、だからこんな場所にいる理由はない。

 デッキは……。ベッド横の棚の中にあった。アタシの服……どこだ、見当たらない。まあいい。どうせ安物だ。

 よし、行くか。

 着替えはあいつん家に行けばある。しかし町中をこの患者の服で出歩くのは目立ち過ぎる。

 ……ミラーワールド通ってくか。

 こんなことで変身するのもあれだがと思いながら、人気のない鏡のある場所を探す。

 とりあえず、そんな場所は……トイレか。

 歩くとまだ少し身体が痛むが、こんなのすぐにデッキの力で治る。

 ただ少しの間、動き回れないな。

 

「……ここはどうだ」

 

 周囲を見渡し、入ってきそうな奴がいないことを確認。

 さて、トイレの中は……。

 

「……ッ!? うっ……」

 

 なんだよ、これは……。

 異様な光景に身体が固まる。

 大きな血溜まり。

 アタシと歳の変わらなそうな少女の死体。

 死体には、足がない。

 

「きゃあぁぁぁぁ!!!!!」

 

 突然の悲鳴。

 アタシが固まっている間にトイレに入ってきた女の悲鳴だった。

 悲鳴を聞きつけ看護師が、医者がぞろぞろと現れて、この光景を目に焼き付けてしまった。

 アタシはされるがままに大人達に連れられ、ここから離された。

 警察もすぐに来て、アタシは病院に居残ることになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝、美也さんと合流して聖山総合病院に向かう予定だったがその前に、寄るところがある。

 

「伊織さん、大丈夫かな……」

 

 ここ数日、伊織さんから連絡がない。

 既読はされるのだけど、返事がない。

 そこで美也さんの提案で様子を見に行くことに。ただ、僕は……伊織さんがこうなってしまった理由に心当たりがあった。

 それはかつて、僕も味わったもの。

 きっと、伊織さんは……。

 

「ところで燐」

「……あっ、なんですか?」

「……なんで彼女の家を知ってるの」

「前にお邪魔したことがあって、それで」 

「……そう」

 

 ほんの少し、美玲先輩の目に恐ろしいものが宿った気がする。

 その、何もないので許してください。

 あの時は色々あったし、すぐにおいとましたので……。

 

「あ、ここです」

 

 表札も日下部。うん、記憶違いではない。

 インターホンを押して少し待つと、伊織さんのお母さんが出てきた。

 ……顔に疲れが出ているようだ。

 

「こんにちは。伊織さんはいらっしゃいますか?」

「えっと、伊織の友達……?」

「はい、そうです」

「あぁ……その、少し待っていてもらえる?」

 

 伊織さんを呼びに行ったお母さんを待つこと数分。

 ちょっと、長いような気がする。

 突然押し掛けたというのも悪いけれど……。そう思い始めた時に再び玄関の扉が開かれる。

 そこにいたのは伊織さん、ではなくそのお母さんであったが。

 

「あの……リン、くん? で、いいかしら?」

「あ、はい。燐であってます」

「ごめんなさい……。伊織、この前のあれから引きこもっていて……」

 

 ……そう、だったのか。

 

「君なら通してって言われたから……。あなた達は待っててもらえる? お茶出すから……」

 

 僕だけ、伊織さんに会うことになった。

 美玲先輩と美也さんは一階のリビングで待機。

 伊織さん……。

 扉をノックし、中の伊織さんに声をかける。

 

「伊織さん、僕です。燐です」

 

 僅かに、部屋の中から入ってと聞こえたので、慎重にドアノブを回した。

 そして、目についたのはその部屋の異様さ。

 カーテンは閉められ、照明もついていないので薄暗い。

 なにより、鏡となるものには覆いが被されていた。

 そんな暗い部屋の中に一人、ベッドに腰かけている彼女の顔は憔悴しきっていた。

 

「……扉、閉めて」

「は、はい……」

 

 扉は閉ざされた。

 これで本当に暗くなる。

 ここに、この数日彼女はいたのか。

 

「……そんなところにいないで、こっちに来てよ」

 

 確かに、ドアの前に立っているのもあれだ。

 言われるがままに、伊織さんの近くへ。すると、今度は布団をポンポンと叩いて自分の左隣に座るように促した。

 失礼しますと、伊織さんの隣に座る。あまり、こういうのは良くないなと思いながら。

 罪悪感分の距離は30cm。それぐらいは開けさせてもらった。

 そうして座ってからというもの、伊織さんは口を閉ざしてしまう。

 

「伊織さん……。その……」

「……もう、分かってるでしょ、これ見てさ……」

  

 これとは、この部屋のことを指しているとすぐに分かった。

 閉ざされた鏡。

 これはモンスターを、ミラーワールドを拒み、恐れている証拠だろう。

 

「駄目、なんだよ……私……」

 

 声が震えていた。

 暗くとも、泣いているのが分かった。

 

「怖いんだよ……。あの時、たくさんの人がモンスターに殺されて……」

 

 ……あの光景は、トリックベントの分身を通して僕も見ていた。

 穏やかないつもの日常を送っていたはずの学校が、凄惨な殺戮に支配されるあの光景は、誰だって心に傷を負う。

 僕も、かつてそうだった。

 

「私は守れなかった……それどころか自分を守ることに精一杯で……」

「伊織さん……」

「あの時の光景が焼きついて……。忘れたくても忘れられないの……!」

「……」

 

 なんて言えばいいか、分からなかった。

 

 いや、分かっているだろう?

 

 彼女が抱えてしまったものは、僕もかつて抱えてしまったものだから。

 何か、声をかけてあげたい。

 けど、けど……。

 

 痛む心なんて、斬り捨ててしまえばいい。

 

「伊織さん、僕……」

「笑っちゃうよね……。記憶を取り戻したいって願ったのに、今は記憶を消してしまいたいって思ってる……」

「……! それは……」

「ごめんね燐君……。私、君みたいに戦いたいなんて言ったけど……。もう、駄目だよ……」

 

 ……ああ、やはりそうなのか。

 いや、これでいいんだ。

 辛い戦いを続ける必要はない。

 伊織さんの分まで、僕が戦えばいいのだから────。

 

 

 

 出されたお茶は飲んでしまった。

 上で、一体どんな話をしているのか気になる。

 いや……それよりも、燐が女と二人でいるという状況の方に心が揺れている自分がいるのが情けない。

 これも今朝のことのせいだ。

 あの女と、燐は二人で……。

 

「あ、燐君」

 

 影守の声で現実に引き戻される。

 燐が部屋から戻ってきたので、彼女の母親もやって来て娘の様子を訊ねた。まともに会話出来ていないだろうから、当然だろう。

 

「伊織、どうだった……?」

「その、この前のことがショックだったみたいで……。ケアをしてあげてください」

「そう……。ありがとうね……。あ、あなたもお茶飲んでいって」

「いえ、お構い無く……。予定があるので、すいませんが失礼します」

 

 そう言って、燐はこの家から早く出ようとしていた。

 私達に、本当のことを話すためだろう。

 彼女の母親に見送られ、少し歩いたところで燐がポツリと呟いた。

 

「これ……」

 

 燐がポケットから取り出したのは、日下部伊織のデッキであった。

 これが意味することを私と影守はすぐに理解したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「けど、大丈夫かな。面会とか出来るんですかね」

 

 聖山総合病院に向かう道中、伊織さんのことで誰もが無言でいたが、長い沈黙を破るように美也さんが呟いた。

 今日の予定はそう、病院へ行くこと。

 あの学校での戦いで倒した佐竹日奈子を、他生徒に紛れ込ませて病院送りにしたのだ。デッキは当然取り上げて。

 このデッキを人質にあれこれ聞き出そうという作戦を美玲先輩が発案し、実行に移そうという段階なのだが。

 

「面会出来なくても、病室に乗り込めばいいでしょ」

 

 美玲先輩、意外と脳筋。

 けれど正直、病院という環境は人が多く、厳正な監視下に置かれるわけではない。

 仮に面会不可だったとしてもしれっと、堂々と病室に立ち入れば案外バレないかもしれない。

 

「病室って、他に患者さんいたりもしますよね。そんなところでライダーがどうのなんて話するんですか?」

「……その時は、何処か人気のない場所に移ればいいでしょ。こっちは三人、あっちは一人。それにデッキもこっちが持ってるし、主導権は完全にこっちのものよ」

「美玲さん、なんか悪役っぽい……」

「無関係な学校の人達を巻き込むような奴の仲間と私、どっちが悪そうに見える?」

 

 それは当然向こうです。

 確かにちょっと悪役チックに見えなくもないけど、警察の取り調べのようなことをするだけ。

 この戦いを終わらせるために。

 コアを斬っても、美玲先輩達のデッキは健在というこの状況。なんとかして皆をこの戦いから解放するためにも、情報は必要だ。

 病院はもう間近。そこまで来て、複数の白と黒のパンダカラーの車が病院前に停められているのが見えた。 

 あれは、パトカーだ。

 病院の前にあんなにいるということで考えられるのは一つ。病院で、何か事件があったということ。

 

「美玲先輩」

「ええ」 

「何にもないといいけど……」

 

 病院自体は普通に入れるようで、中に入ると色々と慌ただしい様子。

 警察の鑑識の人もいる。本当に事件があったようだ。

 そんな病院の様子を見ながら受付へ。美玲先輩が率先して声をかけた。

 

「すいません、面会って出来ますか。佐竹日奈子って、友達なんですけど」

 

 それを聞いた中年の看護師さんの表情が変わった。

 何か、嫌な予感がする。

 

「あの、何かあったんですか。警察の人とか来てるのと……」

 

 僕がそう尋ねると、看護師さんは周囲を見渡して僕達にもっと近付くように促し小声で話し始めた。まったく、予想外のことを。

 

「……実はね、佐竹さん亡くなられたのよ」

「えっ……」

「その、亡くなられたというか、今朝死体がトイレで見つかって……両足が切断されてたらしいの。けど、切断された足は見当たらなくて……」

「あ、足が……」

「そう、不気味でしょ。ただでさえ変なことが起こってるのにこんなことまで……」

 

 もっと詳しい話を聞いておきたいところだったけれど、僕達の後ろに人が並び始めたので撤退。

 一旦、病院の外に出た。

 

「ねぇ、今の話……」

「……消されたのかもしれないわね」

 

 美玲先輩の言葉に、僕と美也さんは頷いた。

 

「モンスターの仕業だったらわざわざ足だけなんてことしないもんね……」

「ええ。けど、やっぱり聞いた限りだと状況がおかしすぎる……」

「仮に向こうのライダーが口封じとかで殺したとしても、足を切断して、そのままってのは……」

 

 何故、そんなことをしたのか。

 口封じで始末するだけならそれこそモンスターに食わせるなりして、死体を残すなんてリスキーなことをする必要はない。

 では、見せしめだろうかとも考える。

 だが、見せしめであんな殺し方をするというのは可能性が低い。

 見せしめが目的なら、誰に対してか。

 仮に僕らにこれを見せつけるというのなら、病院という場所が悪すぎる。

 今日、僕達が病院に来るということを知っていなければいけないからだ。

 そもそも僕達に見せつけることにもなってないし。

 やはり、おかしい。

 病院の中に稀代の猟奇的殺人犯が潜んでいて、たまたまターゲットに佐竹日奈子が選ばれてしまった……という話の方が納得出来てしまう。

 消えた足。

 殺害場所はトイレ。

 ……駄目だ、僕みたいな素人では推理なんて出来るはずもない。

 証拠もない、現場も見てない。

 話を又聞きで聞いたであろう看護師さんからの話で推理出来るような探偵がいるなら、この世に未解決事件は存在しない。

 

「……考えていても、しょうがないわね。要警戒ってことで」

「分かりました」

「特に影守は注意しておきなさい。私と燐は二人でいるけど、貴女は一人になることが多いから」

「そう、ですね。気を付けます」

「ん。で、どうするこれから」

「あー……。病院来たんで、北さんのお見舞いでもしませんか? もしかしたら、他の人達にも会えるかもですし……」

 

 未だに眠り続ける北さん。僕達がお見舞いに来たからといって、北さんの意識が回復するなんてことはないだろうけど。

 それでも、大事な人の一人だ。

 大切にしたい。

 

「そうね、行きましょう」

 

 再び病院の中へ。

 眠り続ける北さんのところへ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は……というか、今日も病院、騒がしいね」

「あぁ……。なんかあったみたいだけど、分からないや」

 

 兄さんに嘘をついた。

 さっき、廊下で聞こえてきた話を兄さんにするのはやめておこうと思ったからだ。

 病院の中で殺人事件だなんて、入院生活をしている兄さんに不安を与えてしまう。

 だから極力、こういう話はしない。

 けど、いずれは兄さんの耳に届くだろう。だから無意味といえば無意味なことなのかもしれない。

 

「陽菜?」

「……あ、なに兄さん?」

「なんか怖い顔してたよ。どうした?」

「別になんもないって。気にしないでよ」

「気にするよ。俺は陽菜の兄さんなんだから」

 

 にっ、と笑う兄さんの笑顔は昔からちっとも変わらない。私を安心させる笑顔。

 どんな時も、この笑顔に私は助けられてきた。

 優しくて、頭が良くて、スポーツも得意で、友達もたくさんいて、明るくて、誰からも好かれていた兄さん。

 大好きな兄さん。なのに、なんで……病気なんかで……。

 

『余命は半年』

 

 医師からの診断を私は信じなかった。

 なんで、なんで兄さんが?

 兄さんが何をしたの?

 病気になるなら兄さんではなく私がなるべきだったのに。

 

「……ありがと」

「なんかあったらすぐに言うんだよ」

「うん……」

 

 言えない。

 言えないよ。

 言ってしまったら、兄さんは止めるでしょ。

 私が人を殺して願いを叶えようとしてること。兄さんの病気を治すために戦ってること。

 分かるんだ、兄さんの妹だから。

 きっと、他の誰かを殺すなんて間違ってるって。そう言うに決まってる。

 分かってる。正しくはないんだと思う。

 けど、兄さんを助けるためなら正しいとか正しくないとか関係ないんだ。

 だって、私は私のために兄さんを生かそうとしてるのだから。

 

「ほんと、終わってる……」

 

 独り言。兄さんに聞かれなくてよかった。

 そろそろ行こう。願いを叶えるために、戦わないといけない。

 兄さんを助けるために、少しでも早く……他のライダーをみんな倒さないといけないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北さんの容態は変化なし。

 眠り続けたまま。

 廊下のソファーに腰を下ろし、現実を受け止める。

 美玲先輩はお手洗いに行ってるので、一人分空けて隣に美也さんがいる。

 

「……ねえ、燐君さ」

「うん」

「これからどうすればいいんだろう」

「これから……」

 

 口をつぐむ。

 これから。先のこと。未来のこと。

 ……分かんないや。

 ずっと、ずっとそう。

 真っ暗闇の中をずっと、走り続けているのだから。

 

「……北さんはこうなっちゃったし、真央さんもどうなったちゃったか分かんないし、伊織さんも……。それに、射澄さん……」

「射澄さん……」

「射澄さん、私を助けようとしてくれてた……。だけど、だけど……!」

 

 射澄さんの死は、あまりに大きすぎた。

 絶望と哀しみに暮れる暇もなく、駆け抜ける戦いの日々。

 それでも忘れることは決してない。なにより僕は、彼女に助けられたのだから。

 白いデニムジャケットのポケットには、ツルギのデッキの他に眠り続ける北さんのデッキと伊織さんのデッキ。そしてヴァールの、射澄さんのデッキも忍ばせている。

 お守りのように思って、持ち歩いていた。

 

「……これ、美也さんに預けるよ」

「え……」

 

 美也さんにデッキを手渡す。

 そうした方がいいと思ったから。

 僕は救ってもらった。

 気丈に振る舞う美也さんだけれど、やはり彼女もまた射澄さんのことで傷付いていた。

 

「僕はこれに、射澄さんに救われたから。美也さんも……射澄さんから勇気を貰う、的なさ」

「勇気……。私も、射澄さんに救ってもらった。だけど、まだ……もう少しだけ、いいかな……」

「……いいと思う。射澄さんも、僕らの先輩だから」

 

 先輩は後輩を助けるものでしょ?

 そう冗談っぽい笑顔を作って、美也さんに向ける。すると美也さんも、同じような笑顔を浮かべた。

 

「うん、そうだね。頼りにしてますよ~射澄先輩! あ、で、これからのことなんだけどさ」

 

 元気になった美也さんは早速話題を切り換えてきた。

 これからのこと、か。

 

「今、ちゃんと戦える……っていうのもあれなんだけどさ、動けるのが私達三人でしょ。向こうはいっぱいいるしさ、また仲間を集めて、みんなでみんなを守って、この戦いを終わらせる方法を探していこうって思うの。どうかな?」

 

 仲間……。

 

 また、犠牲者を増やすのか?

 

 僕が往く地獄に道連れを伴うというのか?

 

 否、否。

 

 戦うのは僕だけでいい。

 美也さんも、美玲先輩も、誰だって戦う必要はない。

 これは、僕だけの戦いだ。

 

「燐君?」

「……仲間はいいよ」

「えっ」

「ほら、サバイブあるから。僕だけで充分だよ」

「燐君、それは……」

 

 美也さんはそこで口をつぐむ。

 何か言いたそうだったけれど。まあいい。なにを言われても、僕は……。

 

「……そういえば、さ」

「うん」

「刃のこと、どう思ってるの」

 

 刃?

 なんで、美也さんが刃のことを気にかけるのか一瞬分からなかったが、そうだ、美也さんは刃にも救われていたんだった。

 

「刃のことも聞いたけどさ……。燐君、なんだよね。彼も」

「まあ、そうなるね……。けど、あいつは死にたがってるし、色々と滅茶苦茶だし、僕にも分からないよ……」

「……私さ、陽咲に取り憑かれてた時さ、こんなの陽咲じゃないってずっと思ってたんだよね」

 

 陽咲とは、美也さんに体を支配していたミラーライダーのこと。

 刃と同じ、鏡面存在。

 

「だから、なんだろな……。燐君と刃もそうなんじゃないかなって」

「僕と、刃も?」

「ほら、アリス……。今はキョウカちゃんか、が造った存在だから……なんていうの? キョウカちゃんの願望? みたいなのがさ、入っちゃったり?」

 

 キョウカさんの、願望……。

 あれが?

 いや、本人に聞かないと分からないことだけれど……。

 

「燐君とキョウカちゃんの事とか、色々教えてもらったけどさ……。私がキョウカちゃんの立場だったら、燐君は怒っていいと思うし、戦わせたくないとも思うかなって……。それが、燐君が刃に感じてる違いとかになってるんじゃないかな?」

「そうなのかな……」

 

 考える。

 考えて、すぐにやめる。

 こればかりは、いやこれも僕一人で考えてもしようがないことだ。

 キョウカさんと刃、本人に聞かなければいけないことなのだから。

 

「ありがとう、美也さん」

「いいえ。……ね、一人じゃこんなこと思いもしなかったでしょ?」

「え? あ、まあ……」

「うん、だから自分だけで、とか。一人で、とか。そういうのナシだよ。私達、仲間なんだから」

 

 そう言って微笑む美也さん。頭のお団子もつられて揺れていた。

 仲間、か……。

 ……。

 

「……うん、そうだね」

「うんうん」

「そういえば、美玲先輩遅いね」

「そういえば……。大丈夫かな? 私、様子見てくる!」

「じゃあ僕も……」

 

 そう言って立ち上がると、ジトっとした目を向けられる。

 な、なんだろう。

 

「美玲さん、どこ行ったか覚えてる?」

「え、トイレ……」

「女子トイレに入るつもりなのかな~?」 

 

 これは失礼しましたと謝罪すると、よろしいと許しを与えられる。

 そういうわけだから待っててと言われ、美也さんは美玲先輩を探しに行った。

 ……つい先日、妹を助けるために女子トイレに突入したことは黙っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 様々な店舗が連なるアーケード街は多くの人で行き交っている。誰もが主役で誰もが脇役なこのアーケードを練り歩くその少女は、道行く人の目を引く銀髪を靡かせ楽しげに練り歩く。

 楽しげではあるが、決してショッピングや冷やかしなどを目的とはしていない。

 彼女を真に楽しませるのは、闘争だけなのだから。

 

「どこかなどこかな~」

 

 鼻歌交じりに少女、喜多村遊は往く。

 本気で闘える相手を求めて。

 

「どこにいるかな~御剣燐君~」

 

 彼女の求める対戦相手。

 それは、最強のライダー。

 仮面ライダーツルギ=御剣燐。

 彼女の心境は挑戦者。王者に挑む挑戦者。

 だが、奪うのは王座だとかベルトではない。

 その命である────。




次回 仮面ライダーツルギ

「瀬那知らない!?」

「君の……身体は一体どうなってるんだ! 怪我が治りかけてきているんだあり得ない!」

「教えなさい。サバイブの力を手に入れるには、どうしたらいい」

「ふふん。さあ、やろうよ。この力を持つ者同士でさぁ!」

「……そういえば、あいつに、なんも……」

 
運命の叫び、願いの果てに────。

ADVENTCARD ARCHIVE
FINAL VENT ストライクブースト(仮面ライダーピアース)
5000AP

仮面ライダーピアースがユニコブースターに乗り、バルカンで逃げ道を塞ぎながら全速力で相手に突進。敵を角で上空にかち上げ、さらに上からピアースのキック、下からはユニコブースターが跳躍し角で貫く。

一角獣と騎士が貫くは穢れなき正義。
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