過去を語るのは、私にとっては自傷行為でしかない。
肌を搔きむしって泥みたいな血をかき出すような感覚。だけど、この感覚を越えると……懐かしい暖かさを思い出すことが出来る。
父さんがいた頃、どこにでもある家族の一つだった頃。
アタシが戻りたいあの頃。
昔を思い出すのは辛いけど、父さんを思い出さないのはダメだ。父さんが可哀想。
母さん、あの人がもう父さんを思い出すことはなくてもアタシだけは父さんのことを覚えていてあげないといけない。
「そう、お父さんが……」
「……父さん、真面目に働いてただけなのに……。なんで、なんで……」
「そう、ね……」
「父さんが死んでから全部狂い始めたんだ……。母さんだって……」
父さんがいれば、母さんもああならずに済んだのではないか。そう考えることもしばしばだ。元々、ああいう人ではあったかもしれない。けれど、父さんがいた頃は母さんだって優しくて……。こう言っては何だが、母親をしっかりしていたとも思う。
だから、そうだ。父さんがいなくなってしまってからだ。こんな風になってしまったのは。
父さんを理不尽に責め立て、死に追いやったこの世界が私は憎い……!
「ふざけるなよ……。どいつもこいつも、父さんを罪人だって、地獄に落ちろって、なんで生きてるんだって……!」
「落ち着いて……。ゆっくり、深呼吸して……」
両肩に手を添えられ、アタシの顔を覗き込むようにしながら女は言う。
けれど、ダメだ。
憎くて、悔しくて、滾って、悲しくて、吐き出したい。
「返せよ……アタシの居場所……。アタシの帰る場所を……!」
すぐ目の前にある顔に向けて吼える。
だが、何か様子がおかしかった。
「え……」
止まっている。
ぴたっと、女の身体は止まっている。
息をしている様子はない。人形のようだ。
恐る恐るベッドの上で後退り、女から距離を取ると女の姿勢はそのまま。固められたかのように、ぴくりとも動かない。
目も動くアタシを追うことはなく、一点を見つめ続けている。
「なんなんだよ……。ふざけてるのかよ……」
ふざけていてくれた方が良かった。この異常事態がただの遊びなら良かった。
ただ、これはもう異常事態として認識するしかなかった。
この女だけがこうなってしまったのか。それを確認するため病室から出ると、廊下を歩く看護師や患者、その家族と思われる人々も皆、立ち止まっていた。
若い女の看護師の目の前に立つと、やはり止まっている。
今、この世界で動くものはアタシしかいない。
まるで、写真の中に閉じ込められてしまったかのようだ。
何が起こっているのかは分からない。
けれど、この事態を引き起こしたと思われるものには目星があった。
ライダーバトルだ。
鏡の中の世界でどうこうなんていうことをしているなら、こんなことだって起こせてしまうのかもしれない。
病室に戻り、ベッドの隣のキャビネットに入れていたデッキを手に取る。
「……? なんか、熱い……?」
仄かに、デッキが熱を発していた。手で持てないというほどではないが、こんなことは初めてだ。
この現象と何か関係しているのだろうか。
関係しているなら、話は早い。こんな時でも、ライダーは普通に動けているのかもしれない。
ひとまず街中まで行って、この現象について探ろう。
剣と拳の衝撃の余波に、アスファルトが風に吹かれた紙のように軽々と舞い上がる。
荒れ狂う風を纏った剣が素早く繰り出される岩石のごとき拳を受け止め続けるという攻防が繰り広げられること、既に5分近く経過しているとツルギサバイブは体感していた。
しかし、5分も経っていないのだ。
何故ならこの世界はレイダーサバイブによって止められた時の中なのだから。
「御剣燐くん。私の永遠にようこそ────」
レイダーサバイブ、喜多村遊の言葉の通りであった。
永遠闘諍。
時の止まった世界は喜多村遊が作り出した闘技世界。彼女が入門を許した戦士のみが動くことが出来る。
────そうして、喜多村遊と闘い続けるのだ。
永遠に。
「手加減しないで本気で来なよ!」
繰り出されたレイダーサバイブの拳をツルギサバイブは跳躍して回避。行き場をなくしたレイダーサバイブの拳が地面を穿つ。
宙を舞ったツルギサバイブは着地と同時に地面を蹴り、風の力で加速し間合を詰める。攻撃を回避されたレイダーサバイブの隙を狙い、袈裟懸けに剣が駆け抜ける。
「ぜあぁッ!!!」
「っあッ!?」
レイダーサバイブから散る火花の大きさが、ダメージの大きさを物語る。
火花とは、鮮血の代わりだ。
ライダーでなければ、レイダーサバイブは死んでいた。
「あ、は~……。へへっ、これこれ……」
尻餅をついたまま斬られた肩を撫で、痛み混じりの声だが楽しげに呟くレイダーサバイブの目の前に、スラッシュバイザーツバイの切先が置かれる。
「この世界を、元に戻してください」
「ははっ、嫌だよ。せっかく君とこんな戦える舞台を整えたんだからさっ!」
切先を払い、レイダーサバイブはツルギサバイブへとタックル。素早い身のこなしにツルギサバイブは反応しきれずそのまま押し切られる。
「くっ!」
「戦ってよ私とさぁ! 戦うしか能がないんだからさぁ私達はぁ!!!!!」
「そんなことッ!」
スラッシュバイザーツバイの柄の先でレイダーサバイブの背中を殴打し、怯んだところを蹴り飛ばして間合を離す。
「戦うことしか出来ない人間なんていない!」
「ここにいるよ二人もね!」
【SWING VENT】
左手に備わるメリケンサック型の召喚機にカードを読み込ませるレイダーサバイブ。召喚された武装は鎖分銅。ガッツタイタンの頭部を模した鉄球を振り回し、ツルギサバイブへと向けて投合。
「くっ……!」
ツルギサバイブの左腕に巻き付く鎖が、ツルギサバイブの動きを封じ込める。拘束を振りほどこうと鎖に手をかけるツルギサバイブだったが、レイダーサバイブは鎖を手繰りツルギサバイブに自由を与えない。
そうして鎖分銅を自身の腕についた鎖に巻き付け、ツルギサバイブとレイダーサバイブによるチェーンデスマッチが始まる。
「私達は同じだよ!」
「僕はあなたのようには戦わない!」
「人間を守るためとか大義名分はどうでもいい! 結局やってることは何も変わらない!」
パワーではレイダーサバイブに軍配が上がる。踠くツルギサバイブの抵抗虚しく、レイダーサバイブの剛力に振り回される。
壁や床に叩き付けられ、ツルギサバイブは少しずつダメージを受けていく。
「がッ……!」
「勉強、スポーツ、他にも色々あるけど私達に取り柄があったのは戦うってことだけなんだよ分かるでしょ!」
「そんなことッ!」
「あるよ! 現に君はその取り柄を人を守るってことで活かしてる! 他の人に同じことが出来たかな? 出来ないよッ!」
鎖を一気に手繰り寄せるレイダーサバイブ。ツルギサバイブはレイダーサバイブのもとへ引き寄せられ、強烈な一撃がツルギサバイブの胸部を貫く────。
「ッ!?!? はッ……!」
肺から抜ける空気。
視界は明滅し、意識も危うく持っていかれるところだった。
くそ、立ち上がろうにもまだ上手く力が入らない。
「普通の人は、才能とか取り柄とか無いとか言うけどさ、そんなことないと私は思うんだよね。誰だってひとつは何かしらそういうのを持ってるはず」
膝を折り、こちらの顔を覗き込みながら彼女は語る。
何が、言いたい────。
そう言いたいけれど、口はまだ微かにしか動かず、呼吸する事が最優先と言葉は発せられない。
「そういう取り柄ってやつがさ、社会のため人のためになるものだったらいいよね。普通の人なら、それで幸せに暮らしていける。……けどさ、私達の取り柄はやれ反社会的だの何だのって言われる。戦う才能は必要とされてない」
それは、そうだ。
生きていく中で、僕達の暮らしの中で、暴力という行いは嫌悪されるものであるし、普通使われないものだ。
けれど、それならスポーツをやればいい。
空手なり柔道なりボクシングなりプロレスなり。暴力はスポーツとして形を変えて、社会で生き延びているのだから。
「スポーツやればいいと思った? 無理無理。あんなお行儀いいやつは求めてない。私はね、戦うってことは命を懸けるものしか認めない。スポーツで死ぬことは、まあ事故やら何やらは別として無いし、そんなことしちゃいけないでしょ? だから駄目。本気の本気の本気でやらなきゃそれこそ私は死んじゃうんだよ」
戦っている時にこそ、私の命は輝く────。
それが、彼女の弁であった。
生と死の境界線に立つことにこそ、彼女は魅力を感じ、またその才能が彼女にはあってしまった。
「戦国時代に生まれれば良かったーと思うんだよね。戦って戦って戦って、戦うことが認められる世界。それがここだよ。ミラーワールド、そして永遠闘諍。ここは私の世界だから、戦う者しか認められない……!」
「ぐあっ!?」
立ち上がったレイダーサバイブに勢いよく蹴り飛ばされる。地面を滑っていくも、鎖のせいで勢いよく急停止。
「御剣燐……。君も私と同じ、戦うしか能がない少年」
戦うしか能がない、か……。
それは、きっと正しい。
勉強も特別出来るわけでもない、スポーツだって並ぐらいのものだ。
けれどこの、剣を握っている時だけは……違う。
どう振るえばいいのか分かった。どうすれば敵を切り裂けるのかも理解出来た。
教科書と睨めっこをする必要もなく、ただこの身体は……剣であると分かっていた。
それでも……。
「確かに、戦うしか取り柄のない人間かもしれない……。けど、それでも……戦うのは嫌いです」
「……」
スラッシュバイザーツバイを支えに、痛む身体を無理矢理立たせる。
結構なダメージを受けた。だけど、立たなければいけない。
戦いを終わらせるために。人間を守るために。喜多村遊という少女のために。
「それでも僕が戦ってきたのは、僕以外の人達が傷つくことの方がもっと嫌だったからです。ライダーバトルのために犠牲になる人も、モンスターに命を奪われる人も、その人の死で悲しむたくさんの人達も、増やしたくないからです。戦うのは、僕だけでいい……!」
「……ずるいよ、そんなの」
同時に、駆け出す。
速いのはこちらだ、一瞬でレイダーサバイブへと接近し胸部に一太刀浴びせ、地面を転げてレイダーサバイブの背後へ。
しかし、レイダーサバイブが鎖を引いて僕を引き寄せてくる。
「戦いを独り占めなんて狡いよ本当!」
「チィッ!」
後退し、羽交い締めされそうになるのを振り向き様の一閃でレイダーサバイブをよろけさせる。
あまりやり過ぎるとこっちまで鎖で引っ張られることになってしまう。まずは、この鎖をどうにかするのが最優先。
「この戦いは僕の罪が引き起こしたものだ……。戦うのは僕だけでいい!」
「罪ぃ!? そんなの知らないよ私にも戦わせろ!!!」
一定の間隔を保ち、剣と拳を交える。
だが、リーチでは剣を持つこちらが有利。着実に、斬を刻みこんでいく。
「ハハァ……けど、そうか、そうなんだね。君のおかげでこんなに楽しい戦いが出来てるんだね! 感謝しかないよッ!!!」
「ふざけるなッ!」
風を纏った拳が、レイダーサバイブの顔面を捉えた。
「戦うことは……遊戯なんかじゃないッ!!!」
「ぐおッ!?!?」
一発、二発、三発と拳が鉄仮面打ち付ける。
レイダーサバイブがダウンした瞬間、スラッシュバイザーツバイを逆手に構え、鎖繋がる腕輪を斬り上げる。
自由となった左腕を振るい、巻き付いていた鎖を払い落とす。
そして、スラッシュバイザーツバイを左手に持ち替えデッキからカードを引き抜く。
腰に差した鞘の挿入口を開き、装填。
【TIME VENT】
「未来超越────」
切り裂く、敗北の未来。
この停止した時を再び動かし、喜多村遊の願望叶える闘技場から抜け出すにはどうすればいい……。
「え……」
未来は、決まった。
決まってしまった。
「そんな、そんなこと……!」
未来超越は敗北を斬り捨て、勝利をもたらす。
その勝利は、どんな形であれども。
たとえ、血塗られていようとも。
噴き出す鮮血。光を失った瞳。血滴る白刃。返り血を浴び、白を赤く染めたツルギサバイブの姿。
それが、未来超越が導いた未来。
喜多村遊を、斬殺せよ。
「そんなこと、出来るわけがないッ!」
「なにをごちゃごちゃとッ!」
動揺するツルギサバイブにレイダーサバイブが襲いかかる。
大地を鳴らし、ドロップキック。恐るべき破壊力がツルギサバイブに直撃。派手に吹き飛び、積まれていたコンテナに直撃。コンテナは衝撃で揺れ動くも、すぐに時間停止の影響を受けて、ピタリと止まる。
「く……何か、他の方法は……。未来はないのか……!」
非情にも、未来は変わらない。
やはり、彼女を斬り殺してしまうという未来しか存在しない。
これで確定してしまっているのだ、未来は。
「それでも……」
スラッシュバイザーツバイを、鞘に納める。
「ん? なんのつもり?」
右手を握り締め、前に出す左手は平手、手刀として構える。
剣は、使わない……!
「いいの? ステゴロもいいけどやっぱり君は剣の人でしょ? 本気じゃなくても勝てるアピールだったりする?」
「……」
「ダンマリはつまんないよ~! ま、口を開かざるを得ないようにしてやればいいか!」
意気揚々と迫るレイダーサバイブ。どうにかして、彼女を殺さない未来を……。
代わりに僕が死ぬなんてことは許されない。
僕が死ぬべき場所は、ここではない。
彼女も生かして、僕も生きて帰らなければ……!
懐中時計は止まったまま、一時間ほどが経っただろうか。
新たなタイムベント、永遠闘諍の発現によりこの列車もまた動きを止めていた。
時の列車とはいえ、狂わされた時を走り続けている列車だ。今更止まろうが急加速しようが何とも思わない、が……。
「人間は、可能性があるから生きていけるのだよ。御剣燐……」
未来超越はあったかもしれない未来の枝葉を切り捨てる剪定鋏。
戦いに勝利する未来にあるのは栄光か?
いや、栄光など所詮は一時のもの。戦いの後にあるものは、新たな戦いのみ。
君は戦いを終わらせようとしながら、終わらない戦いに突き進んでいる。
とはいえ、未来超越はこれから先に必要な力でもある。
大事に使えと、言っておくべきだった。
可能性のない、冷たい剣のような一本道を君は行くのか?
このままでは、君は本当に剣になってしまう。
「また、新たな力が目覚めようとしている……。新たな、サバイブが……」
テーブルの上に置かれた無数のカード達。
四枚だけが表を向いており、他は裏向き。
無造作に手にしたカードを捲る。そのカードの名は────。
街は、全てが静止していた。
アタシ以外。みんな、みんな。
「どうなってんだよ……」
音もなく、何もかも。
死に絶えた世界のようだ。
街の中心、聖山駅前の近くまで来たが本当に何も動くものは……。
ふと、目に入ったビルのガラス。そこに映る、五人のライダー達。
そのうちの一人は知っている。
仮面ライダージャグラー。アタシの、同居人。
ミラーワールドの中すらも止まっている。……いや。
『ははッ!!!』
『ぐうッ……!』
その声には聞き覚えがあった。鋼と鋼がぶつかり合うような音は戦いの音。
一人は男の声、白い奴だ。
もう一人は……。
「喜多村……!」
この前、アタシを病院送りにしやがった喜多村。あの時、姿を変えて進化したのと同じ姿で白い奴と戦っている。
戦況は喜多村が優勢のよう。というか、白い奴は積極的に戦っている様子ではない。防戦一方だ。
……いや、あいつはあんな奴だった。
戦いを止めると嘯いているやつだ。
しかし、この何もかもが止まった世界で動けているということはこの事態に奴等が関わってる可能性は高い。
行くか……。
「っ……! また熱い……」
手にしたデッキは熱を帯びていた。変身を躊躇うほどに。
『そらぁ!!!』
そうこうしている間、喜多村は地面を踏みつけアスファルト片を宙に舞い上がらせると、それを殴りつけて白い奴へと打ち出す。
『ぐっ……!』
手刀で切り裂き防御するも数の多さに間に合わず、白い奴は全身から火花を噴き出し膝をつく。
更に喜多村は追い討ちをかけると、同じようにアスファルト片を殴り付けて白い奴へと放つ。
流石にこれ以上はまずいと白い奴は飛び退いて回避する。だが……。
「あいつに、当たる……!」
白い奴が避けたことで、その後方で動きを止めたままのあいつに……茜に当たってしまう!
『しまった!?』
白い奴も気付いたようで、動き出そうとするもあれだけのダメージを食らってまともに動けるわけがない。
どうすれば、どうすれば、どうすれば。
思考が渋滞する。
当たったからなんだというのだ。ライダーバトルで生き残ることが出来るのは、一人のみ。あいつもいよいよ脱落する時が来たというだけの話。
……そう、なのか?
アタシ、は……!
レイダーサバイブの攻撃が、美也さんと茜さんに命中してしまう。
くそ、こんな時に身体が満足に動かないなんて……!
爆発。
爆炎が周囲を赤く染めながらも、時間停止の余波を受けて揺らめきは静止する。
息を飲んだ。
僕が、避けてしまったばかりに……。
自分自身への怒りと、レイダーサバイブへの怒りが胸の中で燃え滾り、スラッシュバイザーツバイの柄を手が勝手に握り締めていた。
ギリギリの理性で抜くのを止めて、迸る本能が剣を抜けと叫んでいる。
「ぐ……! ぁぁ……!」
「あはは、いいねその殺意。感じるよ、ものすごく。その剣を抜いてヤろうよ殺しあいを!!!」
言いなりになっては駄目だ。いいやあいつは許せない。
人を殺すことは出来ない。あいつは人の心を持たないモンスターと同じだ。
まだ彼女達が死んだとは限らない。だが傷付いた。僕のせいで傷付いた。人を傷つける者は許せない。
────震える手が、剣を解き放とうとする。
「そうこなくっちゃ……ん……?」
「……あ……」
手が、止まった。
足音を、耳にしたから。
コツン、コツンと、炎の中から現れる。
「君は……」
レイダーサバイブがその姿を見て声を漏らした。
爆炎の中から現れたのは、黄色と黒のスズメバチを思わせるライダー。
左手には焼けてもうほとんど機能しないだろう盾を持ち、その黄色の身体に炎を纏って彼女はゆっくりとこちらに向けて歩んでいた。
「なんで動けるのかな? 君は入門を許可してないよ片月瀬那ちゃん?」
片月瀬那。
茜さんが探していた、あの少女だ。
「知らねえよ……。入門って言ったか。じゃあこの現象はお前の仕業なんだな」
「そうだよ! 永遠闘諍、永遠なる闘いの舞台! ……だけど、今は君、お呼びじゃないよ」
「知らねえって言ってるだろ。ただアタシは……借りを返しに来ただけだ!」
そして、彼女はデッキからカードを引いた。
そのカードは────。
自然と、カードを引いていた。
何を引いたかはイメージしていない。ただ、喜多村をぶっ潰せるだけの力が欲しい。そう思いながら。
「そのカードは……!」
カードを喜多村へと見せつける。
喜多村が持っているのと同じような、黄金の翼が描かれていた。翼の背景には、赤い何かが流れている。
いや、何かなんて分かるだろ。
血だ。
これは、血河。
アタシの周囲を血が充たす。
流れていく血が、どこか寂しい。
あれは、誰の血なのだろうか────。
そんなの、関係ないか。
腰にぶら下げた剣型召喚機クインバイザーを左手に逆手で構えると、剣から盾のような形状へと変化。
盾の中央にあるカード挿入口へとカードをセットし、変身。
【SURVIVE】
新たな姿がアタシへと重なり、アタシは変わる。
仮面ライダースティンガーサバイブ。
黒いインナースーツの上、刺々しさを増した黄色の装甲に金の縁が全身を走り、赤い宝石のようなものが胸部から両肩にかけてV字に伸びる。
見ると、全身にこの赤いクリアパーツは散りばめられていた。
仮面にも、スリットの下から涙のように赤が塗られている。
血の涙ってか。
ああ、なんて、悪趣味。
「君までサバイブになるなんてね」
「これでこの間みてぇにはいかねぇってわけだ」
「どうかな。君次第だよ!」
喜多村が地面を殴り付け、大地が牙を剥く。
今はこんな攻撃、怖くねぇ。
デッキからカードを引き、サバイブのカードを装填した挿入口の上にある別の挿入口を、虫が羽根を開くみたいにして開けてカードをセット。
【SPIN VENT】
クインバイザーツバイの先端から針が伸びて、轟音上げて高速回転。
そのままこいつで……!
「おらぁッ!!!」
迫る牙を殴って砕き、土煙を払って駆け出す。
「いいねぇ! そう来なくちゃ!」
【STRIKE VENT】
喜多村は両手に深緑の籠手を装備してアタシを迎え撃つ。
クインバイザーツバイで殴りかかる。だが、こちらは得物の都合で大振りとなる。
重そうな鎧のくせして素早い身のこなしの喜多村には回避され、間合の内側に入られる
この籠手は確かに小回りが利く、二発胴にもらい、よろめきながらクインバイザーツバイを振って喜多村を遠ざける。
「そいつに当たるのはヤバそうだ!」
「ああ、ヤバくなっちまえよ!」
攻撃の手は緩めない。ここで確実にこいつを倒してやる!
「でやぁぁぁ!!!!」
「ッ! まずっ!?」
喜多村の拳をクインバイザーツバイで受け止め、弾く。がら空きになった胴に、この針を突き刺して────!
殴り飛ばしたのは空。
喜多村は、いつの間にか背後にいた。
「あっぶなー。死んでた死んでたって今の」
「何を……」
「……まさか、時が止まってる中で、時を止めたのか!」
「正解! 私達は動いてるからね! まあ平等じゃないから使わないようにしてたけど咄嗟に使っちゃった」
白い奴が何か言ってる。あまり興味はないが、厄介なことに変わりはない。
更に、白い奴は剣を抜くと風の刃を放って喜多村を後退させた。
「おい、お前は手出すなよ。これはアタシの戦いだ」
「……ごめん、口だけ出させて」
「んだと」
「君のタイムベントはどんな効果?」
タイムベント?
デッキから抜くと、時計が描かれたカード。
効果は……。
って、なに従ってんだこんな奴に。
「君が時の止まった世界で動けたのなら、そういう能力なんでしょ」
「ッ……。それは、そうだけど……」
「なら使って、勝つよ。勝って、この世界から抜け出そう」
「チッ……。従うわけじゃねぇからな」
「従えるつもりはない」
チッ、口の減らない奴。
とにかく、勝つってんなら使う。使ってやる。
【TIME VENT】
「刻限流動────」
心臓が跳ねる、跳ねるというより、心臓がでかくなったと言った方が表現としてはあっている気がする。
血が身体中を巡るのが分かる。身体の中をミミズが走り回っているかのような気色悪さに寒気がする。しかし、身体は熱い。熱くて堪らない。
「何をする気かな~。さあ来いッ!」
奴の言葉が、スタート合図。
「ッ!?!?」
次の瞬間、奴の鎧に穴が空いていた。
「な、に……!?」
「ハァ……ハァ……!」
くそ、決めきれなかった!
堅すぎんだろ……!
もう一度……!
再び、血流が加速。冷えかかってきた身体に再び熱が灯る。
「くっ……止まれ!」
喜多村が時間停止を再度行う。白い奴は止まったが……。
「なんで……!」
「らぁッ!!!」
クインバイザーツバイが喜多村を殴り飛ばすと同時に抉る。激しい火花が噴水のように湧いて、この鎧の奥にある喜多村までも穿とうと堅牢な鎧を削っていく。
「うおおおお!!!!!!」
「ぎっ……!」
クインバイザーツバイを両手で掴んだ喜多村が押し返してくる。流石に、パワーでは分が悪い。
そして、こっちもそろそろ心臓が爆発してしまいそうだ……!
一旦、後退して距離を取ると同時に身体が一気に鉛のように重くなる。全身駆け巡っていた血流が、液体から固体に変わったかのよう。
何もかもが詰まってしまったみたいだ。
「また時が止まってたのか……」
白い奴が話したので、今は時が動いているらしい。
いや、まだ時は止まってるけれど……って、ややこしい。
「なんで、動けるんだい君は」
「ハッ! 知るかよ……。アタシの時は、アタシが決める」
「そうかい! じゃあ小細工なしだよ!」
地団駄を踏む喜多村の足下から、大地が波打ち、隆起して襲いかかってくる。
くそ、まだ呼吸整ってないってのに……!
「ハッ!」
剣が一薙ぎ。風の刃が大地を切り刻み、喜多村の攻撃を打ち消した。
「てめぇ、手出すなって」
「左手の召喚機を狙って。そうすれば、時は動き出す」
「指図すんな!」
「君の攻撃じゃないと駄目なんだ」
「なに……?」
「僕のタイムベント、未来超越が見せた未来がそれなんだ。君のタイムベントの力だからこそ、時を元に戻せるんだと思う」
「……アタシは勝手にやる」
「それでいいよ。勝手に合わせるから、瀬那さん」
「名前で呼ぶなッ!」
白い奴は、どこか嬉しそうに笑うと風を纏って加速していった。
くそ、気に障る……!
それでも、喜多村を倒すのが最優先だ。
奴とのお喋りのおかげで身体は軽くなってきた。行くぞ……!
熱が迸る。白い奴も速いが、この状態ならアタシのが速い。
このまま奴のバイザーを砕いてしまえばいいんだな。
それなら容易い!
「それはどうかなー?」
喜多村が指を鳴らし、時を止める。止めたところで、アタシには関係ない!
このまま、奴のバイザーを破壊して……。
「しまっ……」
自然とそんな声を出していた。
まさか、このタイミングで加速が終わるなんて……。
喜多村の目前で、身体が動かなくなる。
「おやおや、息切れかい? よっと!」
「ぐあっ!?」
軽く、極大の威力を秘めたアッパーカットが直撃し脳天を揺らす。
しかし……。
「ふんッ!」
「あいたっ!?」
繰り出したローキックが、喜多村の内腿を痛め付ける。
まさか、攻撃してくるとは思わなかっただろう。
普通なら、あのアッパーで意識が刈り取られていた。けれど、今のアタシにはまだ効いてこない。
そう、今のアタシの体内時間は非常に遅い。刻限流動は単にアタシの時間を速めるだけではなく、アタシに流れる時間を操作するもの。遅くすることだって可能だ。痛みの伝達も、まだ脳には届いていない。
だから、痛むことはない。……今は。
「ぜあッ!」
白い奴が割って入り、喜多村に斬りかかる。
……あいつが、喜多村を抑えたところを狙う。
【SHOOT VENT】
零距離という間合は喜多村の間合だろうに、白い奴は臆せず、怯まず、同等以上に立ち回る。
やはり、アイツは強い……。
「君も元気だねぇ! でも満身創痍だよね!」
「……!」
「お話してくれないならあっち行って!」
喜多村が白い奴を蹴り飛ばそうと左足を伸ばす。するとその瞬間、白い奴が驚くべき技を繰り出した。
剣を宙に放り投げると喜多村の足を両手で受け止め、喜多村の股の下へ錐揉み回転しながら倒れ込み、喜多村を投げ飛ばした。
その技の名は……。
「ドラゴンスクリュー!?」
技をかけられた本人が、技名を叫んでいた。
しかも、風の力を付与して投げ飛ばしたからか、喜多村のその場に叩き付けられるのではなく、少し離れたビルの壁に叩き付けられる。
白い奴は宙に投げた剣を取ると、アタシに向かって叫んだ。
「今ッ!」
「ッ!」
クインバイザーツバイから放たれた無数の針が、喜多村のバイザーに命中し破損させる。
これで、どうなる……!
「おりゃあ!!!」
鞭が赤いライダーを叩き付けると、赤いライダーは土塊に戻っていった。
え、私強すぎ……?
とかそんなわけではないらしく他の二体も自然と土に戻っていた。
それに……あれ?
レイダーを追っていったはずの燐くんがいる?
え、てかめちゃボロボロだし消滅始まってるし!?
レイダーもなんか壁に叩き付けられてるし!?
「え!? てか瀬那!? 瀬那だよねなんか強そうになってるけど!?」
「ハァ……ハァ……騒がしい奴……」
「大丈夫瀬那!?」
「問題ねぇよ……。それより、奴にトドメ、を……」
膝から崩れ落ちた瀬那を抱き止める。
もう何がどうなってるの!?
「ぐ、あぁ……あはは……ははッ! また楽しもうね……」
消滅進むレイダーが足を引き摺りながらミラーワールドから出ていった。
くそ、あいつ~!
「燐くん大丈夫!? 美玲さんは!? ああ、てかそれよりミラーワールドから出ないとだよね!」
「うん……。美玲先輩も大丈夫だよ……」
赤いお団子頭の子が燐に駆け寄って声をかけていたけど、かなり疲れているみたいだ。
本当に何が……。
何はともあれ、とにかく瀬那が戻ってきた。まったくどこ行ってたのやら……。心配かけて、まったく……。
おかえり、瀬那。
次回 仮面ライダーツルギ
「死にたくないなら、ついてきなさい」
「その通り。んでさ、あいつウザイから潰さん?」
「……人を殺すことはいけないことです。分かってるんです、そんなこと」
「うん。そういうわけで次会ったら敵かも~! なんつって」
「願いへの強い想い……」
運命の叫び、願いの果てに────。
ADVENTCARD ARCHIVE
TIME VENT(スティンガー)
刻限流動
自身に流れる時間を操作する能力。
また他者のタイムベント、時間操作能力の影響を受けないようになる。
そのため喜多村遊の永遠闘諍の影響を受けることはなかった。
自己に効果が発動するタイプのタイムベント(未来超越等)に対しては影響を与えることは出来ない。
強力な効果を持つが自分の時間を操作するという無茶をするため反動もまた大きい。
アタシの時は、アタシが決める————。