仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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ALTERー14 接触

 喜多村遊=仮面ライダーレイダーとの戦いを辛勝した五人は茜の家に一旦集まっていた。

 

「瀬那はぐっすりだよ」

 

 瀬那をベッドに寝かしつけてきた茜がリビングにいる三人に笑顔を向けて言った。

 それを聞いた美玲が小声で「こっちもよ」と返事をしたので茜は気付いた。

 

「あら、こっちも」

「ソファーに座ったら一瞬だったわ」

「あれだけ戦ってたらねぇ……。時止めるとか何それどうすんのって感じ……」

 

 激戦を終えて、燐も瀬那も体力の限界を超えていた。

 そもそもミラーワールドにおける戦いは最大で10分間。消滅が始まれば即退散となるのが定石のため、長くても8~9分といったところだろう。

 そんな中、燐は一時間以上レイダーサバイブと戦闘していたのだ。

 瀬那もまたサバイブ血河の初使用とタイムベント刻限流動の使用による反動で消耗しきっている。

 睡魔に身を委ねるのは仕方のないことだ。

 

「喜多村のあの力、厄介過ぎるわね……」

「瀬那がいたから勝てた~とは言ってたけど、その二人がこうなっちゃうぐらいだから……」

「あのアリスモドキとのこともあるっていうのに……」

「私達じゃどうにも出来ないんでしょうか……」

 

 力を増す脅威。まともに対抗出来るのは燐だけというのが美玲達側の現状である。

 燐一人にかかる負担がこれでは多すぎてしまうと、二人は気が気でなかった。

 

「そうだ茜ちゃん! 私達と協力しようよ!」

「協力……」

「うん! みんなでライダーバトルを止めるの」

「あー……。ごめんだけど、協力は出来ないや」

「え!? なんで!?」

 

 先ほどの戦いで共闘したため、仲間になれると美也は踏んでいた。

 しかし。

 

「私は瀬那が願いを叶えるのをお手伝いしてるから。戦いを止められちゃうのは困るなー」

「そんな……」

「うん。そういうわけで次会ったら敵かも~! なんつって」

 

 冗談ぽく言う茜だが、その言葉が本気であることは二人とも理解した。

 その上で、美玲は問うた。

 

「それで、あなたが叶えるのを手伝うっていうあいつの願いは何なの。自分の願いを捨ててまで手伝うなんて言うぐらいなんだから、大層立派なものなんでしょうね」

「それは……」

「……まさか、知らないの」

 

 ばつの悪い顔をして、俯きがちに茜は頷いた。

 

「……ま、私達には何も関係ないからそれでいいけど。燐が起きたら出ていくから、それまで厄介になるわね」

「……はい」

 

 茜はリビングを出ていった。

 少し重い空気に、美玲は燐が寝ている隣に座ると美也へと声をかけた。

 

「当てが外れたわね」

「うぅ……協力出来ると思ったのにぃ」

「ま、そもそも自分の願いを叶えるために戦い始めた奴等よ。そう簡単に協力してくれるわけがないわ」

「むぅ……美玲先輩は誰かライダーの知り合いいないんですか?」

「いたけど、大体死んだわね」

 

 もうかつてほどライダーの数は多くはない。

 終盤戦に突入したと言っていいだろう。そんな状況下で、仲間になれそうなライダーを見つけることは難しい。

 

「はぁ……燐くん頼りな現状、どうにかしたいのに……」

「そうね……。私か美也、どちらかでもサバイブを獲得したいところだけど」

「どうやって手に入れるんですかね?」

 

 美也のその疑問の答えを、美玲は知っていた。

 

「願いへの強い想い……」

「え?」

「あいつが言ってたわ。願いへの強い想いがサバイブを目覚めさせるんじゃないかって」

「でも、願いへの強い想いなんてみんな同じなはずです」

「ええ、そうね……。だから、失う……」

 

 願いを失うことが、願いへの強い想いを引き出す。

 燐はデッキを奪われライダーの力を失ったことで、サバイブへと至った。

 キョウカは想い人であった燐を失ったことで、サバイブへと至った。

 美玲が知る限りはこの二人はこうした理由からサバイブの力を手に入れた。

 それであれば片月瀬那もまた、何かを失ったのだろうか……。思考の海に沈みゆくも、私が考えて分かることではないと美玲は思考停止。隣で穏やかに、というには静かすぎる様子で睡眠中の燐の左手に右手を重ねていた。

 

「……よかった」

 

 この手が、暖かくて。静かすぎるから、死んでしまったのではないかと一瞬不安になっていたのだ。

 美也がすぐ近くにいるけれど関係ないと、燐に密着するように身を寄せて、燐の熱を身体で感じている。

 

「私が願いを失うということは、燐から愛されなくなるか、燐を喪うか……。そんなの、どっちも……」

「あ!? そうだ!」

 

 突然の大声に美玲は振り返り、声の主である美也を睨み付けた。

 

「いきなり大声出さないで」

「美玲さん美玲さん! 私、仲間になってくれるかもしれないライダーの知り合いいました!」

「……どこに」

 

 美玲が訊ねると、美也は「これですよこれ!」とハンガーにかけられていた茜の学校、藤花女学院の制服を指差した。

 

「正確には知り合いの知り合いというか、燐くんの知り合いっぽいんですけど……」

「燐の?」

 

 藤女に知り合いがいるなんて、私は聞いてないぞと美玲は内心で燐を睨み付けた。

 というかそもそも撒菱茜の時点でそうだったよなと、更に睨み付ける。

 

「連絡先、知ってるわけじゃないんでしょ」

「それは問題ありません! 藤女にいる友達から情報ゲットしちゃいます! ……なんですか、その顔は」

「その、藤女に友達いるんだと思って」

「たしかに藤女は校則厳しいし偏差値高くて私とは縁も所縁もないですけど! 藤女に行った友達ぐらいいますって! 待っててください、すぐ情報集めるので……」

 

 スマホに指を走らせ、あちこちに連絡しているだろう美也を横目に再び美玲は燐に身を預けた。

 仲間を集めるのは得策ではないと美玲は考えていた。鐵宮に対抗すべく、自らも仲間を集めたことがあったが結果として集めた仲間、金草遥は鐵宮の手にかかり、犠牲となった。

 美玲自身、彼女と交友が深かったわけではない。むしろ敵対していたがそれでも彼女の死は美玲に罪悪感を抱かせるに充分であった。

 もしも、美也が自分と同じ境遇に陥ったら。それを考えると美玲は気が気でない。

 そんな美玲の心配をよそに、美也は藤女の友人に連絡を取り付けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家でぐうたら、もとい、昨日の反省中。

 完全に上手くいったと思った奇襲をしくじるとかいう最悪な状況に陥ってしまった。

 これまで誰にも見つからないようにライダーをしていた努力が水の泡になったよう。

 

「あ~……この中務理恵、不覚を取ってしまった……」

 

 この中務理恵とか言えるほど偉くはないので冗談。しかし、冗談ぐらい言わないとやってられない。

 それに、いつまでもウジウジとしてるのは良くないので切り換えようとスマホで動画でも見ようと手に取った瞬間、チャットアプリの通知が。

 別のクラスだけど、ファッションセンスが私と同じなものだから仲良くなった子からメッセージが来ていた。

 

「んーなになに?」

 

 華甸川真里亞の連絡先とか住所とか知らない?

 

「知ってるけど、なんで? っと、送信」

 

 華甸川真里亞とは同じ中学だった。特別仲が良いというわけではなくとも、付き合いの長さから連絡先を交換したのだ。

 というか、この年代の女子は同じクラスの女子であれば大体は連絡先を交換するものだ。連絡するかは別として。

 そんなことを考えているうちに返信ありと。

 

 聖高の友達がなんか会いたいから知りたいって。

 

 ふーん、なるほど。……会話を盛り上げるのと、悪戯心が鎌首をもたげたので少しふざける。

 

「男かー?」

 

 女友達だよw

 そういうんじゃありません~w

 

 なーんだ。そういうナンパかと思ったけど、女の子ならなんか他の理由だろう。

 けどなんだろう、わざわざ他校の生徒の連絡先知りたいなんて。

 男盗られたとか?

 いや、まさかあの華甸川さんに限ってそんなことはないと思うけど。

 真面目だし、お堅い感じだし。

 けど実はとかぁ?

 なーんて、詮索はやめやめ。

 人助けだと思って、連絡を取り次いであげますか。

 ……ちょっと待て。

 スマホに打った文字を一度全消し。

 

「聖高の女子……。聖高、この前あんなことあったのに会うも何もなくないか?」

 

 生徒、職員、1000人いかないぐらいが被害にあった謎の事故。

 ガス漏れが疑われたがどうもそういうわけではないらしいという発表がされたのをニュースで見た。

 被害にあった人達は市内はもちろん、隣町の病院にも搬送されて入院中。

 症状の程度にも結構な差があるようだ。

 そう、そんな中でこんなことをしている余裕がある奴というのは一体どういう人物か。

 

「まさか、ライダー?」

 

 ちょっくら面貸せやのノリなのか。とすると、華甸川さんもライダーということになる。

 いやまだ全然憶測どころか妄想の意気ですが、色々と気になってきた。

 とすると、私がやるべきは一つだ。

 

「華甸川さんに教えてみるね。その友達の名前はなんて言うの?」

 

 影守美也。

 返信されてすぐ、名前を検索。

 SNSでそれらしきアカウントは特になし。今度は検索エンジンで。……ヒット。

 

『聖山西中の影守選手が県大会優勝 全国大会へ』

 

『神童現る』

 

「神童ねぇ。私みたいな一般人とは大違いじゃないですか……って、この記事……」

 

『軽乗用車とバイクが衝突 近くを歩行していた女子中学生が巻き込まれ重傷』

 

 被害にあった影守美也さんは聖山西中の剣道部に所属し、全国大会に出場するなど活躍が期待されている選手であった。

 これが二年前の記事。

 それ以降、彼女が剣道の大会で活躍したようなニュースは見当たらなかった。

 

「ふーん、めっちゃライダーなってそうじゃん」

 

 恐らく、事故で剣道が出来なくなったのではないだろうか。それで、アリスからデッキを渡されて「また剣道やりたくないですか~?」とでも言われたのだろう。

 ……剣道出来なくなったのに、なんでライダーとして戦えるんだ……って、あれだ。アシスト機能のおかげか。

 私みたいな剣道も空手もボクシングも何もやってきてませんでした~みたいな一般女子があんなに戦えるのはライダーのシステムによるアシストがあるからこそ。

 どう動けばいいのかとか指示してくれるし、身体能力があがった気がする。

 変身してたらシャトルラン100回行けそうな気がしてくるし。

 しかし、本当に私の妄想がガチっぽい気がしてきたぞ。やばー勘冴えてるー。

 これはちょっと、監視させていただきますかぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 和を演出する店内は四方を日本庭園風の景色が囲み、落ち着いた雰囲気。そういった店内だからか、騒がしく話す客はない。身なりの良い老齢の婦人達が穏やかに会話を楽しんでいたり、派手さはないが気品とカジュアルを両立させた服装のカップルが運ばれてきたこの店自慢のあんみつをスマホのカメラに収めている。

 若干、年齢層高めではないだろうかと美也は内心この店を教えた美玲に、もうちょっとカジュアルなところがよかったですという抗議と、あんみつ美味しそうありがとうございますという感謝がまぜこぜになっていた。

 

「……それで、お話ってなんでしょう?」

「えっ、あ、ごめんね。ほんと急に……」

 

 お冷で口の中を潤す。美也とて、緊張はする。

 例えば、こうしてよく知りもしない相手と一対一で真面目な会話をする時。鐵宮の配下となってアリスを狙い、燐に撃退された彼女の介抱を任されたぐらいの付き合い。雑談なら気楽に話が出来るが、今回は話題が話題だ。

 とはいえ、緊張にいつまでも負けてはいられない。かつては全国大会に出場するなどアスリートとして活躍していた美也には、緊張を飲み干すぐらいのことは出来る。

 

「あのね、私達仲間を集めてるの。ライダーの仲間」

「……仲間、ですか。あなたは、燐の仲間でしたよね。戦いを止めようとしてる……」

「そう。戦いを止めるために、みんなの力が必要なの」

「……どうして、戦いを止めようだなんてするんですか」

 

 その言葉に、美也は言葉を失った。

 その言葉が意味することは、自分達への抗議であるからだ。

 

「私には叶えたい願いがあるんです。戦いを止められたりしたら……。なんで止めようとするんですか。あなただって、願いがあるからライダーになったんですよね? それなのに、どうして……」

 

 黒いテーブルに視線を落とす美也は、振り絞るような声で話し始めた。

 

「……私には、逆に分からないよ。人を殺してまで願いを叶えたいなんて。おかしいよ、みんな……」

「それだけのことをしてでも叶えたいと思うほどの願いがないだけですよ、あなたに……!」

「……あるよ」

「え……」

 

 店員が、言葉を無くした二人の前に注文した商品を置いていった。二人のことに深く立ち入らず、丁寧な所作と笑顔を忘れずに。

 煎茶の湯気を一時の間眺めた美也は、左手でスプーンを取るとフルーツクリームあんみつの生クリームとつぶ餡を掬い、言った。

 

「私、右手がダメになっちゃってさ。大好きな剣道続けられなくなったんだよね」

「……」

 

 クリームとつぶ餡を頬張り、美也は舌鼓を打った。

 見た目には甘すぎるそれらは予想外にも甘過ぎず、落ち着いた品のある味わいで飽きが来ない。すぐにもう一口を口に運ぶ美也に真里亞が問いかけた。

 

「剣道を、もう一度したいんですか?」

「んっ……。まあ、したくないって言ったら真っ赤な嘘になるよね。けどさ、人を殺してまでやることじゃないよ」

「……」

「分からないよ、私にはさ。人を殺してまで叶えたいことがあるなんて。どうしてみんな、出来ちゃうのかな……人を殺すって決断が」

 

 湯呑みに触れ、まだ熱いかどうかを確認する。まだ自分の舌でこれを飲むのはまずいと判断した美也は通りすがりの店員にお冷のおかわりを頼んだ。

 すぐに店員が結露に濡れたピッチャーを手にして、美也のグラスに水を注いだ。真里亞はまだ半分ほど水が残っていたので断っていた。

 

「……人を殺すことはいけないことです。分かってるんです、そんなこと」

 

 店員が去ってから、真里亞が口を開いた。

 

「私だって、悩んでるんです……。人を殺しちゃいけない。けど、小夜のためにもって思ったら……」

「サヨ?」

「……死んだ妹です。とっても優しくて、正義感の強い、いい子でした。そんな子がどうして死んでしまうの……! 罪を犯したわけでもない小夜が、どうして……」

 

 テーブルの上に置かれていた真里亞の手は、握り締められ赤くなっていた。

 この世には、理不尽というものがある。

 道理にあわない、災害のようなもの。それが理不尽だ。

 納得することも出来ず、ただ結果を受け入れろとしか言わないもの。 

 人は時にこの理不尽に抗おうとする。しかし、理不尽なものはどこまでも理不尽で、覆すことはほとんど不可能だ。

 ゆえに、人は怒るしかない。

 しかし、怒りをぶつけるべきものは実体もなく虚を殴り付けるような感覚を抱くだけ。

 行き場のない怒りとは、積もっていく一方だ。それが、真里亞をライダーバトルへと駆り立てた。

 

「あの子はもっと生きたかったはず……。だから、叶えてあげないと……」

「……妹さんが生きたかったはず、っていうのには同意する。誰だって生きていたいはずだから。けど、それを叶えるために人を殺そうとするなんて、真里亞さんがそんなことするのを小夜さんは望んでいるの?」

「ッ……!」

 

 真里亞の瞳が見開いて、美也に何か言い返してやろうとした。

 けれど、何も言えなかった。

 だって、小夜の生を望んでいるのは自分であって、小夜自身がどう思っているかなんて考えないようにしていたのだから。

 

「……ごめんなさい。私、出ますから……」

「真里亞さん……」

 

 荷物を手に取り、急ぐようにして立ち上がった真里亞は美也に背中越しにそう伝えて店を出ていった。

 追いかけようとも思ったけれど、今追うのはよくないだろうと美也は上げた腰をすぐ下ろした。

 目の前には、真里亞がまったく口をつけなかったあんみつが。

 

「……もったいないから、いいよね」

 

 お代も自分持ちだからと、美也はあんみつを二つ平らげたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 足早に店から立ち去る真里亞の前に、路地から現れた一人の少女が立ち塞がった。

 グレーのパーカーを着た少女はフードを下ろすと、赤みの強い髪を二つに束ねた特徴的な髪を見せる。その少女を真里亞は知っていた。

 

「中務さん……」

「やっほー。元気~……なわけないよね。あんな話してて」

「ッ! 聞いていたんですか……。まさか、中務さんもライダー!?」

「その通り。んでさ、あいつウザイから潰さん?」

 

 どっか遊びに行かないかと誘うぐらいの軽さで中務理恵は言った。

 

「それは……」

「共通の敵でしょ、あれ。戦いを止めるとか迷惑害悪最悪でしかないわけだし。サクっとヤっちゃってさ、真面目に殺し合いしようってわけ」

 

 共通の敵という言葉が真里亞の中で引っ掛かった。

 少なくとも、中務は影守美也のことをよく思ってはいないのだということは分かった。

 それでは、自分は?

 自問自答、答えは出てこない。

 ずっと、そうだった。小夜はこんなことしている私を許してくれないだろうという思いが、武器を取って戦うこの手を重くする。

 だから、鐵宮に従うことを選んだ。

 自分が手を汚すわけではない。みんなが等しく願いを叶えられるチャンス。それも、たった二人の命を差し出せば。

 しかし、そんな甘い考えは彼、御剣燐に斬って捨てられた。

 大切な人を守るという純粋で真っ直ぐな想いの前に、こんな自分が勝てるわけがなかった。

 もしも、願いを叶えるための生け贄が小夜だったら。

 その時は私も彼と同じように戦うだろう、たとえ全てを敵に回しても。

 そう、だから、私は迷っている……。

 

「もうライダーの数もだいぶ減ったからさ、いい加減終わらせたいんだよね。邪魔者は積極的に消してかないといつまで経っても終わらないよ。……それに、私も華甸川さんと願いは同じだよ」

「え……」

 

 その言葉に、真里亞は驚いた。

 自分と同じ、ということは。

 

「私の場合は友達だけどね。大切な、友達……。私なんかより、よっぽど生きてる価値がある子だった……」

「……」

「華甸川さんは分かるよねこの気持ち。なんであの子が死んで、自分は生きてるのかって。だからさ、何がなんでも願い叶えたいんだよね。華甸川さんはどう?」

 

 問われた真里亞は俯き、目を閉じる。

 何か、大きな決断をする時の癖だった。

 一度息を吐いてから、真里亞は答えた────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寂れた廃教会を根城にし、上谷真央を監禁していた樋知十羽子は何をするということもなく、長椅子に背もたれ虚を見つめていた。

 

「上谷真央……彼女は、ママに似てる……」

 

 救われたがっている。苦しんでいる。

 遠い日の母の姿と、上谷真央の姿が重なって見えた。

 だからだろうか。彼女に執着している自分がいると、気付いていた。

 ひたすらに求め過ぎたがゆえに無理矢理、彼女を襲いまでして、監禁して自分のもとに繋ぎ止めている。

 

「ママ……」

 

 自らが手にかけた母。殺したのではない、救ってあげたのだ。辛いことばかりの現世から、母を解放してあげたのだ。

 であれば、上谷真央も解放してあげるべきだろう。

 彼女も苦しんでいる。母の時のように、自分なら出来る。

 けれど……。

 

「ぁぁ……。彼女が、私の傍にずっと居てくれればいいのに」 

 

 何故、殺そうと思えないのか。

 救うべきではないのか。

 いや、いや。

 彼女はきっと私と同じになってくれる。彼女が殺したという二人もきっと救われたのだ。

 だから、きっと私達は共にあれる……。

 

『シャァァァ!!!』

 

 床に散らばる割れた鏡の破片から、ノコギリザメのようなモンスターが十羽子に向かって唸っていた。

 これは警告。

 ライダーとモンスターの間で結ばれる契約。モンスターはライダーに力を与える代わりに、ライダーはモンスターに食事を与えなければならない。

 真央と契約しているモンスター「スピアーシャーク」は、食事を与えられずに憤っていた。

 本来であれば契約者である真央に警告を出すものだが、真央は現在、デッキを十羽子に取り上げられ鏡のない地下室に閉じ込められているため、十羽子に対して警告を出していた。

 

「……契約違反で死なれては堪りませんね。いいでしょう。私もシルトパンサーに食事を与えようと思っていたので」

 

 そう言いながら立ち上がった十羽子は地下室に通じる扉を開ける。暗い階段を降りて、重い扉を開けると、上谷真央はベッドに腰掛け俯いていた。

 入室してきた十羽子に気付き、真央は怯える瞳を十羽子に向ける。

 監禁から二日が経とうとしている。性的暴行を加えられたこともあり、今度は何をされるのか分からないという恐怖が真央を支配していた。

 そんな真央を何も感じていないような瞳で見つめる十羽子は、青いデッキをベッドの上に放り投げた。

 

「あなたのモンスターが腹を空かせています。このままですと食べられるのはあなたですけど、どうします?」

「食べ……!?」

「契約違反と見なされる前に、食事を与えなければなりません。行きますよ」

 

 十羽子は階段を上がっていった。これも何かの罠ではないかと真央はその場から動くことが出来ずにいると、部屋の中に何かが投げ込まれた。

 床にそれが落ちる前に、そいつは現れる。

 

『シャァァァ!』

 

「ひっ!?」

 

 投げ込まれたのは、鏡の破片であった。

 床に落ちると、また細かく割れて散乱。スピアーシャークは真央に最後の警告と言わんばかりに、その口に無数に並ぶ歯を見せつけた。

 獲物をズタズタに噛み千切ることに特化した、ノコギリのような歯。

 もし、これ以上待たせるようであるならば、この歯で引き裂かれるのはお前だと、スピアーシャークは脅していたようだった。

 鏡の破片からミラーワールドに戻ったスピアーシャークを横目に、再び部屋にやって来た十羽子が口を開いた。

 

「死にたくないなら、ついてきなさい」

「死ぬ……! いや……!」

 

 立ち上がり、ベッドから十羽子に向けて駆け出す真央は勢い余って十羽子の前で躓いた。

 縋るように、いや、縋っていた。真央は、十羽子に。

 涙を浮かべ、救いを求める瞳を向けられた十羽子は────興奮した。

 

「ふふ、大丈夫です。あなたは死にませんよ、私と共にあるのなら……」

 

 優しく、真央の頭を撫でる十羽子の顔は恍惚としたものであった。

 

「大丈夫……。今度はちゃんと助けるから……ママ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗く、アスファルトを鳴らす靴の音が響くこの場所はとある地下駐車場。 

 

「……堂々と、私の前に現れるのは馬鹿だからですか、私?」

『いいえ、隠れ潜んで怯える必要なんてないからです』

 

 赤い高級車のボンネットに腰を下ろしていたアリスが軽やかに飛び降りて、キョウカへ殺意を向ける。

 向き合う同じ顔。

 まさに、鏡。

 

『……まず質問です。あなたはコアによってこちらの世界にやってきた。あなたを連れてきたコアが消えたいま、何を目的とするのです。あなたはコアの手駒でしょう』

 

 キョウカの問いに、アリスは……抱腹した。

 

「あっはっはっ! やっぱりあなた本当にダメダメですね! 自分のことなのに聞かなきゃ分からないんですかぁ?」

『私はあなたとは違いますから!』

「そうですね。所詮、根っこが同じなだけで私達は違う存在。ゆえに……」

 

 アリスは黒いデッキを掲げ、キョウカへと向けて銀色のベルトを装着させる。

 キョウカは桜色のデッキをアリスへと向けて突き出す。金色のベルト、Vバックルを巻き、二人は同時に叫んだ。

 

 変身────!!

 

 黒と桜色の花が舞う中に立つ二人の乙女は、自分への殺意に充ちていた。

 




次回 仮面ライダーツルギ

「瀬那」

「バッ、こんな時期に。ありえんでしょ」

「可愛いじゃん」

「ああ、神の祝福を────」

「仮面ライダーグリム……!」

運命の叫び、願いの果てに────。


ADVENTCARD ARCHIVE
SURVIVE-血河-(仮面ライダースティンガー)

片月瀬那が獲得したサバイブカード。
黄金の翼の背景は赤黒い液体が流れているかのように蠢いている。
仮面ライダースティンガーサバイブへと強化変身する効果を持つ。
攻撃的なスティンガーが更に攻撃力を増し、相手に反撃の隙を与えない畳み掛ける戦法が得意。

血河の流れた先、そこは血の海。
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