仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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ALTERー16 その出会いは、残酷

 石造りの床、壁、天井。 

 空きはあれど、無数の車両が並ぶ地下駐車場もまた戦場の一つであった。

 

「あなたの目的は分かっていますよ!」 

 

 黒い華の乙女、オルタナティブ・アリスが漆黒の茨を鞭にして桜色の騎士、仮面ライダーブロッサムに襲いかかる。

 

『ぐっ……!』

 

 ブロッサムもまた迎撃で茨の鞭を振るうが、攻めの一手が足らず胸部に鋭くしなやかな一撃が入った。

 鎧から火花が上がり、背中から倒れたブロッサムのもとへオルタナティブ・アリスが余裕を気取った足取りで迫ってくる。

 

「あなたが欲しいのはこれでしょう?」

 

 オルタナティブ・アリスがデッキから引き抜いたカードをブロッサムへと見せつける。

 痛む上体を起こして立ち上がろうとしていたブロッサムであったが、オルタナティブ・アリスが見せつけたカードに思わず仮面の下、キョウカの瞳は痛みを忘れて見開かれた。

 オルタナティブ・アリスが手にしているカードはタイムベント。自分と同じ、時を戻す効果を持つタイムベントだ。

 

「たしかに、私達は同じ人間ですから使えるはずですよ。それに、私のタイムベントはほぼ新品同然ですから。あなたみたいにバカスカと使って、小学生のカードゲームみたいに傷だらけではありませんから」

『……どうして、貴女は私と違って……』

「このカードを使う必要がなかったからです。まともにやってれば、それで済んだんですよ私」

 

 キョウカは、何度も何度も繰り返した。

 それを、オルタナティブ・アリスは否定する。まともにやっていればと言うが、彼女の言うまともとは即ち狂気。

 何の容赦もなくただ一つ、自分の願いのためだけにライダーバトルを運営し勝利する。

 それが、アリスとキョウカの違いであった。

 

「私がおかしいと思ってるんでしょうけど、そちらこそ何度も何度も馬鹿みたいに繰り返すのだって狂ってるじゃないですか。……どうせ狂うなら、自分のためになるように狂った方がマシでしょうに」

『……』

「彼のためを思うなら、それこそ一度でスパッと決めるべきです。分かってます? 今の燐くん、危ういって」

 

 燐が危ういことはキョウカだって分かっていた。

 けれど、目を背けていた。背けるつもりはないけれど、燐のことを思い、どうすればいいか考える度に出ない答えに窮して、目を背けることになってしまった。

 分かっている。分かっているのだ、そんなことは。

 

「私の分の罪まで背負うなんて……もちろんそんな必要はないのは自明ですが、嬉しかったでしょう、私?」

 

 否定、したかった。

 

「こんな私でも、彼は怒って、許して、共にいてくれるのだと」

『……て……』

「私だって被害者なんだって、こんなことをするのは仕方のないことだって」

『……めて……』

「他の奴等なんて知らない。自分さえ良ければそれでいい。ただ、大好きな御剣燐さえいてくれればそれでいいと────」

『やめてッ!!!』

「おっと」 

 

 怒りに任せて振るう茨はオルタナティブ・アリスに当たることはなかったが距離を取らせるには至った。

 金色の手鏡の召喚機にカードを挿入。

 

【DEMOTE VENT】

 

「それは……」

『はあッ!』

 

 ブロッサムが茨をオルタナティブ・アリスの鞭を狙って振るう。

 上から叩き落とすように振るわれた茨が黒い鞭に命中すると、オルタナティブ・アリスの鞭は鏡が砕け散るようにして消失。

 ディモートベントは相手の武器や盾などの防具のAP、GPを2000下げる効果を持つカード。

 オルタナティブ・アリスとブロッサムの鞭はどちらも4000APと同等の攻撃力を持つが、ディモートベントによってオルタナティブ・アリスの鞭は2000APまで下げられたことによりブロッサムの攻撃で破壊されるに至った。

 得物を失ったオルタナティブ・アリスに向けてブロッサムは追撃と攻勢に出る。

 

『やあぁぁぁッ!!!』

 

 天井、壁、駐車されている車を巻き込むほどの茨の嵐。オルタナティブ・アリスは厄介だと顔をしかめこそすれ、ブロッサムの攻撃を回避し続けていく。

 

「怒りに任せた単調な攻撃。子供っぽくて、本当に嫌です」

 

 鞭の嵐の中、タンッ、タンッと足音が二つ。それだけで、オルタナティブ・アリスはブロッサムへと肉薄した。

 黒い拳が、華のライダーを穿った。

 

『ガッ!?』

「はあ……。所詮、こんなものですよ私」

 

 殴り飛ばされ、地面に伏したブロッサムをオルタナティブ・アリスが蹴飛ばして、蹴飛ばして、蹴飛ばして、踏みつける。踏みにじる。

 お前は私には敵わないと、徹底的に身体に覚え込ませるために。

 

「失敗しかしないヘタレ、口だけ達者な雑魚、惨めな木偶の坊。……殺しはしませんよ。あなたにライダーバトルの勝ち方というものを見せてから殺してあげます」

『そんなものッ! そんな、もの……』

「私が望んでいたことじゃないですか。ライダーバトルに勝利する。ライダーバトルに参加した有象無象共は、願いを叶えるためにくべられた薪に過ぎません。何を躊躇うのです? 命を奪うのが嫌なんですか?」

 

 オルタナティブ・アリスの言葉はキョウカの心を抉り続ける。自分自身で隠し、目を逸らし続けてきた事実という名のナイフをオルタナティブ・アリスは容赦なくキョウカに突き刺すのだ。 

 仮面の下、キョウカの瞳は涙で潤んでいた。

 自分のあり得たかもしれない可能性の姿に、自分の在り方を糾弾される。

 

 ああ、もしかしたら、この私のようにしていたら、願いを、燐くんを、手に─────。

 

『……ちが、う……』

「ん?」

『私は……あなたとは、違う……』

「ええ、違いますよ。私は願いを叶えた。あなたは願いを叶えられなかった」

『そうじゃ、ありません……』

「なんですって?」

『私の、願いは……!』

 

 ブロッサムは両手で、自身を踏みつけるオルタナティブ・アリスの右足を掴む。その行動に不快感を覚えたアリスは更に力強くブロッサムを踏みつけようとする、が。

 

「ッ……!?」

 

 右足はまるで動かない。

 それどころか、足を持ち上げられてブロッサムはオルタナティブ・アリスを押し退けていく────!

 

「なっ!?」

 

 後退したオルタナティブ・アリスに向けて、鞭が振るわれる。

 オルタナティブ・アリスは両腕で防御するしかなく、激しい殴打をひたすら耐えるのみ。

 

『私の願いはッ! 燐くんの幸せです!』

「────!? ぐあっ!?」

 

 いよいよ、オルタナティブ・アリスのガードは崩れる。茨がオルタナティブ・アリスの胸部を強打し、膝をつかせた。

 

「何を、言って……!」

『忘れたんですか! あなたは……私の願いを……』

「忘れた……? そんなわけないじゃないですか!」

『いいえ、あなたは……。私の原初の願いを忘れたんです』 

「違う……! あなたは諦めただけでしょう!」

 

 この時、二人は別人であった。

 叶えた者と叶えられなかった者という一つの違いから、小さな裂け目が今、完全に引き裂かれた。

 

「私は燐くんを手に入れる……!」

『私は燐くんを幸せにする……!』

 

 相対する二人。戦いの続きが始まり、再びブロッサムは茨の鞭をオルタナティブ・アリスへと向けた。

 

『もう彼が戦わなくていい……普通の人生を送れるように……私はぁ!!!』

「そんな……それでは私はどうするというんですか! また一人ミラーワールドに取り残されろと!?」

 

 鞭を掻い潜り、オルタナティブ・アリスはブロッサムとの距離を埋め肉弾戦に持ち込む。

 鞭の間合ではない肉弾戦であればと。

 

「私はあなたも、咲洲美玲も、彼以外のライダー全てを皆殺す! そして彼の温もりを……愛を手に入れる!」

 

 ブロッサムの仮面が殴り飛ばされ、背中から倒れるもすぐに起き上がって鞭を構える。追撃しようと迫るオルタナティブ・アリス。

 しかし、二人の動きが止まった。

 二人だけの地下駐車場に、第三者の靴音が響いたからだ。

 出入口である坂を下り、現れる黒い影。

 

「あいつは……」

『刃……』

 

 御剣燐と同じ姿形。黒衣に身を包み、本来の御剣燐からかけ離れた陰の気を放つその姿に、アリスは怒りを。キョウカは罪悪を覚えた。

 

『────変身』

 

 歩きながら、気怠げに瞳を閉じながら仮面ライダー刃へと変身を遂げ、立て続けにカードをデッキから抜いた。

 カードの表をブロッサム達に見せつけると、目映い白い輝きが二人の目を焼く。

 

【SURVIVE】

 

 黒いボディに金のラインが一条走り、赤い瞳が少女二人を捉える。

 スラッシュバイザーツバイを手にし、鞘から抜き放つと同時に刃サバイブはブロッサムとオルタナティブ・アリスに向かって駆け出した。

 オルタナティブ・アリス目掛けて振り下ろされるスラッシュバイザーツバイは回避され、オルタナティブ・アリスが怒りの籠った瞳で刃サバイブを見据えた。

 

「出来損ないが何の用ですか!」

『お前を斬る。それだけだ』

 

 刃サバイブが光となり、一瞬でオルタナティブ・アリスの眼前へ。

 唐竹の一撃をオルタナティブ・アリスは腕を交差し受け止めるが、刃サバイブはこのまま力で押し切ろうと体重を載せる。

 

『俺はお前の自慰のために生み出され、捨てられた! この怒りを……!』

「悪いとは思ってますよ……。悪いと思ったから、私の世界のあなたは処分した!」

 

 交差した手が刃サバイブの目の前で開かれ、そこから花吹雪が吹き荒れる。

 後退を余儀なくされた刃サバイブに更に花吹雪が襲い掛かり、刃サバイブの全身から火花が吹き上がる。

 

『チッ!』

『刃!』

「その怒りは、この世界の私に向けたらどうです? それとも怒りに狂って錯乱とかしちゃってます?」

『アリスなら殺す。誰であろうと……戦いを引き起こす者は!』

 

 刃サバイブは再度、光となって加速。オルタナティブ・アリスへと斬りかかろうとしていた。

 

『同じような攻撃、つまらないです!』

 

 花吹雪で迎撃するオルタナティブ・アリスであったが、刃サバイブの罠にまんまと嵌まっていた。

 刃サバイブの一の狙いは、オルタナティブ・アリスではない。

 光はオルタナティブ・アリスを過ぎ去り、その背後で一瞬刃サバイブの姿を見せると、再び光となって刃サバイブはオルタナティブ・アリスの背を袈裟に切り裂いた。

 

「このッ!」

 

 オルタナティブ・アリスは花吹雪を周囲に巻き起こし刃サバイブが近付けないようにした。

 そして、刃サバイブの間合の外から攻撃を開始する。

 

『やはり、これが面倒だ……』

『刃! 私に考えがあります!』

 

 ブロッサムが刃サバイブへと駆け寄り、オルタナティブ・アリス打倒のための作戦を伝える。

 自分の言葉など、聞いてくれるだろうか。キョウカの脳裏にそんな言葉が付きまとったが、刃サバイブは黙って作戦を聞いて、即座に行動に移すのだとスラッシュバイザーツバイを構えて示した。

 ミラーワールドに咲く魔の花に、刃が煌めこうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、どうして生きているの?」

 

 昼の駅前という人で溢れかえるような場所にも、どういうわけか人が寄り付かない場所がある。

 聖山駅東口。駅と直結しているホテルへ続く通路の真下は駅の喧騒もどこか遠く感じるようで、ぼんやりと暗いのもあってか人通りが少なかった。

 そんな場所で座り込む乱れた銀髪の少女、喜多村遊の顔を覗き込む真っ黒な右目は氷梨麗美のものであった。

 

『しっかり愛してあげたのにね!』

 

 今度は隠されていた左目の方が露となって、瑠美が遊に問い詰める。

 聖山高校での戦いで、麗美達としては遊は殺したはずなのに。何故か、生きている。

 

「どうしてなんて、聴かれても……だね」

 

 遊としても自分が生きているのは奇跡だろうと思っていた。確かに貫かれた腹部。デッキを持っていれば通常では考えられないような治癒力が与えられるとはいえ、致命傷のそれを受けて生きている理由など想像つかない。

 強いて言うなら、サバイブのカードを獲得したことによるものだろうか。

 だが、そんなことを述べても彼女には何も関係ないだろう。

 それよりも、彼女が興味関心にあるのは……。

 

「ねぇ、聞こえてるよね? この、戦いの音」

 

 ミラーワールドから鏡越しに響く剣戟、殴打、鋼の音。少女達の悲痛な叫び。

 紛れもなく、仮面ライダー達の戦いの音であった。

 それを麗美は街の鏡という鏡から伸びる糸を右手に集め、より鮮明に耳にする。 

 

「みんな愛しあってる……。私達も愛しあいましょう」

『あなたと私、きっと最高のパートナーよ!』

「この際、どうして生きてるかとか気にしないから、ね?」

  

 麗美と瑠美からの求愛に遊は……笑顔で答えた。

 

「あっはっはっ。いいね、殺し合いをそんな肯定的に捉えてくれるなんて。確かに、私にとっても貴重な相手かもね君は」

「なら……」

「でも、今は勘弁」

 

 その否定に、麗美の顔が曇った。

 

「どうして?」

「どうしてって、見れば分かるだろう? 足、怪我してるんだ」

 

 遊はツルギサバイブとスティンガーサバイブとの戦いで右足を負傷し、自分の家に帰るのも儘ならないような状態であった。

 

「こんな状態じゃ、満足に君とヤれないよ」

「でも……」

「それに、愛しあうっていうなら、相手のことも考えないとね。押し付けるのは愛じゃあない」

 

 遊の言葉に、麗美も瑠美も口を閉じてしまった。

 沈黙が流れ少しして、遊は左足で立ち上がると負傷した右足を引き摺りながら歩き始めた。

 

「待って」

「足が治ったら、たっぷり愛してあげるよ」

  

 振り向かずに、背中越しに麗美にそう伝えると遊は街の光の中に消えていった。

 一人立ち竦む麗美、そして瑠美の中でずっと遊の言葉がリピートされる。

 

 押し付けるのは愛じゃあない。

 

「それならどうして……」

 

 お父さん達は、私をあんな風にしたんだろう。

 

『麗美。お父さん達はあたし達を愛してくれていたでしょう。愛を返してあげたでしょう。何を気にしているの』

「……そうだよね、瑠美。私達、愛されてたよね……」

『そうよ。とりあえず、今はあの子じゃなくて、他の子達と愛しあいましょう』

「そうだね、麗美」

 

 ポケットから取り出したデッキが、少し離れたカーブミラーからベルトを出現させ麗美の腰に巻かれる。

 

「へん、しん」

 

 カードデッキに蠱惑なキスをして、バックルに装填。

 黒い、豊満な麗美の肢体を際立たせる黒いスーツの戦士、オルタナティブ・ウィドゥが顕現する。

 カーブミラーからミラーワールド入りし、糸を使ってビルの合間を飛び交い、猛吹雪の戦場へ狂戦士が赴く────。

 

 

 

 

 

 

 

 猛吹雪の中、二つの赤い影が剣戟を繰り広げていた。

 仮面ライダーグリムと仮面ライダーエクスシア。グリムは巧みな双剣捌きでエクスシアを攻め立てる。

 かつて、神童とも呼ばれた剣の天才、影守美也が変身しているグリムは近接戦闘において他のライダーを圧倒する。

 事実、剣での戦いはグリムがエクスシアを圧倒していた。

 しかし、戦いは剣だけで行うものでないのがこのライダーバトル。

 一見、優勢なのはグリムに見えるが、攻めあぐねている。

 何故なら、仮面ライダーエクスシアは超防御特化型。豊富な防御手段でグリムの攻撃を通すことはない。

 あたかも、城壁か何かに剣を打ち続けているようだとグリムは感じていた。

 

「そこッ!」

 

 何度も、何度も、直撃させるチャンスは作れている。なのに、直撃には至らない。

 今も、胴に剣を叩き込もうとしたが翼型の盾が攻撃を検知してエクスシアの身を包み防御してしまった。

 

「くっ……」

「残念でしたね」 

「っ!?」

 

 エクスシアの翼が勢いよく開いて、グリムは後退った。

 そこへ、エクスシアが西洋剣で斬りかかってくるがグリムは双剣で受け止めるのではなく、受け流しエクスシアの背を取り、再び斬を叩き込む。

 しかし、これもまた翼が阻む。

 好機を逃してばかりのグリムに、次第に焦りが募っていく。

 エクスシアを殺すつもりはまったくない。

 ただ、ここで自分が負ければ彼女は傷を負った狼牙にトドメを刺しに行くだろう。

 だから、自分が逃げる時間を稼ぐ。もしくはエクスシアを撤退させる。

 時間は稼げただろうか?

 いや、足に負った傷は深くまだそう遠くには行けていない。

 それに、この吹雪だ。移動速度も落ちるというもの。

 ならば、この吹雪を解除するべきだろう。けれど、戦闘を優位に進めるためにも……。逃げた彼女の身を隠すのにも役立っている。

 どちらを取るべきか。

 とにかく、グリムは考えなければいけないことが多い。

 それに対して、エクスシアはシンプルだ。

 ライダーを、苦しむ少女を殺害(救済)するのだと。

 それは狼牙に対しても、グリムに対してもだ。

 

「あなたは、何故戦うのです?」

 

 鍔迫り合いをしていると、エクスシアの赤い仮面の下から疑問が投げ掛けられた。

 何故戦うのか。そんなことは、決まっているとグリムは真っ直ぐ答えた。

 

「ライダーバトルを止めるため!」

「戦いを止めるために戦うと? それは矛盾ではありませんか」 

 

 言葉巧みにグリムの虚をつき、エクスシアはグリムの足を払った。

 

「っ!?」

 

 急転する視界と受け身を取ろうと焦る身体がパニックを引き起こそうとする。

 けれど、一瞬視界に映ったエクスシアの動作が美也の頭と身体を一つにさせた。

 倒れるグリムに振り下ろされる剣を、双剣で防御。

 勢いよく、地面に叩き付けられこそしたが積もった雪がクッションとなってグリムにダメージはない。

 

「今のを受け止めますか」

「くっ……」

「この戦いを止めるなど言わないでください。この戦いは、この世界は、病める少女達の処刑場なのですから」

「少女達の処刑場……!?」

「ええ。願いという甘い蜜に誘われてやって来た少女達の処刑場……。願いとは、苦しみから生まれるものなのです」

 

 エクスシアはグリムを蹴り飛ばし、転げたところを突き刺そうと剣を構えた。

 雪の中を転げ回るグリムは窮地に陥ったかに見えたが、転げながら双剣の片割れをエクスシアに向かい投擲。

 予想外の攻撃にエクスシアは固まるが、翼の自動防御が働き、剣は力なく地に堕ちた。

 

【SWORD VENT】

 

 その間に、グリムはカードを切っていた。

 もう一枚のソードベントは、両手剣グランザッパー。

 鰐の尻尾をそのまま剣にしたかのようなヴィジュアルは、先程の双剣とは違ってエクスシアに威圧感を与えた。

 

「たぁっ!」

 

 振り下ろされるグランザッパーをエクスシアは無駄と翼で防御をする。

 それが、美也の作戦通りとは知らずに。

 

「廻れぇ!!!」 

 

 美也の声に呼応し、グランザッパーの刀身が回転を始め火花を散らし始めた。

 耳をつんざく音と光はあたかも工場にでもいるかのよう。

 そうして、グランザッパーはエクスシアの翼を破壊した。

 

「なっ!?」

「これでその面倒な盾はなくなった!」 

 

 一気に攻勢に出るグリム。得物が双剣から両手剣となったことで振りが大きく、エクスシアも回避しやすくはなった。

 とはいえ、この猛攻を凌ぐのは厳しい。

 防御しようものなら、また盾を破壊されてしまう。

 手札をいたずらに消費するべきではないと、エクスシアは頭を使う。

 そこへ、第三者の影が迫っていた。

 

「やあっ!」

 

 振り下ろされる、グランザッパー。エクスシアは防御が遅れ、直撃は確実と思われた。

 しかし、グランザッパーは阻まれる。

 ノコギリ状の刃を持つ槍に。

 

「え……」

 

 美也は、攻撃を阻んだ青いライダーを見て言葉を失った。

 脳が理解を示さなかった。

 なんで、どうして。

 

「真央、さん……?」

「……」

「生きて……いや、なんでそいつを庇って……」

「……いで……」

「え?」

「私を……私を見ないで!」

「っあ!?」

 

 剣にかける力が弱まっていたため、真央の変身するジュリエッタでも簡単にグリムを押し退けることが出来た。

 槍で胸部を突いて、グリムは弾き飛ばされる。

 その間、美也は痛みよりも疑問に支配されていた。

 何故、どうして、彼女が生きているのか。

 学校での戦いで死んでしまったのではないのか。

 いや、生きていたのはいい。ただ何故、仲間であった自分を攻撃するのか。

 何故、エクスシアを庇うのか。

 疑問は、尽きない。

 

「真央さん……どうして……」

「はぁ……はぁ……!」

 

 ジュリエッタは荒々しく槍を振るい、グリムを狙う。

 真央は何も語らない。ただその息遣いから、彼女が正常な状態でないと美也は悟った。

 

「真央さん落ち着いて! 私だよ! 影守美也! 一緒に戦ったでしょ!」

「あぁ……うぁぁぁ!!!」

「きゃあっ!?!?」

 

 ノコギリ状の刃がグリムの胸部を傷つけた。

 激しい火花をあげ、吹き飛ぶグリム。これが、かなりのダメージとなった。

 この日は連戦に次ぐ連戦。レイダーサバイブとの戦い、狼牙達との戦い、そして今。

 流石にそろそろ限界が近かった。

 変わらず、荒々しい息のジュリエッタ。そして、エクスシアが剣を携えグリムへと迫る。

 これ以上ない窮地であっても、グリムは震える手で剣を構えた。

 しかし、その手に入る力は弱々しい。

 これでは、生き残ることなど……。

 

【STRIKE VENT】

 

「捕まって!」

 

 吹雪を裂いて、響いた声は勇ましかった。

 覚悟の決まった迷いのない声。

 その声の主は、ブースターを装備した巨大な鳥型モンスターの背に乗り、グリムへと手を伸ばしていた。

 すかさず、グリムはその手を取って緊急離脱。

 高速でこの戦場から離脱し、ビルの屋上にある貯水槽から現実世界へと帰ってきた。

 

「危なかったわね」

 

 グリムを助けたのは銀の騎士、仮面ライダーヴァリアスであった。

 鳥型モンスターはカードの効果で姿を変えた小型の犬のような、リスのようなとにかく他のモンスターと違って可愛らしい姿のモンスター、ヴェイルーツへと戻りヴァリアスの肩に乗って一鳴きした。

 

「あ、ありがとう華甸川さん……」

 

 互いに変身を解いて、一瞬だけ困った顔を浮かべるも微笑みあった。

 しかし、美也の顔はすぐにまた翳る。

 上谷真央のことを思い出してだ。

 

「どうして……真央さん……」

「何かあったようね……。そういえば、中務さんは……?」

「私が庇ってから逃げたみたいだけど……。上手く逃げられてるといいな……」

「そう……。私もミラーワールドを探したけど見つからなかったから、きっとこっちに戻ってきてるはずよ」

 

 連絡してみるとスマホを操作し耳にあてる真里亞。しかし、通話に出ないようでしばらく待ったが切れてしまった。

 

「どうしよう、足を刺されてたからまずいかも……」

「とにかく探すわ。……その、あなたの命を狙った手前、こんなことを言うのはあれだけれど……手伝ってもらえるかしら……?」

「もちろん! 怪我人はほっといちゃダメ!」

 

 こうして、美也と真里亞は中務理恵を手分けして探そうとビルを降りていった。

 ……誰にも見つからないように。

 

 

 

 

 

 

 どうしよう、どうしようどうしようどうしよう。

 見つかってしまった、これでは私が北さんを殺したってバレてしまう。

 どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう。

 

「落ち着いて、上谷さん」

 

 不意に、暖かいものに包まれる。

 樋知さんが、私を抱き締めていた。

 

「大丈夫。怖かったですね、でも問題ありません」

「え……」

「知られたなら、もう殺すしかないですね」

「殺す……」

「そうです。みんな、殺してしまいましょう。あなたの苦しみの源はそれで断たれます。そして、死して彼女は……皆は救われるのです……。どうか、私と共にこれからも……」

 

 殺す……。

 殺せば、人を救うことが出来る?

 人のためになる?

 私も救われる?

 だとしたら、それは……それは……。

 

 ああ、悲しいかな。

 上谷真央という少女の中に、明確に、殺害という選択肢が生まれてしまった。

 人のためにという大義名分まで整えられてしまった。

 今ここに、二人だけの聖戦が始まってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 押し付けるのは愛じゃあない。

 彼女は、そう言っていた。

 で、あるならば……。目の前の少女を痛めつけることは、愛ではないのだろうか。

 ミラーワールドで見つけた、足に傷を負った少女。

 芋虫みたいに地面を這って、涙で顔をべちょべちょにしたこの少女。

 今も私のことを、泣きじゃくりながら見つめている。

 あの吹雪の中から、この廃工場まで連れてきたは良いけれど、どうすればいいか。

 分からない。

 この少女にも私が何をしようとしているか分からないだろう。

 自分自身にも分からないのだから。

 

『麗美、愛してあげないの?』 

「瑠美、どうしたらいいかな。押し付けるのは愛じゃないって、あの子言ってた」

『押し付けるなんて人聞き悪いわね。麗美、無償の愛ってものもあるのよ』

「無償の愛?」

『そう。見返りを求めない愛。けれど、巡り巡ってその愛は返ってくるというわ』

「それ……すっごく、素敵だね」

『でしょう? あの子にもそうすれば良かった。ま、今はこの子で練習しましょうか。無償の愛の練習』

「うん、そうだね」

 

 少女は相変わらず泣いていた。

 大丈夫だよ、愛してあげるから。

 もう、いっぱいの愛を受け取ったようだけど、それを越えるくらいの愛をあなたにあげるね。

 そうだ、愛してあげるのだから名前を聞こう。

 

「あなた、名前は?」

「え……な、中務、理恵……」

「そっか、じゃあ愛してあげるね」

「えっ……? いや、なにしてるのやめて! やめろやめろ……ぎゃっ!!!! いぁあ、やめてやめておねがいだか……っっっっあああああ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、死んじゃった」




次回 仮面ライダーツルギ

「それは燐でしょ~! ここ最近ほんと不良よ不良!」

「ふざけんなよ……。利用されてたってのかよ!」

「それじゃ、次会った時は敵同士だからね!」

「そうかよ……ああ、じゃあ、お前は敵だ」

『……頼むから、憎ませてくれ』

運命の叫び、願いの果てに────。


ADVENTCARD ARCHIVE
ADVENT(仮面ライダー狼牙)
セレストウルフ 4000AP

中務理恵=仮面ライダー狼牙と契約していたモンスター。
白いボディに青いラインが走る、スピードに特化したモンスターで奇襲攻撃が得意。
理恵の戦法ともマッチし、相性や関係は良好であった。

闇夜を駆ける青い残像が見えた時、その牙の餌食となる。
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