夢を見ていた。
白く輝く星を見ていた。
重く鈍い身体で踠き、あの星に手を伸ばす。
鋭く、歪みはないあの輝きが欲しかった。
踠いて、踠いて、踠いて。
動かない、失敗作の烙印を捺された、愛されることのなかった、この身体で。
『あれ……』
光が、消えた。
何も見えない。
暗闇だ、どうして。
光を探す。
あれは消えてはいけない光だあれが消えるということは正義の敗北だ負けることは許されない死すことは許されない何者よりも強くあらねば許されない。
『……どうして、そんなところにいる』
振り返った時、光は墜ちていた。
その様を見て、ふつふつと沸き上がる怒りが自分の中でも大きなことに戸惑いもした。
だが、そんな戸惑いも切り捨てて、その光に斬りかかる。
その瞬間、僕は────俺は黒に染まっていた。
オルタナティブ・アリス。ミラーワールドという魔界に咲く花へ仮面ライダー刃サバイブの斬撃が光となって放たれる。
舞い散る花弁を切り裂いて、オルタナティブ・アリスへと駆ける。
『花よ……』
仮面ライダーブロッサムもまた花を咲かせる。花弁を風に乗せ、刃サバイブの周囲に浮かばせ追随。伴に駆け抜け、ブロッサムの花弁とオルタナティブ・アリスの花弁がぶつかり合い、爆発。
「これは……」
『ぜあぁぁぁぁ!!!!!』
爆炎を貫き、刃サバイブの赤い瞳が残像を描く。
黒刃が振り上げられ、オルタナティブ・アリスに龍が牙を剥く。
「ッ!?」
咄嗟に、オルタナティブ・アリスは右手を上げる。
すると、花弁状のバリアが張られ斬撃を防御。激しくスパークするも、刃サバイブは退くことをしなかった。
『このまま……叩き斬る!』
「欠陥品が……!」
『ぜあぁぁぁッ!!!』
裂帛。刃サバイブの渾身の一撃はオルタナティブ・アリスのバリアを叩き斬った。
しかし、それと同時に大きな爆発が起こり刃サバイブとオルタナティブ・アリスを巻き込んだ。
『刃っ!』
ブロッサムが叫ぶ。
黒い煙の中、両者の姿はしばらく見えずにいた。少しずつ煙が晴れていき、そこでようやく刃サバイブの赤い瞳の輝きがぼんやりと確認出来た。
煙の中、立ち尽くす刃サバイブの傍らにオルタナティブ・アリスの姿はない。
『こうも仕損じるとは……!』
『刃……』
ブロッサムは変身を解き、刃サバイブへと歩み寄ろうとした。
それを、刃サバイブが許さなかった。
スラッシュバイザーツバイの切先がキョウカへと向けられ、刃は告げた。
『言ったはずだ、お前を斬ると……。あのアリスが現れたとて、変わらないことだと……』
『刃……。それでも、貴方は燐くんの……』
『御剣燐ではないと切り捨てたのはお前だろう! 勝手に俺を生み出しておいて……!』
刃の言葉が、キョウカに突き刺さる。
刃の言っていることは紛れもない事実で、言い訳のしようがない。
俯くキョウカに背を向け刃サバイブもまた変身を解除して、最後に言い残していった。
『……頼むから、憎ませてくれ』
地下駐車場に、立ち去る刃の靴音が反響する。
どこかもの悲しく、寂しいその音に、キョウカは耳を澄ませていた。
病院で先程まで話していた少女、片月瀬那さんが消えた。本当に、突然。
瞬きほどの瞬間もなかった。
本当に、本当のことなのだ。
「いやね、惣田さん。別に疑ってるわけじゃないですよ? 事実、片月さんは病院から姿を消したわけですから……」
「もう本当にどういうわけ……」
彼女の主治医と会話をしていると、コツコツとこちらに近付いてきた一人の女性。
簡単に言うと、ケバい。
いや、若いのだろうが。恐らく30代。
金髪で、ブランドものを身に纏って、丈の短いスカートや大胆に開いた胸元など扇情的だ。
そして顔つきは……瀬那さんに似ていた。
「あの、すいません。娘の話してました?」
「あ、ごほん。片月瀬那さんのお母様でいらっしゃいますか?」
「はい。それで、瀬那は?」
そう訊ねる顔は、娘を案じる母の顔であった。
先程、瀬那さんから聞いた印象とはだいぶ異なるが、いわゆる外面が良いタイプなのだろう。
あの人が虐待してるなんて……といったような話はよく聞く。
「あの、なにか?」
「あ、いえ……」
ついじろじろ見てしまった。
いけない、いけない。
「あぁ、その、娘さんなんですが……病院を脱け出してしまったみたいで」
「それは……迷惑かけてすいません。最近も家には帰らずで……」
「その、お探しになったりとかはしなかったんですか」
思わず、そう口に出ていた。
言わずにはいられなかった。
だって、彼女は……瀬那さんは、苦しい思いをしてきたのだから。
しかし。
「ええ。その……これぐらいの歳の子なら普通じゃないですか?」
「え……」
「私もあれぐらいの時は友達の家に入り浸ってましたし、普通ですよ普通」
普通とは、なんと便利な言葉だろうか。
普通と言われてしまえば、それが当然ということとして扱われてしまう。
あなたは異常だと、指摘することは今の世の中タブーになりつつある。
だけど、それでも……帰れる家があることが普通ではないのか。
「病院にいないのなら、私はこれで」
「え、あ、いや……」
「どうせまた友達の家にでも行ってるんでしょう」
「……」
「まだ、なにか?」
「いえ……」
立ち去る瀬那さんの母。
その背に、先生が声をかけた。
「あ、あの!」
「はい?」
「あの、入院費用のことなんですけど……」
先生がそう口にした瞬間、ほんの一瞬だが片月さんは舌打ちをしたような気がした。
「すいませんこの後、予定あるので。またあとで来ますね~」
「え、あ、ちょっと!」
立ち去ってしまった……。
あの人が、瀬那さんの母親……。
「いやぁ、なかなかでしたねぇ」
「なかなか……。いや、それよりも瀬那さん探さないとですよ!」
「あ……僕は仕事ありますので……」
「ええ! ちょっと手伝ってくださいよ!」
「気持ちは分かりますが他にも患者さんいますので……。あ、見つかったら教えてください。これ僕の連絡先なので……」
そして、先生までもそそくさと立ち去ってしまった。
わ……私だって仕事あるっての!!!!
「ごめん、すっかり寝ちゃって」
「ううん、激闘だったし仕方ないよ」
玄関口で、あいつが御剣達を見送っていた。
アタシは顔を合わせる義理は感じなかったから見送りはしないけど、少し思うところもあって廊下で奴等の会話を聞いていた。
まあ、なんてことない世間話みたいなものだから聞いてる意味も……。
「それじゃ、次会った時は敵同士だからね!」
その言葉にふと、胸が騒いだ。
敵。
敵だと?
「……敵なら、斬ります」
「へっ!? あ、あはは……お、お手柔らかに……」
あいつ……。あんな奴なのか?
いや、何か妙だ。
勘だけど……御剣、あいつ変わった。
何か、関係あるのか。
この力と……。
デッキから抜き取った、サバイブのカード。
これのせいなのか?
私が、思い出したのは。
どういうわけかこのライダーバトルが繰り返されていて、その繰り返しの全ての記憶を今、アタシは有している。
もしかしたら、御剣も……。
「ふー、おっかなかったぁ……。って、瀬那またどこ行くの!?」
「ちょっとあいつに用が出来た」
出ていったばかりのところ悪いが、付き合ってもらうぞ。
「御剣!」
「……瀬那さん?」
走れば一瞬で御剣と咲洲に追い付いた。
咲洲がアタシのことを睨み付けてきたが、気にしない。
「何の用?」
「あんたに用はない。御剣、聞きたいことがある」
「僕に? ……いや、僕も瀬那さんと話がしたかった」
それなら話が早い。
「美玲先輩は先に帰っててください」
「でも……」
「大丈夫です。少し話すだけですから」
「……分かった。でも、早く帰ってくること」
「はい」
御剣が咲洲を帰して、アタシ達も場所を変えた。
近所の川原。夕焼けが、川に火をつけたみたいだった。
御剣燐。
こうして、面と向かって関わるのは初めてだと思う。
最初の記憶はあの夜、咲洲と戦っている時に現れて……忌々しいが、敗北した。
それ以降は、乱戦の中で見かけたとか、あのバカを助けただかなんだかで、ちょっと言葉を交わしたぐらいだ。
御剣は赤く輝く水面を、目を細めて黙って眺めていた。
繊細な、ガラス細工みたいな顔。
線は細く、優しげな手指。
とても、あのツルギの正体とは思えない。
……いや、今はそんなことはいいか。
「聞きたいことは……」
「うん」
「お前は、この戦いが繰り返されていることを知ってるのか」
「うん、知ってる」
……やっぱり、か。
「なんでだ。なんで知った。サバイブのカードを手に入れたからか」
「ううん……。僕の場合は、思い出させられた。瀬那さんは、サバイブを手に入れたから思い出したの?」
「多分……。さっき、寝てる時だけど一気に全部流れ込んできたみたいな……」
そっかとだけ返されて、御剣はしばらく黙った。
何か考えていることは察したから、アタシも問い詰めることはせずに黙って御剣を待っていた。
「……ライダーバトルが繰り返されているのは、ライダーバトルが始まったのは、僕のせいなんだ」
沈黙を破って明かされたのは、そんな真実であった。
「なに……?」
「僕は……鏡を、割ったんだ。そこでアリス、キョウカさんと出会って、友達になって。でも、それがミラーワールドをこっちの世界と繋げることになって、モンスター達が人間を襲い始めた」
そうして、宮原士郎というカードデッキを造り出した男からデッキを渡されて、ミラーワールドを開いた罪を償えと戦いに駆り出され、独り戦い、死んでいった。
それが、全ての始まりだと。
「キョウカさんは僕を蘇らせるために時を巻き戻した。僕が死ぬ前の時間に。だけど、キョウカさんと僕が出会うということは、ミラーワールドを開くってことだから。結局僕は戦って、死ぬんだ。だから、キョウカさんはライダーバトルを始めた」
「待てよ……! じゃあ願いが叶うってのは……」
「キョウカさんの願いを叶えるためのものなんだ、ライダーバトルは」
なんだよ、それ……。
アタシ達はじゃあ、なんのために戦わされて……。
こいつの、こいつのために戦わされてたってのかよ!
アタシも、あいつも、片山紗枝もそうだ。あんなガキまでも、こんな戦いのために死んで……!
「ふざけんなよ……。利用されてたってのかよ!」
「……そうなるね」
プツンと、何かの糸が切れた。
気が付けば、アタシは御剣を殴っていた。
殴って気が済むというものじゃないが、余計に腹立たしいのは、こいつは黙って殴られるのを受け入れていたことだろう。
ああ、そうかよ。
そうなんだな、お前は。
「お前……」
「ライダーバトルは終わらせる。モンスターも倒して、ミラーワールドを開いた罪を僕は償う。だから、ライダーから殴られるのぐらい、覚悟の上だ」
こいつ……!
こんな目を、する奴だったかよ。
「……ライダーバトルはアリスが勝つように仕組まれた出来レースだった。アリス、キョウカさんは失脚してライダーバトルは別のアリスと……コアの手によって行われている」
「……コア?」
「ミラーワールドの核みたいな存在……。僕も、正直よく分かってない。キョウカさんを唆して、アリスにした奴でもある。そいつは斬った」
さらっと、どんどんとんでもないことを口にする御剣。
流石に情報量が多すぎる。
「待てよ……そんな奴を斬って、大丈夫なのか?」
「分からない。斬ったけど結局、ミラーワールドには何の変化もない……」
「本当にそんな大層な奴なのか? コアって奴は」
「どうだろう……。本当に分からないんだ。あの時は、とにかく奴を斬れってことだけで……」
「後先考えずに斬ったのかよ……」
「コアと対面した時……怖かったんだと思う」
怖かった?
予想外の言葉だった。
御剣という奴は怖がりでも違和感ないのだが、ツルギというライダーが怖がるというのがあまり想像つかなかったからだ。
おかしいな、御剣とツルギは同一人物なのに。
「早く斬れ、そうしないとまずいぞって……」
「……ま、コアに関してはもういい。斬ったんだろ」
「うん……」
「お前の話を聞いて、アタシが今気になってんのはライダーバトルは……願いを叶える力は有効かどうかって話だ」
御剣の目が一瞬見開かれ、鋭い目付きへと変わった。
ああ、そうだ。ツルギってのは、こんな顔をしていた。
「ライダーバトルを、続けるつもりですか」
「ああ、そうだよ。……アタシにはもう、これしかないんだ……」
もう4人も手にかけた。
今更、止まれるはずがない。
4人もの命を奪って、じゃあやめますなんて言えない。
アタシはアタシの幸せだった頃を取り戻して────。
「瀬那」
────なんでだよ。
なんで、あいつの声がするんだよ。
アタシの幸せだった頃は……アタシの願いは……お父さんが生きてた頃の家だろ。
アタシの帰る場所。
そこは……。
「もう、これに賭けるしかないんだよ……!」
「……そう、ですか。なら、その願いを僕は斬り捨てます。たとえ、どんなに尊い願いだとしても、僕は……」
「そうかよ……ああ、じゃあ、お前は敵だ」
真っ直ぐ、御剣を見据えて。アタシの敵を見つめて。
ああ、こいつは敵だ。
他のライダーも敵だ。
モンスターも敵だ。
アタシの邪魔をする奴もみんな敵だ。
「次会った時は、殺す」
立ち去る間際に、背中越しに御剣へと告げた。
「さっき、茜さんにも言われましたよ。次は敵だって」
……ああ、そうだ。
いや、そうだな。
こんなこと、どうかしてるとも思うけれど。
ただ、それでも……。
「……ひとつだけ、頼んでいいか」
「頼む……? なにを……」
「アタシは────」
帰り道、家族や美玲先輩の前でする顔を作らなければならない。
明るく、どこにでもいる普通の高校生である御剣燐の顔を。
家族との楽しかった思い出とか、美玲先輩のこととかを思い浮かべて、沈んだ心に浮き輪を渡すような。
御剣燐をインストールしていくような。
家ではミラーワールドとかモンスターとかライダーバトルとか関係ないんだ。
だから、そういう殺伐としたものを削いでからでないと、家には入れない。
そうして、僕は御剣燐という仮面を被る。
「ただいま~」
いつも通りの声色。
「おかえり~。もう晩ごはんだからね~」
いつも通りの笑顔。
「は~い」
洗面所で手を洗いながら、鏡に映った顔を見る。
大丈夫だ、出来ている。
そうだよ、不安なんていらない。
ずっと、こうしてきたじゃないか。
だから、これからも大丈夫。
父さんにも母さんにも美香にも見せるものか悟らせるものか。
ああ、だけど。
いつまで、こうしていられるのだろう────。
夜の闇の中はモンスターが狩りをするのに適したシチュエーションだ。
モンスターの多くは、一人で行動する人間を襲う。
大勢の人がいる環境で襲いかかるモンスターというのは、あまり多くはない。
これは、モンスターが人間を恐れているがゆえである。
人間だけでなく、モンスターがモンスターを捕食する時も同じだが、群れを襲うということは反撃にあうリスクが高い。返り討ちにあうか、狩りの邪魔をされて獲物を得ることが出来なかったということにもなりかねない
狩りの失敗は生死に直結してくる問題だ。
ゆえにモンスターは確実で、リスクの低い条件下で狩りをする。
「ああ、あとちょっとで着くよ。それじゃあ」
高架下、スマホで通話中の中年のサラリーマンをカーブミラーの中から見つめる八つの瞳。
周囲に他の人はいない。
オレンジのライトが照らす中を通るサラリーマン目掛けて、蜘蛛の糸と表現するにはいささか太く、強靭な、ロープのような白い糸が放たれた。
「がッ!?」
糸は正確に男の首に巻き付いた。
咄嗟に、男は巻き付いたものを払おうと首に手をかけるが粘着性のある糸に触れて、手までも絡め取られた。
そして、男は引きずられていく。
カーブミラーへと向かって。
「助けてくれぇぇぇ!!!!!」
男の叫びは、今しがた通りすぎていった在来線の音にかき消され誰の耳にも届かない。
そして、電車が通り抜けていった静寂の中に、男の姿はなかった。
世間を騒がす、聖山市の連続行方不明事件。
証拠はなく、行方不明者達に共通点もなく、警察も捜査に行き詰まる。更には、事件解決の目処がまったく立たない警察への不信感は高まる一方であった。
そんな中、聖山高校の生徒、職員のほとんどが謎の症状により意識不明となるなどの事件も立て続けに起こり、聖山市は呪われている。人の住むべき土地ではないという論が出るほど。
そして、更に……。
深夜。
規制線が張られ、パトカーが数台集まる廃工場前。
捜査員の男二人が現場に着いて、まずその異様さにやられた。
三十代後半から四十代前半ぐらいの男は鋭い目をすっと細め、もう一人の二十代前半から半ばほどの若い男はすぐに顔を背け、口に手を当てていた。
「血がすごいな……」
「被害者は中務理恵。16歳。所持品の財布の中に、保険証がありました」
中肉中背の鑑識係が捜査員に告げた。
「また、女子高生か……」
「はい……。そして、遺体の状態なんですが……」
鑑識係が覆いのされた担架で運ばれていく中務理恵の遺体を捜査員に見せる。
捜査員は、目を細めた。
「お前は見ない方がいいぞ」
「やっぱりそうですよね水原さん……。そんな予感してました……」
「かなり酷い状態です。怨恨による殺人かと……」
「こんな歳の子が怨恨ね……」
水原と呼ばれた捜査員は死体を見るのには仕事柄慣れている者だが、その遺体はあまりにも残酷なものであった。
往年のベテラン刑事だろうと、これは流石にきついだろうと思いながら、遺体に合掌し覆いをかけ直すと鑑識達に礼を言って、中務理恵の遺体は運ばれていった。
「足のない遺体の次は、損傷の激しすぎる遺体、か……。異様が過ぎるな」
「異様が過ぎると言えばですが、犯人のものと思われる足跡が見つかりました。指紋も採取出来ています」
「え、それなら話は早いじゃないですか!」
「いや、そういうことじゃないだろう」
水原がそう言うと、鑑識は頷き二人をある所へ案内した。
廃工場内に放置された、割れた鏡である。
「足跡なんですが、ここから見つかって、そしてまたここに戻ってきているんです」
「ど、どういうことですか」
「……まるで、鏡の中から出てきて、鏡の中へ戻っていったみたいだな」
水原は鏡から、遺体が放置されていた場所まで歩き、再び鏡の前へと戻りながら呟いた。
「そんなまさか! あり得ないですよ!」
「ああ、あり得ない。が、今のこの街はあり得ないことばかり起きている」
「……あり得ないついでというとあれですが、足跡も犯人と思われるものと、通報した少年達のものしか見つかっていません」
あり得ない情報ばかりが流れ込み、若い捜査員は頭を振った。
「でもそんな……。運ばれてきたってことですか被害者は?」
「だが、足跡はここからそこだけ」
「ええ。まるで不可解なことばかりで……」
「とはいえ、証拠はある。足のない遺体や聖高の時とは違うんだ。不可解な事件とはいえ、捜査するしかない」
「ですね……!」
まずは聞き込みだと、水原達は通報したという少年達のもとへ向かった。
こうして、この凄惨な殺人事件はすぐさまニュースとなって、朝には世間を騒がせるのであった。
御剣家の朝はいつも通りの朝であった。
しかし、テレビのニュースも朝刊も物騒なことしか話さなかった。
「もう本当になんなの~。足のない遺体とか廃工場の遺体とか~」
父さんのお弁当を準備をしながら、母さんが怖がっていた。
なので、朝食のご飯を盛りながら返事をしてあげる。
「母さんもあんまり遅くまで出歩いちゃ駄目だよ」
「それは燐でしょ~! ここ最近ほんと不良よ不良!」
……返事の選択肢を間違えた。
パーフェクトな解答と、グッドな解答と、バッドな解答があるとしたら、バッドを選んでしまったような気分だ。
「そんな不良なんて、別に何にもしてないよ」
「夜出歩くのは不良よ。……ね! 美玲ちゃん!」
「はい。不安で不安で仕方ありません」
美玲先輩は味噌汁をよそいながら答えていた。
美玲先輩、そこは、かばってくれるところじゃないんですか?
「あ、お父さんおはよう」
「ああ……」
スーツに着替えてやって来た父さんの顔は……なんだか、渋い顔をしていた。
父さんは無愛想な方であまり顔に出す人ではないけれど、何かあったようだ。
母さんもそれに気付いて、父さんに声をかけていた。
「なにかあったの?」
「さっきスマホ見たら黒澤さんの奥さんから連絡が来てて、黒澤さん、昨日から家に帰ってないみたいなんだ」
「黒澤さんが……」
黒澤さん……って、あああの人か。
「誰、黒澤さんって」
美玲先輩が訊ねてきた。
気になったのだろう。
「お父さんの大学の先輩で、よく家にも来てたぐらい父さんとは仲が良い人です」
「そう……」
家に帰ってこない……ということは、もう、そういうことなのだろう。
美玲先輩の顔も、そう言っていた。
「黒澤さん、結構飲む人だったし、案外そこら辺で寝てるんじゃない?」
「いや……。この間、外で会った時に健康診断で結果が悪かったから禁酒すると言っていた。あの人はやると言ったらやる人だからな……」
「……」
朝の食卓が、一気に重い空気に変わった。
これも全部……僕が……。
「行方不明は起きるし、変な殺人事件まで起きて……。本当にどうしたのかしらね、この街は……」
「ああ……」
そこから、みんな口を開かなくなった。
ああ、もう、どうして。
早く、なんとか、なんとかしないと……。
10時過ぎ。
美也さんと合流して、行動。集合場所は聖山駅のステンドグラス前。大きなステンドグラスがあって、聖山市民が集合場所といえばここ!と名をあげる場所である。
実際、僕と美玲先輩以外にも人を待つ老若男女がたくさん。
改札前ではいつも、なにかしらのフェアが行われていて今は北海道フェアということで、北海道の特産品や人気店などが出展していた。
「来たわよ」
美玲先輩の一足先に美也さんを見つけていた。
僕もすぐに美也さんに気付いた。見慣れたお団子頭は良い目印だ。
「おはよう美也さん」
「うん、おはよう……」
「……元気ないわね。どうしたのあの後」
昨日、僕が寝ている間に美也さんは一人で色々と動いてくれていたらしい。
ただ、その成果報告があがらないと美玲先輩が昨晩は怒っていた。
「その……それも含めてで、色々とどう言ったらいいか悩んでて……」
「どういうこと?」
「その、まずひとつね。……真央さんが、生きてた」
それを聞いた時、感じたのは「どうして?」とか「よかった」ではない自分に嫌気がさした。
美也さんの言葉を聞いて僕が思ったのは「やっぱり」だった。
北さんの傷と、北さんと戦ったとされたウィドゥの得物や戦い方から考えた時に……北さんと戦ったのはウィドゥではないのではないかと考えた。
そうした時、条件的に真央さんしかいない。
それにきっと、美也さんも気付いている。だから昨日、話すのを躊躇ったのだろう。
「……ひとまず、場所を変えましょう」
「あ、待ってください! 実は、もう一人来る予定なんです。燐くんも知ってる人」
「僕も知ってる人?」
どういうことだ?
ライダーの知り合い、だよな多分。
結構いるから誰だか……。
「あ、燐!」
「え? この声……」
「久しぶりね、燐」
「真里亞さん……」
人混みを避けて、こちらにやって来たのは華甸川真里亞。
鐵宮との戦いの時以来というと、久しぶりな感じだけれど、最近の話なんだよな……。
「燐、誰」
美玲先輩の声が、低い。
元々低めな声が、微妙な違いだけれどいつもより低い!
なんだろうな、最近こういうことが多い気がする。
「あなたは燐の友達かしら?」
「は?」
真里亞さんの言葉に、美玲先輩が反応してしまった。
導火線に火がつけられたようなイメージが頭の中に。
「私は燐の彼女だけど」
「あらそうなの! よかったわね燐。美人な彼女が出来て」
「あー、はい……そうですね……?」
「なんで疑問系なの、嬉しくないの」
「嬉しいです!」
ほんと、なんか、最近。美玲先輩と僕のパワーバランスがおかしなことになってきている気がする。
端的に言って、美玲先輩の尻に敷かれている……。
「ちょっと、優しくしてあげなさいよ。燐がかわいそうだわ」
「あなたには関係ないでしょ」
み、美玲先輩と真里亞さんが一触即発だ……!
なんでこんな出会ったばかりで!
「はーい二人ともそこまでにしてくださーい」
美也さんが二人の間に割って入る。
流石美也さんだ。こういう状況に強い。
「もーこれから仲間としてやっていくんだから、喧嘩なんてやめてくださいよ」
「は? 仲間?」
「はい! 美玲さんも賛成してたじゃないですか~仲間集めるの」
「それはそうだけど……チェンジで」
「そんなこと言ってられる状況じゃないですって!」
「私もちょっとこの人とやっていける自信ないかも」
真里亞さんまで!
あーもうなんでこう上手いこと人間関係を構築出来ないんだ。
───とか何とか言ってる場合じゃなくなったようだ。
「モンスター!」
全員この音を聞いてスイッチが切り替わる。
さっきまでのが嘘のように。
「行くわよ」
頷いて、四人で走る。
モンスターが現れたとされる場所へ。
犠牲者を出さないために。
命を守るために。
次回 仮面ライダーツルギ
「はい瀬那の分」
「燐は見ちゃダメ」
「見て見て瀬那あれ! あいつ!」
「たらふく食わせてやるよ……」
「……え、ちょっとノリ悪いよ?」
運命の叫び、願いの果てに────。
ADVENTCARD ARCHIVE
ADVENT(仮面ライダーヴァリアス)
ヴェイルーツ 100AP
華甸川真里亞=仮面ライダーヴァリアスと契約している小型獣モンスター。
茶色の子犬のような外見。
APもミラーモンスターの中では最低レベルであるが、ヴァリアスがカードを使用することで様々な形態に変化して戦う。
真里亞と契約する前は他のミラーモンスターのおこぼれを食べて生き延びていた。
小さくても、可能性の塊。