仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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ALTERー19 痛覚

「ねえ! どういうことなの!? ねえ!」

 

 夜の住宅地。歩く燐の背を追い、茜が声を上げていた。

 延々と声をかけ続けられることに嫌気が差した燐は呆れを隠し切れぬ表情で振り返った。

 

「……さっきも言ったけど、瀬那さんは君を戦いから遠ざけたくて」

「それを燐は知ってたの!?」 

 

 足を止めた燐に迫る茜は怒気を強めていた。

 

「……うん」

「なんで!?」

「約束したんだ、瀬那さんと。君をライダーバトルから降ろすから、守ってくれって」

 

 それを聞いて茜は目を見開き、言葉を失った。

 そんな茜から目を背ける燐。

 茜が受けたショックの大きさを感じ取ってしまったからだ。

 

「バカ……瀬那のバカッ!」

「茜さん……!」 

 

 燐に背を向け茜は駆け出した。

 その背に向かって手を伸ばした燐だったが、自分の言葉は届かないだろうと悟り、力なく右腕を下ろし、自身もまた振り向き帰路へとついた。

 

 

 

 

「瀬那! 瀬那ぁ!」

 

 泣き出しそうな声で自らのもとを去っていった友の名を叫ぶ茜であったが当然返事はなく。

 どこまでも走り続け、叫び続け、求め続ける。

 この夜の闇に消えていった少女のことを探し、彷徨い続けた果てに茜は……自分の家へと辿り着いていた。

 もしかしたら、瀬那と燐の二人で嘘をついて驚かせようとしているのかもしれない。

 だから、帰ればいつも通りに瀬那がいるだろう。

 

 けれど、家にあったのは暗い孤独だけだった。

 そこに共に暮らした少女はなく、茫然と自らの家の中で立ち尽くすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 行く宛なんてものはなかった。

 計画性、知らない。

 辞書にない、そんな言葉。

 

「……あぁ……」

 

 夜は冷える。

 夏の残り香が日に日に薄れて、秋の空気が浸食しつつある。

 息が漏れる。

 いやに寒い。

 寒くて、暗い。

 

「どうしてこんなに……暗いんだよ……」

 

 夜のせいだけじゃない。

 暗くて、先が見えない孤独の中へ、歩いていく。

 なんで、アタシは……。

 いいや、いつもこうだったじゃないかアタシは。

 

「いつも通りに戻るだけ……」

  

 そう、いつも通り。

 いつも通りに、戻るだけ。

 

「あはは……あっはは! そうだよ……アタシは……ずっと一人だったじゃねぇかよ……」

 

 だったら、どうして。

 どうして、こんなに……。

 こんなに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また、あの夢だ。

 大きな木が、風に揺れている。

 さざめく葉達の歌声に耳を澄ませるが、突然、金切り声のような風の声。

 風が、緑に萌える葉をもっていってしまった。

 広く四方へ伸びる枝を折ってしまった。

 こうなれば、太い幹を持つ木とて死ぬ。

 風が、すべてを奪ってしまったのだ。

 

「っ……ぁ……」

 

 目覚めると、夜中の二時。草木も眠るという時間だ。

 最近はずっとあの夢ばかりを見てしまう。

 理由は、なんとなく想像がついている、が……。

 

『未来超越はお前に勝利の未来を与える』

 

 部屋には僕しかいない。だが、ミラーワールドはそうとは限らない。

 姿見に映る僕は、ニヒルな笑みを浮かべていた。

 

「刃……」

『お前に許されるのは勝利だけだ。全てが終わるまで、お前は勝ち続けなければならない』

「……そうだね」

『敗北は許されない。お前は、仮面ライダーだ』

「分かってる」

『だがお前はそれを拒んでいる』

 

 突きつけられた言葉は、僕の身体に深く沈みこむようだった。

 静かに、静かに、さっきまで通りに、言葉を受け入れる。

 

『未来超越が与える未来がそんなに怖いか?』

「……勝利の先にあるのは、勝利だけだよ」

『敗北すれば終われる。だから、そうしたいのか』

「僕の死が君を生んだのなら、僕が生き続ければ、君は生まれない」

『それが本来のあるべき世界の形というものだ。お前が背負ったものを、何故俺が背負わねばならない』

 

 刃はかつて言った。

 これが、絶望だと。僕の前に立ち塞がる、僕が戦わなければならないもの。だから僕は強くならなければならない。

 僕が一人、罪を背負い続ける痛み。

 最初の僕は、背負うことが出来ず、全てを放棄して、死んだ。

 もう、そうでもしなきゃ、逃げられなかったから。

 そのツケがこうしてかなりの利子と共に、降りかかってきている。

 

「たくさん、人が死んだ」

『お前のせいでな』

「守れなかった」

『お前が弱いからだ』

「力を手にすれば、全部守れるの?」

『……力がなければ、守れない』

「どこまで強くなればいい?」

『……お前が、望む限り』 

「だったら……」

 

 世界を壊せるぐらいの力が欲しい。

 

『……燐くん? っ、刃……!』

『……アリス』

『何をしていたんですか』

『お前には関係ない』

 

 キョウカが現れたことで興が削がれた、もう興味はないといった顔で刃は鏡から消え去った。

 そのせいか、息の詰まっていた感覚から解放された燐は呼吸を密かに整える。キョウカに気付かれぬよう。

 

『燐くん。あいつと何を話していたんですか』

「……なんでもないよ」

『なんでもないわけ』

「夜遅いから寝よ? おやすみ」

『おやすみなさ~い。……じゃないです! 燐くん! 燐く~ん!!!』

「静かにして」

『えっ、ちょっ、燐くん布掛けないで────』

 

 燐が姿見に黒い布をかけ、鏡を閉ざすとキョウカの声はぱたりと聴こえなくなる。

 静寂を取り戻した自室。燐はベッドに倒れ込むようにして、床についた。

 だが、眠りはしなかった。

 眠りたくはなかったのだ。

 また、あの夢を繰り返し見てしまうだけなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝九時。

 私が活動するには早い時間。宵っぱりな質なのだ。

 それが何故、こんな爽やかな朝に小綺麗なお宅の前に立っているかというと……。

 

 昨晩のことだった。

 夕食を食べ終わった頃に家の電話を母が取った。

 そしてすぐにアタシの名前を呼んだのだ。

 

「樹~。工藤先生から電話~」

「先生から?」 

 

 工藤先生とはピアノの先生のことだ。

 事故以降、最初こそ心配の連絡をくれていたがしばらく連絡をしてこなかったのが今頃なんだろうか。

 母から受話器を受け取り、電話を変わる。

 

「もしもし。お久しぶりです先生」

「久しぶりね~樹。元気してる?」

「まあ、はい」

 

 相変わらず工藤先生はテンションが高く、ついていくのは疲れる。だが、アタシの才能を見出だしてくれた人だ。

 恩師だとはっきり言える。

 

「それで、わざわざ電話してくれるなんて何か用ですか?」

「や~ね~もっと会話を楽しみましょうよ~」

「それはまた時間がある時に」

「いけず~。……ま、そうね。またゆっくりお話しましょう。それでね、話なんだけど……」

 

 

 

 

「あなたは、恋をしたことがある?」

 

 ……は?

 思わず声が出そうになったが、必死に噛み殺した。

 白いソファーに深々と座る、五歳の少女。

 アタシを家に入れて案内してくれた母親に梳かして結んでもらったであろう長いツインテール。まるで人形のよう、ではあるがムスッとした表情のせいで可愛さ大幅減である。

 なにより五歳の少女に何故そんなことを聞かれねばならないのか。

 ましてや、これから指導する相手に。

 

「きいてる? あるの?」

「……ないけど」

 

 そう答えると、このガキ……有村姫はあからさまにため息をつきやがった。

 

「ないんだ。まだまだお子様ね」

 

 これでキレないアタシを褒めてほしい。

 ガキにお子様扱いされてるんだ。それをぐっと堪えて接しているのだから。

 

「……とりあえず、姫ちゃんのピアノ。聴かせてもらいたいんだけど、いいかな?」

「お子様にわたしの演奏ははやいわ」

 

 こいつ……!

 ……すぅ……落ち着け。落ち着け黒峰樹。

 相手は五歳だ。アタシは十六。実に三倍以上生きてるのだ。たかだかアタシの三分の一にも満たない時しか生きてないガキ相手にキレてはいけない。

 

「はあ……つまらないわ。工藤先生がとくべつ講師だなんていうから期待してたんだけど。恋もしらないおんなじゃね……」

「悪かったな恋も知らない女で」

「なにかいった?」

「う、ううんなにも……!」

 

 危な……思わず口に出てた……。

 いやいや、そもそもアタシは特別講師。奴は生徒だ。

 そう下手に出る必要はない。だが、工藤先生から言われたとおり、機嫌を上手く取らねばならない。

 まったく、親はどういう教育をしているのだ。

 ……とはいえ、ライダーバトルで忙しい合間にこんなことを引き受けたのは工藤先生からの頼みだからこそ。

 そうでなきゃ、断っていた。

 それに……。

 

「姫ちゃんね、あなたに並ぶ逸材よ」

 

 昨晩、工藤先生がそう言っていた。

 工藤先生にそれだけ言わせる子が、どんな演奏をするか気になったのだ。

 聴いてみたいものだが、現在スランプなのだとか。

 そのスランプを解消するため、アタシが特別講師としてやって来た。

 同じ天才同士、刺激になるだろうと。

 ええ刺激されてますよ怒りの感情を司る神経がね!

 

「……工藤先生から、スランプだって聞いてるんだけど……何かピアノのことで気になることでもあったのかな?」

 

 ここまで来て怒りに任せて特別講師を降りるというのも癪である。

 せめて、天才の演奏を聴いて帰ってやるのだ。

 その思いで質問すると、予想外の事態に転じた。

 

「……いいわ。恋をしらないあなたにおしえてあげる」

 

 そうして、姫はポーチを手に取り部屋を出た。

 追いかけると、姫は玄関で靴を履いているではないか。

 

「ママ! お兄ちゃんのところ行ってくるから!」

「そうなの。いってらっしゃい」

 

 いやいやお母さん。

 ピアノのレッスンの時間なんですけど。なんで優しく見送ってるんですか。

 とにかく慌てて姫を追いかける。

 そうして歩くこと数分。

 これまた小綺麗なお宅の前に立っていた。

 

「姫ちゃん……?」

 

 姫はその家の前で立ち尽くしていた。

 インターホンを鳴らせばいいものを、しばらく家を睨み付けるように見上げて、ようやくインターホンを押すかと手を伸ばしたが引っ込める。

 ポーチから手鏡を取り出して、なにやら髪を直している。

 何をしているんだか……いっそアタシがインターホンを押してやろうかと思い、インターホンに目を向けると、その隣の表札に書かれた名字を見てアタシは目を見開いた。

 

「御剣……!?」

「なにあなた。しってるの? りんお兄ちゃんのこと」

 

 りんお兄ちゃん。

 最悪だ。

 御剣なんて名字はそういないだろうから覚悟していたが、確信に変わってしまった。

 これはとんだ展開である。

 

「姫ちゃん。やっぱりお家に戻ってレッスンしないと……」

 

 そう言った瞬間だった。

 玄関の扉が開けられ、家の中から人が出てきた。

 

「燐、眠そうだけど大丈夫? 家にいた方が……」

「大丈夫ですって美玲先輩……あれ、姫ちゃん? おはよ」

 

 しまったぁぁぁ……。出会してしまった。

 しかも咲洲までいるとかどういうことだよ!

 

「あなた……黒峰……!」

「……姫ちゃん。今日はどうしたの?」

「あ、あのえっと……で、デー……」

  

 おいどうした姫。さっきまでのふてぶてしさはどこにいった。

 ……恋を教えるって、まさか。

 姫と御剣に交互に目を向ける。

 そういうこと……?

 ええ……。

 

「……とりあえず、家の中入ろっか。黒峰さんも」

 

 御剣は笑顔だったが、アタシに向けた笑顔には有無を言わさぬ迫力があったということだけ、言っておく。

 

 

 

 

 

 

 御剣の家の客間に通され、オレンジジュースが出された。

 流石に毒は入っていないだろうから普通に飲むが、姫の方は落ち着かない様子である。

 

「今日はお友達連れてきてくれたんだ」

 

 優しく話す御剣だが、お友達なんてものではないのは察しているだろう。

 

「う、うん! ピアノのとくべつこうしの先生で……」

「へえ、そうなんだ。ちゃんと先生の言うこと聞いてる?」

「うん!」

 

 嘘つけ。

 

「そっか、えらいね。で、先生はなんで一緒に?」

「いや、アタシは無理矢理……」

「先生となかよくなろうとおもってあそんでたの!」

 

 無理矢理の部分をかき消すよう、食い入って姫が言った。

 

「そうなんだ。そうだね、先生とも仲良くならないとね」

「う、うん! わたしと先生とってもなかよしなの!」

 

 さっき初めて会って、お子様扱いしてきたくせに!?

 とんだ猫被りだ。

 アタシが本当のこと全部洗いざらい話して台無しにしてやろうか。

 

「ちょっと、燐」

 

 扉が少し開けられ、咲洲が御剣を呼んでいた。

 少しごめんと席を外した御剣。ふと、隣の姫に目をやるとなにやら睨み付けるような目で扉の方を見ている。

 ……なーんとなく、分かった。

 御剣が席を外している間に、話しかける。

 

「スランプの原因は、失恋か」

「な、なんでわかったのよ!」

「お前が分かりやすいだけ」

 

 もういいやと自然体で話しかけた。

 はは、なかなか可愛らしいじゃん。

 

「……そうよ。あのおんながりんお兄ちゃんを盗ったのよ……!」

「盗ったって、姫のもんでもないでしょ御剣は」

「う……」

「まあ、これでスランプの原因は分かったわけだし……あとはスランプ解消を目指せばいいわけだ」

 

 自然と口角が上がっていた。

 こんな簡単な問題。ちゃっちゃっと解決してやる。

 

 

 

 

 

 

 廊下でこそこそと燐と話していた。

 予想外過ぎる事態に、燐の予想外の対応。

 流石に家の中で仕掛けてくるなんてことはしないと思うけれど、万が一のことを考えて警戒するに越したことはない。

 

「大丈夫なの、黒峰なんか入れて」

「ええ……本当にたまたまみたいですし。姫ちゃんを利用して近付こうみたいな感じじゃなかったですよ」

「そう……ところで、誰なのあの子?」

「父さんの友達のお子さんで、近所に住んでて遊んであげたりしてます」

「そう。なんか、すっごい睨まれたんだけど」

「ええ? 姫ちゃんはそんな子じゃないですよ」

 

 はあ……。ため息をつかざるを得ない。

 燐はまったく、何も分かっていないのだから。

 

「女同士分かるのよ。そういうのは」

「女同士って、そんな姫ちゃんはまだ子供ですよ」

「女に大人も子供もないの。女は生まれた時から女なんだから」 

「は、はあ……」

 

 ま、子供相手に警戒するような真似はしない。

 なんせ向こうは五歳。私は十七。三倍以上生きてるのだから。

 大人の対応で見逃してあげる。

 そんな対応をしていると、客間の扉が開かれ黒峰が出てきた。

 すぐに警戒し、ジーンズのポケットに忍ばせたデッキに手を伸ばす。

 

「何の用?」

「そんな警戒しないでよ。戦う気なんてない」

「どうかしら」

「本当。今のアタシは姫の特別講師。ライダーのことはしばらく忘れる。それで、特別講師としてお願いなんだけど……。御剣、姫とデートしてあげてください」

 

 その日、人生最大級の「は?」が飛び出たことは言うまでもなかった。

 更に言うと、ミラーワールドにいたアリスと輪唱していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 近所の広い公園で芝の上を楽しそうに走り回る姫を植木の影から見守っていた。

 よしよしいいぞ。五歳児らしい顔も出来るじゃん。

 

「こちらイーグルワン。対象は燐との距離三メートル。どうぞ」

『こちらイーグルワン。それ以上近付くようなら警告の後射殺を許可します! どうぞー!』

「ふざけんな、なにやってんだよお前ら!」

 

 折り畳み式の手鏡をトランシーバーみたいに使って咲洲とアリスがやり取りしていた。

 ていうかなんでイーグルワンが二人いんだよ。

 そういうの詳しくないアタシでも分かるぞ。

 

「あんたがそういうやつだと思わなかった」

「燐に近付く女は敵よ。須く」

 

 須くなんてこんなところで聞くとは思わなかった。

 

『そうですそうです! あと燐くんに近付く女を幇助する奴も同罪で死刑です!』

 

 アリスまでこんなだ。

 わけの分からない女とは思っていたけれど、ここまで頭の中がピンク色だとは思わなかった。

 

「はっ、落ちぶれたな……。お前も」

『なんですってー!?』

「それには同感だけど」

『美玲ちゃんまで!?』

「それで、本当にどういうつもり」

「どうもこうもない。ただ、あの子がちゃんとピアノ弾けるようになればいいなってだけ。アタシはただ……」

 

 クラクションの音。

 アタシを呼ぶ声。

 拍手の音。

 ピアノの音。

 褒めてくれた先生と両親の言葉。

 過去を駆けていく。

 楽しかった、明るかったあの頃に。

 アタシみたいな思いは、誰にも……。

 感傷に浸っていると、腹の虫が鳴った。

 すっかりお昼だ。

 

「あー、朝食べてなかった……」

「はあ、まったく」

 

 目の前に、あんぱんと牛乳が突き出される。

 

「張り込みに何も用意してないとか」

「あんた……面白い女だったんだ」

 

 出かける前に御剣が握ったおにぎりを頬張る二人を観察しながら、アタシ達はあんこの少ないパサついた安いあんぱんに齧りついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手を繋ぐ親子連れをぼうと眺めていた。

 遊園地。

 ここは、大好きな場所。

 愛に溢れているから。

 私のように愛された子供達がたくさんいるから。

 

 ここは、大嫌いな場所。

 愛に溢れているから。

 私のように愛されなかった子供なんていないから。

 

 いいえ私は愛されていた。

 

 それはまやかし私は愛されてなどいなかった。

 

 いいえ私は愛されていた。

 だっていっぱいお父さんとお母さんは私を殴ってくれた。

 

 両親の間で手を握って歩いたことが一度でもあった?

 

 違うそんなの愛なんかじゃない。

 愛には痛みが付き物だ。

 

 痛ければ、子供は泣き叫ぶ。

 愛されて、子供は泣き叫ぶ?

 

 そうだ。

 だって私がそうだった。

 

 あなたは虐殺を受けていた。

 

 違う私は愛されていた。

 

 ならなんで両親を殺したの。

 

 愛しただけ。 

 私も両親のように。

 

 そう、痛みこそ愛。

 だから私はここに来る。

 見てるだけで、痛くなるから。

 

「ママー! パパー!」

 

 あの男の子は、迷子?

 可哀想に。

 両親とはぐれてしまったみたいだ。

 

「大丈夫?」

「ママー!」

 

 泣くのに忙しいみたい。

 私のことなんてまるで気にしてはいない。

 

『可哀想な子ねぇ、麗美』

「そうだね瑠美」

『寂しくないよって、安心させてあげなきゃねぇ』

「うん。そうしてあげよっか」

 

 男の子の手を取り、歩き出す。

 男の子が泣き腫らした目で不思議そうに見上げていた。

 

「大丈夫だよ」

 

 そう声をかけると、男の子はこくりと頷いて泣き止んだ。

 ああ、泣き止んでよかった。

 あ、あそこだ。

 

「どこいくの?」

「寂しくないところだよ」

 

 私の両親が私を愛する時は決まって人目につかない場所だった。

 きっと、シャイだったんだろう。

 あまり人通りのない、使われてもいなさそうな古いトイレに入る。

 個室の鍵もしっかり閉める。

 

「なにしてるの……?」

「愛してあげる」

 

 振り上げた右手を、勢いよく振り下ろした。

 あは、あはは。

 私もいつか子供が出来たら目一杯愛を注ごう。

 女の子か男の子か……どっちもいいなぁ。

 

「名前は何がいいかなぁ瑠美」

『そうねぇ、る……れ……レオとかどうかしら麗美』

「かっこいい名前だね瑠美。……そうだ、君は今だけレオだよレオ。今だけ私の子だよレオ……!」

 

 いっぱい愛してあげるね、レオ。

 

「それは流石にヤバいんじゃないかな~」

 

 声と共に扉が蹴り破られる。

 狭いトイレの個室。壊れた扉が背中に当たって……痛い。

 ふふ、痛い!

 

「喜多村、遊……!」

「……私も人間としては大概な方だけどさ、いや、私もじゃないか。君は人間じゃないから。怪物退治と行こうか」

 

 個室に押し入ってきた喜多村遊が襟を掴みあげて、位置を逆転させると私を壁に向かって突き飛ばした。

 あは、背中ばっかりはさみしいな。

 

「大丈夫!?」

 

 レオに向かって話しかけてる。

 大丈夫?

 大丈夫だよ。死んでないから。

 ちゃんと、長く愛せるように加減してたんだから。

 

「外の大人にこの事伝えるんだ! 走って!」

 

 あ、レオが逃げる。

 水場の前を通りかかった瞬間、ブラックスキュラの鋭い脚がレオの行く手を阻んで糸に包まれて、行っちゃった。

 

「ッ……!」

「そういえば、昨日約束した。また愛してくれるって」

「怪物は対象外だから」

「かいぶつ……?」

 

 睨んだまま、喜多村遊はトイレの個室から出てくるとレオが吸い込まれた鏡にメタリックグリーンのデッキを映した。

 

「……変身」 

 

 メタリックグリーンの重そうな鎧。

 喜多村遊のことは好きだけど、この鎧は嫌い。

 だって、ちょっとやそっとじゃ痛みにならなさそうだから。

 でも、愛する甲斐は一番だからそういう意味じゃ一番かも。

 

「知ってる? パパがママを愛する時は二人とも裸になるの」

「……」

「でも、私達が愛し合う時は着込むのね。……へん、しん」

 

 黒いデッキにキスをする。

 ああ、身体が熱くて仕方がない。

 身体に密着するこの黒いスーツは私を情熱的にさせる。だって、焦らすでしょう?

 本当は、生身で痛めつけられたいし、痛めつけたいのに。

 

 ミラーワールドに着いた途端、喜多村遊ががっついてきた。

 情熱的。

 便器に叩き付けてくれるなんて。

 破壊されたトイレが嬉しそうに泣いている。こんなに水を噴き出して、濡らして。

 あなた達も痛めつけられたかったのね。

 

「喜多村さんはヒーローじゃないからさ、更正させようとかそういうつもりは一切ないよ。死ね」

「あはは! あはは! 痛い痛い痛い!」

 

 デッキからカードを抜いて、左腕を覆う銀色のアーマーに読み込ませる。

 

【STRIKE VENT】

 

 右手の甲にブラックスキュラを模した手甲スキュラネイルが装着され、長く鋭利な黒爪で喜多村遊に迫る。

 あれほど厚く、邪魔だと思っていた鎧もこの爪ならば容易く切り裂ける。

 ああ、速くあなたに到達させたい……!

 

「チッ……この姿のままじゃ駄目か!」

 

【SURVIVE】

 

 姿が変わった……。忌々しい。 

 けれど、今の姿の方が好きかも。

 変身したのに傷だらけで、手足に鎖がついてるなんて!

 

「君と戦いたいわけじゃないんだ。だから、ごめんね」

 

【TIME VENT】

 

「永遠闘諍」

 

 次の瞬間、全身の骨が砕け散っていた。

 

「かっ……」

 

 立っていられるわけもない。

 壊れた人形のように倒れた。

 折れた肋が内臓に刺さったかな。仮面の中はぬめりとした触感に覆われている。

 

「痛い……」

 

 声を発するだけで痛いなんて、最高。

 ああ、痛い。

 痛いよ、痛いよ……。

 

『麗美! しっかりなさい! 麗美!』

 

 頭の中で叫ぶ瑠美の声すら、痛い。

 

「よかったね、全身くまなく痛いでしょ。幸せだね」

 

 喜多村遊が、見下ろしていた。

 あ、あは、あはは……。

 

「そう、だよ……」

「……」

「痛くて幸せ! 一番幸せ! 愛してる喜多村遊! がはっ!?」

 

 また、血を吐いた。 

 仮面の中、自分の血で溺れちゃいそう。

 

『その幸せを、続けたくなぁい?』

 

 この、声は……。

 白い靄みたいな人影……。

 

「誰!」

『私はコア。……ねえ、麗美。まだ、もっともっと幸せになりたいわよね?』

「……なり……た、い……」

『その願い、叶えてあげる』 

「なにをする気だ!」

『邪魔よ』

「ぐあっ!?」

 

 コアは手を翳しただけで白い光を放ち、喜多村遊を吹き飛ばした。

 そして、私に力を与える。

 

『いいえ。与えるのではなく、解放よ。────オルタナティブ、リリース』

「あ、あ、あああああ!!!!!!!」

 

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 

「幸せ……! 愛を感じる!!!!」

『ふふ……名付けるなら、愛情変換(イコールラブ)とでもしましょうか。それじゃあね麗美。よき痛みを────』

 

 痛い幸せ!

 こんなに痛いなんて、痛めつけてくれるなんて!

 

「喜多村、遊……やっぱりあなたは……愛せるッ!」

 

 

 

 まるで、操り人形が起き上がるかのようであった。

 糸で引っ張り上げられるような不自然な挙動。

 全身の骨が、砕け散ったはずなのに。

 

「あのコアとかいう奴の仕業か……!」

「さあ、愛し合いましょう!」

「だからあわないって!」

 

 息を吹き返した氷梨麗美の猛攻。

 攻撃力が増した。動きが良くなった。

 強化されている……!

 

「チッ……永遠闘諍!」

 

 ピタリと止まる時。

 顔面、両腕、腹部、両足にそれぞれ一撃ずつ。

 また粉砕したが……これでどうだ。

 

「動け」

 

 時計の針が再び動く。地面に墜ちる氷梨……だが、またも不気味に立ち上がる。

 

「愛ッ!」

「ぐっ!? また強くなった!?」

 

 さっきよりも更に速く、力強い。

 レイダーサバイブの防御力でも不安になってくる威力だ。

 それに、なにより……。

 まだ、足が治ってないんだよね。

 デッキ持ってれば治りが早くなるんじゃなかったのかとアリスにクレームだ……って、そんなこと言ってられそうにない。

 

「愛……愛ッ……!」

 

【FINAL VENT】

 

「……愛し合うなら殺さない方がいいんじゃないかな!?」

 

 氷梨の背後に現れた黒い蜘蛛が鏡が割れるようにして脱皮。

 より巨大に、より鋭い大蜘蛛が空に向かって糸を吐き出すと、氷梨が手甲の爪でその糸の端を絡めとると、あたかも鞭のように振るい始めた。

 

「やば……」

「あはははは! 愛よ! 愛ー! 受け取ってぇ!!!」

 

 鞭となった糸は容易くベンチを切り裂き、植木を切り裂く。

 更に植木は一瞬にして枯れ果て、朽ちていく。

 なにか、毒でもあるようだ。

 当たるのは、まずい。

 だけど……!

 

「逃がさない! 逃がさない! 逃がさない!」

 

 氷梨はとにかく鞭を振るい続けた。

 読めぬ不規則な鞭の軌道は下手に動けば、逆に切り裂かれてしまうだろう。

 永遠闘諍もだが、連発して分かった。

 なかなかに、体力を消耗する。

 正直、まだ使えない。

 どうする、どうする……!

 

 

 

 土煙舞うほどの猛攻。

 もはやレイダーサバイブの姿など見えないほどだ。

 しかし……。

 

「ッ! 命中したわ!」

 

 鞭に手応えがあった。

 そこへ、ブラックスキュラの強化態ブラックスキュラ・エマージェンスが糸を伸ばし、捕縛。

 そして、糸を巻き取りレイダーサバイブを引き寄せていき────オルタナティブ・ウィドゥは、スキュラネイルで腹部を貫いた。

 

「ふふ……え……」

 

 貫いたものを見る。

 それは、見も知らぬ白骨を纏ったかのようなライダーであった。

 そのライダーは血を噴くこともなく、土となって崩れ落ちていった。

 これはレイダーサバイブの能力。かつて、彼女が倒したライダーの土人形であった。

 

「逃げ、たの……?」

 

 土煙が晴れ、レイダーサバイブの姿はなかった。

 この異様なほどの土煙もまた、レイダーサバイブの土の能力を活かしたもの。

 上手いこと彼女には逃げられてしまったのだ、オルタナティブ・ウィドゥは。

 せっかく、あんなに愛したのに。

 

「うああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

 

 オルタナティブ・ウィドゥは、その爪で周囲のものを切り裂き、そして自身の肉に食い込ませた。

 

「痛い……痛いのだけが……私の愛なのに……ねえ、瑠美……。瑠美……?」

 

 いつもしたはずの瑠美の声がしなかった。

 また、隠れてしまったのだろうか?

 首を傾げ、オルタナティブ・ウィドゥはミラーワールドから立ち去るのだった。




次回 仮面ライダーツルギ

「はい、ラブラブです」 

「ライダーの数も減ってきました。私と共に、苦しむ者を救いましょう」

『一キロメートル先、左方向です~!』

「のびますよ」

「ある意味、人の心に残る……ある意味、天才。天才っていうのは理解した」

運命の叫び、願いの果てに────


ADVENTCARD ARCHIVE
FINAL VENT(オルタナティブ・ウィドゥ) 
ポイズンタイフーン 9000AP

オルタナティブ・ウィドゥがブラックスキュラ・エマージェンスの糸を猛毒の鞭として振るい、トドメにブラックスキュラ・エマージェンスが糸で引き寄せた相手をスキュラネイルで貫く。
糸の鞭は猛毒でまた鋭い切れ味を誇る。

これが私の愛の嵐!受け取って!受け取ってよ!

告知
もう一つの仮面ライダーツルギの物語
仮面ライダーツルギ Triangle Victim SPiral
https://syosetu.org/novel/336019/

コラボ情報
もうひとつのユニゾン、見せてやる
仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ 千年超越大戦ツルギ×マイヤ
https://syosetu.org/novel/333135/

白刃、舞う
仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ ツルギ×ムラサメ 怨讐魔剣事変
https://syosetu.org/novel/336097/

こちらもよろしくお願いいたします。
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