仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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ALTERー21 夜を襲って

 今日も病院で兄さんのお見舞いをして一日を潰した。

 帰宅して、洗面所で手を洗う。目の前に映る私を見て。いや、鏡を見ると思わずため息をついてしまう。

 兄さんとの時間を、無為な時間だとは思わない。けれど、病気の兄さんを助けるためにライダーになったのに、そのための戦いを私はしていない。

 モンスターとの戦いすら。

 

『ブラコンも大概にしないとですねぇ、新島陽菜ちゃん?』

「アリス……!?」

 

 今の私とは不釣り合いな笑顔を浮かべたアリスが鏡に映っていた。

  

『はーいアリスですよー。と言っても、貴女の知るアリスではありませんが……』

「……?」

『ちょ~っと遠いですけど、モンスターが現れました。あと、ライダーも』

 

 アリスの言葉を聞いて、胸が締め付けられる。 

 自分が何を言われてるか、容易に理解出来たからだ。

 

『そろそろ契約違反でモンスターからパクってされちゃうかもしれませんし~。なにより、叶えたいんでしょう? 願いを。救いたいんでしょう? 病気のお兄さんを』

「そう、だけど……」

『ライダー達が共倒れするのを狙ってます~? 今言いましたけど、契約モンスターとの契約違反でご自身が食べられますよ~? それに、契約モンスターはモンスターを食べることで力をつけるんです。終盤まで隠れ潜んでいて、いざ戦うとなった時に~経験を積んで力を増したライダーとあなた。勝つのはどちらですかね~?』 

 

 明白だった。

 脅迫だった。

 

「……行くよ」

『流石ですぅ~! 戦う決意を見せてくれた陽菜ちゃんには特別に、戦場までアリスがご案内しちゃいますね! さ、お待ちかねの変身シーンをどうぞ!』

 

 金色の熊の顔を象った紋章が描かれたブラウンのデッキを鏡に見せつける。

 アリスは目を細め、口角を上げていた。

 ああ、踊らされている。私はそう思った。

 願いというガラスの靴を履かされて、仮面ライダーというドレスを纏ったシンデレラ。

 願いを叶えるに(王子様)相応しい少女のための装束。

 魔法にかかったようだ。

 けれど、この魔女はシンデレラの魔女のように優しくはない。

 

「変身」

 

 デッキと同じ茶褐色の堅牢な鎧を身に纏う。

 鏡に吸い込まれながら、思う。

 兄さんを救うためならば、踊り続けなければならない。

 ずっと、この舞踏会が終わるまで。

 踊らされているし、踊ることを私達は自分で選んだ。

 踊りをやめることは許されない。

 ああ、だとすれば……私達はシンデレラなどではなく、赤い靴の少女だったのかもしれない。

 

 

 

 

 新島陽菜を見送るアリス。

 彼女は独り、同情気味に呟いた。

 

『ほんと、救いようのない兄を持つと苦労しますね……』

 

 自身もまた、かつて兄がいた。

 並行のアリスであっても、その成り立ちはこの世界のアリスと同じ。

 ただ違ったのは、結果だけ。

 

『もう一人の私も動きましたか。ならば、私も』

 

 変身。

 黒いスーツに身を包み、オルタナティブ・アリスもまた戦場へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 風を切り駆けるスラッシュサイクル。

 これに乗っていると、最初を思い出す。

 ライダーバトルではなく、僕だけが仮面ライダーで、僕だけが戦えばよかった、あの時を。

 

「御剣燐。これがお前のマシンだ」

 

 仮面ライダーツルギとなった頃、宮原士郎の寂れた研究所を訪れた時にスラッシュサイクルと出会った。

 ツルギと同じ純白のマシン。

 その傍らには、制作途中のライドシューターも鎮座していたことを覚えている。

 

「ミラーワールドでの活動時間は9分55秒。この限られた時間の中で、お前は戦わなければならない。そのためにも、このスラッシュサイクルの機動力は不可欠となる。また、ディメンションワールドを抜ける時の体力消耗を抑制する役割も果たす」

 

 理論的なことは分からなかったけれど、とにかく僕はスラッシュサイクルと共にミラーワールドを駆け抜けていた。

 普通のバイクを凌駕するスピードで急行しても、救えない命はあった。

 それでも、駆けた。

 僕のせいで、モンスターに命を奪われてしまう人々を出したくなかったから。

 

「ねえ、キョウカさん」

『はい?』

「なんで、スラッシュサイクルを隠してたの?」 

『それ、は……』

 

 そうだ。

 最初の戦い以降、ライダーバトルが始まってからはスラッシュサイクルをキョウカさんに隠されてしまっていたのだ。

 稀に、スラッシュサイクルの方から駆けつけてくれることもあったけれど。

 キョウカさんは口ごもっている様子だった。

 絶対に答えを知りたいというものでもなかったから、言わないのならそれでも良かった。けれど。

 

『……このバイクは、燐くんを戦いに連れ去ってしまう……もの、だったから……』

 

 ベルトの上に覆い被さるように巻き付くキョウカさんの腕が強張っていた。

 

『いつも、私は……燐くんが走り去って、小さくなっていく背中を見ているだけ、でしたから……』

「……そっか」

 

 そんな僕だったから、キョウカさんをアリスなんて存在にしてしまって、ライダーバトルなんてものを始めさせてしまった。

 彼女に責任はない。

 全部、僕のせいだ。

 だから僕が終わらせる。

 ライダーバトルも、モンスターも全て僕が。

 そうしたら、僕は────。

 

「……だったら、どうして……」

『燐くん……?』

 

 脳裏に浮かぶ、美玲先輩の顔。

 ああ、そうだ。

 だったら、どうして……。

 

『燐くん! ここです!』

「ッ……! うん……!」

 

 思考を切り替えブレーキを踏み、スラッシュサイクルを停める。

 スラッシュサイクルから降り、キョウカさんには残るように伝える。

 戦いに巻き込みたくはない。

 

『心配いりません! たしかにアリスとして権限などは失われましたけど、ライダーとしては常時サバイブなんですから! 他のライダーよりスペックも高いです!』

「でも……」

『燐くんだけ行かせません。もう、絶対に』

 

 大きな瞳で強く訴えられ、駄目と言う前に彼女は変身してしまった。

 桜色と金。花弁の意匠を各部に象り、仮面には花冠を乗せた仮面ライダーブロッサムに。

 

『いきましょう!』

「……うん。キョウカさんも気を付けて」

『はい!』

 

 意気ごむキョウカさんに、僕は胸が痛かった。

 こんな戦いは、僕だけがやればいいことなのに。

 誰も巻き込みたくなんてないのに。

 

『シャアァァ!』

 

 闇夜を跳躍するレイヨウ型モンスター達の群れが目の前に現れ、僕達を睨み付けていた。

 

『燐くん!』

「うん……」

 

【SWORD VENT】

【SWING VENT】

 

 リュウノタチを召喚。キョウカさんは茨の鞭を召喚してアスファルトを打ち付ける。

 鋭い音がモンスター達に恐怖心を与えていた。

 

『数だけいたところで!』

「……」

 

 リュウノタチをだらりと下げながらモンスターの群れへと向かい歩く。

 全部、斬って捨てれば、終わる────。

 最初に飛び込んできた、捻れた刃の剣を持つモンスターをすれ違い様に切り裂き、背後で爆発。

 爆発の炎がモンスター達を照らしている。

 見たか。

 すぐに、お前達もああなるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黄色い仮面ライダーは強かった。

 十羽子さんの防御にも屈しない。

 けれど、十羽子さんの方が……強い。

 

「ウザイんだよ! その盾!」

 

 鋼と鋼のぶつかり合う音。

 黄色のライダーが腕に纏った武器で十羽子さんを殴り付けても、まったく無意味。

 逆に防御されて崩されたところを、十羽子さんが剣で斬りつける。ただ、黄色のライダーも左腕に盾を装備している。スズメバチの顔みたいな強面の盾だ。

 剣を盾で受け止めた黄色のライダーに、私は槍で追い討ちをかける。

 

「ぐっ!?」

 

 盾を持ったまま倒れる黄色のライダーに追撃。

 ノコギリのような刃で突いて、突いて、突いて……。

 

「ウザイんだよ!」

 

 地面を転げて回避する黄色のライダーはそう叫ぶと、盾を突き出した。

 盾の下部がスズメバチの顎のように開き、槍の穂先に噛みつく。咄嗟のことに身動きが取れなくなった私に、黄色のライダーが起き上がって殴り付ける。

 

「たあっ!」

「きゃ!?」

 

 今度は私が地面に伏せた。

 槍も手放してしまい、迫る敵に後退ることしか出来なかった。

 スズメバチと同じ黄色と黒の警戒色。

 凶暴な仮面。

 真っ直ぐ向けられる殺意。

 恐怖でしかなかった。

 強張る身体に、死だけが迫っている。

 

「真央さん……!」

 

 エクスシアが私の前に躍り出て、剣を振るって黄色のライダーを近付けなかった。

 

「チッ……ッ!?」

 

 黄色のライダーが咄嗟に飛び退くと、巨大な手裏剣が地面に突き刺さった。

 

「外したか……」

 

 街灯の上、風に靡くマフラーと闇夜に溶け込む暗緑のライダーがいた。

 さながら、忍者。

 

「あいつは……!」

 

 珍しく、十羽子さんの言葉に怒りが混ざっていた。

 忍者が持つような直刀を逆手に構え、身軽に地面へと降り立つと軽くステップを踏んでからこちらへと向かって駆け出してくる。

 槍を遠くに飛ばされてしまって武器を持たない私は焦った。

 すぐにカードをデッキから取り出して、何か武器を召喚しなければ。

 前からは忍者、後ろからはスズメバチ。

 十羽子さんと二人、挟まれてしまった。

 

「はっ!」

 

 忍者は地面を蹴り、勢いをつけて更に加速。迫る忍者は直刀をこちらへと向けて……。

 

「だあっ!!!」

「なっ!?」

 

 突然だった、そのライダーが現れたのは。

 茶色の、熊のようなライダーが突然私達の眼前に現れて、忍者ライダーを叩き落とした。

 

「新島……!? どこから!」

「戦えぇ!!!」

 

 熊のライダーは忍者ライダーを優先的に狙っているようだった。

 状況は混沌としている。

 十羽子さんはスズメバチのライダーと戦っている。

 私も、戦わないと……。

 戦えば、願いが叶う、はずだから。

 もう、二人も殺してしまったのだから。

 戦って、願いを叶えないと!

 

【SWORD VENT】

 

「はあぁぁぁ!!!」

 

 サメのヒレのようなナイフでスズメバチのライダーに斬りかかる。

 そうだ、出来るよ私。最初の人だって、北さんだって、これで殺したんだから!

 

「真央さん……」

「チィッ! 退け!」

 

 十羽子さんを蹴り飛ばし、私を殴り飛ばしたスズメバチのライダーはデッキからカードを引いた。

 黄金の翼が描かれたカード。

 あれは、たしか、御剣君も持ってた……。

 違うのは、翼の向きと背景。

 赤黒い液体が流れ落ちるように蠢いている。

 すぐにそれが、血だと分かった。

 スズメバチのライダーは左手でホルスターに差していた剣型の召喚機を逆手で抜いて、胸元で構える。

 すると、剣型の召喚機が鋭い流線型の盾型に変化して、カードを盾に装填した。

 

【SURVIVE】

 

 鮮血に包まれたスズメバチのライダー。

 黄色と黒の装甲には金色と血の赤が新たに彩られ、胸の中央からは赤いクリアーな装甲が両肩へと突き出て、より刺々しい印象の姿に。

 仮面も目元から赤いラインが伸びて、血涙を流しているようだった。

 

「オメェら全員、血祭りにしてやる」

 

 殺気沸き立つ彼女に、私はどこかもの悲しさを感じていた。

 私達はきっと、誰もが彼女のように……血を流しているからだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 燐の部屋の扉をノックしても返事がなかった。

 入ってみると燐の姿はなく、アリスもいない様子。

 ……二人で、戦いに行ったのだろうか。

 私を差し置いて?

 何かあったのならば私も連れていってほしい。私だってライダーで、力になれるというのに。

 燐のベッドに腰掛け、身体を倒す。

 だんだん、ムカついてきた。

 

「……燐のバカ」

 

 アリスと二人きりなんて許さない。

 燐の恋人は私。燐が選んだのは私。アリスじゃない。

 だったら、もっとそれらしく振る舞うべきじゃないだろうか。

 私は燐のことを愛している。

 燐だって、私のことを愛してくれている……はず。

 はずって、なに?

 信じさせてよ、燐のこと……。

 愛してるんだって、言ってよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モンスターの群れを追いながら戦っていたところ、ライダー同士の戦闘が行われているのを見つけた。

 数は五人。

 

「樹さんと瀬那さん、鐵宮の仲間だったやつと、前に戦った赤いのも……。それに、あれは……!」

 

 あれは、間違いない。

 真央さんだ。

 美也さんから生きていたことは聞いた。けれど、彼女は……。

 

「キョウカさん、モンスターを頼める?」

『これぐらいならお安い御用です!』

「僕はあっちのライダー達を止めてくる! こっちをお願い!」

『分かりました! 燐くんもお気を付けて!』

「うん!」

 

 モンスター達をキョウカさんに任せ、ライダー達に向かって走る。

 瀬那さんはサバイブを使っている。

 こっちも使わないとまずいか。

 

【SURVIVE】

 

 嵐を纏い、風の力で加速。

 真央さんに殴りかかる瀬那さんの拳を受け止める。

 

「はっ……!」

「御剣、お前! 邪魔すんじゃねぇ!」

「やらせない……!」

 

 握り締めた瀬那さんの拳を突き放し、戦況を確認。

 樹さんはあっちの一人と戦闘中。だけど、動きから見て樹さん優勢。

 こっちは真央さんと赤いライダーが組んでいる。けれど、サバイブを使った瀬那さんには及ばないだろう。

 

「邪魔すんなよ……人間でも守ってろよ御剣!」

「あなただって、他のライダーだって人間だ!」

 

 殴りかかる瀬那さんの攻撃を躱し、止める。

 仮面の内側から睨み合い、意志をぶつけあう。

 

「こんな戦いに何の意味がある!」

「願いを叶える! それだけだ!」

「なんでそんなことを信じる!」

「信じる? 違うよ……縋ってんだよ! ここにいるお前以外みんな!」

「くっ……!」

 

 軽く蹴り飛ばされ、左腕のバイザーが殴りかかってくる。

 咄嗟にスラッシュバイザーツバイを抜刀し、打ち返す。

 後退した瀬那さんは鼻で笑い、言った。

 

「そうだよ、お前もライダーなんだろ!」

 

 迫る瀬那さんに構えるが、背後からの殺気に振り返った。

 剣を手に、真央さんは僕を突き刺そうとしていた。

 身をよじって回避すると、そこには赤いライダーが待ち受けていた。

 剣が振り下ろされ、スラッシュバイザーツバイで弾き返す。

 

「真央さん、なんで!」

「私は……願いを叶えるんだ!」

 

 どうして、そんな。

 やはり、真央さんが北さんを刺したのか。

 どうして、どうして!

 

 

 

 

 

 

 

 

 茨の鞭でモンスター達をまとめて縛り上げ、倒すだけの簡単なお仕事。

 この程度なら、私一人で大丈夫。

 終わったなら燐くんのことを助けに行かないと。

 燐くんは強いかもしれないですけど、一人にはさせたくないから。

 

『雑魚相手にイキるなんて、無様ですねぇ。そういうところですよ、もう一人の私』

『お前は……しつこいですね。もう一人の私』

 

 街灯に寄りかかっていたブロッサムに似た黒い戦士。

 オルタナティブ・アリス。

 もう一人の私。

 並行の私。

 勝利した、私。

 

『負け犬は負け犬らしく地べたに這いつくばって死ぬのがお似合いですよ』

『そんなに、私が燐くんと一緒にいることが気に食わないんですか?』

『……そんなわけ、ありません』

『めちゃくちゃ図星って顔してますけど。あなた、自分をライダーバトルに勝利した私とか言ってましたけど……勝ったなら、なんでこんなことしてるんです? 勝利の美酒でも飲んで溺れてたらどうです? それとも~本当は勝ってないんじゃないですか~?』

 

 次の瞬間、茨の鞭が飛んできた。

 私も鞭を振るい、相手の鞭を弾き飛ばして今度は逆にこちらが攻撃。しかし、相手も同じように防御してカウンター。

 埒があかない……!

 こうなったら、こちらから仕掛けるしかありません!

 

『はあぁぁぁ!!!』

『はぁ……失望させないでください私』

 

 鞭を振るのを止めたオルタナティブ・アリス。すると、目の前に花弁が降り注いできて……爆ぜた。

 

『きゃあっ!?』

『短絡的ですね~。学習してください、私。旧式じゃ新型には敵いませんよ~』

『っ……やってみなければ、分かりません!』

『はぁ……もう分からせたと思っていましたが、学習能力がないようなのでとにかく叩き込んであげます』

 

 鞭をベルトに納めたオルタナティブ・アリスは徒手で私を攻撃してきた。

 負けてたまるか……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「らあっ!」

「くっ!」

 

 真央さんだけに構ってもいられない。

 瀬那さんと、赤いライダーも僕を優先的に攻撃してくる。

 赤いライダーの剣を避け、蹴り飛ばし。

 瀬那さんの拳を捌き、背後に回ると同時に背中へと裏拳を叩き込む。

 続いて斬りかかる真央さんが迫る。スラッシュバイザーツバイを地面に突き立て、白刃取りして真央さんの手から武器を奪い、投げ捨てた。

 

「どうしてですか真央さん。あなたも、一緒にこの戦いを止めようとしてくれたじゃないですか」

「最初から無理だったんだよ……人を殺した私には……北さんも私が殺した!」

 

 ……そうか。

 真央さんは、北さんが死んだものと思って……。

 

「話してる暇があんのかよ!」

「チッ……!」

 

 瀬那さんが邪魔をする。

 くそ、これじゃあ……!

 

「はっ!」

 

 僕と瀬那さんの間に割って入ってきたのは、甲賀。樹さんだった。

 樹さんは僕には背を向け、瀬那さんと赤いライダーに向かって直刀を構えていた。

 

「樹さん……」

「今あんたに死なれるとアタシが困る。味方するわけじゃないけど、味方する」

「……ありがとう、樹さん。でも、気をつけて」

「ま、アテにはしないで。二人、いや三人相手はキツイから」

 

 樹さんが戦っていた熊のライダーも加わり、三対一。

 なんとか、真央さんを説得して早く樹さんを助けるしかない。

 

「真央さん、北さんは生きている」

「え……」

「本当です。まだ、目を覚まさないけど、北さんならきっと、きっと大丈夫ですから! だから……戻ってきてください」

 

 真央さんは動揺していた。

 自分が殺したと思っていた相手が生きていると分かれば、そうもなるだろう。

 真央さんだって、殺したくて殺したわけじゃないはずだ。

 きっと、まだやり直せるはず。

 

「北さんが、生きてる……?」

「ええ。だから……」

「……無理です」

「え……」

「生きてるだなんて、そんな……もしも北さんが目を覚ましたら、私のことを赦すはずがないです!」

「そんな……! 真央さん!」

「私は! あなた達とは違うんです! 人をこの手で殺したんです! ……だからぁ!」

 

 真央さんはがむしゃらに殴りかかってきた。

 癇癪を起こした、子供のようだ。

 

「もう許されないんです! だったら、だったらぁ! 願いを叶えるために戦ってしまった方がいいんですっ!」

「真央さん……!」

 

 簡単に受け止めた拳には、真央さんの強い想いが籠められていた。

 僕なんかには計り知れないほどの、彼女なりの想いが。

 彼女もまた、ライダーバトルに……僕のせいで、こんなことに……。

 

「ぐっ!」

「真央さん、離れてください」

 

【FINAL VENT】

 

 赤いライダーがファイナルベントを発動していた。

 嫌な予感がする。

 咄嗟に真央さんを突き飛ばすと、天使の羽を生やしたような鎧を纏った赤い豹が出現し僕達の周囲を駆け回ると、バリアのようなものに覆われてしまった。

 それも、五重に。

 

「なんだよこれ! らぁっ! ッ!?」

「閉じ込めて、どうする気……!」

 

 瀬那さんが殴り付けるが、バリアには傷ひとつつかない。

 樹さんと熊のライダーもそれぞれの武器で攻撃するも全く通用しなかった。

 

「それでは皆さんを、神の下へお連れいたします」

 

 赤いライダーがそう言うと、夜空が白い光を放った。

 

「神の祝福を」

 

 赤いライダーは剣で十字を切った。

 空は更に輝きを増して、昼のよう。

 眩い光には神々しさを感じるが、何よりも本能が危険信号を発していた。

 光る天から降り注ぐ光。

 僕達を焼き尽くそうとする死の光。

 

「やっばいなぁ……これ」

「くそっ!」

「兄さん……」

「……ッ!」

 

 地面に突き刺していたスラッシュバイザーツバイを手に取った。

 デッキからカードを抜き、鞘のカード挿入口にカードを装填。

 やれる、僕なら。

 

【FINAL VENT】

 

 スラッシュバイザーツバイの周囲を黄金の刃、リュウノゲキソウが回転。

 嵐を纏う刃を構え、あの光を睨む。

 光……全て真白に溶けていくような光。

 あんなもののために、僕は死ねない。

 誰も死なせない。

 

「ぜあぁぁぁぁッ!!!!!!」

 

 放つ竜巻が光と激突。

 衝撃で、僕らを閉じ込めていたバリアがひび割れ、崩壊。

 拮抗していた光と竜巻だったが、竜巻が光を飲み込み、竜巻が夜空を龍のように駆け上がっていき消滅。

 夜が取り戻された青の中に、ライダー達は呆然と立っていた。

 

「……マジ死んだかと思った」

「真央さん達は……」

 

 真央さんと赤いライダーの姿は見えなかった。

 撤退したのだろう。

 

「真央さん……」

「おい、何呆けてんだよ」

 

 二人がいなくなったとて、ライダーは四人いる。

 瀬那さんは、戦う気でいた。

 拳を構え、駆け出す寸前。瀬那さんは膝をつき、サバイブは解除された。

 

「くそ、が……」

「……チャンス~とは、思わないから」

 

 樹さんが僕に目を向け言った。

 

「……あなたも、これ以上の戦いはやめてください」

「でも……!」

 

 熊のライダーはやる気のようだったが、樹さんが口添えしてくれた。

 

「新島やめときな。あんたじゃツルギには勝てない。せっかく拾った命、無駄にはしない方がいいと思うけど」

「……くっ!」

 

 樹さんがひとまず彼女を抑えてくれた。

 あとは、キョウカさんと合流して……。

 

『きゃあぁぁ!!!』

「ッ!? キョウカさん!」

 

 キョウカさんが悲鳴と共に火花を散らして吹き飛ばされていた。

 あのアリスの仕業か!

 

『あらあら、燐くんこんばんは。ちょっと怖いですよ~剣なんて向けて。私達、友達だったじゃないですか』

「キョウカさんから離れろ」 

『えー? 私だって宮原鏡華だったのに。ひどいです差別です』

 

 風が暴れた。

 突風に乗り、アリスへと斬りかかる。

 

『きゃっ! もうひどいです! でも~私は優しいので許しちゃいます。それではまた会いましょう、燐くん』

 

 アリスは撤退を選択すると花弁となって消え去った。

 それと同時に僕達もミラーワールドにいられる制限時間が訪れ、現実世界へと戻ることを余儀なくされた。

 

 

 

 

「御剣テメェ邪魔しやがって!」

 

 ミラーワールドを出て早々、瀬那さんが胸倉を掴み上げてきた。

 迫力とは裏腹に、手の力は弱々しく簡単に振りほどくと瀬那さんはそれ以上掴みかかってはこなかった。

 さっきも膝をついていたし、体力が限界なのだろう。

 

「そういうのはミラーワールドの中だけにしたら?」

「んだと……!」

「キャンキャン吠えないでよ。うるさいなぁ」

「樹さん、その辺に……」

 

 樹さんを窘めようとした時だった。

 誰かの腹の虫が盛大に鳴いた。

 樹さんと顔を見合せ、互いに首を横に振る。

 そうして、樹さんと共に瀬那さんの方に目を向けると、瀬那さんは俯いていたが、ほんのりと頬と耳が赤かった。

 

 そうして、何故か近くのラーメン屋に三人で入ることに。

 

「ラーメンとチャーハンのセット。あと餃子12個」

「豚まんと胡麻団子で」

「はいよー! お兄さんは?」

「あ、僕は大丈夫です……」

「本当に?」

「大丈夫なので……」

 

 店主の奥さんだろうか。おばちゃんが少ししつこく僕は注文しないのか聞いてきた。

 もう夕飯は食べたし、あまり食べたくないのだ。

 それに……。

 

「ゴチになりまーす」

「礼は言わねぇ」

 

 何故か僕の奢りということになっていた。

 財布はキョウカさんが持ってきてくれるらしい。そんなこと手伝わなくていいのに。

 

「ま、そこの行き倒れになりそうなのはともかくとして、アタシは奢られる権利があるよね。加勢してあげたんだし」

「それはそうですけど」

「でしょ? そっちのハチ女に奢るのは完全にあんたの善意」

「……瀬那さん、何にも食べてなかったんですか?」

「……廃棄されたコンビニ弁当を無理矢理流し込んでた」

「うわ、そんなことする普通?」

「るっせぇな、ぶっとばすぞ」

 

 お店の中で喧嘩はやめてほしい。

 

「茜さんと別れた途端にこれか……」

「え、なにレズカップル?」

「ちげぇよ。手組んでたライダーだよ」

「あ~そういえばアンタつるんでたね」 

 

 樹さんはどうにもライダーに詳しい。

 そういえばと、気になったことを樹さんに訊ねた。

 

「樹さん。あの、熊みたいなライダーって……」

「ああ、新島ね。鐵宮の下についてたけど、どうもね。やる気があるんだかないんだか」

「やる気がないなら消えろって伝えとけ」

「なんでアタシがそんなこと……」

 

 会話をしている間に頼んでいたものが運ばれてきたので一瞬黙る。

 結構繁盛している店のようで、客は多く賑わっていて、つけられているテレビの音量が大きいため普通に会話する分には問題なさそうではある。

 瀬那さんのラーメンとチャーハン、樹さんの豚まんと胡麻団子がテーブルに置かれると、僕の目の前に頼んでもいないチャーシュー丼が置かれた。

 

「サービスね!」

「え、えぇ……」

「餃子はもうちょっと待っててネー!」

 

 元気のいいおばちゃんにそう言われては仕方がない。

 丼とはいえ、普通のご飯茶碗サイズだしこれならまだ食べられるか……。

 

「よかったじゃん」

「う、うん……」

「いらないなら食うぞ」

「どんだけ食うつもりアンタ」

 

 億劫だけど割り箸を手に取り、賽の目に切られたチャーシューの一欠片を口に運ぶ。

 斜め向かいでは瀬那さんが熱そうなラーメンを勢いよく啜っている。

 隣では、コンビニで売られる肉まんよりふた回りは大きそうな豚まんを頬張る樹さんがいる。

 

「なんだ、そのチマチマとした食い方は。エビか」

「エビって……」 

「夕飯食べた?」

「食べたけど……だからだよチマチマ食べてるの」

「マジか。アタシ姫んとこで夕飯ご馳走になったけど、流石に戦った後は小腹が空くわ」 

 

 ひ、姫ちゃんのところでご馳走になって更に今それを食べるの……。

 

「だからそんな絹糸みたいなんだぞ、お前」

 

 最早もやしを通り越して絹糸になってしまった。

 

「食欲無いならさ、これでしょ」

 

 樹さんがそう言うと、テーブルの上に置かれているきゅうりの漬物が入った瓶を僕の目の前にスライドさせてきた。

 

「青かっぱ~」

「あ、青かっぱ……?」

「こういう液体に漬かってるやつのこと。ご飯に合うから、ほら」

「あ、ちょっと……」

 

 樹さんはチャーシュー丼の上に液がヒタヒタのきゅうりを問答無用で乗せてきた。

 液体がついたご飯の白いところが、緑色に染まっている……。

 

「あ、うまい」

 

 チャーシュー丼の上からきゅうりを一個取って口に運んだ瀬那さんが無意識そうに呟いていた。

 なんとなくだけど、瀬那さんが言うなら美味しいのには間違いなさそう。

 ひとまず、ひとつだけ……。

 

「い、いただきます……」

 

 しょ、しょっぱい……!

 想像以上に濃いぞ!

 口の中をリセットするため、慌てて水を流し込む。

 

「ね、ご飯に合うでしょこれ」

「合うだろうけど……! もっとガテン系の人っていうか、肉体労働した人が食べるやつだよ!」

「それ言ったらさ、ライダーなんてめちゃくちゃ肉体労働だと思うけど」

 

 ……たしかに?

 あんなに動き回って。しかも、普段しないようなことだし、命懸けだというのに。

 ……ああ、嫌だな。

 こんなことで気付かされた。

 命を懸けた殺し合いが、僕の中で日常になりつつある。

 こんなこと、おかしいのに。

 前までの僕は、普通の高校生で、勉強して、友達と遊んで、部活に精を出していたのに。

 全てが、遠い過去のことのようだ。

 

「そういえば、まさか咲洲と付き合ってるとは思わなかった」

「え……」

 

 それは、自分自身でも思っていることでもあった。

 美玲先輩は、どうして僕なんかを選んだのか。

 僕なんかが、美玲先輩と……。

 僕なんかが、美玲先輩を……。

 

「ちょっとトイレに」

 

 席を立って、狭い古びたトイレに。

 僕は、便器に向かって胃の中の物を吐き出した。

 

 

 

 

 

 何故、わざわざ私が燐くんのお財布を取りに行ったかというと。

 もっと言えば、何故あの面子とラーメン屋に入ることを許したかというと。

 それは当然、燐くんに食べてほしかったからです。

 私を食べて的なジョークではなく、真剣に。

 最近の燐くんには生気というものが欠けていると思うのです。

 食も細くなってきているようですし、少しでもお腹に入れてほしいと思ってのこと。

 ラーメン屋さんに入って何も食べない男子高校生なんていないはず!

 そう信じています。

 そんなこんなで燐くんのお部屋に到着……と同時に素で声が出た。

 

『うわっ』

「……なによ」

 

 燐くんのベッドの上、不貞腐れた顔で寝転んでいる美玲ちゃんがいた。

 うらやましい。

 間違えました、けしからんです。

 

『いくら恋人でもそんな顔でベッドを占領するのはどうなんですかねぇー?』

「……戦いに、行ってたの」

『ええ、そうですけど』

「……なんで、私じゃないの」

 

 これは……面倒くさいモードに入っていますねぇ。

 

『燐くんは美玲ちゃんを戦いから遠ざけたいんですよ』 

「あんたは良くて、私は戦いに連れていかないんだ」

『も~気持ちは分かりますけど! 燐くんの気持ちだって理解してください! 美玲ちゃんが逆の立場だって、同じことすると思いますよ』

 

 そう言うと、美玲ちゃんは少しの間だけ口を閉ざした。

 分かってくれたみたいです。

 

「……燐は。帰ってきたんじゃないの」

『燐くんなら片月瀬那と黒峰樹と一緒にラーメンです』

「は?」

 

 今の一瞬で、しくじった! 

 そう確信した。

 なのですぐにトンズラすることにします~!

 契約モンスターの蔦を使って机の引き出しから燐くんの財布を取ってランナウェイ!

 さよなら!

 そして燐くんは待っていてください!

 ラーメンでも食べながら!

 帰ったら面倒なことになりそうですけど!

 

 

 

 

 

 

 

 チャーシュー丼青かっぱのせは瀬那さんの胃に入った。

 トイレから戻った僕を樹さんが怪訝な目で見ていたけれど、気付かれていないことを願おう。

 ただともかく、このお店には何の罪もないのだけれど二千円ほどを失い吐いたお店ということもあるので今後近づくことはないだろう。

 帰りは再びミラーワールドをスラッシュサイクルで走って帰った。

 母さんや父さんに実は夜に出歩いてラーメン屋に行ってましたなんてことを悟られないように、部屋の鏡から現実世界に戻る。

 すると、部屋には美玲先輩がいた。

 

「あ……美玲、先輩……」

「おかえり」

「は、はい……」

 

 それだけ言うと、美玲先輩は部屋から出ていった。

 すると入れ替わるように母さんが来て、お風呂が空いたからと伝えてきたので汗を流して、身体を休ませた。

 あまり休めた気はしなかったけれど。

 そうしてお風呂から出て、少し早いけど眠ることにした。

 今日はもう、何もしたくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何かの音で目が覚めた。

 カーテンの僅かな隙間から覗く窓はまだ朝には遠そうな色をしていた。

 疲れすぎて、逆に眠れないというものだろうか。

 いい、瞼を閉ざそう。

 眠っていたいのだ。

 出来ることなら、ずっと。

 だけど……。

 

「燐……」

 

 冷えた指先が、僕の前髪を撫でた。

 

「美玲、先輩……?」

 

 焦点が少しずつ合っていく。

 闇に慣れた目が、白い輪郭を捉えていく。

 美玲先輩が、僕の顔を覗きこんでいた。

 なんで、どうして、こんな時間に。

 だんだんと鮮明になっていく思考が、胸の鼓動を早めた。

 目の前にいるのは、美しい女だ。

 そんな女が、こんな時間に、男の寝床に現れる理由が分からないほど、僕は無垢ではなかった。

 白い手が頬を撫でる。 

 そのまま手は頬から首筋へと流れ、終いにはかけ布団を退かした。

 そうして美玲先輩が身体を重ねてきた。

 

「ねえ、燐」

 

 耳許で囁かれた彼女の声しか、世界に音はなかった。

  暗闇の中だから分からなかった。

 けれど、こうして身体を重ねたことで分かった。

 彼女は、衣服を纏っていたけれど、下着の類いをつけていないようだった。

 胸元に密着させられた彼女の胸の柔らかさを、彼女が身動ぎする度に感じる。

 

「抱いて」

 

 脳髄から爪先まで雷で打たれたかのようだった。 

 ただ、身体が動いていた。 

 彼女の願いを叶えようと。

 両腕が彼女を抱き締めようとしている。

 こんな、僕なんかが。

 

「……あ……」

「燐……?」

「……ごめん、なさい……」

「燐……どうしたの……?」

「ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 

 ただ、涙が溢れていた。

 もう、何も分からなかった。

 怖かった?

 それは違う。

 いや、ある意味正解か。

 僕なんかが、彼女の身体を穢すということが、嫌だった。




次回 仮面ライダーツルギ

「……謝ろう」
『美玲ちゃんと何かありましたか?』
「あっ……。てへぺろ!」
「ところでさ~。その……シない?」

 運命の叫び、願いの果てに────。



ADVENTCARD ARCHIVES
FINAL VENT(エクスシア)
グランドクロス 7000AP

エクスシアの契約モンスター「シルトパンサー」が展開した五層の結界に敵を閉じ込め、エクスシアが十字を切ることで上空から結界内に向けてビームを放つ。
結界は5000GP相当の防御力を誇り、並大抵の攻撃では結界を破ることは出来ない。

苦しむ者を神の下へ導き救済する天の光。
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