時を停めるのにも体力がいる。
自分史上最長の時間停止を行なって分かったことは、あまり長時間の時間停止はやらない方がいいということ。
時が止まっている中で長時間というのもおかしな話なのだが、体感として実際そうなのだし動いている私にとってすれば私の時間は止まっていない……はずなのだから。
とにかく、小難しいことを考えるのは面倒だ。
やはり、頭を無にして闘う方が性に合っている。
まったく考えていないわけではないから頭を無にしてと言うのも違うが、闘っている時は頭がすっきりとして羽のように軽くなる。
今、脳みそが小さいから元から頭軽いだろとか思った奴は殴っちゃうぞ。
闘いは何かこの身体にこびり付いた余分なものを削ぎ落としてくれるようで、気持ちがいい。
無駄がなくなる。
原初へと還る。
社会、文明とは逆行した野性が滾ることでしか私は満足というものを得られない。
そんな獣のような闘争の世界こそが私の望み。
最近はなかなか満足いく闘いが出来ていない。
何度も闘って、これから闘う氷梨麗美という奴。積極的に闘う姿勢はいいけれど、闘争心とは違うところで闘っているものだから私からすると気に食わない。
まあ、向こうから真っ向勝負で挑んできてくれる分にはいいのだけれど。
ライダーバトルが始まったばかりの頃は良かった。
みんな同じスタートラインに立って、とにかく願いを懸けて闘って闘って闘って。
だけど、それは最初のうちだけ。
まず、考えなしに闘いまくった奴等が真っ先に消えていった。
次に消えたのはライダーになったはいいけれど、闘いが怖い奥手な子達。
契約モンスターにせっつかれてミラーワールドに来たはいいものの、最初期の激戦を生き残ったライダー達に蹴散らされた。
そうして全体的な闘いへの疲労感というのもあったように思うが、ライダー達は頭を使うようになった。
どうすれば生き残れるか。
どうすれば最後の一人になれるか。
ただ闘うだけではこの先が厳しいと、多くのライダーが判断してライダーバトルが停滞期(安定期とも言えるか)に入った。
停滞?
そんなものを私は望まない。
停滞とは即ち衰退。
闘え、闘え、闘え。
私と闘え。
渇きは血によってしか潤せず、飢えは闘争によってしか満たされず。
どうして私はこうなのだろうと考えたこともあったが、飢えてしまったから変なことを考えたのだとすぐにつまらない思考を放棄した。
そんな時に出会った、あの純白のライダー。ツルギに私はときめいたと言っていいだろう。
あの子はいい。
私とあり様が似ている。
いや、違う。
私の目指す姿とも言えた。
戦闘時の全ての無駄を削ぎ落とし洗練された姿に私は興奮を覚えた。
シンプルなものは分かりやすく、美しい。
余分なものを切り落とし、何か一点に追究したものは美しい。私はツルギに日本刀のような美しさを見た。日本刀には芸術品としての側面もある? そんなのは詭弁もいいところだ。
刀は斬る。命を奪うために。殺人を追究したものだから美しいのだ。本当に、彼は美しい。
ただ悲しいかな、彼はライダーバトルを止めるために闘っている。私とは主義主張が正反対。
そして命を奪おうともしない。
彼の闘いは無駄を削ぎ落とした果てに、最後の無駄を残す。
相手を生かしてしまう。
どうにかして、本気で殺しにかかってくれないかなぁ。
もしも彼が私と本気で殺し合い、闘ってくれたならきっと……私は彼に惚れてしまう。
アイドルオタクがアイドルにきゃーきゃー言って団扇を振るように、私と殺し合って! とツルギに向かって拳を振るうだろう。
彼の鮮烈なる白刃の一太刀を浴びたいし、私の拳で何度も彼を殴りたい。
あんな人畜無害そうな透明感のある顔をしておいて、仮面を纏えば刀のような鋭い眼をして、きっと世界の誰よりも殺人の才能があるはずだ。彼が本気でかかったら、私は敵わないだろう。脳天から真っ二つになるか、上半身と下半身がさよならするか、袈裟に斬られて門松の竹みたいになるか。
闘いをやめろという彼のことが私は嫌いだ。そして、余分なものを斬り捨て闘う彼のことを愛してる。
「キミの相棒君、なんなんだろうねぇ」
私を乗せて飛ぶドラグスラッシャーに語りかけるも返事はない。
何をどうすればあの境地に至れるのか。
余分なものを削ぎ落とした者同士が闘った時、その果てに何があるのかを知りたい。
純粋と純粋が殺し合った時に見えてくるものがきっとあるはず。
「だからその前に、余分な物は削ぎ落とさないとネ!」
ドラグスラッシャーが放った斬撃波が糸に包まれた廃墟の壁を斬り、そこから突撃しろというのだろう。
あい分かったとドラグスラッシャーの背を蹴り、砲弾のように切り開かれた壁の穴へと向かう。
「サンキュードラグスラッシャー! バイチュー!」
空中で別れを告げるとドラグスラッシャーは旋回し、即座に彼のもとへ向かった。私の相棒に負けず劣らずのいい契約モンスターだ。
廃墟の中に侵入すると、なにかとてもタイミングが良かったらしい。
着地の衝撃をいなしながら忍者のようなライダー。甲賀とか言ったっけ? に向かって放たれた鉤爪を弾き飛ばす。
それと同時に永遠闘諍の効果を切り、時間が動き出す。
全身に乳酸が溜まったかのような疲労感がドッと押し寄せてくるが、努めて明るく元気な挨拶。挨拶は大事なのだ。
「やっほー。わたしもまーぜーてー!」
気軽に声をかけて闘いに混ざる。
ウィドゥ。未亡人とか、そんな意味だった気がする。
たしかに、全身黒くて仮面にベールまでして喪服みたいだ。
甲賀と適当に言葉を交わし、とにかくウィドゥとの闘い方を模索する。こっちは結構な疲労をしている。甲賀の援護は期待していいものか。いや、ないものとして計算した方が現実的。
打てば打つほど力を増すウィドゥは氷梨麗美の性癖と合わさって凶悪だ。
一撃で仕留めるのが正解なのだろう。
それが出来ればの話だけれど。
無駄な攻撃はしない。少ない手数で追い詰めるしかない。詰め将棋のように、最善の手を打ち続けるしかないとウィドゥの攻撃を捌きながら攻撃の機会を伺っていた時だった。
背後から突き刺すような殺気。
私に向けてではない。
では、誰に。
ウィドゥを弾き飛ばし、振り向くとそこには……。
斬り飛ばされた右腕と膝から崩れる甲賀。
そして、オルタナティブ・ウィドゥの姿。
「え……!?」
なんで、ウィドゥが。さっき突き飛ばしたはずだと視線を戻すと、よろめきながらウィドゥが立ち上がっていた。
「もう一人の、ウィドゥ……! そんなの聞いてないぜ私!」
トリックベントを使われたわけもない。
ならば、今度はなんだ。
通路で前後をウィドゥに挟まれる。
またよく分からない現象が起きている。最近こんなことばっかりだ。
「そんな貧乏くじを引く方だったかなぁー……!」
黒峰樹とは奇妙な縁で結ばれていたようにも思う。
幼い頃、私はピアノを習いたかった。
かわいい服を着て、楽しそうにピアノを弾く同年代の女の子達が羨ましかった。
けれど、我が家は剣道の道場で剣道一家。
影守の家に生まれたならば、剣道を覚えるべし。
人が呼吸するのと同じくらい当たり前のように剣道をする。そんな家に生まれてピアノをやりたいとは言えなかった。
幸い、私には人並以上の剣道の才能があった。
男子にだって、年上にだって勝てた。勝てば褒めてもらえる。褒めてもらうのは、なんだって嬉しい。だからきっと、剣道のことを嫌いにならず続けることが出来たと思う。
でも、やっぱり。
ずっと竹刀を握ってる手よりも、鍵盤の上で軽やかに舞うように運ばれる細い指を見て、そっちの方が綺麗だと思った。
小学生の時、ピアノを習っている友達に誘われて演奏会に行ったことがある。
その友達の家に遊びに行くと、いつもピアノを弾かせてもらっていたからだろう。
そこで、私は見た。否、聴いたのだ。
黒峰樹という天才の音を。
他の子達とはレベル、次元が違う。ピアノからあんな音が鳴るのかとすら思った。
圧倒的、美。
人はあそこまで美しくなれるのかと、聴き惚れた。
私はあんなに美しくはない。
美しいものである。
美也という名前が重かった私には彼女にこそ、この名が相応しいとすら思った。
黒峰樹。
あなたは美しいものである。
それが何の因果か、近しい時期に私達は同じ右腕に傷を負った。
私達は奪われたのだ。
廃墟の一室で子供達を宥めながらここからの脱出方法を模索していた。
黒峰樹が戦闘に入って一分経った頃、私は立ち上がっていた。
「美也?」
「やっぱり、一人であいつの相手は危険だよ。ここから抜け出すにしても、あいつをどうにかしないことにはどうにもならないし」
真里亞さんに子供達を押し付けるようで悪いけど、私も戦おう。
いま戦わなければ、みんな生き残れない。
じーっとしてても、どうにもならなそうだし。剣道をやってきた身で言うのもなんだけれど、私はあまり我慢強くないのだ。
部屋を飛び出し、割れた鏡の破片にデッキを映して変身。
仮面ライダーグリムとなって、ミラーワールドへと飛び込んでいく。
その先で、目にしたものは。
切断され、床を転がる仮面ライダー甲賀の。黒峰樹の右腕であった。
痛みは感じなかった。
そんなもの、どうでもいい。
「あ……ああ……腕、アタシの腕! 腕!」
なんで、どうして、意味が分からない。
腕は身体にくっついているものだ。それが切り離されるなんてことはない。
じゃあこの腕はなに?
誰の腕?
アタシの腕。
誰の腕?
アタシの腕。
こんなこと、あり得ない。何かの間違いだ。
「ぁあ……あぁ……は、はぁ……」
息が乱れて左手も震えている。
それでも、早く、早く、くっつけないと。治さないと、アタシの右腕。
この肘の先から溢れ出ている赤くて少し粘るような液体はきっと身体が右腕を早くくっつけろと出してくれた接着剤のようなものだろう。だから早く、くっつけないと。
「馬鹿! 何してるの!」
誰かが何かを言っている。
いつの間にか、目の前に赤い仮面ライダーが立っていた。黒い奴と戦っているみたいだった。
こいつ、こいつだ。
この黒い奴がアタシの右腕を!
「ぶっ殺……」
真っ黒になった。
全部。
夜みたい、だ。
ミラーワールドに辿り着いた瞬間、甲賀の右腕が切断される場面に直面した。
やったのは、オルタナティブ・ウィドゥだ。
だけど、もう一人オルタナティブ・ウィドゥがいる。甲賀のようにトリックベントでも使ったのだろうか。
いや、それにしては迫力が満点だ。トリックベントで発生した分身ではない。
そうして、私は気づいた。
二人のオルタナティブ・ウィドゥは鏡写しだと。
装備の左右が逆だ。
甲賀の右腕を切断したオルタナティブ・ウィドゥは鉤爪を左手に装備しているが、向こうの……どこから現れたのか知らない仮面ライダーレイダーサバイブと戦っている方は右手に鉤爪を装備していた。
「あんた一体……」
「麗美! 麗美! 見てよ! アタシだけの身体を手に入れたのよ!」
オルタナティブ・ウィドゥ……左手に鉤爪があるからこいつは仮にウィドゥLとしよう。
ウィドゥLはあちらのウィドゥRへと声をかけていた。
何がどうなっているの。
「瑠美……瑠美なの……? 私、瑠美が消えちゃったのかと思って……!」
「アタシにも分からないけど……きっと神様がご褒美をくれたのね。これからは私達二人で!」
咄嗟の殺気に反応した。
ウィドゥLの足下で右腕を押さえて疼くまる甲賀に鉤爪でトドメを刺そうとしていた。
【SWORD VENT】
間一髪、鉤爪を双剣で受け止めることに成功した。
だが、安心は出来ない。相手は全てのスペックでこちらに勝る相手。真正面から戦うのは危険過ぎる。
なんとか黒峰樹を逃さないと。でも、その前に。
「馬鹿! 何してるの!」
動転しているだろう黒峰樹へと声をかける。
しかし、こちらの声が聞こえているのかいないのか。出血の量も多い。一刻を争うと思ったその時、甲賀が血溜まりに倒れた。
「マズい!」
「ふふっ」
黒峰樹に気を取られ、力が緩んだ一瞬をウィドゥLは見逃さなかった。
双剣を払われ、その鋭い爪が喉元を狙って突き出される。
でも、舐めるな。
「やあっ!」
ウィドゥLの攻撃のタイミングをずらす。
その左腕が伸び切る前に、私も前に出る!
「なっ!」
零距離。丹田に力を込め、床を踏み抜くぐらいの勢いで踏み込み右肩でタックル。吹き飛び廊下を転げ回ったウィドゥLの様子を見てクリティカルヒットの確信を持ち、今のうちに黒峰樹を連れて逃げようとする。
「ふふ……ふふふふふふ!!!!」
女の悪魔がいたらこんな笑い声なんだろうなと思った。
背筋がゾッとして、身動きが取れなくなるような笑い声。
この一瞬が命取りだ。
「痛い! 痛いわ麗美! 今、初めて、初めて本当に痛いと思えた! アタシの身体、痛い!」
「気をつけろ! そいつも多分、攻撃を喰らった分だけ力が増すよ!」
「は!? なにそれ!」
ウィドゥRと戦っているレイダーサバイブが教えてくれた情報に絶望する。
攻撃を喰らった分だけ強化される相手とどう戦えばいい?
防御し続ける?
無理だ、きっと押し切られてしまう。
この状況を打破するにはウィドゥを退けるしかないと思っていたが、退けるには一定のダメージを与えるという方法を考えていただけに最悪過ぎる。
こんな相手をどうにか、するには。
一撃で、殺すしかない。
「無理だよ……そんなの!」
「愛し合いましょう!!! たくさん!!! たくさん!!!」
そいつは同じ言語を発しているとは思えなかった。
同じ人間だとは思えなかった。
怪物、化け物。そういった類いのものだと思った。
人間は化け物には敵わない。
「ッ……弱気になるな影守美也……!」
精神的に負けてしまえばそれこそ終わりだ。
負けるな、戦え。
誰も悲しませないためにも。黒峰樹を救うためにも。
「やあっ!!!」
とにかく、まずは隙を作ることだ。
一刻も早く、黒峰樹を担いでミラーワールドから出るだけの時間を。
ダメージを与えてはいけない。与えたとしても、特大の。意識を削ぐぐらいのものを一撃で与える。
「難し過ぎるでしょ!」
ぼやくぐらいは許してほしい。
迫るウィドゥLの爪がさっきと同じように繰り出される。またカウンターを決めるか。
「……!?」
そんな単純にやらせてはくれない。
先程のダメージで強化されたというのか、速さが違った。
パワーが上がるだけでなく、速さまで上がるというの!?
回避を選択し、後退するも爪先が肩のアーマーを掠め、浅くも鋭い傷が刻まれる。
ライダーに変身している黒峰樹の右腕を切断するだけのことはある。あの鉤爪が直撃していたら、左肩に大きな穴が開いていたかもしれないと思うと悪寒が走った。
「避けないでよ! 受け取りなさいよ愛を!」
「くっ……!」
あんなものを避けるななんて冗談じゃない。
けれど、現状の選択肢が回避一択なのはまずい。せめて、防御手段が欲しいと床に落ちている私の剣を見ながら思う。
あれをなんとか拾うことが出来れば。
いや、それすらも難しい。
単調で一辺倒ではあるけれど、一撃喰らえば終わりの攻撃が繰り出され続けている。回避するのにも体力を使う。
いつまでも、避け切れるものではない。
黒峰樹を助けるのだって、これでは不可能だ。作戦変更。
「黒峰さん! 黒峰樹! 目を覚まして!」
とにかく呼び掛け続けるしかない。
スパルタかもしれないけど、足は二本ついているんだから逃げるぐらい自分でやってもらわないと困るような状況なのだ。
助けに来ておいて、情けない。
とにかく、今の私に出来ることは黒峰樹の名を呼び続けることだけだった。
「先生……大丈夫かな……」
「大丈夫よ。もう少ししたら、帰ってくるから」
黒峰樹からピアノを習っているという姫ちゃんは彼女のことが心配らしい。当然のことだろう。
こんな異常事態の中で見知った人間の心配をするのは当然のことだ。
しかし、事態は思ったよりも悪いのかもしれない。
デッキを所持しているからミラーワールドの音が聞こえてきているけれど、戦闘はかなり激しいようだ。
『黒峰さん! 黒峰樹! 目を覚まして!』
美也の叫びが聞こえてきた。
今の言葉、その言葉通りの意味だとしたらかなりまずい状況だ。私も行くべきか。
けれど、ここを離れている間に子供達に何かあったら。
燐はまだ来ないのか。
美玲はどうしたのか。
最悪な状況で身動きが取れない自分が嫌になる。
「……そうだよね。先生なら大丈夫だよね」
「姫ちゃん……」
こんな小さい子が無事を信じて待っている。
だからどうかせめて、生きて帰ってきなさい。この際、敵味方関係なく祈るしかない。
誰かが、ピアノを弾いている。
微睡みの中で、仄かに聴こえる旋律だけでも分かる。
上手い。
心地良い音の中で眠りに就くなんて、最高の贅沢だと思う。
だから、このまま————。
だけど、それを許さないと言うように不協和音が意識を覚醒へと導く。
あのピアノの音がより鮮明に聴こえてくる。
そうして気付いたのだ。
このピアノの音は、アタシの演奏だ。アタシのピアノだ。アタシの音楽だ。
真白い部屋で、暖かな風が窓から吹き込んでいた。
揺れるカーテンの向こう側でピアノを演奏しているのはアタシだ。
あれはアタシだ。
「アタシの、ピアノ……!」
立ち上がり、右手を伸ばす。すると気付いてしまったせいなのかカーテンの向こう側が遠ざかっていく。
待って、待って。
あれはアタシだ。
昔のピアノを弾けた頃のアタシじゃない。
きっと、願いを叶えた後のアタシなんだ。
アタシが望む未来がそこにある。
絶対に願いを叶えて、ピアノをまたこの手で————。
「黒峰樹!」
誰かが呼んでいる。
「先生」
誰かが呼んでいる。
ああ、姫の声だ。願いを叶えたら、姫とピアノを弾きたい。そうして、実力の差を理解らせてやるんだ。
伸ばしていた右手を見つめる。ピアノを弾けない、傷ついた右手。
「……そういえば、さっき切り落とされたんだっけ……。いいよ、この際。願いを叶えるまで片手でだろうと戦ってやる————!」
白い部屋から黒い空間へ。
一枚の輝くカードが浮かぶだけの暗闇。
これは、力だ。
アタシが、願いを叶えるための力。
「うあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
その叫びは、右腕を切断された痛覚によるものか。
否、否。
起き上がった甲賀の右腕が、繋がっていく。
「なにが、起きて……」
「麗美見て! あの子、切った右腕が繋がったわ!」
「それじゃあ、もう一回遊べるね」
「もしかして、あの子」
喜多村遊、仮面ライダーレイダーサバイブは察した。
同じ力を持つが故に、仮面ライダー甲賀もまた力を手にしたのだと。
進化へと至ったのだと。そして、確信。
立ち上がった仮面ライダー甲賀の右手に輝く、黄金の翼が描かれたカード。背景では薄紫の水面に波紋が広がっていくサバイブのカード。
その名を、サバイブ-水天-。
「あれって!?」
「ふふー。面白くなりそうだね」
「何度だって愛してあげるわよ!」
甲賀へと迫るウィドゥL。甲賀はまるで動じない。静かに忍者刀型の召喚機ステルバイザーを掲げ、爪を振りかざしてきたウィドゥLを冷静に回避し、ステルバイザーの柄の先で鳩尾を打ち後退させる。
そうして、ステルバイザーの周囲が水面のように波打つとステルバイザーが変化。
刀身が延び、紫の鞘に納められた忍者刀型召喚機ステルバイザーツバイとなる。
鞘のカードホルダーへとサバイブ-水天-のカードを納めると甲賀の足下から水柱が上がり、進化する。
暗緑のカラーに薄紫と金が差し込んだアーマーとインナースーツ。
仮面はカエルの顔に似て、黒かったマフラーは金へと変化。
胸部はバツ字のように配された手裏剣型のアーマー。
両腕には手甲鉤のようなアーマーが備わり、攻撃的な姿へと転じた。
日が沈む。月が浮かぶ。
宵闇の中に立つ、その戦士は。
仮面ライダー甲賀サバイブ、見参。
「これが、サバイブ……」
変化した姿、腕などを見て呟く。
なるほど、確かにこれは強力だ。さっきまでの痛みも疲労もどこかに行ってしまったように力が溢れ出てくる。
多少のイキリも許してほしいぐらいだ。
「……自分がわりと執念深い方だとは思わなかったけど、ひとまず。アンタ潰すから」
アタシの右腕を切ったもう一人のウィドゥを指差し、宣言する。
カードを抜き、ステルバイザーツバイの鍔を開きカードを装填。
【SWORD VENT】
おお、音声もちょっと変わってる。エコーがかかっている。
感心していると、ステルバイザーツバイからカチリと音が鳴り抜刀。刀を抜くと刀身が延長する。刃は金となって豪華だ。
豪華と忍者、相性悪い気もするけど。
刀身も前より長くて良さそうだ。
ステルバイザーツバイを右手で、逆手に構え、鞘は左手で順手に持つ。変則的な二刀流でウィドゥへと迫る。
「でやぁ!」
「っ! ふふ! 愛し合いましょう!」
爪と刀では、リーチで勝る刀に分がある。
鞘による打撃も組み合わせながら、的確にウィドゥを切り裂いていく。ステルバイザーツバイを振るう度に水飛沫が弾け、水の刃で更なるダメージをウィドゥへと加える。
だが。
「待って! そいつはダメージを受けるとパワーもスピードも上がるから!」
影守が話した瞬間、さっきよりも素早く切り込んできたウィドゥに目を見開いた。
なんとか防御は間に合い、鞘で仮面を殴り飛ばして距離を取り、影守へと苦情を入れる。
「そういうのは早く言え……!」
だが、スピードならこっちも負けていない。
奴の攻撃には反応出来ている。負けていない。
いや、勝つ。
「まずは仇だ……アタシの右腕の仇!」
デッキに手を添えてカードを引き抜く。
このカードは……。とりあえず、使ってみるか。
【TIME VENT】
音声だけが鳴り響く。
……なるほど、そういう効果。
「おーい! 何も起きてないぞ!」
喜多村がウィドゥと戦いながらこっちに気を回す。
そんなことやってる余裕があるのか、あいつ?
「はっ、サバイブの先輩面? これから起きるんだよ」
「一体、何が……」
駆け出す。
ウィドゥへととにかくステルバイザーツバイを振るう。空振ってもいい。とにかく攻める、攻め続ける。ひたすらに。
ウィドゥは後退しながらアタシの攻撃を避けて、防御していく。
そうだ、それでいい。
これがいい。
「そんな大ぶりな攻撃じゃ……!」
「これでいいんだっての!」
これぐらいでいいか。床を蹴り、ウィドゥの背後を取って背中を蹴り飛ばす。
さっきまで、攻防を繰り広げた箇所へとよろけていく。
「今」
指を鳴らす。
これが、なんとなくやりやすいと思った起動スイッチ。
「……? っ!? ぎぃあぁぁ!!!」
次の瞬間、ウィドゥに見えざる斬撃と打撃が無数に襲いかかる。
全身を斬りつけられ、打ちつけられてウィドゥはいよいよ膝をついた。
「なに!?」
「瑠美!」
「————
初めてにしては上手くいった。
いや、初めてだから上手くいったのかもしれない。
そうではないと、証明してみせる。
「瑠美!」
「麗美……だ、め……来たら……」
「もう入ったよ、アタシの領域に」
指を鳴らす。
再び、再生されるアタシの繰り出した攻撃達。
過去の攻撃は不可視のもの。見えない攻撃を避けることは出来ない。
「ああああああ!!!!!」
氷梨麗美と、あっちはルミとか言ったか。
奴等は玉響残影の発動領域の中に入ってしまった。一度入ってしまえば、後は死ぬまで玉響残影が再生する攻撃を味合わせるだけ————。
「麗美ッ!」
攻撃を喰らいながらもウィドゥが、爪を振るった。
床に向けて、大きくバツを刻む。
待て、それはまずい!
「っ!」
予想通り、床が崩れて二人のウィドゥは一階へと落下。玉響残影の領域を抜け出してしまった。
「待て!」
砂埃を切り裂き、切り抜かれた床の穴から下を見下ろすと既にそこには二人の姿はなかった。
逃げられた。
「チッ……!」
調子に乗りすぎた。
逃げ場がないなんて思い上がったアタシが悪い。
いや、よく見てみると崩落した床の影に黒と銀の塊がひとつ。
あれは、アタシの腕を切り落としたルミとかいう方の右腕……!
取った。取った取った取った!
右腕の仇を取った!
「これがサバイブの力……! これなら、勝てるかもしれない……」
甲賀に足りなかった攻撃力を得た。
強力なタイムベントのカードも得た。
ああ、なんだかようやくスタートラインに立てたような気すらある。
裏でこそこそとやるのも性に合ってはいたけれど、アタシだけの力。アタシだけの力でこの戦いを勝ち残れるかもしれない。
「絶対に勝つんだ、アタシが……!」
すっかりと暗くなってしまった。
氷梨が逃走すると奴の契約モンスターもいなくなり、無事に廃病院から脱出。喜多村はいつの間にかいなくなっていたが、とにもかくにも問題だらけだ。
これでは何にしろ事件になってしまう。
小さい子供達がこんな時間に、山奥にいたのではまずいとアタシ達は考えた末にひとつ芝居を打つことにした。
シナリオは即席で考えて、警察に通報。
「誘拐されたけど、逃げ出しました」
そうして現在、パトカーだらけとなった廃病院を後にするところ。
とにかくアタシ達の主張はこうだ。
「気が付いたらあそこにいた」
その他の質問にも「分からない」や「覚えていない」で対応した。
子供達もいい子というか、氷梨のことを話したがらないのでこれは事情聴取も難航しそうだ。
これも全部、聖山でミラーモンスターによる被害のおかげで成り立ったようなものだ。
だからといってモンスター共に感謝の気持ちなどは湧かないが。
「黒峰さん」
「……なに」
影守が話しかけてきたが、ようやくといった感じだ。
さっきからずっと何か話したいような雰囲気をずっと醸し出していてウザかったのだ。
「……やっぱり、戦うの」
「当たり前でしょ。そのためにライダーになったんだから」
話はそれだけと踵を返す。
とにかく、これでもう影守は怖い相手ではなくなった。
サバイブを持つライダーとそうでないライダーの間では大きな差がある。
たとえ剣道の天才が相手だとしても、勝てる。
そうなれば、次の相手は……。
背中越しに影守を見つめる。
何の因果かアタシと同じように右腕に傷を受け、才能を断たれた者。アタシは奴が気に食わない。
なんで、そうも簡単に才能を捨てられる。
アタシには理解出来ない。
拒絶したい。
そうだ、やはり。
まず倒すべきはあいつなのだ。
次回 仮面ライダーツルギ
「この子は私のとっておき」
「……あなたの方が、燐のことをよく考えてるのね」
「呑み込んでしまいなさい! ドラグランド・マヤヴィオラ!』
「未来超越————ッ!?」
「……誰、だっけ」
運命の叫び、願いの果てに————。
ADVENTCARD ARCHIVES
SURVIVE-水天-
仮面ライダー甲賀が獲得したサバイブカード。
背景では薄紫の水面に波紋が広がるように蠢いている。
自身が治したかった右腕を失ったこと、死に直面した最中で願いへの強い思いにメモリアが応えたことで発現した。
甲賀サバイブへと強化変身させ、全能力が向上し甲賀の弱点であった火力の低さも克服。
攻撃には水属性が付与されるなど単騎での戦闘力が向上した。