仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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ALTERー26 トライアングルの犠牲者

 廃病院にて甲賀達が激しい戦いを繰り広げていたのと時を同じくして、古い神社の境内ではツルギとオルタナティブ・アリスの戦闘が行われていた。

 

 オルタナティブというシステムはライダーの上位互換である。

 基本スペックにおいては勝ち目がない。ましてやアリスというミラーワールドの存在が変身しているともなれば。制限時間という枷がないという大きなアドバンテージを無視することは出来ない。

 自分が海の中で酸素ボンベを背負っているダイバーとするならば、アリスはサメといったところか。

 ミラーワールドは彼女のフィールド。

 つけ入る隙があるとするならば。

 

「燐くん! いい加減、私のものに!」

 

 オルタナティブ・アリスは茨の鞭を地面へと突き刺す。蠢く気配が地中を這っている様を感じ取る。後ろへ避けるか?

 いや……。

 

「……っ」

 

 地中から鞭の穂先が枝分かれし無数の鋒となって襲いかかってきたのを、前へと進んで回避する。

 

「なっ! でも!」

 

 目の前からも気配。なるほど、あの鞭は穂先だけでなく鞭のあちこちから根が伸びるように攻撃が可能のようだ。

 でも、見えている。

 攻撃の気配、流れが。

 減速はせず、右へ湾曲して回避。さっきとは違い地中から現れたのは一本だけの面ではなく点での攻撃。回避は容易い。このまま、最短距離を駆け抜ける。

 

「当たらない……!」

 

 地中という死角からの攻撃だが、気配さえ分かればどうとでもなる。

 そう、気配。

 殺気ではない。

 オルタナティブ・アリスは僕を殺すつもりはないらしい。

 だが、気配はあるのだ。

 粘着質な、重いものが。だけど、どこか物悲しくもあり、切実だ————。

 

「っ!」

「……」

 

 アリスは地面へと向けていた鞭から手を放し、逃げるように後ずさって刃を逃れた。

 ああ、そうだ。

 この子は戦う人ではないから、そういう避け方になるんだ。

 あとは詰将棋的に追い詰めていけば、バランスを崩して尻餅をつく。想定通りに、足をもつれさせたアリスは地面に尻餅をついて立ち上がる隙も与えずに太刀の鋒を仮面の前へと向ける。

 

「燐くん……」

「アリス……。もう、やめよう。君がこんなになってまで戦うことはないんだ……」

 

 彼女の姿はずっと痛々しかった。

 僕なんかのために、ライダーバトルなんてを始めて、そしてこのアリスはライダーバトルに勝利したのだという。

 なら、どうしてこんなところにいるのか。

 何故、再びライダーバトルに身を投じるのか。

 勝利したはずなら、それで終われたというのに。こんな違う世界の僕に執着する必要もなかったろうに。

 

「……無理です、そんなの。だって、私は……勝っても貴方を手に入れることが出来なかった! 願いを叶えたのに、私は……」

「……あえて言うけど、君の願いは間違ってるよ。どうしようもないくらい」

「……間違えたのは、燐くん。貴方もでしょう? どうしようもないくらい」

 

 ああ、そうだ。僕は間違えたのだろう。

 その間違えた解答の直しが今のこれだ。

 始末に負えない。

 一人教室に残されて、不出来な宿題の直しをさせられるようなものだ。これほどつまらないことはない。

 

「……分かってるよ。僕は間違えた。だから、君を間違えさせてしまった。だから、もう……」

 

 終わりにしよう。

 彼女がこの世界線とは違う可能性の世界から来たキョウカさんだとしても。もしかしたら、僕がこんな事を言う筋合いはないのかもしれないけれど。

 それでも、もう。彼女が間違えて、傷ついてしまうのが、嫌だった。

 振り上げた太刀。狙いはカードデッキ。

 こんなものがあるから、戦ってしまうんだ。

 全部、斬り捨ててしまえば————。

 振り下ろした刃が断ち切ったのは、地面を裂いて現れた巨大な植物の根のようなものだった。茶色く変色し、腐りかかっていたようなそれを両断するのに大した力は必要なく、豆腐でも斬ったかのような感触。切り裂かれたそれは一瞬で風化し、風に消えていってしまうほど脆いものであったが、アリスが態勢を立て直すには充分な時間を稼いだ。

 立ち上がり、距離を取ったオルタナティブ・アリスが次なる手を打つだろうと見越して構えると、オルタナティブ・アリスはカードを手にしていた。

 

「その忠義ぶりに、泣いてしまいそうです」

「アリス! こんな戦いを続けたところで!」

「いいえ、続けます。続けるしかないんです。願いのためにも!」

 

【ADVENT】

 

 震える大地が切り裂かれ、怪光を発し地上へと現出したモンスターはツルギが相手してきたどんなモンスターよりも巨大であった。

 裂けた大地にビルが飲み込まれ、入れ替わるように現れた超巨大モンスター。

 だが、その姿は焼け爛れていた。

 黒く変色し、溶けてそのまま固まってしまったような表皮。

 これが、アリスの契約モンスターなのか……?

 

「大きさは脅威だけど……弱ってる……!」

 

 そこに勝機があると確信し、サバイブのカードを切る。

 契約モンスターを召喚したのはこちらにとって都合が良い。モンスターさえ倒してしまえば、オルタナティブ・アリスを無力化することが出来る。

 ツルギサバイブの強化されたジャンプ力と風の力で一気に上空まで舞い上がり、巨大なモンスターを眼下に収めてデッキへと手を伸ばす。超巨大と言っていいほどのスケール。恐らく、全貌は視認出来ているものよりも巨大に違いない。けれど、ファイナルベントならばこのモンスターだって倒せる!

 

「神をも呑み込む大地の龍、ドラグランド・マヤヴィオラ。かつての戦いでこんな傷ましい姿になってしまいました……。そんな子をただ戦闘に出す私ではありません!」

 

 二枚目のアドベントカードが引かれ、召喚機に読み取られ青い炎に消えていく。

 

【ADVENT】

 

 オルタナティブ・アリスの召喚機が発した音声に気を取られていると、最初に現れたモンスターとは違う轟音が廃墟と化していく聖山中央街に響き渡った。

 機械的な、何かが回り、大地を突き進むような音。

 どこかで聞き覚えがある。

 そう、この音は……キャタピラの音。

 次の瞬間、ビルが倒壊し、土煙を破りそれは姿を現した。

 銀、緑、金に彩られたメカニカルな装甲を持つ巨大な戦車。

 だが、逆光差す白煙の中で戦車は蠢く。キャタピラが立ち上がり、四本の足と化す。背中には巨大な主砲が一門。それに連なるようにスラスターを兼ねたミサイルコンテナが煙を吐く。両肩にはレール式の砲塔が伸長し起動。折り畳まれていた頭部が起き上がり、黄金の三日月型の角を展開する。

 戦車から変わったその姿は、闘牛やバッファローを思わせる。

 

「剛鉄の機甲猛牛マグナテラ! この子は私のとっておき。燐くんに対抗するために用意したんですから」

 

 アリスの言葉に仮面の下で顔を顰めるとマグナテラは空に向かって嘶き、背中の主砲と内蔵されている様々な火器が火を噴き、爆走を始めた。

 

「くっ!?」

 

 ツルギサバイブには風の結界がある。多少の遠距離攻撃ならば無力化してしまうほどの防御力だ。だが、こいつの攻撃は受け切れない。全身の細胞が危険信号を発し、考えるよりも早く回避行動を取っていた。

 空中で姿勢を変えて、それこそあの弾丸のように地上へと向けて突風に乗った。

 両肩の砲から放たれた超高速の弾丸と主砲は躱した。しかし、無数に煙の尾を引くミサイルの群れが追尾してくる。大地を蹴り、ビルの壁面を蹴り、空を蹴り、追撃を逃れようと足掻く。

 回避に専念しながらミサイルの数を減らそうと傾いたビルの壁面に直撃するように誘導する。

 ここがミラーワールドで良かった。もしも、現実の世界ならば最初のモンスター出現だけでかなりの被害になっていただろうし、こんな回避方法は取れなかった。

 ミサイルの直撃を受けたビルは容易く吹き飛び、コンクリートの破片をまき散らす。もしも、あれを食らえば……。風の結界で威力を減衰は出来るかもしれないが、ひとたまりもないだろう。

 アリスは僕を殺すつもりはない。

 けれど、殺さない程度にダメージを与えて僕を捕えるつもりなのだろう。

 

「過剰にも見えるほどの飽和攻撃。ですが、あなたを堕とすにはこれでも足りないのでしょうね。————ですから」

 

 呟くオルタナティブ・アリスは優雅にデッキからカードを引き抜いた。 

 

【UNITE VENT】

 

「纏いなさい、ドラグランド・マヤヴィオラ。あなたのための戦闘装束(ドレス)を」

 

 一旦攻撃が収まるも、それで安堵など出来るはずもなかった。

 融合していく二体の巨神を前に、剣を握る手が強張る。

 黒く焼け爛れた表皮を覆い隠すように銀と緑の装甲が纏わりつき、それをより強固にするように装甲の上に根が張った。

 マグナテラの各種火器はやはり同じように全身に配置され、黄金の巨大な角はドラグランド・マヤヴィオラの頭部に装着され、さながら悪魔の角のよう。

 生物と機械の融合(サイボーグ)

 今のあのモンスターを表現するための言葉が脳裏に過ったが、それ以上におぞましいという言葉が頭の中を覆い尽くした。

 あの爛れて今にも枯れ果てそうなモンスターが、新たな動力を得て活発化した。

 その光景にアリスの執着心が重なって、背筋がざわつく。

 そうまでして、という言葉が喉奥まで込み上がる。

 

「剛機竜帝ドラグマグナ・エクスマキナ。燐くん……あなたは強いから……私も力を手にする必要があったんです……!」

「力……!?」

 

【GUARD VENT】

【SHOOT VENT】

【SHOOT VENT】

【SHOOT VENT】

 

 オルタナティブ・アリスはガードベント一枚と三枚のシュートベントを流れるように読み込ませると全身に装甲が追加され、三種の火器がオルタナティブ・アリスに装着された。

 銀と緑の追加装甲により防御力が向上し、仮面を覆うヘッドギアのスリットの奥にはリレー式に赤く発光するフォトエレクトロアイが視力を向上させ、遠距離攻撃を補助している。両脚にはキャタピラが備わり、どのような路面でも走破し、重武装、重装甲でも機動性を落とさない。

 右腕には身の丈以上、もはやオルタナティブ・アリスの倍近い砲身を有するテラランチャーを握り、両肩には細長い砲身を持つ二門の電磁砲、テラレールキャノン。背中にはスラスターも兼ねたミサイルコンテナ、テラミサイルランチャーを背負い、オルタナティブ・アリスの重武装形態オルタナティブ・アリス・エクスマキナ。

 

「これが最もシンプルかつ最適なツルギへの対抗策。銃は剣よりも強し、ですよ?」

 

 主砲が向けられる。

 腰を落とし、構えられる砲。それは人が携行するにはあまりにも巨大過ぎる。まさに戦車の砲をそのまま武器にしたかのような、威力が分かりきっているもの。

 銃爪が引かれるよりも速く、動いていた。

 轟く砲声。キャタピラは射撃の反動を抑える役割もあるらしい、一発撃っただけでオルタナティブ・アリスの周囲の地面は陥没し、コンクリートに亀裂を入れた。

 砲弾を回避すると、付近にドラグマグナ・エクスマキナの放ったミサイル達が着弾し、爆炎に包まれる————。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まったく、何をしているんです? 暢気にお昼寝ですか?』

 

 鏡の中から、鬱陶しい声が響く。

 こいつの声は頭に響いて苛立ってしょうがない。

 

「……燐くんから相談を受けたんです」

「……は?」

 

 相談?

 何を、なんて分かりきっている。夜のことだ。

 それを、燐は、こいつに話した?

 

『相談と言っても、聞けたわけではないです。モンスターが現れて、しまったので……。それに、デリケートな話題のようだったので……同性のあなたから話を聞いた方が良いかと思いまして……』

「はっ……ああ、そう。そうなのね。燐はあなたの方を信頼してるわけ」

 

 私とは、ちゃんと話してくれなかったのに。

 

『……燐くんも、まだ整理がついていないから私にまず話そうとしたんだと思います』

「……分かってるわよ、そんなこと」

『それで、何がどうしたわけです?』

「あなたに言う必要ある?」

『正直な話、別にあなたのことはどうでもいいんです。ただ、燐くんには笑っていてほしい。燐くんが幸せなら、それで』

「だからなに————!」

 

 

 いい加減、頭に来たから身体を起こしてアリスの映る姿見へと目を向ける。

 見るんじゃ、なかった。

 あまりにも、アリスが真っ直ぐな目をしていたから。私なんかとは、大違いの。

 

『燐くんが幸せなら、あなたと結ばれることだって認めます。けど、今の燐くんは悩んでいます。あなたとどう向き合えばいいのか』

「……」

『あなたは、どうしたいんですか』

「……あなたの方が、燐のことをよく考えてるのね」

『美玲ちゃん————』

 

 アリスが何かを口にしようとした時、金魚のように口をぱくぱくとさせて、寒さに凍えるように自身を抱いた。

 まるで、何かに怯えているような、そんな様子。

 

「アリス……?」

『これは……!』

 

 アリスは姿見の前から姿を消す。何か起こったのだろう。

 アリスを追いかけようと立ちあがろうとした瞬間、強烈な金切り音が頭を突き破りそうになるほどの頭痛に襲われる。

 

「な、に……なんなの……」

 

 これはモンスターの気配を察知した時の感覚。

 けれど、ここまでの痛みを伴うことはなかった。ライダーになったばかりの頃、まだあの音に慣れていない時こそ偏頭痛のような痛みを感じたことはあったけれど、ここまでではない。

 ミラーワールドで、何かが起こったのだろう。

 アリスはいち早く異変を察知したのだ。何かが、起こっている。

 痛みの余韻を引き摺りながら立ち上がり、姿見にデッキを映す。

 

「変身」

 

 アイズとなり、ミラーワールドへと移動する。

 風が震えている。

 遠くから、ここまで轟音が届いている。

 跳躍し燐の家の屋根へと登り、周囲を見渡すと聖山駅方面に無数の黒煙と火柱が立ち上がっていた。

 アリスは、向こうへ向かったのだろう。

 もしかしたら、燐がいるのかもしれない。戦っているのかもしれない。

 美也達は氷梨麗美にかかって、この事態に気付いてはいないだろう。行くしかない。

 

「来なさい、ガナーウイング」

 

 再び跳躍するとガナーウイングが飛来し、背中に合体。飛行し、聖山駅方面へと急行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆煙を切り裂き、ツルギサバイブはオルタナティブ・アリスへと迫る。

 接近しなければ、彼に勝ち目はないに等しい。ツルギサバイブになったことで遠距離の攻撃手段を保有こそすれど、オルタナティブ・アリス相手にそれが決め手になることは恐らくないだろう。

 だが、牽制と防御手段としては有効のはずとカードを切る。

 

【SWORD VENT】

 

 風に乗り、六枚の金色の刃「リュウノゲキリン」がツルギサバイブのもとへ飛来する。

 周囲に四枚を侍らせ、二枚をオルタナティブ・アリスへと向けて先鋒として放ちツルギサバイブは三方向からの攻撃を仕掛けた。

 

「たとえ燐くんであろうと、私に近づくことは出来ません!」

 

 しかし、オルタナティブ・アリスとて接近されれば不利ということは承知している。バイザーの奥で点滅する赤い瞳がツルギサバイブを睨むと両肩のレール砲が閃光を放つ。電磁砲、レールガンというものは漫画やアニメなどでは度々登場もする。現実においても実用化に向けて研究が進められているものだ。

 それがどんなものか知識としては燐の頭にある、が。

 実際に正面切って戦って理解した。

 速い。

 瞬きする間もなく、ツルギサバイブの足元が爆ぜていた。

 

「ぐああッ!?」

 

 ツルギサバイブが吹き飛ぶと同時に、ドラグマグナ・エクスマキナの装甲を纏った根が四肢に巻きつき拘束してきた。

 

「チッ……!」

 

 ツルギサバイブは舌を打ちながらも即座にリュウノゲキリンを操り、自身を縛り付ける根を切断して拘束から逃れる。だが、それすらも見越されていた。

 再び迫る根は機械の龍のよう。口を開くと、銃口が顔を覗かせた。これは、いわゆる副砲なのだろう。威力はこれまでツルギサバイブに浴びせられた火器に比べて劣るが、次々と弾丸を連射して雨霰のように襲い来る。

 それが、上からも横からも。根は蛇のように蠢いて延々と逃げ回るツルギサバイブを追跡して追い詰めようと迫る。

 ツルギサバイブはスラッシュバイザーツバイを振るい、リュウノゲキリンを操り、根を切り裂き続けるも無数に存在するだろうドラグマグナ・エクスマキナの根が地を割って次々と現れ終わりが見えない。

 

「私の相手もお忘れなく!」

 

 オルタナティブ・アリスが背負うミサイルコンテナのハッチが開放し、無数の白煙が尾を引う。

 発射された小型のミサイルがツルギサバイブをつけ狙う。

 ツルギサバイブは根の相手に追われ、ミサイルの防御が間に合わない。第一陣こそ風の刃で迎撃するも、続く第二陣が煙を突き破り、着弾。

 ツルギサバイブの白亜が、灰色の爆煙に飲み込まれた。

 

「ふっ……。終わりで……ッ!?」

 

 オルタナティブ・アリスの足元が裂け、鋒が喉笛を貫こうと迫った。

 アリスは、知っている。この剣を。

 なんせ、自分も使っていたのだから。

 総毛立ったのは、この攻撃とこの世界の自分の存在を察知したから。咄嗟に後方へと飛び退いて剣を回避。そして、もう一人の自分と相対した。

 

「来ましたか……もう一人の私」

 

 オルタナティブ・アリスの視線の先、地面に剣を突き刺す仮面ライダーブロッサムの姿があった。ブロッサムは剣を引き抜くと、オルタナティブ・アリスを睨み付け、剣を構えた。

 

『その姿は……』

「みんな大好き、重武装な強化形態です❤️」

『すごいですね、肌の露出を増やさなくても媚びを売ることが出来るなんて。そういうの、卑しいって言うんじゃないです?』

「見た目が良くとも活躍しなければ意味はないので……。踏み台になってもらえます? もう一人の私!」

 

 オルタナティブ・アリスの主砲が構えられる。

 それと同時に両肩のレール砲の装填も完了、ミサイルコンテナも発射態勢となり、一斉に火を噴く……はずだった。

 オルタナティブ・アリスが銃爪を引きかけた瞬間、突風が荒ぶ。

 

「なに……?」

「すぅ…………ぜあッ!」

 

 爆煙を吹き飛ばし、烈風が鳴いた。

 嵐の中央には、ツルギサバイブが健在している。

 

「あんなにミサイルを叩き込まれたのに……」

「風の結界を収束させ、より強固な壁にした。ミサイルは風の結界に触れて爆発したに過ぎない」

『燐くん!』

「だとしても、爆発の衝撃はそれなりに来ていると思いますが……まあ、いいでしょう。強がりがどこまで続くか、試すだけです」

「キョウカさんはあのモンスターの相手をお願い。オルタナティブ・アリスは僕が相手にする……」

 

 スラッシュバイザーツバイを構え、オルタナティブ・アリスと向かい合うツルギサバイブ。その姿に、ブロッサムは彼の頼みを聞き入れた。

 

『分かりました。燐くんも気を付けて』

 

 ブロッサムは手鏡型の召喚機ヴィオラバイザーを手にし、デッキからカードを引き抜き、読み込ませる。

 モンスターの相手はモンスターにさせる。

 それがセオリー。

 

【ADVENT】

 

 エコーのかかった音声が発せられると、ドラグマグナ・エクスマキナの目の前の地面が裂け、激しいフラッシュと共にブロッサムの契約モンスターが召喚される。

 

『敵はあなたの似姿です。あなたももう一人の自分は嫌でしょう? 呑み込んでしまいなさい! ドラグランド・マヤヴィオラ!』

 

 大地を震わせ、翡翠の巨龍が姿を現す。

 オルタナティブ・アリスのドラグランド・マヤヴィオラとは違い、本来の姿のままのドラグランド・マヤヴィオラは凶暴な顎門に似合わぬ花々を咲かせ、ドラグマグナ・エクスマキナと同時に威嚇の咆哮を上げる。

 

『グオオォォォォォォン!!!!!』

『Gyuoooooooon!!!!!』

 

 二体の巨龍の咆哮が、シンクロしミラーワールドを震わせる。

 一瞬の静寂の後、ドラグランド・マヤヴィオラが先制攻撃。地中深く、そして広く張り巡らせていた根が一斉にドラグマグナ・エクスマキナを拘束し、巨体を震わせドラグランド・マヤヴィオラは突進。周囲のビル群を薙ぎ倒し、巨大な口を開き噛みつこうと迫る。

 それに対し、ドラグマグナ・エクスマキナは余裕の表情を見せていた。キャタピラが唸ると同時に、後進。己を縛る根など知らぬという勢いで。それは自然、ドラグランド・マヤヴィオラの突進を無意味なものにすると同時に、今度は逆に引っ張られる形でドラグランド・マヤヴィオラが身動きを取れなくされる形となった。

 

『グォオォォン!?』

「マヤヴィオラ!?」

 

 純粋なパワー勝負の決着がつく。

 巨龍、墜つ。

 ドラグランド・マヤヴィオラが体勢を崩し、アスファルトや車などをまき散らせながら倒れ伏した。

 その様を見たドラグマグナ・エクスマキナはニタリと笑うように口を開く。

 どうした? その程度か? ほら、立ってみろ、とでも言うようにドラグマグナ・エクスマキナは攻撃もせずにドラグランド・マヤヴィオラが立ち上がるのを黙って見ていた。

 

「パワーで互角だとか思いました? 全て、全て全て全てにおいて私の方が上なんですよ! もう一人の私!」

 

 オルタナティブ・アリスがツルギサバイブへとミサイルを発射し、レールガンを放ちながら咆える。

 

『くっ……!』

「負けたあなたとは違う! 私は勝ったんです! 勝ったんですよ————!」

 

 そう叫ぶオルタナティブ・アリスの姿がツルギサバイブ、燐の目には痛々しく映ってならない。

 彼女がライダーバトルに勝利してなお戦う理由を知ってしまったから。

 勝利こそすれ願いが叶わず、彼女の世界の御剣燐に否定された彼女は願いに取り憑かれ、いや、彼女の方が願いに取り憑いたのかもしれない。彼女は御剣燐を得るまで止まらないのだろう。

 御剣燐の愛を得るまで。

 ならば、その執着を断ち切るのが彼女に対する責任なのではないか。そんな言葉が脳裏を過ぎる。

 

 結局、全てお前のせいだ。

 

「くそっ!」

 

 雑音は振り払い、レールガンを回避しミサイルの群れを斬り捨て再度接近を試みる。

 オルタナティブ・アリスは弾切れなど知らない。

 弾はどれだけ撃とうが生成され、装填される。それはつまり、撃つことをやめない限り、攻撃に切れ目が存在しないことを意味する。オルタナティブ・アリスはその指でトリガーを引き続ければいいのだ。

 銃撃、遠距離攻撃に対応する術を御剣燐は否応なく身につけさせられた。

 攻撃手段が剣のみゆえに、剣によって不利をひっくり返し、窮地を切り抜けなければならなかったからだ。

 しかし、オルタナティブ・アリス・エクスマキナの攻撃は燐がこれまで体験したことない程の銃撃。否、爆撃。もはやオルタナティブ・アリスは戦士ではなく兵器といっても過言ではない。

 戦士は、兵器には敵わない。

 銃は剣よりも強し。

 その言葉が有言実行されている。

 更にツルギサバイブ側にはミラーワールドに存在出来る制限時間が存在する。それも残り僅か。時間すら敵である。

 ならば、まったくツルギサバイブに対抗手段は存在しないのか?

 それもまた否。

 ツルギサバイブのファイナルベントは相手の攻撃すらも飲み込んで威力を増すという性質を備える。それを利用すれば、オルタナティブ・アリスの砲撃ごと嵐が吹き飛ばすだろう。

 兵器は天に敵わない。

 だが、そんなことをすればオルタナティブ・アリスは死んでしまう。

 この状況下にあって、御剣燐はアリスを殺すという選択肢を否定し、切り捨てている。

 たとえ、自分が知らないアリスだとしても、彼女を狂わせた原因が御剣燐にあるのならば救わねばならない。

 なにより、友達を殺すなどあってはならない。

 では、次の手は。

 

「未来超越……」

 

 燐はデッキに手を伸ばしかけ、躊躇う。

 タイムベント、未来超越。

 その力を使えば、ツルギサバイブには勝利がもたらされる。

 たとえ99.9%の確率でツルギサバイブが敗北するとしても、その99.9%を切り捨て、0.1%であった勝利を100%、確実なものとして。

 オルタナティブ・アリス・エクスマキナにも、ドラグマグナ・エクスマキナにも勝利するだろう。

 しかし、それはどのような形であれツルギサバイブが勝利する未来。

 仲間を犠牲にして勝利してしまうかもしれない。

 アリスを殺すことによる勝利かもしれない。

 いずれにせよ、そんな勝利を御剣燐は認めない。

 それに……燐は藤上今日子の言葉を、警告を振り返っていた。

 

「時を操るなんて強大な力を行使するからにはそれ相応の代償が伴う」

 

 彼女の言葉を、燐は実感しつつあった。

 ひとつの勝利以外の未来を斬り捨てることは、他ならぬ可能性の殺戮なのである。

 朽ち果てる大樹の夢。

 風に揺れる枝葉は、あるかもしれなかった未来だったのだろう。それらを斬り落としてしまえば、大樹は死んでしまう。

 可能性を失った果てに、御剣燐は朽ちる。

 だが、使わなければ。

 

「あなたの負けですよ! 燐くん!」

 

 オルタナティブ・アリスの砲撃の前にツルギサバイブは攻めあぐねる。ここでアリスに勝たなければ、ブロッサムも危うい。

 だというのに、御剣燐は勝利に手を伸ばせない。

 

「燐!」

「ッ! 美玲先輩!?」

 

 仮面ライダーアイズが飛来し、オルタナティブ・アリスへと向けて矢を放つ。

 矢は蒼炎を纏い、モンスターならば一撃で撃破する。そんな攻撃を前にオルタナティブ・アリス・エクスマキナは棒立ち。

 矢は胸部に命中する。

 かんっ、と虚しい音を立て、矢は弾かれ地面を転がった。

 

「そんな……!」

「ふっ、ふふふ、あははは! カトンボが何かしましたか? こんなところに来て、燐くんの助けになれるとでも? こういうの、死にに来たって言うんですよ、咲洲美玲ッ!!!」

 

 オルタナティブ・アリスの全ての砲がアイズへと向けられる。

 更に高空へと上昇し逃れようとするアイズだが、オルタナティブ・アリスの赤い眼が回避予測までも計算し、完全なるアイズの死を導いた。

 

「美玲先輩ッ!!!」

 

 ツルギサバイブの行動は早かった。

 アイズの前に躍り出ようと跳躍しながらデッキからカードを引き、スラッシュバイザーツバイへと装填。

 

【TIME VENT】

 

「未来超越————ッ!?」

 

 

 

 

 

 白い。

 真っ白だ。

 ここは、どこ?

 何を見ている?

 美玲先輩は?

 キョウカさんは?

 アリスは?

 

「……誰、だっけ」

 

 名前は分かる。

 けど、分からない。

 知識はある。けれど、何かが、何かが欠落していく。

 それが何と言ったか。

 何か、大切なものを斬り捨ててしまった気がする。

 いや、斬り捨てたのだ。でも、それもぼんやりとそんな気がするとしか思えなくなってきている。これが行き着く先は、大切なものを斬り捨ててしまったことさえ分からなくなってしまうのだろう。

 嫌だ、怖い、そんな風になりたくない。

 けれど、だめだ。

 そう思う心すらなくなって、この純白の世界に溶けていく。

 御剣燐が、漂白されていく————。




次回 仮面ライダーツルギ

『ツルギの勝利……。それは……』

『愛だな。俺には無縁のものだ。だが……』

「……なったって、何に……」

『未来超越……』

『燐くんに誰かを殺させたくないんです!』

運命の叫び、願いの果てに————。


ADVENTCARD ARCHIVE
ADVENT(オルタナティブ・アリス)
マグナテラ 10000AP

剛鉄の機甲猛牛の異名を持つバッファロー型モンスター。
超大型種に属し、活動するだけで街に甚大な被害を及ぼす。
機械的なモンスターであり、戦車形態に変形することも可能。
全身に火器を搭載し、背中の主砲、ミサイルコンテナ、両肩の電磁砲、各所には副砲を備え、砲の数でいえば戦車というよりも戦艦である。
もう一人のアリスが再びライダーバトルに参戦するにあたり対ツルギ用に用意していた切り札。
先のライダーバトルで深い傷を負ったドラグランド・マヤヴィオラとユナイトベントさせ、「ドラグマグナ・エクスマキナ」へと強化融合させる。

マグナテラの怒りは大地を焦土と変える。
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