仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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?ー6 まるで嵐のような

「うわぁぁぁぁ!!!!」

 

 ミラーワールドから現実世界へと投げ戻された僕はそのままの勢いで暗い廃工場の地面を転がった。

 立ち上がろうとしても上手く力が入らず地面に伏し、仰向けに寝転んだ。

 ああ、くそ。あいつは一体誰なんだ。

 鏡華さんを見守っていたというからいい奴かと思ったけれど、奴が発する殺気は尋常なものではなかった。

 実力も僕以上。

 出力も恐らく僕以上。

 完璧ツルギの上位互換。

 あの戦いで僕は殺されていてもおかしくなかった。

 だって奴は僕を殺す気で来ていたのだから。

 ……あれ?

 だとしたら、どうして僕を現実世界に戻すような真似をしたんだろう?

 たまたま投げ飛ばされた先に鏡があって運良く逃げ出せた?

 多分、違う気がする。

 奴は殺す位の勢いで襲いかかってきたが僕を殺すつもりはなかった。

 それに殺すなら奴自身ミラーワールドから僕を追って来れば簡単に殺すことが出来る。

 だというのにそれをしないということはそういうことなんだろう。

 奴のことなんてなにひとつ知らないのに何故かそう確信出来る。

 少し休んだので再び体を起こそうとすると、自分と同じところから朱色のライダーが飛び出て変身が解除された。艶のある黒髪をお団子ヘアにしてまとめている少女。うーんどこかで見たことある気がする。どこだったか……?

 地面に倒れながら考えているとお団子少女は僕に気付いて駆け寄ってきた。

 

「大丈夫!? 立てないの!?」

「あー……。あはは、そうなんだ」

 

 なんだろう、笑うことしか出来ない。

 自分の不甲斐なさのせいかな?

 

「笑ってる場合じゃない! っていうかその声、まさかさっきの……?」

 

 さっきの?

 ああ、さっき奇襲をうけた時の。

 

「そういえば君に助けてもらったんだった。ありがとう」

「どういたしまして。……じゃなくて立てる? 肩貸そうか?」

 

 肩貸そうか?と聞いてきた少女は僕の返事を待つ前に僕を立ち上がらせて肩を組ませた。見た目より力があるらしい。

 

「とりあえずここを離れよう。他のライダーと出会すのも嫌だしね」

「なにからなにまでありがとう。えっと、君は……」

「影守美也。よろしくね」

 

 そう言ってお団子ヘアの少女『影守美也』は微笑んだ。

 この人はいい人だ。

 そう確信が持てる。

 そして、僕と美也さんは廃工場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく歩いて、ようやく市街地の方までやって来れた。

 時間も経てば痛みというものも引いてくるもので、ずっと女の子に肩を借りるのは悪いと一人で歩き出したのだが。

 

「つう……。まだ少し痛むかぁ……」

 

 歩くと足に痛みが走る。

 鎧越しに斬られた箇所が熱を持つ。

 

「ほら、言わんこっちゃない。怪我人なんだから大人しく甘えなさい」

 

 美也さんはどうやら困ってる人を見捨てられない質の人らしく甲斐甲斐しく面倒を見てくれた。

 将来、いいお母さんになるだろう。

 そんなことを考えているとどこからか僕の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。

 

「……ん! 燐! 燐ッ!!!」

「美玲、先輩……」

 

 先程の戦いで負傷した左肩を押さえながら美玲先輩が駆け寄って来た。

 よかった。無事にドラグスラッシャーは務めを果たしたらしい。

 

「……貴女は、誰?」

 

 冷たい声色と冷たい視線が美也さんを貫いた。

 美玲先輩は無愛想だけど、ここまで酷いのは見たことがなかった。

 

「美玲先輩この人はさっき僕達を助けてくれたライダーの……」

「ライダー? だったら尚更、燐から離れなさい。なにを企んでいるか知らないけれど燐に何かするようなら……」

「ちょ! 美玲先輩ストップストップ!!! この人は悪い人じゃないですから!!!」

 

 初対面の人にここまで当たるなんて美玲先輩らしくない。美玲先輩はいつもクールで、冷静な人だというのにらしくない。らしくなさ過ぎる。

 いや、こんなこと僕が言うべきじゃない。僕が美玲先輩のなにを知っているというんだ。

 

「……とにかく、燐から離れて。ライダー同士は敵だってことくらい知ってるでしょう」

「私はライダーと戦うつもりはないです。人を殺してまで叶えたい願いなんて、私にはありませんから」

 

 真っ直ぐな瞳で美玲先輩を見つめながら美也さんはそう語った。

 人を殺してまで叶えたい願いなんてない、か。僕以外にもそんな人がいてくれてよかったというかなんというか。

 

「……とりあえず、彼を頼みます。知り合いなんですよね? 酷い怪我なので手当てしてあげてください。それじゃあ、私はこれで」

「あ、待って美也さん!」

 

 踵を返して去ろうとする美也さんを呼び止めた。

 ちゃんと、お礼を言わないと。

 

「ありがとう美也さん。助かったよ」

「……どういたしまして!」

 

 少し逡巡したあと、笑顔で応えてくれた。

 そうして、美也さんは夜の街に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 美也さんと別れてから僕は美玲先輩とタクシーに揺られていた。美玲先輩がタクシーを呼んだのだが、お金持ってるなぁ……。

 それにしても。

 

「あの、美玲先輩。もしかしなくても怒ってます……?」

「別に」

 

 そう言って窓の外を見る美玲先輩。

 否定されたけど絶対に、確実に、怒っている。車内に渦巻くこのピリピリした感覚は美玲先輩から発せられるもの。

 ものすごく、気まずい。

 あとしばらくこんな雰囲気のタクシーに乗っていなきゃいけないのか……?

 胃が重い。

 ごめんなさい運転手さん変な空気に巻き込んでしまって……。

 

 

 

 

 

 あの地獄のタクシーを降りて、美玲先輩のお宅にお邪魔している。

 通された部屋はベッドと机しかないような簡素で生活感のない部屋。電気をつければいいのに外から差し込む月光のみがこの部屋の光源。美玲先輩は机の上の救急箱を漁っている。

 美玲先輩のご家族はお父さんだけで、そのお父さんも多忙でなかなか帰ってくることはなく今日も一人だという。

 ということはこの家で美玲先輩と二人きり。

 二人、きり……。

 駄目だ駄目だ!なにを考えているんだ僕は!

 

「ほら、座って。手当てするから」

「あ、はい! ありがとうございます」

 

 促されるままにベッドに腰をおろす。

 

「それじゃあ、脱いで」

 

 そっか、脱がないと手当て出来ない。

 服に手をかけて……。

 いやいや待て待て!!!

 

「み、美玲先輩。脱げだなんて、そんな……」

「なにを恥ずかしがっているの?水泳の授業でもそんなに恥ずかしがるの?」

「いや、そういう問題ではなくその……シチュエーションの問題というかなんというか……」

 

 水泳はみんなそういう格好するからいいし、そういうものだからなんともないわけだが、美玲先輩と二人きりでという状況だからまずいのだ。

 

「けど、脱いでもらわないと手当てが出来ないわ」

「そう、言われても……」

 

 恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。

 

「……そう。じゃあ、脱がすわ」

「え? ちょ!!! えええ! 待っ! 美玲先輩!!」

 

 美玲先輩は僕をベッドに押し倒して、ワイシャツのボタンを上から外していく。

 身動きがさっぱり取れない。

 美玲先輩の視線が僕を捕らえて離さない。

 飲み込まれてしまいそうだ。

 そして、全てのボタンが外されシャツを捲られる。

 

「酷い、怪我……」

 

 ここではじめて自分の怪我を見た。

 全部はちゃんと見れないけど、すごい赤黒くなっている。こんな怪我はじめてだ。

 怪我をした箇所に見入っていると美玲先輩はそっと僕の頭を撫でた。

 

「ごめんなさい。あなたを、守ることが出来なくて……。あなたにまたこんな怪我をさせてしまった……」

 

 その目には涙が浮かんでいた。 

 こうなってしまったことに責任を感じているのか。

 違う。

 美玲先輩のせいじゃない。

 悪いのは僕だ。

 僕が弱かったから、こんな怪我をする羽目になったんだ。

 美玲先輩が責任を感じるようなことじゃない。

 僕があいつより強かったらこんなことにならなかった。

 全部、僕の弱さのせいだ。

 

「美玲先輩……。大丈夫ですよ。僕が弱かったからこんな怪我したんです。美玲先輩が謝るようなことじゃありません」

「……やっぱり、燐は優しいのね」

 

 美玲先輩の手が僕の髪を撫で、輪郭をなぞる。

 まるで大切なものに触れるかのように。

 月の青白い光に照らされた美玲先輩の顔が妖しく、艶めかしく映る。

 なんて、綺麗なんだろう───。

 

「……早く、手当てしましょう。応急処置くらいしか出来ないけれど」

「あ……は、はい。お願いします……」

 

 

 

 

 

 

 燐は帰った。

 燐は気付いていないかもしれないが、ここは私の部屋なのだ。

 冷たい部屋に私一人。

 いや、一箇所だけ暖かい場所がある。

 さっきまで彼がいた、ベッド。

 ベッドに倒れる。

 彼の温もりを確かめるようにシーツを手繰り寄せる。

 そうすると、彼の香りが鼻孔をくすぐる。

 まるで、彼が私を包んでくれているよう。

 

「り、ん……」

 

 体が火照る。

 胸が高鳴る。

 呼吸が乱れる。

 ふと、ベッドに投げ捨てていたカードデッキが目に入る。

 デッキを手に取り一枚のカードを引き抜いた。

 私の、メモリアカード……。

 

『愛』

 

 これが、私の願い。

 燐からの愛。

 それが、私の願い。

 ああ、どうして……。 

 どうして彼は……。

 

 

 

 

 

0ー?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれは、五月末のことだった。

 少しずつ夏が近付いて、気温が上がっていてその日ももう夏ではないかと思わされるほどの暑さ。

 そんな日に、私は彼に呼び出された。

 

「美玲先輩! 僕と……僕と付き合ってください!!!」

 

 真っ直ぐな目だった。

 初めてだった。

 こんな風に、私を求めてくれた人は。

 私のことを好きだと言ってくれたのは。

 分からなかった。

 彼のことは弓道の県大会で優勝した時に取材してきた新聞部の子だということしか知らなかった。 

 面識なんてその時くらいしかなかった。

 会話したのもその時だけだった。

 分からないものは怖い。

 だけど、私は───。

 

「その、私なんかで、良ければ……」

 

 彼の思いに答えた。

 そしたら彼は飛びっきりの笑顔で笑って「よろしくお願いします」と言ったのだ。

 その姿がとてもかけがえのないものに思えて……。

 それから、彼と交流をしていくうちにどんどん私は彼を求めていくようになった。

 彼がいない生活なんて考えられなかった。

 依存していると言って過言ではなかった。

 こんなにも、私のことを愛してくれる人はいなかった。

 これまで無色だった私の世界が華やかに色づいた。

 だけど、ある時から彼との時間が取れなくなった。

 私のことを避けているようだった。

 そんな日が続いた時だった。

 アリスが現れたのは……。

 

「こんばんは美玲ちゃん。私はアリス。単刀直入にお伺いしますが、貴女は叶えたい願いってありますか?」

 

 そして、私はカードデッキを手に入れた。

 私は戦った。

 願いを叶えるために。

 その結果が……あれだ。

 全てを覚えているわけではないがあんな結末、許せるはずがない。

 やがて戦いは終結し……。

 時は捻れた。

 

 

 

 

「美玲ちゃんの願いを叶えるためには~燐君をライダーにしないことが一番です。もしライダーになってしまったら燐君を守って、美玲ちゃんと燐君が最後の二人となった時に燐君からライダーの権利を奪えばいいんです」

 

 そうして最後の一人になればいいんですよ。

 アリスはそう妖しく微笑んだ。

 だけど……。

 ああ、もう何度目なのだろう。

 記憶が全てあるわけではない。

 今度こそ、今度こそ時を正すのだ。

 そして、彼と愛しあった日々を……取り戻すんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 美玲先輩から手当てをしてもらって家路についた。

 月がよく出ているので明るく歩きやすい。

 送っていきましょうか?なんて言われたけれど流石に断った。僕を送って家に帰ってなんてしていたら遅くなってしまう。

 美玲先輩だって怪我してるのにそんなことさせたくない。

 ……そういえば、鏡華さん。

 忘れてた。

 あのあと置き去りじゃないか!

 帰って来なくて心配しているかもしれない。無事を伝えたいが生憎連絡先の交換はしていないから伝える手段がない。

 明日学校に行った時に伝えよう。

 

「こんばんはー燐君! あなたの愛しいアリスちゃんですよ~♪」

 

 なんともまあ、気の抜ける声が夜の静寂に響いた。

 名乗った通りだが、アリスだ。

 最近潰れたコンビニの窓ガラスから僕に声をかけたようだ。

 

「……何の用?」

 

 早く帰りたかったせいか自分でも想像していないほどの苛つきを孕んだ声が出た。

 それを聞いたアリスはむっとした顔をして「イジワルな燐君はダメですよ~」なんて冗談めかした前置きを置いて用件を言い始めた。

 

「今日は燐君にお願いがあって来ました。燐君。カードデッキを返してください」

 

 真面目な顔をしたアリスが左手を差し出している。

 先程までの冗談はない。

 本気だ。

 本気で言っているんだ、アリスは。

 

「ライダーバトルの参加者は少女だけ。燐君が参加するのはルール違反というものです」

 

 ルール違反?

 確かに昨日、あの黄色いライダーが女子限定って言ってたし今日出会ったライダー達も女の子ばかりだった。

 やはり、そういうルールなのか。

 だとしても降りるわけにはいかない。

 モンスターに襲われる人達を守らなくてはいけない。

 

「悪いけど、デッキを渡すわけにはいかない。これは皆を守るための力だ!」

「……手放したほうがいいとアリスは思うんだけどなぁ。そんなもの持っていても面倒に巻き込まれるだけ。私に返せば元の普通の生活に戻れますよ?それに……私としても、手荒な真似はしたくないんです」

 

 手荒な真似……。

 ミラーワールドの存在ならばモンスターのように鏡があるなら僕をいつでも襲えるということか。

 

「早く返してください。燐君がそれを持っていては……ッ!!! ごめんなさい燐君。ちょっとお客さんが来たので今日はこれくらいで。また会いましょうね燐君!」

「あ、おい!!!」

 

 それだけ言ってアリスは鏡から姿を消した。

 ……ミラーワールドでお客さんが来たってなんだよ。

 とにかく今後はアリスから襲われるかもしれないということを念頭に置いて生活しないといけない。

 ……かなり注意深く生活しなきゃいけなくないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 合わせ鏡が無限に広がる空間。

 ここに入れる者は限られる。  

 しかし、ここに招かれざる者が侵入したのだ。

 

「やはり、あなたでしたか」

 

 アリスの声に応じて、黒い騎士は現れた。

 黒いツルギ……。

 アリスは黒ツルギを睨み付け、忌々しげな顔で言い放った。

 

「困るんですよね。イレギュラー……。いえ、バグの存在は!!!」

 

 アリスは黒い液体を足元から湧かせ、槍のような形に形成し黒ツルギに向け放った。

 迫る黒い槍。

 しかし黒ツルギは焦ることもなくカードを切る。

 

【SWORD VENT】

 

 低く、くぐもった音声が流れると大剣が天から落ち壁となり槍の一撃を防いだ。

 黒ツルギはその大剣『ブラックドラグバスターソード』を地面から抜き片手で振り回しながらアリスへと迫る。

 鏡の世界で、戦いの音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日も今日とて学校である。

 怪我はまだ治っていないが勉学に支障がない以上学校に行かなくてはならない。

 登校して早々、鏡華さんに昨晩のことを問い詰められ洗いざらい吐いた。

 今後はしっかり連絡してください!と鏡華さんと連絡先の交換をしたのは役得だったが。

 そんなこんなで授業を消化し今はHRの時間。

 文化祭まで一ヶ月ということでHRの内容も文化祭に関することなのだが……。

 教室の中は騒々しかった。

 理由は、黒板に大きく書かれた『男装女装コンテスト』のせいだ。

 男装女装コンテスト。

 読んで字の如く。

 女子が男子の格好をして、男子が女子の格好をするのだ。

 なんでも今日の文化祭実行委員の集まりで急に決まったとかなんとかなイベントなのだ。 

 まあ、準備に時間がかかるようなものでもないから一ヶ月前に言われても問題はないわけだが。

 わけだが……。

 

「というわけで女子は笹田に決まったから男子、さっさと決めて」

 

 教壇に立ち、音頭を取るのは一年を代表するギャルトリオの一人『中野乃愛』。

 赤みがかった金髪(ストロベリーブロンドというらしい)という非常に目立つ髪色をしている彼女は有名人だ。校則では特に髪色の指定などはないが、こんなピンク色の髪をしているのは彼女ぐらいのものだろう。

 文化祭実行委員の彼女がこの時間、司会をするのは当然のことなのだが苛立っている。

 理由は……。

 

「佐藤、お前やれよ」

「嫌だよ女装なんて。俺は木村がいいと思いまーす」

「はぁ!? 誰が女装なんてするかよ!」

 

 この調子である。

 まあ好き好んで女装したがる奴なんてそうそういないわけで決まらないのである。

 

「もういいからちゃっちゃと決めなさいよ。男らしくズバッと決断しなさい!」

 

 乃愛さんの苛立ちは更に加熱していく。

 別に乃愛さんがキレたところで僕にはなんの被害もないのでいいのだが。

 

「……女装といえば斉田。お前、背も小さいし顔も中性的だし適任じゃね?」

 

 誰かがそう言った。

 そうすると、周りから賛同の声が出始めた。

 確かに斉田君は中性的な顔立ちをしている。しかし僕は彼の受難を知っている。

 彼特有の悩みを。

 

「絶対に……絶対にやらないからな! ただでさえ彼女から着せ替え人形みたいにされてるのにこんな時まで女装なんて……僕はもう嫌なんだよぉぉぉぉ!!!!!」

 

 斉田君の彼女さんは二年生でバスケ部所属。そしてなんといっても逆身長差カップルなのだ。

 30cmはあっただろうか。

 それくらい身長差があるのだ。

 そして彼は先程述べたように彼女さんから女装させられることがしばしばあるという。

 

「お、おう……。悪かったよ斉田……こんなに嫌がってる奴にやらせるわけないもんな」

「そうだな。じゃあ言い出しっぺの木村が女装な」

「なっ!? 俺だって嫌だよ!!!」

 

 はあ……。

 これはしばらく決まりそうにないな。

 この間に今日の取材で聞くこととかまとめておくか。

 ……乃愛さんが、こちらを見ている。

 思わず目があってしまったがあれだろう。僕を見ているなんてことはないだろう。多分。

 

「御剣」

「ひゃ、ひゃい!」

 

 急に名前を呼ばれて思わず変な声で返事をしてしまった。

 一体、乃愛さんはどうしたというのか……?

 

「ちょっとついてきて。あ、リナとミコも来て」

 

 え?え?

 なに?なにが起こるの? 

 僕は一体どうなってしまうの!?

 

「いいから早く来なさい!」

「は、はいぃ!!!」

 

 僕はなにも分からないままついていくしかなかった。

 だけど、このあと僕を待ち受けていたのは残酷な運命であった。

 

 

 

 乃愛さん達に連れられてやって来たのは女子更衣室。

 女子更衣室!?

 僕なんかが入るわけには……!

 

「大丈夫、見張り立てるから。それより早く入って。人がいない今がチャンスなんだから。それともなに? 御剣は誰かに自分が女子更衣室に入るところを見られたいわけ?」

 

 うっ……。

 他の人に見られるのは嫌に決まっている。

 恐る恐る女子更衣室の中に入る。

 なんだ、中は男子更衣室とそれほど変わらないんだな。

 

「それじゃあ御剣。脱いで」

 

 え?

 今この人なんて……?

 

「だから、脱ぎなさい」

「なんで!?」

 

 昨日から女子に脱げと言われるのはなんだ?

 厄日なのか?

 

「ああもう! リナ、御剣を押さえて」

「オッケー!」

 

 利奈さんが後ろから僕を羽交い締めにして拘束する。

 抵抗しようにもあまり乱暴はしたくない。

 それにしても利奈さん力強いな!?

 利奈さんは確か服飾部だったはず……。

 服飾部って筋肉が必要なのか?

 そんなことを考えているうちに制服のワイシャツのボタンが次々と乃愛さんによって外されていく。

 

「ちょっと待って! なんでこんなことするのさ!?」

「御剣が自分で服脱がないからでしょ。嫌なら自分で脱ぎなさいよ」

「なんで僕が服を脱がなきゃいけないのさ!? 説明してよ!!!」

 

 なにも分からないままに巻き込まれるなんて本当に理不尽なんだから!

 説明責任を果たしてください!

 

「あーもうまどろっこしいなぁ。黙って脱がされなさいよ」

 

 黙って服を脱がされるような人いないと思うのですが。

 

「乃愛。説明ぐらいしてあげたら? なんにも言わないで他の人巻き込むのは乃愛の悪い癖だよ」

 

 外で見張っていた弥子さんがドアの隙間から顔を出して乃愛さんを窘めてくれた。

 僕の声を聞いて助け船を出してくれたらしい。

 ありがとう弥子さん!

 

「……しょうがないなぁ。あのね、あんたも分かっての通り誰も女装したくないでしょ?」

「それは、まあ同じ教室にいたから分かるけど……」

「というわけで私の独断と偏見で勝手に御剣に決めたわけ。だから早くこっちの制服に着替えて」

 

 横暴な!!!

 勝手に決めるなんて民主主義を貫く我が国ではご法度だぞ!

 

「民主主義? なにそれ?」

 

 駄目だこりゃ。

 成績そんな良くないの知ってるけどまさかここまでとは。

 

「ああもう! さっさと脱ぐッ!!!」

 

 遂に強行策に出た乃愛さんによって次々と制服が脱がされていく。

 そして……。

 

「ウィッグつけただけでも結構いけるわね。よし、あとはメイクっと。あ、そんなガチガチにはやらないからちょっと待ってて」

「うぅ……」

 

 僕にはもう抵抗する気力もなかった。

 どうして、女装って精神的にもダメージが来るのだろう。

 男装はなんともなさそうなのに。

 あー……頭がウィッグのせいでチクチクする。

 足がすうすうする。

 女子はいっつもこんな感じなのか。

 てかこの制服は一体誰の物なのか。

 僕なんかが着ていいものなのか?

 後から、「あんたが着たせいでもうこの制服着れないじゃない!弁償して!」なんてことにならないだろうか?

 ダメだ。嫌な想像しか出来なくなっている。

 頼むから早く終わってくれ……。

 

「はい終わりっと。これで見てみ」

 

 乃愛さんから鏡を手渡され、嫌々覗いて見ると……。

 なんと!そこには美少女がいた!

 いや、自分で言うか普通。

 だけどなんというか生まれ変わったかのようななんというか……。

 ほえ~。

 

「よし、それじゃあ教室に戻るわよ」

 

 え。

 まさか、この格好で?

 

「当然じゃない。みんなに見せるんだから」

「や、やだやだ無理無理! 着替えてから! 着替えてから戻ろう!」

「なに駄々こねてるの。どうせ全校生徒に見られるんだからクラスメートに見られるぐらいで恥ずかしがってたらいけないんだから。よし、連行!」

 

 アイアイサー!と利奈さんと弥子さんが僕の腕をそれぞれ掴んで歩き出した。

 嫌だ!待ってという声は聞き入れてもらえず、僕は教室へと死の行軍を行う羽目になったのである。

 

 

 

 

 

 

 御剣君は中野さん達に連れられてどこかに行ってしまいました。

 あれから20分ほど。

 本当になにをしているのでしょうか……。

 考えていると、教室のドアが開いて中野さんと佐々木さん、海藤さんと……最後の方はえーと……。このクラスの方ではなさそうですが……。

 黒髪のウェーブがかったロングの少女。

 制服をしっかり着こなして黒いタイツを履いています。清楚といった印象を受ける方です。

 教室のあちこちから「誰?」や「可愛い」などと言った声が聞こえます。

 俯きがちのその人は、どこかで見たことあるような……。

 

「あの中野さん。その娘は…?」

 

 勝村さんが中野さんに質問しました。

 皆が気になっていることを率直に聞いてくださってありがとうございます。

 ではなくてですね。

 あの方は一体……?

 

「誰って皆分からないの?御剣よ御剣」

 

 御剣、御剣……。

 御剣君!?

 あの方が!? 

 

「これで女装の方の出場者も決まったわね。うんうん。やっぱり私の目に狂いはなかったわ!」

 

 中野さんは満足そうに笑顔を浮かべうんうんと頷いています。

 隣の御剣君は恥ずかしそうに顔を赤らめ俯くばかりです。その姿もどこか愛らしいと言いますかなんと言いますか。

 つまりですね……可愛いということです!

 

「御剣君可愛いよ!」

「優勝狙えるかも!」

「いけるいける!」

「笹田!しっかりエスコートしてやれよ!」

 

 クラスの皆さんも盛り上がっています。

 これは本当に優勝を狙うことが出来る逸材です。

 

「それじゃあ今日から御剣には女っぽい仕草とか仕込んでいくから放課後少し空けておきなさい。大丈夫安心して。私が優勝させてあげるわ」

「は、はい……」

 

 小さな声で恥ずかしそうに返事するのも可愛いらしいです。モジモジとしてハムスターなどの小動物のようです。

 ぜひ、今の御剣君を間近で見てお話したいものです。

 盛り上がっていると授業終了の時間を告げるチャイムが鳴りました。

 あとは放課後なのでそれぞれ部活動に勤しむか帰宅するかですが……。

 私も少し残りましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もっと足閉じて。開き過ぎ。男子じゃないんだから」

「男子だよ!」

 

 現在、絶賛乃愛さんから女性らしい動き仕草の指導中。

 男子だよ!と反論したらそうだっけ?なんて返されてしまい撃沈。

 今の僕がなにを言っても無駄なようだ。

 ちなみに教室は1ーAの生徒、担任のみ立ち入りが許されており、また僕の写真等をSNSに載せないようにと極秘扱いとなっている。

 優勝に向けてかなりはりきってるな……。

 それにしても自分の席で目を爛々と輝かせながらこちらの様子を見ている鏡華さんは一体なんなのか。

 助けてくれるとかあってもいいんじゃないか?

 無理か……。

 鏡華さんも楽しんで見てるっぽいし。

 ……用を足したくなってきた。

 

「乃愛さん。僕ちょっとトイレに……」

「トイレ? あんまり人目につかないようにして行きなさいよ。女装御剣は極秘扱いなんだから」

「はーい。それじゃあ行ってき……」

「ちょっと待って」

 

 呼び止められた。

 早くしてほしいのだが。

 漏れ……はしないけど尿意がすごい。

 

「なに?」

 

 尋ねると乃愛さんはニヤニヤしながら僕にある質問を投げかけてきた。

 

「男子トイレと女子トイレどっちに入るの?」

「男子だよ!」

 

 僕は勢いよく扉を開閉して、トイレに向かった。

 あんまり人で遊ぶんじゃないまったく。

 

 

 

 

 

 この格好で男子トイレに入るのは少々躊躇われたので人気のない一階の理科室前のトイレで用を足した。

 ここなら利用者も少ないので安心して用を足せる。

 それにしても……。

 はあ……。早くこの格好から解放されたいな……。

 トイレの鏡に映る今の自分を見てため息をつく。

 鏡……。

 アリスがもしかしたら襲ってくるかもしれない。

 だけど……。

 何故か、アリスはそんなことしないだろうという確信めいたものが僕にはあった。

 彼女のことなんて、なにも知らないのに。

 ……早く戻ろう。 

 トイレから出て、すぐの通路を曲がると……。

 

「きゃっ!」

「わっ!」

 

 人とぶつかりそうになった。

 スポーツウェアに身を包み、長い金髪で左目を髪で隠しているこの人は……。

 思い出した、テニス部の北先輩だ。

 って!そんなことより謝らないと!

 

「す、すいませんちゃんと前見てなくて……」

「こちらこそすまない。驚かせ、て、しまった……」

 

 ?

 どうしたのだろうか?

 目を見開いてそのまま動かなくなってしまった。

 

「あのー? どうかしました?」

「……命だ」

 

 え?

 

「運命だ……! よもや、君のような子猫ちゃんがこの学校にいたとは……!」

「こ、子猫、ちゃん……?」

 

 なにを言ってるんだこの人は。なんて思っていると顎に指をかけられ、顔を上げさせられた。 

 向こうの方が背が高いのでちょうど先輩の顔の方を向けられた形になる。

 顎クイだ!

 現実にやる人がいるなんて!

 じゃなくて!!!

 

「あの、ええっと……」

「戸惑う必要はないよ。私は、北津喜。2年C組でテニス部所属。君は?」

「えっと……み、御剣燐です。1年A組で新聞部です……」

 

 僕も名乗ると北先輩はそうかそうかと満足そうに笑顔を浮かべた。

 本当になんなんだ?

 僕は一体なにをして、なにをされているんだこれは。

 

「リン……。いい名前だ。新聞部か。では、秋の大会で好成績を収めれば君に取材してもらえるということかな?」

「ま、まあ……。そうなれば取材にはきっと行きますよ。僕じゃないかもしれないですけど……」

 

 そう言うと北先輩は何かに衝撃を受けたようだった。

 一体今度はどうしたというのだろうか?

 

「ぼ……」

「ぼ?」

「ボクっ娘だとぉぉぉぉぉぉ!!?!?!?!」

 

 急な大声に思わず耳をふさいだ。

 それにしても一人称が僕なのがなにか問題あるだろうか?

 まあ、確かに周りを見れば俺って言ってる人が大半だけど、そこまで珍しいわけでもなかろうに。

 

「こんな可愛さでボクっ娘だなんて属性が……。くー! かーーわいいーーーー!!!」

 

 可愛さ……?

 そうだ、今の僕は女装しているんだった!

 ボクっ娘ってそういうことか!

 すぐに誤解を解かないと……。

 

「あの、僕は……」

「いや、皆まで言わなくていい。確かに若干あざとさはあるかもしれないが、君の可愛さの前には全て灰塵と帰す。あと声も低めなのがギャップがあっていい。あ、気にしていたなら気を悪くしないでくれたまえ。私は君のその声も好きだよ」

 

 あざといって言われた!?

 ただの一人称なのに!?

 声で気付かないもんかなと思ったけれどまさか低音なことを気にしてる人みたいに捉えられたし。

 多分というか絶対この人、人の話を聞かないタイプの人だ。

 

「あの、北先輩……」

「私のことはぜひ津喜と下の名前で呼んでほしい。そのほうが、より親密になったと思えるだろう? さて、そろそろ私の家にでも来て夜明けのコーヒーでも……」

 

 よ、夜明けのコーヒーってつまり……。

 どうしよう、このままじゃお持ち帰りされちゃう!?

 なんかよく分からないけどこの人にはされてしまいそうな気がする。

 誰か助けて……。

 

「津喜ー! 松岡先生が呼んでるよー!」

 

 救いの手だ!

 僕の祈りを神様が聞いてくれたんだ!

 僕……神様信じるっ!

 

「チッ横槍が入ってしまったか……。残念だが、今日はもうお別れの時間だ。また会おう」

 

 そう言って津喜先輩は去っていった。

 た、助かった……。

 なんというか、嵐のような人というか……。

 とりあえず、僕が苦手なタイプだということは分かった。

 あの人が秋の大会で活躍しても、絶対に僕は取材に行かないということを固く決意したのだった。




次回 仮面ライダーツルギ

「御剣君御剣君。女装、とっても似合っていましたよ!」

「君、ライダーでしょ」

「まだモンスターと契約していないのか!?」

「そうですね……。運命を、感じたものですから」

願いが、叫びをあげている────。



キャラクター原案
影守美也 マフ30様
北 津喜 はっぴーでぃすとぴあ様

今回はちょっと少なめ、次回以降ライダーだけでなくキャラクターもたくさん登場していきますのでよろしくお願いします。

ADVENTCARD ARCHIVE
SWORD VENT(黒のツルギ)
ブラックドラグバスターソード 6000AP

黒いツルギが用いる黒いドラグバスターソード。
ツルギが使用するドラグバスターソードよりAPが1000AP高い。

黒翼の巨大な刃を前にして、その身が砕けぬものはない。
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