目を覚ます。
見慣れた我が喜多村家の天井と吊り下げ式の照明。嗅ぎ慣れた畳の匂い。
目を覚ます?
「あれ、寝落ちした?」
眠りについた記憶はない。
というか、そもそもの話。
「いつ帰ってきたんだっけ?」
ひとまず、眠る前の記憶を辿る。まずツルギ君と会って、ちょっと戦って、ファミレスでご飯して山奥で変態と戦って忍者君がサバイブして……。
「やーばい。記憶がなんもないや。二日酔いかな?」
あはは、と自分以外に笑う者のないジョークで笑い、声が静かな部屋に響く。
起き上がり、時計を確認。……完全に寝過ぎた。
最後の記憶の時点で夜だったのだ。もう既に日が高い。
「さ〜て、戦いに行こうかな〜。戦いに……」
ふと、胸に手を当てる。
何故だろう、心が躍らない。
「停まってる————」
御剣の肩を掴み、奴の目を見た瞬間、永遠という時間を見た気がした。永遠という檻に自分が閉ざされてしまったかのようで、人間が醸す雰囲気のそれではない。
「お前……」
辛うじて発した言葉はそんなもので、何かを明確に御剣に言うのではなく、ここで口を動かさなければ呼吸の仕方を忘れてしまうのではないかという恐怖。魚が水面で口をパクパクとさせるようなものだ。一体、御剣に何があったのか。そんなことを気にしたところでアタシには関係はない。御剣とてライダーの一人。つまりは倒すべき敵。だが、敵と言い捨てるには、約束をしてしまった相手だ。単純に敵とは言えない。
そう、だから。約束、つまりは契約。御剣が約束をしっかりと守っているのか。これからも継続して守ることが出来るのかは、約束した以上こちらに知る権利があるだろう。契約と言うには一方的に取り付けてしまったものではあるが、大事なことだ。
「お前……御剣、だよな……?」
「……うん」
ただ、それだけ答えてあとはすんとも言わない。
特別おしゃべりな奴というわけではなかったと思うが、ただ一言で終わらせられては困る。
アタシだって口が上手い方ではないのに。そう思うとなんだか腹が立ってきた。
「おい。なんで、そんな……」
そこまで口を動かして、腹の虫が鳴ってしまった。
腹が立ったせいだろうか。とにかく、こんな状況で鳴る腹の音というのはアタシがまるでマヌケなようでそれもまた苛つかせる。
だが、そんな時に限って御剣に動きがあった。
予備の白いヘルメットを取り出して、アタシに差し出してきた。
言葉にはしないが、ついて来いということらしい。
どういう了見か知らないが、アタシもまた行く宛のない身。この先に鬼が出ようが蛇が出ようが構わないとヘルメットをぶんどった。
バイクに乗るのは初めてだ。ライドシューターはあれはバイクとは違う別の乗り物だろう。
それにしても、こんな目立つ真っ白いバイク(それも改造されてる)で街中を走るのかと思ったが、御剣はミラーワールドとこちら側の世界を上手いこと利用して人に見られないよう走っていた。
そして、辿り着いた先は駅前という一等地に建ちながらも数年前に潰れた百貨店の跡地。せっかくの土地と建物を利用していこうとしていたが、運営しようとする会社が現れては消えを繰り返して、結局解体されることもなく街に取り残された巨大な幽霊。そんな風に、蓑代わりにしていた新聞に書かれていた記憶がある。
照明の類いは当然ついておらず、まだ日が昇っているにも関わらず薄暗い。昔は人で溢れ返っていただろうに、今はこんなにがらんとしている。
百貨店だったことが幸いしてか、巨大な鏡が壁に埋め込まれていてそこからバイクごとミラーワールドから出て、そのままバイクは駐車。
御剣はここを拠点としているようで、放置されたソファがベッド代わりらしく、周辺にはペットボトルの水が数本とコンビニ弁当やカップ麺のゴミが置かれていた。
「カセットコンロまで……いい生活してんな」
つい皮肉を言いたくなった。
アタシも根なし草だが、ここまで文化的ではなかった……と思っていると、あることに気がついた。
「逆だ」
カセットコンロは鏡写しのように普通のそれとは逆。近くに捨てられているカセットコンロの箱を手にして見ると、文字が反転していた。
「ミラーワールドからパクってきたのか?」
訊ねても返事はない。
返事の代わりに、カップ麺が投げつけられた。突然のことに驚き若干もたつきながらもキャッチしてパッケージを見る。これもやはり反転している。
「ミラーワールドのものなんか食って大丈夫なのかよ……」
御剣は淡々とやかんに水を注ぎ入れて、カセットコンロにやかんを乗せて火にかけた。
ソファに腰かけ、御剣はぼうとやかんを見つめている。だが、きっと御剣はやかんなんて見ていない。
そんな確信だけがあった。
「ミラーワールドのもの食ってそうなったとか言わないよな」
御剣に反応はない。
ミラーワールドのものを食べて無口になるなら、きっとアリスはああはならないだろうとミラーワールドに住む奴を連想して今の仮説は違うだろうと一人で結論づける。
もうその際、食えるならなんでもいい。
カップ麺の封を破り、蓋を半分まで開ける。
姉貴醤油という商品名は意味が分からないが、味にまでは影響しないだろう。
「おい、箸は」
箸がないことを抗議すると、御剣は手近な袋からプラスチックのフォークを取って投げ渡してきた。
やはり、人の話は聞いているらしい。
ますます謎だ。
それにしても、フォークかよ。食い辛そうなもん寄越しやがって。
「……別に文句言うわけじゃないけど、ラーメン以外はなんかないの」
「……」
これにはなんのアクションも起こさない。
カップ麺がこれしかないのか、黙ってこれを食えということか。そうこうしているうちにやかんが鳴き始めた。沸騰したらしい。やかんを取り、お湯を注ぐ。
あとは適当に三分待つ。
これでも体内時計には結構自信がある方で、タイマーがなくても三分を正確に測ることが……。などと思っていると、御剣がカレー味のカップ麺を取り出しやがった。
「あるじゃねえか! ラーメン以外の!」
くそ、カレーの匂いがしてきやがった。
一種のテロのようなものじゃないのか、これは。口がカレーを求めてしまう。
次に腹が減ったら絶対にカレー味にしてやる。
それにしても、ミラーワールドのものをこちらに持ち込むという発想は今までなかった。
勝手に無理だと思っていたからだ。
第一、アタシらはミラーワールドに十分程度しか滞在出来ないのだ。それは逆にミラーワールドの存在はこっちに来れない、こっちに来ても同じように制限時間が存在するだろうと考えるのが自然。
だが、いいことを知れた。これで少なくとも食事に困ることはなくなった。腹が減ったら、ミラーワールドのものをかっぱらえばいい。
ミラーワールドには店員も何もいないのだから、金もかからない。盗むというわけでもないのだ。心置きなく、好きなものを食える。
三分経った。
蓋を取り、フォークで中の麺の上下を入れ替えて……。
「カップ麺をフォークでとは、通だね〜」
「おわっ!?」
急に話しかけられて驚かない奴はいない。
大体、なんでこいつがここにいる。
喜多村。
「お前、喜多村なんで!」
「そう身構えるなよ〜。ちょっと戦いに来ただけじゃないか〜」
「そういうことを聞いてんじゃねぇ!」
「ライダーいるところに喜多村遊あり!」
なんだこいつ。
いや、こいつはそういうやつだった。
「……麺が伸びるから後にしろ」
「うんうん待つ待つ! のびたラーメンほど悲しいものはないからネ!」
「……なんか、テンション高くね?」
「いやいや、いつもの喜多村さんだよ〜。ささ、わたしのことは気にせず食べた食べた! ツルギくんもね!」
ペカーという擬音がつきそうな笑顔を向けられるも、御剣に反応はない。
「むうー。シカトとはお姉さん悲しいぞ」
「今のそいつに何言っても無駄だからな」
「え、なにそれどういうこと?」
慣れないフォークで麺を啜っていると、本来であれば誰も立ち入らない(既にアタシらが立ち入っているが)ここに足音が響いた。
こちらに近付いていることは間違いない。
「おい喜多村。入るとこ見られたんじゃねぇだろうな」
「そんな、いくらわたしが美少女だからって。注目集めちゃった!?」
「うぜぇ」
警備員なり警察だったら面倒だ。
ただ、それにしては御剣がまるで動じていない。警察とかではない、のか?
そして、足音の主が姿を現す。
「うーわ。御剣探してたらとんだオマケ付き」
「おおー! 忍者くんじゃないかー!」
現れたのは、黒峰だった。
「……なんで」
「それはこっちの台詞なんだけど。なんでいるわけ?」
「たった今やって来た奴から話せよ」
「……ステルスニーカーに御剣を探させてたわけ。見つかったって言うから来てみれば、なんでいるかなー」
「まあまあこれも何かの縁。ささっ、火でも囲んでお話しましょうや」
なんで喜多村が仕切ってるんだ。
火でも囲んでって、カセットコンロだし。御剣は何にも言わないし。アタシがつっこまないと駄目なやつなのか?
黒峰は居場所がないのもあれだしと渋々と、こちらに近付いてカセットコンロをアタシ達と囲む。そして、アタシのカップラーメンを見て。
「ラーメン好きだね」
と、バカにするような口調で言い放った。
「あいつが寄越したのがこれだったんだよ」
「それでおとなしく食べてるとかウケる。あんた案外、犬っぽいわけ?」
「うっせぇ」
人を煽ることしか出来ないのか、こいつは。
「元々あのマジックの子のとこに居候してたんだっけか。ガチで犬だ」
「お前、殺すぞ」
「殺し殺されはまた今度。で、御剣はどうしたわけ。黙りこくっちゃってさ」
知らねぇとだけ言って麺をすする。
フォークはやっぱり食いづらい。麺も伸びてきてるし、さっさと食べてしまおう。
「昨日までは普通にお話してたのになー。ほら、あの蜘蛛のやつと戦う前に楽しくお話してたんだよ」
「それ一昨日のことでしょ」
「え!? お、一昨日?」
「そう、一昨日」
「マジかー……わたし、丸一日以上寝ちゃったってコト!?」
「そのままずっと眠ってくれてよかったのに。なんで起きたわけ?」
「死ねってこと!? うーん、でも寝たって感じじゃないんだよなぁ。……それって、やっぱり……」
スープを飲み干し、割箸をカップに入れてその辺に捨て置く。
喜多村の話はどうでもいい。だが、黒峰が御剣を探していたというのが気になった。
「お前、なんでそいつ探してたんだよ」
「……ま、色々ね。御剣が無事に家に帰らないと困る奴がいて、巡り巡ってアタシも困るってわけ。それにしても、御剣。あんたもなかなかの奴だね。咲洲フるとかさ」
「え!?」
「はぁ?」
三人の視線が御剣に注がれる。
そして、気づいた。何を言っても反応しなかった御剣が、黒峰の言葉には反応して、黒峰を見つめている。
「咲洲に会った。めっちゃショック受けてます〜って感じだったけど、彼女はフって家出はして行方不明とか。ほんとなに考えてるわけ」
「……僕、は……」
御剣が、言葉を発した。
あれだけ案山子を決め込んでいたのに。
「美玲先輩に、幸せになってほしい……。それだけ……」
御剣は目を伏せ、か細い声で、今の御剣は触れただけで折れてしまいそうなほど、か弱く見えた。
「うーわ。あんた、そういう? はーい全員聞いてー。多数決とりまーす。御剣が酷い奴だと思う人、手ぇ挙げ」
「はい!」
黒峰が音頭を取ると、喜多村がやたら元気に手を挙げた。
「片月は?」
「バカかよ。アタシは興味がないだけ」
「ふーん。そんで、喜多村は意外とノリ気じゃん」
「いやぁ、だって戦いは止めようとしてくるし。わたしのお誘いにもあんまりノってくれないし。酷い奴なんだよツルギ君は!」
「そういう話じゃないんだけどなぁ。まあいいや、次。御剣が馬鹿だと思う人、挙手」
「はい!」
また、喜多村が手をあげる。話の中身を恐らく理解しないまま。
それにしても馬鹿、か。
「はい、賛成三人〜。御剣、お前馬鹿だよ」
「…………」
「別に、咲洲とどうこうに口出すつもりはないけど……。帰れる家があるなら、帰れよ。こんなとこにいる必要、ねえだろ。お前は」
「……それは、あなただってそうでしょう」
こんな時ばっかり口を開きやがる。
帰る場所?
家はとっくの昔にない。
ママだって死んだ。
アタシの、アタシの帰る場所なんて……。
「瀬那!」
違う。
あいつは、違う。
アタシなんかが、一緒にいたら……。
「……ははっ。この中でなら、アタシはお前のこと理解出来るよ。御剣……」
こいつと同じだなんて言うつもりは毛頭ないが、御剣が言っていた意味がよく分かる。
そして、それが馬鹿なことだということも。
それでも、そうすることしか出来ないことも。
だからアタシは、アタシの帰るべき家を求めている。
「もうくだらない多数決はいいだろ。誰にどういう事情があるとか、そんなのも関係ない。アタシらはライダーだ。ライダーなら、戦えよ」
願いのために。
「そう来なくっちゃ!」
「チッ……喜多村だけじゃないわけ? バトルジャンキーはさぁ」
「いい加減、お前らの顔見るのも飽きたんだよ。そろそろ消えろ」
喜多村と黒峰が立ち上がる。デッキを手にしながら。
だが、こいつらじゃない。アタシが、本当に消したい相手は。
まるでアタシと鏡写しのように独りになって、それでもまだ帰るべき場所がある。
御剣。
今のお前は、本当に目障りだ。
「……戦うなら、止める。戦いを終わらせるために」
御剣も立ち上がる。
虚無を宿していた瞳に、刀のような鋭い光が灯る。
「はあ……次ヤる奴は決めてたけど……。ある意味、ベストメンバーかもね」
「いやぁ喜多村さんとしても嬉しすぎて吐きそうだよ」
「泣けよそこは」
ひどく、自然だ。
これから殺し合うというのに、誰も何も気負っていない。
ちょっとそこらへ散歩に行くみたいな、そんな気軽さすらある。
なるほど、ある意味ベストメンバーとはこういうことか。たしかに、こういうのは久しぶりな気がする。
何の邪魔も、何の陰謀もなく、ただ戦う。それだけのライダーバトルというのは。
巨大な鏡の前に四人並び立ち、同時にデッキを鏡へと翳す。
「変身ッ!」
「変身っとぉ!」
「変身」
「……」
四人の仮面ライダーが並び立つ。
仮面ライダースティンガー。
仮面ライダーレイダー。
仮面ライダー甲賀。
仮面ライダーツルギ。
慣れた足取りでミラーワールドへと移り、反転した薄暗い施設内でそれぞれの武器を構える。
【STRIKE VENT】
【STRIKE VENT】
【SWORD VENT】
【SWORD VENT】
スティンガーとレイダーはストライクベントを使い、契約モンスターの腕部や胴体を模した格闘武装を装備。ツルギと甲賀はソードベントを使い、ツルギは二本のダガー。甲賀は巨大な手裏剣を手にする。
四人は向き合ったまま、ジリジリと間合を測る。
凄まじい緊張感。張り詰めた空気の中、仮に乱入しようというものがいれば四人からの一斉攻撃に戦闘不能となるだろう。
先に動いた者から負ける。
否。
「ひゃっほぅ!!! こういうの待ってたんだよねぇ!!!」
巨大な鋼の拳を装着したレイダーがスティンガーへと殴りかかる。
一方のスティンガーはツルギ目掛けて飛び掛かっていた。スティンガーにとって、現状最大の敵はツルギ。
しかし、それではレイダーからの攻撃を喰らってしまう。
それでもツルギへと向かったのは、スティンガーには確信めいたものがあった。
ツルギが、スティンガーの攻撃を回避しながらレイダーとスティンガーの間に割って入る。レイダーの拳を裏拳でいなし、逆手に構えたダガーを振るうもレイダーはバックステップで回避。
戦いを止めようというなら、先に攻撃したライダーをツルギが狙うはずというスティンガーの読みは当たっていた。あえて攻撃を避けさせたスティンガーはツルギの背を狙い、手甲に秘した毒針を向ける。
「アタシのこと忘れてない?」
風を斬り、飛来する四枚の刃。スティンガーは手甲で弾き飛ばすも、想像以上の威力に仰反る。その間にも手裏剣は甲賀の手へと戻り、身軽な甲賀は華麗な跳躍を見せつけながらスティンガーへと攻撃を仕掛ける。
大振りな手裏剣の一撃を回避したスティンガーを待っていたのはローキック。がくんと下がる視界にスティンガーは恐怖を覚えた。体勢を崩しながらも、スティンガーは腰に差したクインバイザーを逆手に持ち、抜刀。がむしゃらにクインバイザーを振り上げて接近していた甲賀を牽制。
「チッ……!」
「やるじゃん……!」
後退する甲賀を視線から外さぬよう、スティンガーは背中から地面につくと即座に起き上がり、改めて敵を見据える。
誰も彼も、ここまで熾烈なライダーバトルを生き残ってきた者達。誰一人として尋常ではない。
「君とまともに戦えて嬉しいよ!」
レイダーの拳がツルギへと放たれるも、ツルギは容易く回避する。レイダーのパンチは柱を砕き、コンクリートの破片が散らばり、灰色の砂煙がレイダーを覆う。
振り向きながらレイダーが放った裏拳をツルギは受け止め、レイダーの腕を捻り上げると反対の腕も掴み、舞踏会でダンスを踊るかのような流麗な動作でレイダーをスティンガーと甲賀が鍔迫り合っているところへ投げ飛ばす。
「うわぁぁ!?」
「ちょっ!?」
「邪魔すんじゃねぇよ!」
スティンガーが転がるレイダーを蹴飛ばしてから、ツルギへと向かう。
その背に向けて、甲賀が手裏剣を投擲。
「チッ……」
スティンガーは肩越しに後方を確認するとサッカーのスライディングのように前方へと進みながら手裏剣を回避。
そして、スティンガーは勢いそのままにツルギの腹部を狙い毒針を突き出した。
ガツンと、衝撃がスティンガーの腕に伝わる。
当たったという喜びも束の間。この感触は、違う。そう気付くのもまた一瞬。
ツルギは手甲の毒針を、スラッシュバイザーのナックルガードで受け止めていた。
「くそっ!」
スティンガーが距離を取ろうという一刹那、ツルギは毒針を弾きながら抜刀したスラッシュバイザーでスティンガーの胸部を斬りつけた。
火花をあげ、吹き飛ぶスティンガー。その隙を狙い、スティンガーへと手裏剣を投げる甲賀。だが、ツルギはベルトにマウントしていたドラグダガー二本を放ち、手裏剣を迎え撃つ。
空中で火花が散り、弾け飛ぶ二つの武器。
得物を失った甲賀へと、レイダーが駆ける。
だが、その前にツルギが立ちはだかる。スラッシュバイザーの切先を向けられたレイダーは足を止め、出方、攻め方を伺う。
「戦うのか守るのか、どっちかにしてくんない? やりづらいんだけど」
甲賀が愚痴をこぼす。
スティンガーも体勢を立て直し、四人は再び膠着。
だが、一人優勢に見えるのはツルギであった。
(流石に強い……。三人相手取ってもまるでいつもと変わらないっていうか。おとなしく連れ帰るのは難しいか)
甲賀は冷静に戦況を分析し、次に取るべき行動を決定した。
「いいね、ほんと。生きてるって実感するよ」
戦いによる高揚感にレイダーは胸が破裂しそうなほどであった。
この戦いを更に盛り上げるための手段を、レイダーは持っていた。
「全員……全員倒して、願いを叶えてやる……」
スティンガーは敵三人ではなく願いを見つめていた。
生き残るために、願いを叶えるために力に手を伸ばした。
「……」
ツルギは静かに、右手をデッキに添えた。
そして、四人は同時にカードを引く。
手にしたカードを、相手へと見せつけるライダー達。
四人が引いた四枚のカードには全て、黄金の翼が描かれていた。
違いは翼の向きと背景に描かれ、脈動する力の源。
ツルギの周囲には白い風が吹き荒ぶ。
スティンガーの足元には鮮やかな血溜まりが広がる。
レイダーの立つ地面が隆起し、アスファルトをぶち破る。
甲賀を囲む、無数の水柱が雨となって戦場を濡らす。
召喚機がそれぞれ変化し、ライダーは同時にカードを装填。
【SURVIVE】
進化する仮面ライダー。
吹き荒れる烈風を切り裂き、ツルギサバイブが一歩前へと出ると同時にスティンガーサバイブ、レイダーサバイブ、甲賀サバイブが駆け出した。
レイダーサバイブが地面を殴りつけると三方向へと衝撃が地面を走り波打つ大地が裂け、土塊が槍と化して三人へと襲いかかる。
甲賀サバイブは忍者刀型召喚機ステルスバイザーツバイを横薙ぎに振るい、水の斬撃波を飛ばして土の槍を切り裂く。
スティンガーサバイブはクインバイザーツバイで殴り飛ばし、ツルギサバイブは鞘に納められたままのスラッシュバイザーツバイで軽く土塊槍を弾いた。
ツルギサバイブはスラッシュバイザーツバイを抜刀すると、鞘を左手に持ち変則的な二刀流の構えを見せた。
レイダーサバイブの攻撃をそれぞれ凌いだライダー達がいよいよ衝突する。
スティンガーサバイブがツルギサバイブへと放った召喚機での打突攻撃は鞘に弾かれ、甲賀サバイブがレイダーサバイブへと斬りかかるとスラッシュバイザーツバイの刃がそれを受け止める。
だが、その隙にレイダーサバイブがツルギサバイブへと勢いよくタックルし、駆ける。
「パワーじゃこっちが上だよ!」
「……」
一方的に押し込まれるツルギサバイブは風の力で押し返そうと試みる。だが、レイダーサバイブは踏み込むと同時に足裏の地面を巧みに操り、隆起させることで勢いを利用して推進力を得ていたのだ。
ただ走っているわけではないレイダーサバイブはツルギサバイブを壁へとぶつけた。
背中に衝撃を受けたツルギサバイブだが、まだレイダーサバイブは駆ける。壁は破れ、施設外へと出た二人。陽光の下に晒される二人の戦い。
「さっきのお返し!」
レイダーサバイブはツルギサバイブを持ち上げ、一回転し……ぶん投げた。
聖山駅前に大きく広がる空中歩廊へと叩きつけられそうになるツルギサバイブだが、吹き飛びながら得た風を操り、空中で体勢を整える。軽やかに宙返りし、空中歩廊の壁へと足をつけたツルギサバイブはスラッシュバイザーツバイを鞘へ納めると同時に、強く踏み込んだ。
「……マジぃ?」
レイダーサバイブの眼前に、居合の構えをしたツルギサバイブが烈風を纏い砲弾のように飛来した。
次の瞬間、大きな衝撃音と同時に土煙が巻き起こる。
煙の中、ツルギサバイブがゆらりと立ち上がる。煙にまみれた目の前の人影が、二つに分か断れ上半身だったものがずれ落ちる。
次の瞬間、ツルギサバイブの背後からレイダーサバイブが躍り出て殴りつけた。
「ふっふーん! 今のはわたしの土人形だよ!」
土煙が晴れ、露わとなる人型をしていた土の塊。
インファイトに持ち込み、ツルギサバイブを圧倒するレイダーサバイブは勢いづいてパンチのラッシュで攻めたてる。
だが、当たらない。
戦いの興奮とは別の場所で冷めた頭が警鐘を鳴らす。
自分が優勢とは、決して言えないと。
結果として、それが明らかとなる。
レイダーサバイブの眼前から、ツルギサバイブが消えたかのようだった。消えたのではなく、ツルギサバイブが少し屈んだだけだったのだが、滑らかな動作は時に人の目を騙す。
それだけ自然で、速く、美しいとすら評することが出来る動作。
空を殴り、前へつんのめったレイダーサバイブの腕をツルギサバイブが掴んでいた。
そして、レイダーサバイブを担ぎ上げる。
「えっ! ちょっ!」
レイダーサバイブの腰と首根っこを掴み、頭上へと持ち上げたツルギサバイブは、レイダーサバイブを上空へと投げ飛ばす。捻りを加え、風の力を得たツルギサバイブは竜巻を起こしながらレイダーサバイブを空中へと放つ。
「うわぁぁぁぁぁ!?!?!?」
絶叫アトラクションにでも乗っているかのような悲鳴をあげるレイダーサバイブ。
そんな悲鳴を聞きながら、甲賀サバイブとスティンガーサバイブは鍔迫り合っていた。
既に何度か打ち合い、互角の戦いを繰り広げていた。
「お前までサバイブを……」
「あんたは何? 血属性的な? 趣味悪いなぁ、アタシの水で洗い流してやろうか?」
「減らず口を……!」
スティンガーサバイブはカードを引き、装填。
【TIME VENT】
「刻限流動!」
タイムベントの強力さは甲賀サバイブも理解している。身構えて、何が起こるか即座に反応出来るよう警戒する。だが次の瞬間、甲賀サバイブを襲う強烈な痛みと衝撃。
目には、赤い残光だけが見えていた。
「な、に……!?」
こればかりは情報がなかった。
けれど、すぐに理解した。
スティンガーサバイブは、加速していると。
「こんなんズルじゃん……!」
受け身を取りなんとか防御しようと身構える甲賀サバイブだったが、目の前でスティンガーサバイブが一時停止。
スティンガーサバイブは呼吸を整えている様子だった。
そこに、甲賀サバイブはひとつの仮説を立てる。
「……そう、ずっと加速は出来ないわけ」
「……すぅ……はぁ……」
スティンガーサバイブは黙っていたが、正解だ。
今も身体中を駆け巡る血液が沸騰しているのかと思うほど熱い。加速し続けていたらどうなってしまうかなど、想像したくもない。
「図星か。でもタイムベントは強力だから……こっちも使わせてもらうよ」
甲賀サバイブもまたタイムベントを引き、忍者刀型召喚機へと装填。
【TIME VENT】
「玉響残影……」
今度はスティンガーサバイブが身構える番となった。
どのような能力が発動するか、警戒を最大限とした。しかし、甲賀サバイブの予想を裏切り、甲賀サバイブは至って普通の攻撃を仕掛けてくる。
「そらぁ!」
ステルバイザーツバイを振り回し、スティンガーサバイブへと斬りかかる。
何かが起こる素ぶりもない。
だが、タイムベントは発動している。
この謎の状況に、スティンガーサバイブの心理的圧迫感は最大に達する。
「てめぇ、何をした!」
「さあ? なんでしょう」
クインバイザーツバイで攻撃を受け止め、甲賀サバイブへと食ってかかるスティンガーサバイブだったが、おとなしく答えてくれるわけもなく……蹴り飛ばされる。
「っ!?」
「何が起こるか、これから分かるよ」
甲賀サバイブが指を鳴らす。
次の瞬間、スティンガーサバイブの全身に切り裂かれたような痛みが走った。
美玲に貸し与えられている部屋の鏡という鏡が震えていた。
どうして、どうして、どうして。
『戦えば、願いが叶う』
頭の中に、声が響く。
『戦えばいいのよ』
戦う。
でも、私には……。
『ライダーバトルで最後の一人になれば、どんな願いでも叶えられる』
うるさい。
そんなことは知ってる。
でも、私は願いを叶えた。叶った、はずなのに。
『それは本当に叶ったとは言えない。けどね、ライダーバトルに勝てば願いが破れることは一生ない。永遠に、叶え続けられる』
永遠に……?
そうすれば、永遠に燐は私の物?
燐は私のもとにずっといる?
ずっと一緒にいられる?
『ええ、そうよ』
「でも、私には……」
先日の戦いを思い起こす。
それだけじゃない。これまでの戦いを思い出す。
ただでさえ強力なライダー達が残っているのに、更に強い力を得ている。そんな奴等に、私は勝てる……?
『大丈夫よ。私はあなたの味方。だから、これをあげるわ』
鏡の中から、一枚のカードが投げ渡される。
私の目の前に落ちたそのカードには、黄金の翼と燃え盛る蒼炎が描かれている。
ただ、この蒼炎には黒いものが混ざっているように見えて、おぞましいものに見えてならない。
それでも……これがあれば、私も……。
『戦いなさい咲洲美玲。願いのために。そして……』
鏡が言葉を続けようとしたけれど、鏡は凪いで頭に響く声も消え去ってしまった。
すると、扉をノックする音。
私は咄嗟にカードを手に取り隠すと、燐のママさんが部屋に顔を覗かせた。
「美玲ちゃん、今ちょっと大丈夫? 美玲ちゃんのお友達が来てるんだけど……」
「友達、ですか? 分かりました。伝えてくれてありがとうございます。少し出ますね」
「ええ……。美玲ちゃん、大丈夫? 顔色悪そうだけど……」
「大丈夫です。その、いつもこんな感じなので……」
失礼しますと、私は玄関へと急いだ。
そして、意外なことに私を尋ねたのは華甸川であった。
次回 仮面ライダーツルギ
「あなたに何が分かるの!?」
「私がいる……私がいるから……」
「今、死ぬのはテメェだ!」
「映画のフィルムを、巻き戻したみたいだった」
「そう、謂わばこれは私のリーサルウェポン」
運命の叫び、願いの果てに————。