仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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こちらの話は本編とは違う周回で起こった話になります。
本編と似たようなことがあったという前提で読んでください。

ハージェネ参戦作品で夏のギャグ回をやろうということで生まれた話です。
よろしくお願いします!


SUMMER !!!!!!

 夏。

 外は今年の聖山市最高気温を記録する37度という猛暑。

 こんな日は冷房の効いた家にいるのが大正解。

 エアコンと扇風機をフル稼働させた部屋は正しく天国だ。

 薄着でソファに寝転がり、なんとなくつけているテレビをBGMにして怠惰を貪る。

 たまにはこんな日があったっていい。

 前日まで夏休みの課題に勤しみ、残りの日数はもう課題とはおさらばしたのだ。当然、自学自習はするがやらなくてはいけないことがなくなったのは最高の気分。

 解放感が素晴らしい。

 今日一日はこの気分を味わっていようと思った矢先、スマホが震えた。

 親戚で、近所に喫茶店アイスルームを営んでいる美緒さんからの電話。 

 珍しい。何の用だろうか。

 

「……もしもし」

『あ、美玲? 今は夏休みだよね?』

「そうだけど……」

『実は美玲に頼みたいことがあって……』

 

 それが今日という日の。いや、この夏の命運を決めた。

 私にとって、忘れることは出来ないだろう夏の記憶────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球には重力というものが存在する。

 重力に逆らうなんてことは出来ない。

 だからアタシの手から滑り落ちたマグカップがその場で浮かぶようなことはなく、床へと落ちて……。

 落とし方が悪かったのだろう。

 丈夫だと思っていたマグカップは見事に割れた。

 

「あーーーー!!!!!!!」

 

 このマグカップの本来の持ち主であるバカこと撒菱茜が悲鳴を上げる。

 

「私のお気に入りのマグカップだったのにぃ!!! うわぁぁぁん! マグちゃぁぁぁぁん!!!!」

 

 更には泣き出す始末。

 高校生がこんな声をあげて泣きわめくものだろうか。

 いや、それよりもまずは……。

 

「いや、その、ごめん……」

「う"わ"ぁぁぁぁぁぁぁぁん"!!!!! マ"ク"ち"ゃぁぁぁぁん"!!!!」

 

 とにかく泣く、泣く、泣く。

 こちらの謝罪を聞いてはくれない。

 ここまで泣かれると鬱陶しいと感じてしまい、アタシも声を荒げてしまった。

 

「ああもう泣くなよマグカップぐらいで!!!」

「マグカップぐらいでってなにさマグカップぐらいでって!!! 大体人の物使って壊して逆ギレってどうなのさ!」

「それは謝っただろ! アタシが言ってるのはみっともなく泣き喚くなって話! そのマグカップは……その、弁償する」

 

 壊してしまったのだ、それぐらいは当然。

 少し懐が寂しくはなるがそんなことを言ってる場合ではない。

 

「今の瀬那に払えるの」

「馬鹿にするな。アタシだってそれなりに金は……」

 

 そのあと、バカが口にした額を聞いてアタシは目を見開いてバカを見た。

 いや、マグカップがそんな値段するとは思わないじゃん……。

 

 

 

 

 

 夏の日差しを背に受けて、項垂れる少女がいた。

 彼女は黒峰樹。

 樹の視線は、側溝に向けられて固まったままで……。

 

 

 落とした。

 落としてしまった。

 お気に入りの、イヤホン。

 

「最、悪……」

 

 最早、手に取ることも躊躇われるというか絶対に無理。

 お気に入りで愛していたはずなのに今では汚物としか見れない。

 なんて、無情。

 

「結構高かったのに……。あれじゃないと音楽聞く気になれない」

 

 買い直そうと思ったが結構いいやつなんだあれは。

 すぐに買おうと思って買えるほど今の私の経済状況はよろしくはない。

 仕方ない、諦めてしばらくは安いイヤホンを使おうと思い再び歩き始める。

 通り過ぎる家、家、喫茶店……。

 ふと、足を止めた。 

 喫茶店の壁の貼り紙が目についた。

 

「短期アルバイト、募集……」

 

 履歴書不要!

 詳しくはお気軽に店長までと書かれている。

 短期……。

 恐らくはこの夏のシーズンぐらいではないだろうか?

 聖高の生徒も夏休み中にバイトする生徒は多いので、恐らくそれ狙い。

 

「……」

 

 なんとなく、なんとなくだが気になってこの喫茶店に入る決意をした。

 夏休み中は別になんの用事もない。

 バイトすることに関しても恐らく何も言われない。

 むしろ良いことだと言われるかも。

 それにここでの給料で新しい、もっといいイヤホンを買えたり……。

 そういうわけで扉の前で一度深呼吸。

 ドアベルの音と共に店内に入ると、見知った顔が。

 

「いらっしゃいま……。って、貴女……」

 

 最初はビシッと決まった、仕事出来そうなウェイトレスさんだと思ったし、なんならこの人が店長なんじゃないかと思った。

 しかし彼女は咲洲美玲。

 私と同じライダーで、戦ったこともある相手。

 学校の制服姿の彼女しか見たことはなかったが、ウェイトレスらしいフォーマルな黒いベストとパンツスタイルの今の姿はなかなか様になっている。

 

「あら、いらっしゃいませ。もしかして、バイト希望の子?」

 

 キッチンの奥から現れたもう一人の女性。こちらが店長さんのようだ。

 あいにくと敵と同じ場所で働くなんてことはしたくないのでバイトはまた少し考えよう。

 

「さあさあ面接するからこっちだよ~」

「え、その私は……」

 

 無理矢理背中を押されて、この人が出てきたキッチンの奥の部屋に通される。

 これが全ての始まりである。

 そして、私の夏の終わり……。

 

 

 

 

 

 蝉が鳴いている……。

 なんてことは夏なので当たり前のこと。

 だから特別気にも止めないが、あるものが目に止まった。

 

「短期アルバイト、募集……。履歴書不要……」

 

 金をちっとばかし必要としているアタシにとっては僥倖とも言えるが……。

 

「喫茶店とかアタシには無理だろ……。接客業とか無理無理。もっと別のにしよ。てか、金髪とか採用しないだろ……」

 

 自分には無理だと思い、踵を返して再び歩き出そうとした瞬間、目の前に女の人がいた。

 

「もしかして、うちでアルバイト希望の子かな?」

「い、いやっ、アタシは……」

「ふむ……ふむふむ。さあさあ面接しようね~。大丈夫もう合格してるから気楽に気楽に」

 

 抗議するも強引に背中を押され店に。

 そうして入った店の中には……。

 

「「あ」」

「あ」

「ん? なに? みんな知り合い? それはよかった仲良く働きたまえ~」

 

 こうして、アタシも含めたライダー三人がひとつの店でバイトすることになった。

 これは、夏の暑さが見せる幻と自分に言い聞かせたのだがどうもこれは現実らしく頭を抱える羽目になった。

 

 

 

 

 

 さて、いよいよ三人揃って働くことになったのだが……。

 

「なんでアタシだけメイド服なんだッ!!!」

 

 瀬那が怒り狂っていた。 

 メイド服で。

 

「仕方ないでしょう。用意出来るものがなかったのだから」

「そうそう。それに、似合ってるからいいじゃん。ぷっ……」

「おい黒峰笑ったな? 今笑ったな?」

「笑ってな……ふふっ……」

「絶対潰す!!!」

 

 樹と美玲は黒いベストにパンツスタイルの中、一人だけメイド服を着させられている瀬那。

 ライダーバトルの時の瀬那を知る樹は笑いが堪えきれずにいる。

 美玲も実は頑張って堪えている。

 頬の内側を噛んでいつものポーカーフェイスを保っていた。

 

「さあさあ皆の衆。元気なのは結構結構。そういうわけで夏休みシーズン中はよろしく頼むよ~」

 

 喫茶店アイスルームの店主、氷室美緒が呼び掛ける。

 力の抜けた彼女の声に瀬那の怒りも静まった。

 

「そういえば美緒さん。なんで急に私含めて三人もバイトを? 手伝いなら私一人でも充分。正直人件費が嵩むだけだと思うのだけど」

 

 率直な疑問をぶつける。

 美玲はたまに店の手伝いに呼ばれてきたが、正直この店は店主の美緒だけでも充分やっていけている。

 店自体もこじんまりとした店なので正直ウェイトレス三人もいれる必要はない。

 

「いやー実は、すぐ近くに新しいカフェがオープンしたんだよね。そしたらものの見事にお客をそっちに取られちゃったわけ。あっはっはっ」

 

 暢気に笑ってはいるがつまり同業他社の参入により売上が落ちている。

 店の存続に関わる事態となっていたのだ。

 

「そういうわけでちょっと賭けに出たというわけ。向こうの方は無料Wi-Fiやら充電出来るとかオープンテラスがあるとかもう若者向けなわけ。それに較べてうちはよくある普通の喫茶店。いやー勝てるわけないんだよね。コーヒーも美味しいし」

「いや飲んだんですか!?」

「うん。というかもう通ってる。というか住みたいあそこに」 

 

 美緒は大のコーヒー好きである。

 美味しいコーヒーと快適な空間があるとそこに住みたがるのだ。

 

「それとアタシら雇った理由は?」

「まあ、差別化というかさ。うちの店にも目玉となるものが欲しいじゃん? だから若くて可愛い娘が働いてるとなればお客が釣れそうだなぁって。ようするに看板娘ってわけよ」

 

 そんな理由で……と固まる三人娘。

 だが、それぞれ働かなくてはいけない理由がある。

 美玲は親戚のよしみであるが樹と瀬那はそれぞれのために。

 今からバイト探しするのも億劫。

 乗りかかった船である。

 泥船のようなものだが。

 それでも目的のためにと己を奮い起たせた。

 

「そういうわけでそろそろランチタイムだから人が来るよ~。みんな、キバっていこう」

「「「おー」」」

 

 本来であれば敵。

 しかし、今は同僚である。

 ひとまず力を合わせることにした三人娘は夏のアルバイトを始めたのだった──────。

 

 

 

 

 

 鐘の音が来客を告げる。

 入店してきたのはスーツ姿の女性。

 客が来たならば、挨拶をするもの。

 一番ドアの近くにいたのはメイド瀬那。

 となれば瀬那が出迎えるということ。

 しかし……。

 

「い、いらっしゃいませぇ……」

 

 ぎこちない笑顔、ぎこちない『いらっしゃいませ』

 初めてだし仕方ないことだと厨房から様子を伺っていた美緒であったが予想外の出来事が起こった。

 客の様子が、おかしい。

 立ち尽くし、ぷるぷると震えている。

 なんだ、理不尽に怒る系か?と美緒はすぐに出られるようにスタンバイする。

 しかし……。

 

「メ、メイドだとぉ!?!?!?!? それも金髪に三白眼!!! あの、オフは結構ヤンチャしちゃってる感じ???」

「ア、アタシは……」

「一人称アタシ!!! それと八重歯!!! なんですかこの店は! 私の性癖にパーフェクトに応えてくれるのか!!! あ、私は影山。メイド研究家をしている者なんだけど是非ともあなたの接客が受けたい! あなた、名前は?」

「せ、瀬那……です」

「瀬那たん!!!!」

 

 客、影山の熱量に押される瀬那は助けを求める目線をバイト仲間二人に送る。

 しかし二人は澄ました顔でいる。

 キッチンの美緒に目線をずらすととてもいい笑顔で親指を立てていた。

 

(くっそあいつらアタシを見捨てやがった! けどこいつは客。とりあえず教えられた通りに接客しないと……)

 

「た、ただいま席にご案内いたしますね~。こちらどうぞ~」

 

 固い笑顔でメイド研究家の影山を案内。

 続いてお冷やとおしぼりを差し出す。

 

「ご注文お決まりになりましたら、お呼びください」

「いいや、既に注文なら決まっているわ。────オムライスをひとつ」

 

 オムライス!

 メイドと言ったらオムライス的なそういうイメージがあるだろう。

 よくメイドがオムライスにケチャップでハートとか書く、そういうあれである────!

 影山は瀬那がどれほどの実力を持つ、どれほどの才を持つメイドなのか試そうとしているのだったッ!!!

 

「か、かしこまりました……。オムライスがおひとつですね。お飲み物は……」

「ウィンナーコーヒー。アイスで!」

 

 

 注文を受けた瀬那はキッチンへ赴く。

 その顔は疲れ切っていた。

 まだ働き始めて一時間も経っていないというのに。

 

「いやー変なお客さんだねぇ」

「変の一言で片付けるな! アタシ目ぇ付けられてんだぞ! 店長なんとかしてくれ!」

「なんとかしてと言われてもねぇ。大事なお客様だし。初めてのお客だから上手くいけばリピーターになってくれるかもしれないし。無碍に出来ないよね」

 

 そんなと肩を落とす瀬那。

 もしあれが毎日来るようなことになったら自身の精神衛生がよろしくなくなってしまう。

 上手いことアタシなんて駄目な奴だと思わせた方がいいと決心。

 それと同時に新しい客が来店したのでこれぞ好機と自ら接客しに行こうとする。 

 だが……。

 

「いらっしゃいませ。二名様でよろしいですか? こちらの席へどうぞ」

 

 樹が先に客に案内している。

 自身と同じく初めてのバイトというわりにはすんなりと出来ている。

 続いて来店した客に次こそと向かうがこれもまた樹がしっかりと対応。

 

「くそ、黒峰のやつ邪魔しやがって……」

「なに遊んでるの。ウィンナーコーヒー出来たわよ。貴女の上客のところに早く持っていきなさい」

「んなッ!?」

 

 美玲がウィンナーコーヒーを早く持って行くように指示する。

 しかし上客という言葉はいただけないと美玲に噛み付こうとするが今は仕事中と我慢。

 ぐっと堪えてウィンナーコーヒーをメイド研究家の影山のもとへ。

 

「こちらウィンナーコーヒーになります」

「ほうほう。瀬那たんの運んできたコーヒーのお味はぁ? ……瀬那たんが運んできたんだから美味しいに決まってる! はっはっはっ!」

 

(うぜぇ……)

 

「しかし本命はオムライス。楽しみに待ってますよ。ずずっ」

 

 

 

 

 

「なんなんだあいつは!!!! もうやだ!!!! バイトやめる!!!!」

「まあまあ。オムライス食べたら帰るから。それまでの辛抱ということで」

「だったら早くオムライス作り終わってくれ頼むから」

「待って~あと5分」

 

 5分。

 短い時間であるが瀬那にとっては人生で一番長い5分となった。

 早くあいつと違う空間に行きたいと。

 なんならあいつと違う次元に行きたいとすら願い、そうして……。

 

「はい、持ってって。くれぐれもお客の顔に投げつけちゃダメだよ」

「やってやらぁ!!!」

「あれは……投げ付けるというか叩き付ける勢いですね」

「あはは~なんとかなるでしょ~」

 

 

 

「お待たせしました~オムライスです」

 

 テーブルにオムライスを置く。

 これでもう瀬那は自身の仕事は終わったと満足していたが先述したようにメイドとオムライスと言えばあれである。

 

「さあさあ瀬那たん。このオムライスにケチャップでカゲヤマ♥️って書いちゃってください!」

「なっ!?」

 

 予想外の注文に固まる瀬那。 

 この片月瀬那はいわゆる不良のレッテルを貼られている。

 家に帰らず遊び歩き必要以上にボコって病院送りになったライダーは数知れず。

 威張るだけで能無しな先公ばかりだから学校にも行ってない。

 貧乏なもんだから不味い飯屋ぐらいしか入れないってのはしょっちゅう。

 そんな片月瀬那にハートマークを書けだァ~?

 てめー分かってんのかここはメイドカフェじゃねえんだぞ。

 そんなことが頭に過った。

 確かにアイスルームはメイドカフェではないが正しく今の瀬那はメイドであった。

 

 影山が持ち歩いているケチャップを持たされ、立ち尽くす瀬那。

 

(こんな気持ち悪い女のためにアタシがなんでそんなことまでしなきゃならないんだ。アタシは一刻も早くてめーから離れたいんだ分かるか。いや、それならもうケチャップでさっさと書いてやればいいだけの話……。仕方ない書いてやるか)

 

 オムライスにケチャップを向ける。

 そして言われた通りに書こうとするが……。

 

(……あれ、カゲヤマのカゲってどんな字だっけ? ヤバい書けない(カタカナで書くという考えがない) くっそ今ほど勉強しておけば良かったと思ったことはない!)

 

「おーいどうしたんだい瀬那たん? カゲヤマだよカ・ゲ・ヤ・マ」

 

(というかなんでアタシがこんなことしなくちゃならないんだ。元を正せばアタシがあいつのマグカップを割ったからで……。くっそ自業自得だ……。ああもうなんでこう悪いことってのは連続して続くんだ……!) 

 

 自身への怒りが身体に走り変な力を手に伝えてしまった。

 その結果……。

 

 ブチャッ!

 

 勢いよく飛び出るケチャップがオムライスを真っ赤に染めた。

 

「あ……」

 

 真っ赤なオムライスと影山を交互に見る。

 自身がやらかしたことに冷や汗が出る。

 

「申し訳ありません! すぐに作り直しますので!」

 

 惨状に気付いた美玲がフォローに入る。

 ほら、貴女もと小声で言われ頭を下げる瀬那。

 恐る恐る影山を見ると入店してきた時と同じように身体をぷるぷると震わせている。

 怒り爆発か……。

 瀬那は怒鳴られることを覚悟する。

 だが、この影山という女は常に想像の斜め上。いや、斜め下。どちらでもいいが予想通りにはいかない。

 

「ッ~~~!!! 不器用属性!!!!! 素晴らしいです!!!! 貴女は私が追い求めた理想のメイドよ!!!! 名誉ダメイド!!!! メイドの気配がしたからこんなちっこい店に入ったけど正解だったありがとう!!!! ブログとかSNSで紹介するからね!!!!」

 

 こうして影山は一人暴走し、オムライスを目にも止まらぬ速さで食べ終えるとおつりはいらない。

 おつりは瀬那たんのチップにと言い残し去っていった。

 そして彼女がアイスルームの瀬那のことを紹介するとあちこちのヤンキーポンコツダメイドファンとケチャラー達が殺到することとなる。

 

瀬那がいる時限定で『オムライス~血に染めて~』というメニューが追加され名物となった。

 

 

 

 

 

 三人がアルバイトを始めて一週間が経った。

 瀬那のおかげで若干売上は回復したがそれでもまだライバル店には及ばなかった。

 そのため、売上アップのための会議が開かれることに。

 しかしなかなか案は出ない。

 瀬那が提案したメイド服は交代で着ることにするという提案は即却下されていた。

 

「ねえ、思ったんだけどさ」

 

 詰まりに詰まった会議。

 樹がとある提案をした。

 

「ちょっと偵察に行かない?」

 

 偵察。

 仮面ライダー甲賀という忍者ライダーに変身する彼女らしい提案であった。

 何が受けているのかなど調査するのはいいことだということで翌日バイト三人組で偵察しに行くことに。

 

 翌日。

 

「さぁてあれだね。カフェビリーブ」

 

 新たにオープンして二週間ほど経つビリーブ。

 美緒の言っていた通りオープンテラスがあり、いかにも若者向けのお洒落な内装。お昼前だというのに既に店内は混雑している様子。

 

「それにしても偵察とかあれね、ライダーとしての戦い方もそうだけど性格が出てるわね」

「ああ。回りくどいんだよお前。ちょろちょろしやがって」

「今は関係ないでしょ別に。それにあれはちゃんとした生存戦略なんですぅ。あなた達みたいにバカスカ戦ってるわけじゃないの」

「誰がバカだって?」

「なに? やるの?」

「二人共今はやめなさい」

 

 あわや一触即発。

 しかし今は偵察の方が優先と再び望遠鏡を覗く。

 店の様子を伺う三人であったが美玲がとある人物を見つけた。

 

「あれは……射澄!? 射澄がバイトしてるなんて……。明日は槍が降るわね……。って、北さんまで……」

「うーわここでもライダーがバイトしてる。なに? ライダーバトルってカフェも巻き込んでる感じなの? 店の売上とかも関係してくるの?」

 

 射澄と北が慣れた様子でバイトしている。

 いや、北はいつもの様子でいるが一部の女性客の注目を集めている。

 

「ん……? おい、あれって」

「どれ? ……あれは」

「なに二人して……。燐ね」

 

 望遠鏡越しに見えたのは御剣燐……だけでなく。

 

「あのアリスに似た女子と……。うぇ、影守もいる」

 

 影守美也とは若干の因縁がある樹があまり関わりあいになりたくない様子。

 

「三人でなにやってるんだあれ。勉強か?」

「テーブルの上を見る限りはそうだけど……。駄目だね。集中力切れて談笑中って感じ」

 

 夏休みをエンジョイしている彼等が少しばかり羨ましいと思った樹と瀬那。

 その直後、二人は背後に恐ろしい殺気を感じた。

 

「………………」

「ちょ、なになにどうしたのさ」

「目付きヤバいって人殺せる目ぇしてるって咲洲」

「べ・つ・に」

 

 美玲の隣にゴゴゴ……という擬音が見えた二人。

 一体どうしたというのか……。

 

 

 

 

 

 燐、鏡華、美也の一年生組は夏休みということで課題を一緒にやろうということで集まっていた。

 美也の提案で新しく出来たカフェビリーブでやろうということになり絶賛オープンテラスで勉強していたのだが……。

 集中力が途切れていた。

 

「ねえ燐君、鏡華ちゃん。ちょっと頼みがあるんだけどさ」

「なに?」 

「なんですか?」

「お願い! 私の代わりにガチャ引いて!」

 

 スマホの画面を見せて言う美也。

 美也からスマホを受け取った燐はどれどれと眺める。

 

「あーこれ妹もやってたよ。流行ってるよね。けど美也さんがやってるのは意外」

「いやー友達に勧められて試しにやってみたらちょっとドはまりしちゃいまして。それでそれで私の推しの水着が実装されちゃって! ガチャ頑張ってるんだけどやっぱり物欲センサーがね……」

 

 よもや美也の口から物欲センサーなどという言葉が出てくるとは思っていなかった燐だが、実は最近似たようなことを妹にやらされて少しばかり腹が立つ出来事があったのだ。

 

「やらない。これで当たらなかったら僕のせいにするんでしょ。妹と友達にやられて理不尽に怒られた」

「い、いやーそんなことはナイヨ?」

「まあまあ御剣君。引いてあげましょうよ」

「そ、そうだよ燐君……。さあ、引くんだよ……」

 

 無理矢理燐の腕を引きガチャを引かせようとする美也。

 ガチャに取り憑かれてしまった者の目をしている……。

 

「はぁ……はぁ……」

「うわぁぁぁ! 僕の意思で引いてないならもう美也さんの物欲センサー発動するってそれ! 駄目だって!」

 

 燐にピンチが訪れる。

 絶対絶命ガチャ怪人美也に襲われている彼を救うことが出来るのは……。

 

「燐ちゃんのピンチ!」

 

 燐ちゃんを救うのはこの北津喜!

 

「貴女じゃないわ私よ」

 

 北を押し退け燐のピンチに颯爽登場咲洲美玲!

 美也を羽交い締めにして燐の窮地を救った!

 

「いだだだだ!? 美玲さんやば! 絞まってる絞まってる!」

「大丈夫燐?」

「僕は大丈夫ですけど……。美也さんが……」

「あはは……推しが見える……」

 

 美也は、死にかけていた。

 

「幸せそうだから大丈夫よ。このまま逝かせてあげましょう」

「ちょっ! あんた本当にやめろっ! 偵察の意味がなくなるでしょうが!」

「うちの風評被害にも繋がるだろ馬鹿!」

 

 美玲を引き剥がすため、樹と瀬那が実力行使に出た。

 なんとか力ずくで美玲を引き連れて退散。

 もう偵察どころではなくなってしまった。

 

 

 

 

「若者向けというのは分かったわね」

「いやそりゃ見れば分かる」

 

 撤退後、アイスルームに戻った三人は結果を報告した。

 しかしご覧の有り様。

 偵察はなんの意味も成さなかった。

 

「とはいえよく見る感じのチェーン店だよね。最初は客取られるだろうけどそのうち戻ってくるでしょ」

 

 樹の意見に概ね賛成する美玲と瀬那。

 特に異論もないというかそこまで建設的な議論が出来るような情報が入手出来なかった。

 

「けどこのままだとオタクとケチャラーの店になっちまう」

「貴女狙いのね」

「あとあれ、影山さん。もう毎日来てるでしょ」

「その名前を出すな! 出来る限り忘れてたいんだよ!」

 

 あれ以来連日訪れる影山。

 通称瀬那過激派とまで呼ばれるようになってしまっていた。

 更にオムライス~血に染めて~が人気メニューになってしまい連日のケチャップとトマト缶の消費量が喫茶店とは思えないレベルになっていたのだ。

 

「そういうお前こそ黒峰。なんか常連の大学生ぐらいの男とよく話してたろ。ええ?」

「別にそういうんじゃないし。趣味があっただけだし」

 

 いい玩具が見つかったと樹をからかう瀬那であるがその後、瀬那が影山やオタクから言われたことなどを事細かに言われ反撃を受けた。

 

 

 

 

「いやーもう毎日瀬那たんのオムライス食べれるの嬉しいわぁ↑ それじゃあ明日も来るね~!」

「二度と来んな変態(ありがとうございました~)」

 

 いよいよ職務である接客を忘れ素で接し始めた瀬那であるがこれはこれでいいとのことで特に注意は受けていない。

 あと、流石に他の客にはやっていない。

 

 影山を見送り客が一人もいなくなったので一度休憩と大きく伸びをする瀬那。

 ため息をつくと美玲と樹の方を向き話しかけた。

 

「それにしても最近めっきり戦ってないな……。身体が鈍りそう」

「確かに。バイト始めてから変身してない気がする」 

「……そろそろ、契約不履行で自分のモンスターに襲われてもおかしくないわね」

 

 モンスターとの契約。

 それもまたライダーが戦う理由である。

 もし契約モンスターに食事を与えなかったら……契約モンスターは契約したライダーを捕食する。

 バイトを始めて一週間。

 そろそろモンスター達が空腹を訴えてくる頃合いだと思われた。

 

 そんな話題を話していたからだろうか。

 

『────────』

 

 モンスターが人界に現れようとしている。

 ミラーワールドとこちら側の境界を破りモンスターが現れようとしている。

 その気配を音として察知する三人は店を飛び出した。

 

「みんな~休憩どうぞ~……って、あれ? みんな~?」

 

 

 

 

 ミラーワールドから獲物を探しに現れたモンスターは大通りから外れる細い路地を歩くスーツ姿の女性を狙っていた。

 巨大な蜘蛛型モンスター『ディスパイダー』が糸を吐き女性を絡めとる。

 

「な、なに!?」

  

 ディスパイダーは女性をミラーワールドへ引き摺りこもうとする。

 だが、青い鷹に似たモンスターがそれを阻んだ。

 美玲の契約モンスター『ガナーウイング』である。

 

「大丈夫ですか……って、あなた……」

「あ、あなたはアイスルームの……。って、瀬那たん!」

「げ!? よりにもよってこいつかよ……」

「ああんッ! 蔑まれるのもまた良き……」

 

 推し活に勤しむ影山にとにかく逃げろと促しこの場から離れてもらう。

 人が自分達以外いないのを確認して三人はビルのガラスにデッキを向けた。

 

 美玲は鳥が羽を広げるように両腕を静かに広げる。

 

 瀬那は蜂が針を突き刺すかのように右手で鏡の向こうを指差す。

 

 樹は忍者の印を思わせる構えを。

 

 そして三人は叫ぶ。

 

「「「変身!」」」

 

 青、黄、緑のライダーが並び立つ。

 

 仮面ライダーアイズ。

 仮面ライダースティンガー。

 仮面ライダー甲賀。

 

 三人は揃ってミラーワールドへ入門し三台のライドシューターが駆ける。

 反転した街に辿り着きアイズがライドシューターでディスパイダーを轢き飛ばす。

 停車したライドシューターのフードが上がり、三人はディスパイダーの前に立ちはだかる。

 

「結構いい大物だね。腹の足しになりそうじゃん」

「あれを倒した奴のモンスターが食う。……てのはどう?」

「面白そうね。いいわ」

 

 話は纏まったとそれぞれの得物を用意する。

 

【SHOOT VENT】

 

【STRIKE VENT】

 

【SWORD VENT】

 

 アイズは青い弓『アローウイング』を、スティンガーは蜂の腹を模した格闘武器『クインニードル』を、甲賀は巨大な手裏剣『ステルスライサー』を。

 まずは近接武器を装備したスティンガーと甲賀がディスパイダーに迫る。

  

「らあぁぁぁッ!!!!」

 

 スティンガーがディスパイダーに殴りかかる。

 だが、ディスパイダーの鋭い脚が迎え撃つ。

 リーチでは圧倒的にディスパイダーが有利。

 スティンガーはディスパイダーの懐に入ることは出来ず一度後退した。

 

 それと入れ替わるように甲賀が駆ける。

 素早い身のこなしでディスパイダーの脚の攻撃を回避し懐に入り込む。

 

「あいつとは違うんだよね」

 

 不敵な笑みを浮かべステルスライサーで斬りつける甲賀。

 だが、ディスパイダーの吐いた糸が甲賀を拘束する。

 

「ヤバッ!?」

 

 縛られ、地面に倒れた甲賀を捕食しようと牙を剥くディスパイダーに矢が命中する。

 アイズの放った矢が次々とディスパイダーを襲う。

 何発も鬱陶しいとディスパイダーは後退しビルの壁に張り付いた。

 ビルの壁を足場に上空から糸を吐き散らすディスパイダー。

 降り注ぐ糸の雨をとにかく回避するしかない。

 

「ちょっ! 私動けないんだけど!」

「調子乗って近付くからだ!」

「あんたは近付けもしなかったくせに!」

「あーもう喧嘩しない」

 

 アイズが回避しながら拘束された甲賀に近付き、糸を弓で切り裂く。

 拘束を解かれた甲賀はすぐに立ち上がるとディスパイダーを睨み付けた。

 

「にしてもあいつ、私ばっかり狙って……」

「良かったじゃん好かれる相手がいて」

「嫌よ。蜘蛛嫌いなの。それに好かれたい相手は……なんでもない」

「そこまで言ったら言いなよ。いや、分かるけどさ知ってるけどさ」

「いつの間に……」

「気付かれないと思ってたんだ!?」

 

 アイズと甲賀は糸を回避しながらそんな会話を交わす。

 一方その頃スティンガーは……。

 

「さぁて、蜘蛛野郎に痛い目合わせてやるよ」

 

 ディスパイダーが張り付いた商業ビルの屋上に佇んでいた。

 下を向けばディスパイダーが二人を狙っている。

 高いところに立つと全てが滑稽に見える。

 モンスターは自分には気付いておらず、他の二人はあたふたとしている。

 そんな光景を優雅に眺めるというのはなんとも気持ちがいいことだと気が付いた。 

 

「二人で仲良くそいつと遊んでな」

 

 独り言を呟く。

 あとは様子を見て漁夫の利を狙う……つもりだった。

 

「撃ち落とす」

 

 糸を回避したアイズが即座に矢を撃ち返す。

 だが放たれた矢は回避されてしまい……。

 

「ぬおッ!?」

 

 行き場を失った矢は、スティンガーの顔面すれすれを通り過ぎていった。

 そのことに驚いたスティンガーはバランスを崩し、足を滑らせ屋上から落下。

 

「マジかぁ!!!!」

 

 絶叫。

 ライダーであるためこの高さから落下しても大丈夫……。いや、大丈夫ではないが生身と較べたら大丈夫。

 しかし中身が人である以上、高所からの落下という死に直結するものに対して恐怖を抱くのは必然のこと。

 悲鳴を上げる瀬那。

 しかし、彼女の身体は生きろと叫ぶ。

 なんとか生存への活路を開こうと模索し、見つけた。

 

 ビルに張り付くディスパイダー。

 

「あれだ────!」

 

 狙いを定め、手を伸ばす。

 確かにディスパイダーの脚を掴む。

 唐突に上空から現れたスティンガーに驚愕するディスパイダーは落下してきたスティンガーの衝撃でビルから脚を離してしまった。

 

「お前はクッションだ!」

 

 ディスパイダーの胴体を掴み、地面に押し付けるような形で落下していく。

 そして地面に叩き付けられたディスパイダーは虫の息。

 

「この隙に!」

 

 カードを引くスティンガー。

 だが、それと同時にバイザーの電子音声が響いた。

 

【FINAL VENT】

 

「はっ?」

「いただきー」

 

 スティンガーがファイナルベントを発動させるより早く甲賀がカードを切っていた。

 

 甲賀のファイナルベント『ファンタスティックシャドー』が発動される。

 

『ゲコココ……!』

 

 甲賀の契約モンスター『ステルスニーカー』が何処からともなく現れる。

 深緑の蛙型怪人。

 人に似た体型であるがその身に宿る能力は蛙のものである。

 

 ステルスニーカーが口から長い桃色の舌を目にも止まらぬ速さでディスパイダーに巻き付ける。

 既に弱っていたが更に身動きを取れないようにされてしまったディスパイダーの命はもう刈り取られる未来しか存在していない。

 

「ハアッ!!!」

 

 ステルスライサーを構えて走る甲賀の分身が次々と現れる。

 そして一斉にステルスライサーを放つ!

 無数の大型手裏剣がディスパイダーの身体を切り刻み、爆散。

 ディスパイダーの命が空へと飛び立つがステルスニーカーの舌に捕らえられ、一瞬でステルスニーカーの口へと運ばれた。

 

「ふう。ごちそうさまっと」

「お前! 横取りしやがって!」

「横取りも何もトドメを刺したのは私なんだから横取りも何もないでしょ」

「はあ? あそこまで弱らせたのはアタシだアタシ!」

 

 二人の口論をアイズはやれやれといった風に眺めている。

 結局ミラーワールドにいられるギリギリまで二人は口論していた。

 

 

 

 

 そして、バイト最終日。

 なんだかんだ三人はしっかりと働いた。

 そして労働には報酬があるもの。

 

 

 

 

 聖山駅裏の家電量販店で購入したイヤホンを早速使用。

 以前、愛用していたものとは違う最新モデル。

 いい。

 音質がいい。

 身体の中に音が染み渡る。

 これさえあれば暇な時間も音楽を楽しむ時間となる。

 やはり、音楽はいい。

 心が潤う。

 あんな本来は敵であるはずの二人と同じ店でバイトなんて……。

 そう思うと、少しだけ胸が締め付けられた。

 ほんの少しだけ。

 ほんの、少し。

 

「……絆された? 嘘でしょ」

 

 ああ、それは嘘である。

 いずれは殺さなければならない相手。

 だって、最後に勝ち残るのは一人だけ。

 そしてその最後の一人になるつもりでいるのだから絆されてなどいられない。

 しかし……今は、そんなことを考えなくてもいいだろう。

 頭を空っぽにして、音を楽しむ。

 音楽だけが、全てを忘れさせてくれるから────。

 

 

 

 

 

 

 

 人生で、一番高い買い物をした。

 アタシには似合わないお洒落で小さな紙袋を片手にバカの家に入る。

 

「あ、瀬那おかえりー。暑かったでしょ~」

「ん……」

「あれ? なにその紙袋?」

 

 目敏く見つける……いや、見付けられない方がヤバいか。

 とりあえず、渡す。

 

「ほら。その、前にお前のマグカップ壊したから弁償というかなんというか……」

 

 説明する。

 しかし、バカは紙袋を受け取らない。

 口を開けたまま突っ立っている。

 やっぱりこいつはバカだ。

 

「え」

「え?」

「えーーーーー!?!?!?!? 瀬那が買ったの!? どうやって!? お金は!?」

「金はその、バイトした」

「何処で!?」

「喫茶店……」

「えー!? 行きたかった行きたかった! なんで教えてくれなかったの!」

 

 そりゃお前そういうところだというのとずっとメイド服を着させられていたからである。というのは内緒だ。

 

「そうだ瀬那さあさあこちらへおいで~!!」

 

 手を引かれてキッチンへと連れていかれる。

 テーブルの上には見覚えのあるというかさっき買ってきたマグカップと同じものが置いてあって……。

 

「え、あれ、これ」

「私のマジックショーのおひねりで買ったのだー! ……というわけで、これは瀬那にあげます」

 

 は?と気の抜けた声が出るとバカは同じマグカップの入った紙袋を手に取ると笑顔で言った。

 

「それじゃあ瀬那が買ってきたのは私が使うから、瀬那は私が買ってきたの使って」

「え……」

「私はプレゼントっていうの後付けだけど……。お揃いだね!」

 

 ……まったくこいつは。

 体温が上がる。

 顔に熱を帯びる。

 だから、バカに顔を見せないように背を向けた。

 

「……バーカ」

「ふふっ。こちらこそありがとう瀬那」

 

 

 

 

 

 

 夏休み中のバイトは終わったけれど私はよく手伝いに駆り出されていた。

 連日影山さんが来ては片月のことを訊ねてくるのでそれだけ少し大変である。

 あとは、コーヒーの淹れ方を美緒さんから教えてもらっている。

 コーヒーを飲むのは好きなので、折角なら自分で淹れたいし出来ることなら美味しいものが飲みたい。

 そういうわけで夏休み明けもアイスルームに時間さえあれば通っていたのだが……。

 

「あ、美玲先輩お疲れ様です」

「燐……。なんでいるの」

 

 店の一番奥の座席に一人座ってぼうっとしていた燐がいた。

 

「なんでいるのって美玲、お客様にそんなこと言っちゃ駄目だよ」

 

 カウンターにいた美緒さんが意味深な笑みで言う。

 いや、確かにそれはそうだし一度燐はこの店に来たことがあるのでまた来店することがあってもおかしくはないが。

 

「ここのコーヒー美味しかったなぁって思い出して。こういう雰囲気のお店は落ち着きますしそれに……。なんだか、懐かしい気がするんです」

 

 そう言って燐は日の射す窓に目を向ける。

 内装はレトロなので懐かしい気分になるというのはそういうことだろうか。

 けれど、そう語った燐の懐かしむ顔は本当に懐かしんでいるような気がして……。

 

「おーい美玲。早く着替えて燐君のアイスコーヒー淹れてあげて」

「……美緒さんが淹れればいいのでは」

「いやー私ちょっと手が離せなくてさ~。頼んだよ~」

 

 美緒さんは店の奥へと消えていった。

 手が離せないって客は燐しかいないので暇も暇だろうに……。

 

「美玲先輩、コーヒー淹れられるんですか?」

 

 私を見上げながら訊ねてくる燐の大きな瞳が眩しい。

 

「ま、まあ。勉強中、だけど……」

「じゃあ、美玲先輩のコーヒーください」

 

 燐の笑顔は弱点なのだ。

 毒気が抜けるというかなんというか。

 とにかく素直なのだ。

 綺麗なのだ。

 

「……待ってなさい」 

 

 早速着替えて来なければ。 

 そこからの記憶は曖昧で、気が付いたらアイスコーヒーを燐の前に差し出していた。

 

「いただきます」

 

 燐の口に運ばれる。   

 心臓が張り裂けそうだ。

 グラスと同じように汗が滲み出る。

 

「その、どう……?」

 

 感想を求める。

 やはり、聞きたいものだろう。

 問われた燐はというと「うーん」と唸りながら考えている。

 

「少し苦味が強いです」

「辛口ね……」

「辛くはなかったですよ?」

「そういうことじゃなくてね。いえ、まだまだ練習あるのみね」

 

 次はもっといいものを淹れられるようになろう……と思った瞬間、窓の外に動くものを見つけた。

 即座に外へと飛び出し下手人を捕らえる。

 下手人は二人。

 片月と黒峰であった。

 

「貴女達なにして……。バイトはもう辞めたでしょう」

「いや、たまたま近くを通りかかってさ。そしたら片月もいてバトるかってなったけどなんとなく気分じゃないからやめてぶら~ってしてたらね」

「そしたらお前がなんかラブコメってた」

 

 くっ、全部見られてた。

 というかなんだラブコメってたとは。

 こちとら真剣だったというのに。

 

「その、どう……? って……ふふ……あはは! 今時少女漫画でもないでしょ!」

「黒峰ちょっと笑いすぎよ。黒峰待ちなさい黒峰。黒峰ッ!」

 

 逃げ回る黒峰を追いかけ回す。

 こいつはとっちめなければならない。

 

「はぁ。なにやってんだか。いいや、喉渇いたから上がるぞ」

「瀬那たん!!!!」

「げえ!? 影山!?」

「会いたかった! 会いたかったわ瀬那たん! 辞めたと言われたけれど諦めずに通い続けて良かった!」

 

 片月の方も影山に追いかけ回される。

 アイスルームの周りで始まったおいかけっこはしばらく続いた────。

 

 




ツルギ参戦!
燐と美玲先輩が別の世界の戦いに巻き込まれてしまったようです。
オリジナルライダーコラボ企画ハーメルンジェネレーションズ外伝
https://syosetu.org/novel/264886/
こちらも御一読ください!

そして……

これは未知なる周回
未知なる戦い
未知なるツルギの世界
闘争が支配する世界を切り裂け、ツルギ!
仮面ライダーツルギ EPISODE X
https://syosetu.org/novel/248188/
好評連載中!

また、ツルギのイラストを描いていただきました!
あらすじに載せておりますのでぜひご覧ください
イラストは https://syosetu.org/?mode=url_jump&url=https%3A%2F%2Ftwitter.com%2Foyatumamumamu7 に描いていただきました。
この場を借りて何度でも言います。
ありがとうございます!!!!!
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