仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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バレンタインには間に合いませんでしたが2月なのでセーフ理論を振りかざします。
今回は美玲先輩は燐とは付き合っていない、アリス鏡華双子世界という設定でお読みください。


バレンタインに乙女は舞う

 2月14日を迎えた。

 初めての、バレンタイン。

 彼が受け取ってくれるかどうか。

 いや、優しい彼のことだから受け取ってはくれるだろうけれど、そのあとが肝心。

 食べて、満足してくれるだろうか……。

 

 

 

 

 

 

「どうしたんだい? 頬に絆創膏だなんて。そうそう怪我をするような場所でもないだろうに」

「……ニキビよ」 

 

 登校して一番、射澄との会話はこんなものだった。

 後ろの席の射澄と会話するため左へ90度身体を回転。

 話題の絆創膏であるが左頬の、涙黒子の下に出来たニキビを隠す手段がこれしかなく応急処置として絆創膏を貼った。

 おかげで登校前にばたついてしまった。

 

「美玲の完璧なケアをもってしても現れるとは。試食のし過ぎだね。自分のこととなると完璧以上を求める癖のせいだよ」

 

 読んでいた厚い本を閉じ、机の上に置いて本格的に会話モードに入った射澄の口はよく回る。

 周りからは本ばかり読んでいる無口な人と思われているが射澄の口はよく回る。人並みなんてものを優に越える量の本を読む射澄の脳には豊富な語彙が取り揃えられているからだ。

 

「それにしてもバレンタイン当日に出てくるなんて不運だねぇ」

「仕方ないわよ。出てきてしまったものは仕方ない」

「そうだね。で、もう渡してきたのかい?」

「……まだだけど」

「なるほど。トップバッターの座は他の女に譲るというわけだ」

 

 からかう口調で言うので睨み付けてそれ以上の言葉が出てくるのを未然に防ぐ。

 私のストレスが溜まるのを予防するにも大事なことなのだ。

 しかし今日の射澄は止まらなかった。

 

「いや美玲。私は君を案じて言っているんだよ。君の親友として。今日という日がどういう日か知らない君ではないだろう」

 

 それは当然。

 2月14日バレンタインデー。

 日本では女性から男性へチョコなどのお菓子と共に思いを伝える日……となっているが最近は友人へ贈る友チョコの方が盛んで異性にあげるということは少なくなったように思える。

 しかしまったくなくなったわけではない。

 私のようにバレンタインにかこつけ、あやかろうとしている者もいるわけで……。

 

「聞くところによると、燐君は年上人気らしい」

「そのとおりね」

「実は文化祭の女装コン以来、人気が上がったんだ」

「……は?」

「可愛かったし、色々と頑張ってたようだしね。それに新聞部であちこち取材しているおかげで顔が広くなったようだ。燐君のキャラならすぐに気に入られるしだろうし、まあ当然の結果かな。女バレのキャプテンが……なんて話もあるよ」

 

 嘘でしょ……。

 だ、だって燐よ。

 顔立ちは悪くないし性格も明るいし勉強はほどほどだから勉強を教えるという体で接近出来て運動も別に苦手というわけでもなさそうな燐よ。

 

「ま、年上受け良いよね。私も好きだよ。おっとそっちの意味じゃないからそんな睨まないでほしいな視線だけで殺されそうだ」

「分かればよろしい」

「というわけで早く渡してきたまえよ。あ……」

「なによ」

「私の分のチョコは?」

 

 ああ、そういえばと思いバッグを漁る。

 ……。

 

「ごめん、忘れたわ」

「そんな!? 毎年の楽しみなんだよ! 中1の頃からの!」

「そうは言っても無いものは無いの。放課後、家に来なさい。渡すから」

「放課後だなんて! 朝の眠い頭を美玲のチョコで覚醒させるのが私のバレンタインなんだよ! ちょっ、美玲行かないで!」

 

 駄々っ子射澄を置き去りにして燐のクラスへと赴く。

 一番の、自信作を引っ提げて。

 

 

 

 

 

 燐のクラスへ向かう途中。

 少子化により生徒数が減少したため使われなくなった空き教室から聞き覚えのある声がした。

 

「あ、鏡華ちゃんそこはもっと強めに縛って。でないと途中でほどけてしまうかも」

「はい……。それにしても、よく思い付きましたねアリス。自分をプレゼントにするだなんて」

「そこはやはり恋愛強者のアリスさんですから……痛たたたァ!? ちょっと鏡華ちゃんも、もっと優しく!」

 

 ふと気になり空き教室の扉を開けるとそこにはラッピング用のリボンで縛られるアリスと縛る鏡華の姿があった。

 

「貴女達、その、性癖は人それぞれだけど流石に学校でそういうことをするのはどうなの。双子の姉妹で緊縛とかちょっと情報量多すぎるわ」

「来ましたね美玲ちゃん! 貴女も燐くんにチョコをあげるつもりでしょうけど燐くんの心を掴むのはこの私です! これが緊縛プレイに見える穢れた美玲ちゃんに教えて差し上げますがこれは自分自身をプレゼントするという高等テクニック! あなたにそれが出来ますか? 出来ないですよねぇ! あと鏡華ちゃんまだ痛いです」

 

 ……この色ボケ恋愛脳め。

 どうしたらそんな発想にいたるのか気になって仕方ない。

 

「さあ鏡華、行きますよ! 私の時代を築くために! ……あの、鏡華? もう縛らなくても大丈夫なんだけど……」

「えいっ」

 

 宮原妹がリボンを引っ張ると、宮原姉が縛られた状態のまま吊り上げられた。

 何がどうしてこうなっているのか分からないが……はめられたようだ。

 

「ちょっと鏡華!? 裏切るんですか!?」

「裏切るもなにも最初から私はアリスの味方ではありませんよ。燐君にチョコを渡すのはこの私です」

 

 美しき姉妹愛なんてものはそこにはなかった。

 相手を蹴落とし、貪欲に欲しいものを目指していく、飢えている者がそこにはいた。

 鏡華は教室を後にして燐のもとを目指すつもりだろう。

 このまま鏡華の進行を許して……。

 いや別にいいのだ、それは。

 燐がチョコをもらうぐらいは別にいい。 

 ……いっぱい貰ってたらそれはそれでモヤモヤしてしまうがそれは燐の人徳が為したことなので仕方ない。私がどうこう言うべきことではないからだ。

 しかし鏡華の纏っていたあのオーラは、チョコを渡すどころか燐をチョコフォンデュにして食そうとしているのではないかといった感じで、本能的に止めねばならないと理解した。

 その前に……。

 

「ちょっと、なにしてるんですか」

「なにって、貴女を降ろしてあげようとしてるのよ」

「敵の情けなど私は受けませんよ! そんなことされるぐらいなら死んだ方がマシです!」

「そう、じゃあこの教室は開放しておくから。今のその姿を皆に晒して羞恥で悶え死になさい」

「あー嘘です嘘です! 降ろしてください美玲様ぁ!」

 

 まったく強がらず最初からそう言えばいいものを。

 可愛くないんだから。

 吊し上げられたアリスを降ろし、教室から二人で飛び出て鏡華の追跡を開始する。

 急がなければ燐との接触はすぐにでも果たされてしまう。

 

「どうやって止める気なんですか!?」

「……貴女、そのお喋りな口を上手く使ってきなさい。私が足止めしてるから」

「……なんとなぁく理解しましたよ、美玲ちゃんの考えてること。すっごい癪ですけど」

 

 ……やっぱり可愛くない。

 とかく、アリスと分かれて私は燐のクラスへの最短ルートを駆け抜け鏡華の前に立ち塞がった。

 

「行かせないわよ」

「やはり立ち塞がりますか。しかし私を止めることなど出来ませんよ」

 

 ……さながら、魔王。

 穏やかで優等生でアイドル的存在として知られる彼女だが燐に関することとなると途端にこうなる。

 これで燐は好意に気付いていないというのだから、その鈍感っぷりには私も頭が痛くなってしまう。

 なんてことを考えている間に時間は稼げたようだ。

 流石アリス、仕事は早い。

 

 溢れ出す、男子生徒諸氏。

 

「宮原さんがチョコ配ってるってマジ!?」

「個数は限られてて先着順らしいぞ急げ急げ!」

「ええい! チョコをもらうのは俺だ!」

 

 バレンタインにチョコを貰うという幻想に取り憑かれた者達が集結する。

 戦でも始まるかのようだ。 

 いや、既に戦が始まっているのか。

 

「な、なんですかこれは!?」

「姉を裏切った報いね」

「そん、な……」

 

 男達に囲まれ身動きが取れないでいる鏡華。

 今頃どこかでアリスが嘘を吹聴し男達を手玉に取っている。

 恐らく、「鏡華ちゃんが皆さんのためにチョコを配ってますよ~。ただし数量限定! 早い者勝ちですよ~。チョコが欲しければ急いでくださいね~」なんて宣っているのだろう。

 これで……。

 

 これで、()()()()の足止めは完了した。

 

 あとは私が燐のクラスへ行ってチョコを渡すのみ……!

 

「勝った……!」

 

 悠々と、余裕ある感じを醸し出しさも当然のことのように渡す。

 先輩らしく。

 これで大丈夫。

 渡す際のシミュレーションは完了している。

 あとは実践するのみ。

 燐のクラス1年A組に到着。

 入口のところからクラスを俯瞰し燐の姿を探す……が、いない。

 まだ登校していないのか、教室外にいるのか。

 同じクラスに同じく新聞部の勝村はいたので彼に訊ねることにする。

 

「勝村、おはよう。燐はまだ来てないのかしら?」

「あ、先輩おはようございます。燐なら風邪引いたんで学校休むらしいっす」

「……は?」

「いやー今年もやりたかったのになーバレンタインチョコどっちが多く貰えるか対決。残念っすわー。そういえば先輩は燐になんか用……まさか……」

 

 勝村の声なんて聞こえていなかった。

 まさか、そんな、なんて、間の悪い。

 鈍感なだけでなく間も悪いなんて……。

 ……仕方ない、せめて今日の内には渡したいから学校帰りにお見舞いで燐の家に寄ろう。射澄には悪いけど。

 ま、燐が休みなら他の誰かがチョコ一番乗りなんてすることもないでしょうし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 燐の家の前。

 

「え!? 燐ちゃんが風邪!?」

「そうなのよ。待たせてて悪いわねぇ」

「いえいえ! 出待ちはファンの基本ですから! しかし学校に来れないとなれば……これを燐ちゃんに渡してもらえるでしょうか」

「あらあらバレンタインの? ありがとうね津喜ちゃん。ちゃんと燐に渡しておくから」

「お願いしますお母様! それでは私は学校へ行って参りますので!」

「はーい、いってらっしゃ~い……。ふふ、我が息子ながらモテちゃって燐ったら~」

 

 こうして、出待ち勢となっていた北津喜のチョコが燐に届いた最初のチョコとなった。

 このことを知った美玲は津喜の脅威レベルを最大へと引き上げるのであった……。

 恋の戦いは、まだ続く────。

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