「疲れた……」
乃愛さんによる女装特訓は思ったよりハードで体力はもちろんのこと、一番精神が疲れた……。
これが、文化祭まで毎日続くのか?
なんて恐ろしい……。
さて、僕はいま取材に向かっている真っ最中なのだが何故か鏡華さんがついてきている。
「御剣君御剣君。女装、とっても似合っていましたよ! あれならきっと優勝間違いなしです!」
「僕は別に優勝したいわけじゃないんだよな……。ていうか、鏡華さんは帰らなくていいの?」
「帰っても一人なので……。それより、新聞部に興味を持ちました! なのでしばらく仮入部という形で御剣君の活動を見学させていただきますね?」
なんと。
いつの間にそんなことになったのか。
それより僕の活動の見学?
緊張するな……。
「それで、今日はなにをするんですか?」
「今日は生徒会に取材。いつでも来ていいって言ってたから早めに行こうと思って」
…。
……。
………。
む、無言が気まずい……。
やっぱり何か話した方がいいのだろうか……?
といっても鏡華さんと話せるようなことっていうと……ライダーのこと?
いやいや、そんな話題もっと気まずくなるだけだ。
もっと何か普通のことで何かないか?
文化祭のこと……当たり障りのない話題はこれか?
よし、と心の中で深呼吸して……。
「「あの」」
被った。
もっと気まずいぞこれ。
どうすんのこれ。
「御剣君からどうぞ」
「いや、鏡華さんからどうぞ」
互いに譲りあう。
なんて美しい謙虚さなんだろう。
これが美徳というものか……なんて。
余計に気まずくなったぞ。
「それじゃあ、私から」
鏡華さんが気を使ってくれたみたいで話し始めたがものすごい申し訳ない。
やはりこういう時は男からいくべきなのだろうか……。
「御剣君。聞いてますか?」
「ああ、はい! 聞いてます!」
「ではなんの話でしたか?」
「え、その……あはは」
聞いてませんでしたごめんなさい。
「まったくもう……。ちゃんと聞いてくださいよ? それでその話というのはあの黒い仮面ライダーのことです」
黒い、仮面ライダー……。
昨日の夜のことが思い出される。
圧倒的な力で僕は奴に捩じ伏せられた。
奴は本当に鏡華さんを見守っていただけなのか?
多分、違う。
奴はそんなことするような奴ではない。
もっと違うなにか……。
「御剣君? どうかしましたか?」
人が僕達しかいない廊下。
僕は立ち止まり、鏡華さんの幻想を否定することにした。
「鏡華さん。あいつは……あいつは多分、鏡華さんが思ってるような人じゃないよ」
「それは、どうしてですか?」
「昨日、あいつと戦ったんだ。それで分かったんだよ、あいつは殺意とか憎しみとかそういうものに取り憑かれている。とても鏡華さんを守ってるとかそんな風に僕には思えない……」
鏡華さんは僕の話を黙って聞いていた。
自分が信じているものを否定されたというのに、途中で反論を挟むこともなく聞いていた。
そして、僕が話し終えてから鏡華さんは怒るようなこともなく穏やかに話し始めた。
「人間には色々な面があります。優しい人が誰かを傷つけることもありますし、誰かを傷つけてばかりの人もたまには人に優しくすることもあるでしょう。御剣君はあの人から殺意と憎しみを感じた、私はあの人の優しさを感じた。結局、私達はあの人の一面を見たに過ぎないんです」
……すごいな、鏡華さんは。
僕はそんな考えに至りもしなかった。
一度、剣を交えた程度で決めつけるのはよくないよな。
「ごめん鏡華さん。その、僕はそんな風に考えたことなかった」
素直にすごいなと思って、自然と頭を下げていた。
同級生とは思えないほどの達観ぶりだ。
「謝らないで下さい! 今のは私の言葉じゃなくて兄の受け売りですから……」
「兄……。鏡華さん、お兄さんがいるの?」
そんな話聞いたことなかったけど…
今の家にも叔母さんと二人で暮らしてるって言ってたし……。まあ、都会に進学するなりして一人暮らしとか自立してるだけかもしれないし。
「……はい。それで、その話には兄にも関係があってですね。御剣君はあの仮面ライダーは男性だと思いますか? 女性だと思いますか?」
?
なんでそんなこと聞くんだろう?
まあ、黒ツルギは男だったけど……。
て、そういえばライダーバトルは女子だけのところ僕と同じ男というイレギュラーなのか奴は。
ますます謎の存在になってきたぞ……。
「男性、なんですね……」
「そうだけど……。なんでそんなこと気になったのさ?」
「それは……。あの仮面ライダーはもしかしたら、その兄かもしれないんです」
黒ツルギが鏡華さんのお兄さん?
それは、その……。
「どうして、黒ツルギがお兄さんだと……?」
「それはその……。直感というしかないんですけど、あの仮面ライダー、黒ツルギ、ですか? 黒ツルギから兄さんのような雰囲気を感じたんです」
「それはつまり……女の勘、ってやつ?」
女の勘。
ドラマとかだとよく聞く言葉だが、僕の場合は母さんがこの言葉を口癖にしているし妹の美香にも遺伝して口癖となっている。
そのためかなり馴染み深い言葉なのだ。
それに案外、馬鹿に出来ないのだ。
女の勘というやつは。
「そう、ですね。その言葉が一番適切だと思います。確証もなにもありませんから。だけど、兄妹だから。兄妹だからこそ分かるんです」
兄妹だからこそ、か……。
美香ならこんなこと言わないだろうな。
「じゃあ、もしまた黒ツルギと会ったら聞いてみるよ。出来たらの話だけど……」
「ありがとうございます!」
素直に聞いてくれるような奴でもないだろうから難しいだろうな。
だけど同じ人間なら話をすることは出来るはずだ。
昨日の夜の言葉の真意も含めて、次出会ったら彼と話しをしよう。
「よし、それじゃあ一旦この話は終わりにして生徒会室行こっか」
「はい!」
とりあえず、本題の生徒会取材を敢行するぞ。
先輩だろうが生徒会長だろうが臆することなく取材するぞ!
まあ、ただの文化祭についての話聞くだけだから別になんてことないだろうけど……。
今日もモンスターを、ライダーを探してショッピングモールの屋外通路を歩く。
長くなってきた前髪ををかき分けて、そろそろ切ろうかと考える。
最近、このモール内を狩り場にしている奴がいる。
連続して失踪が起きるなんてこともあってか客足が遠のき人通りは少ない。
だが、そんな場所にあってやけに人が集まっている場所がある。
時折、拍手なんかも起こっているようだが……。
あれは、マジックショー?
「さあ、それでは次なる演目は……」
少し気になり人混みに混ざって見てみれば私と同じくらいの歳の子が慣れた様子で次々とマジックを披露していく。彼女の傍らの縦看板には「天才JKマジシャン
私はこの手のものはさっぱりなのでタネなんかはまるで見当もつかないのでただただ驚くのみ。
そしてらしくないことに夢中になってしまい、このショーを最後まで見てしまった。
ショーも終わり、人が去っていくなか私はなんだか妙な感慨を抱いてしまってこの場を立ち去ることが出来なかった。
自分とは住んでる世界が違うというかなんというか。
あんな風に人を楽しませることが出来るものなのか。
それも、私と同い年くらいの子が。
……はあ。
こんなこと考えていてもしようがない。
そろそろ行くか……。
踵を返し、立ち去ろうとした瞬間。あの音が聞こえてきた。
モンスターが獲物を定めたのだろう。
大量に人を食ったモンスターだ、さぞいいエサになるだろう。
「ねえ、そこの君!」
不意に、背後から聞こえてきたこの声は…私に当てた言葉だろうか?
とりあえず振り返って声の主を確認するとさっきのマジシャンだった。
「そうそう。君だよ君。君、ライダーでしょ」
なっ!?
なんだ、こいつは……。
こいつも、ライダーなのか?
「いいねその顔。驚いた時の顔は好きだよ。だからマジシャンやってるんだけど……。まあいいや。なんで君がライダーか分かったかでしょ? 君が気になっていることは。答えは単純。あの音が聞こえているようだったからね。マジシャンは人の心理ってやつを利用する。見抜くことぐらいお手のものってわけ」
「……だから? あんたもライダーなんでしょ。だったら……」
パーカーのポケットからデッキを取り出して見せると、向こうもポーチから取り出したデッキを見せてきた。
物分かりがよくていい。
「ま、ライダーだから戦いはするけど。まずはモンスター倒さない? トドメを刺した方が自分の契約モンスターに食わせるってことで……どう?」
「分かった。じゃあそれで」
こうして二人で人気のない、普段あまり使われないであろう階段近くの鏡を見つけてここで変身することにした。
鏡に向かい、カードデッキを翳す。
マジシャン……。撒菱茜は右手に持ったデッキを滑らかな手つきで、それこそマジックを披露するかのようにいつの間にかデッキを左手に持ちかえると私の方を見てニヤリとしてみせた。
挑発か……。
まあ、どうせ戦うのだから乗ったようなものだろう。
右手を伸ばし、鏡に向かって指を差す。
「変身」
「変身」
互いにライダーとしての姿を見せあう。
相手は白い鎧に黒のアンダースーツ。
鎧にはなんだろうか、タコかイカのような触手らしき意匠が拵えてある。なんとなく勘だが、丸みがかっているのでタコだろうか?
初めて出会うライダーだ。
「さ、行こっか」
撒菱茜はそう言って鏡の中へと入っていった。
モンスターもライダーも倒す……!
生徒会室の扉をノックすると「はい」と女子の声がして、その声の主が現れた。
この人は二年生で生徒会副会長の佐竹日奈子さんだ。
品行方正、全生徒の見本と言われる人物。
成績も学年二位をキープするほどの成績優良者でもある。ちなみに学年一位は生徒会長。生徒会でワンツーフィニッシュである。
髪も肩くらいまで伸ばすだけで特に髪で遊ぶようなことはしていないし正に清楚といった印象。
そんな副会長が手ずから出向いてくれるとは……なんて。
「こんにちは。新聞部の御剣……と、仮入部中の宮原です。文化祭のことで取材に参りました。いつでも来ていいというお話だったのですが……大丈夫ですか?」
「新聞部……。ちょっと待っててくださいね」
そう言って副会長は生徒会室に戻る。
予定とか確認しているんだろうか?
「御剣君、すごい礼儀正しいですね」
「まあ、ね。美玲先輩がこんな感じだったから自然とね」
とは言え美玲先輩の場合だと雰囲気とか声音から礼儀正しいというより警察から取り調べされてるみたいな緊張感が出るんだけど。
「あ、大丈夫みたいなのでどうぞ」
ガラッと扉を開けて
はやっ。
とりあえず失礼しまーす。
はじめて生徒会室に入ったけど、うわぁ……。
なんでただの生徒会室に校長室並のテーブルとソファがあるんだ。
そんなマンガとかでよくあるすごい権力のある生徒会なんてものでもないだろうに。
「驚いただろう? なんでも何年か前に校長室の備品を新しくするとかで当時の生徒会長がお古を貰ったそうなんだ。まったく場所を取るだけだろうに……」
なんと、生徒会長「鐵宮武」殿下ではないか。
いや、生徒会室なんだからいるのは当たり前なんだろうけど。
180はありそうな長身に切れ長の目が特徴的な美男子。
長い髪をポニーテールでまとめている。
髪型自由なここだから出来る髪型だな……。
それにしたってこの人は全生徒から英雄視されていると言っても過言ではないすごい人なのだ。
なんせ文化祭を例年なら二日間開催するところを三日にしてみせたのだ。
それも公約に掲げていたので正に有言実行。
影で家の力でも使ったんだろなんて噂も流れているが、そんなことよりも大多数は文化祭が三日間も行われるということに注目しているので大した問題ではない。
「どうぞ掛けたまえ」
ソファに座るように促され、鏡華さんと顔を見合わせてから恐る恐る座る。
うわ、柔らかい。
お古とはいえ、いいもの使ってるんだなぁ。
個人的にはもうちょっと固いほうが好みだけど。
「遠藤から聞いたよ。生徒会の担当は新聞部期待の一年だと。で、どっちかな?」
「それなら御剣君です。私は仮入部なので……」
いやぁ期待の星だなんてそんな。
「なるほど。まずは来てくれてありがとう。今回、新聞部には力になってもらいたくてね。部長……遠藤に相談したら快く引き受けてくれたのだよ」
力になってもらいたい?
「その、力になってもらいたいというのは……」
「新聞部が出している聖山月報は生徒会が発行している星霜よりも人気もあって読まれている。まあ、星霜は月の予定やら目標やらと堅苦しい内容しか載っていないからね。あんなものはSHRで伝えられる連絡事項をしっかり把握しておけば読む必要もないのだよ」
「僕は星霜読んでますよ。どこに面白いネタが転がってるか分かりませんからね」
記者は質問をするだけではない。
ちょっとしたジョークや世間話をして緊張をほぐしたりだとか気を良くした相手が更に情報を喋ってくれたりするからだ。
取材する時は相手と仲良くなるつもりで、とは僕のモットーである。
多分、本物のジャーナリストとかでは通用しないんだろうけど僕は高校生。
なにも事件を追っているわけではないのだからこれぐらいの心持ちで楽しくやるべきなのだ。
「それは嬉しいね。あんなものでもそれなりに思い入れというものはあるから読者がいてくれて嬉しいよ」
「自分が書いたものが読まれないというのは悲しいですからね。それじゃあ早速、生徒会のお力になるべくお話をお聞きしたいのですが」
いつまでも雑談というわけにもいかない。
生徒会長はお忙しいだろうから、出来るだけ早めに終わらせよう。
「えっと、新聞部をご指名してくださったからには伝えたいことがあると見ていいですか?」
「ああ、その通りだ。まずは今回の文化祭についてだが……」
会長が話し始めた瞬間、嫌な音が聞こえてきた。
モンスター……。
くそ、こんな時に!
「あ、痛たたた……。すいません急な腹痛が……。ちょっとトイレ行って来ますね。鏡華さん、会長のお話ちゃんとメモっといて!」
「は、はい! 分かりました! ……その、気を付けてくださいね」
最後は小声で僕にだけ聞こえるように鏡華さんはそう言ってくれた。
ありがとう。
それじゃあちょっと任せた!
御剣君が生徒会室を出てすぐ、会長さんは御剣君が戻ってきてからにしましょうと言った。
恐らく、仮入部の私に気を使ってくれたのでしょう。
確かにメモを取るだけでも何故かすごい緊張してしまったので助かります。
「会長、私も少し出ますね」
生徒会室で何か書類を書いていた副会長さんはそう言って生徒会を出ました。
どうしましょう、会長さんと二人っきりになってしまいました。
私には御剣君ほどのコミュニケーション能力はないので世間話なんて出来ません!
どうしましょうどうしましょう……。なにか話した方がいいんでしょうか。けど会長さんと話せるような話題なんて……。
「この時期に仮入部とはなかなか大変ではないですか?」
えっ。
あ、会長さんは私に話しかけてくれたのだ!
「え、ええと。そうですね、今は忙しいですからね……」
どうしましょう……。
上手く話せるでしょうか……。
私、年上の男性は少し苦手なのです……。
生徒会室のある特別教室棟の二階は文化部の部室となっている教室が多いがこの上の三階は階段上がってすぐのパソコン室を除けば部活動はしていないはずなので階段を上がって、空き教室に入る。
一応、人がいないのを確認して……。
「変身ッ!」
仮面ライダーに変身して、ミラーワールドへと向かう。
ライドシューターで疾走しミラーワールド到ちゃ……。
どんがらがっしゃん。
ライドシューターで机や椅子を吹き飛ばし、壁をぶち破ってしまいました……。
そりゃ、そうなるよね……。
まあ、ミラーワールド内でのことに警察は介入しないのでなんの罪にもならないが妙な罪悪感に襲われる。
「ごめん」
一応謝ってから気を取り直してモンスターを探すぞ。
腰に差しているスラッシュバイザーを抜き、周囲を警戒しながら廊下を歩く。
すると、教室の中で何かが動いた。
バイザーを握る力が強くなる。
力むな。
自然体で行け。
いつ、どこから敵が来ても即座に反撃出来るようにしろ。
静かに、教室の中へ足を踏み入れる。
パッと見は教室内にモンスターはいなさそうだが……。
また一歩、足を進めるとぬるっといった。
ぬる?
「って、うわっ!?」
この滑りのせいで滑って仰向けに転んでしまった。
仮面ライダーのまま転ぶってなんか間抜けだなぁ。
「シャアァァァァ……」
「うわぁぁぁぁ!? 出たぁぁぁぁ!!?!」
天井に、そいつは張り付いていた。
形は星型。
いや、ヒトデか?
なんにせよモンスターが真上の天井に張り付いていて、緑色の気色悪い粘液を垂らしている。
そして、今にも覆い被さるように落ちてきて……。
「嫌だッ!!!」
咄嗟にそんな言葉を吐きながら左に転がって回避した。
あれに当たっていたら全身が粘液まみれになっていただろう。
「クゥシャアァァァァ……」
ああもう気持ち悪い!
早く倒して帰る!
デッキからカードを引いてバイザーに装填。
召喚された太刀を手にヒトデモンスターに斬りかかる。
しかし、意外と素早いこいつはこの一撃を避ける。
だけど一回避けられた程度で諦めるわけがない。
振り下ろした刃を回し、逆袈裟に斬り上げようとするが……。
斬れたのは机だった。
「こんな狭いとこで太刀はダメか……。だったら」
カードを引き、バイザーに装填する。
【SWORD VENT】
召喚されたのは二本の短剣。
ドラグダガーである。
リーチも短く、威力も他の剣と比べたら劣るが手数で攻めることが出来る。
あのモンスターにさっき以上に接近しなければいけないのは嫌だが戦いやすさという点を考慮すれば仕方ない。
ダガーを逆手で構え、モンスターに肉薄する。
「おおぉぉぉ!!!!」
相手に反撃の隙を与えないほどの連続攻撃。
刃の嵐がモンスターを襲う。
モンスターが満身創痍になってきたところを蹴り飛ばし、壁に叩きつけるつもりが窓ガラスが割れてそこから外に逃げてしまった。
「逃がすかッ!」
僕も飛び降りてモンスターを追跡する。
ここで逃がして再戦しなきゃいけないとか嫌だしね。
会長さんと雑談すること数分。
大丈夫でしょうか私。ぎこちなく話せているでしょうか……?
ああ、早く帰って来てください御剣君。
年上の男性が苦手と言いましたが、それとは別に私はどうやらこの方が苦手なようです。
なんというか見透かされているような、見下されているような感じがします。
「……少し、私も出ますね。ああ、ご心配なく。すぐに戻って来ますから」
「あ……はい。分かりました。どちらに行かれるんですか?」
思わず、単純な興味から聞いてしまった。
私が聞く義理もないというのに。
しかし会長さんは気を悪くすることもなく答えました。
「そうですね……。運命を、感じたものですから」
それでは、と最後に付け足して会長さんは生徒会室を出ました。
運命……。
何故か、とても嫌な予感を感じてしまったのです。
とても、嫌な……。
外に出ればこちらのもの。
ダガーを投擲してモンスターの背中に命中させて足を止め、太刀に持ち変えて斬りかかる。
こいつ、実力自体は大したことないやつだな……。
このまま押しきる!
「でぇやぁぁぁぁ!!!」
横一閃に切り裂き、モンスターは吹き飛び地面を転がる。
この隙にファイナルベントのカードを切ろうとデッキに手をかけると校舎の窓ガラスからライドシューターが現れた。
美玲先輩が来たのか?
しかし、僕を轢こうとしてきたので慌てて回避するとモンスターの手前で停車した。
誰だ……?
ライドシューターのフードが上がり、ライダーの姿が露になるが……。
「あれって、まさか……まだモンスターと契約していないのか!?」
出てきたライダーはグレーのシンプルな姿。
デッキにも契約モンスターを表す紋章も刻まれていない。
所謂、ブランク体というやつだ。
そして、このライダーはデッキからカードを引き抜き左腕のドアノッカーのようなバイザーにセットして飾り気のないシンプルな剣を召喚した。
そして、その剣を構えてモンスターに向かって行って……。
まずい。
まずいぞ。
モンスターと契約したライダーとブランク体のライダーではスペック差がありすぎる。
ブランク体は並のモンスターにすら敗北するほどなのだ。
そして、案の定ブランク体のライダーは満身創痍のモンスターにすら押されている。
このままじゃ、あの人が危ない。
駆け出して、戦いに割り込む。
「下がってください! 今のあなたでは危険です!」
「うるさい! 黙れッ!」
やはり女子の声。
だが、どこかで聞いたことがあるような……。
どこで聞いたか……?
うーん思い出せない。
思い出せないということはつまり気のせいだろう。
そんなことを考えていると再びブランク体のライダーはモンスターに挑んで返り討ちにあっている。
「くそ……くそ! くそ! くそ!!!」
モンスターに攻撃され、痛むであろう胸を押さえながら覚束ない足取りで校舎の窓ガラスからミラーワールドを出ていった。
……なんだったんだろう一体。
あのモンスターと契約するつもり……ではなさそうだった。
モンスター選びは大事だけどいつまでもブランク体ではいられないというもの。
こればかりは運が絡むが、強いモンスターを探していたのだろうか?
いや、考察はあとにして今はモンスターを倒す。
邪魔が入ったおかげで少々回復する時間を与えてしまったか。
だけど、関係ない。
切り札を使う。
【FINAL VENT】
ドラグスラッシャーが現れ、僕の周りを飛び回り共に飛び立つ。
「ハアァァッ!!!」
ドラグスラッシャーが放った斬撃を纏った蹴りがヒトデ型モンスターの胸を捉え、キックによる衝撃と斬撃がモンスターを襲う。
そしてモンスターは貫かれ、切り裂かれる。
着地した背後でモンスターは爆発し、空にエネルギー体が浮かぶ。
それを嬉々とした様子でドラグスラッシャーが捕食したのを見届けてからミラーワールドを後にした。
さっきのライダーに変身してた人を見付けられるかな。
近くの窓ガラスから現実世界に戻り、それらしき人物を探そうとすると声をかけられた。
「おつかれさま」
いた。
美也さんだ。
階段の上からこちらを覗いている。
「見てたんだ。手伝ってくれてもよかったのに」
「人の獲物は取らないよ。モンスターにエサを与えるのも大事だしね」
それもそうだ。
それに、あれくらいの相手なら別に苦にはならない。
「見てたのには理由があって……。この学校にはライダーが私を含め三人はいるでしょう?」
「そうだね。僕に美也さんに美玲先輩の少なくとも三人」
「そう、少なくとも三人。もしかしたら他にもいるかもって思って見てたら来たでしょ? 新しいライダー。だからもっといるんじゃないかって思ってね。悪いけど観察してたんだ。もちろん、君に襲いかかるようだったら助太刀してたけど」
なるほど。
確かにもっといてもおかしくはないだろう。
今回はたまたま僕とあのブランク体のライダーだっただけでもしかしたらそのうち全員集合なんてことになるかもしれない。
乱戦は昨夜ので懲り懲りだ。
「ところで傷は大丈夫? 昨日の今日なんだからあんまり無理したら駄目だよ」
「うん。ありがとう。傷はそんなに気にならないかな……って、あ。ごめん部活中だから戻るね!」
「そっか。それじゃあ部活終わったらお茶しよ。いろいろ話したいことあるしね」
「いいよ。どこかで暇潰ししてて」
「それなら連絡先交換しようよ。終わったら連絡ちょうだい」
なんてことだ。
女子の連絡先をもらったぞ。
なんてまあそんな青春らしい理由ではないから盛り上がらないけど。
なんだろう、名刺交換的な?
したことないけど。
と、まあチャットアプリの連絡先を交換して生徒会室に急いだ。
鏡華さんと会長に申し訳ないから早く戻ろう。
燐がミラーワールドから戻る数分前。
ブランク体のライダーがミラーワールドから現実世界へと戻ってきた。人通りの少ない校舎脇。
ライダーは地面に座り込み変身を解除するとライダーだった人物が明らかとなる。
生徒会副会長の佐竹日奈子である。
モンスターからの攻撃を受け、痛む胸を押さえながら肩で呼吸している。
「はあ……はあ……クソが……」
全生徒の見本と言われる彼女を知っている人物が見たら思わず耳を疑うだろう言葉を吐く。
しかし、彼女の本性を知る人物がこの場にはいた。
「ほう。なにやら面白いことに巻き込まれているようだな。佐竹副会長」
「なっ!? なんで、お前が……」
木の裏から現れたのは鐵宮武。
彼は、全てを見ていた。
「私は運命に従ったまでだよ。ここに来れば何かあると、ね」
そう言いながら佐竹日奈子に近づき、彼女の首を掴み立ち上がらせた。
「ぐあっ……」
「今のが何か教えてくれないか?」
「誰が、お前なんか、に……あああッ!!!」
首を掴む手の力を強める。
鐵宮は教えてくれないか?と訊ねたが拒否権など与えたつもりはなかった。
「答えろ」
「が、あぁぁ!!! ……わ、分かった、教える、教えるから……」
その言葉を聞くと鐵宮は彼女の首から手を離しほくそ笑んだ。
「ふむ、いいだろう。素直な人物は嫌いじゃない」
日奈子は内心、お前が好きなのは自分の言うことに従順な奴だろうと思ったが口には出さなかった。
言えば、なにをされるか分からないからである。
そして、彼女はライダーのことを全て鐵宮に話したのである。
新たなライダーの誕生は、もうすぐそこだった。
次回 仮面ライダーツルギ
「敵に手の内見せるわけないでしょ」
「こ、降参!」
「アリスは、どうしても叶えたい願いを持っている人にデッキを渡すんだ」
「戦って、あんたを倒して、他のライダーもみんな倒して願いを叶える」
願いが、叫びをあげている────。
ADVENTCARD ARCHIVE
SWORD VENT(仮面ライダーツルギ)
ドラグダガー 1000AP
ドラグスラッシャーの牙を模した短剣。
鋭さはツルギの他の剣と比べてもずば抜ける。
取り回しもよく間合いがかなり近い相手や素早い敵などに用いる。
投擲して用いることも。
その牙は肉と骨を噛み砕くのではない、切り裂くのだ。
キャラクター原案
撒菱茜/仮面ライダージャグラー 影山鏡也様
鐵宮武 はっぴーでぃすとぴあ様
以前紹介しましたが遂に本格登場となります。