仮面ライダーツルギ   作:大ちゃんネオ

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近いうちに投稿出来ました。
なんというか自分のペースというやつが分かってきた気がする。
だけどまた予定が入ってきたからまたちょっと遅れるかもです…


?ー8 夕陽と宵の間で

「おらぁッ!!!」

 

 蜂の腹を模した格闘武器でシマウマのようなモンスターを殴り、トドメを刺した。

 

「……これで、あれは私のものだ」

 

 モンスターだったものが宙に浮かび、それを私の蜂型モンスター「クインビージョ」が捕食した。

 特に妨害もなく、約束は守るタイプらしい。

 

「さあ、モンスターはいなくなったよ。やろう。それにしても……殴り殺すなんて。ファイナルベント使ってくれてよかったのに」

「はっ。敵に手の内見せるわけないでしょ」

「そりゃそっか」

 

 ちゃっかりしている。

 しかしそういうあいつだって武器である鞭しか使用していない。

 お互いにどんなタイプのデッキかはまだ分からない。

 先に手の内を見せた方が不利になる。

 このモンスターを倒すのにかかった時間は約3分。

 おおよそあと7分ほどがミラーワールドにいられる時間。

 

「そういえばまだ名乗っていなかったね。私はジャグラー。仮面ライダージャグラー。さあ、ショーの幕を開けよう」

「ふざけた奴……」

 

 ジリ、と足がアスファルトの地面を擦る。

 睨みあい、間合を測る。

 リーチは鞭を持つ向こうであろう。

 いや、手がないことはないがこんなところで使うべきではない。

 やはりここは……殴る。

 

「ぜあぁぁぁッ!!!」

 

 一気に駆け出し、奴に向かって拳を突きだし飛びかかる。

 ジャグラーはそれを身体を軽く仰け反らせて避けるが着地して背後に立つジャグラーへ振り向き様に左手で腹を殴りつけるが……。

 

「なに……?」

「ごめんね。私、打撃に強くってさ!」

 

 呆気に取られた隙を突かれ、蹴り飛ばされ地面を転がる。

 しかし即座に立ち上がって再び攻撃を仕掛けようと右腕の武器に奴の白い触手のような鞭が絡みついた。

 

「つーかまえたー」

「チッ……。噛み千切ってやる!」

 

 空いている左手で抜きづらいがカードを引き抜き、腰に差しているバイザーにセットする。

 

「させないよ」

 

 ジャグラーもカードを左胸の装甲に埋め込まれているバイザーにセットする。

 割れた鏡の絵柄のカード。

 あれは……。

 

【GUARD VENT】

 

 空から盾が召喚される。

 しかし……。

 

【CONFINE VENT】

 

 私の左腕に盾が装着させる寸前、盾は消えた。

 

「お次にこれもっと」

 

【COPY VENT】

 

 再びカードを使用したジャグラー。

 あのカードは相手の武装や姿をコピーする能力を有している。

 そして、ジャグラーの右腕に私の武器と同じものが装備された。

 

「それじゃあ……こちらまで来てもらえますかッ!」

 

 ジャグラーは一気に鞭を手繰り寄せ、私は抗うことも出来ず引き寄せられてしまう。

 身動きが取れない私をジャグラーは右腕に装備した私の武器で殴りつける。

 

「どう? 自分の武器で殴られる気分は!」

「……ッ! 舐めるなッ!!!」

 

 鞭が巻き付けられた右腕を振るい、逆にジャグラーを振り回す。

 パワーなら、私の方が上だ。

 

「きゃあッ!!!」

 

 壁に叩きつけられたジャグラーが悲鳴をあげる。

 

「へぇ。意外と女っぽいとこあるじゃん」

 

 ジャグラーをからかい、更に振り回す。

 鞭なんだからさっさと手放せばいいのに。

 こいつ、マジックは出来ても戦いは素人だ。

 そのままジャグラーを壁に押し付けて殴る、殴る、殴る。

 打撃に強いとは言え、こう何発も殴られるのは辛いだろう。

 

「こ、降参! 降参するからちょっとタンマ!」

「降参? あんた、ルール忘れたの? これは殺し合い。どちらかが死ぬまでやるんだよッ!」

 

 トドメを刺すためにバイザーを抜いて切っ先を喉元に向ける。

 こいつを殺して、また私は夢に近付く……。

 

「ちょっと待って! 話を聞いて! あのさ、私達、組まない?」

 

 ジャグラーの奴は命乞いを止めない。

 組む?

 眠たいことを言う。

 

「ついこの間、二人組のライダーと戦った。一人が裏切って仲間を後ろから刺したんだ。で、私は生き残った方を殺した。結局最後に生き残るのは一人なんだ。仲間なんて出来たところで……」

「私は! 願いを叶えることにそこまで興味はない」

 

 なに?

 こんな戦いに参加しておいてなにを言っているんだこいつは。

 

「私の願いは人が驚くところを見ること! メモリア見せてあげるから確認してよ! つまりだね、私のマジックを見て驚く人達を見てればさえ私の願いは叶うんだよ! こんな戦いしなくても!」

 

 確認のために、デッキからカードを抜いてメモリアカードを見るとそこには確かに【Astonishment】

 驚愕を意味する英単語が記されていた。

 

「……願いは本当みたいだね。で、組むとして私のメリットは?」

「メリットならある! 君はパワータイプなデッキみたいだけど私のデッキは相手を妨害して君をサポートすることが出来る! 勝率だってぐんと上がるはずだよ!」

 

 ……なるほど。

 しかし、まあ……。

 

「メリットがあろうとなかろうとお前を殺すのに変わりはない」

「えー! ちょっと、待って! 私、君のためならなんでもするし! あれなら君から条件つけてくれたっていいんだよ!」

 

 条件、条件ねぇ……。

 

「……衣食住。食はきっちり三食。お腹一杯になるまで。私の希望通りのメニューで」

 

 衣と食はなんとかなるだろうが住は学生には難しいだろう。

 遊びで実現不可能な条件を突きつけてみたが、そろそろ殺すか。

 少し、遊び過ぎた。

 

「分かった! その条件ならいいんだね!」

 

 ……は?

 なんだこいつ。

 はったりでもかましてるのか?

 

「メモリアはそのまま持っててくれてていいよ。私が裏切る素振りを見せたら破り棄てて」

 

 数秒間、睨みあう。

 そして私は……。

 剣を下ろした。

 

「ふーん……。そこまで言うなら、少しは信用してあげよっか」

 

 今、こいつは仮面の下でどんな顔をしているだろうか。

 上手くいったしめしめとほくそ笑んでいるだろうか。

 だが、そうは思えなかった。

 こいつの真剣さというか、真面目さというか、そういうものが感じられて……。

 

「よろしくよろしく! さっきも名乗ったけど私は仮面ライダージャグラー。撒菱茜。君は?」

 

 全ての武器を下ろして、こいつは私の手を無理矢理掴んできた。

 まあ、名乗るくらいならいいか……。

 

「……仮面ライダースティンガー。片月、瀬那」

「瀬那だね。よろしく!」

 

 そう言いながら握手した腕をぶんぶんと振り回すジャグラー。

 その、肩が痛くなるからやめてもらいたい。

 

 

 

 

 

 

 

 ミラーワールドから出た私はジャグラー…撒菱に案内されて住宅地を歩いていた。

 

「どうかした? そんな珍しいものじゃないと思うけど」

「いや、別に」

 

 私とは住んでる世界が違うようだった。

 でかくて、綺麗な家がこんなに建ち並ぶようなところに来るなんて今までなかった。

 別に悪いことをしているわけでもないのに、どこか自分が立ち入ってはいけない気がして避けていただけではあるが。

 こいつは、こんなところに住んでいるのかと羨望していると撒菱が「着いた」と言って立ち止まった。

 綺麗。

 それが、まず最初に抱いた感想だった。

 白くて、汚れのない外壁にきちんと手入れされた庭。

 庭木や花などの植物が来訪者を歓迎しているようだった。

 

「ささ、どうぞ中へ。今日からここは君の城でもあるんだから遠慮せずに入って」

 

 そう、言われても……。

 自分なんかが、入っていいのだろうか……。

 こんな綺麗なところに私みたいなのが。

 私みたいな汚れが入って……。

 

「ほうら。早く早く。君が入ってくれないと契約不履行になっちゃうからさ」

「ちょっ……」

 

 撒菱は私の手を引いて、私にこの家の敷居を跨がせた。

 入って、しまった。

 私なんかが。

 呆けていると、撒菱は私の手を引いて玄関を開けて無理矢理中へと入れた。

 そして撒菱は靴を脱いで中へ上がると、振り向き、笑顔でこう言った。

 

「ようこそ撒菱家へ! そしておかえり! 瀬那!」

 

 おかえり。

 その言葉が胸に反響する。

 一体、いつぶりだろうか。おかえりなんて言われたのは。

 ……それよりも、だ。

 

「勝手に名前で呼ぶな……」

 

 

 

 

 

 

 生徒玄関前。

 生徒会長への取材も終え、今日は帰ろう……として思い出した。

 美也さんに誘われているんだった。

 

「御剣君。あの、今日もお時間大丈夫ですか?」

 

 今日もお時間大丈夫ですか?

 この質問にはあなたから時間を奪ってもいいですか?という意味がある。

 ということはつまり、鏡華さんは僕の時間を奪うようなことがしたいというわけで……。

 まさか、放課後デートのお誘い!?

 いやいやないない。

 今日もと言っているということはつまり、ライダー関連のことで色々とお話しませんかということである。

 それも大事なことではあるのだけれど今日は美也さんという先約が入っている。

 流石に先約を優先すべきだろう。

 

「ごめん! 今日はちょっと用事あってさ……」

「そう、ですか。分かりました。では、明日よろしいですか?」

「明日なら大丈夫。それじゃあ、僕はこの辺で」

「はい。お疲れさまでした」

 

 お疲れさまーと返して僕は鏡華さんに背を向け歩き出した。

 ポケットからスマホを取り出して、美也さんに「今、終わりました」と送信。

 するとすぐに既読がついて、「図書室で待ってまーす」と返事が帰ってきた。

 よかった。図書室ならここから近い。

 階段を上がって二階校舎の廊下を東側に向かって真っ直ぐ進んで突き当たりを左に曲がれば、はい到着。

 図書室を見渡すと受付に座る図書委員一人、本を元の棚に返却をしている図書委員に司書の先生。ん? あの図書委員の人は前に美玲先輩から教えてもらった人な気がする。

 名前は確か……神前射澄(かんざきいすみ)さんだったか。本好きで有名で授業以外は大体図書室にいるという別名、図書室の番人。

 

 って、いかんいかん。

 美也さん美也さんっと。

 探して少し歩くと、本棚を挟んだ向こう側の一番奥の席に座ってノートと参考書のようなものを広げていた。

 課題でもやってるのかな?

 とりあえず近付いたけど集中してまったく僕には気付いていない。

 すごい集中力だ。

 いつ気付くか少し試してみよう。

 美也さんの向かいの席に座ってと。

 窓から夕焼けの光が入り、図書室全体がオレンジ色の明るく、だけどどこか寂しさを感じさせる空間となっていた。

 なにやってるのかなと見るとこれは……うへぇ数学だ。

 すらすらと解けて羨ましいなぁ。僕ならすごい時間がかかってしまうのに。

 ……それにしても、あまりにも気付かれなさすぎるとこれは時間の無駄になってしまう。

 そろそろやめよう。

 

「美也さん」

 

 声をかけると美也さんは?という顔を浮かべながら僕の方を見て…というか見つめあった。五秒間ほど。

 

「……うわぁ!? いつからいたの!?」

「少し前から。まったく気付かないからいつ気付くかなぁって思って観察してたけどあんまりにも気付かれないもんだから声かけちゃった。それより、図書室では静かに、だよ」

「あはは……ごめんごめん」

 

 頭を掻きながら謝る美也さん。

 それにしたってさっき「図書室で待ってまーす」と送られてきてから三分くらいしか経たずにやって来たのにあんなに集中するなんてすごい。

 集中するまでのスピードが人の三倍くらいは早いんじゃないだろうか。

 

「えーと、それじゃあここで本題に入ろうか」

「ここで? お茶するんじゃないの?」

 

 テーブルの上に出ているノート達をショルダーバッグにしまった美也さんにそう聞くとひきつった笑顔を浮かべた。

 

「あはは……。そうしようと思ったんだけど、今ちょっと懐が寒くてね……」

 

 なるほど。

 それは問題だ。

 

「あ、君が奢ってくれるなら全然行くけど」 

「奢りません」

 

 ちぇっと美也さんは言うがこちらにも事情はある。

 お金を使わなくて済むならそれでいいのだ。

 

「まあとにかく。ここなら人も少ないし聞かれる心配も無さそうだからいいということにして始めるんだけどさ。君、私と組まない?」

 

 組まない?

 ということはつまり……。

 

「同盟を結ぶってこと?」

「そう。昨日の夜も言ったけど私は戦ってまで叶えたい願いなんてない。寧ろこの戦いの話を聞いた時、止めないとって思った。だから私はアリスの話に乗って戦いを止めるために戦うことにした」

 

 戦いを止めるために戦う……。

 僕と同じことを考えている人がここにいる。

 

「それで、昨日の夜。君と出会って、私と同じような人がいるんだって思えた。だから君と協力出来ればって考えたんだ。この戦い、参加者は多いからね。一人じゃとても厳しい……。けど二人なら。それに私達と同じように考えてくれている人達がいるなら、皆でこんな戦いやめようって出来れば……」

 

 皆でやめれば、必然的に戦いは終わる。

 だけど、それは不可能に近い。

 何故なら……。

 

「アリスは、どうしても叶えたい願いを持っている人にデッキを渡すんだ。だから、戦いを止めようと考えている人は少ない……」

 

 叶えたくても叶えられない願い。

 そんなものを持つ者がライダーになるのだと美玲先輩が言っていた。

 そんな人達が折角与えられたチャンスをみすみす逃すものだろうか?

 答えは否だ。

 叶えたくても叶えられない。

 手を伸ばしても届かない。

 だが、手が届くと言われたら?

 叶えられると言われたらどうする?

 無数の犠牲の果て、骸を積み重ねてでも彼女達は願いを叶えようとする。

 それが、ライダーバトル───。

 

「……私、これでも剣道で神童って呼ばれてたんだよね」

 

 唐突に、美也さんはそう語りだした。

 

「だけど中学で事故にあっちゃってさ、右腕に後遺症が残ってる。たまに痺れる程度だけどね。だけどこんなんじゃ前みたいにちゃんと剣道が出来ない。それで剣道やめたんだ」

 

 神童と呼ばれるほどの彼女が剣道を出来なくなるなんて、それは僕なんかじゃ想像出来ないほど絶望したことだろう。

 だが、彼女は再び剣道をしたいとは願っていない。

 普通なら、そう願ってもおかしくはないはずなのに……。

 

「夏休みに入ってすぐ、昔からの友達。いや、ライバルだった子がね、お前の右腕を治してまた剣道出来るようにしてやるって言い出したんだ。最初は意味が分からなかった。てっきり医者を目指すってことだと思った。だけど……」

 

 もう、その先は読めてしまった。

 

「ライダーだったら分かるよね? あの子はライダーになって私の右腕を治すために戦ったのよ。そして、行方不明になった。ちょっと素行は悪い子だったけど、何日も帰らないなんてことはなかった」

 

 そう話す彼女に、僕はなんて言葉をかければ分からなかった。

 いや、言葉なんてかけない方がいいのかもしれない。

 

「あの子は私のせいで死んだの。だからこれ以上、この戦いで犠牲者は出したくない。死ぬ人も、遺された人も私は出したくない! ……それが、私の戦う理由。願い、かな。……君はどう? 女の子にここまで言わせたんだから君も戦う理由を言わないとダメってやつだよ」

 

 最後は冗談めかして、僕にそう美也さんは問いかけた。

 僕の戦う理由は。 

 理由は……。

 

「戦いを、止めたい」

「うん。そうだとは思ってたけど、そう思った理由は?」

 

 え……?

 戦いを止めたいと思った理由……?

 

「まさかとは思うけど、君、漠然と戦いを止めたいって言ってただけなの?」

「僕、は……」

 

 僕は……。

 どうして、戦っているんだろう。

 あの時、闇の中でデッキを手に取った時。

 僕が願ったのは力。メモリアカードにもそう記されている。

 だけど、その力とは一体なんのための、誰のための力なのか。

 それは僕自身にも分かっていないことで……。

 

「……この戦いにはどうしても叶えたい願いがある人間達が選ばれるって言ったよね。だったらそれを止めようと、邪魔しようとするならそれ相応の覚悟が必要だと思うの。でないと、こちらが折れてしまう。今の君は、いつか折れる。絶対に」

 

 強い瞳だった。

 射ぬかれる。

 いや、刺し貫かれた。

 背筋がゾクリとして。美也さんが怖いとかではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……今日のところは帰るね。話を持ちかけておいてなんだけど、今の君とは一緒に戦えない。それじゃあ……」

 

 ショルダーバッグを肩にかけ、美也さんは図書室を去った。

 一人、取り残された僕。

 窓の外を見ると、夕焼けに青が差している。

 もう、夜になる。

 

「あの、もう閉館時間なんですけど」

 

 放心状態でいると、図書委員。神前射澄さんから声をかけられた。

 

「あ、すいません。すぐ出ますから……」

「君、ライダーなの?」 

 

 え……?

 今、この人はなんて……。

 

「さっき一緒にいた子もライダー。話、ちょろっと聞こえてね。私もライダーなんだけど、昨日なったばかりでまだまだライダーについての知識が足りなくてね。悪いけど……」

 

 そう言いながら彼女は僕にデッキを見せつけてきた。

 こうなれば、後の言葉は決まっている。

 

「私と、戦ってくれない?」

 

 

 

 

 

 校舎を独り歩く。

 正直、悪いことしたなと思うし、自分でもないなと思っている。

 胸の中を黒いモヤモヤとしたものが覆う。

 彼だって巻き込まれた身なんだ。なにもあんなことを言う必要はなかった。

 だというのに、私は……。

 思わず、足が止まった。

 今ならまだ彼も図書室にいるだろう。今からでも戻って彼に謝罪を───。

 瞬間、鉄と鉄がぶつかるような音が耳を貫いた。

 外から聞こえてきたその音を確認しようと窓を覗くとそれはこちらではない。あちら側の戦闘の音だった。

 見れば、彼が変身する白いライダーとはじめて見る青いライダーが戦っていた。

 彼は太刀を振るい、青いライダーは三叉槍を操る。

 そして私は…見惚れたのだ。

 彼の太刀筋に。

 彼の剣戟に。

 否応なしに、美しい───。

 神童と讃えられ、大会でも多くの優勝を勝ち取ってきた私だが、ああはなれない。

 あんなに綺麗な剣を私は知らない。

 だから、か。

 そうだ、彼は綺麗なのだ。

 あの鎧と同じく真っ白なんだ。

 まだ、何色にも染まっていない。

 故に、何色にも染まることが出来る。

 だから彼を……汚してはならない。

 こんな戦いに彼を染めてはならない───!

 デッキをバッグから取り出して、あの戦いに割り込もうとした瞬間、顔見知りの女子生徒が曲がり角から現れた。

 

「あれが見えてるってことは、あなたもライダーってことでいいんでしょう? 影守さん」

「樹さん……」

 

 黒峰樹。

 彼女と私は同じである。

 彼女も事故で、有望視された未来を潰された……。

 

「ライダーってことは、なに? あなたもかつての栄光を取り戻したいってわけ?」

 

「違う……。私は、戦いを止めるために戦う」

 

「は? 戦いを止める? ふざけないで。そんなことしたらアタシの夢が叶わないじゃん」

 

 彼女の夢。

 それは、予想出来る。

 彼女もまた、ライダーの一人として戦うということか……。

 

「あなたが戦うというなら私は止める。だってあなたと私は同じだから」

「はっ! 勝手にそんな風に思わないでくれない? 確かにアタシとあなたは同じ境遇かもしれない。だけど、戦いを止めるなんて綺麗事言って自分の夢から逃げたあんたとアタシは違う!」

 

 ッ!?

 私は、夢から逃げたわけじゃ……。

 

「いいからさ、戦おうよ。止めたいっていうなら止めればいい。戦って。だけどアタシはそうはいかない。戦って、あんたを倒して、他のライダーもみんな倒して願いを叶える」

 

 そして、彼女はデッキを構えた。

 もう、止められない。

 止めるには、戦うしかない。

 互いに窓ガラスに向き合い、デッキを突きだし同時に叫ぶ。

 

「「変身ッ!」」

 

 ミラーワールドに行く前に、彼女を見ると向こうもこちらを見てきた。

 首元には長い黒のマフラー。

 鎧は深緑で軽装。

 騎士らしい風貌のライダーの中にあってこれは異質。

 騎士ではなく、あれは忍だ。

 真正面からは勝負させてはくれないだろう。

 数秒ほど見つめあうと彼女は先にミラーワールドに向かった。

 戦わなければ、ならない。

 もう一度、覚悟を決めて私もミラーワールドへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 私はいま、ここ最近で一番の窮地に陥っていた。

 

「瀬那! いい加減に諦めてッ! お風呂に入らないと流石にまずいって!」

 

 風呂に入れ。というのは分かる。

 ただ、なぜ撒菱の奴は……。

 身体をタオルで巻いているのだろう。

 

「もちろん一緒に入るためだよ。裸の付き合いってやつ?」

「ふざけるな! 誰がお前なんかと……。一人で入らせろ一人で!」

「折角だし一緒に入ろうよ。別に減るもんなんてないし。ほらっ! いい加減諦めて!」

 

 この後、私の抵抗虚しく撒菱の奴と風呂に入ることになってしまった。

 風呂場は広くて二人で入っても余裕があったのだけど撒菱の奴はやけに密着してきた。

 もしかしたら私は、とんでもない奴を仲間にしてしまったのかもしれない……。




次回 仮面ライダーツルギ

「武器は奪った!」

「いいや、帰る」

「麦茶でよかったかしら」

「決まってるだろう。私の聖域を荒らす奴をぶちのめしに行くんだ」

キャラクター原案

神前射澄/仮面ライダーヴァール 坂下千陰様
黒峰樹/仮面ライダー甲賀 ロンギヌス様

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