憑依転生・怪力乱神の英雄譚   作:陣禅 祀

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二話目、ベル君視点、なんだかんだ一万字超です。
話数のストックは殆どないので、毎日更新は五話あたりで途絶えるかと……
セルフ校閲しながら推敲してるのが一気に投稿できていない事情です…()。
会話文が多いと台本形式の方が読みやすいんじゃないかと思えてきますが、それをやると情緒もクソも無いんですよね……。

何かしら投稿済みの話に修正入れた場合は最新話の前書きと修正した話の前書きに報告を入れておくことにします。

あ、第一話に若干修正入れました。掛け合いの違和感無くすのってやっぱり何度読んで書き直しても難しいものですね…。

2020/3/20 誤字修正。ジャック・オー・ランタン様ご報告ありがとうございます。


第二話

 ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?

……現在進行形で間違っていると言えるかもしれないし、言えないかもしれない。

何故って──……

 

『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ‼』

「ほあぁあああああああああああああああああああああああああっ⁉」

「叫ぶのはっ結構だけどっ落ち着いてくれないかっ?」

「ぜっ、善処しますぅぅ‼」

 

 御覧の通り、先程出会ったサラーサという女の子を背負い、ミノタウロスという化物に追いかけられ、死にかけている状況。

ミノタウロスにはLv.1の僕ではまともにダメージを与えられない。ダメ元で何度か試してみたけれど、やはり無理だった。怯ませるどころかまともに傷つけることすら叶わなかった。

 

 何十もの通路を抜けて、背中に女の子がいるのだからこれ以上格好悪いところなんて見せられない!と必死に駆け続けてきたけれど。

 ついに、行き止まりだ。正方形の空間。壁との熱烈な抱擁(ほうよう)なんて冗談ではないので、急ブレーキでつんのめりそうになりながら止まって、ミノタウロスの方に振り返った。サラーサは気が付いたら既に僕の背から降りていて、ミノタウロスと向かい合っていた。

 自分より一回りも二回りも大きな筋骨隆々の巨体に、壊れたような不細工な笑みを浮かべた牛頭。

 震えてガチガチと歯の根がかみ合わないし、足にあまり力が入らない。

 もうダメかもしれない。でも、だったら今隣にいる女の子(サラーサ)だけでも生き残ってほしい。最後に格好いいところを見せられたら、少しは浅はかで卑猥(ひわい)な妄想に()りつかれた()れ者の僕でも、彼女にとっての英雄…とまではいかなくとも、きっと忘れないでいてくれるくらいの存在にはなれるんじゃないだろうか。

 

「さ、ささサラーサ」

 

 ごめんなさい神様、エイナさん。僕、ここで死んじゃうかもしれません。

 

「なんだよベル」

「ぼ、僕が…ミノタウロスの、ちゅ…注意を、引く、から…!逃げてっ」

 

 震える体を叱咤(しった)し、なんとかショートソードを構える。

 だけど。

 

「…ヤだね」

 

 彼女の口から出たのは拒絶。なんで。どうして。

 

「サラーサ!」

 

 思わず(とが)めるような声になってしまう。しかし彼女は一歩踏み出してしまった。

 

「あたしは強者じゃないといけないんだ」

 

 そう、言って。

 

『ヴォッ』

 

 (なぶ)る気満々の、ミノタウロスにとっては軽いジャブのような一撃。彼女が前に出てしまったから。止めたいのに、体が強張って動かない。動け、動けよ!

 

「サラーサッ!」

 

 なんとか動く口から、悲鳴のような声が出る。想像(妄想)の中ではこんなときに僕が颯爽(さっそう)と怪物を倒していたのに。理想と現実の落差に反吐(へど)が出る。

 その一撃で吹き飛ばされる彼女の姿が脳裏に浮かんだけれど、実際はそうならなかった。

 

 魔法か何かのようにミノタウロスの拳がサラーサの横を抜け、逆にサラーサの肘鉄がミノタウロスの肘関節に入った。

 

『ヴォオォ!?』

「ふぅ───……」

 

 嬲るだけだと思っていた獲物が、手加減していたとはいえ紙一重で己の攻撃を避け、その上反撃までしてきたことに驚愕したミノタウロスは、反射的に腕を引っ込めて一歩後ずさる。その間にサラーサは何やら構えをとった。

 ミノタウロスの表情は、さっきまでの笑みから驚きに変わり、ついには怒りに染まった。

 しかし、あいつが息を吸う動作をとった瞬間、気が付いたら彼女は既にそこ(ミノタウロスの懐)にいて───

 

『ヴォガッ!?』

 

 ドズン、とミノタウロスの体が一瞬浮いたかと錯覚する程の重い音が響いた。

 

「ベル」

 

 気が付いたら彼女はバックステップですぐ近くまで戻ってきていた。すごい。あのミノタウロスにダメージを…!

 

「…っはい!」

「正直全く勝ち目が見えない。さっきのは殆ど不意討ちみたいなもんだ。隙を見て逃げて助けを呼んできてくれ」

 

 え、と。予想外の言葉に思考が止まる。あのままいけば倒せるんじゃないか?と一瞬でも考えてしまった僕は馬鹿だ。Lvも聞いていないとはいえ、(かな)わないからこそ一緒に逃げていたはずなのに。

情けない、お前は男なのに女の子に庇われているのか、と心の中で誰か(もう一人の自分)嘲笑(あざわら)う。

 目の前でサラーサ(女の子)が戦っているのに、何もできないのか、僕は。

 

「そら、来いよ牛野郎。テメェより弱いヤツに一杯喰わされて大人しくしてるようなタマじゃねーだろ」

『ヴゥオオオオオオオッ!』

 

 迫る巨大な拳。無謀にもその小さな拳で真正面から応える少女。

 予想通り少女の右腕はズタズタになり、しかしミノタウロスの拳もまた、原型を留めない程にひしゃげていた。

 胸が苦しい。目が離せない。

 

「はっ、ザマァみやが───『ヴヴォオオオオオオオッ‼』!?」

 

 瞬間。

 思考が恐怖に染まった。怖い、恐い、こわい!

 また身体が動かない。

 目の前で、同じく動けなくなっていた少女(サラーサ)怪物(ミノタウロス)の左手に掴まれた。

 

「がっ……」

 

 ギリギリと徐々に締め上げられているらしく、段々と彼女の声が弱くなっている。

 助けなきゃ!助けなければ!

 

「…う、うぉおおおおっ!その人を、離せぇっ!」

 

 夢中で駆けだしていて、気が付けば、僕はショートソードを怪物(ミノタウロス)の眼球に突き立てていた。

 激痛でもがくミノタウロスに振り落とされ、ショートソードもミノタウロスに突き刺さったままで手から離れてしまった。

 しりもちをついて、悲鳴を上げ暴れるミノタウロスを呆然と見上げていると、その身体に一本の線が入った。

 

「え?」

『ヴぉ?』

 

 僕と怪物の、間の抜けた声が重なる。お前さっきまで痛みで暴れ狂っていたじゃないか、とズレたことを考えていると、更に幾筋もの線が連続で刻み込まれた。

 銀の光が最後だけ見えた。

 やがて、僕とサラーサが…いや、サラーサが死に物狂いで手傷を与えたモンスターが、ただの肉塊になり下がる。

 

『グブゥ⁉ヴゥ、ヴゥモオオオオオオオオオオォォォオォ───⁉』

 

 断末魔が響き渡り、刻まれた線に沿ってミノタウロスの体のパーツがずれ落ちていく。

 最後に赤黒い液体…血飛沫(ちしぶき)を噴き出して一気に崩れ落ちた。

 大量の血のシャワーを全身に浴びて、僕は呆然と時を止める。

 

「……大丈夫ですか?」

 

 牛の怪物に代わって現れたのは、女神様と見紛うような、少女だった。

 

中略(例の一幕)

 

(……ぁ)

 

 ──蒼い装備に身を包んだ、金眼金髪の女剣士。

Lv.1で駆け出しの冒険者である僕でも、目の前の人物が誰だかわかってしまった。

【ロキ・ファミリア】に所属する第一級冒険者にして、最強の一角と謳われるLv.5。

【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

「あの……大丈夫、ですか?」

 

 大丈夫じゃない、全然大丈夫じゃない。

 今にも爆発して砕け散ってしまいそうなこの僕の心臓が、大丈夫なわけがない。

 ほんのりと染まる頬、相手の姿を映す潤んだ瞳、芽吹く淡い……いや、盛大な恋心。

 妄想は結実、配役は逆転、想いはド頂点。

 僕の心はこの時に奪われた。

 

 ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?

 

 最終結論。

 僕は、間違えてなんかいなかった。

 

       ***

 

「エイナさぁああああああああああんっ!」

 

「ん?」

 

中略(いつもの)

 

 少年──ベル・クラネルの安否を確認して頬を緩ませ、眼鏡をかけ直して振り向くと、

 

「エイナさぁぁあああああああああああああああああああああああああんっ‼」

「おい止まれベル!あといい加減離せぇっ!」

 

 全身をドス黒い血色に染め切った少年の姿が、視界に飛び込んできた。

 

「うわあああああああああああああああああ⁉」

「アイズ・ヴァレンシュタインさんの情報を教えてくださあああああああああいっ!」

 

***

 

「ベル君、キミねぇ、返り血を浴びたならシャワーくらい浴びてきなさいよ……」

「すいません……」

 

 ややあってギルド本部のロビーに設けられた小さな一室。今、僕とサラーサ、エイナさんはそれぞれ椅子につき、テーブルを挟んで向かい合っている。

 体を洗ってさっぱりした僕たちの前で、エイナさんはこれみよがしに溜息をついた。

 

「あんな生臭くてぞっとしない格好のまま、女の子を背負ってダンジョンから街を突っ切って来た上、第一声がアイズ・ヴァレンシュタインさんの情報を教えてくださいだなんて、私ちょっと、いやだいぶ君の神経疑っちゃうなぁ…」

「そうだぞベル。アイズ…さんがあたしにクッソ高そうな薬使ってくれたお陰で完治したけど、まさか治った途端にお前に連れてかれるとは思わなかった。いやまぁちょっとだけ話せたから向こうが助けてくれた事情はわかったんだけどさ。お陰で礼も言えてない」

「そ、そうですよね……うぅ」

 

 見眼麗しい二人にそんなことを言われてしまうと、冗談抜きで心が抉られる。元々冷静になってサラーサのことそっちのけで言ってしまった罪悪感で落ち込んでいるのに。(まなじり)に涙が浮かび上がってしまいそうだった。

 エイナさんは苦笑して僕の鼻をちょんと指で押さえると、「まぁ、今回は色んな意味で仕方ないとは思うけど、次からは気を付けてね?」と微笑んでくれた。ぶんぶんぶんっ、と僕は大げさに首を振る。心境的には大げさでもなんでもないと思うけれど。

 

「それで……アイズ・ヴァレンシュタイン氏、の情報だったっけ?どうしてまた?」

「えっと、その……」

 赤くなりながら先程あった一部始終を語った。普段通っているダンジョンの2階層から一気に5階層まで下りてみたこと。5階層の通路で怒鳴り声が聞こえて来たので行ってみたらサラーサがゴブリンと戦っていたこと。その後サラーサに手当をして、意識を取り戻した彼女と話しながら地上に向かっていたらミノタウロスと遭遇(エンカウント)して追いかけ回され、袋小路で決死の戦闘を行い、あわやというところで【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインさんに救われたこと。お礼を言おうとしたけど頭が真っ白になったこと。治療を受けたサラーサが意識を取り戻すと同時に、膨れ上がった羞恥と緊張で混乱がピークに達してしまい──サラーサの手を掴んで全速力で逃げ出してしまったこと。

耳を傾けてくれていたエイナさんは、僕の話が進んでいく内に表情を険しくしていく。

 

「──もぉ、どうしてキミは私の言いつけを守らないの!ただでさえソロでダンジョンにもぐってるんだから、不用意に下層へ行っちゃあダメ!冒険なんかしちゃいけないっていつも口を酸っぱくして言ってるでしょう⁉」

「は、はいぃ……!」

「はぁ……それで、サラーサちゃん、だったかな?あなたはどこの【ファミリア】所属なのかな?」

「ん?あたしはどこにも所属してないぞ」

「…え?じゃあなんでダンジョンの、しかも5階層なんかに居たの⁉」

「知らない。気が付いたらあそこにいたんだ」

「……気が付いたら?もしかして誰かに連れ込まれた…?ねぇ、ちょっと詳しく聞かせて貰えるかな?」

 

 サラーサ、やっぱり何か良からぬことに巻き込まれたりしているのだろうか?もしそうなら助けてあげたいけど…

 

「無理。だって気が付く前の最後の記憶は車に()かれた、ってだけだし」

「ええと、車っていうのは馬車とか竜車で良いのかな?」

「大体合ってる。あぁ、死んだな。と思ったら洞穴で目が覚めてびっくりしたぜ。しかもゴブリンの群れまで湧いて出やがったし」

「よ、よく死ななかったわね…」

「サラーサ、ゴブリンの群れを一方的に倒してましたし、ミノタウロスとも渡り合ってましたから!」

 

 本当に、格好良かったなぁ、あの時のサラーサ。

 

「…どこの派閥にも属していないということは、当然『恩恵』だって無いか、無効よね?」

「無いぞ。ま、あたしはそんなのなくてもその辺の魔物に遅れなんかとらないけどな!」

「え、えええええぇぇぇ⁉」

 

 『神の恩恵(ファルナ)』無しであの強さ⁉てっきりLv.2くらいはあると思ってたのに!

 

「予想してはいたけれど、まさか本当に『恩恵』無しでミノタウロスと正面から打ち合っただなんて……」

「まぁあたしも死に物狂いだったからな!勝てっこないのはわかりきってたけど、生きたいなら最後まで足掻(あが)くべきだ。そうじゃないのか?」

 

 カラカラと何でも無い事のようにサラーサは笑いながら言うけれど、一体、幾人が最期の足掻きで圧倒的上位者に痛打(つうだ)を与える事ができるだろうか?少なくとも、今の僕にはできそうもない。

 

「……ともかく、サラーサちゃん。あなたならきっと、派閥に所属して『恩恵』を授かって、仲間を得ればダンジョンでも十二分にやっていけるわ。だから、入団させてもらえる【ファミリア】を探してみて」

「んー、ファミリアって言ってもなぁ…どっかしら縁のある神が居るわけでもないし。んー、そうだ。『シエテ』って剣士が団長勤めてる【ファミリア】ってあるか?あとは『グラン』とか『ジータ』とかって名前の冒険者とか」

「シエテ、グラン、ジータ……?うーん、オラリオにいないか、少なくとも有名ではないわね。どの名前も聞いたことないわ」

「そっか。なら適当に探してみる。注意しておいた方が良い派閥ってあるか?」

「そうね……ギルド職員としてはあまり口に出したくはないけれど。【ソーマ・ファミリア】、【アポロン・ファミリア】はあまり良い噂を聞かないわね。【ソーマ・ファミリア】は酒造系ファミリアだから、加入さえしなければ良いけれど……【アポロン・ファミリア】は主神に気に入られるとどんな手を使ってでも加入を迫って来ることで有名だわ。あとは……あなたは容姿も整っているし、特定の【ファミリア】という訳ではないけれど、歓楽街にも気を付けた方が良いかもしれない。近づかなければ問題ないけれど、連れ込まれることも十分有り得るから」

「……わかった。【ソーマ・ファミリア】に【アポロン・ファミリア】、あと歓楽街か。じゃあ逆にオススメの【ファミリア】は?」

「小規模な派閥だけれどベル君のところ……【ヘスティア・ファミリア】とか、【タケミカヅチ・ファミリア】とか。大派閥なら【ガネーシャ・ファミリア】ね」

「ふーん、わかった。考えてみる」

「えぇ、そうして。……あ、それで、ベル君はアイズ・ヴァレンシュタイン氏について知りたいんだっけ?」

「……!はい、そうです!」

「はぁ……う~ん。ギルドとしては冒険者の情報を漏らすのはご法度なんだけど……」

 

「教えられるのは公然となっていることくらいだよ?」と前置きして、エイナさんは語り始めた。何だかんだ言ってこの人は親切だ、僕が駆け出しだからって理由もあるのかもしれないけど。

 

~中略~

 

「え~と、あと他に何があったかなぁ。あの容姿であの強さだから、話題は尽きないんだよねぇ」

「あ、あの、冒険者としてじゃなくて……好きな食べ物とか、後は今言った最後みたいな情報を……」

 

 僕が顔を熱くしながらおずおず言うと、エイナさんは目を二、三度と瞬かせた。

 

「なぁに、ベル君もヴァレンシュタイン氏のこと好きになっちゃったの?」

「いや、その……ぇぇ、はい……」

 

 机に頬杖をつき、退屈そうにしているサラーサが、不意に口を開いた。

 

「はぁ……なぁなぁ、もうその辺にした方が良いぞベル。あんまエイナも仕事に関係ないこと言えねーだろ?」

「はっ!そ、そうね、これ以上は全然職務に関係無し!ダメよ!」

「そ、そんなぁ……そこをなんとか!」

「恋愛相談は受け付けてません!ほら、用が無いなら帰った帰った!」

「ああ、エイナさんのいけず……サラーサもなんで止めるの……」

「だってほら、見ろよ。ロビーにも人が少なくなってきたし、とりあえずお前の主神に会ってみたいし。あとちょっと腹減った」

「サラーサちゃんもこう言ってるし。何よりベル君、キミも冒険者になったんだから、もっと気にしなきゃいけないことが沢山あるんだよ?」

「うっ……」

 

 それは、わかってる。

 僕にはもう庇護(ひご)してくれる存在はいないし、この体一つで明日の糧を得ていかなくてはならない。それに、養わなければいけない人……いや、『神様』もいるのだ。ヴァレンシュタインさんのことを熱心に考え込む余裕は、実際僕には無いのだろう。

 

「それに、キミはもうロキ以外の神から『恩恵』を授かったんでしょう?【ロキ・ファミリア】で幹部も務めるヴァレンシュタイン氏にお近付きになるのは、私は難しいと思う」

「……はい」

「……想いを諦めろなんて言いたくないけど、現実だけはしっかり見据(みす)えておかなきゃ。じゃないと、ベル君のためにもならない」

「ま、そう落ち込むなよ。運命ってヤツが本当にあるなら、お前が想い続ける限り、きっと何かある筈だ。今はコツコツ頑張ろうぜ、ってな」

 

 サラーサにポンポンと叩かれていた僕の背中に、エイナさんは事務的な言葉を投げた。

 

「換金はしていくの?」

「……そうです、ね。一応、サラーサに会うまでモンスターは倒していたので」

「じゃあ、換金所まで行こう。私も付いてくから」

 

 二人に気を使わせているのが心苦しかった。ただでさえエイナさんには、まだ右も左もわからない今の僕に良くしてもらっているというのに。これじゃあいつまで経ってもエイナさんには頭が上がりそうにない。

 それから僕達はギルド本部内にある換金所に向かい、本日の収穫を受け取った。

ゴブリンやコボルトを中心に倒して手に入れた『魔石の欠片』。全て合わせて一三〇〇ヴァリスほど。いつもと比べ収入が低いけど、これはヴァレンシュタインさんから逃げ出したために、普段より短い時間しかダンジョンへもぐっていないからだ。まあサラーサを地上へ連れていくつもりだったから、例え逃げ出していなくたって今日の収入は変わらなかっただろうけど。

 うーん、武器の整備や神様と僕の分の食事を考えると、アイテムの補充はできないかな……。あ、それに内一〇〇ヴァリスはサラーサが倒したゴブリンのぶんだから、これはサラーサに渡さないと。

 

「サラーサ、君が倒してたゴブリンの分だよ。取っておいて」

 

 一〇〇ヴァリス。大体二食分くらいかな。魔石二個以外にもドロップアイテムもあるという彼女の実力と幸運の成したお金だ。無一文よりは全然マシだし、持っておいて損はないから。

 

「へ?あぁ、アレかー。良いよ、お前が持ってて。足りないかもしれないけど、ポーションの分だ」

「でも一ヴァリスも持ってないんでしょ?良いから持ってて」

 

 ポーション代だって言われるとちょっと困るけど、ここは強引にでも受け取ってもらった。最低ランクとはいえあれも一本五〇〇ヴァリスは下らないものだから確かに少しでも補填できた方が良いんだけど、そんなに必死になるほど(きゅう)してる訳じゃない。

 

「はー、わかったよ。確かにメシも食えないもんなぁ」

 

 納得してもらえたようで何よりです。

 

「……ベル君」

「あっ、はい。何ですか?」

 

 帰り際、出口まで見送りに来たエイナさんに引き留められる。

 彼女は逡巡(しゅんじゅん)する素振りを見せながら、思い切ったように口を開いた。

 

「あのね、女性はやっぱり強くて頼りがいのある男の人に魅力を感じるから……えっと、めげずに頑張っていれば、その、ね?」

「……」

「……ヴァレンシュタイン氏も、強くなったベル君に振り向いてくれるかもよ?」

 

 動きを止めて、その言葉をよく咀嚼(そしゃく)して、上目がちに(うかが)ってくるエイナさんを見つめて。

 ギルド職員ではなく、一人の知人として励ましてくれていることに気付いた僕は、みるみる内に笑みを咲かせた。

 勢いよくその場から駆け出した後、すぐに振り返り、エイナさんに向かって叫ぶ。

 

「エイナさん、大好きー‼」

「……えうっ⁉」

「ありがとぉー!」

 

 顔を真っ赤にさせたエイナさんを確認して、僕は笑いながら町の雑踏(ざっとう)に走っていこうとして。只ならぬ気配を背後に感じて固まった。

 

「ベ~ル~くぅぅぅん…誰か忘れてねぇか?んん~?」

 

 少し冷え込んだ声に、油の切れた機械のような動きで振り向くと、笑顔を張り付けたサラーサがいた。

 

「あたし置いてってどうするつもりだったんだ?おい」

 

 慌てて謝ったら「まあ良いけどさ」とため息をつきながら許してくれたけど……一喜一憂し過ぎて彼女のことがすっかり頭から抜け落ちていたことを深く反省しながら、改めて帰路についた。

 

「サラーサ、本当にうちに来るの?」

「まぁなー。入るかどうかは置いといて、エイナにも勧められたし神様だっけ?会うだけ会ってみよっかなって」

「そっか、もしサラーサが入ってくれたら心強いんだけどなぁ。【ヘスティア・ファミリア】って眷属が僕しかいない零細(れいさい)派閥なんだよね……」

 

 安全に探索するためにも、背中を預けられる仲間が欲しいのは事実だ。でも、彼女が入ってくれるかどうかは彼女次第。お願いはできても無理強いはしたくないし、きっとそもそもできない。

未だに信じ難いけど彼女は『神の恩恵(ファルナ)』無き身でLv.2のミノタウロスと真っ向から殴り合って痛み分けになる程の力を持っている。Lv.1の僕では下手すると足止めくらいにしかならないかも。

 

「うぇっ?それホントか?」

「うん、僕が神様の眷属になったのだってつい最近だし」

「……マジかよ、一周回ってかわいそうになってきた……」

「サラーサ?何か言った?」

「いーや、なんでもない。じゃあさ、お前はどうしてその零細【ファミリア】に入ったんだ?有名な【ファミリア】ってわけでもなさそうだし」

 

 う。『女の子との出会いを求めてやってきて、門前払いされまくった末に神様が拾ってくれたんです』だなんて正直に言ったら笑われそう……でもありのまま話すしかないかなぁ。

 

「僕、ここ(オラリオ)から少し離れた田舎の出身なんだ」

「ふーん、それで?」

「両親はいなくて、おじいちゃんが一人で育ててくれてたんだけど、一年前に亡くなっちゃって」

「ぉう、それは……」

「あ、別に気にしなくて良いよ?立ち入った話じゃないから。それでね、おじいちゃんは僕によく英雄譚(えいゆうたん)を聞かせてくれてたんだ」

「ふんふん……あ、なんとなく読めたぞ。お前、英雄譚の英雄に憧れてここに来たんだな?」

「あはは、その通りだよ。僕は英雄譚に──そんな冒険と出会いに憧れて、ここに来て……【ファミリア】に入れてもらおうとしたんだけど、大派閥どころか中小派閥でさえ、どこもみんな門前払いされちゃって」

「それ笑いごとじゃねえだろ……道半ばどころか始まる前に終わってんじゃねーか」

「これがそうでもないんだよ。門前払いされた後、とぼとぼ歩いてたら神様……あ、ヘスティア様がね、拾ってくれたんだ」

「『捨てる神あらば拾う神あり』ってか、成程なー。で、そのまま【ファミリア】に入ったワケね」

「そういうこと。一緒に探索する仲間も、頼れる先輩もいないけど、拾ってくれた神様のためにも、頑張ってお金を稼いでます、なんてね」

 

 人々がごった返す通りを抜け、気が付けばその喧噪(けんそう)も遠くなってきた。裏路地に入って細い裏道を通っていく。

 

「なぁベル、お前実はあたしを(だま)してどっか連れ込んでやろうとかそんなこと考えてないよな?」

「えっ?つ、連れこっ⁉そ、そそそんなわけないじゃないか!……確かにこの辺いかにも人目につかない場所ではあるけど……僕たちの拠点(ホーム)はこの奥なんだ」

 

 た、確かにサラーサはかわいいしきれいだけど……まず、襲ったとしたら僕は自分が生きて帰れるのかという大変なリスクを背負わなければならないのでは……?

 

「なんだよ、冗談に決まってるだろー?なに真っ赤になっ…おいなんで急に青くなってんだよ、忙しい奴だな」

「あ、あはは、はは……」

 

 笑うしかない、笑うしか……っと、ついた。

 

「ついたよ、ここが僕の…いや、【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)だよ」

 

 辿り着いたのは袋小路。人気(ひとけ)の無い裏道の奥深くに建つ、うらぶれた、二階建ての教会だ。

 サラーサがぽかんと口をあけて放心している。まぁ、そうなるよね。僕もかなり衝撃を受けたし。

 

「……ベル、ここがお前の家なのか…?嘘だろ、嘘だと言ってくれよ……」

「残念ながらここなんだよね。といっても住んでるのは上じゃなくて()なんだけど」

 

 扉の無い入口を抜け、足元に注意するように言いながら慣れた足取りで天井の大部分がごっそり抜け、暖かな日差しが差し込む屋内を突っ切って、祭壇に到達して振り返る。

 特に遅れることもなくついてきていたサラーサと目が合って、「どうした?」と言われた。「なんでもないよ」と返しながら祭壇の奥の空っぽの本棚が並ぶ小部屋、その一番奥の本棚の裏にある階段へ向かう。

 

「普段生活してるのはこっち。流石にあんな野宿同然の場所ではとてもじゃないけど暮らせないし」

 

 そう言いながらあまり深さのない階段を降りて、小窓からぼうっと光が漏れる扉を開け放った。

 

「神様、帰ってきましたー!ただいまー!」

 

 声を張り上げて、地下室という響きとはかけ離れた生活臭のする小部屋へと足を踏み入れる。人が暮らしていく分には、まぁそれなりと言える広さのここが、僕たちが暮らす居住スペースだ。

 僕が呼びかけた人は部屋に入ってすぐにある、紫のソファーの上に寝転がっていた。仰向けの姿勢で開いた本を見上げていた彼女は、ばっと起きて立ち上がる。

 外見だけ見れば幼女……と少女の間を揺れ動いているような感じ。僕より身長は低くて、他人には『歳の近い妹』で十分に通用する。そういえばサラーサも僕と同じような髪と目の色だし、実の妹って言っても神様以外にはバレなさそう。

 幼い顔に笑みを浮かべるその女の子は、トトトトと音を立てて僕の目の前までやってきた。

 

「やぁやぁお帰りー。今日はいつもより早かったね?」

「ちょっとダンジョンで死にかけちゃって……」

「おいおい大丈夫かい?君に死なれたらボクはかなりショックだよ。柄にもなく悲しんでしまうかもしれない。っと、後ろの子はどうしたんだんだい?」

 

「大丈夫です、神様を路頭に迷わせるなんてしませんから。えっと、今日ダンジョンで会った子なんですけど───」

言いながら横に寄って、サラーサに自己紹介を頼んだ。

 

やっぱベルは良いヤツだなぁ……ん?あぁわかった。えっと、初めまして。あたし……いや私はサラーサといいます、どうぞよしなに」

「……ああ、ボクはヘスティア、この通りベル君の主神さ。よろしくね、サラーサ君」

 

 神様はサラーサの自己紹介を聞いて一瞬変な顔をしたけれど、すぐにいつものように笑顔で返していた。何かおかしなことでもあったんだろうか?というかサラーサが敬語……意外というか、なんというか。それに「よしなに」だなんて、ちょっと古臭い言い回しだなぁ。

 

「さ、二人ともこっちに来て座りなよ」

 

 神様に(うなが)されるままに部屋の奥へ進み、正方形と長方形を繋げた、丁度「P」のような形の、正方形の部分にあたる出入口前で、置いてある二つのソファーに、片方に僕とサラーサ、もう片方に神様が座る。

 

「それで、どうしてベル君はサラーサ君を連れて来たんだい?」

「えっと……実はサラーサ、【ファミリア】に所属してないらしくって……」

「気が付いたらダンジョンにいたからな。で、まぁベルと一緒にギルドへ行って

、ベルの担当職員の方に『どこかの派閥に入るべきだ』って言われまして、薦められたうちのひとつがヘスティア神、あなたのところだった訳です」

「ふーん、なるほどねぇ……ああ、無理に丁寧な言葉を使わなくて良いよ。ボクはそんなことをイチイチ気にするような狭量な神じゃないからね」

 

 そういえばエイナさん、なんでサラーサにうちの派閥(【ヘスティア・ファミリア】)を薦めてくれたんだろう。やっぱり僕がパーティーも組まずにソロでダンジョンに潜り続けているからなんだろうか。

 

「あ、悪いんだけどベル君、ちょっとお水汲んできてもらえるかな?水瓶の水がそろそろなくなりそうなんだ」

 

 そういえば朝の時点で少し心許なかったんだっけ。

 

「わかりました、じゃあちょっと行ってきます」

 

 席を立って水瓶の中を覗き込むと、確かにそろそろ無くなりそうだ。僕は水瓶の横に置いてある桶を持って、地上にある井戸へ向かった。




如何でしたでしょうか?
微妙な切れ方なのは重々承知の上でやっておりますが、どうかご勘弁を。
短期間でこうして原作に沿って書くというのが何分初めてなものでして……
まぁ既に独自展開に入っていますけれども……

そういえば「この時点でミノに一撃いれてるベル君やべぇ」(意訳)との感想を戴いたのですが、確かにやべぇよ(真顔)と一瞬表情が消えました。
一応、Lv.2相当のミノタウロスに一矢報いるというのは打倒した訳ではないので恐らくは一度に『器の昇華』が行えるようになる程の『偉業』ではなく、『偉業』の……欠片とか証とか経験値とか呼べそうなものを手に入れたのではないかなと思われます、と一応補足しておきます。

感想・評価お待ちしております。それと、見つけた場合は誤字脱字報告もどうかお願い致します。

読みやすい文章量はどのくらいでしょうか?

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