憑依転生・怪力乱神の英雄譚   作:陣禅 祀

3 / 9
今回はヘスティア様視点、また約一万字です。視点がコロコロ変わるのは多分読み辛いのですが、この話の後、暫くはサラーサ……サク……うーん、作者でも呼称が定まってないってそれ一番ダメな奴。
とりあえずサク君……サクちゃん……?もう主人公でいいや(おい)。主人公視点でいく予定ですので寛大な心でお読み頂けたらなと思います。

自分の作品の評価ゲージに色がついたの初めてで震えてます…。既にお気に入り60件越え…(ふるふる)

今回の内容は賛否両論が激しそう……。作者も書いてなお迷ってるレベルです……


3/12 ヘスティア様と主人公の【ステイタス】関連の会話を若干修正。
2020/3/20 誤字修正。ジャック・オー・ランタン様ご報告ありがとうございます。


第三話

「わかりました、じゃあちょっと行ってきます」

 

 ベル君に水汲みを頼むと、彼はすぐに立ち上がって水瓶の中を覗き込み、そう言って水瓶の傍に置いてあった桶を持って出て行った。ちょっと人払いの言い訳に水汲み頼んじゃったから少し申し訳ないなと思いつつも、その原因となった少女の様子を(うかが)う。

 

「気を付けてなーベル。……じゃあお言葉に甘えさせてもらうぞ。それで、他にも【タケミカヅチ・ファミリア】や【ガネーシャ・ファミリア】を薦められたんだが、世話になったベルの神様に挨拶くらいはすべきだと思ったから、こうしてベルについてきた。あなたの人となりを見て、眷属になるかどうか考えたかったのもあるけど」

 

 軽く手を振ってベル君を見送ったあと、サラーサと名乗るこの子はそう言った。今の話に嘘はない。それにベル君と話しているときにも、嘘は無かった。嘘をついたのはたった一回だ。

 

「律儀なんだね、キミは。それに正直だ。だから不思議なんだけど……キミ、『サラーサ』って名前、本名じゃないだろ」

 

 そう、自己紹介で名乗ったときだ。偽名なんて神の前では意味がないことなのに、ベル君やギルド職員の子だけでなく、彼女はボク()にもそれをつき通した。

 

「……っ⁉いや、そんなワケないだろ。これは、『あたし』の名前だ」

「……今のはちょっと微妙な感じだったけれど、うん。やっぱり嘘だろう?ボクたち神に、下界の子どもたちは嘘をつけない。だから、正直に話してくれないかな?」

 

 ほんの少しだけ、神に課せられた制約──地上で『神の力(アルカナム)』を振るってはならない──に抵触しない、まぁこのくらいなら暗黙の了解として、ウラノスにも目を(つむ)ってもらえる程度に『神の力(アルカナム)』を開放する。

 

「ぐっ⁉……お、おぉぉぉ……‼」

 

 彼女は冷や汗を垂らしながら、どうにかギリギリのところで平服しそうになっているのを堪えている。目を瞑ってもらえる限度ギリギリまでは開放していないとはいえ、なかなかどうして耐えるじゃあないか。

 

「さ、本当の名前と、偽名を名乗った訳を聞かせてもらえるかな、自称サラーサ君?」

「………………さらしな、さく」

「うん?」

「それが、おれの、なまえだ……」

「そうかい。今度は嘘じゃないね、じゃあサラシナ君。キミはどうしてサラーサと名乗ってたんだい」

「……それ、は……まだ、はなせない」

「ふぅん……ま、今のところはそれで許してあげよう」

 

 発していた『神の力(アルカナム)』を引っ込める。本名を聞けただけでも良しとしようかな。『まだ』ということは話してくれるつもりはあるようだし。

 

「……っ!はっ、はっ、はぁ……い、一応言っておくけどっ、更級(さらしな)が姓で(さく)が名前だからっ」

 

 おお、中々ガッツがあるじゃないか。少しだけとはいえ『神の力(アルカナム)』に中てられた直後にこうして言い返せるだなんてさ。『サラシナ・サク』ねぇ……極東風の名前だけど、タケは知ってるんだろうか。しかし、こうして初手で脅しをかけたんだ、きっとボクの眷属にはなってくれないだろうなぁ。少し残念。

 

「じゃあ、サク君。君、極東の出身かい?」

「……ここでの地理がわからないから断言はできないけど、恐らく『俺』は極東生まれだな。『あたし』は……いや、なんでもない」

「えー、なんだい?気になるじゃないかー。そうだな、ならタケミカヅチって神は知ってる?」

「タケミカヅチ……一応、名前くらいは。エイナに薦められた【ファミリア】の中にも名前あったし。確か雷神にして剣神だったか」

「ま、それで合ってるよ。よく知らないってことはタケのところの子じゃないのか」

「俺は『神の恩恵(ファルナ)』とかいうのは持ってないんだが……」

 

 タケが故郷で運営している孤児院の出身かどうかって話だったんだけど、この反応を(かんが)みるに違うみたい。彼の孤児院とこの子だったら連れて行ってあげようと思ったんだけど。

 

「あ、やっぱり?変な感じはするけど神の力は感じないからそうだろうとは思ってたんだ」

「まぁ、気が付いたらダンジョンに居て、湧いて出たゴブリン共と戦って全滅させたものの倒れたところをベルに助けられたからな。誰かからそんなものもらう暇は無かった」

「うぇっ?キミ、最弱のゴブリンとはいえよく『恩恵』なしでダンジョンのモンスターを倒せたね⁉」

「ん?一発殴ったら死ぬようなヤツ相手に負けるはず無いでしょうよ?」

「おかしいな、キミって『恩恵』無しなんだろう?どんな力してるのさ」

「……多分ゴブリンの頭をトマトみたいに握り潰せるくらい?」

「例えが物騒過ぎないかい⁉」

「はははっ!でもきちんと試してないからできるかどうかはわからないんだけれどもね?」

「そういう問題じゃないと思うんだけど……。あ、そういえばキミはボクの眷属になるかどうか決めるためにボクに会いに来たんだっけ。きっと嫌われてしまったとは思うけれど……ボクはキミの人となりはわかったし、キミが望むなら眷属にしてあげてもいいかな、って思っているよ」

 

 サク君はカラカラ笑っていたけれど、多分やったら実際にできるやつだよ、コレ。嘘や誇張の気配はしないし。だとしたら『恩恵』無しでLv.1でも高位、下手をすればLv.2に届くくらいの膂力(りょりょく)があることに……これ、もしかせずとも他の(娯楽に飢えた)神々(暇神ども)に知れたら格好のおもちゃ(暇潰し)にされるのでは……。流石にそれはかわいそうだし、予想の通りにボクの眷属になるのが嫌だったらガネーシャのところに連れていってあげよう。アレ(本拠)(ガネーシャ)も第一印象は別の意味で最悪かもしれないけど、彼は善神だし、ボクのとこみたいな零細派閥なんて比較にならない程の巨大派閥だ。彼は伊達に『群衆の神』と呼ばれていない。

 

「神様ー、水汲み終わりましたよー」

 

 おっ、ベル君が戻ってきた。ナイスタイミングだぜ、ベル君。

 

「お疲れ様、ベル君。帰ってきてすぐに頼んじゃって悪かったね」

「いえいえ、今日はそんなに疲れてませんし、どうってことないですよ!」

「ふふふ、そうかい?こっちも丁度サク……サラーサ君に、ボクの眷属になりたいか聞いてたところなんだ」

 

 名前で呼ぼうとしたら『やめてくれ』ってジェスチャーされたので言い直した。ベル君には教えてないらしいし、それは本人に任せよう。

 

「そうなんですか?ね、サラーサ、どうするの?」

「……え?あ、あぁ。そうだなー……なりたい、かな」

「あーやっぱりかい……って、えぇ⁉ほ、本当に良いのかい?自分で言っちゃなんだがうちは構成員たった1名の超がつくほどの零細派閥だぜ?」

 

 ベル君が「か、神様~」と情けない声を出しているが、事実は事実。それにサク君はかなり慎重に扱わなければならない気がするから、守りきれるか怪しい木っ端派閥(うち)よりも、【ガネーシャ・ファミリア】みたいな大派閥に行った方が良いと思うんだけど。何より驚きなのは、あんなこと(『神の力』を駆使した威圧)したのにボクの眷属になりたいだなんて言われたことさ……間違いなく嘘じゃない。嬉しいけどなんだか微妙な気分だ。

 

「あぁ、構わないさ。何せベルに助けられた恩がある。まぁ恩なら【ロキ・ファミリア】だっけ?あのアイズっていう金髪の子がいたとこにもあるけどさ、そもそもあたしらが死にかけた原因ってあそこがあの怪物を上層に逃がしちまったのが原因だって助けた本人が言ってたし」

「……え゛」

「どうした神様」

「ちょっとロキの本拠(黄昏の館)乗り込んで(行って)くる」

 

 あいつのとこの子のせいでボクのかわいいベル君が死にかけただとう⁉文句言ってやる、死んじゃってたらどうしてくれたんだぁ‼

 

「は、離してくれベル君、サラーサ君‼」

「離しません!こうやって生きていられるのもその【ロキ・ファミリア】の方々が自分たちの不始末を自ら片付けてくれたからなんですよ⁉『冒険者は何があろうと自己責任』な職業なんですから、原因がどうであれ助けられたことに僕たちは感謝するべきなんです!」

「とりあえず落ち着こうぜ神様。クールダウンだクールダウン。なんでそのツインテがヒュンヒュンしてるのかわかんねーけどべちべち当たって痛い!」

「うがぁぁぁぁぁ‼は・な・せ~っ‼」

 

***

 

「……すまない、取り乱してしまった。みっともないところを見せてしまったね」

 

 しばらく振りほどこうともがいていたけれど、結局ただの人の子と同程度の力しかない(遊戯中)ボク()が、自分の眷属とはいえ『神の恩恵(ファルナ)』を与えられた子と、それに勝るとも劣らない力を持つ子に押さえられて振りほどける訳がないのだ。

 

「はははっ、構いやしないぜ。我が子と呼ぶだけはあるな、下手したら本当の親より怒ってたんじゃねぇかなアレ。なぁ、ベル」

「ははは……そうだね……」

「め、面目ない……」

 

「そ、それで、さ、サラーサ君はボクの眷属になってくれるって話だったね。本当の本当にいいのかい?」

「あぁ、そうだぞ。なるって言ったし、二言はない」

「……わかった。じゃ、あっちに行こう。『神の恩恵(ファルナ)』を与えるから。あ、ベル君は終わるまでむこう向いててね。サラーサ君は女の子なんだから」

「……認めたくねーけどそーなんだよなー……」

「ん?何か言ったかい?」

「いや、ただの独り言だよ」

 

 そっか、と返して奥のベッドに向かう。

 

「じゃ、上脱いで(うつぶ)せになってくれるかな?」

「上脱いで俯せって……まさかとは思うが、アレなことするわけではないよな……?」

「アレっていうと、アレ(エッチ)なことかい?ははは、そんなことしないよ。いやまぁ自分の眷属(子たち)とそういう関係を持っている(ヤツ)もいるけれど、このボクにそんな趣味があるように見えるかい?」

「……いや、だってあなたベル大好きだろ、多分。子どもに対する親愛じゃなくて、恋愛対象として」

「なっ⁉なななななんのことかなぁぁぁ!ぼ、ボクにはさっぱりわからないなぁ‼」

 

 耳元でそっと囁かれたことにギクリとして、慌てて誤魔化そうとしたけど顔が熱い。見ればサク君はジト目を向けているし、もう確信されちゃってるよぉ……。

 

「ま、あたし……いや俺には関係ないことだし、少なくともベルには黙っておくとあなたに誓うけど。じゃ、脱ぎますね」

 

 そう言って、彼女はずっと羽織っていた外套を雑に畳んで、うなじや背中、脇の下にある留め具をいくつか外して腕を抜くと、背中と腰より上が露出した状態になった。正確には、そこを覆っていた布が、まだ留め具がある腰上あたりから垂れ下がっている状態だ。え、何その服。ボクが降りてきたのは最近だとはいえ、そんな構造の服は初めて見たよ……。

 

「じゃ、何するのかわからないけどお願いします」

「あ、あぁ、すまない。今からやるけど、くすぐったくてもあんまり動いちゃダメだからね」

「あんまり動くな……?了解、善処します」

 

 服に気を取られていたらもうサク君は俯せになっていた。慌てて針を取り出して指先に刺すと、サク君の、ベル君に似た色素の薄い背中に、神血(イコル)を一滴垂らした。その滴が背中に波紋を広げていくのに合わせて、雰囲気作りのための演出として『神の力(アルカナム)』を使って神々しい光を出す。

 

「……うわぁ、きれいですね」

「率直な感想をありがとう。ま、雰囲気作りのためにやってるだけで、この光に意味は無いんだけどね。この一瞬を覚えていてほしいっていう願いを込めた、ちょっとした演出さ」

「……さいですか。えぇと、ありがとうございます」

 

 俯せになっているから表情は窺えないけれど、なんとなくサク君が笑ったような気がした。

 

「それで、なんでキミはボクの眷属になりたいと思ったんだい?最初から『神の力(アルカナム)』で威圧したのに」

「んー、なんというか。勘、かな?あのとき、あなたから感じたのは害意や敵意じゃなくて、家族を守ろうっていう警戒心だけだったので」

「……驚いた。キミ、ボクたち神の心がわかるのかい?」

「いいえ、人と同じくらいしかわかんないですよ。表情とか仕草に出るような、あからさまな感情くらいしか。あと、『あたし』はこう言われたことがあるんです。『お前はバカだけど最強だから、怪しいと思った奴はぶっ飛ばせ』って。そんな訳で、あなたは怪しいと思わなかったし、寧ろ惹かれた訳だ」

「……そう、なのかい。それにしてもキミがバカ……?ボクには全然そんな風に見えないんだけど」

「ははは、人間って変わるもんですよ、神様」

 

それから暫くして、『恩恵』の刻印は問題なく完了した。

 

「これでよし、っと。これでキミも晴れてボクの眷属(子ども)、【ヘスティア・ファミリア】の一員さ。さて、【ステイタス】を転写するからもう少し我慢してくれよー」

「……すていたす」

「あれ?知らないのかい?『神の恩恵(ファルナ)』のことだよ。キミの経験をボクが取り出して、かたちを整えて、キミの力に変えたものさ」

「なる、ほど……?」

「はは、ピンとこないみたいだね。そんなに深く考えなくて良いけど、ある意味キミたちの人生そのものさ……っと、終わったよ。はい、これがキミの【ステイタス】」

 

 「ありがとうございます」と【ステイタス】を共通語(コイネー)で書き写した羊皮紙を受け取ったサク君だが、内容を見るや眉を(ひそ)めて、視線がボクと羊皮紙との間をいったりきたりしている。

 

「……どうしたんだい?」

「あの、えっと、その……すっげぇ申し訳ないんですけど、これなんて書いてあるんです?」

「……」

「……」

 

ボクたちの間に気まずい沈黙が流れた。

 

「えっと、もしかして、共通語(コイネー)が読めないの?」

「こいねー。初耳です。この文字のこと、ですよね?言葉が通じるからてっきり文字も読めるもんだと思ってたのに……」

「そ、そうかい。この世界で一般的に使われている言語が共通語(コイネー)さ。まぁ時々キミみたいに会話はできても読み書きができない子はいるから、そう気にすることでもないよ。じゃ、ボクが読んであげよう」

 

 サラシナ・サク

 Lv.1

 力:I0

 耐久:I0

 器用:I0

 敏捷:I0

 魔力:I0

 《魔法》

 【偽典器(プセヴデピグラフィア)天星(イストロン)三寅(トリートス)

 ・装備魔法-詠唱派生型

 ・時間経過で効果終了。

 ・追加詠唱にて効果発揮。

 ・基本詠唱『(ほし)()() (けもの)()して (てん)()ず (かげ)(つか)みて ()(しろ)()す』

 ・追加詠唱『()ちるとも (おの)()(しめ)せ ()(しろ)よ』

 

 

 【】

 

 《スキル》

 【禁束(バウンド)臥獣(ビースト)

 ・斧/剣装備時全アビリティ補正。

 ・自然治癒力向上。

 

 

 【憑着者(ひょうちゃくしゃ)

 ・早熟する。

 ・同化率が上昇するほど効果低下。

 ・同化率が一定値に達する毎に『拘束』解除。

 ・同化率が1に達するまで効果持続。

 ・同化率 0.05。

 

 

「……ははは、意味が分からねぇ。でもそうか、やっぱり……うん。じゃあきっと、魔法はアレだろうな。そんで字面が不穏(ふおん)な【禁束(バウンド)臥獣(ビースト)】、でも一番の問題はそれこそ不穏なことしか書いてない【憑着者(ひょうちゃくしゃ)】か」

「……ねぇサク君」

「ん?どうかしたのか神様」

「ここここれ、どういうことなんだい⁉最初から魔法とスキル二つが発現、片方はデメリットみたいなことしか書いてないとはいえ確実にレアスキル、魔法だって稀少な装備魔法!キミ、どんな人生を送ってきたんだい⁉」

 

 ベル君にあまり聞こえないよう、声のトーンを下げてひそひそと話しかける。

 

「あー、それはまた後で話すから……ちょっと落ち着け神様。というか刻んだのも書き写したのあなただろ?なんで内容把握してないのさ」

 

 これ、彼に全て教えても良いのはサク君の言う通りなんだか不穏なスキル名だけれど【禁束(バウンド)臥獣(ビースト)】くらいだろう……。魔法の方はあることだけは言っても良いかな?でも少なくとも【憑着者(ひょうちゃくしゃ)】は絶対に伏せておくべきだ。相応に精神が成熟している様子のサク君はともかく、まだまだ発展途上のベル君は知らない方が良い。おかしなことしか書いていない、あまりにも異常(イレギュラー)なスキルだから。

 

「い、いやぁ、話す方に意識がいっててね……こほん。わかったよ、じゃあさっきの話と併せてちゃんと話してくれよ。いいね?」

「ああ、勿論。ってなワケで服着るからちょっと手伝ってくれ神様」

「えっ。一人でできない系の服なのかい?」

「いや、単に時間短縮……ベル待たせてるし」

「そ、それもそうだね。背中の方やればいいかい?」

「それでオナシャス」

 

 さっき脱いだのとは逆に、腕を通して、留め具をつけるのを手伝って……やっぱりボクが手伝わなくたってすぐ終わってたんじゃ……?

 

「あ、【ステイタス】は他人、特に神には見られないようにするんだよ。【ステイタス】は読み解ける者が見ればその子の人生だってわかってしまうから……」

「あー、人生そのものってそういう意味か。この装束背中開いてるし、基本外套脱げないかな……。さっき使ってた『神の力(アルカナム)』を応用したら隠せたりとかしないんです?」

「そ、それは……わからないな……今度神友たちに聞いてみるよ」

 

 備え付けてある姿見で、背中を見て少し眉を顰めるサク君。確かにあの外套は脱げそうにないね。ファ、『神の恩恵(ファルナ)』を隠すか……そういえば子どもたちの中にはアマゾネスのような露出の多い服を好んで着る種族の子もいる。きっとどうにかして隠すか、読めなくする手段があるんだろう。

 

「できれば早めに頼むぜ、神様。これはあたしの一張羅だからな!」

「ああ、わかったぜサク君」

「それと。名前、二人きり以外ではサラーサで頼むよ?渾名(あだな)ってことで」

「えぇ~……逆に長くなってるじゃないか」

「しっくりこないんだよ、この見た目でサクって呼ばれるのがさ」

「でも、キミの名前さ。どんな理由があろうと、それを見失っちゃいけないぜ?」

「……わかったよ、神様。んじゃそろそろベル呼んでやろーぜ。結構待たせちゃってるしさ」

「ははは、そうだね。おーいベルくぅん!もう良いぜ。キミも【ステイタス】の更新するだろ?」

 

 名前を呼ぶと、「ぅえっ⁉あ、はい!お願いします‼」と飛んできた。

 

「じゃ、今度はサラーサ君が向こうにいってようか。ベル君もあんまり見られちゃ恥ずかしいだろうし」

「へいへーい。あの牛野郎と命がけの追いかけっこしたんだし、結構【ステイタス】上がってるんじゃないか?」

「そ、そうかな?そうだと良いなぁ……じゃ、じゃあ神様お願いします」

 

 サク君が出て行って、代わりにベル君が入ってくる。すでに装備を外しており、インナーを脱いだらすぐ更新できる状態。脱いで横になるよう促して、その背中の【神聖文字(ヒエログリフ)】をなぞる。

 

「死にかけた、とか【ロキ・ファミリア】がどう、とか、さっきサラーサ君が牛野郎と追いかけっことか言っていたけど、何があったんだい?」

「ちょっと長くなるんですけど──」

 

 ベル君の話を聞きながら、さっきつけた傷からは血が止まっていたから、置いた針を再び手にとってもう一度刺す。そして血をベル君の背中に垂らす。波紋を広げる様子を見やりつつ、今回得た【経験値(エクセリア)】を見て有望そうなものを見繕っていく。

 

「それにしても出会いを求めて下層へ、ねぇ……キミもほとほとダンジョンに夢見てるよなぁ。あんな物騒なところに、キミが思っているような真っ白サラサラな生娘みたいな娘、いるわけないじゃないか。」

「き、生娘……!い、いえでもっ、別に決まりきってるってわけでもないでしょう⁉エルフなんて自分が認めた人じゃないと手も触れないなんて聞きますよ!」

「怒鳴るな怒鳴るな。まぁエルフみたいな種族もいれば、アマゾネスみたいに強い子孫を残すためだけに屈強な男へ体を許す種族もいるんだ、キミの過度な期待は身を滅ぼすだけだとボクは思うなー。まぁ?今回はキミが望むように女の子を助けられたみたいだけど?」

「……ううっ、でもサラーサにそんなこと考えてないですし……友達、ですし……」

 

 釘刺しと、ちょっとした悪戯心から言ったんだけど、(こと)(ほか)効いたみたいだね。

 ま、まぁサク君はボクのこと応援してくれるって言ってくれたし、いつか必ずボクに振り向かせてやるんだ!

 見繕(みつくろ)った【経験値(エクセリア)】を取り出して、切り取って、形を整えて、【神聖文字(ヒエログリフ)】を塗り替え付け足し、【ステイタス】に反映させていく。

 

「それに、アイズ・ヴァレンシュタイン、だっけ?そんなに美しくてべらぼうに強いんだったら他の男どもがほっとかないよ。その娘だって、お気に入りの男の一人や二人囲っているに決まっているさ」

「そ、そんなぁ……」

「ふんっ。いいかい、ベル君?そんな一時の気の迷いなんて捨てて、もっと身の周りを注意してよく確かめてみるんだ。君を優しく包み込んでくれる、包容力に富んだ相手が一〇〇%確実にいる筈だよ」

 

 誰とは言わないけどさ!具体的には今キミの背中の【ステイタス】を更新してる女の子なんだけど!

 

「ま、ロキの【ファミリア】に入っている時点で、ヴァレン何某(なにがし)とかいう女とは婚約なんてできっこないんだけどね」

「……」

 

 ちょっと言い過ぎたかな?でもこのボクを放っておいて別の女に現を抜かすベル君にはこのくらい言って当然さ!

 

「はいっ、終わり!まぁそんな女のことなんて忘れて、すぐ近くに転がっている出会いってやつを探してみなよ」

「……酷いよ神様」

 

 まぁぁったく、キミってヤツは……ってこのスキル。あ、これは不味いぞ、よくわからないヤツだ。くっ、ちょっと書いてしまったじゃないか!け、消して……よ、よし。これであとはちょっと言い訳して誤魔化せばなんとかなるだろう。サク君とは後で相談だなぁ……。

 

 ベル・クラネル

 Lv.1

 力:I77→I92

 耐久:I13

 器用:I93→I96

 敏捷:H148→H182

 魔力:I0

 《魔法》

 【】

 《スキル》

 【】

 

「ほら、キミの新しい【ステイタス】」

 

 上昇幅がトンでもないよね、トータル上昇値52。力もさることながら、特に元々伸びが良かった敏捷も、ここまで上がるのを見るのは初めてだ。きっと、ミノタウロスとの戦闘で得るものが多かったんだろう。

 差し出した紙をどうも、と受け取ったベル君はまじまじと【ステイタス】を見て心底驚いたりした後、いつものように魔法について聞いてきた。

 

「……神様。僕、いつになったら魔法を使えるようになると思いますか?」

「それはボクにもわからないなぁ。主に知識に関わる【経験値(エクセリア)】が反映されるみたいだけど……ベル君、本とか読まないでしょ?」

 

 苦笑しつつ再び【ステイタス】に目を戻したベル君が、少し首を傾げた。む、これは気付いちゃったな。

 

「神様、このスキルスロットはどうしたんですか?何か消した跡があるような……」

「……ん、ああ、ちょっと手元が狂ってね。いつも通り空欄だから、安心して」

「ですよねー……」

 

 そう口では言いながらも期待はしていたようで、少し落胆させてしまったようだ。す、すまない、ベル君。

 

「じゃあ、神様。もう夕飯の支度しましょうか?」

「あっ、そうそう!サラーサ君のことがあってすっかり忘れていたよ!今日は露店の売り上げに貢献したということで、大量のジャガ丸くんを頂戴したんだ!夕飯はサラーサ君の歓迎会も兼ねたパーティーにしようじゃないか」

「神様すごい!でも流石にジャガ丸くんだけじゃあもの足りないですよね?何か作りましょうか」

「そうだね、ベル君に任せるよ」

「はーい」

 

 戦場に向かう気概でキッチンに入るベル君と、「夕飯の用意か?あたしも手伝うぞ!」とついていくサク君を見送って、静かに溜息をつく。

 子どもたちは本当に変わりやすいんだな……不変のボクたちとは全然違う。些細なことでもすぐさま影響が肉体に、精神に伝播(でんぱ)する。

 欲望でも文化でもなく、『変質』こそ彼ら下界の住人の本質なのかもしれないね。

 とはいえ。

 ……あー、やだやだ。他人の手で、彼が変わってしまったという事実が堪らなく嫌だ。認めたくないっ。うがーっ!と髪をグシャグシャかき乱して、ちくしょー!と頭を抱えて唸ってみる。

 そして、こんな嫌な思いにさせてくれたベル君の背中、正確にはそこに刻まれた【ステイタス】の欄を見た。

 

 ベル・クラネル

 Lv.1

 力:I77→I92

 耐久:I13

 器用:I93→I96

 敏捷:H148→H182

 魔力:I0

 《魔法》

 【】

 

 《スキル》

 【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

 ・早熟する。

 ・懸想(おもい)が続く限り効果持続。

 ・懸想(おもい)の丈により効果向上。

 

 

 有望そうな【経験値(エクセリア)】を取り出し、スキルを刻んでみればこの結果。くそう、こんなことならやるんじゃなかった!

 「準備できましたよー」とベル君たちに声をかけられるまで、ボクはひたすら悶々と頭を抱えていた。

 




ベル君の【ステイタス】を見て内心悶えているヘスティア様を書きたかったからヘスティア様視点になったわけではないです、こっちの方が書きやすそうだったから軽い気持ちでヘスティア様視点で書いちゃったんです……。あと、サラーサの服の構造については詳細な資料が見つからなかった(画集とか設定資料集も持ってない)ので、適当に想像して書いてます。


それはともかく主人公の【ステイタス】についてほんの少しだけ。
偽典器(プセヴデピグラフィア)天星(イストロン)三寅(トリートス)
『天星』に『三寅』。ある程度やり込んだ騎空士なら往々にして聞き覚えがある単語ですよね。詳細は次話ですが、多分おおよそは皆様と主人公の思っている通りのものかと。基本詠唱を短歌、追加詠唱は川柳の形になんとか落とし込めましたが、下手ですし詠唱文で凡そ予想されそうで苦笑いしてます。
それにしても名称が難産でした。

禁束(バウンド)臥獣(ビースト)
スキル名が何やら物々しいものの、内容自体は比較的平凡なもの。しかし名称的に別のナニカがありそうな気もしないでもない。そのまま二つ名になるととてもイタそう。

憑着者(ひょうちゃくしゃ)
何かと何かの同化率を表しているらしい奇妙なスキル(すっとぼけ)。そうでなくとも「『拘束』解除」とか「早熟」だとか出てきている時点で存在が不穏。
皆様お分かりかとは存じますが、憑依と漂着者、この二語を捩った造語です。次話で少し主人公本人による考察が入りますのでこのくらいで。
どうでもいいですがこの先の流れを考えると、魂の状態次第で某美の女神がとても怖いですね!()


ベル君の一部基礎アビリティが原作より多く上がっているのは主人公背負ったままミノタウロスに追いかけ回されたり、何より一矢報いたからですね。『器の昇華』が起きていないことから、前話後書きの通りベルはレベルアップに満たない程度の『偉業』を成したのではないかという結論に。原作では『偉業の証(?)』の存在が明示されていたかどうか見つからないのでわかりませんけれど。
Lv.2相当という格上に一矢報いているというのになんで『偉業』判定じゃないのか。倒してないからかぁ(自問自答)
そういえば人一人分の重し背負って原作通りの動きをしていたというのに、改めてよく追いつかれなかったねベル君……。

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