憑依転生・怪力乱神の英雄譚   作:陣禅 祀

4 / 9
元々第五話と合わせて一話だったんですけど、流石に一万五千字近い量は不味いよなって分割して加筆修正しました。今回も約一万字です。

ヘスティア様の言動が前話で苛烈だったのは主にベル君が見ず知らずの何処の馬の骨とも知れない女の子(主人公)を連れ込んできて気が立っていたのが原因だと釈明しておきます。
あとこの話のヘスティア様かなり切れ者になってる気がする。

冒頭に若干微妙にデリケートな表現あったり、調理描写あったりするので、その辺まだるっこしく感じる方やNGな方は何とかそこだけ読み飛ばして下さい。お手数おかけしますが…。
冒頭の微妙な表現については消すかどうか脳内審議中です。判決は明日にでも出すかと。


第四話

 歓迎会と称された、少しばかり、いやかなりファストフード(ジャガ丸くん)(まみ)れだった夕飯を終えて、その後も(主にヘスティア様が酒飲んで)どんちゃん騒ぎ続けた結果、絡まれ続けていたベル少年も、絡んでいたヘスティア様も力尽きて寝てしまった。

 風呂入ってから騒げと言ったら二人ともちゃんと風呂(といってもシャワーだったけど)は入ってくれたので、寝落ちしたのをベッドに運ぶだけで済んだ。

 もちろん俺も入った(ギルドで髪やら肌やら装備やらの血を落とすときもそうだったけど、自分の身体という認識しか湧かなくってTSものあるあるの自分のとはいえ異性の身体に興味津々、とか恥ずかしい、なんてことは全くなかったな。推しの身体なんでヤらしいことなんてする訳無いし非常に好都合。にしても体洗った時二つの意味で全身柔らかかった。でもちゃんと筋肉あるんだよ、皮下脂肪の下ガッチガチの筋肉の鎧だぜ?それでいてこの柔軟性、どうなってんのマジで)のであとは寝るだけなんだが、なんだ。改めて思うが、俺とヘスティア様って殆ど体型変わんなくね?なんでロリ巨乳なんていう特殊体型が二人も同じ屋根の下に集まってんだよ。

ちなみに今は地上に出て星空を眺めてる。前世では久しく見なかった、澄んだ空だ。

 

 なんだか不思議な感じ。ほんの半日くらい前は男子高校生……しかも受験生だったのに、気が付いたら異世界で、推しキャラの姿になってるんだもんな。あ、車に()かれた記憶も朧気(おぼろげ)ながらあるし、ベッタベタな異世界転生……だったりするんだろうか。それにしたっていきなり女として生きていけ、だなんて狂ってるよな。今現在どちらかというと男だったということさえなんか夢みたいな気がしてくるあたり、あの【憑着者(ひょうちゃくしゃ)】とかいうのが絡んできているのだろうか?それに、『(更級 朔)』。『あたし(サラーサ)』。確かに若干混ざった気はするが、まだ明確に『()』だ。ヘスティア様は『名前だけは見失うな』って言ってたし、なんとか『俺』のまま、生きていきたいところだな。

 それはそうと、ギルドから本拠に来る途中で通った大通りで見かけた人にドラフ族の特徴を持ったヤツはいなかったな。白髪が混じり始めている割に子供くらいの人を見かけたんでハーヴィン族かと思ったが、何やら耳が違うしハーヴィン族程ふくふくとした体型ではなかったかつ身長が今の俺と同じくらいあった。ハーヴィンは高い方でも身長100cmを少し超えるくらいしかないはずなのでアレは違う。それとエルーン族っぽい人はかなりいたけど、皆一様に背中を露出するあの独特の衣装じゃなかった。やっぱここはグランブルーファンタジー(空の世界)じゃないんだなぁと認識したね。落胆半分、『十天衆(抑止力)』としての役目に縛られずに済むことに喜び半分。

 しかし問題はスキルと魔法、だよなぁ。【禁束(バウンド)臥獣(ビースト)】はもうなんか中二感がキツイけど内容的にはセーフ。【憑着者(ひょうちゃくしゃ)】はなんか嫌な予感しかしねーけど。『拘束』解除ってことはもしかして【禁束(バウンド)臥獣(ビースト)】が変化するとか?もしくは身体能力に文字通り制限がなされてて、それが『拘束』と表現されている、とか。……その時になってみないとわからないのかなぁ。

 魔法は……神様に聞いてみたところ、名称に含まれた意味を共通語(コイネー)に訳すと偽典の器、天の星、三番……そんな感じになるらしい。偽典って聖書関連の言葉じゃなかったっけ?教典とされている聖書を正典と呼び、その中に含まれない聖書を偽典と呼ぶとか、何かで読んだ気がする。その通りなら、真化に至っていない天星器ともとれるし、空の世界の物語から外れ、語られないこの肉体(うつわ)を指すともとれる。単語にしても器、天の星、三番は『()()()』『()寅斧』『()()()()()の欠片』……と思い当たる節はある。つまるところまんま『天星器』、特に『三寅斧』を指してるんじゃないかなこれ。

 

「んー、まぁこの考察が正しいなら……基本詠唱だっけ?一回やってみるかー……」

 

 どうせアレだろ。『星無き夜』とか『影を掴みて 依り代と成す』っていう単語からして『朽ち果てた武器』かなんかが出てくるやつだろ。……この予想通り武器が出てくる魔法なら、多分手元に出てくるだろうし、とりあえずそれっぽく右手を突き出してと。

 

「……『(ほし)()() (けもの)()して (てん)()ず (かげ)(つか)みて ()(しろ)()す』」

 

 冷静に考えたら5,7,5,7,7って短歌かよ、等と思っているとフッと力が抜けて、一瞬眩暈(めまい)がした。突き出した右の掌がじんわりと熱い。見れば淡い光の粒が無数に集まり、見覚えのある両刃斧の形状になっていった。

 そして光が消えると、やはり見覚えのある、騎空士ならばわりと馴染みの深い……なんだかんだ数本は確実に集めるであろう光沢を失った金属塊を握っていた。

 

「……朽ち果てた斧、か?」

 

 いや、それにしてはちょいと形と色味がおかしい。あの全体を覆う赤黒い錆は無いし、若干金属光沢もある気がするし、なんか黄味がかっているような……あぁ。

 

「色と状態的に『黄の依り代の斧』か。なんつーか、まんまだな……」

 

 『影を掴みて』とかいうからてっきり朽ち武器だと思ってたが、依り代の斧か。まぁ悪い意味で目立つ金ピカの『三寅斧』や錆だらけの『朽ち果てた斧』よりは良いか。それに武器スキルは無いとはいえ、天星器の属性変更に使う『依り代の武器』っていうのは『朽ち果てた武器』と違って相応の攻撃力がある。つまるところ、使えないことはなさそうだ。

 

「で、追加詠唱とやらだが……文言的に奥義な気がする。依り代の斧(こいつ)を形作ってる魔力を全消費して攻撃する……的な」

 

 依り代の斧の奥義『オーラアクス』ならともかく、三寅斧の奥義『絶冴羅爪三鉾環(ぜっこらそうさんぽうかん)』(ぱっと見で読み方がわからない系奥義筆頭)とか、サラーサの奥義である『アストロ・スプレション』とか『メテオ・スラスト』、絶対使えないだろうけど最終解放後の『アストロ・デストラクション』や『アニヒレイション・ノヴァ』……特に『メテオ・スラスト』や最終後奥義なんざ放ってみろ、ダンジョンの中でも多分何階層も貫く大穴空けて崩落させるわ‼壁直ってたしその内もとに戻るんだろうけど!

 

「そういやこれ、どうやってしまうんだ?」

 

 地面に突き刺して手を放してみても消えないし、消えろ、とかしまう、とか念じても消える気配はない。もう一度基本詠唱をしてみたがウンともスンとも言わないし。じゃあ離れてみたら?と思って道が思い出せる範囲で少し離れてみたものの、戻ってみるとやはり地面に突き刺さったままだった。どうも消す手段は【ステイタス】の内容通り時間経過しかないようだ。少なくともこの10分程度では消えないようだが、時間経過ってのがどんなもんなのかがわからないな。

 

「とりあえず消えるまでは待ってみるかぁ……」

 

 適当に振り回して感触を確かめながら時間を潰していたが、結局消えたのは大体体感で5~10分後くらいだった。つまり約15~20分経つと、なんとなく存在感が薄れていって、最終的に消えてしまう。よし!もう寝る!ツノが邪魔だから他人と一緒に寝たくないし、そもそも一人で寝たいからソファーで寝させてもらうがなぁ‼

 

***

 

「……う」

 

 目を開けると見覚えのない天井。うすぼんやりとした光源しかない、仄暗い部屋だ。

 瞼をこすりながらかけていたシーツを剥ぎ、畳んで寝床にしていたソファーに置く。

 

「ん、んん~……はぁ。って、ここどこだっけ」

 

 伸びをひとつして、間の抜けた呟きが出たが、口に出した瞬間思い出すあたり自分はバカなんじゃないかと苦笑した。

 なんてことはない、右も左もわからない俺を温かく受け入れてくれた【ヘスティア・ファミリア】の本拠だ。まぁ唐突に偽名だと看破された上に平伏して崇めたくなるような謎の重圧を与えられたりしたが、まぁ彼女は善い人、いや善き神だった。

 何にせよ、俺は昨日からこの【ファミリア】の一員であり、一応先輩のベル少年には今日ギルドで冒険者手続きするのでそばについて貰う約束をしていた。字、読めないし。約束自体は夕飯中にしたが、悪酔いした神様に絡まれ続けていたので下手をすると忘れられているかもしれない。

 さて。頭もハッキリしてきたことだし、顔洗って朝飯作るか。ベル少年曰く節約しなきゃ!だそうなので、昨日のあまりものをメインにして何か作るとしよう。……ん?あれ?あれれ?ベル少年、もういないじゃん⁉

 ヘスティア様はまだ寝てらっしゃるけれども。とりあえず顔洗おう、確か昨日ベル少年が水汲みしてたし、昨晩井戸らしきものも見たから行ってみるか。

 寝ているヘスティア様を起こすのも申し訳ないので、なるべく音を立てないよう気を付けながら地下室を後にする。

 

「やっぱ井戸だな。そういやなんで昨日ヘスティア様お酒持ってたんだ?嗜好品に金使える程余裕なんてないだろうに」

 

 時代劇とかで見た記憶あるけど、確かこの縄付きの桶を中に落として、滑車伝いにもう一方の縄を引っ張って上げるんだったよな。でもなんで釣瓶式?魔石技術だってあるし、自動とは言わずとも手押しポンプ式でもおかしくないと思うんだけど……まぁ古いし金無いし、しょうがないか。とりあえず汲み上げ汲み上げーっと。

 桶を井戸の中に縄を使って降ろし(そのまま落とすのは壊れちゃヤだなということでやめた)、ちゃぷんと水についた感触があったのでもう少し縄を降ろしてから引き上げる。

 

「おお、軽い軽い。前ならこんな重労働ひいひい言いながらやってただろうなぁ」

 

 背に刻まれた【ステイタス】……『神の恩恵(ファルナ)』の加護なのか、『サラーサの身体』のスペックなのかは不明だが、まぁ強いて言うなら両方なんじゃないだろうか。夕飯中に話を聞いた限りだと、『恩恵』を得た一般人は訓練を受けた兵士相手に圧勝できるとのことだったし。もちろんその兵士が『恩恵』を得たら得る前と同じように一般人は手も足も出ないそうだが。

 まぁそもそもの話、本来のサラーサのスペックならこんな水汲みでも少し気を付けなければ縄を引き千切ったりしそうだし、【憑着者(ひょうちゃくしゃ)】の『拘束』が絡んで本来の性能を発揮できていないんだろうとは思う。

 汲んだ水に手を浸けると澄んだ冷たさが染み渡る。シャワーの方が良かったかねぇと少し後悔しながらバシャバシャと顔を洗い、ついでに口も漱ぐ。

 

「……ふぅ。あー冷てぇ、お陰でばっちり目は醒めたな」

 

 持ってきたタオル……いや、手触り的には手ぬぐいか?で水気を拭き取り、地下室に戻る。

 次は朝飯だ。あるのはジャガ丸君の残りと、肉少量と、なんかくっそ固いパンに、レタスっぽい葉野菜に、根菜類に……卵と……ふむ。調味料は油に塩、これは酢か。そんでこいつは……驚いた、胡椒じゃないか。歴史に詳しくはないが、近代に入るまで胡椒みたいな香辛料は入手困難だったというし、見た限りの文化レベルじゃ安定供給は厳しそうだし、これかなり高いのでは?あー、だから昨日料理してるときこれには触れてなかったのか。もしかしたら単に使わなかっただけかもしらんが。

 とりあえず水を張った鍋を火にかけといて、卵黄と酢をボウルに入れて油を少量……さて、頑張って混ぜようかねー。ちなみに卵白はそのまま飲んだ。使い道が思い浮かばなかったんだよ、悪いか。

 

 カシャカシャとボウルの中身を掻き混ぜ、混ざってきたと思ったらまた油を加えて混ぜるを繰り返す。そうこうしている間に鍋の水も沸騰し始めたので火から降ろし、新しく出した器にジャガ丸君を放り込む。これは今やってるモノが出来てからだな。

 もう暫くボウルの中身に油を加えて掻き混ぜていたが、味見をしてこんなもんだろうということでやめる。察しの良い人ならわかるだろうが、作っていたのはマヨネーズだ。これ作るの結構な手間なんだが、なんだか全く苦ではなかった。すげぇ、昔試しに作ってみた時なんて、ハンドミキサー無しで作り始めて軽く後悔するくらいにはつらい作業だったのに。

 マヨづくりが終わったので、放置していたボウルのジャガ丸君に沸かしておいた湯をいくらか注ぎ、木べらで軽く潰して混ぜる。昨日食べた感じだとコロッケとかそういうものに近かったので、多分さっき作ったマヨネーズと混ぜたら普通にポテサラにできるのではないかと思いましてねー。潰したジャガ丸君にマヨネーズを作った分の半分ぶちこみ、また混ぜる。とりあえず満遍なく混ざったので一先ず完成ということにしておく。残ったマヨネーズはとりあえず椀に移して蓋をした。冷暗所への保存推奨だぁ……どこだ冷暗所。

 そういえばと火から降ろしていた鍋に水を足して火にかけ直し、卵二個をその中に投入する。

 面倒だ、作るのはこの程度で良いだろう。さっき地上に出た時ベル少年の気配は感じなかったし、朝飯は適当に済ませたか、食わずに出て行ったんだろう。もし朝練でもしているんなら悪いし、朝食分は持っていこう。会えたら渡す。会えなかったら俺の昼飯代わりにする。

 レタスっぽい葉野菜から何枚か葉を剥ぎ、水で洗って皿に載せ、さらにその上にジャガ丸君ポテサラもどきを盛り付ける。

 暫くぼんやりしていたが、そろそろ頃合いかと鍋を火から降ろし、湯を捨てて茹で上がった卵を水に浸ける。こうして粗熱をとると殻が剥きやすくなるっておかんかばっちゃがいつだか言ってた。

 匂いがするもの作ってなかったなと思い、クッソ固いパンをスライスして、火にかけたフライパンに置いて焼く。多分これでヘスティア様起きるんじゃね?気がするだけだけど。

 パンの焼ける香ばしい匂いがし出したが、ひっくり返してもまだ焼き目があまりついていなかったので戻す。

 

「ふわぁ……おはようサクくん。あれ?ベルくんは……?」

 

 第一声からそれですか、さいですか。

 

「おはよ、神様。さぁ?わかんないんでとりあえず朝飯作ってるとこ。もうパンに焼き目ついたら出来上がりなんで、顔洗ってきたらどうです?」

「……うみゅう……わかったよ……」

 

 寝ぼけまなこで外へ出ていくヘスティア様を見送りつつ、パンをひっくり返す。ありゃ、焦げてるとまでは言わないがちょっと焼けすぎちまったか。

 ヘスティア様が戻ってくる頃には、程よく焼き目がついているパンと、殻をむいて縦半分に切ったゆで卵を、それぞれのポテサラもどきを載せた皿に盛り付け終わっていた。

 

「じゃ、食べますか。ベル、戻って来ませんし……残ってる分持って行ってやることにしますかね」

「そうだねー、そうしてあげて」

 

「はむ……ん?サク君、これなんだいっ?」

 

 見るとポテサラもどきを指している。

 

「ジャガ丸君を潰してマヨネーズ……えっと、卵黄と酢と油を混ぜて作った調味料と和えたものです」

「えっ、これジャガ丸君なのかい?うーん、言われてみれば確かにジャガ丸君の味もするね……じゃあこのクリーミーな味がそのまよねーず?の味なのか」

「あー……何気なく作ってみたんですが、こっちじゃ馴染みのない調味料か。美味しくないなら今後使うの控えますけど」

「いや、おいしいよサク君!とてもおいしい!ちなみにどうやって作るんだい?」

 

 ……マヨネーズ嫌いな人間なんてそういないわな。まぁヘスティア様は神様だけど。

 

「卵黄と酢をボウルに入れて、油を少量ずつ加えながら、油が分離しなくなるまで混ぜる。作り方といえばそれだけです」

「えっ?そんなに簡単なのかい?」

「いや簡単に聞こえますけど、油が分離しなくなるまで混ぜるのってまあまあ大変なんですよ」

「なるほどねぇ」

 

 そうか、一般的な調味料でないのなら、もしかしたらこれでボロ儲けできたり……いや、やめとこ。最初は良かったとしてもその後が怖い。

 

「でもまぁ、これは秘密ってことで。新しい調味料とそのレシピだなんて、利権が絡むと面倒臭そうだ」

「確かに。上手くやれるなら良さそうだけど、リスクがリターンに見合わないならやるべきじゃないか。サク君は慎重派だね」

「勝手がわからないのにそんなアホなことできるわけ……とりあえず昨日話すと言ったことも話しておきたいんで、ちゃちゃっと食べちゃいませんか?」

「ん、わかったよ」

 

 この町(オラリオ)のこと、世界のこと、ギルドのことなど、ざっくりとした常識を教えてもらいながら朝飯を終え、食器や調理器具の始末をしてから本題に入った。

 

「まず第一に。俺は別の世界で死んだはずの人間です」

「……続けてくれ」

「第二に、この肉体は……少なくともこの肉体の容姿は、俺の前世のゲームに登場する架空の人物、サラーサのものです」

「……だから、キミが『あたしの名前だ』と言った時、嘘の気配が微妙だった、そういうことだね?」

「恐らくは。そして、【憑着者(ひょうちゃくしゃ)】というスキルについての俺の見解ですが、文字通りこの世界に漂着した俺の魂が、来歴不明ですがダンジョンにあったこの肉体に入った……つまり憑依したことから発現したものと思われます」

「……まぁキミの身体的特徴は見ただけでも牛人(カウズ)小人族(パルゥム)妖精族(エルフ)の三種族くらい混じっているからね。そんな子がこのオラリオにいたら噂になってないとおかしいし、なっていない時点でどこから来たのかわからないものね」

 

 成程、牛人(カウズ)。牛の獣人がいるのか。てっきり牛の獣人はいないと思っていたが、昨日見かけなかったか、いてもオラリオにはあまり暮らしていなかったりするんだろう。

 俺のこのカラダはサラーサのもので、覚えている限りだとどうも壁から出てきた気がする。起き上がってから出てきた壁の中を見たけど、異空間って感じもしない、ただのダンジョンの壁だったし。

 

「そういえば俺、ここで気が付いた直後の記憶が正しければダンジョンの壁から出てきたことになるんですけど、実はモンスターでしたー、なんてこと、ない……ですかね?」

「……もし肉体がモンスターだったとしたら、ボクたち神にはわかるはずさ。それにモンスターは理性を持たない。彼らがもつのはダンジョンの、神と人間への悪意と憎悪だけだよ」

 

 理性を持たない、か。確かに外れている。それに神が人間であると認識したのであれば、きっと人間なのだろう。曰く彼ら彼女らは人間の遥か上位に君臨する『超越存在(デウスデア)』であるのだから。でも一抹の不安が拭えない。自己同一性(アイデンティティ)の確立ってやつの問題なのかな。

 

「そう、ですか……なら良かったです、ね」

「……安心できないのなら、このボクが保障してあげよう。キミは人だって」

 

 そう言ってヘスティア様は立ち上がり、俺の頭を優しく抱きしめてくれた。

 不思議なもんだ。何故、その一挙動だけでこうも安心するのだろう。さっきまでの不安がなぜそのたった一言で霞のように消え去ってしまったのだろう。自己同一性(アイデンティティ)の確立が、場合によっては他者からの肯定によって確かなものになるとかそんな話があったようななかったような。そういうことなのか?まぁ、些細なことか。大事なのは結果だよな結果。

 

「……ははは。ありがとう神様。おかしな話だけど、その言葉で安心した。多分、今からは自信をもって自分は人だって言えると思います」

「ふふふ、そうかい?」

 

 ゆっくりと抱擁を解いた神様は、そう言って笑った。つられて俺も笑う。あぁ、本当に──選んだのがこの(ひと)で良かった。

 

「あ、そういえば昨日二人が寝落ちしてから上で魔法試したんだった」

「うぇっ⁉な、何か壊しただとか怪我したとかなかったかい⁉魔力暴発(イグニス・ファトゥス)とか⁉」

「はははっ。そんなに心配するこたぁないです。なんとなく予感はしてたんですが、武器が出てくるだけの魔法でした」

「あぁ、追加詠唱は試してません。こんなところで使ったら大惨事になる気がしたんで」

 

「賢明な判断だったと思うよ……ちなみに今出せるかい?」

「一応は。昨晩は寝る前だし良いか、と思って試したんですが、一回試しただけで一瞬立ち眩みしたんであまりやりたくはないですね」

「そっか、なら出さなくて良いよ。今度マジックポーションを買ってから試してみるといい。アビリティ熟練度っていうのは使えば使うほど鍛えられて伸びていくものだから、何回も使っていく内に全然苦じゃなくなっていくはずさ」

「なるほど……わかりました、じゃあ探索である程度稼げるようになってから鍛錬するってことで。追加詠唱の方も試すのはそのときまで保留にしときましょう」

 

「それが無難だね。そういえば武器が出るって、ずっと使えるくらい頑丈だったり、持続時間が長かったりするのかい?」

「いえ、強度は試してませんし、効果時間も大体15分から20分くらい……時間の単位って小さいほうから秒・分・時であってます?」

「ああ、あってるよ。そうか……15分から20分。モンスターとの一回の戦闘時間にしては長いし、かと言って主武装として長時間使い続けられる訳でもないか。武器を失った時や無手の時の護身用に考えておくのが妥当だろうね」

 

「はい、俺も同意見です。まぁ上層のモンスターくらいなら素手でも全然大丈夫だろうとは思うんですが」

「や、流石に剣か何かくらいは持っておいた方が良いんじゃないかな?スキルの補正受けられるみたいだし、無手格闘の心得とかもないんだろう?駆け出しがただのパンチ一発でモンスターを殴り倒してるとこを一回二回ならともかく何回も見られたら悪目立ちしそうだ」

「確かにそれは一理ありますね。じゃあギルド支給の武器から取り回しやすそうなのを借り受けて稼いで、少しずつ装備を整えていくのが良いのかな」

「そうだね、暫くの活動方針はそんな感じで良いんじゃないかな。とにかく駆け出しも駆け出しの時点であんまり目立ち過ぎるのはよくないから、人前でスキルや魔法の話は厳禁。魔法を使っているのを見られるのもなるべく避けるようにすべきだよ。変なのに絡まれたくないだろう?」

 

 「この街には娯楽に飢えた暇神(ひまじん)どもがうじゃうじゃいるんだからね」とのこと。えぇ、鬱陶しいなそれ。はーやだやだ、ヘスティア様曰く俺の持っている魔法とスキルも、珍しい形式だったり、簡単な条件を満たせば全アビリティに補正が入ったり、意味不明で類を見ない効果や特異な不利効果(デバフ)を持っていたりと、かなり稀少なものらしい。そんなもの持っているとバレたらどんな目に遭うか……とも言わ(クギをささ)れた。

 

「あぁ、それと。ボクからもちょっと相談しておきたいことがあるんだ。ベル君のことなんだけど……」

 

 はい、はいはい。【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】?はいはい。効果が……早熟する?懸想(おもい)が続く限り効果持続?それだったら俺の【憑着者(ひょうちゃくしゃ)】の早熟関連部分と大して変わら……え、懸想(おもい)の丈により効果向上?よくわからんけどヤバそう。念の為ベルには伏せてある、と。成程、大体わかった。

 

「つまり効果はよくわからないし、嫉妬に駆られて衝動的にその場では誤魔化しただけだけれど、俺と負けず劣らずバレたら玩具にされそうなスキルを発現させてしまったのでどうしようってことですね」

し、嫉妬……否定はしないけど面と向かって本神(ほんにん)に言うかい普通……う、うん。そんなところさ」

「はぁーーーーー……効果向上ってところが怖いんですよね、ベルのは。俺の『早熟』は効果低下なのでこれ以上良くなることが有り得ないのに対し、あっちは逆に向上していく。俺のだって、『早熟』効果が低くなっていくと同時に『拘束』とやらが外れていくようなので一概には言えませんが」

 

 ……そういえば【ステイタス】の数値ってアビリティ()()()っていうんだっけ。こんな時に頭(よぎ)ってほしくなかったなぁ……。なんとなく予想ついちまったじゃねぇか。確証持てないので今は保留にして、とりあえず一言。厄介なヤツだよ、君も!俺も!……元ネタ知らんけど、今の心境マジでこれ。

 

「だから困っているんだよ……それに、懸想(おもい)が続く限りっていうところがボクにとっては一番の問題さぁ!」

「あーうん。まぁそれはベルが変わるか神様自身がどうにかするしか無いんで……ともかく状況を鑑みるに懸想(おもい)の向いている先は十中八九昨日助けてくれたアイズ・ヴァレンシュタインで。これが憧れが続く限りっていうのであれば神様も安心して見ていられたんでしょうけどねー、やっぱどうしようもないかと」

「……やっぱりかい?はぁ……ボクのかわいいベル君がぁ……」

 

 机に突っ伏してシクシクと。まぁ年頃の少女として見れば微笑ましいのだが、自分の主神様の痴態なのだ、情けないにも程があろう。昨日も酒に酔ってベルに絡むという痴態を見たのでもう良いやと思い始めているが。

 

「まぁ、いつか変化することを祈りましょうってことで。今は保留案件じゃないかなと俺は思います」

「うぅ、ベル君……わかったよ、とりあえず保留だね……。でも、ボクは諦めないぞう!絶対にベル君を振り向かせてやるんだ!」

「おう、その意気だ!頑張れよ神様!あたしも応援してるからな!」

 

 ……もう口調サラーサモードで良いんじゃないかと俺は思うんだ。神様も「ああ!もちろんさ!」って気にした様子もなかったし。さて、そろそろ俺もギルドとやらに行って冒険者登録とやらをしたいんだが……。

 

「なぁ、そういえば神様、今日はバイト無いのか?」

「え?あぁ、今日は昼からだね。どうかしたのかい?」

「いや、今日な、ほんとはベルとギルドまで行って冒険者登録する予定だったんだ。なのにベルのヤツいねーし……何よりあたしこの街の地理わかんないからさ、暇だったらギルドまで連れて行ってもらえないかなーって」

「なんだ、そのくらいお安い御用さ!かわいい眷属の頼みなんだ、いくらでも案内してあげるとも!」

 

 テンションの上がり方よ……。今すぐ!ハリーハリーハリー!とは言わなかったけど、神様もバイトの準備あるだろうから急ぐか…とベルの分の朝飯を適当にサンドして包み、すぐに街へ繰り出した。些事だけど、本拠から大通りまでの道順は簡単に頭に入った。あんな曲がりまくる道筋よく二回で覚えられたな、自分でもびっくりだよ。

 




如何でしたでしょうか。

魔法に関しては、現状持続時間が微妙なようです。これじゃ耐えられる武器がなさそう問題は少なくとも暫くの間根本解決できそうにありませんねぇ……。
てかこんなもんどこで使うんだ。出番どこだよ、怪物祭(モンスターフィリア)か⁉そうなのか⁉……果たして追加詠唱が陽の目を見る機会は来るのであろうか。一番の心配ですね。

前話からそうでしたけど、主人公の自称サラーサことサクは時と場合と相手によって口調がころころ変わります。基本はサラーサのロールプレイをしている(つもりな)のですが。
それと、朔はそこそこ料理できます。趣味とは言いませんが一時期ハマっていたようで。しかし現代知識ありの転生でよくあるマヨネーズで一攫千金は怖くてやめた模様。英断ですね、やっていたら商業系ファミリアに潰されるコースでした(震え声)

というかこのヘスティア様、さてはベル君が絡まない限りは基本そこそこ有能だな?(名推理)

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