推敲が足らなかったりして構成や話の繋ぎが不自然だったりしても多少は目を瞑っていただきたく……。
あと、多分この話も結構賛否両論は別れそうですかね?ベートさんの命運や如何に。
次話からのクオリティは頑張って上げていきますのでどうかユルシテ…。
さて、今回は一万二千字超えました。二割増しです。
では、どうぞ!
神様が本当にあるのかもわからない(恐らくは嘘であろう)『バイトの打ち上げ』に行ってしまった後、俺たち二人は結局ベルが言っていた店で夕飯をとることにした。
そんで現在は本拠を出て、夕闇が夜闇へと変わり、無数の笑い声が響く
「ね、ねぇサラーサ。なんで神様あんなに怒ってたのかな?僕、何かしたっけ……?」
「……あたしが聞きたいよ。お前が何やったかっていやぁそりゃ何かしたのかもしれねーけどさぁ……」
「う……そうだよね、ごめん。と、とにかく、確かシルさんと会ったのはこの辺りだったと思うから、ご飯食べて気持ちを切り替えよう?」
「そうかー……あぁ、わかった。じゃあこの話はここまでだな。で?その店はどれなんだ」
俺と話しつつもベル少年はきょろきょろと周りを忙しなく見ていた。もしかしなくてもわかっていないのでは……。
「あ!あった!あそこのカフェテラスがある酒場だった気がする!」
見つけたらしい。ベル少年に手を引かれ、彼が指差す建物に目を向ける。
「はえー……でっけえな」
「そうだね、もしかしなくてもこの辺りの酒場の中じゃ一番大きいかも……」
妙に奥行きのある、他の商店と同じく石造りで二階建ての建物。掲げられた看板は『
カウンターの中で料理や酒を振舞う恰幅の良いでかい女の人……えっと、あれドワーフかね?全体仕切ってるっぽいから多分あの人が看板の『女主人』、まぁ女将さんなんだろうな。店の奥じゃ猫耳の女の子たちが調理に忙殺されている。ありゃすげぇや、よく捌けるよ……。そういや給仕も全員ウェイトレスだな。えっ、この店スタッフ全員女性じゃん⁉
そういえばコイツそういうのに免疫なさそうだよな、と
「ベルさんっ」
「……」
「えっと、お前がシルか?朝ベルに朝飯恵んでくれたっていう」
なんとか笑みを浮かべようと頑張っているベルの代わりに、とりあえず声をかける。
「あら?ベルさんの妹さん……ですか?はい、私がシル・フローヴァです」
「あー、いや……妹じゃないぞ。てかベルと初めて会ったの昨日だし。同じ派閥に所属してる、サラシナ・サクだ。サラーサって呼んでくれ」
「わかりました。よろしくお願いします、サラーサさんっ」
「……えっ」
「ん?」
「どうかしたんですか?ベルさん」
「えっ……と、その……サラーサって、名前じゃなかったの……?」
あっ。
「名前は名前だぞ。あたしの愛称みてーなもんだ。いつもサラーサって呼ばれてたからな、癖でサラーサって名乗っちまうんだ。そんでお前に本名教えるの今の今まですっかり忘れてた。すまん」
いやほんと申し訳ない。ヘスティア様には速攻でバレた、エイナさんには今朝冒険者登録の時に改めて名乗った。でもベル少年には名乗る機会無かったな……。自分から名乗ろうと神様に本名で呼ぶのヤメテって頼んだツケだなこれ。
「そ、そう、なんだ……い、いいよ僕だってサラーサとの約束すっぽかしたりしてたしっ!ぜ、全然気にしてないからっ」
「修羅場ですか?」
「違うと信じたいけどな!いや、その、ほんとごめんなベル……」
小声で耳打ちしてくるシルさんに小声で返すが、まさかの事態。これはうっかり八兵衛よりうっかりしてるわ。……うっかり八兵衛って誰だっけ?漫画のキャラ?時代劇の役?
「と、とりあえず店入ろうぜ!シルも仕事サボっちゃマズいだろ?なっ」
「そ、そうですね。では、お客様二名はいりまーす!」
若干放心してるベル少年を引っ張りつつ、シルさんの後ろをついていく。
「では、こちらへどうぞ」
通されたのはカウンター席、その角。とりあえず俺は角側に座り、ベル少年をその横に座らせる。ふーむ、かなり融通してくれてる感じかな。わざわざ横に誰か座ってきそうな位置でもないし。
「アンタがシルのお客さんかい? ……おや、もう一人いるじゃないか!ははっ、二人とも冒険者のくせに可愛い顔してるねえ!」
カウンターから乗り出してきた女将さん。ビクッとして身を引いたベルと、その横にいる俺の顔を見て豪快に笑った。俺はともかくベルは気にしてそうだなー。おぉ、女将さんに暗い視線向けてる。
「で?何でもあんた、あたし達に悲鳴を上げさせるほど大食漢なんだそうじゃないか!じゃんじゃん料理を出すから、じゃんじゃん金を使ってってくれよぉ!」
「⁉」
告げられた言葉に度肝を抜かれたらしいベル少年、ばっ!っと後ろを振り返る。傍に控えていたシルさん、目ぇ逸らしてーら。ハメられましたね間違いない。HAHAHA、ドンマイベル。
「ちょっと、僕いつから大食漢になったんですか⁉僕自身初耳ですよ⁉」
「……えへへ」
「えへへ、じゃねー⁉」
やべ、ちょっと笑いが堪えられなさそう。
「その、ミアお母さんに知り合った方をお呼びしたいから、たっくさん振る舞ってあげて、と伝えたら……尾鰭がついてあんな話になってしまって」
「絶対に故意じゃないですか⁉」
「私、応援してますからっ」
「……ぷっ、あは、あははは!もうダメだ、我慢できねえ!ははははっ!」
「まずは誤解を解いてよ⁉ちょっ、サラーサも笑いごとじゃないってば⁉」
「僕絶対大食いなんてしませんよ⁉ただでさえうちの【ファミリア】貧乏なんですから!」
「……お腹が空いて力が出ないー……朝ご飯を食べられなかったせいだー」
「止めてくださいよ棒読み⁉ていうか、汚いですよ⁉」
いやー、マジでこのやりとり傑作すぎる!笑いが止まんねぇ!あははは!
「もう!笑いごとじゃないってば!」
「ご、ゴメンなベル……ひひひ、腹いてぇ……」
「ふふ、冗談です。ちょっと奮発してくれるだけでいいんで、お二人ともごゆっくりしていってください」
「……ちょっと、ね」
「ああ、わかった」
うん、商魂逞しいね。俺は好きだぜ、そういうの。かと言って俺も支給品の借金あっからなぁ……あんまり高いのは無理だな。残念。
とりあえずベル少年がメニューをとったので一緒に覗き込む。
……ひぇっ。丁寧にもメニュー表が用意されていることにも驚いたが、額も凄まじい。ナニコレしゅごい。ベル少年がパスタを頼んだので俺も同じので、と乗っかったんだが。これで合計六〇〇ヴァリスですってよ奥さん。ポーション買ってもお釣りが来るぜ……。
「すげぇな、色々と……」
「そうだね……」
二人して溜息をつき、苦笑する。メニューも小洒落てるし、手間かけてそうだし……だから高いのかね。
「酒は?」と女将さんに尋ねられ、「いや、今日はいいや」「遠慮しておきます」と口々に答えたのだが、次の瞬間ドンッ!っと
二人して苦笑いしながら仕方なしに供された
「はむっ、んむ……美味い。量もある。良いな、もうちょっと懐事情良くなってから来たかったけど」
「そうだね。うん……僕らみたいな駆け出しにはちょっと敷居が高かったね……」
「違いない。後で神様へのお土産に何か
「ちょっと財布は苦しいけど、なんだか神様怒ってたみたいだし……そうしようか」
もぐもぐ。いや、ほんと美味いな。前世のミートソースパスタと比べても美味い。最近の冷食とかってレストランのシェフが監修してたりで美味かったんだが、それより美味いって素直にすごい。
「楽しんでいますか?」
「……圧倒されてます」
「右、じゃないな。左に同じくー」
ベルが大体半分くらい、俺は三分の二くらい食べた頃にシルさんが声をかけてきた。
おう?しれっとエプロン外して椅子持って陣取ってきたぞ。仕事は良いのか?
「お仕事、いいんですか?」
「キッチンは忙しいですけど、給仕の方は十分間に合ってますので。今は余裕もありますし」
シルさんが目線で女将さんに確認とってる。お、女将さんニヤッと笑いながらくいっと顎上げた。これはOKってことなんだろうな。わあ、女将さん男前ー……。
「えっと、とりあえず、今朝はありがとうございます。パン、美味しかったです」
「いえいえ、頑張って渡した甲斐がありました」
「……頑張って売り込んだっていう方が正しいんじゃないですか?」
「おいベル、流石にそれは言い過ぎじゃないか?」
「いえ、すみません」と苦笑するシルさん。正直ここまで高額だとは思わなかったが、まぁ本人謝ってるし良いんじゃないかねぇ。
それからシルさんがこの店について少し話すのを聞いていた。何でもあの女将さん……ミアさんが一代で建てた店らしい。しかもあのひと昔は冒険者で、主神からの許可もとって半脱退状態でここやってるんだと。素直に脱帽です、おみそれしました。脱ぐ帽子無いけど。
まぁその後は……二人が話してるのに耳を傾けながら、俺は再び
「沢山の人がいると、沢山の発見があって……私、目を輝かせちゃうんです」
人間観察が趣味なのか。ふうん……なんかベルに惹かれるものがあって声かけたのかな?だとしたら罪作りなのはベル少年か、シルさんか、どっちなんだろ。
「とにかく、そういうことなんです。知らない人と触れ合うのが、ちょっと趣味になってきているというか……その、心が疼いてしまうんです」
「……結構すごいこと言うんですね」
実際、聞く人が聞いたら勘違いされてしまいそうな発言であることに違いない。違いないが、俺もその気持ちはわかる。こことは全く違う、文字通り異なる世界であろう前世で生きていた俺にとって、
……っと。少し酔ったのかね、ちょっと感傷ぎみになってたようだ。あと若干ではあるが眠い。流石に酔って寝落ちは洒落にならないと
「あのー、ベルさん……?」
「……シル、ちょっと待て。【ロキ・ファミリア】にゃこいつの憧れの人がいるんでな、多分お前に反応してる余裕無いんだ」
「……あぁ、なるほど」
「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん!今日は宴や!飲めぇ‼」
【ロキ・ファミリア】と思われる集団の一人が立って音頭をとった。……顔が見えないが、恐らくあれが神ロキだろう。団長や幹事の線もあるが、昨日の夕飯後、酒飲んで騒いでたヘスティア様が愚痴った中に、ロキの赤髪まな板糸目ーとかあった気がする。繰り返しになるが顔は見えんし糸目かはわからんが、赤髪でスレンダーな体型だからアレなんじゃないかと思う次第。
音頭からは一気に宴会一色の雰囲気に染まり、ガヤガヤと楽しそうに飲んで食らって笑い合っている。アイズさんはあまり食べる方じゃないみたいだな。あとマイペース。絡まれてもロクに反応してねぇ。
「【ロキ・ファミリア】さんはうちのお得意さんなんです。彼等の主神であるロキ様に、私達のお店がいたく気に入られてしまって」
くすりと笑って、手で壁を作りながらベルにそんなことを耳打ちするシルさん。あーあ、これでベルがちょっと無理してでもここに通う可能性が浮上してしまった。ギンギンに目ェ見開いてアイズさんの方凝視しやがって。お前現在進行形で傍から見たら両手に花の羨まけしからんヤツっていう自覚ある?シルさんがこっちいること気付いた幾人かから軽く殺気の籠った視線送られてんぞ。
「そうだ、アイズ!お前のあの話を聞かせてやれよ!」
「あの話……?」
アイズさんから見て、席が二つくらい離れた斜向かいに座っている灰色の髪の獣人の青年が、彼女に何かの話をせがんだ。頬の入れ墨が印象的な、灰色の髪の青年。精神的にはまだ男であると思っている俺から見ても、十二分に美男子だな。美形だけど男らしさもちゃんとある顔立ちだ。いいなー、うらやましいなー、俺なんて……俺なんて……彼女もついぞできたことなかったもんなぁ……言ってて悲しくなってきた。
「あれだって、帰る途中で逃がしたミノタウロス!最後の一匹、お前が5階層で始末しただろ⁉そんで、ほれ、あん時いたトマト野郎の!」
──……へぇ。のほほんとしていた思考が一気に冷える。
思い出したぞお前……あのときの。アイズさんが俺を治療してた最中、影からこっち見てた野郎だな?なんとなく、気配に覚えがあるぞ。
「ミノタウロスって、17階層で襲いかかってきて返り討ちにしたら、すぐ集団で逃げ出していった?」
「それそれ!奇跡みてぇにどんどん上層に上がっていきやがってよっ、俺たちが泡食って追いかけていったやつ!こっちは帰りの途中で疲れていたってのによ~」
……ああ、帰らなきゃならないんだな。俺たちは上層のほんの浅いところでしか活動していないが、上位の冒険者は下へ下へ、より深く潜っていく。そして目的を達成したならば、来た道を引き返して帰らなければならないんだって、エイナさんも言ってた、『帰るまでが探索』だって。
そしてアイズさんから聞いたから知っているとも、あのミノタウロスがそうやって上層へ来たことは。でだ、なんで今、その話。しかもトマト野郎だと?チリチリと、頭の中で火花が散るような感覚。今、この、予感が的中、したならば。少々、自制できる気がしない。
「それでよ、いたんだよ、いかにも駆け出しっていうようなひょろくせぇ
……。
「抱腹もんだったぜ、兎みたいに壁際へ追い込まれちまってよぉ!震えながら、おぶってた女に庇われてよ!」
「ふむぅ?それで、その二人どうしたん?助かったん?」
「アイズが間一髪ってところで細切れにしてやったんだよ、なっ?」
「……」
強引に俺の理性を引き千切ろうとしていた獣の
「それでそいつ、あのくっせー牛の血を全身に浴びて……真っ赤なトマトになっちまったんだよ!くくくっ、ひーっ、腹痛えぇ……!」
「うわぁ……」
「アイズ、あれ狙ってやったんだよな?そうだよな?頼むからそう言ってくれ……!」
「……そんなこと、ないです」
アイズ・ヴァレンシュタインはそんな下らない事を狙ってやるような人間じゃない。
現に彼女はほんの少しだけ眉をひそめている。嫌がってんなアレ。あの野郎は目元に涙を溜めながら笑いを堪え、他のメンバーは失笑。別のテーブルについてる部外者どもも、話を聞いて、釣られて出る笑いを必死に噛み殺している。
「それにだぜ?そのトマト野郎、庇った女をアイズが治療し終わるまでボケーッとしててよ、女が治って立ち上がった途端急に動き出して、女抱えて叫びながらどっか行っちまったんだよ!」
「えぇ……」
「……うわ、なんやそれ。その女の子、かわいそうになってきたわ……」
「そうね……」
「……」
そういやそんな感じだった。事実だから擁護はしてやれねーけど、まぁベルも気が動転してたんだよな。感情と情報を処理しきれなくなって暴走したらしいんだよ、アレ。本人今俯いて真っ赤になってっけど。
「ああぁん、ほら、そんな怖い目しないの!可愛い顔が台無しだぞー?」
話したネタのオチが酷かったために固まった酒場の空気を戻そうと、誰かが、獣人の青年に物凄く不機嫌そうな目を向けているアイズさんにそう声をかけていた。
俺は……正直怒りが不思議なくらい静かになって。安心しきって……この時、ベルに一言、「お前はあのとき、間違いなくあたしの英雄だったよ」と、伝えることを……失念していたんだ。
「……チッ。しかしまぁ、久々にあんな情けねぇヤツを目にしちまって、胸糞悪くなったな。野郎のくせに女に庇われてよぉ。ああいうヤツがいるから俺達の品位が下がるっていうかよー」
「いい加減そのうるさい口を閉じろ、ベート。ミノタウロスを逃がしたのは我々の不手際だ。巻き込んでしまったその少年と少女に謝罪することこそあれ、酒の肴にする権利はなどない。恥を知れ」
「おーおー、流石エルフ様、誇り高いこって。でもよ、そんな救えねぇヤツを擁護して何になるってんだ?それはてめぇの失敗を誤魔化すための、ただの自己満足だろ?ゴミをゴミと言って何が悪い」
「これ、やめえ。ベートもリヴェリアも。酒が不味くなるわ」
「アイズはどう思うよ?自分の目の前で震えるだけの情けねえ野郎を。あれが俺達と同じ冒険者名乗ってるんだぜ?」
「……あの状況じゃあ、しょうがなかったと思います」
「なんだよ、いい子ちゃんぶっちまって。……じゃあ、質問を変えるぜ?あのガキと俺、ツガイにするならどっちがいい?」
「……ベート、君、酔ってるの?」
「うるせえ。ほら、アイズ、選べよ。雌のお前はどっちの雄に尻尾振って、どっちの雄に滅茶苦茶にされてえんだ?」
「……私は、そんなことを言うベートさんとだけは、ごめんです」
「無様だな」
「黙れババアッ。……じゃあ何か、お前はあのガキに好きだの愛してるだの目の前で抜かされたら、受け入れるってのか?」
「……っ」
「はっ、そんな筈ねえよなぁ。自分より弱くて、軟弱で、救えない、気持ちだけが空回りしてる雑魚に、お前の隣に立つ資格なんてありはしねえ。
「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」
横で、椅子を吹っ飛ばしてベルが立ち上がって、そのままどこかへ走り去っていった。
「ベルさん⁉」
ただただ安堵していた俺は、それを止めることができなかった。──ただ。『俺』が収まったと思っていた激情は、上限突破して逆に静まりかえっていただけだった。『俺』の理性など役に立たず、『
「……ああん?なんだてめえ」
「……お前、何様のつもりだ」
「は?」
「何様のつもりだって聞いてんだよ!」
怒りに任せるまま、クソ野郎を表通りへ力任せに投げ飛ばす。
「いっつ……何すんだてめ……ッ⁉」
青年が起き上がろうとする頃には、既にその上でマウントをとって、胸倉を掴んでいた。
「……質問に答えろ。あたしはベル・クラネルに助けられた。
「ぐっ、くそっ……何が言いてえんだよッ⁉」
「お前はなんだ。どの口がそんなことをほざくんだ」
子犬が牙を、爪を立てたとて、押さえ付ける獅子の前肢を退けられる筈がない。『
「アイズ・ヴァレンシュタインはあいつとあたしを救った。あいつはあたしを助けた。あたしはあいつを守った。何かが欠けていれば今頃あたしもあいつもきっと生きちゃいない。遅れてきたんだろうお前はアイズ・ヴァレンシュタインの後ろでただ見ていただけだったな。お前、そんなことを上からほざけるほどあたしたちに何かしてくれたか?おい。言ってみろよ。何が『ああいうヤツがいるから俺達の品位が下がる』だ?ふざけるな。あたしからしてみれば『お前なんぞと一緒にするな』だよ。ずっと聞いてたよ、お前の声を、お前の話を。あたしは勘が良いんだ。酒に酔ったお前がベルのことを話してる時、お前が考えてたコトを当ててやろうか?惚れた女を振り向かせたい、ただそれだけだろ。くっだらねぇにも程があんだろうが。あたしはともかくあいつを、ベルを、女の気を引くダシにしやがって。その行いの代償は、何が良い?眼か?耳か?鼻か?歯か?爪か?指か?腕か?脚か?それとも────────命か?」
握った腕を潰そうとして、はたと気付く。全身を【ロキ・ファミリア】の団員に抑えられていた。ドワーフ、パルゥムに、色黒の……アマゾネスか。子ども程度の人間一人に随分と大人数で引き剥がしにかかったもんだな。ほんの一挙動すら止められていないし、無意味だと思うんだが。
「そこまでにしてもらえるかな?ここまでなら『派閥の失敗』と『団員の失礼』で穏便に済ませられる。だけど、流石にどちらかが大怪我をしてしまえばただじゃあ済ませられなくなってしまうからね」
「……ああ、言いたいことは言った。大人しく従ってやるよ【ロキ・ファミリア】の」
掴んでいた青年の胸倉と、鬱血し変色した腕を離し、【ロキ・ファミリア】による拘束が解けたので青年の上から退く。ふと天を見上げれば───不自然に、それでいて燦然と。ひどく蒼褪めた夜空に、
「……本当に、世界ってのは力だけじゃ儘ならねぇな。けど……星がキレイだな────
言い終えると、『あたし』は糸が切れた操り人形の如く意識を失った。
……後から聞いた話になるが、一部始終を見ていた【ロキ・ファミリア】の冒険者曰く。
はためいた外套の下、一瞬見えた『あたし』の背中にあったのは────【ステイタス】の刻印を覆い隠して燐光を放つ、
***
「う、あ……?」
……カラダが重い。頭が痛い。背中の『恩恵』がじんわりと熱を持っている気がする。
「あ、気が付きました?」
「……この、声は……シル、か?」
「はい、先程までお二人とお話していたシル・フローヴァです」
焦点の定まらない目を彷徨わせ、声のした方へ向くと、ぼんやりと薄鈍色の髪の人影が見えた。視界はまだ判然としないが、思考は徐々に明瞭になってくる。
「……ここ、どこだ?今何時だ……」
「お店の二階、倉庫兼従業員の休憩スペースのようなところです。えっと、時間は……夜の八時を回ったくらいでしょうか」
「なんで、あたしはこんなとこに?」
「うーん、覚えていませんか?【ロキ・ファミリア】の団員さんがベルさんをバカにして、ベルさんがお店を飛び出してからサラーサさんがその団員さんに掴みかかったんですけど……」
ようやく視界が安定し、シルさんの顔に焦点があった。ベル少年が飛び出していったのは記憶にあるが……おいおい、俺そんな馬鹿な真似したっけか……?あと、八時過ぎって俺らが飯食いに出たのが夕方の五時半過ぎだろ、そんで『豊穣の女主人』についたのは多分六時ちょっと前くらいだと思うから……【ロキ・ファミリア】が来た時間とか考えると一時間くらい寝ていたことになる。掴みかかった団員に殴り飛ばされて気を失ったとかそんなオチ?
「……思い出せませんか?」
「ああ。わりーな、思い出せねえ」
シルさんが困り顔で少し考える素振りを見せていたところへ、バタンと大きな音を立てて扉が開き、女将さんが入って来た。
「お目覚めかい。気分はどうだい?」
「……ま、悪くは無いけど良くもないな」
「そうかい、軽口叩けるなら上等さね。んじゃ……あんたと、あんたの連れが飲み食いした分、それにあんたがウチにかけた迷惑料。しっかり体で払ってもらおうか」
……はい?
「いや、せめてお代くらいは払え……あー、ベルが財布持ってたわ……わかったよ、皿洗いでもなんでもする……」
「んじゃ、これ着てしっかり働きな」
にぃ、とあくどい笑みを浮かべた女将さんが、シルさんと同じような服……つまるところ『豊穣の女主人』の給仕服を渡してきやがった。……待って、代金+迷惑料分働くわけだから百歩譲って制服着るのはわかる。まぁ元男なので着るのに抵抗が無いとは言わんが、普段着てる装束のこともあるからそれは今更か。でもさ、それ以前にさ……
「……この服、その、あたしの体型でも、着れるのか……?」
ぽかん、と呆気にとられた表情の二人。しかしその表情は一拍の後、一気に笑いに変わる。
「く、くく……」
「……ぷっ」
「……な、なんか変なこと言ったか?」
「はっはっは、安心しな。ちゃんと仕立て直してあるよ」
「ふふふ……すみません、気を失ってる間に採寸させてもらったんです」
え、えぇ……?準備が周到過ぎるんだが……⁉
「お似合いですよ、サラーサさんっ」
「ああ、似合うじゃないか」
「……」
口角を吊り上げ、腕組みをして満足そうにしている女将さんと、本心から褒めているらしいシルさん。普段の装束の方が余程露出もあるし確かにこれよりはアレかもしんないけど……けど!慣れねぇ!落ち着かねぇ!恥ずかしい‼
「とりあえず、今から店が終わるまで皿洗いでもやってもらおうかね。ああ、それと……ここでそれ着て働く以上、あたしのことは『ミア母さん』と呼びな」
「……ミア母さん、ね。わかった、よろしくたの……宜しくお願いします」
そういえばシルさんも『ミアお母さん』って呼んでたし、雇い主であるミアさんにとって、従業員は己の庇護下にある子どもって立ち位置なんだろうか。はあ……皿洗いか。マヨネーズの作り方教えたら釈放されたりは……しなさそうねえ。とりあえず、皿洗い頑張ろう。
うーん、あれから本当にずっと店が終わるまで皿洗いしてた。正直料理する方が好きだけど、メニュー通りに注文されたものを片っ端から作るのはなんだか性に合わなさそう。給仕はほら、俺が何かやらかしちゃったらしいから任せられないんだって。接客って注文とるのと給仕でしょ?そのくらい普通にこなせると思うんだけどなぁ、でも今俺出ていくとめんどくさそうだからダメだってさ。
まだどんちゃん騒ぎながら飲んでた【ロキ・ファミリア】の面々に出てきたのが察知されて、色んな視線注がれて本当に居心地悪かった。あぁ、ベル少年
【ロキ・ファミリア】の主神らしいと思った赤髪のひと、糸目だったし「ロキ」って呼ばれてたからやっぱり神ロキだったんだな。北欧神話のトリックスターが眷属と酒飲んで騒いでるの、なんだか不思議だな。
でもま、如何に神が不変不朽不滅の【
「ふう、これで最後……っと。皿拭くのやってくれてありがとな!えっと……」
「リュー。リュー・リオン」
「ああ、助かったぜリュー。やっぱ作業の分担って大事だな!」
「いえ、礼には及びません。ただ私がやりたかったからやっただけです」
「ふーん……お前、いい奴だな。でも感謝くらい素直に受け取った方がいいと、あたしは思うぞ」
「……そうですか。では、どういたしまして」
「へへへ。改めて、ありがとな!」
途中からエルフのウェイトレスさんが手伝ってくれていたのだが……そうか、リューさんっていうんだなこのひと。本当に助かった。身長足りないから台借りてその上でずっと皿洗ってたんだが、やっぱり一人だと食器は溜まっていく一方でな……。ちなみに皿割るなんてアホなことはやらかしてないぞ。それにしてもあんなワシャワシャ漫画のように泡が立つとは思わなかった、あれは結構楽しかったな。量はちょっとした拷問だったけど……どんだけ洗っても終わりが見えなかったぜ、ははっ……。
営業終了後店舗の清掃まで手伝って、晴れて開放された訳なんだが。
女将さんことミア母さんに「また来な」っていつもの笑顔で言われて、なんかクッキーの小さな包みを貰った。それって客として?従業員として?とは聞けなかった。多分どっちもだわあれ。
その後やや癖のある茶髪の
「まぁなんというか随分愉快な職場だな」ってシルさんに言ったら苦笑して、「でも楽しいですよ?」だってさ。そりゃ確かに楽しそうですけれども。何はともあれ、世話になったと頭を下げて退散する。
さて、遅くなった。ベルがどこ行ったのかわかんねぇから探さないとだが、それよりも先に一旦本拠に戻って、神様に事情伝えておかないと。心配かけちゃっただろうし。もう日が変わって午前一時過ぎだ、急ごう。
さて、如何だったでしょうか。
今回はちょっと意味がわからないものと不自然な展開と繋ぎが多いですね、本当にすみません。
主人公、今の今まで(と言っても知り合って一日半程度の付き合いだけど)ベル君に本名名乗るの忘れていたとかいうポンコツ。
『あたし』
お前は誰だ。サラーサにしてはお頭のお出来が良すぎるぞ。でも繰り返し似たようなこと言っているので実はそんなにお頭がおよろしくない……?何にしても最後の一言的に妙な疑問が残る。なんで自分の名前呼んだんだいキミ。
『黒銀に輝く竜翼の紋様』
【ステイタス】を覆うように発現していたナニカ。詳細不明。
果たしてなんなのでしょうね?
『不自然に燦然と輝く三つの星』
主人公(?)が気を失った後に空を見上げた誰かが言うには、そんな星はなかったという。
結局『豊穣の女主人』に捕まって働かされている辺り女主人公の宿命を感じる。にしてもあんな特殊体型用の服よくそんな短時間で仕立てられたな。手直ししたにしても早すぎない…?
誰か裁縫に関するスキル発現させてる子でもいたのだろうか……。
読みやすい文章量はどのくらいでしょうか?
-
5000~6000
-
7000~8000
-
9000~10000
-
10000~
-
考えたこともない