Fate/Apocrypha ”黒”のセイヴァー   作:ぴんころ

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オリ鯖を書いてみたくなった


Act-1

 

 

 黄金千界樹(ユグドミレニア)を名乗るとは、魔術協会において侮蔑の念を避けられないということでもある。

 何せその一族を構成するのは総じて『これより先が存在しない』魔術師家系。

 故にこそ彼らは、向けられる侮蔑を耐えるだけではなく、跳ね返すことを望むなら、彼らだけの力ではなく外部からの何かが必要だった。

 

 その鍵こそが、大聖杯。

 

 かつてアインツベルンという魔術の大家が作り上げた礼装。

 英霊と呼ばれる上位存在を人の手で召喚するという形で”あらゆる願いを叶える”ことへの信憑性を高めた一品。

 それを象徴(シンボル)として、ユグドミレニアは魔術協会より離反した。

 

 聖杯が発見された時、それを奪い合う行為全般を指して”聖杯戦争”とこの世界では呼ぶ。

 だが、ここ数十年で魔術師たちに多く広まった”アインツベルンの聖杯”の作成図によって、今ではその言葉は、ほとんどがアインツベルンの聖杯の劣化物……亜種聖杯と呼称されるものを使用した”亜種聖杯戦争”についてを示す。

 

 ただ、ユグドミレニアが行う聖杯戦争はそんな劣化したものではない。

 アインツベルンの聖杯そのものを使用しての聖杯戦争は、世界中に広がる亜種聖杯戦争の本家本元(オリジナル)

 今の世界で行われる聖杯戦争ではまず間違いなく最大規模。

 

 本来七の魔術師と七の英霊がたった一つの聖杯を求めて争うのが冬木式の聖杯戦争。

 だが、この聖杯戦争──聖杯大戦と呼称されるものは七組に別れて戦うのではなく二組に別れる。

 魔術師と役割(クラス)に当てはめられた英霊……サーヴァントが一人ずつの組が七つではなく、魔術師と英霊の組が七つあって、それでようやく一つの陣営。

 七騎対七騎。本来同一のクラスなどあり得ない聖杯戦争は、けれどこの戦いにおいてのみ全てのクラスが二つずつ。

 ユグドミレニアが擁する陣営の名は黒。対する魔術協会が擁する陣営の名は赤。

 

 今、ユグドミレニアが召喚した英霊の数は六。

 召喚されるべき基本七クラスの内、アサシン以外の全てのクラスがユグドミレニアが集めた触媒によって先日召喚されている。

 そして、最後の一枠。ユグドミレニアが誇る黒の陣営を完成させるための最後の一ピースが、今日揃う。

 

 盟主たる”黒”のランサー。その真価を発揮するためには時間がかかる”黒”のキャスター。

 本来ならば、先に召喚された二枠の英霊を除く五騎は先日召喚される予定だった。

 それが、一人だけ遅れることになった理由は二つ。

 

 まずは、純粋に触媒が到着するのが少し遅れた。

 触媒は、狙った英霊との縁を繋ぎ、確実に召喚させるためのもの。

 これがなければ、召喚される英霊は召喚した魔術師と性格が似通ったものになり、けれど強さは保証されない。それどころか、マスターとの間に同族嫌悪の感情が発生する可能性もある。

 少なくとも戦闘能力については、触媒を用いての召喚を行えば心配する必要はない。

 各々が『自分が扱いきれる英霊の中でこれが最強』と考えて召喚するためのものなのだから、戦争が始まるまで時間がまだあるのであれば多少程度は遅らせても問題はないとの当主判断があった。

 

 二つ目は、彼の召喚する予定のサーヴァントはまず間違いなく特殊な(エクストラ)クラスであるということ。

 ただでさえ狙って当てに行くのは難しいエクストラクラスであるのだから、他の雑多な基本七クラスの英霊を召喚する魔法陣ではなく、特注の魔法陣でやりたかった、ということだ。

 

 そのどちらも揃った以上、もうこれ以上召喚を遅らせる理由はない。

 そういうわけで、ユグドミレニアにおける聖杯大戦最後のマスター、沙条真琴は召喚を行う王の間へと一人、歩いて向かっていた。

 

 その手元のトランクに入っているのは、彼の妹、沙条愛歌が持ってきた触媒。

 根源に最も近しいのではないかと詠われるような魔術師であり、他者から見れば沙条の兄妹三人の中で最も優秀であると誰もが認める妹が兄に与えた触媒である、というだけでユグドミレニアの人間からすれば信頼に値する。

 沙条の家の三兄妹が仲睦まじいというのは、魔術師としてのあり方を考慮すれば珍しいこと故に、魔術協会にも、ユグドミレニアにも当然広まっていた。

 

 儀式場にたどり着けば、そこにはすでに複雑怪奇にしか思えぬ魔法陣が描かれている。

 普通の召喚であるならば消去の中に退去、退去の陣を四つ刻んで召喚の陣で囲うだけの簡単な代物なのだが、このユグドミレニアにおける召喚においてはその魔法陣が使われたのは、今に至るまで六騎も召喚しておきながらただの二度。

 そして、最後の召喚に使われる魔法陣もまた、魔術師の端くれであれば見た瞬間に目を奪われるほど緻密に設計された、大掛かりな代物だった。

 

「では、触媒を祭壇に」

 

 ユグドミレニアが当主、ダーニックの声がかかる。

 王の間に揃っているのはダーニック、そして彼のサーヴァントたる黒の陣営の盟主ランサーだけではない。

 これより共に戦う仲間として、全てのマスターとサーヴァントがこの場に集っている。

 全員の視線を受けながらも威風堂々と。その手に宿すのは、この場に敷かれた魔法陣にも劣らない精緻な紋様、令呪。

 ”黒”のランサー、ヴラド三世が信仰する三大宗教の一つに伝わる天使の羽すらも思わせる豪奢な朱と、そこに胎動する膨大な魔力こそが、ユグドミレニアにおいて新参である彼が参戦することを許された証。

 

「──告げる」

 

 起動するのは人体に許された最小の奇跡、魔術回路。

 自らの体内に保有する擬似神経を励起させ、生命力を魔力へ変換する、全ての魔術師の共通作業が体内で始まる。

 魔力(いぶつ)が体内を駆け巡る感覚に、戸惑うことなど何もない。それらは遍く魔術師が通り過ぎた場所ゆえに。

 

 魔力を以て基盤たる大魔術式へと干渉を開始し、人の身には本来許されぬ極大の神秘へといざ望む。

 

 英霊召喚という儀式。

 呼び出されるのはその肉体の全てを魔力で構成された、現代世界で顕現し得る神秘の中でも最上位の存在、英霊。

 召喚に伴い費やされる魔力は膨大で、普通の魔術師では一生かかってもこれほどの奇跡を執り行うことは許されない。

 

 最後の一節を唱え終えると、魔法陣に収束していた魔力が飛散する。

 それはサーヴァント──英霊の影法師。人類が作り出すのとはまた別の、人類史が作り出した使い魔の肉体を象り、戦力とする以上の余分を削り取るがために。

 余剰は閃光と暴風という形で顕現し、その中心には一つの影が立つ。

 かつて記録された現象として、いずれ記録された現象として。

 

 その少女は神威を以てミレニア城塞へと具現した。

 

「……珍しい。人間が僕を呼んだ、なんて」

 

 白い外套にショートパンツ。服装が与えるどこか活発な印象すらも吹き飛ばすほどの儚さと美しさの同居した白髪。それらと相反するように瞳だけが漆黒。英雄というものは顔立ちが整っていなければなれないのか、と内心思っていた真琴が、一瞬呆けてしまうほどに美しい。

 ”英雄”らしからぬ、覇気を纏わぬその姿に、王の間に集う存在が覚えるのは安寧。

 

 ああ、彼女がいるならば──。

 

「まあ、いいさ。別に誰が呼ぼうと特段やることが変わるわけでも──」

 

 少女が、己との間に紡がれた霊的経路(レイライン)を追う。

 己に流れ込む魔力の源泉を把握した彼女は、その対象を把握し、わずかに眉を動かした。

 

『──っ!?』

 

 その瞬間、彼女の気に飲まれていた面々が一気に正気に立ち戻る。

 少女の在り方に一瞬でも安堵を覚えたことへの驚愕で、特に英霊たちのものは大きかった。

 一瞬(ほつ)れた少女の気配。サーヴァントが立ち直るまでの一瞬で少女はすでに己を召喚した魔術師の元へ。

 

「……そうか、僕を呼んだのは貴方か」

 

 彼女は基本の七つではない特殊(エクストラ)クラス。

 あらゆる人類を安寧の未来へ連れて行く者。

 故にこそ、少女はこの在り方(クラス)を冠する者となった。

 

「サーヴァント、セイヴァー」

 

 救世主(セイヴァー)

 裁定者でも、復讐者でもない、この世界における第三の特殊クラス。

 過去、あるいは未来。衆生を救った功績を以て、少女はこのクラスに据えられた。

 

「貴方の呼び声に導かれここに馳せ参じた。よろしく頼むよ、マスター」

 

 かつてどこか遠い世界、遠い時間で、■■■■を殺したことでこのクラスに据えられた、世界を救い、諸人を救う英霊である。

 

 

 

 

 ”黒”の陣営の最後の一騎はセイヴァーのサーヴァント。

 召喚こそエクストラクラスでのものではあるが、結局のところこの少女もまたサーヴァントでしかない。

 故に、”黒”の陣営における彼女の扱いも、他のサーヴァントたちと同様のもの。

 ”黒”のランサーのような別格の扱いを受けることもなく、”黒”のキャスターのように実力を発揮するには準備が必要というわけでもない彼女が他のサーヴァントと同一の待遇であることは当然であり、彼女もまたそれを受け入れている。

 

 このユグドミレニアにおいて、サーヴァントに与えられる待遇とは私室。

 それは本来人間の手に余る存在であり、聖杯の奇跡を以て従うことを良しとした存在。

 第三次聖杯戦争に参戦したダーニックは彼らが如何なる存在なのかを他のユグドミレニアよりは深く知り、だからこそ胸中までは謎のままだが、表向きには彼らを一個の存在として配慮するようにしていた。

 

 ただ、ダーニックにできるのはそこまで。

 マスターとサーヴァントの関係が良好なものとなるかどうかは、サーヴァント側のマスターの態度への容認、マスター側のサーヴァントの態度への容認の二つが関わって来る。

 ユグドミレニアのマスターと、そのサーヴァントの関係は、だいたい召喚されてからの数日である程度固まっていた。

 

 セイバーのマスターであるゴルド・ムジーク・ユグドレミニアは横暴を行い、それをサーヴァントが受容しているから関係が崩れていない。

 アーチャーのマスター、バーサーカーのマスターであるフォルヴェッジ姉弟は、サーヴァントとの間柄は良好だ。

 ランサーのマスター、ユグドミレニアの当主たるダーニックは臣下としてランサーに傅いている。

 ライダーのマスターであるセレニケ・アイスコル・ユグドミレニアは、ライダーの我儘を受容し、自らもまたライダーを辱めているが、それでもどこかでマスター側の沸点が爆発するだろう。

 キャスターのマスター、ロシェ・フレイン・ユグドミレニアは己の先達たるキャスターを先生と呼び慕っている。

 

 では、セイヴァーと真琴の初日での関係はというと。

 

「それじゃあ、君の名前を聞かせてもらえるかい?」

 

 そう、悪くはないものだと真琴は自認していた。

 少なくとも、会話をする気が一切ないセイバー組や、英霊を辱めるなんてことをしているライダー組に比べれば、よっぽど。

 あるいは、ダーニックのように外目には見えないだけで実際には爆弾を抱えてしまっているのかもしれないが。

 今はそれもまだわからない。これから、セイヴァーの触れてはならない部分などを手探りで探していくことにはなるが、真琴から近づくつもりはあるのだから、そう悪いことにはならないだろう、と。

 

 自室に戻った彼は、己のサーヴァントを見る。

 世界的にも有名な大英雄たる”黒”のセイバー、知名度が最高峰たるルーマニアでの召喚により最大クラスの補正が働いている”黒”のランサーにも劣らぬ高水準のステータスを持つセイヴァー。

 その伝承、そして割り当てられたクラスからは想像することが難しい戦闘方法。

 そういったマスターとして知っておかなければならない諸々を確認した後の、最初の会話はそれだった。

 

 彼女の質問に一瞬疑問を抱き、そういえばまだ名前を名乗っていないことに気がつく。

 これで良好な関係を築けそうだ、なんて思っていたのだからお笑い種だ。

 

「俺は真琴。沙条真琴だ。セイヴァーの好きなように呼んでくれ。……さすがに、変なあだ名とかはやめてほしいが」

 

「わかったよ。それなら、普段は真琴と呼ばせてもらう。今更になってやっぱなし、はダメだからね」

 

 交わされる握手。

 本当の意味での、セイヴァーとそのマスターの間柄の成立。

 と、なると、二人は一つ、全く同じ質問をしなければならない。

 その質問の口火を切ったのは、セイヴァーの方だった。

 

「ところで真琴。君はどうして聖杯大戦に参加したんだい?」

 

 セイヴァーは、笑顔で問いかける。

 

 聖杯大戦のみならず。聖杯戦争とは”万能の願望機を求める戦い”のことを指し示す。

 当然その勝者には、万能の願望機たる聖杯が与えられるのだが、それを以て願いを叶える権利はマスターだけではなく、マスターとともに勝ち抜いたサーヴァントにも与えられる。

 そうでなければ、より高次の存在であるサーヴァントが人間に従う旨味がない。

 故に全てのサーヴァントは胸の内に聖杯を使用してでも叶えたい願いというものがあり、その願いの方向性というものもまた、マスターとサーヴァントの関係性を維持する上では重要なこととなる。

 

 けれど、わずかに真琴は答えに逡巡する。

 それはほんの少しのラグ。数秒程度の時間。

 セイヴァーはそこにわずかな疑問を抱きながらも、表面的には笑顔で。

 

「……妹が、な」

 

 ポツリとつぶやいたのは、そんなこと。

 

「妹が、二人いるんだよ」

 

「妹さん?」

 

 ああ、と頷き、参戦理由を語る。

 それは、魔術師としては半ば落第を押されても仕方ない案件。

 

「そのうち片方だけが、俺たちと同じじゃないんだ」

 

 基本、魔術は一子相伝。

 あり得たとしても『もしも跡継ぎが不慮の事故で亡くなった場合』を考えて、予備(スペア)に教えておく程度だろう。

 

 だが、真琴の生家である沙条の家では違った。

 

 魔術の名門、沙条の家では三人生まれた全ての子どもに魔術が教えられた。

 それは確かに親の愛情というべきものだったが、それはある格差を生んだ。

 

「あの子は、俺たちとは同じものを見られない。同じものを見たとしても、見える範囲には”才能”っていう格差が生んだ明確な差異が出てくるんだ」

 

 同じものを見て、同じものを食べて、そこには見えなくていいものまで見えてしまう人間がいて、見たくてもそれを見れない人間がいて、同じように感想を言い合ってもどこかずれてしまっている。

 それが悲しいのだ、と。

 

「だから、同じように感じられるようにしてあげたい。その上で、その感覚を投げ捨てるならそれはそれでいいんだけどな」

 

「ふうん……そうなんだ」

 

「そういうセイヴァーの方はどうして召喚に応じてくれたんだ?」

 

「僕? 僕はね」

 

 ──君が呼んだから来たのさ。

 

 美しい顔立ちに笑みを浮かべ、ふわりと外套をたなびかせて少女は謳う。

 聖杯に願う望みがあるからこそ、サーヴァントというものは召喚に応じる。

 強い相手と戦いたい、と願うから聖杯戦争に参加する連中というのがいないわけでもないが、それならば隠す必要はない。

 

「……いや、お前も聖杯欲しいから来たんじゃないのかよ」

 

「うーん、僕は聖杯はいらないかな。ぶっちゃけ、セイヴァーのクラスって聖杯なんてなくてもそれぐらいできそうな連中ばかりだし」

 

「その気になれば聖杯クラスのことは簡単ですよって……それ、絶対他の連中にバラすなよ。バレたらとんでもないことになるぞ……」

 

「あはは……僕もバラすつもりはないよ。というか、真琴はそれを聞いてやってくれ、とは言わないんだ」

 

「これは俺の兄貴としての威信もかけてるからなぁ。……ぶっちゃけ、妹に触媒探してもらった時点でかなりギリギリなんだよ。ちゃんと勝ち抜いてからじゃないと……」

 

「ああ、後で話のネタにされると」

 

「そういうことだ」

 

 彼らを育てた魔術師は、魔術師としてはまともではなく、父親としてはまともだった。

 だから、彼も魔術師としてはちょっと外れていて、兄としては結構まともだった。

 妹にいい格好見せたい、というのは単純ながらもこの少女から見て理由としては問題なく。

 笑顔の下で最悪の場合殺さないといけないことも覚悟していた少女は、その可能性を持ち続ける理由はなくなった。

 

「うん、そういうことなら。君が兄として妹に格好つけられるように、僕も頑張るさ」

 

「ああ、これからよろしく頼む、セイヴァー」

 

 二人の最初の夜は、そうして過ぎ行くのだった。

 

 




ラスボスは皆大好きあの子です

【CLASS】セイヴァー
【性別】女
【属性】秩序・善
【ステータス】筋力:A 耐久:B 敏捷:A 魔力:EX 幸運:C 宝具:EX
【クラス別スキル】対英雄(反転):B カリスマ:A+

 今のところ、出せる情報はこれぐらい。固有スキルとか、ここに出てる対英雄(反転)は出した時に効果を逐一説明していく。
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