Fate/Apocrypha ”黒”のセイヴァー 作:ぴんころ
「真琴様、準備はこちらに」
「ありがとう」
それはある日のこと。
”赤”の陣営にはセイヴァーを召喚した日以降の大々的な動きはなかった。
”赤”の陣営の動きといえば、”黒”のセイヴァーを召喚する数時間ほど前の”赤”のセイバーによるトゥリファス侵入。
その時の戦いでは”黒”からサーヴァントが出撃することはなく、”赤”のマスターも退いたことで一方的に”黒”が”赤”のセイバーのステータスを知ることになったのだが。
呼び出しの内容を鑑みるに、此度はそういうわけにはいきそうにもなかった。
”黒”の陣営の当主、ダーニックよりもたらされた報告。
ルーラーとは、サーヴァントの一種。聖杯戦争における絶対的な管理者。
そもそも排除するという考え方それそのものがおかしい相手なのだが、それでも今現在ルーラーを排除しようという動きが”赤”の陣営にあるのは事実。
この聖杯大戦におけるサーヴァントではルーラーの持つ令呪の特権に引っかかるが、サーヴァントでなければルーラーというサーヴァントを排除することができない。
故にこそ、”ルーラーを守る”には”黒”の陣営もサーヴァントを選出するしかなかった。
「……にしても」
「よくもまあ、ここにバイクなんて用意したものだね」
ここは魔術師の巣窟。
当たり前に考えれば魔術師としての固定観念が存在し、機械文明に逆らうかと当初は真琴も思っていたのだが、カウレスという機械を人並みに扱える魔術師がいることから、その考えを改めるまでの時間はそうかからなかった。
とはいえ、これを
「まあ、いいさ。行くぞ、セイヴァー」
「ああ、任せて。君のために存分にこの力を振るうとしよう」
今回の選出はセイヴァー。
”赤”のランサーのステータスは高水準。匹敵するほどの”黒”の英霊はランサー、セイバー、セイヴァーの三名。
その中でも、ランサーは黒の陣営の王として君臨する義務があり、セイバーは世界にも名高き大英雄。
特に、セイバーに関しては弱点が神話の中で明言されているので、外に出してバレる可能性をできる限りあげたくはない。
そういう理由で、特に出し惜しみする理由もないセイヴァーが選出されることになったのだ。
「……
「まあ、これまでの聖杯戦争でもエクストラクラスは召喚されたみたいだし、さすがにそれはないと踏んだんじゃない?」
バイクで疾走する。
ルーラーが狙われたのは
そのため、”赤”のセイバーの時に比べれば移動時間が多くなる。
魔術師の元に存在した移動用のバイクが通常の仕様のままであるはずもなく、”黒”のキャスターとして呼び出されたアヴィケブロンによって、その
出せる速度なんて、通常のバイクと比較することもおこがましい。
「見えた」
だからこそ、”赤”のランサーがルーラーを狙っている瞬間に間に合った。
”赤”のランサーがルーラーへの攻撃を開始しようとした瞬間が、セイヴァーの視界に映り込む。
数瞬遅れて、真琴の皮膚感覚が悍ましいほどに膨大な魔力を察知する。
「マスター、指示を僕に」
「存分にやれ、出し惜しみは無しだ。必要なぶんだけ持ってけ」
「了解」
言葉は、風切り音によって最後まで聞き取れず。けれど魔力だけは急速に搾り取られていく。
聞いていた宝具だと、そう真琴が思ったところで、かたん、とわずかにバランスが崩れた。
運転する真琴の真後ろで、セイヴァーが光の弓を構えながら起立。
崩れた態勢を一瞬で持ち直しながら、背後のセイヴァーに魔力の供給を開始する。
遠目に存在する”赤”のランサーと同等の魔力量。けれど、マスターが近くにいる分だけ、わずかに収束が早い。
「
放たれるは光の一矢。
インドに伝わる奥義の名を冠する一撃は、絶大な破壊光となりて”赤”の陣営にて
けれど、”赤”のランサーは大英雄。
神より与えられし大槍へと炎を乗せて真正面より光の一矢を切り裂きにかかる。
弓矢より放たれた一撃を”赤”のランサーが真っ向勝負で受け止めている間に、強大な一撃を放った反動で一瞬止まったバイクも動き出し、ルーラーの元へとたどり着いた。
「初めまして、だな。ルーラー」
「貴方は”黒”のマスターですね」
「ああ。それでこの状況、どういうことなのか教えてもらえないか?」
「マスター、そんなことを悠長にしている暇はないみたいだよ」
セイヴァーの言葉の意味は、すぐにわかる。
真っ向勝負を辞め、その一矢を彼は逸らし、背後に巨大な破壊痕を残しながらも悠々と立つ”赤”のランサーの姿。
発言したセイヴァーの姿をルーラーは視界に捉え、ルーラーに与えられた特権の一つ、『真名看破』によって正体を知り、驚きの表情を見せる。
「それで、君に何か申し開きはあるか、”赤”のサーヴァント。この聖杯大戦を円滑に進める執行人を狙うのは、自分から『後ろめたいことをしている』と自白しているようなものだけれど」
「そんなもの、必要あるまい」
けれど問い詰める間も無く、”黒”のセイヴァーと”赤”のランサーの会話が始まる。
「ああ、そうだろうね。僕たちはともにマスターに呼び出され、彼らのために己の武芸を振るう。たったそれだけのこと。相手が誰であろうと、それは関係ない」
だからこそ。
「邪魔をさせてもらうよ、”赤”のランサー。ここで君を倒し、ルーラーを守る。それだけでも十分に僕のマスターの益となるからね。……無論、君がここは退くというなら、それはそれでいいけど」
──神威が溢れる。
”赤”のランサーは目を見張った。
溢れる神威は己が父の威光を示す炎とはまた別で。けれど規模だけはほぼ同一。
そもそも自らも使える奥義を使った時点で彼の中での警戒はさらに一段上がっていたけれど、この時点でさらに警戒はぐんと上がった。
ただし同時に、得難い難敵と出会えたことで”赤”のランサーの気分も高揚している。
「悪いが、退くことはできない。俺のやるべきことは何も変わらない。”黒”のサーヴァントを撃滅し、ルーラーを滅ぼすだけのことだ」
「よく言った」
夜闇を切り裂くほどの光源を、セイヴァーはその手に宿している。
わずかな『”赤”のサーヴァントがこの場を退く』可能性にかけての会話はもう終わり。
”赤”のランサーもまた、その身に魔力を充溢させる。
いつ戦いが始まってもおかしくはないような緊張状態。
張りつめた空気を切り裂いたのは──
「堕ちろ」
少女の放った一射だった。
それは、まさしく閃光。先の一撃には及ばぬ威力なれど、並大抵のサーヴァントでは耐えることのできぬ一撃。
少女の手に集う夜闇を切り裂く光が、弓の形をとり、そのまま矢を放つ。
たったそれだけの簡易な行動であったにもかかわらず、神速で行われたそれを視認できたのは一体どれだけいたのだろうか。
一、十、百、千。
時には正面から、時には空より。迫る矢には一切の無駄がないことを
常人であれば死を覚悟する光景。
常人ならずとも踏破すること能わぬ地獄。
それを前にして、”赤”の陣営が一騎、
最高峰の『魔力放出(炎)』によるわずかな威力の上乗せ。彼がした特別なことはたったそれだけであり、真正面より殺到する矢の壁に対して突貫する。
それは神秘と戦多き神代においてなお、大英雄と呼ばれる者にのみ許された行為。
正面より集う矢を自らにとって致命になり得るものを最小限、天上を覆い尽くす矢もまた自らに当たるもののみ。全て、槍の絶技によってのみ斬り払う。そこには一切の無駄がない。
道が拓けた瞬間、炎と化して男を取り巻いていた魔力が足元で爆発する。生み出されるは爆発的な加速。
英霊が持つ生前の伝説の象徴たる宝具、それに匹敵するほどの魔力放出が作り出した加速は、”赤”のランサーに設定された敏捷のパラメータを超える速度を容易に叩き出し、少女への距離を一気に詰める。
──取った!
”赤”のランサーは確信とともに槍を振るう。
しかして、その一撃は。
「
光が姿を変えた剣によって受け止められる。
何かがおかしい。”赤”のランサーはそう確信する。己という英霊に定められたパラメータ、その限界値を引き出すように放った一撃が、いつもの一撃よりも軽い。相手が硬くなったという形の衝撃ではない。
おそらくは対象のパラメータを減衰させるスキル。『怪力』や『魔力放出』のように己のパラメータに上昇補正をかけるタイプではなく、条件を満たした対象に強制的に働く類。
そこから二度三度、無制限に形を変えながら振るわれる光剣を、下降したステータスのせいで思うように動かない体で槍を手繰り受け止める。
本来ならばただの一撃ですらAランクに匹敵する一撃を生み出すはずの”赤”のランサーが、それには遠く及ばない一撃をのみ放つ。
そこまでならば、何も問題などない。順当に行けば”黒”のセイヴァーは”赤”のランサーとして呼び出されたサーヴァントに匹敵するほどのステータスを用い、彼の首級を上げるだろう。
だが、”赤”のランサーとて英雄としてこの聖杯戦争に招かれし存在。
己を遥か上回る相手を前にして、なおのこと気概を以て踏破するのが英雄の証。
それを示すように、”赤”のランサーは次第に今の自らに適応し、攻撃を捌き始める。
『魔力放出(炎)』を通して、ようやく普段の己に劣るか劣らないかというレベルのパラメータダウン。
己のマスターの魔力消費を考え、常にその全ての能力を解禁しての全身全霊で戦うことを禁じている彼が、それでもなお今の自分に順応するまで生存を勝ち取った不死性とすら表現できる何か。
それを、”黒”のセイヴァーは知っていた。
『セイヴァー』
真琴からの念話。
その声には疑問の色がある。
ただ、それは別にセイヴァーが未だ倒しきれていないことへの疑問ではない。
少なくとも、そんな裏切りをするような人間ではなさそうだ、という程度の信頼はある。
『魔力放出を使わなくてもいいのか?』
『うん、彼には効果が薄いからね』
セイヴァーの持ち得る固有スキルの一つ、規格外の『魔力放出(光)』。
かつて時代の一つを照らし得るほどの力を得た救世主へ与えられた、最大規模で振るうだけでもランクとしてA+を超えるほどの、使用するだけでマスターへの魔力負担がバカにならない代物。
そこには悪性への特効効果がある。神の血を引く者への神殺しの力のように、反英雄と相対する英雄のように、サーヴァントという存在においては『相性』というものもまた重要となるのだから、それを使わない手はないのではないか、という提案。
『効果が薄い……? いや、だが、あいつの属性は混沌・悪じゃないのか……?』
『ん……? ああ、そういうことか』
光の剣を無数に作り出し、頭上から雨という形で襲わせる。
仕切り直しのための一手をセイヴァーは放ち、予想通りに距離が開く。
その瞬間を、セイヴァーは真琴への教授として消費した。
『真琴、彼の真名はカルナだ』
『
真名を聞いた瞬間、マスターとして真琴に与えられたサーヴァントのステータスの透視能力が更新された。
透視能力で見えていた彼の属性が反転し『秩序・善』となり、セイヴァーへと放たれる武芸の数々が先ほどを遥かに凌駕するものだと認識することが可能となる。
彼の身より感じられる神性由来の覇気もまた鋭く変貌し、唯一変わらないのは彼のパラメータがダウンしているという事実のみ。
そして同時に、彼の異様なまでの生存に納得を得られる。
曰く、その英霊は母が願ったことで生まれた時より黄金の鎧を身に纏っていたという。
その鎧によって彼が得られたのは、不死性。
サーヴァントとなってはあらゆる敵対干渉によるダメージを1/10にまで抑えるという代物。
神話の内においてなお、一度とて破られることはなく、最終的に彼自身の高潔さによって失われたが為に、明確な弱点と呼ぶべきものが一つとして存在しない。
それが、彼の宝具『
とはいえ、それも絶対無敵の宝具ではない。
常時発動型とはいえ宝具である以上、魔力の消費は存在する。
ならば、それ以外にも弱点が絶対にない、とは言い切れず。
「
そして、この少女も、その能力の内にその類の能力を持つ存在である。
魔力が、真琴の肉体より急激に吸い取られていく。
新たな宝具を起動した、そのことだけは真琴にも理解できたが、それがどの能力なのかを理解するにまでは至らない。
「一応、もう一度だけ聞いておこうか、”赤”のランサー」
──退く気はあるかい?
「ふむ……そうだな」
”黒”のセイヴァーは如何なる理屈か、”赤”のランサーのことを知っているとしか思えない。
彼女に対して『無冠の武芸』は働いていなかったのは明白であり、その条件が条件故に。
ブラフマーストラの名を冠する一撃を放ったのだから、同一圏の英霊なのだろうと理解はあるが、彼には彼女への見覚えはない。
そして、その上で『やりようがある』と言い切るのだから、何かしらの切り札はあるのだろう。
そのことを考慮せず己が父の威光は簡単に敗れ去るものではない、と言い切るのは盲目にすぎる。
だが、ここまで来て何もせずに退くというのもまた──
そこまで考えたところで、”赤”のランサーへと主人からの念話が届く。
一度たりとて出会ったことのないマスターではあるが、彼にとっては己の力を求めてくれた唯一のマスター。
その言葉を無下にすることはできず、そして都合のいいことに──
──朝日が、東より顔を出した。
「いいだろう。ここは退かせてもらう」
そう言って、”赤”のランサーは霊体化する。
敵性サーヴァントの気配を感じ取ることができるのはサーヴァントのみ。
故に真琴は”赤”のランサーが今もまだ近くにいるのかどうか、セイヴァーと
「ルーラー、一応聞くけど、”赤”のランサーは
そして、今だけはルーラーに聞くことができる。
聖杯戦争の……それどころか魔術における前提。『神秘を秘匿しなければならない』というもの。
それに則れば、隣人が目覚め始めるこの時間帯に大規模な破壊攻撃を行うことは、聖杯戦争のルールにも抵触する。
「……いえ、もうこの場を去ったようです」
「ふぅん……ま、それならいいけど。それじゃ、俺たちも帰らせてもらうわ。あんたがこっちに着くっていうなら連れて帰ってもいいけど……」
「そういうわけにはいきません。私はルーラーのサーヴァント。どちらに対しても中立でなければならない」
会話は固く。”赤”からも”黒”からも独立したサーヴァントの引き込みは軽く失敗に終わり。
戦いの場より少し離れていた二人の元へと、セイヴァーがやってくる。
そんな彼女を見て、セイヴァーというクラスのサーヴァントを見て、ルーラーのサーヴァントは言葉に詰まった。
「それで……その……そちらのサーヴァントは……」
「一応言っとくけど、ここで真名とかクラスとかは口にしないでくれよ。それは”赤”の陣営に対する益をもたらす行為になるからな。……こっちが”赤”のランサーの真名をわかっている以上、それは平等じゃない」
「こっちは頑張って暴いたわけだからね。向こうは使い魔で監視していたら真名を知ることができたラッキー、なんて、ルーラーの手で行うことは許されないでしょ」
実際のところ、彼女にはもうこの時点で中立という立場を守る選択肢は難しいことである。
ルーラーを排除するという強行を為す”赤”を放置するというのは、”赤”の陣営に利益をもたらす行為であり。
逆に”赤”のそれを排除するということになれば、今度は”黒”に対して利益をもたらす行為となる。
聖杯戦争の正常な運営を行う、ということだけに注視しなければ、必ずどこかで破綻が出てしまうような状況だ。
「だからまあ、その辺りのことはあんたが”黒”の陣営の監査に来た時にでも話せばいいだろ」
「……そうですね。そうさせてもらいます」
ルーラーが納得したところで、セイヴァーと共に真琴は来た時に使ったバイクにもう一度乗る。
徐ろに発進したバイクは即座にルーラーの姿を視界の外へと連れ出して、二人は風を切る音に飲まれながら念話を併用して会話をしていた。
「それで、どうだった、僕の初陣は? 君の信用に足るものだったかい?」
「ああ、もちろん。あいつの真名がカルナだっていうなら、それを撃退できたお前の能力を疑う理由はないさ」
「……うん、それは良かった」
ぎゅっと、真琴の体に回される腕に、どこか力が入ったように、彼は感じた。
・対英雄(反転):B
簡単に言えば名前の通り。別名としては対反英雄。本来の『対英雄:B』は英雄と相対して2ランク、反英雄に対して1ランク、パラメータがダウンするものだったが、こちらに関しては反英雄に対して2ランク、英雄に対して1ランク、パラメータがダウンする。
・魔力放出(光):EX
規格外の魔力放出。基本的な性能としてはシャルルマーニュのそれと同一なので略。このサーヴァントは
・夢幻召喚──(閲覧不可)
セイヴァーの宝具。彼女の持つ能力のほぼ全てがここから来ている。そのため、この宝具が封じられた場合彼女の戦闘力は”黒”の陣営上位から、”黒”のバーサーカーより強い程度に落ちる。高いステータスだけは残るが、それを使いこなすことができないのだ。
ぶっちゃけて言えば神霊クラスの英霊です。
……感想と評価を媚びてみよう。くれくれ。