Fate/Apocrypha ”黒”のセイヴァー   作:ぴんころ

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Act-3

 

「ふぅ……」

 

 ミレニア城塞に戻って来てから、真琴はダーニックに報告だけしてすぐに眠りについた。

 少しでも先の”赤”のランサーとの戦いで消費した魔力を回復したかったから。

 このユグドレミニアにおいて、それは紛れもなく異端。

 

 ”黒”の陣営というのは今回の聖杯戦争を起こした側。ダーニックが大聖杯を奪って来てからの60年という時間を聖杯戦争のために費やすことができた血族。

 さらにそこに、ゴルド・ムジーク・ユグドミレニアという、錬金術に関するムジーク家で生まれた優秀な魔術師が存在したことで、”魔力パスの分割によるホムンクルスからの魔力供給”という手段を取ることが可能になった。

 

 だが、そこに真琴は加わっていない。

 

 別にそれは、真琴が沙条の家ごとユグドミレニアに在籍しているわけではないから、信頼されていない、というわけではない。

 信頼されていないのは事実かもしれないが、『あの家からもうこれ以上の魔術師が出るのは無理だろ』と言われるほどに完成した妹がいたこともあって、彼は色々とやっかみを受けることもあったのだ。

 そういうところに漬け込む形でダーニックが勧誘したこともあって、立場としてはほとんど他のユグドミレニアと変わらない。

 ただ、愛歌が目立ちすぎるほどの実力を持ち、あまりにも魔術師としての能力が高いために注視されることは少ないが、真琴自身も魔術師としての実力は十分な代物である。

 それは、端から見てもダーニックを上回るほどに。

 

 だからこそ、ユグドミレニアからは戦力として見られていて、当然ホムンクルスとの魔力パスも存在していた。

 ではなぜ今は加わっていないのかというと。

 

 自らの手で外した、というのが正しい。

 

 セイヴァーの魔力喰いは戦闘の際には常時発動型の宝具をフル稼働させることもあってか、かなり膨大。

 そうなるとホムンクルスを食い潰してしまい、戦いの度にそれをやっていては、ホムンクルスの補充が間に合わなくなる。

 これが個人戦ならばともかく、陣営で戦うのだから、まさか他者の分まで食い尽くすわけにも行くまい。

 幸い、彼の魔力量とちょっとした裏技を用いれば彼女の宝具の全解放をさせてやることは可能なので、ホムンクルスを介しての魔力供給、という経路をカットしたのだ。

 

 消費した量はかなり多く、目覚めたのはその日の夜。

 

「起きたかい、真琴?」

 

「……ああ」

 

 彼の目覚めを目撃したのは、セイヴァーただ一人。

 そちらの方が彼にとっても都合がいいのは事実だったが。

 

「……倒れるぐらいなら、ホムンクルスに魔力パスをつないでおくべきだと僕は思うんだけど」

 

「大丈夫さ。今回は初めてだったから戻ってきてからぶっ倒れただけだからな」

 

 戻ってくるまでの間、全く問題なく平然とバイクを駆っていたことは事実。

 ならば、あとはもう慣れの問題である、と真琴は斬って捨てる。

 

「実際、お前の戦闘で俺が消費しないといけない魔力って、宝具ぐらいだしな」

 

「うん、まあ宝具の効果で単独行動に似たスキルは持ってるからね」

 

 そのランクは驚異の規格外。

 宝具の多種多様さはライダーの売りであるはずなのに、彼女はブラフマーストラに、二種類の夢幻召喚で今見せているだけでも三つ。

 さらにそこに単独行動を付与する宝具など、もはやサーヴァントとしての規格を超えていると思われても仕方がない代物だろう。

 しかも、彼女の宝具はまだまだあるというのだから、もはや敵対者は笑うしかない。

 

「一応聞くけど、俺が起きるまでに何かあった?」

 

「いいや、何もなかったさ。とはいえ、おそらくは明日にでも招集はかかると思うけどね」

 

「そっか」

 

 ベッドの上から起き上がる。

 真琴にはすでに眠気はない。魔術師の本領が人目の少ない夜だというのもあるが、それ以前にぐっすりと眠ってしまったせいでもう目が覚めてしまったのだ。

 さてどうするか、なんて真琴は考えてみるが、今から外に出るという選択肢はまずない。

 

「ああ、いや。聖杯大戦関係ではないけれど、一つだけあったよ」

 

 そんな折、セイヴァーが思い出したかのように言葉を発する。

 そして、指し示したのは真琴の携帯電話。

 

「君の妹さんから、さっき連絡があったみたい」

 

「……マジか」

 

 ルーマニアではすでに日付が変わった時間帯。

 日本との時差は七時間。つまり、向こうは学校へ向かう用意などを考慮すれば目覚めている。

 そこまで考えて、机の上に置いておいた電話へと手を伸ばす。

 コールは数回。すぐに目的の人物へと繋がった。

 

「もしもし、綾香?」

 

『あ、起きたんだ、兄さん。そっちの調子はどう? なんか魔術儀式をやってるんでしょ?』

 

「おーう、ちょっと魔力不足で倒れただけだ」

 

『兄さんが!? あの馬鹿姉よりも魔力量は多いのに!?』

 

「いや、愛歌のことを馬鹿呼ばわりするのやめてやれよ……」

 

『馬鹿で十分でしょ。昨日もまた、なんかよくわからない魔法陣書いて魔力を注ぎ込んで爆発させてたもの』

 

「おぉう……」

 

 愛歌がやろうとしたことは、綾香にはよくわかっていない。

 ただ、とんでもない高度な魔術を使用しようとして失敗したんだろうな、という程度のこと。

 それが普通の魔術師であったならば、その魔法陣に内包された術式の芸術性に白目を剥いてしまうようなものだとしても、綾香にとっては馬鹿な姉がまた何かバカをやらかした程度の認識でしかない。

 常に姉と一緒にいた綾香に、そんな普通の認識は通用しない。

 綾香が愛歌を特別扱いしないからこそ、沙条の三兄妹は上手く回っているとも言える。

 

 沙条の三兄妹で唯一、根源との関わりが薄い綾香だからこそ。

 

『おはよう、綾香。もしかして兄さんと電話をしてるの?』

 

『げ、姉さん。なんでもう起きてるの……』

 

「あ、愛歌も起きて来たのか」

 

 セイヴァーはそんな兄妹の会話を微笑ましく見守る。

 とはいえ、日本は今現在七時頃。そう大層な時間を電話に費やすこともできず、しばらくの会話の後通話は切れた。

 

「今からどうするんだい、真琴?」

 

 そのタイミングを見計らって、セイヴァーは話しかける。

 その問いに対する明確な答えを、真琴は持ち合わせていない。

 セイヴァーの言を信じるならば、今しなければならないこと、というのはない。

 ”赤”の陣営への備えをする、聖杯大戦に勝ち抜くための準備をする、というのがそれなのだろうが、その程度は普段からするべきことだ。

 街に繰り出す、というのも今の時間では現実的ではない。

 ならば──

 

「セイヴァー、お前は女なんだよな?」

 

 如何せん、召喚した当初から疑問に思っていたことを聞いてみるのもありかもしれない、と真琴は口にしてみた。

 とはいえ、『見ればわかる』ようなことを尋ねる言葉になったので、セイヴァーの顔には疑問が浮かぶことになったが。

 

「うん? それはそうだけど。……まさか、僕が男に見えるとでも?」

 

「……いや、そういうわけじゃないけど。伝承からして男だと思ってたからな」

 

「ああ、そういうことか。でも、それでいうならこっちのバーサーカーだって同じじゃないかな?」

 

 ”黒”のバーサーカー、フランケンシュタインの怪物。

 それと同じようなもので、伝承と現実が違う、なんてことはよくあるものだ、と。

 

「それに、まあ、僕の場合は正確には”彼”本人じゃないからね」

 

「ん? どういうことだ?」

 

「まあ、その辺りはまた今度ね。どうやら、誰か来たみたいだし」

 

 気配が扉の向こうに現れる。

 こんこん、と軽く扉がノックされて、ミレニア城塞で働くホムンクルスの一人が姿を見せた。

 

「真琴様。セイヴァー様。どうやら”赤”の陣営に動きがあったようで、当主様が全員に王の間に集まるように、と」

 

 そのホムンクルスの言葉に、思わず真琴はセイヴァーを見る。

 お前、明日まで相手に動きはないって言っただろ、ということを視線で訴えかければ。

 

『それを言ったタイミングはもう昨日だよ』

 

 と、どこか笑いを堪えるような声でセイヴァーに答えを返されて、真琴は言ってることは間違ってないのだがなんだかなぁ、というような表情になるのだった。

 

 

 

 

 王の間へとたどり着けば、どうやら彼らが最後だったようで、ゴルド・ムジーク・ユグドミレニアは待たせおって、というような視線を向けてくる。

 が、そんな視線を向けているのがダーニックにバレないわけがない。新参者でありながら確かに認められるような活躍をしたことが気にくわない、というのはゴルドの勝手だが、それが原因で不和を起こし、作戦遂行が失敗するようでは”黒”の陣営全てに迷惑がかかることは明らか。

 故にこその睥睨であり、ゴルドもまたその視線にて引き下がる。

 

「諸君、よく集まってくれた。では、まずはこれを見てくれ」

 

 ダーニックの言葉の直後、七枝の燭台(メノラー)の灯を通して”黒”のキャスター、アヴィケブロンが眺める光景が、白い壁に映し出される。

 それはまるでプロジェクターの映像のようで、けれどプロジェクターとは違い、明るい室内の中でもその映像は明瞭だ。

 映し出すはキャスターの術。使い魔の視界を共有するというこの術は、ゴーレムマイスターであるキャスターが使用することによって彼の作り出した無数のゴーレムの視覚を共有するもの。

 王の間に全員が揃ったところで映し出される映像、それが赤の陣営と関わりがないと考える方が愚かなことであり、実際にその映像の中にはサーヴァントとしか思えない筋肉の塊とでも形容すべき巨漢がいる。

 

 この場に”黒”が全員揃っている以上、あのサーヴァントは”赤”の者に他ならない。

 

「キャスターのゴーレムが捕捉したあのサーヴァントは、どうやら昼夜を問わずにこのミレニア城塞へ向けて直進を続けているらしい」

 

 ダーニックの言葉に、誰もが一つのクラスを頭の中に思い浮かべる。

 ”黒”の陣営にも存在するクラス。朝昼晩、一日中直進し続けるというのは、尋常なる所業ではない。

 人間に見つかれば神秘の隠匿すら守られない事態になりかねないというのに、それを無視しているということはつまり、()()()()()()()()()()()()()()()ということ。

 

 そして、ダーニックもまた、同じ見解を示す。

 

「私は、これをバーサーカーのサーヴァントだと睨んでいる。狂化のランクが高すぎて暴走するという事例は亜種聖杯戦争で多々見受けられたからな」

 

 映像の中で森林の中を闊歩する青白い肌をした大男。

 今は人気の少ない森林の中を歩いているからいいが、もしも真昼間に街中を走り抜けるようなことがあれば、一体どうなるというのか。

 

「こっちの実力を測るためにバーサーカーを使い捨てるつもりなのかな」

 

 たった一騎で城を攻めるのは現実的ではない。

 彼らの時代であれば、英雄として名を馳せたサーヴァントならば不可能ではないかもしれないが、これは聖杯大戦。

 彼が攻め落とそうとしている城にいる兵士もまた、彼と同じく一騎当千の英霊。

 不条理を跳ね返してきたが故の英霊なれど、此度の不条理は個人で弾き返せる類のものではない。

 それすら考えられないからこそ、今の彼は狂戦士(バーサーカー)なのだろうが。

 

「それで、どうするつもりかね?」

 

「奴を倒す、というだけならばこの場で三騎ほどのサーヴァントを出せば済むだけの話です。ですが、敵はバーサーカー。上手く事を運べば、このサーヴァントをこちらの手駒として”赤”の陣営にぶつけることも可能かもしれません」

 

 ダーニックの言葉は、聖杯戦争の常道ではない。

 故に、周囲には驚きの声が密やかに漏れ始め、ざわめきとなっていく。

 

 聖杯戦争において、一人が二騎以上のサーヴァントを使役することは推奨されない。

 それは、一人で二騎の魔力を支えるということの難しさが存在していて、そして最後に勝ち残るのはたった一人というルールもまた前提として存在する。

 けれど、この聖杯大戦というルール、ユグドミレニアの魔力分割、そして敵がバーサーカーである、という条件の三つが重なれば、バーサーカーの確保というのは現実的な案となってくる。

 

 まず聖杯大戦のルールによって、”赤”の陣営という、敵の一致がなされていること。

 これによって、”赤”のバーサーカーの確保、使い捨ての爆弾化というのは利敵行為にはならなくなる。

 普通の聖杯戦争なら、誰にぶつけるかで色々と勢力図が変わるため使用は慎重にならざるを得ないが、これに関しては”赤”のサーヴァントへ叩きつけるだけでいい。

 

 次に、ホムンクルスを使用しての魔力パスの分割ができているために、マスターに余計な魔力消費を噛ませる必要がなくなっていること。

 魔力消費は現界させる程度のもので済んでいるので、それならばもう一騎増えた程度ではマスターには特に問題が発生するわけでもない。

 

 最後に、敵がバーサーカーであるということ。

 マスターの命令をのみ受け付ける彼らは、今のマスターとのラインを断ち切って、新しいマスターとの契約を繋げばその命令に従うようになるはずである。

 これは、英霊の誇りなどを持つ理性持つ英霊では難しい事柄と言わざるを得ない。

 

「当然、そこまで口にしたということは策はあるのだろうな、ダーニック」

 

「勿論です、領王(ロード)

 

 ダーニックによって、指示がなされていく。

 此度の作戦の主役はライダー、ランサー、キャスター。

 発生すると思われる敵の妨害の露払いは残りの四騎。

 

 ”赤”のバーサーカーの進軍速度はそこまで機敏なものではない。

 昼夜問わず、最短距離をのみ走り続けているからこその異常なまでの進軍であり、だからこそ計算してみると案外、という事態が発生している。

 計算では、”赤”のバーサーカーが到着するまでに一日程度の時間はある。

 

 故に、”赤”のバーサーカー確保のため、ダーニックの指示の下、マスター、サーヴァントを問わず行動を始めるのだった。




・単独行動に似たスキル

 宝具の効果で取得しているスキル。ぶっちゃけ、こんな感じのが合計9つ。作者が作り出した時に「お前チートだな!」って叫んだ理由の宝具である。


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