Fate/Apocrypha ”黒”のセイヴァー 作:ぴんころ
”赤”のバーサーカー捕獲作戦は、つつがなく終了した。
”黒”のライダーであるアストルフォが此度の聖杯大戦に持ち込んだ宝具の一つ、『
今回の作戦を遂行する上で必須とも呼べる宝具は”赤”のバーサーカーとはとても上手く噛み合った。
彼は『攻撃を受け止め、反撃する』ということが思考回路の基本。故に、触れただけで効果を発揮する宝具を相手にしては、その効果を必ず受けるということでもある。
故に、ライダーの宝具を当て、動けなくなったところをキャスターのゴーレムで押さえつけ、ランサーの宝具で串刺しにするという作戦。
それは、唯一の失敗の可能性。”黒”のライダーの槍が当たらない、という事案すら発生することなく、終わりを迎えた。
あとは、”黒”のキャスターが暫定的なマスターとして彼と契約をすれば、今回の戦いでの目的は達成される。
「それじゃあ、僕もお仕事を開始しようか」
その報告がきたところで、セイヴァーもまた破壊光が模った弓へと魔力を注ぐ。
セイヴァーの仕事は、”赤”のバーサーカーを追ってきたサーヴァントたちの足止め。
例えバーサーカーと言えども”赤”の一角を担うサーヴァント。
故に、ただの一騎にて猪突猛進することを見過ごしはせず、他のサーヴァントが追いかけてくるとは思われていた。
それらの対処のための配置。
バーサーカーの支援、あるいは追っ手として現れたサーヴァントは二騎。
片方はライダーを名乗り、もう片方は攻撃手段からみてアーチャーであろう。
無論、それが真実であるとは限らないが、今回に至っては”黒”のアーチャーよりライダーに関してはお墨付きが出た。
「狙うならば”赤”のライダーを。彼には神性のない相手の攻撃は通用しません」
「おや、その口ぶりだと彼のことを知っているみたいだけど」
「ええ、知っていますとも。彼は私の教え子でしたから」
不死性を見せる、ケイローンの教え子というだけで、もうすでに正体はわかったようなものだ。
とはいえ、手加減する理由もない以上、魔力を注ぐことをやめるようなことはしない。
ケイローンが彼に攻撃するよりも先に消してやることが慈悲だとは思っていたが、それも不可能だろう、とセイヴァーは思っている。
セイヴァーは、特殊なクラスである。
そもそも、”世界を救った”クラスでしかない以上、訳知り顔で『これが得意』などと口にできる輩はいない。
救世主のクラスを冠するには武芸の必要はない故に。個々人で得意な武芸に変化があるのは当然のこと。
では、今回のセイヴァーはというと。
近接戦もできるが”黒”の陣営においては
近接戦しかできない”黒”の陣営の
遠近どちらも対応が可能。且つ、どちらの道のエキスパートというわけでもなく、けれど一廉の英雄以上には動ける
故にこそ、アーチャーの真似事をして前線にて戦う戦士の援護をすることもできる。
「ふぅん……やれるのかい、
「無論、やることは変わりませんよ。これが聖杯戦争である以上、こういった可能性もあり得ることでしょう」
「それもそうだ。じゃあ、開幕の一発は派手に行こうか」
”赤”のランサーを相手に放った宝具をもう一度解き放つ、と言わんばかりに収束していく魔力。
標的はただ一人。”赤”のライダーことアキレウス。その身に傷をつけるには神性を持たねば不可能なことであり、”黒”の陣営において彼を傷つける資格を持つのはアーチャーとセイヴァー。つまり、この場にいる二人のみ。
「……いえ、まずはあなたの攻撃に巻き込まない範囲にまで二人を下がらせるべきでしょう。その隙を作るのは私が。撃った後はあなたが近距離で、私が遠距離から支援する形で」
「おっけー」
不死性、という点では”黒”の陣営にも一人いる。
今、”赤”のライダーと戦う”黒”のセイバー。彼もまた、この戦いでその不死性を存分に振るっている。
一つの聖杯戦争に不死性を誇るサーヴァントが三騎、というのはなかなか珍しいのことではあろうが、その三人に共通するのは『宝具である』という一点のみ、というのもまた珍しい。
”赤”のランサーは、実際には無効化していたわけではなかった。
全てのダメージを1/10にまで抑えることで、並大抵の一撃では傷がついていないように見えただけであり、刻むことに成功した傷も自前か宝具によるものか、尋常ではない治癒能力にて回復していただけのこと。
だが、この二人は違う。
”黒”のセイバーの守りは、背中を除く全身に広がった”頑丈さ”でしかない。
Bランク以下の攻撃を無効化するその術理は、実際のところはただの頑丈な体で耐えているだけのことであり、だからこそ彼に対してAランク相当の一撃を放ったところでBランク相当のダメージは通らなくなってしまう。
実際、”赤”のライダーの攻撃は今なお”黒”のセイバーには通っていない。相手が遊んでいるだけなのだとしても、見た目だけであれば互角の戦いに見えるだろう。
”赤”のライダーの守りは、踵を除く全身に広がる不死性。
これは概念的な守りであり、条件を満たさない攻撃に対しては絶対的な無敵を示すもの。
条件が満たされなければ、”赤”のランサーや”黒”のセイバーの守りを超えるような一撃であったとしても傷を与えることは不可能であり、条件さえ満たしてしまえば彼らには一切の傷を負わせることが不可能な攻撃だったとしても彼の体には傷が残ってしまう。
そんな、彼の体を傷つけることができる攻撃が、放たれる。
「行きますよ、セイヴァー」
「ああ、いいとも」
「では」
──まずは私から。
”黒”のセイバーとバーサーカーが動き、”赤”のライダーとアーチャーが二人を翻弄し続ける森林にて。
夜闇の中という悪条件、最大値の敏捷から繰り出される疾風の如き運動。それらすべてを見抜いて、”黒”のアーチャーは一射を放つ。
本職の弓兵の面目躍如とでもいうべきこの一射は”赤”のライダーに気づかれ、対応はされてしまうが二人が下がる隙は生まれる。
「
そこに、本来一個人に向けて放つものではない奥義が放たれた。
種別は対軍・対国。
即ち、軍勢を相手取り、国を討ち滅ぼす為の奥義であり、一個人に向けて放つようなものではない。
けれど忘れることなかれ。
相手は英霊。
雄々しき戦士が綺羅星のごとく現れ、一人、また一人と散っていく中でもなお、大英雄と称される男。
一騎当千、万夫不当の名を冠するに相応しきその男を相手に、たかが軍一つ、国を一つ相手取る程度の奥義で滅ぼし尽くすことが可能だ、などと戯言にしかなるまい。
着弾し、爆撃でも受けたかのような有様へと変わる森林地帯。
そこへ、さらに”黒”のアーチャーが連続して矢を放つ。
セイヴァーもまた、”赤”のライダーの戦意を感じてその場から飛び出す。
「先の一撃はお前だな! ”黒”のサーヴァント!」
「
激突する、”赤”のライダーの槍と”黒”のセイヴァーの持つ光槍。
”赤”のライダーの振るう槍をセイヴァーの光槍が受け止めながら、時折降ってくる”黒”のアーチャーの弓矢。
そのどちらもが”赤”のライダーを傷つけ得る攻撃である。事実、”黒”の二騎を下がらせた弓矢は彼を傷つけ、後の爆撃は”赤”のランサーが神の加護を受けた投擲武器であると断言した代物。
ならば通常の攻撃は如何なるものかと思えば、隠しきれぬ神気がそこにはある。
ああ、なんと幸運なことだ!
胸中で”赤”のライダーは歓喜する。
自分を傷つけ得る好敵手が、この一度の戦いで二人もいるという事実。
これが喜ばしくなくてなんとする!
「はは……」
思わず笑みが漏れる。
セイヴァーが知覚できない神速の刺突は矢によって阻まれた。
そこからさらに嫌らしい場所を狙う矢の雨を赤のライダーは笑みを浮かべながらその絶技を以て対応する。
けれどそこには、”赤”のランサーを知り尽くしたかのような矢の連鎖が続く。
「はははは!」
それすらも全て弾き切り、”赤”のライダーは”黒”のセイヴァーと切り結ぶ。
「ハハ、ハハハハハ! 素晴らしい! 素晴らしいぞ、”黒”のアーチャー! そして何者とも知れぬ”黒”のサーヴァントよ!
お前たちは俺を傷つけ、殺すことができるのか!
ならば、この戦いは宿命であるッ!
おお、オリンポスの神々よ。この戦いに栄光と名誉を与え給え!」
「……人を殺すだけの戦いに名誉も栄光もないだろうに」
嫌悪を示すセイヴァー。
しかし、思考は特に鈍ることはなく、この相手は自分にとって相性が悪いな、と悟る。
パラメータを下げるスキルは両方とも機能している。
にも関わらず、その神速の足は鈍ることなく疾走を続け、二人の攻撃は致命には至らない。
つまり、このサーヴァントは自らの敏捷をあげるスキルか宝具を持っているということ。
そして、彼の真名がアキレウスであるということから考えれば、それはスキルではなく宝具。
『あらゆる時代、あらゆる英雄の中で最も疾い』と称された伝承であろう。
基本戦術として相手のパラメータを下げ、如何なる大英雄も通常の英霊程度のステータスに落としてから戦うことに慣れきっているセイヴァーでは、この神速の脚力は厄介と言わざるを得ない。
とは言っても、彼女も英霊。これぐらいの逆境ならば問題なく乗り越えるものだ。
「
徐々に、アーチャーの援護がなくともライダーの動きに適応していく。
”赤”のライダーの攻撃を受け止めるのではなく、”赤”のライダーの動く先へと置いてあるかのような違和感を感じながら、一人で”赤”のライダーを受け止めることが可能になったセイヴァーに対して、アーチャーもまた援護から支援に動きを切り替えた。
『このまま、彼を撤退させます』
『できるのかい、アーチャー?』
今回の目的は、敵の迎撃である。
敵を倒しきれずとも、撤退させることが可能ならばそれでいい。
こちらの損傷がなく、向こうにはバーサーカーが落ちたという結果が残る。それ以上を求めてこちらに損害が出るくらいならば、そこで終わらせたほうがいい。
そして、”黒”のアーチャーはアキレウスのことを熟知している。
此度の戦いを以て、彼は聖杯大戦における宿敵としてセイヴァーとアーチャーを認識するだろう。
そしてそうなれば、このような形での決着を彼は望まない。
故に、距離が開けば。
「一度仕切り直しとさせてもらおう! 次に見える時まで、貴様らの首は預けておく!」
当然、こうなる。
ライダーが指笛を鳴らし、
舞い降りたのは三頭仕立ての戦車。
不死の神馬クサントスとバリオス。そして名馬ペーダソスが繋がれたその戦車の御者台にひらりとライダーは飛び乗り、鞭を入れて天高く舞い上がる。
速度は最初から限界まで。途中で”赤”のアーチャーを拾いながら、ライダーが撤退したことで、此度の”赤”の進撃は終わりを告げた。
「お疲れ様、セイヴァー」
「ああ、うん。今日に関しては本当に疲れたよ」
部屋に戻ったセイヴァーを迎え入れたのは、真琴のそんな声。
初回の戦闘とは違って、彼の方にも幾分余裕があるように見えるが、その代わりに初回の戦闘では幾分余裕があったセイヴァーが辟易とした表情をしているのが対照的。
「決めた。今度”赤”のライダーが出てきたら、こっちのアーチャーに相手してもらう」
「そんなに相性悪いのか?」
「そりゃね。僕は別に武芸が認められて英雄になったわけでもないし。純粋な戦闘能力って意味じゃ、多分向こうの方が上さ。こっちは相手を弱体化させて、遠距離からブラフマーストラ撃ちこんでるのが一番楽なんだけど……」
「ま、世の中そんなに甘くはないってことか。一応、ランサーとダーニックにはそのことを伝えとく」
「うん、よろしくマスター」
真琴が立ち上がり、王の間へと向かおうとすれば、ひょいとセイヴァーが代わりにベッドに腰掛ける。
「僕はここで待ってるよ」
「りょーかい」
そう言って真琴が部屋を出てからしばらくの間、セイヴァーはどこか楽しそうに鼻歌を歌っていた。
けれどそれもしばらくのこと。真琴が戻ってくるよりも先に、二つの気配が森林の中にあることに気がつく。
それだけならば特に気にすることもなかっただろうが、そのうちの片方がどんどん小さくなるのであれば話は別だ。
「……これはセイバーの気配?」
気づいてしまったものは仕方ない。
真琴へ念話で状況報告だけ済ませて、彼女もまた現場へ向けて走り出す。
マスターへと報告すれば、一緒にいるだろうダーニックたちにも状況は伝わるだろうし、問題はない。
現場まではそう遠いわけではない。
普通に城塞内部を通ったのでは時間がかかりすぎるだろうが、そこはセイヴァーもまた英霊。
魔力で肉体を編まれたサーヴァントという形である以上、霊体化の技能は彼女にも当然備わっている。
霊体化を利用すれば物質である壁をすり抜けていくことも不可能ではないが、それを駆使したとしてもセイバーが消滅するまでに間に合うかどうかは五分五分だろう。
間に合いさえすればどうにかなる手段はある。
霊核が砕かれていようと、消滅さえしていなければ、彼女の内には一度限りの蘇生手段が存在する。
この場で”黒”の陣営から最優のサーヴァントを失うわけにもいかないだろうから、真琴の方も許してくれるはずだ、うん。
なんてことを考えて、セイヴァーは疾走を続け。
「……あぁ。やっぱり僕では救えないのかな」
間に合わなかったことを理解した。
”黒”のランサーがその近くにいることもまた、理解の上。
初動がこちらよりも遅かったはずなのだが、と思ったところで、真琴から、以前姿を消したホムンクルスをライダーが連れているのが見つかった、という報告もやってくる。
なるほど、と納得したところで、それならわざわざ向かう必要もないか、とセイヴァーは部屋の方へと戻ることにした。
一体どうしてセイバーが消滅したのかについては、またいずれ説明が入るだろうから、今わざわざ向かう必要もないだろうと感じて。
彼女は救世主ではあるが、王の行いによって苦しむ民を救ったものではない故に。怒り心頭であろうランサーの相手なんて御免蒙る、と。
「……これで、向こうもこっちも一騎ずつ失ったわけだね」
正確には、向こうのサーヴァントは一騎たりとて消滅していないわけだが。
それでも、”赤”の陣営は七騎から六騎へ。”黒”の陣営は七騎から八騎になり、また七騎へと。
聖杯大戦はまだ始まったばかり。
されど戦況は目紛しく変わり続け、その結果として未だどちらが勝利したとしてもおかしくはない。
・夢幻召喚:■■■
未来が見えるかのような動きを可能とする。
・一回限りの蘇生
宝具。■■■の性格によって使用可能回数、使用可能な相手が変化する。
今回の彼女は、「他人を救いたい」という気持ちと、「自分が人を救っていいはずがない」という気持ちのせめぎ合いによって他者に対しても使用可能な一回限りのものとなっている。
サーヴァントでなければ? 対己宝具になって、無限に復活し続けるよ。
サーヴァントでない場合、魔力のことを気にせずに、未来視で相手の動きを読みながらインド奥義を放ち、どうにかこうにか殺せたと思ったら次の瞬間には復活してる、そんな化け物です。強い(確信)