妖狐の陽子と人斬り鴉   作:四十九院暁美

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妖狐の陽子は人が好き

 氷雨(ひさめ)が降りしきる夜。

 ひとりの少女が家路を急いでいる。

 空は分厚い雲が積み重なり、凍える寒さが、雨粒と共にアスファルトの大地に広がっていく。

 夜は寒さにはしんと静まり返り、吐く息さえ鬱々とした白さを持っていた。

 風に吹かれた雨は霏々と流れて、息を切らした少女の肩を濡らす。

 雨の中、傘も差さずに走るその少女は、女月神高等学校(めつきのかみこうとうがっこう)に通う二年生で、料理部に所属する十六歳だ。

 年齢にしては背が低く、濡れそぼちた黒髪が張り付く顔は、年頃の娘らしい幼さを秘めた豊かな線を描き、よく磨いた瑪瑙(めのう)のような唇も美しい。

 瞳は黒々と澄んでいて、実に可愛らしい顔立ちであった。

 閑静な住宅街の四つ辻に行きかかると、不意に彼女が立ち止まる。

 街灯の灯りが、ぼうっと道を照らす。

 雨粒が輝きながら光の中を斜に過ぎ、水溜まりにいくつもの波紋を作っていく。

 その中に、ひとつの奇妙な影法師が映っていた。

 黒を基調とした和装という、奇妙な出で立ちの男は、やはり奇妙なことには刀を佩いていて、まさしく侍というに相応しい格好だった。

 時代錯誤も甚だしいその姿に、少女はある噂を思い出す。

 人斬り鴉。

 述べ十五人を斬り殺し、現代の修羅と恐れられた殺人鬼……一年前に姿を消したはずの辻斬りであった。

 少女が恐怖で、一歩だけ後退る。

 男は静かに、刀を抜く。

 鈴の音にも似た音が響き渡り、雨音をかき消した。

 沈黙。

 耳が痛くなるほどの。

 逃げなければと思った。

 しかし足がすくんで動けない。

 男は刀を上段に構えて今にも振り下ろさんとしているけれど、恐怖で麻痺した脳髄では逃げること叶わず、彼女は目の前にある明確な死の形を、受け入れる以外になかった。 

 

「天誅。怨むならば我が身の不幸を怨め」

 

 くぐもった声が言う。

 瞬間、白刃が雨を裂いた。

 

                    

 

 はたと目が覚める。

 目覚まし時計の音が耳をつんざく中で、加賀美陽子(かがみようこ)は覚醒した。

 悪い夢を見たのだろうか。

 お気に入りの浅葱色(あさぎいろ)をしたパジャマが、寝汗でぐっしょりと湿っている。

 衣服の全てが身体に張り付いて気持ちが悪い。

 自慢の毛並みもへたっているし、これでは学校へ行く前に汗を流さなければならないだろう。

 疳の虫のようにけたたましく鳴る時計を、乱暴な手つきで叩いて止める。

 ベッドからのそりと起き上がり、ピンクのカーテンを開けて、外の日差しを取り込んだ。

 よく晴れた冬の空、その美しい蒼穹が、街を愛おしげに見下ろしている。

 暗澹とした気持ちですら、さっぱりと洗い流すほどに澄んでいて、陽子は少しだけ気分が良くなった気がした。

 なんだか、まだ夢を見ているみたいな気分だった。

 どうもはっきりしない頭のまま自分の部屋を見回してみると、枕元には点けっぱなしにされた小型の蛍光スタンドに、読みかけの漫画が放置されていた。

 少しだけ頭が冴える。

 どうやら昨夜、漫画を読んでいる途中で寝落ちしたらしい。

 夢見が悪かったのもそれが原因だ。

 蛍光スタンドの灯りで眠りが浅くなり、読んでいた漫画の内容に影響されて、変に悪い夢を見てしまったのだろう。

 我知らず、溜め息が出る。

 深い疲れを孕んだ溜め息だった。

 もう寝る前に漫画を読むのはやめようと誓って、陽子は部屋を出て階段を下り、居間に出る。

 早起きの母がテレビを聴き流しながら朝食を作っており、キッチンから漂う匂いが食欲を刺戟した。

 

「おはよ、母さん」

 

「おはよう。さっさと顔洗って、ご飯食べちゃいなさい」

 

「それがさ、ちょっと寝汗かいちゃって。シャワー浴びてからでいい?」

 

「いいけど、あんまりお湯出さないでね。お金だってばかにならないんだから」

 

「わかってる。ちょっとだけ、ね」

 

 いつも家計を気にする母の小言に、少しだけ苦笑いしてから洗面所に入った。

 パジャマを脱ぎ捨てて、バスルームの引き戸を開けると、冷たい空気が全身を撫でた。

 春先の空気に当てられたバスルームは寒くて、踏みしめるタイル張りの床は氷よう。

 プラスチックでできたすのこも、踏むのが戸惑われる。

 アルミサッシには結露が出来ていて、窓は曇りくすんでいる。この寒さは汗で冷えた身体にはこと悪い。

 さっさとしなければ風邪をひいてしまいそうだ。

 大きく身震いをしてから急いで蛇口をひねり、シャワーを何度か身体にかければ、少しだけ寒さが和らいできた。

 ずっと浴びていたいほど湯を浴びるのは気持ち良いが、あまり長く出していると母に怒られてしまう。

 母に文句を言われないうちにさっさとバスルームを出ると、湯冷めしないよう丹念に水気を拭き取って、ドライヤーで髪を乾かす。

 お気に入りのフリルの付いた下着を身に着けて、最後に、土日に選択して干してあった紺のセーラー服に袖を通せば、あとは歯を磨くだけだ。

 時刻はすでに七時ををまわっていた。少し急がないとまずい時間である。

 洗面所を出ると、すでに朝食が用意されていた。

 四人掛けの食卓テーブルには、バタートーストと目玉焼き、それと余り物のウィンナーが数個が、一緒の皿に乗せられている。

 珈琲はないけれど、かわりに牛乳がマグカップになみなみと注がれていた。

 加賀美家では珍しく洋風の朝だった。

 

「あれ、珍しいね」 

 

 指摘すると、母は台所で卵焼きを切り分けながら、

 

「冷凍のウィンナーが余っちゃってね。ちょうど卵もあったし、せっかくだからトーストにしたのよ」

 

「へえ……、これって、あたしの分だけ?」

 

 訊けば、母は振り向かずに「そうよ」とだけ答えた。

 少し得した気分になる。嬉しくなって、ピンと耳が立つ。

 まるでアメリカ人にでもなった気分で、バタートーストにかじりつく。カリカリとしたトーストの触感と、バターの強く豊な味が、口一杯に広がった。

 いつもよりちょっぴり優雅な朝食を終えると、不意にインターホンが鳴った。

 時刻はすでに八時、友人が迎えに来る時間だった。

 

「陽子! おはよー!」

 

 玄関のドアーを開けると、朝から元気な声が頭を揺らした。

 茶色の髪を短く切り揃えたその少女は、名を黛昭亥(まゆづみあきえ)いう。

 クラスメイトであり、同じ料理部に所属する昭亥は、陽子にとって親友、いや、妹と呼ぶに相応しい存在だ。

 

「おはよ、アキちゃん。宿題やってきた?」

 

「やってきたよ、さすがに!」

 

「ホントに? 数学のやつ、やって来たの?」

 

「モチのロン! 兄貴に頼んだウチに抜かりはない!」

 

「アキちゃんって、たまにひっどいズルするよね……。あ、あたしまだ準備終わってないから、ちょっと待ってて」

 

「りょーかい!」

 

 急いで身支度を整えて外へ出ると、厚手のダッフルコートをものともしない寒風がビュウと吹いて、一本結いにした黒髪を揺らした。

 首に巻いた狐色のマフラーも、この寒さにはなすすべもない。

 

「くぅー、さっむ!」

 

「ほんとだね。カイロ持ってくればよかったよ」

 

 最近になって、東京はひどく冷え込んでいる。

 朝方は特に、布団から出るのも億劫になるほど冷え込んでいて、どうにもやる気の出ない日が続いているし、外を歩く時はコートとマフラーがかかせない。

 夜になればアスファルトには霜が降りて、ブーツでも滑ってしまいそうになるから、まったく歩くにも苦労する。

 今年に入ってまだ間もないが、最低気温はすでにマイナスに片足を突っ込み、雪がしんしんと降り積む日も多くなった。

 去年のオリンピックで熱狂の渦に包まれた日本は、その振り返しみたいに、冷え込む日がずいぶんと増えている。

 あんまりにも寒いものだから、早く春になればと思わずにはいられない、なんとも嫌な時期だ。

 

「明日は試験だね」

 

「オエー! やだやだ勉強したくない、身体動かしたいー! ……そういえば今日体育あるじゃん! やったー!」

 

「うえ、あたしそっちの方がやだなあ。今日は何するんだっけ」

 

「バレーボールだったと思う!」

 

「バレーかあ……。苦手なんだよねえ、手とか痛くなるし」

 

「でもさ! スパイク決めた時とかさ、すんごい気持ちいいじゃん!」

 

「アキちゃんは運動得意だからいいよ。あたしはへたっぴだから、全然」

 

「かわりに胸でっかいよな、陽子はさ! まだおっきくなったんじゃない?」

 

「ちょ、やめてよ! 声おっきいって!」

 

 他愛ない話をしながら、いつもと変わらぬ通学路を歩く。

 住宅街を抜けた先にある表の大通りは、騒がしさの中に陰鬱さを秘めた空気で満ちていた。

 ここの大通りの空気は、人並以上に鼻の良い陽子にとって、排気ガスの臭いが実に辛い。

 長いことこの街に住んでいるけれど、どうしても慣れない臭いだ。

 我慢できないほどではないが、車の通りが多い場所には長居したくないと思う。

 並び立つビオフィスビルと、縦横に空を走る真っ黒な電線は、カンと冷えた空気に当てられてか、どこか寒々しい印象を受ける。

 自動車は濛々と排気ガスを吐き出しながら行きかい、それに混じって、路面電車がゴトゴトと走っていた。

 人々もこの寒さには、しかめっ面ばかり。開いたばかりの商店たちも、どこか物鬱気な店構えだ。

 

「あれ、狐がいる! めずらしー!」

 

「え? あ、ホントだね」

 

 街角でぼうっとしている鵺や、空をひらひらと舞う一反木綿、そして二人の目の前を横切った散歩中のお稲荷様も、どこか寒そうにしていた。

 バスに揺られること数分。

 学校に着くと、にわかに熱気が渦を巻いて、二人の頬を撫でた。

 正門は登校して来た生徒たちでごった返していて、二つあるグラウンドからは、朝練をする運動部員たちの気合が入った声が響く。

 二人が通う女月神高等学校は、この地区でもかなり有名な学校だ。

 郊外に建てられたここは、多くの教室と広い校庭を保有するマンモス校で、特に野球やサッカーなどのスポーツに力を入れている。

 声の大きさも、実力も、地区一位だ。

 エントランスホールで靴を履き替え、教室のある二階へ上がると、喧騒は耳を突き破らんばかりに大きくなった。

 この寒さに負けない威勢の良さで、クラスメイト達はおしゃべりに興じている。

 話題はいろいろだが、もっとも口にされるのは、やはり夜な夜な現れる和装の男の噂だった。

 夜の街に現れる和装の男。

 去年の初め頃までその兇刃を振るっていた殺人鬼、人斬り鴉の正体と見られる男は、特に近頃、目撃が相次いでいた。

 出没場所は街の各地で、いかなる目的で現れるのかも不明。

 そもそも和装以外の詳細な人物像さえわかっていない。

 都市伝説めいたその存在は、話好きで噂好きの少年少女たちにとって、実に興味深い話なのである。

 

「みんな好きだよね」

 

「事件まだ解決してないからね! 気になってるんだよ!」

 

「でも、関係あるとは限らないよ。ただの幽霊かも」

 

「それはそれで面白いじゃん! 幽霊が見られるなんてさ!」

 

「……そうでもないよ、幽霊なんて」

 

 しかし陽子にとっては、和装の男の正体、実に惹かれない話だ。

 幽霊なんて特にくだらない。

 どうせ最初のひとりが、たまたまが見えてしまった雑霊の話に、大きな尾ひれが付けた結果なのだろう。

 七十五日もすれば、誰も口にしなくなる。

 人斬り鴉の話にしたってそうだ。

 十人以上を斬り殺しておきながら捕まらないなんて、あまりにもおかしな話である。

 表には出ていないだけで、警察はすでに正体を掴んでいるに違いない。

 だから去年には犯行がパタリと止んだのだ。

 噂話なんて、時間の無駄しかない。

 

「それよりさ」

 

 話題を変えたくて、陽子は思い出したように言う。

 

「今日は部活する? ほら、先輩に卒業祝いでクッキーつくったじゃない、あの時の材料がまだ余ってて。腐らせるのももったいないから、どうかなって」

 

「おおー、いいね! 今日はバイト休みだから、いっぱいクッキー作れるぞ!」

 

 朝だというのに、もう放課後の相談をしている二人は、自分の座席に着くなりどんなクッキーを作ろうかと顔を突き合わせた。

 色気より食い気、花より団子がこの二人の信条である。

 自分の胃袋より大事なモノはないのだ。

 しばらくして先生が教室に入ってくると、朝礼の後にようやく授業が始まった。

 とはいえ、授業の内容は陽子にとって昔に聞いた話ばかりで、耳をそばだてて聞く必要はない。

 暇を持て余すばかりなので、彼女は教科書を隠れ蓑にして小説を読むなどしていた。

 昼休みになると、昭亥と一緒に学食で昼食を摂るのが、陽子の日課だ。

 

「陽子、いっつもきつねうどんだよね!」

 

「お揚げが好きなんだ」

 

 午後になると体育の授業である。

 教室で体操着に着替えて、離れの体育館へ向かう。

 運動が苦手な陽子にとっては、憂鬱な時間でしかなくて、足取りは重たい。

 自慢の毛並みもなんとなくへたってしまう。

 特に加減が難しい球技となれば、やる気はマイナスへ振り切るというもの。

 

「よっし、やるぞー!」

 

「ほんと、運動好きだよね。アキちゃんは」

 

「だってさだってさ! 楽しいじゃん! なんて言うかこう……自由に動けて、ノビノビできるっていうか! 勉強するよりずっと有意義だーって思っちゃうんだよ!」

 

 尻に食い込んだ体操着を直しながら、陽子は肩を落とす。

 対照的に昭亥はまるで幼子みたいにはしゃいでいる。

 家庭の経済的な理由で運動部に所属できないのが、余計に昭亥の運動好きを加速させているらしかった。

 

「まあ、わからなくはないけれどね……痛いのはやだけど」

 

 陽子は運動嫌いだけれど、身体を動かす楽しさはわかるつもりだ。

 ただ、運動に付属する痛みが嫌いなだけで。

 溜め息混じりに、僅か開かれた非常口から外と見れば、はにわかに雨が降り出していた。

 今朝の天気予報では終日晴れと言っていたけれど、どうやら外れてしまったらしい。傘を持ってきていないから、帰りが少しだけ心配になる。

 

「いっくぞー、陽子! ちゃんとボール返してよね!」

 

「アキちゃんこそ、急にスパイク撃ったりしないでよ?」

 

 さしていつもと変わらぬ風景。

 陽子は今朝に見た夢のことを忘れ、ボールを受け止めながら笑った。

 

 

 それからしばらくして、放課後。

 部活を終えた陽子は、家路を急いでいた。

 学校を出るのが、遅くなってしまった。クッキーを作るのに、少し時間をかけ過ぎたのだ。

 お揚げをつまみ食いして、先生に怒られたりしたのがマズかった。

 時刻は既に十九時を回っていて、早く帰らなければ夕食を食べそびれてしまう。

 夜の住宅街は、氷雨が降りしきっていた。

 霏々と流れる雨は陽子の全身を濡らし、身体の芯から底冷えさせる。

 気温も朝に比べてぐっと低くなっているから、さっさと帰らなければ風邪をひいてしまいかねない。

 今日に限って折り畳み傘を持っていかなかったのを、陽子はひどく後悔した。

 しばらく道を行くと、突然、奇妙な錯覚に陥った。

 毎日通っている道のはずなのに、何故だか変に静かで、恐々としている。

 デジャヴと言われるものと似ているが、それにしては、あまりにもおどろおどろしい雰囲気だった。

 予感はついに頭痛にまで発展して、何事かを訴えかけてきたから、陽子は立ち止まって片手で頭を押さえてしまう。

 いったいなんだろう、風邪でも引いてしまったのだろうか。と、痛みを堪えて顔を上げた時、はたと気が付く。

 街灯が照らす四つ辻。

 今朝に見た悪夢の断片が蘇る。

 この後は確か、そう。和装の男が現れて、その兇刃を振るい、そして……。

 はたして予想は当たっていた。

 街灯のか細い明りの下に、ぬっと影法師が姿を現す。

 黒を基調とした和服。

 腰に差した日本刀。

 目深に被った旅笠。

 夢で見た男の姿によく似ていた。

 ひゅっと息が止まった。

 喉奥が引きつって全身が粟立つ。

 腹の底から言い知れぬ感情が沸き立ち、思考が恐怖に染まっていく。

 真っ青になって、目を真ん丸に見開いた。

 濃密な殺気が、陽子の手足に絡みつく。

 腥い血臭が鼻孔を刺戟して、吐き気を誘う。

 数瞬。

 いや数秒。

 数時間かもしれない。

 永遠にも思えるような、耳が痛くなる沈黙の中で、男が刀を抜いた。

 鈴のような音が、雨音を一瞬だけ掻き消した。

 

「────」

 

 冷たい声が言う。

 何と言っているのか、恐怖で麻痺した陽子には聞こえなかった。

 今にも振り下ろさんと構えられた刀の、鈍色の輝きが瞳を射抜き、視界が僅かに歪む。

 自分が立っているのか、倒れているのかさえ、わからなくなる。

 

「ぁ……っ!」

 

 声が出た。

 引きつった喉から、やっと絞り出した掠れ声。

 けれどそのおかげでやっと脳に酸素が回って、全身の感覚が戻る。

 復活した思考が急速に回転する。

 

「ま、待って!」

 

 陽子はとっさに声を上げた。

 ほとんど悲鳴に近い叫びに、男はぴたりと動きを止めた。

 慈悲の心でも見せるというのか。何にせよ、これ幸い、陽子は続けざまに問うた。

 

「貴方は、誰ですか……何が目的なんですか……」

 

 ほとんど出任せではあったけれど、男は冥途の土産のつもりなのか、彼女の問いについと答えた。

 

甘粕弾正嘉平(あまかすだんじょうきへい)、妖狩りを生業としている」

 

「あや、かし……」

 

 一般人には見えないはずの妖、しかし、陽子にはとって身近な存在だ。

 今朝だって何体かの妖を見かけたし、稲荷様ともすれ違った。それに”陽子自身”にも関係がある。

 この侍然とした男、甘粕弾正嘉平は、それらを斬っていると臆面もなく言う。

 

「貴方は、見えるんですか……?」

 

 再び問えば、彼はしかと頷く。

 

「然り」

 

 ごくりと唾を飲み込む。

 彼には見えているのだ。

 

「人に化けたとて無意味である、”狐”」

 

陽子の”耳”や”尻尾”が。

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