ハーイン ザ デビル イン サンディル ~彷徨える少女~ 作:日本創世児協会
彼女の名前はアイーダ
名前から察するに彼女の両親はオペラ好きなのだろう。
夫(マルカント)は子供をいつもせがんでいた。アイーダも出産を渇望していた。2人は同い年だ。
そんな2人は例えどんなに疲れきって互いに顔すら合わせたくない日でも夜の営みを絶やすことは一切なかった。
近所の住民等はそれを察していた。どうやら周囲が寝静まった頃に、「ギシギシ」とベッドが軋むような音が響いて聞こえていたらしい。
一部の薄情な近所住民はそれを噂の風に流し、2人の住むブロック中にその噂は蔓延した。
しかし神様もイタズラ好きだなぁ。
なんと同い年の2人が38を超えても子供を授かることは無かったのだ。
だが2人は運命を覆す決意で、営みを続けた。
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気づけば歳は45。
もう見切りを付けようと腹を決める覚悟をしたとき…奇跡は起きた。
アイーダは急な吐き気におそわれ、日曜の朝っぱらから吐いてしまい気分が落ちていた。
それを見ていた夫マルカントはすぐさま彼女の腕をひき、病院へ連れて行った。どこの病院かって?
産婦人科だよ。
(アイーダ)あなた!!!
(マルカント) な…どだった!!!
(アイーダ)…………………やっと…会えるわよ…。【涙声】
(マルカント)!!!!!!
なんという事だ。2人は長い時を経てとうとう念願の子供を授かったのだ。
その噂は瞬く間に近所中に広まり、祝い好きな住民は「お祝いムード」に染まった。
長い長い苦闘を「音」として聞いていたもんだから、涙脆いおじさんおばさん方は当然涙を流したよ。涙脆いからね。
しかし一部の住民には懸念の声もあった。なんせ、45で子供を産むのだから。
体力面の問題も当然。口には出しづらいが未発達の状態で産まれてくる可能性もある。
「あんたも赤子もキリストの下で頭に輪っか浮かべる(要するに死ぬ)はめになっちまう」
「悪いこと言わないから下ろした方がいい」
なんてことを、まぁ…悪気はないだろうが言う人もいた。
そこら辺の問題もアイーダは自覚していた。
しかし、心配はしていなかった。
夫、マルカントも彼女が出産の件で心配していないことを察していた。
彼はきっと
「彼女が常に平然としているのは、毎晩僕が彼女につきっきりで「大丈夫、僕も一緒だ」と慰めているからだ。そうに違いない。可愛い妻だ。」と思っているのだろう。
だがアイーダにとって彼の「べた」な慰めは、ただの「ありがた迷惑」に過ぎなかった。
彼女が平然としていられるのは、ある1つの「宗教」と彼女の「秘密」がからんでいたんだ。
「Head Spam」略称「H.S.」
彼女が介入している宗教だ
因みにマルカントは彼女が宗教にはいっていることすら知らない。
彼女の家系は代々この宗教に関わっており、その流れで彼女もこの宗教に入っている。
実を言うとオペラ好きだと思われるアイーダの母がアイーダを産んだのはなんと62の時だったんだ!
自分の妊娠を知った61の母は心底恐れていたらしい。
「お腹の中の子を産めば赤ちゃんどころか…私の命すら危ないじゃない。しかもあまり口には出せないけど……ほとんどの確率で上手く発達出来ずに生まれてきてしまうわ…」
そんな不安を残したまま年を跨ぎ、お腹の大きな62の母は幸先が見えない現実に耐えきれず、H.S.の長「ケェペロザンニ」に思いと現状を打ち明けた。当時80を超えていたケェペロザンニはもの言わずに静かに彼女のこめかみに触れた。そしてこう答えた。
「目を…閉じたまま…閉じたまま……
光の玉を追ってはくれないか?」
その訳の分からない指示に対し彼女は一瞬困惑した。聞き正そうかと思ったがとりあえず「目を閉じれば何かが分かるだろう」と自分に言って聞かせ、素直に目を閉じた。
何も見えない。当然だ。目を閉じているのだから。
1、2分たった頃か…この不可思議な状況に耐えきれなくなり、彼女は「何も見えないぞ」と訴えようとしたが、それは遮られた。
ケェペロザンニはまるで彼女の話すタイミングを把握していたかのようにため息をついたのだ。
それはもう深呼吸とはまた違う……深い深いため息だった。
30秒ほどしたころに体内にあった酸素を全て吐ききってしまったのか「オホッ オエッッ」という声が聞こえてきた。
彼女は耐えきれず1年振りに笑った。
そしてふと我に返ると、暗闇で何も見えないはずの空間にそれはあった。
太陽の様に煌めく光の塊のようなものが
白?黄色?オレンジ?彼女にはどの色にも見えた。しかしそれを体験した彼女は当時、そんなことよりも、目を閉じているのに「像」が映る衝撃で頭がいっぱいだった。
その光の塊をしばらく見つめていると、光はどこかへ行ってしまい、遠くの闇へ消えかけていた。
するとケェペロザンニは怒り口調で言い放った
「ぼーっとするんじゃないっ!早く追いかけるんだ!」
彼女はその声に驚き、その光を追いかけるよう「意識」を前に進めようとしてみた。案外それは簡単に出来るもんだった。
しばらく光を追いかけていると、暗闇の世界に「自分の妊娠を知った自分」が映し出された。彼女は当時の驚きを思い出した。
光の誘導を更に追いかけていくと、それからパノラマ写真のように、そこから今に至るまでの自分の体験が映し出されていった。
そしてH.S.で椅子に座ってこめかみを触られている自分が映った。
光は壁に当たったように止まった。
光が止まったことに彼女の不安感が急に高まり思わず「未来はないのか」と口に出した。
光は壁に「絵」描き始めたんだ。かのじょはその様子をまじまじと見ていた。
そして絵は完成した。
粗雑な絵だが内容は分かった。
それは……
自分が元気な赤ちゃんを抱いて喜んでいる姿だった。
5週間後、その「光の絵」に導かれたかのように、幾度の陣痛を乗り越え、彼女は元気な女の子を産んだ。
並の人間ならば信じ難い話だ。
しかし、アイーダはこの自分の「誕生秘話」を信じている。それは今も尚だ。
何故かって?彼女には秘密がある。
アイーダ自身、「光」の力に導かれて生まれたお陰か、
ケェペロザンニのように
「光」を操る力を持っているからだ。
しかしケェペロザン二のように人の深層に潜り込んだり、ましてや未来を操るなんて事は出来ない。
自分に対してもだ。
さらに、そもそも彼女自身その力を使ったことがあまりない。
堂々と使っていると周囲に恐れられるだろうと察して使わなかったのだ。
まぁそれはさておき、とにかく彼女は「光」を所有し「光」を信じていたので、遅産でも不安になることはなかったのだ。
「光」を所有した彼女の「勘」が危険信号を発した
あの悪夢を見るまでは…………