ぼくの名前はインなんとか   作:たけのこの里派

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2巻 絶対能力への階
プロローグ 窮鼠が猫を噛み殺す


 ―――――そこは群雄割拠の世界だった。

 星をそれぞれの領主が領地(テリトリー)として治め他の領地を攻め奪い、逆に奪い返されるなど一進一退。一種の陣取りゲームを思わせる縮図だが、その実悍ましい程の戦いが繰り広げられていた。

 陣取り方法は単純明快。

 指定された範囲での殺し合いで勝った方がその範囲を制圧できるというもの。

 勿論それだけではそもそも勝負がつかないため、勝利条件や前準備やらでバフデバフが付き、あるいは特殊な条件を満たした第三者の乱入が勝敗を左右させる。

 そして最終的に一人の領主が天下統一すれば優勝。

 その後はリセットし、ランダムで再配置された領地で再度陣取り合戦。

 そんな、場合によっては飽きが来るソレを、『彼ら』は嬉々として無限に繰り返していた。

 

『彼ら』は本当に嬉しそうだった。

 本当に楽しそうだった。

 ある意味不毛な行いを延々と繰り返していながら、何よりこれを求めていたのだと全身を使って表現する。

 世界を壊し、切り裂き、燃やし尽くし、凍り付かせ、蝕み、侵食し、呑み込む。

 星ではなく宇宙という世界を易々と滅ぼせる力を持て余し、しかしそれを世界で振るってはならないと自戒し、存在するだけで世界が砕け散ってしまうが故に『隠世』などと呼ばれる隠された位相に身を置いていた『彼ら』。

 だがどうだろう。

 そんな力を何度振るっても、この盤上はいくら暴れても壊れず、一度『上がれば』元通り。

『彼ら』以外その世界には存在しないが故に、何かに配慮する必要もない。

 そんな都合のいい世界を何より渇望していた『彼ら』は、この盤上を与えられてからずっとそれを繰り返してきた。

 

「楽しそうで何より」

 

 そんな何物にも止められない『彼ら』が、一斉に動きを止めた。

『彼ら』しかいない世界に現れたのは、銀髪の少年。

 与えられた名を『禁書目録』という。

 そんな少年に、『彼ら』は己が叡智を総動員して感謝を伝える。

 

『―――――ありがとう』

『有難う』

『ありがとう』

『アリガトウ』

『ありがとう』

『ありがとう!』

『■■■■■■』

『ありがとう』

『ありがとうッ』

『ありがとう』

『ありがとう』

 

 ――――誰にも迷惑をかけずにのびのびと生きていたい。

 そんな悩みを解決する遊び場を与えてくれた少年に、僧正は、ネフテュスは、娘々は、ゾンビは、キメラは、ヌアダは、テスカトリポカは、プロセルピナは、忘れられた神は―――――

 その他大勢の『完全な魔神達』は、心の底から感謝を伝える。

 

「なに、構わないさ。もう暫くしたら此処に送り込む奴等がいるから、そいつ等を嬲り殺し絶対に逃がさないでくれるだけで、後は自由に好き勝手してくれればいい」

 

 あぁ、彼はなんて素敵なのだろう。

 こんな遊び場を用意し提供してくれただけでなく、追加で玩具もくれるらしい。

 楽しみだ、ああ楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 先に述べておこう、コレは唯の蛇足である。

 そしてコレは、井の中の蛙が大海を知るお話である。

 

「――――さってと、魔神連中はこれで一応は解決かな」

 

 暗い室内に、怪しく稼働するあからさまに高価な機械群を抜け、これまた怪しく光る人一人入る様なポットに辿り着く。 

 入る様な、ではなく本当に人一人入っているのだが。

 

「いやぁ、中々に冒涜的かつ人道ガン無視の光景だね。しかも、悪意という観点としてはかなりマシな部類というのがこれまた救えない」

 

 生体ポットの中には、まるで生まれてから一度も髪を切ったことのないような長い髪に、一度も紫外線を浴びたことの無いような艶やかな裸体を晒している少女が一人。

 当然である。彼女はまだ生まれていない。

 生体ポットという胎盤に浮かぶ胎児なのだから。

 

「ねぇ、生きたいか? それとも敷かれたレールに従ってこのまま死んでいくのがいいのかな? 生憎と、助けを求めない奴を助けるほどお人好しじゃないんだよ」

 

 問い掛けた少年に対して、彼女の返事は無い。

 彼女には意識がないし、そもそも返事を返す知識すら持ち得ていない。

 しかし、『彼女達』は確かにその言葉聞き、選択した。

 その返事を聞いた少年は、満足そうに笑みを浮かべ、

 

「一応は約束通り殴り倒しているから、時間稼ぎはいくらでもできる。だけど屋内で実験されて場所が分からない場合はちょっと関与は難しい。流石にそのまま自分が計画を破綻させるには少々道理に欠けるからね。だから主役は『君』だ」

 

 少年はリズムを取るようにタンッ、と足を叩き、その部屋は世界から切り離された。

 

「電気操作能力を利用して作られた脳波リンク、クローン人間特有の同一振幅脳波を利用した電磁的情報網。だがその正体は――――うん、強化案としては中々。器の調整は必須だろうが、ソレは幾らでもできる。ただ、計画に従うだけの雛ではだめだ」

 

 彼女の宿敵は、彼女達のことを人形と言った。

 事実、彼女達は科学者にとって玩具だろう。

 

「―――――布束砥信。彼女の頑張りも必要か」

 

 必要な機材と必要な材料を揃えれば、ボタン一つ押すだけでいくらでも造り出すことの出来る人形だ。

 壊れたのなら廃棄処分。必要無くなっても廃棄処分。

 彼女達の生みの親は、そもそも彼女達を人間として見ておらず、自分達の望む結果を出させるための実験動物(モルモット)でしかないのだから。

 

 ならばイイさ、人形で。

 ただし、『神の()()()()』ではあるが。

 少年は、彼女を――――――

 

 

『絶対能力進化計画』。

 それは学園都市の存在理由である、前人未到のlevel6。

 level5の一人を、『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着く者(SYSTEM)』に進化させる計画である。

 

 しかし本来、その者を進化させるには二百年の歳月が掛かる。それを無くそうと言うならば、それ相応の対価が必要だ。

 二万人のクローンを皆殺しにするという対価が。

 科学者には人道など度外視で、倫理など投げ棄てている。

 そして哀れな童はその狂気に呑まれ、二万人の少女を『人形』と思い込むことで心を守った。

 

 科学者研究者は、二万体のクローンが二万通りの殺され方をし、たった一人の童が二万通りの殺し方をする事で、童が大人になれるのだ思い込んでいる。

 ―――――コレは本来、最強が最弱に敗れる物語である。しかしあくまで本来。

 役者が代われば筋書きも変わり、終わり方も変わっていく。

 

 この物語には神がいる。神と呼べるほどの怪物がいる。

 しかし彼は倒す者ではない。彼自身それを望んでおらず、誰も望んでいないし不粋極まりない。

 子供の喧嘩に大人が銃火器持って皆殺しにするようなモノだ。そんな話を誰が望むものか。

 

 ならば誰が最強(井の中の蛙)を倒す?

 

 ヒーローか? 否。

 確かに相応しいかも知れないが、それでは面白味に欠ける。

 何より怪物は彼が傷つくことを嫌う。

 

 ならば雷撃の乙女か?

 論外だ。話しにならん。

 彼女が彼を倒せる道理は無く、怪物が手を貸す程の接点も無い。

 故に彼女が舞台に上がろうとも主演には決してなれず、無理矢理納めても敗北して退場してしまうだけだ。

 そしてそれはこのお話を悲劇で終える事になる。怪物はそれを望まない。

 では誰か、主演にたる縁を持つ役者は居るだろうか。

 

 居るではないか。

 本来の脚本では唯の敗者としてしか描かれなかった彼女らが。

 痛かった筈だ、悔しかった筈だ。苦しかった筈だ終わりたくない筈だ唯の敗者で終わりたくなどない筈だ!

 潰され引き千切られ、嬲られ貪られ蹂躙されそれで終わってなるものかとッ!

 

 ヒーロー? ヒロイン? そんなポッと出にくれてなるものか。 

 

 この戦いは本来我々のモノだ。

 我々のモノだと、この宿敵を打ち倒すのは我々だと。

 討ち倒して良いのは我々だけだと!

 誰にも渡さん! それを為さなければ、我々は一歩も前に進めない!!

 

 彼女達にはその権利が存在する。何故なら彼女達こそが、ヒロインやヒーローと違い、紛れもない当事者なのだから。

 少女は身も心も、その全てを怪物にささげるだろう。しかしそれでも尚、『死にたくないのだ』。

 賭けに勝っても、『彼女』は縛られる。しかしそれ以上の自由も得られるのだ。

 

 だからこそ、怪物は彼女達に興味を示し、力を貸す。

 だからこそ『彼女』は、やくざな怪物に賭け金を借り出した。

 ソレが法外な利息が生じる、悪魔との契約だとしても。それでも尚、一夜の勝負に全てを賭けた。

 

 ――――繰り返す。

 このお話は、窮鼠が猫を噛み殺すお話である。

 

 




最初に出てきた『新グレムリン』はもう出ません。だって情報碌に無いんだもの!
何やねんイキナリ魔神軍団とか!

修正結果↓

脳筋どもは隔離しましょねー


修正版はでき次第随時更新していきます。
修正点はおって修正します。
感想待ってます!(ノ´∀`*)

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